依代 4         作: 玲 ******************************************************************************* ☆彡15. ベッドの上に千明の身体を転がすと、千明は気怠そうに目を開け、誰へともなく微笑んだ。 「恭さんに抱かれて運ばれるのって、くすぐったいみたいに恥ずかしいけど、でも、女の 気分がわかるような気がする。ふふ」 「よしよし、いい傾向だ。中途半端な男のプライドが抜けてきた証拠だよ」 私は千明の脚を拡げさせ、浣腸器のホースを再接続した。 「え、浣腸?」 「違うよ。腸を洗った湯の残り滓を吸い出すのさ。全部出たようでも、意外と残っている もんでね。やってる最中に漏れてきたら困るだろ。」 設定を吸引に変えて、スイッチを入れる。 「う〜。吸われてる・・・う、奥の方からジュルジュルって・・・液が、流れてくる」 吸引が終わって浣腸器が待機モードになるのももどかしく、私は千明の人工肛門を外した。 開きっぱなしだった肛門は、外してもすぐには戻らない。ぽっかりとダッチワイフの口の ように開いた肛門の奥に、痛めつけられて充血した粘膜がもじもじと震えているのが見え る。 「さて、今日は正常位で行こうか」 千明の脚を持って半回転させ、私もベッドに上がった。千明が一瞬眉をひそめ、しかしそ れが雪解けのように微笑みに流れて、観念したかのようにゆっくりと脚が拡がっていった。 膝を送って、私が千明の脚の間に割り込むと、拡がった脚が私の腰を挟むように窄められ る。アームザックで後ろ手に拘束された腕が背中の下になり、程良く尻を持ち上げる支え になってくれていた。ぬるぬると濡れ光る千明の肛門にそっと指を当てると、何の抵抗も なく、つるりと指が滑り込んだ。 「千明。君の腸は、私を歓迎してくれているようだね。このぬめりは水じゃない。腸液を 分泌しているよ」 「腸液。うう、やだなあ。恥ずかしい・・・。ううう、それって、女の人みたいに濡れて るってこと?」 「潤滑ゼリーも必要ないな。では、ありがたく、いただきます」 私は治まる気配もなく硬直していた肉棒を、爛れたように拡がった千明の肛花にあてがっ た。 「ん・・」 先端が粘膜襞にずるりと埋まる。いったん引いて、あふれた腸液をまぶすように千明の肛 門を撫で回し、亀頭全体がぬるぬると濡れ光るようになったところで、ふるふると蠢く食 虫花のような千明の肛襞の中へ、ずぬりと埋め込んでいった。 「んあ・・ふうう」 千明も3度目ともなれば、心得ができていた。口を開いて息を吐き、腹膜の緊張を緩めて 私を迎え入れやすくしている。括約筋の関門をきつく感じた次の瞬間、千明がぎゅっと目 をつぶり、軽くいきむように力を込めた。千明の肛門が花弁のように盛り上がり、私の亀 頭をじゅぶっと咥え込むと、次には捲れ込むように窄まって、私の亀頭を深淵へと吸引す る。そのままの勢いで、私の肉茎がするすると滑り込み、ずんっと互いの恥骨が重なった。 天井の蛍光管がバチバチッと瞬いた。割れるほどじゃないと、私は気に留めない。千明は それに気づくどころではなかった。 「んはっ。入った・・・んんんんん」 「んんん・・・凄い吸引力だ。チンポが千切れそうだよ。千明の中は・・・前にも増して、 よく蠢く」 「浣腸の・・・余韻が・・・残ってるから。あうう。恭さんのおチンチンの存在感、凄っ ごくビリビリ感じるよ・・・」 そういいながらも、出すべき場所に挿入される反射的な違和感を払拭しきれていないのだ ろう、脚がぶるっと震え、肛門がきゅうっと締まる。肛門を締めたことによる排泄反射も 起きて、千明の腹筋が引き締まるのが見えた。ペニスに排出の圧がかかる。 「はう、ふうううう。あふう。ごめん。嫌じゃないんだけど、反射的に出そうとしちゃう」 「その動きが、また気持ちいいんだよ」 「ちょっとでいいから、このまま動かさないでいてくれる?」 「ああ。じゃあ、その代わり千明が締め付けてくれよ」 「うん・・・」 千明の脚が私の腰をカニのように挟み、腹筋がギリッと締まった。括約筋が孫悟空の緊箍 児のように私ペニスの付け根を縊る。痛いほどだった。直腸全体が捻れるように絡みつき、 雑巾のように絞り上げられた。同時に奥の方から波動のような蠕動が起き、動かしてもい ないのに摩擦を感じさせる。 「ううう。んんん。硬いね。恭さん。んんん。僕のお臍のあたりまで入ってるのがわかる。 串刺しされた気分。女の人って、いつもこういう感覚を得てるんだ」 千明は息の続く限り私を締め上げ、限界が来ると荒い呼吸を再開させながら、うっすら目 を開けて私の反応を伺っている。見下ろす私の視線に目が合うと、困ったように視線を揺 らし、照れ笑いを浮かべた。 「自分が犯されている時、目を見られるのって恥ずかしいね。目のやり場に困っちゃう」 息が整うと、また目をつぶって全力で締め上げる。私のペニスが肉の嵐に翻弄される。私 は上体を倒して、千明に重なり、息を切らして目を開けた千明の口を吸う。2匹の蛭が交 接しているかのように舌が絡み合う。このまま固結びに舌を結んで、一生離れなくしたい ような気分が湧き上がる。千明は明らかにキスを喜んでいる。舌が縺れれば縺れるほど、 肛壺の締め付けがいっそう激しくリズミカルになるのだ。私は千明の身体の下に腕を入れ、 力任せに引き起こした。同時に体を起こし、正座して、千明が私を跨いで座る体位を取ら せる。 「あん。体重で。ぐりって深く入っちゃう・・・」 「これなら、自分で動かせるだろ。自分が気持ちいいように動いてごらん」 私は千明の背中と腰のストラップを握り、千明が動きやすいように支えてやる。一方的に 挿入されるだけなら人のせいにもできようが、自分から動くとなると心理的ないいわけも できなくなる。千明は一瞬躊躇いを見せたが、すぐに脚に力がこもり、尻がわずかに持ち 上がった。ずずっと抜け出すペニスの摩擦で、おぞましさと悦びの間を行き来するような 揺れる呻きを漏らしている。その感覚を持てあましたしたのか、数センチ持ち上げたとこ ろで尻の穴が窄まり、脚の力が抜ける。必然的に尻が落ち、粘膜の襞を私の亀頭のエラで 逆撫でされて、毛穴が捲れ上がるような悪寒でも生じたのだろう、押し殺した喘ぎを漏ら した。今までの肛交では、精神的にも肉体的にも嵐のような連打しか知らず、襞のひとつ ひとつを、選り分けるように擦り上げられる味わいには馴染む暇がなかったはず。千明は 瘧のように身体を震わせ、未知の肉感を確かめるように肉壺を伸縮させている。 もう一度、千明の尻がゆっくり持ち上げられた。さっきよりも高く尻が上がり、その分長 く粘膜を摩擦されて、千明の目が蕩けていく。尻を降ろす時も、粘膜の掻き分けを一片ず つゆっくりと確かめているようだ。 「あんん〜。感じます。感じるけど・・・ぞっとする感じと、むず痒い感じと、焦れった い感じと、ぞわぞわする感じと、じわっと温かくなるような感じと・・・気持ち悪いのと、 気持ちいいのがごちゃ混ぜになって、居ても立ってもいられない変な気持ちになっちゃう」 「居ても立ってもいられないけど、このままお終いにもしたくないんじゃないか? それ がどんどん積み重なって、大きなうねりになるのがわかってるだろ」 「あああ。僕が・・・お尻で・・・感じるなんて・・・。今すぐ抜いてもらいたいって気 持ちと、もっと擦られたいって気持ちが両方あって・・・まだ、どこか自分が変わってし まうのが怖いと思ってる」 「その怖さはね、こうして他人のチンポを入れられて、尻の粘膜を擦り上げられるたびに、 一枚一枚剥がされていくのさ。さあ、自分で自分を、ずる剥けになるまで剥がしていきな」 千明は私の目を、じっと眩しそうに見つめていた。ずいぶんそうしていただろう。唐突に、 千明の中に収まっている私のペニスが捩じ切られそうに締め上げられ、続いて千明がぽつ りといった。 「恭さんって・・・乱暴な言い方をしている時にも、目が柔らかくて優しいね」 そして、一瞬笑顔を閃かせ、すぐに眉根を寄せながら尻を動かし始める。ジジジジジ、と 天井の蛍光管が一本、急に光量を増し、しばらく私と千明を真昼のように照らしてから、 カツンと切れた。 夕方6時、浣腸から始まった性の饗宴は、結局、明け方の5時まで連続11時間、2度の 食事タイムと射精後の小休止しか挟まずに続いてしまった。とりあえずのエネルギー補給 として冷凍ピザを解凍して食べたのだが、その間も私のペニスは千明の尻に刺さったまま で、千明は半ば朦朧として、口に押し込まれるピザを機械的に咀嚼していた。私も、まさ かここまで長時間繋がり続けるとは思ってもみなかったが、途中千明の直腸粘膜の状態を 確認した時に、わずかの出血もなく、腫れもほとんどないという、あり得ない状態を目の 当たりにして、限界を確かめたくなってしまったのだ。経験を積み、粘膜が摩擦に慣れて くるまでは、長時間の摩擦で酷使すると腸壁が微妙に傷つき、腸液がほんのりピンク色に なったりするものだ。どう見ても千明の直腸粘膜は健康そのもので、元気に蠢き続けてい た。私が前日、気を吸い取られた件と関係しているような気もするが、微妙なバランスで 保たれている千明と体内の霊との関係を無闇に刺激できないため、挿入したペニスを通じ て千明の心身を精査するわけにもいかないのが歯痒い。 千明の身体は肛門を貫かれることにずいぶん慣れてきていたが、おぞましさと気持ちよさ の感覚をなかなかひとつに結びつけられずに混乱しているようだった。おぞましさであれ、 気持ちよさであれ、刺激は強烈に脳を貫くようで、千明は惚けたような目をしては、脳が 茹だってしまう、と譫言のように呟いていた。 今回はほとんど千明の尻に刺しっぱなしで、途中一回だけ小休止のつもりで口での奉仕を 命じると、尻を休めることができて嬉しいのか、千明は何の逡巡もなく、目を細めながら じつに楽しそうにしゃぶり始める。抵抗感がずいぶん薄れてきているようだ。刺激漬けで 意識レベルが下がっていることを利用し、私はことあるごとに千明を女の気分に導くよう にしてやる。千明もその方が精神的に楽なのだろう、いわれるままに尻をくねらせたり、 女のようなよがり声を躊躇なく上げるようになっていった。そうすることで心の防波堤が ひとつ崩れたのであろう。千明が素直に粘膜の快感を感じ始め、甘い喘ぎも漏れ出すよう になった。気持ちいいと口走り、自分から腰を振り、求めるように腸が吸い付けるという のに、どうしても心の最後の堤防は決壊せず、それが絶頂へと向かわない。 正常位で、後背位で、騎乗位で貫かれ、脳が蕩けたようになりながらも、千明は決して根 を上げず、私が射精する時は全身で受け入れようと積極的に身体を開いてくれた。千明の 尻はつごう9回、溺れるほど大量の濃い精液を流し込まれたが、私の生気まで吸い込むと いう現象は起きなかった。文字通り精も根も尽き果てて、最後の精液をぶち込んだ後は、 千明のアームザックを解き、肛門栓を埋め戻してやるのが精一杯だった。手足の拘束まで する気力もなく、私は失神に近い眠りに落ちた。 さすがに、夢も見なかった。最高に爽やかな気分で一瞬に目覚めると、今度は千明が私の 身体にすがりついている。時計に目をやると、まもなく正午になろうとしていた。私は細 心の注意を払い、千明を目覚めさせないように抱擁を抜け出し、ベッドから降りてキッチ ンに向かう。昨夜の御褒美というわけでもないが、私が食事の用意をした。 野菜だろうが肉だろうが、何でもざくざく切り刻み、バターをどっさり溶かして、炒める。 私の料理に繊細などという文字はない。できあがった料理を並べていると、背後から驚き の声がした。 「恭さん、包丁持てるんだ」 振り返ると、尻を押さえた千明が、寝室のドアにもたれかかるように立っていた。私と目 が合うとにっこり笑って手を振る。 「おはようございます。僕が料理しようと思ってたのに、寝過ごしちゃいました」 「おはよう、千明。切って炒めるくらいはできるさ。味付けの方は保証しないけどね。高 カロリー・高コレステロール料理だ。食べよう」 千明がよろめくようにがに股で歩いてきて、席に着く。 「いただきま〜す。んん。美味しい。それにしても、脚にきますね。恭さんは、大丈夫な んですか?」 「食えば大丈夫さ。千明は脚にきているだけかい。お尻の調子はどうだ?」 「ううう。ご飯食べながらの話題とは思えないけど・・・火照って、少しひりひりするよ うな気もしますけど。まだ恭さんが入ってるみたい。でも、不思議なくらい大丈夫です」 「そうか。ところで、女言葉を話す約束、忘れていないか。昨夜、了承したと思ったが」 「約束・・・ううう。あれは、成り行きっていうか、頭が茹だっちゃってたからっていう か・・・。だって、長時間刺激されまくって、最後の方はもう、どっちが上なんだかもわ からないくらい脳が過飽和状態だったし。猛烈におチンチンを抜き差しされている最中で、 もうどうにでもしてって感じで、意識が全部お尻へ集中してる時に、女になったつもりで 色っぽく悶え声を出せって優しく命令されたら、催眠術みたいなものですよ。ふらーって いうこときいちゃいます。それで、ああ〜んとかうふ〜んとか甘え声を出しまくってる時 に、今度は、今から女言葉で話してほしいって頼まれたら、頷いちゃいますよ。朝起きた ら毒虫になれっていわれても、うんって頷いちゃいますし、恭さんが実は宇宙人だってい われたって、うんって頷いちゃいます。そもそも判断力が擦り切れちゃってたんですもん。 あう〜。女みたいによがってたなんて、こんな明るいところで思い出すと・・・滅茶苦茶、 恥ずかしくなってきた」 「そうはいっても、約束は約束。それにね、昨夜、いい線まで感じられるようになったの は、女言葉にしてからだろ。千明はホモに対する心理的な抵抗感が強すぎるんだ。このま まやり続けても、これ以上感じ方レベルが上がるようには思えない。千明の心理的抵抗や ら葛藤やらが、感じようとする身体を、無意識に抑え込んでる。心を何とかしないとね」 「うーん。でもでもでもでも、女言葉なんて、普通の状況だと抵抗感ありすぎですよ〜。 恭さんに抱かれている時なら、頭が茹だっちゃうから、恥ずかしいとか情けないとか考え ずに女っぽくできるんだけど」 「そりゃあ、太いチンポが根元まで入ってりゃ、女そのものさ。