俺の幸せ    作:ガラモン ●第一章 苦境 いろいろなことが、一度に起きた。 俺がかかわっていた中国との取引で、大物と信じていた仲介者が実は詐欺師で、支払代金をネコババして姿をくらました。 取引先は政府レベルで手を回し、会社から代金をふんだくったが、それと同時に会社のメインバンクが破綻して会社は資金繰りが行き詰まり、倒産してしまった。 俺は退職金ももらえないまま、職を失った。 そして始めて会社が失業保険料を滞納していたことがわかった。 職を失った途端、女房がやっていたブティックが経営不振となり、俺が知らないうちに相当の赤字を出していることが分った。 そのうえ、母親がガンで倒れ、病院で寝たきりとなってしまった。 手元にはわずかな金しかなく、俺が失業したことを感づいたか、アパートの大家までが俺たち夫婦を追い出しにかかってきた。 「困るんですよね。お宅に来る借金取りが他の入居者の方にまで迷惑をかけてるんですよ。」 どうせ、俺たちが遅かれ早かれ家賃を支払えなくなるか夜逃げすると思っているのだろう。 俺は女房の朱美と何もない食卓を前に見つめあった。 「もう、だめかな。」 「ええ、お店の方には毎日のように借金取りが来て、営業どころじゃないし、あなたのお仕事も見つからないし。」 「いっそのこと...」 「そうよね。こんな苦しい生活をつづけるより、思い切って楽になりたいわ。」 「でもなあ。おふくろをあの状態でほっぽって置いたまま見棄てるわけにもいかない。」 朱美は暗い顔をしたままうつむいていたが、ふと思い出したように言った。 「ねえ。篠田さんのこと覚えてる?」 「篠田さん?だれだ?」 「お店の取引先でね、いつかあなたと一緒にお店で会ったじゃない。」 俺は目の前の絶望感にとらわれて、思い出す余裕がなかった。俺は母を残し、どう自殺するかを考えていた。 「それが何か?」 「あの人ね、もし本当に困ったときは相談に来なさいって、取引の度に言ってくれてたの。ただし、あなたも一緒にって。」 「俺も一緒に?」 「ええ。それが条件みたいなの。でも、このままじゃどうしようもないし、一度、相談に行ってみない?お金も持っているようだし。」 見ず知らずの他人にすがるのは気が引けたが、他につてもなく、俺は女房とその篠田という男に会うことにした。 ●第二章 提案 朱美が電話を入れると、翌日に篠田の会社で会うことになった。 篠田の会社は衣料品の卸をやっており、事務所は大きな倉庫の脇にあった。奥の社長室に通され、俺たち夫婦は社長と三人で専用の応接室に入った。 篠田はまだ若く、三十代にも見える。 「そうですか。それはご心配ですよね。」 「ええ。」と朱美。 「ここはもう、社長さんにおすがりするより他に...」 朱美は肘で俺の脇腹を小突き、俺は朱美に合わせて頭を下げた。 「仕事を失い、お母さんは入院され、奥さんもお店の経営で問題を抱えていらっしゃる。普通だったら夜逃げでもしたくなりますよねえ。」 「それはもう。」 篠田はうかがうような目つきで俺の顔色を見た。 「お願いです。俺たちを助けてください。このままでは心中でもする他はないんです。」 俺は思い切って言った。 「そうですか。」篠田はソファに深く座りなおして煙草に火を点けた。 「もし、よろしければ、あなた方お二人のお世話をさせていただいても結構ですよ。」 「えっ?」俺と朱美は同時に言った。 「お母様の入院費、それから奥様のお店の経営について必要なご援助を提供いたしましょう。そうですね、今の状況だと2000万円ぐらい必要でしょうか。ただし、条件があります。」 「じょ、条件って…」 「ご主人には私の妻になっていただきます。」 「え?」俺たちは再び同時に言った。 「つ、妻って…」 「実は私は昔から、密かに夢見ていたことがあるんですよ。あなたのような可愛い男性と一緒に暮らすことを。」 可愛いと言われ俺はぞっとした。 「以前、奥様のお店でお見かけしたときに、私は雷に打たれたような気がしました。いつも夢に見ていた人がそこにいたと。」 「つ、つまり、社長さんは同性愛なんですか?」朱美が言った。 「そうですね。でも、妻もいますし、彼女も愛していますから両性愛ということでしょうか。ただ、あなたと出会ってから、あなたのことを思わなかった日はありません。」 俺をまっすぐに見て言う社長の視線に、俺はうつむいた。 「どうでしょう。あなたのために家を用意しましょう。あなたはそこで生活をしてもらい、奥様とも自由にお会いになって結構です。生活費は全てお支払します。」 「お、俺はそこで何をするんだ。」 「普通に、一般の奥さんがすることです。家事をしたり、私の妻としての務めを果たしていただきます。」 「つまり、あなたに抱かれるといことか?」 「それは、お気持ち次第ですね。あなたは、男として奥さんを守る務めがある。それはそれで果たさなければならない。そこにもう一つ、私の妻としての務めを果たしていただきたい。家を守り、私がそこで寛げるようにしていただきたい。」 俺は朱美と顔を見合わせた。 「ゆっくりと考えてからお返事をいただいても結構です。どうでしょう。いまここで断らず、後日お返事をいただけるのなら、当座の生活費としてこれを差し上げますが。」 篠田の出した封筒には一万円札が何枚か入っているようだ。 金に困っていた俺たちにはのどから手が出るほど欲しいものだった。 「で、では、後日お返事を致します。しかし、もしこのこと他の人に話したらお困りになるんじゃないですか?」俺は半分脅すつもりで言った。 「誰も信じませんよ。」篠田は笑った。「それに、あなた方の状況は良く存じております。