なるほどね。つまるとこ ろ、女っぽい気分になれればいいわけだ。何だ、簡単じゃないか。じゃあ、今後、千明に は日常的に女装してもらうことにしよう」 「え。ええええ。じょ、女装・・・女装ですか。えええええ。うーん。いや、だって、こ んなゴムの衣装着たまんまで?」 「そうさ、昨日だってしたじゃないか。カツラが似合ってたよ」 「いや、その、昨日は外出するためにコートが必要だったし、それが女物しかなかったか ら仕方なく・・・。選択の余地がなかったじゃないですか。それが日常的になんて・・・ ううう、恥ずかしすぎる」 「何を今更。私と千明の仲は・・・」 「チンポをズボズボ入れられて、ドンブリ3杯分の精液を、胃から、腸から吸収させられ る仲。でしょ。昨日あれだけ何度も聞かされて、頭にこびりついちゃいましたよ。それは そうなんですが・・・」 「じゃあ、とどめの殺し文句をいおうか?」 「とどめの殺し文句って・・・愛の告白でもするんですか?」 「これもまた、千明の内部霊を浄霊するために必要なのだ、ってやつさ」 「あ、う。・・・がっくし」 承諾したのかしていないのか、しおしおと千明は食べ終えた食器を下げ、エプロンをして 洗い始めた。私はまず、ルナティックのママに電話をかけた。呼び出し音が続き諦めかけ た時、寝ぼけ声のママが出る。 「おはよう、先輩」 『おはようじゃないわよ。恭ちゃん。何時だと思ってるの!』 「何時って・・・世間の用語では、昼過ぎっていう時間帯だけど」 『こっちはまだ明け方よ』 「国際電話をしているわけじゃあないんだがなあ。・・・冗談はさておき。ごめんごめん。 わかってるんだけどさ。鉄は熱い内に打てというからね」 『鉄って、千明ちゃんのことね。どうなったのあれから』 「えー、まあ、その。なるようになった」 『あらま。それはおめでとう。不能じゃなかったのね。千明ちゃんはどう? ショックは 受けてない?』 「至って元気。集中講義したからね。ずいぶん慣れてきたと思うよ。それでね、まあその なんだ、治療行為の一環として、千明には女装してもらうことになってね。本人も・・・ 今、私の前で恨みがましく睨んでるけど・・・一応了承したんだよ」 『あらあら。女装ねえ。ふーん。アタシとしては仲間が増えて嬉しいけど。千明ちゃん、 ホントに納得してるの?』 「不承不承といったところだけどね。それで、先輩が昔、ホルモン剤を使う前に使ってた 人工乳房とか残ってたら、貸してもらおうと思ってさ」 『何十年前だと思ってるのよ。あんな生理食塩水たぷたぷするような物。今は技術がもの 凄く進んでるわ。わかった。知ってる店があるから、そこからバイク便で遅らせるわ』 「特急便で頼むよ。その店って、女装用品の店なのかい?」 『そうよ。ああ、わかった。アンタ、胸だけじゃなく徹底的にやるつもりね』 「やるからにはね。衣類とウイッグは真理の物が残してあるし、化粧は今のところ必要な い。浄霊が終わらなきゃ封印マスクを脱げないからね。体型補正ができればいいんだ。コ ルセットと、それに先輩が以前話してた股間のフェイクパーツなんかを考えてるんだけど」 『ああ、V−Stringね。あれは・・・使えないわよ。確かに見た目はそのものにな るし、オシッコまでできちゃうけど。内側におチンチンとお玉を押さえ込んじゃうタイプ だから、もっこりした感じになるし、なんていってもゴムの固さがねえ。シリコン製なら もっと感触がリアルになるのに。あんまりお勧めできないわ。それよりお玉を体内に入れ ちゃって、チンチンを後ろに回してからお玉袋で包んで接着するっていう方法の方が、見 た目もいいわよ。その状態で上から貼り付けるオマンコ型シリコンパッドが、人工乳房の 会社から新発売されてたから、それも一緒に送らせるわ。導尿管付きでオシッコもちゃん と女の尿道の位置から出せるし、膣口をずらして肛門にくるように作ってあるから、挿入 もできるんですって。知り合いが買ったそうなんだけど、見破られたことがないっていっ てたわ』 「どういう知り合いなんだよ。まあ、いいや。じゃあ、それも頼むよ」 『おチンチンとお玉のしまい方は、その道の人達がやり方を紹介してくれてるサイトがあ るから、後でメールで送っとく。あ、そうそう、接着剤と剥離剤もいるわね。そうだ、脱 毛剤も必要ね。日本では当然まだ無認可だけど凄い薬がアメリカで最近発売されて、取り 寄せたものがあるから分けてあげる。別便で送るわ。後は、コルセットと体型補正下着を みつくろっておけばいいと・・・2、3時間で届くようにしてもらうから』 「悪いね」 『それより、アンタ、千明ちゃんをどうしようっていうの? まあ、男の依代なんて特殊 な状況だから、ちゃっちゃと浄霊だけ済ませて、はいお終いってわけにはいかないんでし ょうけど。何かたくらんでない?』 「たくらむって・・・まあ、いろいろと考えてはいるさ。まったくその気がない前途有望 な青年を、男色家に変えてしまうのだから」 『そう・・・。アンタに任せるしかないんだけどさ。あの子いい子なんだから、悲しませ るようなことだけはしちゃ駄目よ。わかってるわね』 「ああ。わかってるさ」 そういって電話を切った。しかし、後ろめたさが残る。目の前に座る千明に目を移す。赤 いマスクの穴から目と口だけしか覗かせてはいないが、それでもその表情に暗さはない。 女装用具のやりとりを聞いて、拗ねたような顔をしているが、心底嫌がっている風でもな い。表情の豊かな子だと思う。 「ルナティックのママに、釘を刺されたよ」 「釘?」 「ああ、千明の場合、浄霊してはいさようならっていうわけにもいかない。浄霊のためと はいえ、千明の人生に干渉したのは私だしね。千明を泣かすようなことはするな、といわ れた」 「・・・恭さんが責任感じる必要はないと思うけど。だって浄霊は僕の体質が原因なんだ し、恭さんは善意で自分の得にもならない治療をしてくれる・・・いうなれば、お医者さ んみたいなもんでしょ」 「善意か・・・いや、打算もあるよ」 「打算って・・・僕を新しい仕事のパートナーにする、っていうこととか?」 「ほう。気づかれているとは思わなかったが・・・まいったな」 「僕だって、少しは思考能力があるんだし」 私は無意識に居住まいを正した。 「もっと後になって、浄霊が済んでから話そうかと思っていたんだが、千明を宙ぶらりん な状況にしてたんだなって気がついた。ちょっと早いけど、真面目な話をしよう」 千明も一瞬畏まった顔をして、姿勢を正す。 「・・・もちろん、千明には自由意志がある。このまま何とか浄霊を済ませて、また以前 のように真っ当な道に戻ることもできるだろう。開発されてしまった性感とも、何とか折 り合いをつけてね。ただ、千明は今、少なくとも私を嫌ってはいないと思う。絶対に嫌な 相手とだったら、たとえ治療だとしてもここまで許容しないだろう。私も、千明とこうし て毎日繋がってみて、肉体的に満足するだけじゃなく、千明の明るさがとても好ましく感 じている。妻を、真理を、喪ってから、荒んでいた私の心を、千明という存在がいつの間 にか癒してくれている。そう気がついていた」 千明の目が、真っ正面から私を見つめ、逸れることはなかった。 「だから、私としては、今の関係をこれからもずっと続けていきたいと思っている。浄霊 が済んでも、一緒に暮らしていきたいし、千明の依代としての希有な才能を活かして、私 の仕事のパートナーにもなってほしいとも思う。私の仕事のパートナーになっても、数ヶ 月に一度、浄霊の仕事をするだけで、学校や昼の仕事にほとんど影響はないはずだし、報 酬は大きい。ただ、千明の依代としての能力は、まだ未開発な部分がある。器はとんでも なく大きいが、入り口が狭い。入り口が狭いということは、千明に自覚のなかった今まで なら有効な自己防衛だったのだが、プロの依代として仕事をするなら、危険度が高くなる。 その危険度を減らすためには、入り口を大きく拡げると同時に、吸引力も鍛える必要があ る。千明の器そのものにも、信じられないことなんだが、まだまだ潜在力がありそうな様 子なんだ。これらを早急に開発しなければならない。依代というものに『形』が重要な役 をしていることは、古来から知られていることでね。陰陽道などではわざわざ紙を人型に 切り抜いて使うし、呪いをかける藁人形なども人型に作る。広い意味では偶像崇拝もそう いう面があるからだ。そして、この数千年に女の依代しかいなかったという事実を考えあ わせると、千明はその肉体を『女型』にした方が、依代としての能力を発揮しやすいだろ うと思える。だから、とりあえずは女装なんだよ」 「女型ですか・・・」 「そう。こんなことをいうとショックだろうが、はっきりいってしまおう。私としては、 千明に女になってもらいたいと思っている。心がじゃないよ。肉体の『形』としてだ」 「え、えええ。それって、僕に性転換でもしろっていうことですか!」 「最終的にはそういう選択肢もある。今の千明には、『自分は男』という意識が障害にな っている。酷いいい方だと思うだろうが、その意識をなくして千明の依代としての潜在力 を拡げるためには、千明の性器を外科的に切り取ってしまうのが、もっとも効果的だ」 「そ、そんな・・・。無茶です」 「当然、身体を改造してしまえば、千明は前の人生には戻れない。だから、私が君の人生 を引き受ける。端的にいえば、女になって私と結婚してほしい。そういうことなんだが」 「女になって・・・恭さんと結婚・・・えええええ!」 「嫌かい?」 「いや、嫌とかそういうのじゃなくて・・・とにかく、ビックリして・・・まさか、恭さ んにプロポーズされるなんて。結婚・・・結婚って。うーん。目が回りそうだ」 「頭から完全拒絶されるかと思っていたが」 「いや、そうじゃなくて・・・だ、駄目だ、頭が回らない。ちょ、ちょっとトイレ、行っ てきます。頭を整理してくる・・・」 千明が、逃げるようにトイレへ走っていく。少々早すぎたかもしれない。もっとじっくり、 身体も心も私に馴染ませてからいい出すつもりだったのだが。しかし・・・千明はすべて を即断で否定はしなかった。まだ可能性はあるということなのか。私は肩をすくめた。自 分で結論を出せないことに思い悩むのは、時間の無駄だ。私はパソコンを立ち上げ、ママ のメールを受信した。そこに記されている、男性器を女性器に見せかけるやり方を紹介し たサイト、とやらを覗いて時間潰しをすることにした。 1時間経っても、千明はトイレから出てこなかった。籠城でもするつもりなのかと思い出 した頃、ママからのバイク便が届いた。開けてみると、大振りなチューブが一本だけ。説 明書のコピーが入っていたが当然英文なので面倒である。同封されていたママからの簡単 なメモを読む。即効性の脱毛ジェルで、毛根に作用し、脱毛後も継続的に発毛を抑える薬 だとある。最後に赤字で大きく書かれている注意書きがあった。 【薄く伸ばすように塗って、5分間で完了。後はシャワーで流せばいいのだけど、一回使 用すると半年以上新しい毛が生えなくなるから、シャワーの時に洗い流した湯や飛沫が、 髪や眉、脱毛したくない場所に跳ねたり流れたりしないように注意。側にいるなら、もち ろん恭ちゃんにも付着しないようにね。恭ちゃんが塗る時は、ゴム手袋を着用しないと、 恭ちゃんの手も脱毛されちゃうわよ】 なるほど、とメモを畳んでいると、トイレのドアが開く音がした。トストスと近づいてく る足音に、迷いは感じられなかった。 「アマテラス引っ張り出し作戦で、トイレの前でアメノウズメノミコト並みにダンスでも 踊らなきゃならないかと思い始めていたよ」 くすっと笑い声がして、千明が向かいのソファに尻を落とした。ふーむ。吹っ切れた感じ だが、果たして吉なのか凶なのか。 「アマテラスって女神でしたよね」 「そうさ、千明様がお隠れになって、私はこの世の闇だったよ。ちなみにアメノウズメノ ミコトも女神だから、私まで女装して踊らにゃならんのかと、嘆いていた所さ」 「恭さんが女装。くすくす。見たくないような気がするけど」 「私も見たくないよ。んで?」 しばしの間があった。 「んで・・・整理して考えました。ひとつ目。女装すること・・・オッケーです。理由は、 恭さんが喜ぶから」 「ん。確かに燃えるだろうなあ」 「んで・・・ふたつ目。女言葉・・・これも、しかたないからオッケーです。理由は、変 態の恭さんが喜ぶから。僕の意識改革の効用もあるんでしょうけど。でも、今からすぐ、 いっぺんには無理だから、女装してから、できるだけ女言葉を使うように、前向きに善処 して鋭意努力目標とすることを今後の検討課題とします」 「政治家答弁かい。まあ、了解」 「んで・・・みっつ目。依代としてパートナーになること・・・これも、オッケーです。 理由は、自分の生まれ持った体質を封じて生きるのは不自然だから。それと、可哀想な人 達の霊を解放してあげられるのが嬉しいから。でも、滅茶苦茶怖いんですけど」 「それは、嬉しいなあ。怖いのは自然な反応さ。私だって未だに怖い。というか、怖さが なくなったら油断が出て、かえって危険が増す。怖がる方がいいんだよ」 「んで・・・よっつ目。浄霊後も一緒に暮らすこと・・・これも、オッケーです。理由は ・・・理由は・・・照れ臭いなあ・・・恭さんと深い関係になって、自分が嫌がってるの か喜んでるのか、よくよく自分の心を覗き込んでみたら、全然嫌がってないし、喜んでい るのがわかったから。いろいろ悪ぶってたり、変態ぶってたりするけど、根本はもの凄く 真面目でいい人だってわかっているから。うーん、褒め過ぎかも。それと・・・これは僕 の妄想かも知れないんだけど・・・この封印スーツや肛門栓や人工肛門、服なんかでもそ うで、特に真理さんが直接身体に付けていたものを僕が付けた時、何ていうのかなあ、と っても温かい気持ちになれるんですよね。不思議なんだけど、物に込められた真理さんの 恭さんに対する気持ちが伝わってくるみたいで、真理さんがいかに恭さんを愛していたか がわかるんです。会ったこともない真理さんという人が好きになれたし、身近に感じられ て。その真理さんの想いを、僕が引き継ぐのもありかなと思ったりして。僕の潜在意識が 屈折して、責任転嫁的妄想を感じさせている可能性もあるんですが」 「んんん。それは初耳だ。