他に手立てがあればよろしいんですが、時間的に余裕があるかどうか?」 篠田がくれた封筒には20万円が入っていた。 ●第三章 受諾 その夜家に帰った俺たちはアパート周辺が騒然としているのに驚いた。なんとアパートが火事で燃えていたのだ。 俺たちが呆然と立ち尽くしていると半狂乱になった大家が俺につかみかかってきた。大家が言うには火元は俺たちの部屋だという。 本当かどうかは分らないが、俺たちは残っていたわずかな財産も失ってしまった。 これは後でわかったことだが、大家が俺たちを追い出そうとして、俺たちの部屋のすぐ脇でボヤ騒ぎを起こそうとしたところ、火の回りが速く、アパート全体が燃えてしまったと言うことらしい。 篠田にもらった金でホテルに泊まり、翌日、警察の現場検証に立会った後で、俺は篠田に連絡した。 「あの、お世話になろうと思います。」 「そうですか。」電話の向こうで篠田の嬉しそうな声が聞こえた。「では、お待ちしております。」 俺たちが篠田の会社に着くと、篠田は先日の事務服姿ではなくぱりっとしたスーツに着替えて待っていた。 「では、さっそく参りましょう。」 俺たちはわけもわからず、社長の運転する車の後部座席についた。 運転しながら篠田は言った。 「以前から、自分の趣味のための隠れ家を用意していたんですよ。ちょっと町からは外れますが、あなたもしばらくは人目がないほうが安心して暮らせますよね。それから奥様のブティックは場所がよろしくない。新しい店舗を繁華街に用意しました。これからご案内する家からでは通うのが不便なので近くにお部屋を借りましょう。もちろん、家賃はこちらで持ちます。」 まるで、こっちが篠田の要求を受け入れるのを見越していたような素早い対応に、俺は内心舌をまいた。 次々と悪いことが重なったので俺は篠田の要求の意味することを深く考えることができなかった。本当に、ボーっとしているうちに、俺たちは篠田の別邸に連れて行かれた。 ●第四章 新居 その家は町外れの山の中に少し入った森の中に立てられており、隣の家からはかなり離れていた。敷地が広く、うっそうと木が生い茂っているので外から中の様子は見えなかった。 門を入るとそこに山小屋風のしゃれた別荘のようなログハウスが建っていた。 車が近付くと自動的に車庫の扉が開き、俺たちは車庫の出入口から家の中に入った。 「ここが僕達の新居だ。」篠田は車のトランクから更にたくさんの荷物を運び込みながら言った。 『新居だと?』 「素敵ね。」朱美はこの家が気に入った様子だ。 「朱美さんのお部屋が見つかるまでここで過すといい。いろいろと準備もあるしね。」 『準備?』 俺はだんだん心細くなった。いったい何が始まるんだろう。 「どうぞごゆっくりしてください。すぐになにか作りますから。」 篠田はまるで客をもてなすように、自ら台所に立ち、俺たちに食事を振舞った。 「私は料理が趣味なんですよ。だからここの台所もちょっと凝ってます。」 彼が言う通りに料理は素晴らしく、プロ並みだった。 俺と朱美は久しぶりの御馳走と上等のワインに酔った。 食事が終わると、篠田は室内にクラシック音楽を流し、俺たちに言った。 「しばらくはここの生活に慣れていただきます。あなたのやることは、家の掃除をすること、ご自身のお食事を作ること、ご自身が着られたものの洗濯をすること、それからおからだの手入れをすること。」 「からだの手入れ?」 「はい。手足の無駄毛やひげは全て処理してください。お顔や手肌のお手入れもしっかりとしてください。奥さん、やり方を教えてあげてくださいね。」 「は、はい。普通に女性がやるようなことでよろしいんでしょうか。」 「ええ、私は妻には美しくあって欲しいんです。」 妻と呼ばれて俺はぞっとした。 俺の気持ちが揺らいだのを見抜いたのか篠田は言った。 「あなたのお気持ちを確かめさせていただいてもよろしいでしょうか?」 「な、何でしょう?」 「あなたが、すぐに逃げ出すと思っているわけではないのですが、あなたの眉を剃らせてください。」 「ま、眉?」俺は朱美を見た。 「ええ。眉を剃ればすぐには外には出られませんよね。」 「大丈夫よ。また生えてくるわ。」と朱美。 「分った。」俺がドレッサーの前に座ると、朱美は女性が風呂でかぶるようなビニールのキャップを俺にかぶせて前髪をその中に入れ、シェービングフォームをつけたうえで俺の眉をそり落とし、ついでに伸びたひげも剃った。 俺の男らしい眉がなくなり、まるで能面のようなのっぺりした顔になった。 「次からはひげは剃らないで抜いてくださいね。」と篠田。 「さあ、お風呂に入ってください。」 俺はその家の大きくてゆったりとした風呂に入った。朱美も入ってきて、俺のからだを洗ってくれた。久しぶりに夫婦でのんびりと風呂に入った。 風呂を出ると俺の服がなくなっており、かわりにシルクのトランクスとタンクトップ、ゆったりとしたスエットシャツとパンツが置かれており、俺はそれを着た。トランクスには前開きがなかった。 ●第五章 準備 俺と朱美は、篠田のメモに従って、その日を過ごした。 まず、俺の体の無駄毛を全て処理しなければならなかった。 髭を抜き、手足の無駄毛も全て抜いた。脱毛クリームを塗ったが、ひりひりと痛む。 手足の爪を手入れし、透明のマニキュアを塗る。 顔には化粧水やらなにやらたくさんのものを塗られた。 それから、バットプラグをケツにはめなければならなかった。これは肛門を広げる為に差し込んでおく栓のようなもので、太さの違うものが三つ用意してあった。俺はぞっとしたが、どうせ、篠田の申し出を受けたときから、おカマを掘られるのは分かっていたから、せめてそのときに痛くないように事前に拡げておいたほうが良かろうと思った。 