ポストコグニッション・・・過去知という能力のひとつかも知 れない。もしくは、偶然、真理の波動と千明の波動が共振しやすかったのかも」 「偶然でしょうか? 真理さんの込められた想いがそうさせてるような気もしますけど」 「ううむ。浄霊が終わったら、一度協会で詳しく検査してもらおう。連中も喜ぶし」 「そうですね。モルモットにされるのは、恭さんとの暮らしで慣れちゃいましたから」 「おいおい。人聞きの悪い。最近、モルモットにされても喜べるようになってきている千 明なような気がするのは・・・錯覚かなあ」 「錯覚ということにしておきます。それ以上はノーコメント。ふふふ。それで・・・いつ つ目。結婚・・・これってどういう意味かよくわからなくて、返事保留です。男同士でど うやって結婚するのかわかりませんし。教会で式を挙げるってことですか? それとも一 緒に暮らす実質的な意味合いでいっているのか」 「ああ、正式に結婚できるよ。戸籍上もね」 「えええええええ! そんなわけないですよ」 「いや、できるんだな、これが。ちょっとだけ裏技を使うけどね。協会と国はいろいろ協 力関係にあるから、戸籍をいじってもらうことができる。千明はそのままでも女性名とし て使えるから、名前をいじる必要もないし、性別を女に変えるだけさ。それと同時に性同 一性障害の認定とか、生殖器は男だが遺伝子は女だったという、架空だけど本物の証明だ って取れるはずさ」 「そんな・・・それって違法じゃないんですか?」 「まあ、裏技だからね。しかし、国がやるんだから手続き上は正当だし、ばれることもな い。もちろん教会で式も挙げるさ。形は大事だからね」 「もしか・・・して・・・ウエディング・・・ドレス・・・」 「もしかしなくても、ウエディングドレスを着ることになるだろうなあ。文金高島田が好 みならそれでもいいけど」 「そんな好みはありません」 「んで・・・私と結婚していただけるのでしょうか。千明さん」 「ええっと・・・その・・・一緒に暮らしていくなら・・・しかも女装させられて・・・ 実質上は結婚しているのと同じなんだけど。でも、恭さんは僕となんか結婚していいの?」 「少なくとも後悔はしないし、不和美加もママも祝福してくれるだろう。・・・真理もね。 千明と一緒なら退屈しそうにないし、幸せになれそうな気がする。なによりセックスの相 性がぴったりだしね。結婚に一番重要なものは、セックスの相性だよ」 「真理さんも・・・」 千明はうつむき、しばらくの間沈黙していた。それから顔を上げると、するっと床に降り、 正座して三つ指を突いた。 「結婚させていただきます。不束者ですが、よろしくお願いいたします」 「瓢箪から駒ってやつか。いってみるもんだ。まさか千明が承知してくれるとは」 「うわあ、僕もまさか、こんなに素直に受けられるなんて思わなかった。恭さん、今の僕 って憑依されてたり、真理さんの念に操られたりしてないよね」 「女性気質が微妙に精神的融合している可能性はあるけれど・・・といっても千明の精神 を操ったり、支配するなんてレベルじゃない。不可能だよ」 「そう。ならいいや。あ、それで、むっつ目の・・・あの・・・おチンチンを切っちゃう 手術なんだけど・・・」 「さすがに無理だろう。結婚して、ずっと一緒に暮らして、それで気持ちが傾いたら、考 えればいいさ。無理強いする気はないし、そもそも話の真剣味を強調するために極論をい っただけだから、気にすることはない」 「待ってよ、恭さん。さっきまでは保留してあったけど、結婚の話がわからなかったから で、今はもう結論出たよ。僕はおチンチンを切ってもらいます」 私は心底驚いた。しばらくは言葉も出ない。まさか、こんなに易々と承諾するなんて思い もしなかった。まだ肛門での絶頂も得られていない内に説得できるとは、思ってもいなか ったからだ。少なくとも、肛門での交接で絶頂感を得られるようになれば、話の持って行 きようもあるとは考えていたものの。 「恭さん、たまげてるでしょ。いっつもしたい放題引き回されて、お尻を穿られてるばか りで、一度も主導権を取ったことがないから、一回くらいはビックリさせてやろうと思っ てたんだ。やったね」 「冗談だったのかい?」 「いいえ、冗談じゃないですよ。本気でチンチン切ります。でも、条件がひとつ」 「条件?」 「はい。僕は男でなくなりますが、性転換はしません。身体は女性の形にしてもらって結 構です。けど、女性器や・・・特に膣は作りたくないんです」 「いたいどういう・・・わけがわからないよ」 「依代となるために、女という形が必要といいましたよね。そして、僕の男のシンボルを 取り除くことで、精神的に男という意識を持てないようにするっても。それなら、切り落 としても女性器まで作る必要はないはずです。お尻の穴さえあれば浄霊は可能ですよね。 っていうか、真理さんと浄霊する時も、お尻でしていたと思うんですが。生殖という最大 のプラスエネルギーを撃ち込みつつ、依代は性の絶頂というエネルギーを身体に満たして、 霊をサンドイッチするって聞きましたよね。それなら膣の方が良さそうに思いましたけど。 膣を使わず肛門を使うのは、もしかして妊娠に関係するからですか?」 「そうだよ。よくそこまで推理したね。しかし、どうして・・・」 「だって、僕が今着てるこのスーツ、真理さんが着ていたものでしょ。肛門にしか穴がな いじゃないですか。浄霊のたびにいちいち着替えるっていうのも変だし」 「なるほど。千明の推理通りだよ。膣で浄霊した場合、女性の生理の周期や排卵の状態で、 不確定要素が多い。卵子が影響されることもあるし、卵子に突進していく精子の流れに霊 が押されて、受精した子供に霊が入り込んでしまう可能性もある。そんなことになれば、 生まれつきの悪霊が誕生してしまいかねないからね」 「生まれつきの悪霊・・・ですか。そこまでは考えなかった」 「しかし、千明は完全な女性体にならなくて本当にいいのかい。そうしておけば、最悪、 私と離れて一般社会に戻る時は、戸籍上も肉体もちゃんとした女性として戻れて、新しい 人生をやり直すっていう選択肢も残るんだよ。まあ、もちろん、千明と結婚する以上、そ んなことにならないように最大限の努力はするけれど・・・年齢差もあるし・・・」 「そうなったらそうなったで、その時考えます。でも、そんな造られたものじゃあ、想い を受けられないような気がして。割れ目や膣まで造っちゃったら、心も完全に女にならな くちゃならないし、あるいはなっちゃうだろうし、身体はともかく、心が完全な女に成り きるのは・・・今は、まだそうしたくないんです。男でなくなってもいいんですが、じゃ あ、女になるっていうのも、安易なような・・・いや、これが僕に残された最後の男とし てのプライドなのかも知れません。もっとずっと後になって、完全な女性になりたくなっ たら、その時はもう一度手術を受けます。それでいいですか?」 「いいも何も・・・千明がそうしたいなら、それが一番だけど。うーん、この件に関して は少し時間をおいてじっくり考えてみてはどうだい」 「今考えられる部分に関しては、もう充分考えました。できるだけ早く手術できるよう、 手配してください。もう、決断したんです。チンチンを取るっていう決断は揺るがないで すけど、時間が経てば経つほど辛くなるのがわかってますから」 「わ、わかったよ。どうして決断できたかは、ちょっと時間をおいて、落ち着いてから聞 かせてくれ。しかし、千明は私なんかより百倍強いよ。主導権握られっぱなしにならない よう、頑張らなくっちゃなあ」 「いえいえ。もうお返ししますよ、主導権。いわれるままに従っている方が百倍楽ですも ん。マゾですしね」 「頭が疲れたよ。何だか。とりあえず、お祝いを兼ねて、頭ほぐしの体操といこうか」 「それって、婚前交渉ってことですか。ふしだらな子供になって、ってご先祖様に怒られ そうですが、僕も実は頭が茹だっちゃってるんで・・・大歓迎です。むふふ」 千明が床をいざって来て、私の股間に顔を埋めた。何の屈託もなく、千明と交わる。千明 もこの時ばかりは遠慮なく、自分からよがり、悶え、乱れに乱れた。 ☆彡16. 婚前交渉一回目の淫行では、あっさり去勢を受け入れられて複雑な気分となっていた私に 対して、千明は重い衣装を脱いだかのように、肛門性交を享受できたようだ。自分から奔 放に腰を打ち付け、私を絞り上げる。あれほど本能的嫌悪感にすくんでいた意識が柔らか く解放され、粘膜の摩擦を純粋に味わえるようになったようだ。気持ちいいを連発し、こ のまま一気に絶頂を迎えるのじゃないかと私に思わせるほど乱れたが、私の方が保たなか った。頭の隅の懸念に気を取られ、ペニスの感受性コントロールに失敗してしまったのだ。 ごめんもう駄目だ、と告げると、千明は残念がる様子もなく、じゃあいっぱい出して、と さらに激しく腰を揺すりたてた。たまらず精をリリースするや、自分の中で弾ける奔流の 突き上げを貪欲に感じ取ろうと、千明は唇を嘗め、あるいは噛んで集中する。私のペニス の延長と化して深く繋がり、私が噴き上げるたびに、ビクビクとその身体を反り返らせる。 千明の中でゆっくり柔らかくなっていく肉の棒を、千明は、というより千明の腸粘膜は押 し出そうとはせず、やわやわと絡みついて吸い上げる。そのため抜けることなく、まるで 疣だらけの舌で八方から舐め上げられているように感じてしまう。どちらからともなく見 つめ合い、互いに息が整うのも待たずに口を求め合った。 「あふう。吹っ切っちゃったら、感じちゃった。まだ、ジワーンジワーンって中が熱いよ。 何だか、逝けそうな気がしてきた。まさか、お尻なんかで感じたり、その上、逝くなんて 絶対無理だと思ってたけど」 「こらこら、千明。私があれほど懇切丁寧に説明してやったというのに、まだ信じてなか ったのか」 「だって〜。お尻の穴だよ。18年間、清く正しく生きてきて、お尻の穴はウンチを出す 以外に使ったことなんてなかったもん。でも、不思議だね。快感でビリビリ痺れてるのに、 チンチンは勃ちもしないなんて。チンチン以外の快感もあるなんて、考えたこともなかっ た。あー、こうしてるだけでも気持ちいいなあ。このままずっと繋がっていたい。・・・ ねえ、恭さん。気の力で、もう一回勃たせない?」 「それもいいけど、気なんか使わなくても、勃たせる方法ならあるさ」 「へえ。それって・・・あ、まさか、やっぱり・・・女装?」 「ご名答。冴えてるね。私のいったことを信じなかった罰として、女装させて犯してやる。 嬉しいだろ」 「嬉しいような、情けないような。やっぱり、恥ずかしいような。人生の選択を間違えた ような〜」 狒狒親父になって、嫌がる若い娘の着衣を剥ぎ取っていく。それで興奮するのはわかりや すいのだが、嫌がる若い青年に無理矢理若い娘の着衣を着せていくのが、これほど興奮す るものだとは思わなかった。 ピーチ色のパンティとブラを摘み上げ、千明は盛大な溜息をついた。後ろを向いて隠すよ うに着ようとしたが、私は許さない。恥ずかしさのあまり内股になってパンティを穿く様 が、かえって女らしい仕草になっていることに気がついていなかった。ブラにはパットを 何重にも詰め込んで膨らみを出した。童貞の千明は、ブラの付け方など知るわけもなく、 ブラのホックと格闘する。肩紐に腕を通さず前でホックを留め、背中に回してから腕を通 すやり方も知らないようだ。それでも身体が柔らかな千明は、何とか背中でホックを留め ることに成功した。続いてパンティストッキングを渡すと、そのぺらぺらしたナイロンの 感触に困惑している。 「先にたくし上げてから穿かないと、破れることもあるようだよ」 「そのくらい・・・テレビで観ましたよ。でも、ゴムスーツ着てるんだからわざわざこん なの穿く意味があるんですか?」 「そりゃあもう。女はやっぱりパンティストッキングさ。女の気分をたっぷり味わえるよ」 「まいったなあ・・・」 千明はぶつぶついいながらパンティストッキングを穿き、股間を走るストッキングの縫い 目を不思議そうに撫でていた。 いよいよ服を着せる。女服はよくわからないながら、真理の衣装の中からできるだけ乙女 チックな物を選んだ。襟刳りの広い長袖のオフホワイトのTシャツは、襟元と袖口にレー スがあしらわれ、さらにその上から重ね着させたピンクのノースリーブは、胸元にたっぷ りのフリル付きだった。 「な、なんて、乙女チック。真理さんってこういうのも好みだったんですか?」 「十代の頃のらしい。捨てられない性格でね。クローゼットの奥に、しまい込んであった」 「まじで、こんなぴらぴら、着るんですか〜。うわ〜。下着より恥ずかしい」 マスクとスーツから覗く目元も口元も、おそらく肛門さえ真っ赤になって、千明は身震い しながら泣く泣く乙女に変わっていく。 「当然スカートはプリーツだろう。とんでもなくミニだよ。可愛くなれるね千明君」 「ミニスカート・・・しかも、ピンク。しかも、脇にリボンまで・・・うー、目眩しそう」 もぞもぞとスカートを穿き、ウイッグを被った千明に、とどめとばかりにスエードのブー ツまで履かしてしまう。先日の物より4センチもヒールが高い、9センチのピンヒール。 手を包む赤いラバーをごまかすために、乳白色のゴム手袋を二重に嵌めさせると、ラバー 人形だった千明は、後ろから見る限りスレンダーな少女に変身した。 「いいねえ。そそるなあ。そこに立って、くるっと回って。もちろん女っぽくだよ」 もうやけくそだ、と女らしくないつぶやきを残して、千明がファッションショーを始める。 私のいいなりに、回って歩いて、ポーズを決める。むらむらしてきた私は、千明をキッチ ンカウンターの前に立たせ、上体を倒してカウンターに手を突くように指示した。必然的 にヒップが突き出され、ミニスカートからちらりとパンティが覗く。私は狒狒親父の上に 痴漢にまで成りきり、身を捩る千明の身体を服の上から撫で回した。 「何で、服の上からだと・・・感触が鈍いのにぞわぞわするんだろ。恭さん。んんん。何 だかもどかしくて、生殺しだよ」 「聞き取りにくい声で話されると、聞く耳立てて集中する原理かな。隠されて、ちらりと 見える方がむらむら来るのと同じだろう。で、私もむらむら来た」 私は千明のスカートを捲り上げ、パンティストッキングごとパンティをずり下げた。