「あたしがいれてあげるから、さあ、四つん這いになって。」 朱美に言われ、俺は四つんばいになった。 「あなた、素敵よ。愛してるわ。」 こんな時にそんなことをいわれても困ると思っていると、朱美はいきなり俺のケツにプラグを押し付けた。 「いててっ!!だめだよ。はいらねえ。」俺は叫んだ。 「ごめんなさい。じゃあ、こうしたらどう?」 朱美はいきなり、俺のケツを舐め始めた。 結婚以来、フェラチオもしなかった朱美が突然俺のケツを舐めたんだ。俺は驚いたが、俺のあそこは敏感に反応して勃起した。 「ああ、あなた、感じてるのね。」朱美は舌を使いながら言った。朱美の手が微妙に俺のペニスを触り始める。 「おう。いい。いいぞ。」俺は思わず言った。 俺のアヌスは朱美の唾液でぬるぬるになり、そこに朱美が指を一本、二本と入れてきた。 「おい、よせよ。」俺はうなった。 しかし、朱美は手を休めず、俺のペニスを口に咥え始めた。 結婚以来はじめてのフェラチオだ。 俺は夢中になった。 それを悟ったのか、朱美は素早く俺のアヌスにプラグを差し込んできた。 「あ、ああー!」 俺はあられもない声をあげた。 ペニスをじゃぶられ、アヌスにプラグを差し込まれて、俺はいってしまったのだ。 俺が夢見心地でいると、突然朱美は俺にキスをしてきた。 俺が、彼女のキスに応えて唇をあわせると、朱美は口の中に含んでいた俺の精液を俺の口の中に流し込んできた。 「う、ぐふっ!」俺が思わず咽ると、朱美は言った。 「この味に早く慣れるのよ。奥様。すぐに、おいしく感じられるようになるわ。」 そのとき、俺は朱美がもはや、夫として俺を愛していないと気が付いた。 そうだ、俺は死んでも篠田の申し入れなど、引き受けるべきではなかったのだ。 男として、夫として俺がなすべきことは、朱美や母のことなど気にせず、自分の名誉のために潔く死ぬことだったのだ。 しかし、それももう手遅れだった。 篠田の言いなりになって、眉毛まで剃ってしまった俺は、もう、名誉もくそもなかった。 そう思ったとき、俺は自分の精液を飲み込んでいた。 「いい子ね。純子ちゃん。」朱美が言った。 ●第六章 救済 篠田から電話が入り、あと30分ほどで来ると言う。 俺は、リビングのソファに座り、ただ篠田を待っていた。 俺が着ているのは篠田が用意していた服で、下着はシルクのタンクトップにトランクス。上にはやはりシルクのシャツを着て、ズボンはチノパンツをはいた。朱美が言うにはシャツは合せが直してあるが、元々は女物じゃないかという。チノパンツも合せは男物と同じだがポケットが浅く、後ろのポケットもないので女物だという。しかし、他に着るものもないので俺はそれを着た。サイズはぴったりだったが、やはりウエストが少しきつく、尻のあたりはゆったりしていて、女物のズボンなのだろう。 朱美はなにやら夕食の支度をしている。 下着の下で、ケツに差し込まれたバットプラグが隠微な感覚を与えつづけている。 「おう、純子。帰ったよ。」篠田は部屋に入ってくると言った。 「無駄毛は処理したな。あれは入れてるか?」 俺はうつむいて言った。 「ええ。」 「いい子だ。」 篠田は持ってきたかばんの中から書類を出した。 「これは朱美さんのお店の借入金が全て返済された証明の領収証だ。それから、これは新しいお店の権利書だ。お店はこの間まで営業していたブティックを什器ごと居抜きで買ったから、商品さえ仕入れれば明日からでも営業できる。はやっていた店だったが、店主が博打に手を出してね。結局借金のかたに取られてしまった物件だ。お店の経営については私も支援させていただくよ。近くにアパートも借りた。敷金や礼金も入れてある。こっちは純子のお母さんの病院のこれまでの医療費の領収書だ。」 俺は目が回るようだった。 篠田は俺たちを苦しめていた借金を全てなくし、女房には新しい店を用意し、病気の母の医療費を支払ってくれた。全部で二千万円以上の金額になる。 「あ、ありがとうございます。」俺は両手をひざにおいて頭を下げた。 「本当に、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。」朱美も頭を下げた。 「ほんの気持ちさ。」篠田はこともなげに言った。「君にはそれだけの価値がある。」 俺は篠田が本当に俺に一目惚れしたのか、それとも何か他の魂胆があるんじゃないかと不安に思っていた。しかし、これだけのことをしてもらったんだから少しぐらいのことは、いや、どれほどの事でも我慢しなければならないと思った。 「僕の気持ちをわかってくれたかい?」 「で、でも、どうして俺なんかに、それほどまで。」 「君が僕のお願いを受けてくれたからさ。」 「お願いって…」 「僕の妻になることさ。」 「あ、はい、でも、なにをすれば。」俺は自然に上目遣いになった。 「じゃあ、」俺は何を言われるかと身体を硬くした。「一緒に飯でも食おうか。」 ●第七章 手料理 俺たちは朱美の作った夕食を食べた。 「おいしいなあ。」と篠田。「お袋の味って感じがするよ。」 「朱美は料理がうまいんです。」 「じゃあ、ぜひ朱美さんからその料理を習って、僕に作ってくれないか。」 「ええ、」と朱美。「こんな料理でよかったら作り方を教えるわ。」 『そうか、俺は妻だから夫のために料理を作らなければならないのか。』俺は内心うんざりしたが「はい。がんばります。」と答えた。俺は今まで、キャンプでカレーを作ったぐらいでまともな料理なんか作ったことがなかった。 食事が終わると、朱美は後片付けを始め、俺は篠田に勧められてワインを飲んだ。 その夜も、篠田は一人で眠り、俺は朱美と同じベッドで寝た。 俺の身体が触ると朱美はあきらかにそれを避けるように身体の向きを変えた。 『そうか、俺はもう他の男のものというわけか。』 翌日、朱美は篠田と一緒に新しい店の準備のために出かけていった。 俺は篠田の指示で身体の手入れをしなければならない。 無駄毛のチェックをし、化粧水だのクリームだのを塗る。肘や膝の角質化した肌を柔らかくし、肌のシミを消すための手入れをする。一通りの手入れで一時間以上かかる。 一昼夜、トイレのとき以外は差しっぱなしだったので、バットプラグの違和感はほとんどなくなっていた。ただ、ときどき、腹に力を入れると抜けそうになるので困る程度だ。別に篠田に監視されているわけではないから、彼がいないときは抜いておいてもよいのかもしれないが、それをつけておくことを指示されているし、急に求められたときに痛い思いをしたくなかった。 この家の箪笥には篠田が用意してくれた着替えが入っていて、そこには女物の服がたくさん用意されていた。篠田の妻になるのだからいずれはこれを着なければならないのだろう。しかし、俺は自分が女装した姿を想像できなかった。 ブラジャーをつけたりビキニのパンティをはくなんて真っ平ごめんだし、スカートもはきたくない。俺にはそんな趣味はないんだ。 俺は慎重に男でも女でも通用するようなユニセックスな服を選んで着た。特に、伸縮性のあるストレッチ素材のジーパンが気に入り、家事をするときはそれを好んではく。ぴったりしているので、バットプラグが抜けそうになっても押し戻してくれるので安心だ。 ●第八章 婚約 夕方、篠田が戻ってきた。 「お帰りなさい。」 俺は玄関に彼を出迎え、彼はごく自然に荷物を俺に渡し、俺はそれを受け取った。 「朱美さん、おおはりきりだよ。今夜は店に泊まって準備をするそうだ。」居間に向かって廊下を歩きながら彼は言った。 「そうですか。」 「夕方寄ったら、これからウィンドウのディスプレイを始めると言っていた。」 篠田は俺の前に立ち、何か芸術作品でも鑑賞するような様子で俺を見た。 「ちゃんと手入れしているな。綺麗だよ。」 俺はうつむいた。 「そうだ。」篠田はポケットから何かを出しながら言った。「これを君に渡さなくちゃ。」 それは指輪だった。一面にダイヤがちりばめてある。 「僕たちの婚約指輪だ。結婚式まではこれをつけていなさい。」 「結婚式?」 「そうさ。僕の妻になるんだからちゃんと結婚式をやる。あたりまえじゃないか。」 俺は混乱した。俺は花嫁になるのか? 篠田は俺の左手を取ると薬指に指輪を嵌めた。 「約束の指輪だ。必ず君を幸せにするよ。」 「でも、そんな結婚式だなんて。あなたには奥さんもいらっしゃることだし…」 「もちろん、正式な結婚式じゃなく、内輪だけの式だ。朱美さんにも来てもらおう。」 俺は花嫁として結婚式を挙げるなどとんでもなかった。 「い、いやです。あなたの妻になるのはあれですけど、結婚式は勘弁してください。」 「だめだ。きちんとけじめをつけなければいけない。」 「でも、」俺は言いよどんだ。 言わば、俺は篠田に金で買われたわけだからなにをされても仕方がない。自分の身体がどうされようと文句は言えないが、それは人目につかない部屋の中のことだと思っていた。 しかし、結婚式ということとなると、衆人の耳目に晒されることになる。それは考えもつかなかったほど恥ずかしいことだ。 突然、篠田は俺の両肩をつかんだ。 「僕はお前を地獄の底から救ったつもりだ。」 「え、ええ。そのことは感謝しています。」 「お前は僕の妻になることを承諾した。」 「はい。」俺の目に涙が滲んだ。 「僕は、お前を、いや君を愛している。君のことを何よりも大切に思っている。」 俺はどう答えてよいのかわからず、黙った。 篠田の腕が俺の背中に回り、俺は篠田に抱きしめられた。 「朱美さんのことも、お母さんのことも僕が面倒を見るよ。だから、安心して、僕のことを受け入れてくれ。」 俺のひげを抜いた頬に、篠田の頬が触れた。それは快い感覚ではなかったが、拒絶することはできない。 「ああ、やっと二人だけになれたね。」篠田のため息が俺の耳にかかる。俺は鳥肌が立った。俺を抱く篠田の腕に力がこもった。 「嬉しいよ。」 俺は思った。早く済ませて欲しいと。 篠田は俺を抱いた腕を下げ、俺のケツに触った。俺は気色悪さに身体を硬くした。 突然、篠田は俺のケツに差してあるバットプラグを服の上から指で押した。 「うっ!」俺はうめいた。 「ちゃんと、してくれてるね。ありがとう。」 篠田は俺の頬にキスすると、身体を離して言った。 「食事にしようか。」 俺はほっとして体の力を抜いた。 『お、男にキスされた!』 ●第九章 食事 俺が作ったへたくそな料理はご飯以外棄てられてしまい、篠田は自分で料理し始めた。 「ジーンズやチノパンツは作業着だ。食事のときは別な服に着替えなさい。」 そう言われて、俺はベッドルームに行き、着替えを探した。 ジーンズやチノパンツ以外のズボンはどれも薄い生地の明らかな女物で、チャックも横についているものがあった。仕方なく、前にチャックのついている紺色の一本を出して履き替えた。 さらさらの生地で、歩くとひらひらと後ろからついてくるような感覚だ。 台所に戻ると、篠田は料理の真っ最中だった。 「あの、お手伝いしましょうか?」 「ああ。皿を並べてくれ。おっと、その前にエプロンをしなさい。服が汚れるよ。」 そう言って、篠田が投げてよこしたのはフリルのついた胸当てつきのピンクのエプロンだった。 俺がどぎまぎしていると、篠田は俺の肩にエプロンをかけると後ろに廻ってそれを結んだ。 「可愛いよ。