すっ かり馴染みになった千明の肛門がきゅっと窄まって私を出迎え、キスを求める唇のようだ。 「あああん。この格好。凄く恥ずかしいんですけど。ドッキドッキしてきた〜」 「私のチンポもドックドックしてるよ。ほらお腹いっぱい食べなさい」 先をあてがうだけで、自動的に千明の肛門が口を開き、蛇のように丸呑みしてくれる。潤 滑ゼリーなどもう必要もない。貫かれて、女っぽくア〜ンヤダ〜と喘ぎを漏らしながらも、 腰の動きはそういっていないところが可愛い。私は猿のように腰を振り立てた。 千明がア〜ンア〜ン甘い泣き声を上げだし、蠢く腸襞に蹂躙された私のイチモツに快感刺 激が針山の針のように無数に突き刺さる。千明の腸膣は、インポの老人からですら精を吸 引してしまう吸精器だ。私の痩せ我慢も限界に近づいた時、エントランスからの呼出チャ イムが鳴り響いた。私が無視していると、千明が息も絶え絶えながら注意を促す。 「恭さん。出なくていいの・・・お客さん・・・」 「お客なんか来る予定はないよ。・・・あ、そうか配達かも知れない。おい、千明、この ままインターフォンまで行くぞ」 インターフォンに出るのも面倒だが、出ないで再配達を手配するのも面倒だ。 「えええ。入れたままあ?」 抜かないで済むなら抜きたくはない。私は千明の腰を押さえ、千明をカウンターから引き 剥がす。千明はひいひいいいながら、前屈みのままよたよたと歩き出した。歩調を合わせ るのが難しい。しかし、千明の強烈な吸引力のおかげで、抜けることなくインターフォン を取ることができた。モニターに宅配業者が所在なげに映っている。がっくりだ。もう後 10分後に来てくれれば。仕方なく応対して入り口を開けると同時に、私は未練がましく 接合したまま、千明を馬のように操って寝室に戻った。いっそ抜かずに、このままの格好 で宅配の兄ちゃんに見せつけてやろうかとも思ったが、千明が承諾するはずもなく、今生 の別れかというくらい嫌々イチモツを抜き去った。 ふて腐れてスエットの上下を身に着け、罪のない宅配の兄ちゃんを睨み付けながら荷物を 受け取ると、『有限会社転身社』という聞いたこともない店からの発送であった。これが ママの知り合いの店なのだろう。バイク便で送らせるといっていたが、私があれこれ追加 したために宅配業者の配送になったのだろう。ずっしり重い箱を抱えて、私が寝室に戻る と、千明はさっきペニスを引き抜いた時の格好のまま、恍惚としてベッドに伏していた。 肛門から幸せの湯気を、ほよんと立ち上らせているかのようだ。 「おい、千明、そんなに肛門ぽっかり開けてると、風邪ひくぞ」 「うーん。だって、お尻がホワーンってして、動きたくないんだもん。女装すると感じち ゃって・・・」 「女装をあんなに恥ずかしがってたくせに」 「その恥ずかしいところが、かえって敏感にしてくれるんだ。えへへ。ホントはね、高校 の文化祭で一度だけ女装したことがあってね。クラスの出し物で、男が女役をやって、女 が男役をやるっていう、コメディ劇なんだけど、そん時ね、なんだかとってもドキドキし て。変な気分になった。でも、受験とかいろいろあったし、追求すると抜き差しならない ことになりそうな予感もして、考えないようにしてたんだけど・・・」 「高校ねえ。懐かしい響きだなあ。千明は去年までは高校生だったんだよな。まだ10代 だもんなあ。そう考えると、中年の変態おじさんとしてはますます燃えてくるよ。ではで は。ルナティックのママに頼んだ女装グッズが届いたから、千明には高校時代に芽生えた 女装願望を思う存分実現してもらおう。いったんスーツを脱ぐから、身体を洗えるよ。昨 夜から汗かきまくってるだろ」 「うーん。恭さん、だっこして・・・」 「こらあ、甘えすぎ」 「だって、女の子になっれていったの恭さんじゃないかぁ。女の子は甘えるもんなんだよ」 確かに一理はあるので、私は千明を抱き上げ、浴室へ連れ込んだ。ママから送ってもらっ た脱毛剤も一緒に持っていく。手当をしながらスーツを脱がすと、湯気を上げながら、剥 き身の卵のような千明の裸身が現れた。何だかますます色が白くなっているようだ。全身 をごしごし擦ってやると、ぼろぼろと大量の垢が出て、千明は盛んに恥ずかしがっている。 私にいいように弄ばれて、しばらくぶりに目にする自分自身の裸身をじっくり観察する暇 がないようだ。私はこのところ薄々感じていたことが、素裸の千明を見たことで確信に変 わっていた。千明に告げていいものか束の間迷う。しかし、千明はすでに私との結婚を承 諾し、あまつさえ去勢するとまでいい出しているのだ。話すべきだろう。私は曇ってしま った鏡にシャワーを浴びせ、千明に自分を観察するよう促した。 「わお。色が白くなっちゃったなあ。それに、少し太ったかも・・・」 「それだけかい?」 「え? それだけって?」 「千明は最後にいつ、髭剃りをした?」 「髭剃り? ・・・えっと・・・あれ? もうずっとしてなかった。だって、マスクして たし。あ、そういえば髭が伸びてない。何でだろう・・・」 「もともと体毛の薄い方だったけどね、千明は。でも、伸びてないというより、髭自体が なくなってるよ。触ってごらん」 「あ? えええ、ほんとだ。ざりざりしない。あれえ?」 「腕も、脚もだよ。毛がなくなってる」 「あ、ほんとだ・・・えーっ、まさか、恭さんが前にいっていた女性ホルモンのせい?」 私は千明の全身を、もう一度丁寧に観察した。 「いや・・・女性ホルモンがいかに分泌されたとしても、男は女のように大量には作り出 せないはず。だから、性転換したママみたいな人には、定期的な女性ホルモンの投与が必 要なんだが。・・・女性ホルモンの分泌だけで、こんな急激な変化は考えづらい」 「でも、髭や臑毛がなくなるなんて・・・」 「確かに千明は女性化しているようだ。毛だけじゃない。身体全体がほんのり丸みを帯び て・・・胸もかすかに膨らんでいるように見える。・・・ちょっと千明の身体を探らせて もらうよ」 手を当てている部分から微弱な気を内部に差し込み、天井裏から忍び込んだ泥棒並の慎重 さで探る。 「女性化・・・身体が・・・そういわれると、ああああ、おチンチンまで小さくなったみ たいに見える」 私は侵入した時と同じ慎重さで、気の触手を引き上げた。 「間違いないな。確かに女性ホルモンの分泌も活発になっているが・・・それだけじゃな い。何というか、千明の生まれ持った生気の質自体が、女性的なものに変わっているみた いだ。千明自身の身体が、自ら女性化しているように思う。体毛だけじゃない、肉付きか ら・・・信じられないが、骨格まで、微妙に変化の兆しがある」 「自らって・・・僕はそんなの望んでませんよ。そりゃあおチンチン切ることは承諾しま したけど・・・」 「千明が望むと望まざると・・・自動的な反応のような気がする。千明は私と交わること によって、依代としての資質が開花し始めた。それに応じて、その資質を発揮しやすい形 態に身体を変化させているんだろう」 「じゃあ、手術を受けなくても、女になっちゃうんですか、僕」 「少なくとも豊胸手術の必要はないだろうが、チンポは・・・痕跡もなく消えるというこ とはないだろうな」 「そっか・・・じゃあ、やっぱりチンチンを切る手術は、受けなくちゃならないんですね」 「おや、意外と残念そうではないね」 「・・・ええ、自分のあずかり知らないところで、勝手に決められるのは嫌です。僕は、 自分で決めたことは、自分の意志で実行したいですから」 「ふむ・・・強いな、千明は」 「強くなんかない。めいっぱい不安です。いったい僕はどうなっちゃうのか・・・」 「どうなろうと、私が守るさ」 千明が私を見つめた。その眼差しは強かった。そして、くしゃっと相好を崩した。 「ちょっと、感動した」 「ちょっとかい」 「えへへ。だって、僕を女装させて犯そうって人の台詞だもんなあ」 私はゆっくりと千明から手を離す。 「気持ちの切り替えが早い。そこが千明のいいところだな。じゃあ、後でたっぷり犯して やるから、本格女装の準備を始めようか。まずは、脱毛だ。腕も脚も脱毛の必要がないが、 念のために全身に塗ろう」 「あ、手を離しても大丈夫なの?」 「ん? ああ、今、調べてみてわかったんだが、女性化して、千明の器がわずかに大きく なったようなんだ。女装の影響もあるのかな。どちらにせよ、女という『形』が千明の器 を拡げるという、私の予測は裏付けられたな。器に余裕ができた分、体内の霊の溢れも弱 くなるはず。それに・・・千明の中の霊がどこか微妙に変質しているような感触があった。 あまり引っ掻き回すわけにもいかないから、精査できなかったし、精査してわかるものか どうかも疑問なんだが。何といっても、男の依代なんて前例がないことばかりだから、ど ういえばいいか・・・」 私の得た手応えを千明にわかってもらうための比喩を、しばらく考えた。 「・・・普通、依代と霊は、器の壁でしっかりと区切られていて、霊は壁から強い斥力を 受けて閉じこめられている。その分、器が緩んだり、揺れたり、割れたりした時・・・つ まり依代の精神が弱まったり動揺したり、肉体が傷ついたりした時だが・・・拡がろうと する霊の反動・反発も強いものになる。だから依代は霊を吸収した後、こんなスーツを着 たりして補強するんだが・・・。千明も今まではそうだったし、器が大きい分、斥力も強 力なものを授かっていた。ただ、さすがの大きな器も満杯になるほど桁外れな量の霊体を 吸収していたから、霊の密度も凝縮度も高く、まるで巨大な高圧窯のようなもので、何か で斥力が弱まった場合、それに伴う反動や反発も、物理的霊障を引き起こすほど凄まじか ったわけだ」 千明がふむふむと頷いている。 「それが、今の千明は、器の斥力が弱まっているのに、霊が溢れたりこぼれたりしないよ うな状態・・・器と霊の親和性が高くなったというか、霊の粘度が増したというか・・・ 原因はやっぱり千明の変化にあると思うんだが、反発力も弱まっている。だから、不用意 なことさえしなければ、そうそう溢れて霊障を起こすような状態ではなくなっているとい うことだ。詰まっていた浄化力が、わずかに開いたせいもあるのかな。いや、浄化力と親 和性は違うし、真理や他の依代にはこういう親和性はなかった。不思議だよ。どういう原 理なのかは私になどわからない。協会の研究室の連中に100年くらい研究させたら原因 が究明できるかも知れないがね。知らせたら、誘拐してでも研究したがるだろうなあ」 「解剖されそうで怖いですね。じゃあ、僕が精神的にパニックしたり、意識朦朧となるよ うなことがなければ、スーツを脱いで生活できるってことですか?」 「それがどこまで許容されるか、見極めできないのがネックだよ。躓いて転んだだけで溢 れるかも知れないし、眠っている時はどうなのか、とかね。セックスする時は着てた方が 無難だろうなあ」 「意識朦朧としちゃいますからね。じゃあ、割れ物を運ぶ時くらいに慎重にしていればい いのかな。まあ、いいや。別にもう慣れちゃいましたから、スーツ着たままでいいです。 たまにこうして身体を洗えるだけでもありがたいし」 「私も手を離していられる分、作業がしやすいから助かるよ。それでね、千明、脱毛なん だが、脇毛と陰毛と、もう一カ所脱毛してしまいたいんだが、如何なものかと・・・」 「もう一カ所・・・えーと、如何なものかって、それって、もしかして頭?」 「うん。そのもしかしてだ」 「やっぱり〜。しくしく。恭さんがそれでいいなら、いいけど。お坊さんみたいになった、 変な顔の僕でもいいなら」 「いいに決まってる。私はそういう変態だし」 「確かにねえ。恭さんが変態なのはよ〜〜〜くわかってるけど。他に理由もあるんでしょ」 「ん、まあね。いい訳みたいで、何なんだが」 「どういうん?」 「髪は女の命っていうくらいだから、千明には髪を伸ばしてもらった方がいいともいえる んだが・・・体毛というものは霊的な要素が多いものでね。髪は霊の波動を感知するアン テナでもあると同時に、気を放散させる放電器でもある。首輪の引き綱に埋め込まれてい るのも、銅線じゃなく髪の毛だろ。さらに、体毛はスーツの密着を邪魔するし、スーツや マスクを常時着て生活している者には手入れが困難だしね。気を武器に使う私のような者 には商売道具のような物なんだが、依代にとっては霊の逃げ道にもなりやすいから、剃髪 するのが慣例となってたりする」 「へえ、なるほど。じゃあ、真理さんも、鳴神さんの礼子さんも・・・」 「まあね・・・昔はこんな便利な脱毛剤はなかったから、毎日剃毛の手伝いをしたものだ」 「だから、真理さんのカツラがいくつもあったわけか。そいじゃあ、もしかして、もっと 早く頭を丸めていれば、いろんな器械を壊さないで済んだわけ?」 「それは、どうかな。毛を剃ったくらいで抑えられるレベルではないと思うが」 「そうなの。じゃあ、恭さんの変態性欲を刺激するために、という理由でオッケーする」 「それ以外の真っ当な理由は?」 「刺身のツマ」 なんだかんだで20分後、つるつる頭の自分を鏡の中に見て、千明は、変だ、わー、変だ、 を連発し、頭を押さえながら涙目で、見ないで恭さんと私を見上げた。これが見ないでい らりょうか、と時代劇がかった台詞をのたまい、千明の手を押し拡げて坊主頭にキスをす る。ママご推薦の非認可脱毛剤の効力は凄まじく、脱毛された毛穴を縮めるのだろう、触 ってもざらつきがまったく感じられない。今は脱毛したてで皮膚が青いが、何度か日に焼 けば生まれつきの無毛と見紛うばかりになるだろう。 「大丈夫。つるつる坊主の千明も、可愛いって。元がいいから。髪がある時より女っぽく 見えるよ」 と、くどいほどいってやると、ようやく千明も抵抗をやめたものの、頭にタオルを巻いて 隠してしまう。その後、脱毛剤がかからないようにカバーしていた眉のテーピングを剥が し、ついでのように眉を細く剃り上げてやると、もともと女顔の千明は、可憐な乙女へと また一歩近づいた。 肉体から翳りというものを喪い、まるで白雪姫のごとく清純になった千明は、身体を拭く のも簡単になった。必要はないのだが、隠したがる千明の気持ちもわかるので、頭と身体 にバスタオルを巻き付けるのを許す。しかし、さすがに腰にバスタオルを巻こうとした時 は、女なんだからと、胸から巻かせた。