純子。」 俺の身体に虫酸が走った。 篠田を手伝って料理を作り、食べ終わると片付けは俺の仕事だった。また、エプロンをつけなければならない。今度は自分でエプロンをつけ、皿を洗う。 「終わったらちゃんと手の手入れをするんだぞ。」 食器を洗い、ふきんで拭いてから、俺はハンドクリームを手にすり込んだ。 その間に篠田はクラシック音楽を聞きながらブランデーを飲んでいた。 『キザな奴だ。』と俺は思った。 「おいで。」 篠田に言われて俺は彼の隣の座った。篠田は俺の肩を抱いてブランデーを味わった。 「このブランデーは最高級品だ。飲んでみるか?」 実は俺も酒は嫌いじゃない。 「はい。いただきます。」 すると、篠田はブランデーを口に含み、俺の口に自分の唇を押し付けてきた。 「うっ!」 俺は思わず彼を跳ね除けようとしたが、思いとどまった。 彼の口が俺の口をこじ開けるように空け、舌が入って来た。 『が、がまんだ!』俺は歯医者の治療台に座ったような気持ちで、体を硬くした。 差し込まれた舌からブランデーが入って来た。 そのブランデーには当然、篠田の唾液が混ざっている。 俺は、それを、飲んだ。 「飲んだね。」篠田がささやくように言った。「愛してるよ。」 俺は、なんだか超えてはならない一線を越えてしまったような気がした。 「どう?美味しい?」 「...よく、分かりません。」 「それじゃあ、もうひとつ。」 篠田は仰向けに俺を抱いたまま、口移してブランデーを飲ませた。今度は、長い間、それは続いた。俺は早く終わって欲しいと思い、彼の舌を吸った。俺の舌と彼の舌が絡みついた。俺は、篠田に犯されていると思った。 「あ、ああ!」俺は彼から逃れようとした。しかし、篠田は強く俺を抱いた。 「俺は、俺は…」俺はうわごとのように言った。 すると、篠田は俺の口を手でふさぎ、言った。 「安心しなさい。これでやめるよ。」 ●第十章 確認 俺は思った。こんな半殺しの目に合わされるのなら、いっそのこと殺してもらった方がいいと。 俺が予想していたのは肉体的な苦痛とか、苦しい労働と言ったものだった。 しかし、今、俺が置かれたのは真綿で締め付けるように俺の心をしばりつけようとする意志だ。金と、家族で、俺は篠田に逆らうことができない状況に置かれた。俺が篠田に逆らえば、朱美も、母も必要な援助が得られなくなる。 俺は混乱した。 なにもかも投げ捨てて逃げてしまいたい気分になった。 少し酔ったのかもしれない。 篠田は風呂に入り、そして風呂を出ると裸のまま、バスルームから出てきた。 「バスローブは?」 「あ、はい。今出します。」俺はバスローブを出し、篠田に着せた。 「君もお風呂に入りなさい。」 俺は風呂に入り、体中を念入りに洗った。篠田の裸体が頭にこびりついて離れない。 しかし、風呂の中にいると、なんだか安心できる。風呂から出るのは勇気が必要だった。 身体をバスタオルで拭き、バスローブを着て、髪をブローして乾かす。 バスルームから出ると、篠田はパジャマの上にガウンを着て、居間に居た。 俺はシルクのトランクスの上に、シルクのパジャマを着て、居間に戻った。 「何か召し上がります?」俺はコーヒーでも出すつもりで言った。 「いや、いい。それより、こっちに来なさい。」 俺は、おずおずと彼の側に行った。 「脱ぎなさい。」 「...」 俺は覚悟を決めた。 いよいよ篠田に抱かれるんだ。 パジャマを脱ぎ、トランクスを脱いだ。 篠田は裸になった俺の身体を食い入るように見つめた。 「ちゃんと手入れしてあるな。後ろを向いて。」 俺は背中に熱いほど篠田の視線を感じた。 「よし。いいぞ。プラグの具合はどうだ?」 なんだか、医者の診察を受けているような気がしてきた。 「入れてますよ。ちゃんと。」 「痛みはないか?」 「始めは少しあったけど、今は。」 「そうか、では少し大きくしよう。替えるぞ。」 「え?」 篠田はいきなり、俺のケツにはまっていたバットプラグの頭を持って、引き抜いた。 「あ!うん・・」俺は思わず悶えた。腰が引っ張られて、へっぴり腰になった。 「ほら。入れるぞ。四つん這いになって。」 言われるままに、俺は四つん這いになった。 篠田が潤滑ゼリーをたらしたのだろう。ひやっと冷たい感触がして、それを篠田の指が俺のケツの穴に塗りこみ始めた。 『いよいよおカマを掘られるんだ。』 ずるっと俺のケツの穴にプラグが差し込まれた。それは前の奴より大きくて、ケツの穴がパンパンに張った感じがする。 「痛くなかったか?」 「...大丈夫です。」 「そうか。アナルのトレーニングは順調だな。」 てっきり、おカマを掘られると思った俺は拍子抜けした。 「さあ、もう寝よう。」 篠田が立ち上がり、俺も立ち上がろうとふんばったら、プラグが抜けて床に落ちた。 「おっと、いかんな。」 「でも、大きくなると、抜けやすいみたいです。」俺は何気なく言い訳のつもりで言った。 「じゃあ、あれを履かないと。」 そう言って篠田が出してきたのはストレッチ素材のTバックのショーツだった。 再び四つん這いにされ、プラグを差し込まれ、その上からTバックを履かされた。 Tバックショーツの前は上手く俺のペニスを包み、ケツの割れ目に食い込むような後ろの部分はしっかりとプラグを押さえつけた。まるで、ふんどしを締めているような感覚だ。 不思議とその女物のTバックショーツは違和感がなかった。リボンだのフリルだのレースだのがついていたら、違和感があったのだろうが、まるで水泳の時に履くサポーターのような感じなのだ。 「じゃあ、寝ようか。」 俺はTバックの上にパジャマを着て、ベッドに入った。 篠田が来るかと思ったが、その夜は来なかった。 ●第十一章 ウエディングドレス 翌朝は早くに目が覚めた。 パジャマの下でTバックがしっかりとペニスとプラグを押さえつけている感覚がする。 パジャマを脱ぎ、Tシャツとズボンを履く。Tシャツは襟ぐりの広いリブ網のもので、ズボンはニットの裾が少し広がったものだ。 顔を洗い、無駄毛のチェックをし、髪を整える。 動く度にプラグがケツで出入りするように動き、それが入っている事を意識させられる。 お湯を沸かそうと台所に入った俺は、昨日篠田に言われたことを思い出し、エプロンを身に着けた。 「おはよう。」篠田がパジャマ姿のまま、ダイニングに入ってきた. 「おはようございます。」 俺は野菜スープとトースト、目玉焼きにコーヒーの朝食を彼と一緒に食べた。 食事が終わり、着替えると篠田は出勤して行く。 「いってらっしゃい。」俺は玄関に彼を見送った. 「夕方、朱美さんが来ると思う。.」と篠田。「いろいろと頼んでおいたんだ。」 「えっ?朱美に何を頼んだんです?」 「それは、そのときのお楽しみさ.」 そう言って篠田は出かけて行った。 朱美が持ってきたのは、次の一週間分の食料と料理のレシピ、それから何とウエディングドレスだった。 「結婚式をするんでしょう。篠田さんからあなたのウエディングドレスを準備するように頼まれたわ。」と朱美。 「お、俺は結婚式には出ないぞ。」 「だめよ。あなた、篠田さんの妻になることを約束したんだから、篠田さんが式を挙げたいと言うなら、妻として式に出なきゃ。それにどうせ形だけの式よ。正式に結婚できるわけじゃないんだから、言わばお遊び。ちゃんと付き合ってあげなけりゃ助けていただいたご恩に報いることができないわ。」 俺もそれを言われると弱い。 「さあ、仮縫いをするから、上着を脱いでちょうだい。」 そう言われて俺はあせった。Tバックのパンティを履いたままなのだ。朱美に見られたくない。 「脱がなくてもいいだろう?この上からできないか?」 「だめよ。下着からあわせるから。」 「下着?」 「そう。女はウエディングドレスの下には特別な下着を着けるのよ。」 「お、俺は女じゃない。」 「ばかね。結婚式でウエディングドレスを着るのは妻で、妻は女。あなたは妻になるんだから、女のドレスを着るのよ。それから、あなたの新しいプラグのこともTバックのことも篠田さんに聞いているわ。さあ、早く脱いで。」 そう言われ、しかたなく、俺は服を脱ぎ、パンティ一枚の姿になった。 「まあ、セクシーなパンティーね。素敵よ。」 「やめてくれ。恥ずかしいよ。」 「じゃあ、始めるわよ。まず、これを着けて。」 朱美が出してきたのはブラジャーとコルセットがくっ付いたような純白の下着だった。 「ビスチェって言うの。おっぱいを大きく、ウエストを細く見せるためのもの。」 俺は肩紐に両腕を通し、朱美が後ろでたくさんあるホックを留めた。みぞおちのあたりがぎゅっと締め付けられる。それから朱美は俺の胸のカップにパットを差し込んだ。 「きゃー!凄くセクシーよ。」 「お腹が苦しいよ。」 「がまん。女はみんなそれをがまんするんだから。」そう言いながら、朱美は白いストッキングを出し、片足づつ履かせるとビスチェについた吊り金具でストッキングを留めた。 ドレスのスカートを広げるためのペチコートを履き、ドレスを着せられた。 「素敵。」朱美はあちらこちらを調整しながら何度も言った。「あなた、とっても素敵よ。」 「...朱美。俺はやっぱり...」 朱美は俺の口を指でふさいだ。 「あなたを愛してるわ。私と、お母さんのためにあなたがしてくれたことをほんとうに感謝してるの。ねえ、分かって?」 「でも、こんなドレスなんか。」 朱美は俺にキスしてきた。 「言わないで。わたしも苦しいの。でも、いいわ。してあげる。」 そう言うと朱美は俺の足元にひざまづくと、ドレスのスカートをめくり、中に入って来た。 「おい、何をするんだ?」 そう言い終わらない内に朱美はTバックのパンティを引っ張って脇から俺のペニスを取り出すと、それをしゃぶり始めた。 俺は、立ったまま、朱美にしゃぶられて、ペニスを勃起させ、スカートの上から朱美の頭を両手で押さえた。 「やめてくれ。だめだよ。」 朱美の手が俺のケツに回り、プラグを押し始めた。 「おい。やめろ。」 そう言いながら、俺のペニスはビンビンに張り詰めるほど勃起した。 「固いわ。素敵よ。」スカートの中で朱美がペニスを咥えたまま言った。 結婚して以来、朱美がこんなことを言ったことはなかった。 セックスの時はいつも受け身で自分から快楽を求めるようなことは全くなかったのだ。 俺のペニスは朱美の口深く吸い込まれ、俺は先端が彼女の喉にまで届いたのを感じた。 それはまったく彼女の下に挿入したのと同じ感覚だった。 『息ができるのだろうか?』俺は不安になった。 すると、朱美は頭を引き、息を継ぐと激しく頭を前後させ、唇と舌で俺のペニスをしごき始めた。 「あ、ああ。たまらないよ。」俺は夢中になった。 激しく頭を動かしながら、朱美は後ろに回した手で、俺のケツのプラグを刺激しつづけた。 一瞬、ペニスとケツの穴の間が引きつったような感覚がして、俺はエクスタシーを感じ朱美の口の中に射精し、その場に座り込んだ。 朱美は俺のペニスが縮むまでしゃぶりつづけ、それからスカートの中から、頭を出した。 口に俺の精液を含んでいる。この間のように俺に飲ませる気だ。 でも、俺は近づいてくる朱美を拒むことができなかった。 もし、拒んだら、彼女を、妻を失うと思ったのだ。 朱美の唇が俺の唇に重なり、彼女の舌が俺の唇を分けて入って来た。 「味わうのよ。」 俺は自分の精液と一緒に朱美と舌を絡ませあった。 「あ、ああ!」 朱美は俺の口に精液を流し込むと、身体を震わせた。 「ど、どうした?」 「ううっ...」朱美は俺を強く抱きしめたまま、うめいた。 朱美は今の行為でエクスタシーを感じ、イッたのだ。 俺は朱美のスカートの中に手を入れ、股に指先を入れた。 そこはじっとりと濡れていたのだ。 俺は口の中の精液を飲み込み、朱美を見た。 それは今までに見たことがないほどセクシーな表情だった。 「朱美。」 「素敵。素敵よ。」 朱美は洗い息遣いの下で言った。 「感じちゃったわ。」 俺は思わず、朱美にキスをした。 「さあ、続きをしましょう。」 俺はセックスの続きだと思ったが、朱美は俺のペニスをパンティに戻すと、バッグからサテンのハイヒールを取り出した。 「履きなさい。」 俺は白いストッキングのつま先をハイヒールに滑り込ませた。 「あのね、眉毛のことだけど。」 仮縫いが終わった時、朱美が言った。 「篠田さん、眉墨なら引いていいって言ってたの。引いてあげるわ。」 俺も、眉毛のない自分の顔は能面のようで気持ち悪かったので、朱美に眉墨を引いてもらうことにした。 「ほら、こういう道具があってね。誰でも簡単に引けるのよ。」 設計に使うテンプレートのようなものを眉の位置にあて、それにしたがって墨を引くと左右対称に眉が引けるのだという。 仕上がった眉を見て、俺は驚いた。 細く、微妙なカーブを描くその眉は女の眉で、それまでそこにあった俺自身の眉とは全く違うものだった。 「可愛いわ。」と朱美。「ずっと素敵になったわ。」 俺は複雑な思いだったが、眉のない顔よりましなので、そのままにしておくことにした。 その夜、朱美は家には泊まらず、電話でタクシーを呼び、自分のアパートに帰って行った。 ●第十二章 エステ そうして、同じような毎日が二週間ほど続いた。 篠田は二日か三日に一度づつ来ては、一緒に夕食を食べる。 夕食後に俺が身体の手入れを怠っていないかどうかを点検し、時には別室に泊まり、時には泊まらずに帰って行く。どうやら結婚式までは俺を抱かないつもりらしい。 朱美は篠田と重ならないように来ては、料理や洗濯、身体の手入れなどのやり方を教えてくれる。 俺の肌は毎日の手入れで、無駄毛がなくなり、みずみずしく潤い、ホワイトニングでシミも薄くなった。爪も磨き、透明のマニュキュアを塗る。髪の毛も、朱美に言われたようにリンスやトリートメントし、ふわっとしてさらさらになった。 「式の日取りが決まったよ。」篠田が言った。 俺は自分が処刑される日の宣告を受ける気分だった。 「それまでに、これをやりなさい。」 篠田の指示は、エステティックサロンに通うことと、ダイエットのためにワークアウトを行うことだった。 エステティックサロンは篠田の取引先で、俺のための特別メニューを用意しているとのことだ。その間だけはケツのバットプラグを抜いていいと言う。 ワークアウトはエアロビクスのビデオを渡され、毎日そのビデオの通りに二時間のエクササイズをするというもので、篠田はそのときに着るためのレオタードまで用意していた。 俺は、本当に逃げ出したくなったが、朱美のことや母のことを思うとそうもいかず、結局、篠田の指示のままに、エステに通い、ワークアウトをやった。 エステに行く時は電話でタクシーを呼び、トレーナーとジーパンにスニーカーを履き、野球帽を目深に被り眉を隠す。でも、身に付けているものは皆、女物だ。 エステティックサロンでは篠田の命令なのだろう、俺が時間通りに来たか確認し、俺のことを「奥様」と呼び、全くの女扱いだ。サンダルも女物を履かされる。 全身の脱毛、スキンケア、マッサージのコースで、たっぷり二時間かかる。 ウエスト周りの贅肉を取るためのマッサージは特に念入りで、必要もないのにバストアップ、ヒップアップまでやる。 化粧水だの乳液だのいろいろなものを塗りこまれ、爪や睫毛の手入れまでされる。 帰ったらワークアウトだ。 プラグを挿し、Tバックを履き、タイツを履いてレオタードを着る。ワークアウト用のバレエシューズをはいて、ビデオを点け、エクササイズだ。 レオタードはTバックをさらに外側からサポートし、股を開くようなポーズでもしっかりとプラグを押さえてくれる。 その間に、プラグももう一回り大きいサイズになった。 このプラグを挿す時には呼吸を整え、ゆっくりと息を吸いながら挿さないといけない。挿してからしばらくは動き回らず、ケツが慣れるのを待たなければならない。何かの拍子にふっと息を詰めたりするとその拍子にケツの括約筋が収縮し、激痛が走る。 俺はプラグを押さえるため、普段からレオタードを服の下に着るようになった。 ●第十三章 結婚式 そして、ついに結婚式の当日になった。 俺は、篠田に連れられて、いつものエステティックサロンに行き、最後の念入りな手入れを受けた。 サロンの美容師は俺の髪に、たくさんの付け髪を付け、その上でそれをセットした。 別の美容師は俺の胸にきついカップのないブラジャーのようなものを巻きつけ、胸の肉を無理やり押し上げ、乳房の谷間を作った。その上からビスチェを着せ、カップの中にシリコン製のパッドを押し込んだ。俺の胸は本当に女のように乳房が膨らんでいるように見えるようになった。 ビスチェの腰の部分を紐でさらに締め上げ、ウエストを細く絞り込まれる。俺はもうお腹では息ができなかった。 ストッキングを履き、ビスチェから吊るし、慣例で赤いガーターを太股に付けさせられ、ハイヒールとペチコートを履き、ウエディングドレスを着る。 今日は仮縫いの時とは違い、続きがあった。 付け睫毛を付け、目元、口元にメイクアップを施された。 