私は長めのバスローブを羽織っただけで、前を閉 じもしない。バスローブから覗いた私の脚に、臑毛が一カ所、丸く脱毛された跡があるの を千明が発見したが、ママの注意書きをいい加減に読み飛ばしたバチのようなものだから、 ママには内緒にしておこう。 リビングの室温は、ラバースーツを着て蒸れる千明のために低めに抑えてあったので、千 明の肩に別のバスローブを掛けてやる。私のサイズだからマントのようにも見え、私に手 を引かれてしずしずと歩く様は、まるでヨーロッパのお姫様のようだった。千明を一人掛 けソファに導き、そっと座らせる。千明もスーツを着ていないことが不安なのか、壊れ物 扱いにも不満は漏らさなかった。 「では、お姫様。次は人工乳房と股間の女性化とまいりましょう」 「お姫様は、やめてくださいよ〜」 「ウルサイでござります、お姫様。さあて、技術の進歩はどれほどのものか、とくとご覧 じろでござりまする、お姫様」 「恭さんてば、お姫様はいいけど、そのわけのわからない侍従言葉はやめようよ。変だよ」 「そうか? 駄目? 残念。では、これが噂の人工乳房・・・うおう。これは凄いぞ。ま るで感触が・・・本物だ」 密封パッケージから引っ張り出した肌色の塊が、私の手の平でぶるんっと震える。その振 動がまさに本物の肉の手応えだった。千明が興味津々で見つめているので、手渡してやる。 「わあ。気持ち悪い。ホントに生きてるみたいだ。わあ。これが女の人の乳房? へええ、 こんなに柔らかいんだ。でも、中に少し固さもあって・・・へええ」 「童貞だから、乳房に触ったこともないんだね。確かにこの乳房はリアルだ。乳首も乳輪 も本物そのもの。乳腺の感触まで再現してある。で、これを接着するわけか。おっと、メ モが入っている。・・・付属の接着剤より、ルナティックのママが注文した医療用接着剤 を使った方がいいとのことだ。かぶれないし蒸れないらしい。なるほどね。さすがママ。 至れり尽くせりだ。で、接着剤は・・・これか。水みたいだね。蓋の内側にブラシが付い ている。何だか大昔のプラモデル造りを思い出すなあ。ええと、接着面に薄く塗って、塗 り終わったら付属のスプレーを吹きかける。それから接着面に軽く接触するくらいにあて て、位置を決める。位置決めに使える時間は30秒。位置が決まったら、軽く押しつけて 待つ。スプレー噴射から30で接着。これは一瞬だそうだ。なるほどね。では、試しに胸 に当ててごらん」 私がもうひとつの乳房を渡すと、巨大な桃肉を両手に持って、千明が泣き笑いのような表 情を浮かべた。 「おっと、ごめん。両手が塞がっちゃったね」 私はバスローブの前をはだけてやった。千明が両手の巨桃を見比べ、ふうっと溜息をつき ながらそっと胸に当てる。桃がプルンと揺れた。 「小さすぎもせず、大きすぎもしない。千明にぴったりだよ」 そういいながら、私は真理の乳房を思い出していた。真理も、ちょうどこのくらいの大き さだった。と考えて、苦笑いする。 「何だよう。何笑ってるのさ、恭さん。笑われたら、泣いちゃうぞ」 「いや、ごめんごめん。その乳房を付けた千明を見てたら、やけに真理の胸を思い出すな と思って、よく考えたら千明が真理の衣装を着られるように、ママがわざわざ真理と同じ サイズの乳房を注文してくれたんだって、ようやく気が付いたのさ」 「あ、そうか。この胸、真理さんと同じなんだ。ふーん」 千明は急に嬉しそうな顔をした。真理が絡むと、急に千明のものわかりがよくなるのが不 思議だ。 「位置はそんなものだろう。ん、接着剤を塗るから、接着面をこちらに向けてくれないか」 注意書き通りに接着剤を薄塗りし、スプレーを吹きかける。千明が焦って胸に押し当てた。 「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。ちょっと右が下がってるね。それに、力が入って、 乳房が変形してるよ。うん、全体をほんの少し下に。・・・そこだ。よ〜し。じゃあ、動 かさないで」 念のためにそれから30数えた千明が、恐る恐る手を離しても、乳房は落ちなかった。 「ママが色まで考えてくれたんだろうか。白くなった千明にぴったりだね。色が合ってる から継ぎ目がまったく見えない。色といい形といい感触まで本物そっくりだなんて、技術 も進歩したもんだ。ハリウッド映画の特殊メイクのおかげかな。知ってる私が見てもわか らないんだから、誰が見てもこれは見抜けないだろうな」 「うーん。変な気分。ホントに乳房ができたみたい。触れば感じちゃいそう。揺れが胸に 伝わって来るし、下の本物の乳首が引っ張られて、こそばゆいような・・・気持ちいいよ うな・・・。凄いけど、重いなあ。慣れないと肩が凝りそう」 「これは、下も期待できそうだなあ。ほら、お姫様、脚を拡げてソファの肘掛けに乗せて いただけますでしょうか」 「お姫様は、そんな格好しないと思うけどなあ」 そういいながらも、千明は大きく脚を拡げた。バスローブの裾が大きく割れ、千明の男の シンボルがぽろんとまろび出る。腰紐一本で押さえられ、上も下もはだけて、さすがにお 姫様とはいえないスタイルである。 「さて、まず竿に導尿管を入れて、上から竿全体にテープを貼る。それから睾丸を身体の 中に入れる。ちょっと痛いかも知れないが、入ってしまえばまず大丈夫だから。とサイト の説明には書いてあったんだが、ま、やってみよう」 『導尿管』と雑な赤字でかかれた袋を取り出し、中を改めると、導尿管の封じられたパッ クが10包ほど納められていた。使い捨てタイプのようだ。同封されたメモには、下手な ペニスの断面図とそこに差し込まれたヘアピン状の導尿管の図が描かれている。尿道口の 部分、導尿管の曲がりの部分に引き出し線が描かれ、接着した方がよい、と書いてある。 脱落防止ということか。さらに、尿道に入る部分全体に斜線が引かれ、手を触れないこと、 と書いてあるのは、尿道炎に対する用心であろう。 「店の親切なら、こんな急造の手書きではなく印刷してあるだろうから、おそらくママの いいつけなのだろうね。ありがたい」 「ルナのママって、恭さんのお母さんみたいな感じだね。ホントに細やかな心配りだなあ。 僕には真似できそうもないんですけど・・・」 「お母さんは可哀想かな。お姉さんってことにしておこう。ママとは遠い昔に一度だけ寝 たことがあるから、そういう意味では他人じゃないし。だからって、千明が真似する必要 もないよ。千明は心は男だろ。ママは心が女なのさ」 「ちょ、ちょっと・・・ママと寝たって・・・へえ、へええ、へえええ。恋人だったの?」 「学生時代の空手部の先輩だよ。筋肉隆々のごっつい身体で、強かった。それにあのバタ 臭い顔。私は美少女趣味だからね」 「そーですか。じゃあ、何でまた」 千明の目は、興味津々と輝いている。ヤキモチのひとつくらい焼いてくれても、良さそう なものだが。 「ママのね、当時つきあっていた男のために、せっかく性転換手術を受けて膣ができたと いうのに、ごたごたがあって別れてしまったわけ。落ち込んで荒れていたママにつきあっ て飲んでいる内に、酒の上の成り行きとはいえ、一度だけ抱いてしまった・・・とまあ、 そういうこと。私も若かったからね。相手が宇宙人だろうが妖怪だろうが男だろうが、女 にさえ見えれば、触られただけで収まりがつかなくなる年齢というものがある。記憶がな くなるくらい酒が入ると、なおさらでね。で、まあ、名誉なのかどうかわからないが、マ マのロスト・ヴァージンの相手となってしまったわけだ。お互いきっちり割り切っていた から後腐れも何もなく、それ一度きりのことなんだけどね。それ以来かな、ただの知り合 いというより身内みたいな感覚になったのは。ところで千明、おまえタレントのゴシップ 好きだろう」 「えっ、なんでわかるの?」 私は竦み上がっている千明のペニスを手に取った。ここのところずっと封印スーツの中で 圧迫され、勃起も許されないような状態だっただけに、以前見た時よりどことなく小ぶり に感じた。いや、実際に小さくなっているのだ。千明の女性化の影響だろう。また、女性 ホルモンも、投与を続けるとペニスが矮小化するとママに聞いたことがある。男として恥 ずかしくないイチモツだっただけに、哀れさが漂う。導尿管の封を破り、潤滑剤でぬるつ く管の露出部分のみを慎重につまむ。先端が丸くなっている一端を千明の尿道口にあてが い、ゆっくり滑り込ませていくと、千明はにょほほほほほ、とおかしな声を出した。 「んみゅう。痒いところを掻いてもらうような、痛いような、くすぐったいような・・・」 「私も入院中は、これをされてたよ」 三分の二ほど差し込んだところでいったん止め、U字に曲がった部分の潤滑剤を拭き取っ てから接着剤を塗る。千明のペニスを手でカバーしながらスプレーを噴いて、ググッと押 し込めた。 「ん。うわわ。膀胱の中に入ってきた。うぴい。くねくねして、何だか虫が入ったみたい」 導尿管のU字部分が千明の亀頭の割れ目に嵌り込み、管の露出部分はペニスの裏筋に沿っ て垂れ下がる。柔らかなパイプを緩く曲げて、ペニスの背に届かせ、管の先に付いている ボタン状の弁をエラのすぐ下あたりに接着する。 「で、次はテーピングか。この穴を導尿管の弁に合わせて貼り付けて、サイドの余白でペ ニスをくるむと・・・。よしできた。おや、勃ってきましたね。お姫様」 「それだけいじくり回されて、反応しなかったら病気でしょ」 「そりゃそうだ。しかしこの状態で折り曲げたら痛いわな。でも、大丈夫。すぐにヘナヘ ナなるんだな、これが」 私は千明の睾丸を手に取った。酷使し続けた私の睾丸より一回り小さく、その分、密にこ りこりした可愛い金玉だ。楕円体の縦長方向を上に向け、ペニスの脇の鼠径管に押し戻す。 その際、血管や精管、陰部大腿神経などを圧迫したり嵌頓して圧搾したりすると危険だと いう。こういう事態を完全に防ぐことは難しいが、血管や神経に気を流し、それを辿るこ とで圧迫や圧搾が起こりにくいポジションを取らせつつ、送り込んだ気でできる限りの防 御をすることはできる。後は千明の運次第。といっても千単位の自縛霊やら浮遊霊、時に 怨霊を吸い込みながら平気で生きている千明の運は並大抵なものじゃない。 鼠径管は平均で口径1センチほど。そこにその数倍の玉を通すのだから、慣れなければ痛 い。少しでも緩むよう気を送ってやる。肛門の貫通と同じで、もたもたして痛みを長引か せるより一気にやったほうがいい。 「あ・ん・ぎ。痛ったあああ。ゴリっていった。恭さ〜ん。痛いと溢れて火事になるよ!」 「焦げ臭くもないし、大丈夫みたいだよ。片一方は入った。残るは・・・こっち!」 「んぎゃん。う・い・痛・た・た・あああ。ゴリュって音がしたあ〜。あううう。ひ〜ん」 「はいはい。よく我慢できまちたね」 「どうなったの・・・ちょっと見せて・・・あ〜っ。玉がない。本当に身体の中に入っち ゃった。手を離してるのに出てこないよ。ずっとこのままだったら怖いよ。出せなくなっ たらどうしよう」 「気を送って緩めながら押し出せば大丈夫さ。やってみようか?」 「いや、いい。結構です。だって、そしたら出す時もまたゴリュっで、そんでまたもう一 回入れ直すんでしょ。連続2回もゴリュッなんて、泡吹きます」 「これも慣れだよ。さて、さっきまでビンビンしていたチンポが、あっという間に縮んだ ね。な、大丈夫だったろ。ではチンチンを肛門へ引っ張るから、脚を上げて、股を拡げて。 よし。素直だね」 「お手柔らか、に〜いいい」 私はちっともお手柔らかくなく、千明のペニスを思いっきり肛門方向に引っ張った。萎え きった千明のペニスが伸びきり、亀頭の先端が肛門に接するほどの位置に来る。テープは 二股になっているから、肛門を避けてその両脇に走らせた。股間にめり込んだペニスの横 から中身のない袋を引っ張り出し、ペニスには接着剤を塗りつけて、股間の肉に貼り付け てしまう。これでテープを外しても大丈夫。玉袋を両側から被せ、合わせ目を接着してい くと、綺麗な割れ目ができあがる。肛門のあたりで、皮の覆いからちらりと覗く亀頭の先 が、クリトリスのような色合いを添えている。初めてだというのに失敗もなく、実に美し い割れ目ができあがった。このままでも充分女の子として通用する。ただ、肛門のわずか 上に、導尿管の弁が金属口を覗かせているのが異様に目に付いた。 「接着完了。立ってごらん。軽くジャンプして」 「んん。胸が、揺れて、ジャンプしづらい。身体の中の玉が、こりこりして・・・痛くは ないけど。変な感じ。ちょっと見ていい?・・・わあ、割れ目だ。凄い。おチンチンの形 跡もない」 「鈍痛が続いたり、鬱血しするようなら教えなさい。でも、たぶん大丈夫だろう。根拠は ないけど、霊師の勘はよく当たる。このまま2週間から4週間過ごす人もいるというから。 このままでもいいような気がしてるんだけど、ママがせっかく選んでくれたフェイク女性 器があるんだから、一度は使ってみよう」 私はミューズとかいう名前の商品を手にし、パッケージを開けた。大きめのナプキンのよ うな形をしたシリコンパッドを取り出す。一目見てその精巧さと卑猥さに嬉しくなる。千 明にかざして見せてやった。 「凄いな。本物だよこれは。ああ、千明は童貞だから、まだ本物を見たことはないんだね」 「もう。童貞童貞って馬鹿にして。僕だって無修正のポルノぐらい、見たことあります。 ネットで外国サイトへ行けば見放題だし」 「ほう。千明も健全な青少年だったんだ。それが今や、チンポ切るっていうまでに成長し たわけだね」 「成長なんですか、って、何で僕が突っ込みをしなきゃならないんですか。突っ込まれて るのに」 「わははは。うまい。座布団一枚。よし、調子が出てきたところで、貼り付けてみよう」 「何の調子なんだか。その窄まっている所に付いている、触覚みたいなのは何ですか?」 「ん? これは偽の肛門だね。ほら、千明の肛門が膣の位置に来るんだから、肛門がなく なっちゃおかしいだろ。よし、接着剤塗り込み完了。スプレーして。さあ、脚拡げて。こ の膣の穴を千明の肛門に合わせて・・・端の極薄部分がヒラヒラしてやりにくいね。強く 押さえると浮いてきてしまう。ちょっと千明、真ん中と疑似肛門を押さえていてくれない か。私は端を押さえるから」 「何が悲しくて、自分の肛門を膣に見せかける作業の手伝いをしなくちゃいけないんだろ」 「ほらほら。恨み言は神様にでもいってくれ。30秒経ってしまうよ」 「は〜い」 出来映えはまさに究極だった。少々後ろ付き気味だが、割れ目の奥に小陰唇が覗き、その 奥に粘膜の襞に縁取られた神秘の入り口がある。その奥に千明の肛門がひっそりと蕾んで いることなど誰にもわからないだろう。疑似肛門も初々しさを感じるほど慎ましく、わず かに色素が沈殿している様子まで再現されていて、指を差し込めば、ずぶりと根元まで埋 まりそうに見える。クリトリスは上に被った包皮まで捲り上げることができた。 武器とオモチャは使ってみたくなるもの。武器は物騒だけど、オモチャは楽しい。早い話 が、むらむらっときたわけだ。私の鼻息に気づき、私の下半身に視線を落とした千明は、 ちょっと待って〜と叫んで、身体を揺らさないように摺り足ながら、浴室まで走り、全頭 マスクを被って現れた。つるつる坊主頭が人工女性化裸体より恥ずかしいらしい。 私の股間は火のついた種馬状態。飛んで火に入る千明の都合など無視、という勢いで抱き 上げ、仰向けにソファに転がし、開いた花弁の奥、秘密の花園ならぬ糞壺に突っ込もうと して、濡れているわけもないシリコンの肉に引っかかり、痛みに顔を引攣らせた。潤滑ジ ェルを持ち出して、千明の横に座るまで待てず、歩きながら鉄の棒のようになったペニス に塗り込む。亀頭も頭なのだから、ヘッドスライディングで正しい表現だと思う。歩いて きた勢いそのままに、脚をM字に開いた千明の割れ目に叩き込んだ。 「あ、ぐふっ」 肛門から胃の下あたりまで一気に貫き通されて、千明が息を吐く。大胆に腰をグラインド させると、断末魔の魚のように千明の脚が跳ね上がった。 「あ、あ、あ、ああああああ。恭さん。恭さん。肛門の所にあるおチンチンの先が擦られ て、気持ちいい。ああああ。凄く感じる。あー、あー。何これ。こんな感じ、初めてだよ。 お尻からお湯が拡がってくみたい。温かい。はああああ〜。開いちゃう。何かが、拡がっ て・・・僕、開いちゃう・・・」 千明の歓声が私をさらに奮い立たせた。どうやら千明は逝きかけている。私は千明を掻き 抱き、抱き上げ、ダッチワイフ人形のように上下に振り動かしながら、突き上げてやった。 一突きごとに千明の肺が押し上げられ、蕩けるような甘い悲鳴を吐き出させる。私の首に 回された千明の手指が、いつしか肩の肉に食い込んでいた。 「そうだ、千明。開け。自分を開け。快感の波を抑えるな。頭じゃなく、身体全体で味わ え。拡がって拡がって破裂しろ。私が抱いていてやる。そのまま、溺れるんだ。その先に 素晴らしい天国が待っている。昇天しろ」 千明は頷いているのか、私に突き回されて揺れているだけなのか、頭をガクガクさせてい る。しかし、聞こえたのだろう。私の腰に脚を回し、万力のような力で締め付けてきた。 千明の中で何かの掛け金が外れた。タガの外れた音は、千明の遠慮ない快感の叫びだった。 食いしばった歯の間から、歓喜の叫びが漏れ出す。あたりに焦げる臭いが漂い始めたが、 いまさら目隠しやマウスピース、封印スーツを着けさせて興醒めさせたくはない。私はこ の部屋が全焼しようと構わないと決めた。 すべての抑制を解き放った千明の肛壺の蠕動は、私に必死の抑制を強いる。摩擦で粘膜に 火がつきそうだ。気を抜くと一瞬で吸い上げられ、私が先に昇天させられそうだった。ま るで戦いだ。千明は馬上で鬨の声を上げるインディアンのように上下している。その動き に全身の細かな震えが重なり、それが激しい胴震いになった時、千明の目が一瞬見開かれ、 蕩けるような菩薩の笑みを浮かべた。絞り出すような絶頂の声が響き、千明は引きつけを 起こしたかのように跳ね上がり反り返った。男の絶頂とは違う、肉体が捲られていくよう な絶頂を、千明は確かに迎えていた。千明の腸液が、沸騰したかのように噴きこぼれる。 千明の身体を駆けめぐる、津波のような快感の波紋が見えるような気がした。千明の肉体 が、人工乳房さえも含めて、白い光を発した。幻覚ではなく、霊的な視覚に、眩いばかり の光が溢れる。 その瞬間、再び吸引が起こった。私の中を循環していた気の軌道が、見えざる力で強引に 捩じ曲げられ、繋がった股間から濁流のように吸い出されていく。悪霊10体を一瞬で消 してしまえるほどのエネルギーが、千明の内部に流れ込む。千明の身体がバラバラに爆発 してもおかしくはない程のエネルギーが、溶け込むように吸収され、跡形もなく消えてし まった。一度経験していただけに、兆候を感じた瞬間、私は反射的に防御態勢を取り、か ろうじて気の循環リズムを破壊されずに済んだものの、奪われたエネルギーは前にも増し て大きかった。 大量の気を一瞬で奪われた時、人は腰が抜ける。私もそうなった。気で固めたイチモツな のに、空気が抜けるように萎み、千明の肛門からなすすべもなく押し出される。千明を支 えていた腕からも力が抜け、千明が仰向けにソファへ沈む。千明は完全に意識のヒューズ が飛んでいた。物言わぬ人形のようにぐったりとしたまま、間欠的にあちこちの筋肉をピ クピクと震わせている。呼吸は荒いがしっかりしているから、大丈夫だろう。不意を突か れたが、気の流れを乱されることがなかったおかげで、よろよろとではあるが立ち上がる こともできた。私はタンカレーを一気に一瓶空けて、その場でしばらく瞑想に入る。今夜 は牛一頭くらい食べなければ駄目かも知れないと、瞑想しながら考えている内に、なんと かボルテージが回復してきた。結跏趺坐を解き、大きく伸びをする。 ソファを見やると、ソファの背もたれにつかまって、千明がゾンビのように体を起こすと ころだった。その動きはまだどこか、ちぐはぐでぎこちない。千明は震えながら深呼吸を して、軽く頭を降った。それから、はっとして、片手で股間を探り、その指を目元に持ち 上げて確認している。ほっとしたように、あるいはがっかりしたように肩が落ちたところ をみれば、射精はしておらず、肛門もしっかり締まって不用意な内容物の漏れはなかった ようだ。顔を上げ、私を捜してあたりを見回す。座り込んでいる私を見つけると、かすれ た声で謝った。 「ごめん。恭さん。また、エネルギー吸っちゃった?」 裏声のような声だった。千明が咳払いをする。 「恭さん、大丈夫? ・・・あれ?」 再び咳払い。それから喉を押さえて、あーあーと発声している。私はその様子を眺めなが ら、よっこいしょと立ち上がり、千明の元へと歩み寄った。その間、千明は呆然と自分の 喉をさすり続けていた。私が横に座ると、涙目で訴えてくる。 「恭さん。変だよ。声が。喉も。何だろう・・・喉をぶつけたりした?」 私は千明の喉に手を伸ばす。指を滑らせても、そこに盛り上がる軟骨の痕跡は感じられな かった。 「喉仏が消えてるな。声帯が変形したんだろう」 私は千明の身体を揉むように調べていった。驚くべきことに、肩幅が一回り小さくなって いるようだ。こころなしか腰も細く感じるし、ヒップは骨盤が開き、大きくなっている。 つまりは、骨が変形したということになる。 「骨格そのものも、変化しているようだ・・・おっと・・・」 千明の胸から、片方の人工乳房が脱落した。もう片方もかろうじてくっついているという 有様だった。剥離剤を使わなければゴリラが引っ張っても剥がれないはずなのに。そして、 人工乳房の下から現れた千明の胸は、少女のように緩やかに盛り上がっている。乳首はは っきりと肥大し、女の大きさに変わっていた。 「やっぱり・・・女になっていくんだ、僕」 苦渋と当惑、そして訣別の震えが入り交じった声だった。 ☆彡17. 千明は、自分の身体が変身しつつあることに、惜別の念を抱いたようだった。だが、続い て快感の余韻が揺り戻したのだろう、ぶるっとひとつ大きく体を震わせると、千明の表情 は花開くように明るくなった。 「恭さん。逝けたよ。僕。逝っちゃったよ。信じらんないけど、逝っちゃった〜。凄かっ た。お腹の中から温かい日光が噴き出してきて、体中を照らし出したみたい。頭のてっぺ んから指の一本一本まで、快感がジュワアって充填されてくみたいで、よかった〜。おチ ンチンでの絶頂とは、全然違うんだね。おチンチンの先が、恭さんのおチンチンの抜き差 しで擦られて、少しは硬くなるんだけど、勃起まではいかないし、射精もしてない。けど、 おチンチンで逝くのより、遙かに気持ちいいんだ。絶頂している間が、本当に長いんだよ。 女の人の絶頂と同じかどうかはわからないけど、長くて高くて複合的で・・・昇天するっ ていうけど、比喩じゃなくて本当にそんな感じなんだ」 「真理がいうにはね、膣での絶頂と肛門での絶頂は、味噌ラーメンと豚骨ラーメンの違い 程度らしいよ。差はあるが、どちらもコクのあるラーメンに違いないってことかな」 「わかるような・・・。でも、男って可哀想な動物だよ。おチンチンの快感しか知らずに 一生を終わるなんて。あうううう。まだ余韻が残ってる。駄目だ〜、この快感を知っちゃ ったら、男になんて戻れないよ」 「それは、よかった。未練なく女性化できるな。せっかく千明が開花したんだから、この 感覚を体が覚えている内に、何度も繰り返して身体に覚え込ませた方がいいんだが、気を 吸われてさすがにしんどい。ちょっと休憩にしよう」 「じゃあ、僕、食事の支度をするよ。恭さんはやっぱり肉がいいの?」 「牛一頭分。血の滴るやつ。頼むよ」 「気力回復のための特別食だから、しょうがないか。でも、今後はできるだけバランスの いい食事にするから、ちゃんと食べるようにしてね。そうだ、付け合わせに温野菜のサラ ダとミネストローネも作ろう」 千明が立ち上がり、パンティとパンティストッキングを穿き直し、スカートの捲れを直す。 「股間がすーすーするなあ。スカートって頼りない。女の子ってよくこんな物、穿いてい られるよね」 と呟きながら浴室に行く。出てきた時はマスクを外し、頭にはウイッグを被っていた。 「さっき、逝っちゃった時、封印スーツを着ていなかったのに、少し焦げ臭いだけで火事 にはならなかったから・・・大丈夫だと思うんだけど。料理中は火を使うから、何かあっ たら恭さんお願いね」 私は頷いた。絶頂しても大丈夫だったのだから、火を使っても大丈夫だと、内心で根拠な く決めつける。せいぜいガスの火力が強くなって、ステーキが焼けすぎになるくらいなも のだろう。実は、何かあっても対処できるほど、気のパワーがない。千明には内緒にして おこう。案の定、ステーキはウエルダンだったが、文句もいわずに3kg平らげた。食べ 終わった時、山城のじいさんから電話があった。ちらりと目をやると、千明は気を利かせ たのだろう、鼻歌を歌いながら、皿を持ってキッチンへ立つところだった。 『その後、どうかね。お稚児さんは順調に育っているのかな』 「じいさん、前もいったが、まだ復帰するとはいってないぞ。当分、こっちのことは放っ ておいてくれといったはずだが」 『いやいや、急かしているわけではないよ。こちらでできることがあったら、是非協力し たいといっておるだけじゃ。装備部の方には最優先で、と命じておいた。他にも何か必要 なものがあれば、遠慮なくいってくれ』 「それは嬉しい申し出だが、魂胆ありそうで怖いな」 『ほっほっほ。そういうおまえもな。ところで、山には行ったのかな』 「いや・・・」 『早いものだのう。もう3年か』 「早くはなかったよ。私にとっては、長い3年だった・・・。その話はやめよう。そうだ、 じいさん、千明は私と結婚することになった。パートナーも承諾してくれたよ。戸籍と協 会登録の手続きを頼む」 『なんと。でかした、恭介』 「別にじいさんのために承諾したわけじゃない。パートナーになるのを承諾してもらった といっても、私達が協会に復帰して仕事を受けるかどうかはこれからの話だ。期待はしな いでほしい。必要があれば連絡はするが、とにかく、今は干渉しないでくれ。わかったな、 じいさん」 『わかっておるよ』 私は電話を切る。千明がお茶のお代わりを煎れに来てくれた。 「じいさんって・・・」 「協会の副理事さ。いろいろと便宜を図ってくれるそうだ。千明がまだ私のパートナーに なるかどうかもわからない内から、復帰はまだかとうるさいんだよ。今の電話で、千明が 私のパートナーになってくれることと、結婚の話は伝えておいた。これで公のことになっ てしまうが、千明はそれでよかったのかな?」 「はい。一度決めたことですから。男なのに女の戸籍になって結婚するっていう話が、他 の人に知られるのって、ちょっと恥ずかしいですけどね」 「しまった、千明の体型変化を装備部に知らせ忘れてた。じいさんに伝えてもらえばよか ったな。じいさんがハッパをかけて、千明用の封印スーツの製作を急がせているみたいだ から、早めに連絡しなくては・・・」 私は装備部に連絡し、高田に事情を伝えた。協会でスキャンし直すことを勧められたが、 千明の変化が今後もあり得ることを考慮し、暫定的なスーツをとりあえず造り、正確なサ イズのスーツは、変化が治まってから再スキャンして製作することにした。現在の型を修 正して使うことになり、その場で千明のサイズを何カ所か測り直し、電話で伝える。電話 を切ると、千明が私の横に座ってきた。超ミニのスカートはすぐに捲れ上がり、鬱陶しそ うに押さえながら、千明は呟くようにいった。 「あのー、恭さん。僕の・・・そのー・・・改まると何だか恥ずかしいな・・・おチンチ ンの話は、しなかったんだね・・・」 「切る話しかい」 「うん。いろいろ手続きとか、お金とか、大変なのはわかってるんだけど」 「手続き? お金? そんなことは心配しなくていいんだ。やるなら協会専属の病院があ る。よけいな詮索は一切なし、お金もかからず手術できる。そうじゃなくて、私は・・・ 千明の決意を疑っているわけではないが、切ってしまえば二度と元に戻らないことだから ね・・・もう一度だけ、千明に考え直すチャンスを与えたいんだ」 「考え直すチャンスなんて、いりませんよ」 「まあ、そう気色ばむな。ちょっと不和美加に電話させてくれないか」 「不破さん? 何で突然、不破さんなんですか?」 「千明の童貞を、奪ってもらう」 「え? ええええええええ? ふ、不破さんと・・・セックス・・・僕が???」 「人気急上昇中のトレンディ女優だ。CM出演料も、最低で5000万円のトップクラス。 千明の童貞喪失の相手としては充分だろ」 「いや、だって、そ、そんなこと、まさか、できませんよ。テレビに、出てる人と・・・」 「テレビに出てるのは、ただの虚像。本人は、人気が出てから、簡単にセックスする相手 がいなくなったって困っていたから、喜ぶだろう」 「いや、そういう、ことじゃなくって・・・僕なんかと・・・」 「不和美加とセックスして、男になる。その上で、やっぱり去勢してもいいと思えるなら、 山城のじいさんに手配させて、翌日にでも切ってもらえばいい。協会専属病院なら気送り による治療も施されるから、患部もその場で治癒する。もちろん、考え直したっていいん だよ。チンポがあろうがなかろうが、私達は結婚するし、楽しく暮らせる」 「でも・・・」 「デモは国会の前でしなさい。これは絶対条件だからね」 「ううう。マジですか?」 「千明はマゾで、私はマジさ」 指を噛んでうーうー混乱している千明を放っておいて、不和美加に電話をかける。山城の じいさんに話した内容より詳しい話をし、近々休める日を訊くと、それなら明日の予定は 全部キャンセルするといい出した。そこまでしなくてもいいといったのだが、何が何でも オフにして、朝の10時には私のマンションへ来ると宣言する。 「明日あ? だって、心の準備が・・・」 「心の準備なんていらないさ。千明の身体の準備さえできていればね。寝る前に股間の接 着を剥がして、封印スーツの股間にチンポを出す穴を開けよう。それで準備オッケーさ。 私は明日一日外出するから、ふたりで心おきなくやりまくりなさい」 「え、恭さん出かけるの・・・」 「夜には帰る。さて、明日はいろいろ忙しいから、今日はのんびり・・・エッチしようか」 「やっぱり・・・」 「せっかく絶頂初体験ができたんだから、逝き方を忘れない内にね」 千明を抱き上げて寝室へ向かう。千明は最初、なかなかボルテージが上がらない様子だっ たが、構わずに突きまくってやると、心より先に身体が反応し始めた。2時間後に千明は 極楽へ旅立ち、それから立て続けに3回雲の上の人になった。私も最後に溜まった精を吐 き出し、満足してペニスを抜き出した。時計を見ると、時刻はまだ12時。明日のために もうやめようかと提案した私のペニスを、シーツの下から亡霊のように伸びた白い腕がむ んずと握りつけ、私はシーツの中の淫欲の沼へと引きずり込まれた。 睡眠時間5時間ほどで、私達は不和美加の到来を告げるチャイムによって叩き起こされた。 千明が慌ててバスルームに駆け込んでいく。私はパンツとジーンズだけを穿き、エントラ ンスロックを外しに行った。それからカーテンを開けて、太陽光に失明しそうになりなが ら、窓も開ける。部屋中に籠もった愛欲の臭気を、追い出しにかかる。 「おはよー。あれ、千明君は?」 「シャワーを浴びてる」 「なんだ、私が来るまで寝てたってわけね。どうせ昨夜も、めいっぱいやりまくってたん でしょ。助平の寝坊助どもめ。じゃあ、朝ご飯まだよね。私、作るわ。トーストと目玉焼 きとサラダでいいでしょ」 不和美加がキッチンに立ったので、私はやれやれとバスルームへ向かった。千明の股間の 接着を剥がし、玉を降ろす手伝いをする。皮膚が擦り剥けるのではと心配になるほど擦り 続けている千明を、いいかげんにやめさせて、封印スーツの着付けを手伝った。スーツの 装着が終わり、千明がマスクを着けている間に、私はスーツの股間に小さな穴を開ける。 そこから千明のペニスを引っ張り出した。 「うわう。そんなにいじくらないでよ。勃っちゃったら恥ずかしいじゃない。恭さん、僕 変な臭いとかしてないよね。ううう。緊張する。・・・不破さんは?」 「簡単な朝ご飯を作ってくれてるよ」 「わあ。僕が作ろうと思ってたのに。ああ、僕、手伝ってくる」 千明はドタバタとゴムパンティを穿き、バスルームを飛び出していった。これから天下の 有名人とセックスをするという緊張で舞い上がり、ラバー人形スタイルを見られる恥ずか しさなど忘れている様子だ。私がゆっくりシャワーを浴び、髭もあたってからリビングに 戻ると、すでに朝食の用意は整っていた。不和美加と私は盛大に食べ、千明は緊張のあま りか、ひとり食が進まない。 「ご馳走様でした。じゃあ、私はそろそろ出かけるから、後はふたりで、よろしくやって くれたまえ」 ジャケットつかんで立ち上がった私を、千明がすがるような目で見つめている。我が子を 千尋の谷へ突き落とすライオンの心境で、千明に引導を渡し、背後に獲物を前にした肉食 獣のような不和美加の喉鳴りを聞きながら、私は部屋を出た。 高速で2時間、高速を降りて1時間半。峠道の途中に、何の標識もなく、そもそも道があ ることすらわからないようにカモフラージュされた林道がある。そこから山に入り、曲が りくねった危険な道を20分ほど走ると、錆びたゲートが現れ、道が塞がれた。車を止め、 降りてゲートに近づくと、留め金がひとつ外れて傾いだ『国有地につき立ち入り禁止』の 看板が目に入る。ゲートの両脇に伸びるフェンスも錆びだらけに見えるが、破れはなく、 左右の藪と木立の向こうへ消えている。ゲートの柱の一部をよく観察すれば、そこに小さ な穴があり、その奥にキラリと光るレンズの存在がわかるはずだが、迷い込んできたハイ カーや山菜採りの住民がそんな所まで気にするはずもない。 私は霊師の身分証明書をレンズ前にかざす。すると、錆びた柱の一部が割れて前に迫り出 し、場違いなほど真新しいミニスクリーンが現れた。そのスクリーンを覗き込むように顔 を近づけると、一瞬で網膜スキャンが終わり、地中にあるコンピュータで照合され、監視 員に報告される。錆びているはずのゲートが、軋みもなく開いた。 「ごくろうさまです」 誰にともなく、私はいって、車に戻る。そして20分後、同じようなゲートで同じような 身分確認を受け、ゲートを抜けた。そこから先、谷間に向けてゆるやかな下りとなり、道 幅が拡がって走りやすくなったものの、鬱蒼と茂るブナや欅の枝葉で上を塞がれて、気が 滅入るような暗さの樹木のトンネルを進まなければならない。鳥の声ひとつ、虫の音ひと つ聞こえない。気分がすっかり憂鬱に押しつぶされる頃、トンネルの先が開け、その向こ うの荒れ地に聳え立つ高いコンクリート塀が見えてきた。そこが終点だった。塀に嵌め込 まれた巨大な鉄扉は、人の力では開けない。谷間の広大な一角が、この塀で完全に囲われ ている。私は慎重に車を寄せ、扉の遙か手前でエンジンを切った。 全身の毛穴が、静電気のようなぴりぴりした緊張感を感じている。車から降りると、その 圧迫感はさらに増した。塀のわずか手前に、地面に突き立てられた金属柱が見える。高さ 3メートル、八角形の各面に真言を刻まれた金属柱が、10メートル間隔で塀の全周にわ たって立てられている。私は全身のチャクラを静かに回し、最大限の防御を固めてから、 ゆっくりと近づいていった。柱の造り出す結界を抜ける時には、結界を損ねないよう、慎 重に気の波長を同調させてから滑り込まなくてはならない。疲れる作業だが、もしこの結 界が破れれば、世界の破滅さえあり得るといっても過言ではないのだ。 世界には、このような封印地が、知られている限り他に14カ所あった。その封印はそれ ぞれの国の僧や神父、牧師達の集団によって維持されている。ここはその15番目。今こ の瞬間も高野山や各地の霊山の僧達が経や祈祷をあげ、封印を維持している。山の入り口 には、迷い込んだ人間が取り込まれることのないよう、セキュリティ部隊も常駐している。 セキュリティ要員が入れるのは第2ゲートまで。しかし、屈強なセキュリティ要員ですら、 第1ゲートさえ越えたがらない。この封印地を中心に半径100キロメートルは、二重の 生気感応フェンスと無数の各種センサーおよび、ガス地雷で防御されている。不用意に人 が入り込めば、センサーに捉えられ、ガス地雷を踏むか遠隔操作で放出されたガスを吸い 昏倒する。今、私もあらゆるセンサーとカメラで、監視されているはずだ。 私はゆっくりと鉄扉に近づいた。全身の毛を逆立てて気配を探る。空気が暗く帯電してい るような圧迫感を感じるが、それは結界の封印パワーである。不穏な気配はない。私は鉄 扉に手を当てた。この向こうに『アイツ』がいるとは思えないほどの静けさだ。目を閉じ ると、扉の向こうの風景が浮かんでくる。手前に集落の朽ちた家屋、その奥に風雨に汚れ て灰色になったコンクリートの研究棟がそびえ建っている。門柱に嵌め込まれた銅板には 『陸軍心理戦研究所』と刻み込まれているはずだ。 真理の墓は多磨霊園にある。しかし、それは偽りの墓だ。真理の本体は、この扉の向こう に眠っている。真理の肉体も、そしてその魂も。私を庇い、凶霊を取り込もうとして飲み 込まれた真理。巨大な陰と陽のエネルギーがぶつかり、物理的な爆発となって真理の身体 を引き裂き、私を窓から放り出した。補助してくれていた鳴神に助けられ、私は命からが らこの地を脱出することができたが、真理の亡骸は回収する術もなく、ここに取り残され 封印され続けている。 「真理。私は・・・結婚するよ。なんと男の子とだ。その子が、新しい依代のパートナー となる。そして・・・。そして・・・。真理。私は、してはいけないことをしているのだ ろうか? 私の妄執のために、罪のない青年を巻き込んでしまったのだろうか?」 思わず言葉に出てしまった。しかし、応えは返らない。風にそよぐ木の葉の音が、さやさ やと聞こえるだけだった。私は自問しながら、長い間そこに立っていた。 背後の金属柱が一斉にブンっと唸り、私は我に返った。秋の陽はつるべ落としという言葉 通りに、あたりは夕闇に包まれようとしていた。夜を迎えるにあたって、結界が数段強化 された音だった。離れ難かったが、これ以上は危険だ。私は気配を断ち、そろそろと車に 戻った。エンジンをかけ、ターンしてその場を離れようとした瞬間、背後で人を嘲るよう な含み笑いが聞こえたような気がした。私は乱れかけた感情を必死で押さえ込み、アクセ ルをいっぱいに踏んだ。手を伸ばし、バックミラーを捻って上向ける。こういう時は、絶 対に後ろを見てはいけない。 何もしていないはずなのに、私は恐ろしく消耗していた。途中のPAで食事と長時間の休 憩を取り、気力は回復させたが、そのせいで遅くなり、都心に帰り着いたのは11時近か った。インターを降りて停車し、不和美加に電話する。具合を訊くと、どうやら千明の童 貞喪失はたいへん満足すべき結果に終わったようだった。後30分ほどで帰り着くと伝え て、時間通りにマンションに着いた。駐車場から部屋の階に上がり、玄関の鍵を開けて部 屋に入る。出迎える声もないので、もしやふたりともまだ寝室かと思い、リビングへ入る と、ソファに女が一人、背を向けて座っているのが見えた。 「千明・・・か?」 清楚な純白のワンピースを着た女が、おずおずと振り向く。女の胸で重なる金のチェーン が涼やかに鳴った。その女の彩られた面貌を見て、私の口が勝手に賞賛の息を漏らす。 「見違えたよ。千明。・・・綺麗だ。素晴らしく綺麗だよ」 心からの賞賛だった。完璧なメイクを施された千明は、少女から女へと移ろう、儚げな瞬 間の美を体現させていた。恥ずかしげに伏された瞼の長い睫毛が震え、つと視線が私を見 上げる。私の発した言葉が届いたのだろう、気弱な笑みを浮かべる。美少女の背後に後光 が差したように見えた。 「不和美加は?」 「入れ違いに帰りました。気を利かすっていって」 私はソファを回り込み、はにかむ千明の前に腰を下ろした。 「さすが演出が上手いな。そのメイクは、不和美加がしてくれたのかい?」 「いえ。教えてくれて、でも自分でやらなきゃ覚えないからって」 「それはありがたいな。で、千明の童貞喪失はどうだった?」 「ううう・・・ちゃんと・・・できました」 千明の頬がほんのり赤く染まる。 「ちゃんとって・・・しっかり射精したのかい?」 「・・・はい」 「何を恥ずかしがってるんだろうね。どうせ後から、不和美加が全部報告してくるんだか ら。もしかして、今頃、ルナティックのママに、あることないこと話しまくっているかも 知れないよ」 「ううう。やっぱり。僕もそんな気がします。緊張で駄目だったんですけど、不破さんが、 怯んでいる僕を口にしてくれて・・・それからは僕も夢中になってしまって、ずっと、何 回も・・・」 「それはそれは。ところで千明、それだけやりまくってて食事はちゃんと摂ったのかい?」 「え? あ、はい。軽いサンドイッチを・・・夕方に」 「そんなんじゃあ、もうお腹が減っているだろ。私もまともに食べてないし」 「あ、じゃあ、何か作りますね」 「いや、君もこのところ閉じこもりっぱなしでストレスがたまってそうだし、その姿なら 誰に見せたって恥ずかしくないから、このまま近くの・・・今時間、開いてるのは・・・ ファミレスにでも行って、何か食べようよ」 「嫌です。恥ずかしくて死んじゃいます。男だってわかっちゃいますよ」 「大丈夫。絶対わかりっこないから。ほら、行くよ。ブーツを履きなさい。バッグを持っ てきてあげよう」 有無をいわさず、千明を引っ張り出し、近くのファミレスへ乗り付ける。千明は私の腕に 取り縋り、下を向きっぱなしだった。ヒールで転けることもなく席に着いた後は、私が差 し出したメニューを見る余裕すらなく、消え入りたげに身を縮めている。 「ほら、そんなにビクビクしてると、かえっておかしいよ。普通にしてなさい。店の中を 歩いた時の、周りの客の反応を見たかい?」 千明は声を潜めて答えた。 「いいえ、そんな余裕ありません」 「ほぼ全員、君を注目してたよ」 「えええ、僕を・・・バレたんですか?」 「まさか。全員色目で見てたんだよ。いい女だなあって声まで聞こえた。今も、こっちを 見ているのが数人いるな。振り返って、手でも振ってやれば?」 「いえ、け、結構です。ホントに男だってバレてません?・・・ふうう。疲れるう」 私はもちろんステーキで、千明はビーフシチュー。それにサラダバーとドリンクバーも付 けた。 「サラダバーは、僕は・・・いいです」 サラダバーは店の中央に位置している。そこへ取りに行けば、当然衆人環視の元を歩かね ばならない。 「駄目駄目。美容と健康には野菜だろ。ほら、行った行った。ヒールで転けないようにね。 それと、恥ずかしがって背中を丸めて下向いて歩いたら、かえっておかしく思われて周り の注目を引くからね」 「そんなあ・・・恭さん、思いっきり意地悪してませんか?」 「ははは。さてね・・・」 意を決してサラダを取りに行く千明の後ろ姿は、紛れもなく女のシルエットだった。私の 脅かしが功を奏して、胸を張って歩く千明の姿に、周り中の男達が粘つく視線を浴びせる。 行って帰ってきた千明に、表情が硬いよとアドバイスして、私の分のサラダも適当に見繕 って持ってくるように頼む。千明は唖然とした顔で私を見つめ、ひーんと泣きながら、再 び男達の視線を全身に浴びに行った。帰ってきた千明に、私はコーヒーがいいなと呟く。 「恭さん。今度、鳴神さんに、人を呪い殺す方法を教えてもらうからね」 と、睨み付けながら歩いていく。怒った顔も、実に可愛い。しかし、歩き方はもう少し練 習の必要がありそうだ。3度の往復で度胸が座ったのか、千明の食欲は旺盛だった。一通 り食べ終え、食後のお茶を啜りながら、不和美加との時間を聞き出していく。 「で、何回逝ったのかね?」 「もう少し、小さな声でいってよ、恭さん」 千明があたりを窺う。それから照れ臭そうな顔をしてうつむいた。 「・・・5・・・回、かな・・・」 「それはそれは。18年間溜め続けたものを、全部吐き出したわけだね。気持ちよかった だろう」 「う・・・まあ・・・美加さんが離してくれなかったから・・・」 「なるほど。不和美加は、男殺しっていう別名もあるからなあ」 「え〜、でもスキャンダルなんか、ひとつも聞かないですよ」 「上り調子の時は、マスコミもそんなもんさ。どこかで手の平返したみたいにバッシング が始まることもある。それが芸能界さ。しかし、千明の先導役としては、最適だったろ?」 「ええ、素敵な人です。ますます、好きになっちゃいました」 「ほう。で、男でいるのもいいなって思えたかい?」 千明はつと真面目な顔になって、私を見つめた。その視線は力強く、私は心の内まで見透 かされているような気がして、こちらから視線を外したくなる。しかし、私は必死に踏み とどまった。千明のメスのような視線がふっと和らぎ、春の日差しのように暖かなものへ と変わる。そのシャープな理知の顔がくしゃっと崩れて、悪戯っ子の笑顔になる。 「男なんてつまらないって、はっきりわかったよ。恭さん。恭さんも、男なんかやめちゃ えばって勧めたいけど、そしたら僕の相手がいなくなっちゃうから困るんだよね」 「つまらないか・・・まあそうだね。ということは・・・」 「ということは、僕の意志は変わらないってこと。僕は可愛いお嫁さんになって・・・わ あ、自分でいうと恥ずかしいなあ・・・恭さんを愛して、愛されるつもり。だから、未練 を引きずらせる物なんかいらないってこと」 「ほんとうに後悔しないのか?」 「うーん。それはきっと質問が違うよ。恭さんは僕をほんとうに後悔させないのか。って いう質問が正しいと思うんだけど、そう訊いたら恭さんが困るだろうから、僕は絶対後悔 しないって答えることにする」 「う。一本取られた。わかったよ。むううう。しかし、絶頂を覚えた今ならわかるが、何 故あんなに早い時点で決断できたんだい?」 「それは・・・えへへ、口でいうのは照れ臭いんだけど・・・一度はいわなきゃならない から、今いっちゃうとね・・・恭さんのことをメチャメチャ好きに、いや、愛しちゃって たからだよ。えへへ」 「そ、それは・・・面と向かっていわれると、こっちまで照れ臭くなるもんだが・・・し かし、今だって千明は、私のことをそれほど知りもしないはず。まして・・・」 「あの時点でって、いいたいんでしょ。うん。確かに恭さんの口から、それほどたくさん の話を聞いてないし、どっちかっていうと、肉体的な繋がり優先だったよね。・・・こん なこと恭さんだからいえるんで、普通の人にいったら頭がおかしくなったと思われるのが 関の山なんだけどさ・・・。初めは夢だったんだ。恭さんの部屋に住み始めて少ししてか ら。この封印スーツを着て眠った初めての晩から。この封印スーツ、こんな物を突然着な くちゃいけなくなったら、初めは異様で変態的で不快って感じるのが普通なはずなのに、 そうでもなかった。どこか温かくて、優しい抱擁みたいに感じたんだよね。それから夢を 見た。恭さんの夢だったよ。恭さんとあのクリムトの絵を買っているシーンだったり、一 緒に映画を見ているシーンだったり、浄霊で幽霊屋敷に行っているシーンだったり、断片 的だけど一晩で百も二百もの夢。日を追うごとに夢の断片は少しずつ減っていったけど、 肛門栓やマスクや人工肛門や、そんな新しい装具を付けるたびに、新しい夢の断片が追加 されたんだ。そのうちに気が付いた。僕の見ている夢って、恭さんを見つめているのは僕 ではなく、真理さんだってことにね。夢だけど、それは夢じゃないって、何の根拠もない けど素直に信じられた。それはみんな、真理さんの記憶の断片なんだ。恭さんをただ見て いるだけじゃない。ただ一緒に行動しているだけじゃない。その時その時の真理さんの気 持ちが、想いが、染みこむみたいに伝わってきて、いつしかそれが僕自身の感情をも動か しちゃったみたいなんだよね。いや、決して真理さんの心に操られたり、直接的な影響を 受けたんじゃないと思う。でも、もの凄く素敵な映画を見ているみたいに、真理さんの気 持ちに自然に感情移入できたし、恭さんの過去を何年分も見続けたみたいなものでしょ。 出会って十数日しか経っていなくても、何年間分もの恭さんを見て、恭さんの優しさに僕 自身が惚れちゃってたんだ」 「そ・・・。しかし、夢なんだろ・・・」 「うん。僕の妄想かも知れない。そうも思ってたから、いままでいえなかった。でもね、 今日、美加さんと、アレの合間にいろいろ話して、美加さんの知る限りで恭さんと真理さ んの昔と比べてみたら、ほぼ全部、ほんとうにあったことだってわかった。真理さんとふ たりで雨の日の夜に買い物に行った帰り、車に跳ねられて死にかけた猫を見つけて、必死 に救おうと気を送り続けたでしょ。『火垂るの墓』を観てずっと泣いてて、二度は観られ ないって封印の結界を張ってたでしょ。ふたりが結婚前、初めて真理さんが作った料理、 ビーフストロガノフで、それを食べた恭さん、噛まずに呑んでたでしょ。ビンテージジー ンズを真理さんが知らずに捨てちゃった時、怒らずにトイレで泣いてたでしょ。大学に除 霊に行った時、霊を吸収して気分の悪くなった真理さんと医務室で初めて出会って、その まま誘拐するみたいにこの部屋へ連れてきて、何だか全然要領を得ない依代の説明を延々 3時間もしたでしょ。新婚旅行で行った北海道のホテルで、初夜の最中に真理さんが生理 になっちゃって、しょぼんとしながら一晩中、生理痛で苦しむ真理さんの背中をマッサー ジしてあげてたでしょ」 「う・・・た、確かに・・・う〜ん。真理の残留思念・・・いや、それなら私にも感じら れるはずだし。やはり、千明の強力なポストコグニッション能力なのか・・・しかし、真 理の記憶に限定されているのはおかしい。もっといろいろな物でも感じるはずだ・・・」 「ポストコグニッションって、過去を感じる能力?」 「まあそうだ。ただ、一般的には、例えばその物なり道具なりを、強い思いで使っていた 人の残留思念、つまり霊と同じような記号として認知するもので、漠然としたイメージの ようなものでしかないはず。千明の見た夢のように、鮮明な記憶というのは珍しい、とい うか聞いたこともない」 「ふーん。じゃあきっと、真理さんの残留思念のひとつひとつはとても弱くて、僕のポス トコグニッション能力も弱いんだけど、これほど密着したスーツという物を通してなら、 波長がよく合うんじゃないのかな。このスーツって思念を通さないから、内側に劣化せず 溜まってたのかも知れない」 「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。霊的世界っていうのは、実際、霊師の私 達でもわからないことだらけだ。科学的な研究が始まったのは、ほんの100年足らず前 からだし、秘匿されている世界だから研究者も少ない。まあ、納得したよ。千明には私の みっともない部分も知られてるってことがね」 「それに真理さんのこともね。恭さんとの無数のシーンで、真理さんの心の揺らぎまで全 部伝わってきたから。・・・僕はもしかしたら、真理さんに恋しているのかも知れない。 究極の恋って、相手とひとつになりたいって思うことだとしたら、僕は真理さんと同じに なりたいって思ってるからこそ、女の形になることも嫌じゃないんじゃないかな・・・な んて難しく考えたりした」 「屈折しているなあ」 「ふふふ。あのね、18年間、普通に普通に生きてきて、突然、霊とか依代とか浄霊とか って世界に放り出されたら、屈折しない方がおかしいよ」 「なるほど。それもそうだ」 「男として、美加さんとセックスができたことについては、美加さんはもちろん、恭さん にも、とっても感謝してる。もう、思い残すことないもんね。どうも恭さんは、僕がおチ ンチンを切ることに関して、躊躇いがあるように感じるんだ。後戻りのできない身体にな っても僕の一生に責任を持ってくれるんだし、結婚までしてくれるんだから、僕の身体が 男だろうと女だろうとどうでもいいことのように思うんだけど。ひょっとして恭さんは、 身体は女で股間だけは男っていう、アンバランスなシチュエーションが好きなのかなとも 思ったんだけど・・・」 「いや、私は・・・千明がどういう身体でも、完全な女でも、完全な男でも、その中間で も、好きさ」 「ふーん。ということは・・・まあいいや。恭さんなりの考えがあるんだろうと思う。と にかく、美加さんに悔いなく男にしてもらったし、それで考えが変わることもなかったわ けだから、恭さんの条件はクリアしたってことだよね。手術なんて、交通事故で入院した 時たっぷり味わったから、慣れっこだし・・・って思っていたんだけどね。でも、さあ、 すっぱり切れるぞ、ってなると、ちょっとは忸怩たる思いもあるんだ。意気地なしなんだ よね僕は。だから、強引に予定を組んで、自分を追い込むことにしちゃいました」 「ん? 追い込むって?」 「美加さんに、協会の電話番号を聞いて、山城副理事さんに事情を話して、手術の手配を してもらっちゃったんだよ。できるだけ早くってお願いしたら、恭さんが帰ってくるちょ っと前に連絡があって、明後日の昼に可能なんだって。そんなわけで、明後日1日お休み いただきます。あ、そうそう、明日の昼には新しい封印スーツが届くって。僕の中の浄霊、 明日お願いします」 私は絶句していた。まさかそこまで、話を進めているとは。不和美加が私を待たずに帰っ た魂胆がわかった。私に無断で山城のじいさんに連絡させたことを怒られる前に、逃げた わけだ。私は、溜息をついた。こうなってしまった以上、千明と知り合った当初に私が目 論み、今はその目論み通りに進むことを恐れている事態は、私が私自身を抑えて回避する しかないということだ。 千明を初めて知った時、その器の大きさと強力さに驚かされた。その時点で、最高の依代 といわれた真理の器を越えていたのだから。しかし、その器を持ってしても、『山』の凶 霊には太刀打ちできなかった。千明の内部にさらに底知れない潜在力を感知して、それを 完全に開花させれば、あの凶霊を凌駕できる可能性を視た時、私の中で3年間抑え付けら れ、酸のように心を蝕んでいた復讐の欲求が再燃したのだ。 千明がもしペニスを切断し、女性化することで器が拡がってしまえば、私には復讐の道具 が手に入る。真理を奪ったあの凶霊をこの世から消し去ることができる。しかし、凶霊の 吸収に失敗すれば、それはすなわち悲惨な死を意味する。例え凶霊を体内に吸収し封じた としても、その後に私が撃ち込まなければいけない核爆発級のエネルギーに、千明の身体 が耐えられる保証もないのだ。千明の私への信頼と好意を利用し、私の復讐心を満足させ るためだけに、何の関係もない千明を危険に巻き込む。最初は復讐だけを望んで、千明を 開花させるべく弄くり回した。しかし、今・・・千明は、私にとって、かけがいのない存 在になってしまった。今になって、そんな卑劣な打算を、行為を、打ち明けられるわけが ない。千明にそんな危険な協力を頼めるはずもない。千明を大事に思う気持ちがあり、同 時に消せない復讐心がある。私は自分の妄執を、復讐心を、抑え付けられるのだろうか。 私の中の葛藤は今も続いていた。 「空いたお皿をお下げしてもよろしいでしょうか?」 マニュアル台詞がかけられ、それをきっかけに私は煙草に火をつけた。盛大な白煙を噴き 上げながら、ふと周りを見回す。 「千明、出ようか。ちょっと声が大きくなってたみたいだね。君の後ろの人が、仰天して 我々を見ているよ」 「え! わああ。恥ずかしい。行こ。行こ」 私達はファミレスを出た。そのまま部屋に帰るのも味気ないような気がして、成り行きで 車を走らせる。しばらくフロントウインドウを流れ去る街灯の列を眺めながら走らせてい ると、千明がおずおずと訊いてきた。 「恭さん、勝手に進めちゃって、怒った?」 「いや、怒ってなんかいないよ。いろいろと考えていただけさ。千明は、いつの間にか、 私にとってかけがえのない存在になってしまったんだな。そんなことを考えてた。千明の ことを大事に思えば思うほど、去勢なんていう取り返しのつかない手術をさせていいもの か、迷っていたんだ。でも、千明がほんとうにそれを望むなら、私は取り返しのつかない 身体になった千明を全力で愛せばいいだけなんだろう。わかったよ、千明。邪魔なチンポ はさっぱり切ろう」 自分の性器が切り落とされるという話なのに、千明は心から嬉しそうに笑った。私達はそ のまま郊外へ走り、目に付いたモーテルに部屋を取って、抱き合った。浄霊の準備ができ ない内にタイミングを合わせて同時に絶頂できないことを千明は残念がったが、それでも 6回昇天し、その合間に3回、蕩けるような歓喜の表情で私の精液を迎え入れた。 ********************************************************************************* yorisiro5.txtに続く