白い長手袋をしてその上から婚約指輪をはめ、ネックレスやイヤリングを付ける。 最後に髪にティアラを付けベールを被る。 そこには全く別人の俺がいた。 プロの美容師達が渾身の力を込めて作り上げた花嫁はまさしく、どこからどうみても美しい女性の姿だった。 迎えに来たバンに、慣れないハイヒールの足取りで乗り込み、俺と篠田は式場に向かった。 式場は近くのホテルで、俺と篠田はホテルの中のチャペルに入った。 思ったよりたくさんの人が参列している。 俺はうつむいたまま、篠田に手を引かれて祭壇に向かい、バージンロードを歩いた。ウエディングドレスというものは想像以上に重く、俺は慎重に歩かざるを得なかった。 『何かおかしい。』俺は思った。 それでも、式は型通りに進み、俺と篠田は指輪を交換し、誓いの言葉を読み上げた。 『おかしいぞ。お遊びにしては大げさすぎる。』 式が終わり、俺たちは記念写真を撮影した。 「さあ、これから披露宴だ。」 写真で終わりだと思っていた俺は披露宴と聞いて驚いた。 しかし、篠田は有無を言わさず俺をエスコートし、俺たちはスポットライトを浴びながら披露宴会場に入った。 俺はスポットライトがまぶしく、会場の様子が分からなかったが、俺達が入ると会場がウォーと沸くのが聞こえた。 中央の席に篠田と並んで座り、会場の明かりが灯ると、驚くほどたくさんの人が披露宴に参列していた。 俺は自分の目を疑った。 参列者の中に、俺の親戚や学生時代の親友、前の会社の同僚や、取引先の社員までがいるのだ。 司会者が話し始めた。 「本日は特にお仲人様を立てない結婚式とのことですので、僭越ですが司会の私より、御両人の経歴を御披露申し上げます。新郎の篠田順治様は…」 始めに篠田の経歴が紹介され、彼が現在、衣料品の総合卸会社の社長であることが紹介された。 『篠田が結婚していることを誰も知らないのか?』 「続いて新婦、純子様の経歴を申し上げます。」司会者は一度咳払いをした。「純子様は実は産まれたときは今のお姿からは想像もつきませんが、御両親の御長男としてお生まれになられました。」 司会者は俺の男としての経歴を紹介した。 「しかし、朱美様と御結婚されたのち、純一様は心の性と身体の性が異なるご自分に気付かれ、悩みぬかれた末にお医者様の診断を受けられました。その結果、純一様は性同一性障害と診断され、朱美様もそのことを御理解されて、純一様の本来の心の性である女性への変身を助けられたのでございます。本日、この会場に今は女性同士の親友として朱美様もご参列なさっていらっしゃいます。」 スポットライトがあたった朱美は立ち上がり、左右に挨拶した。 俺は司会者の話に全く混乱した。何のことを言っているのか分からない。 「朱美様の御援助もあり、密かに準備を勧めていた純一様、いや純子様は会社の倒産を期に、男性としての経歴を棄て、大変な手術を受けられて、女性としての人生を歩み始めたのです。そこへ、新郎順治様が現れ、二人は恋に落ちたのであります。ご覧下さい。美しい女性に変身した純一様、いや純子様は新郎順治様の心をたちまちとりこにし、本日ここに華燭の典を挙げることとなったのでございます。まことに数奇な運命と申しましょうか、数々の苦難を乗り越え、ついに幸せをつかんだ純子様、また、その間の事情を知りながら大きな心で真実の愛を貫いた順治様に皆様大きな拍手をお願いいたします。」 拍手を浴びながら俺ははめられたと思った。 どうやら俺はもともと性同一障害で心は女、身体は男のいわばおカマで、それを隠して働き、結婚もし、とうとうそれを隠し切れず、性転換して篠田と結婚したことになっているようだ。 俺は恥ずかしさにうつむいたが、俺の胸はどう見ても女の胸になっており、この姿を見られたら、だれもが司会者の言葉を信じるだろう。 しかも、朱美まで、参列しているなんて。俺達はまだ結婚しているはずだ。 しかし、今の俺が、この姿で朱美の裏切りを言っても、誰も信じないだろう。 女装してウエディングドレスを来た夫が、妻に何を言えるというのだ。 ●第十四章 お色直し 披露宴はつつがなく進行し、来賓の乾杯が済んでお色直しとなった。 『お色直しだって?』篠田に手を引かれながら、俺は戸惑った。 「篠田さん。話が違うじゃないか!」俺は小声で篠田に言った。 「君は僕の妻になったんだ。皆さんにお披露目しなくちゃ。」 「俺は変態じゃないぞ。性同一性障害ってのはどういうわけだ。」 「皆さんに納得していただける理由を考えたんだ。」 「俺はあんたの同性愛に付き合ってるんであって、俺はそうじゃない。」 「じゃあ、戻ってみなさんにそう言うか?俺がウエディングドレスを着ているのは俺が着たいからじゃなくて、着せられたからだとか。男がおとなしくウエディングドレスを着せられ、化粧されて、結婚式に出るか。」 「…。」 「そうよ。もう戻ることはできないのよ。」後ろから朱美の声がした。 「私のためにも、お母様のためにもね。」 朱美は手に、お色直し用のドレスを持っていた。 俺は一瞬、朱美を殴り倒そうかとも思ったが、思いとどまり、そして、そのドレスに袖を通した。肩が出ていて、ラメをちりばめたセクシーなドレスだ。ストッキングや靴もそれに合わせて履き替える。 美容師が素早くティアラとベールを外して、髪型を変え、メイクアップをやり直した。 鏡の中の俺は自分でも驚くほど大人の色気を湛えたセクシーな美人になっていた。 俺は開き直った。 篠田に肩を抱かれて再び披露宴会場に入る。入口で渡されたトーチで、各テーブルのキャンドルに灯りを灯してゆく。 「綺麗よ。純子さん!」高校のときの同級生だ。「本当に素敵!」俺は彼女と付き合っていたことがあって今でも年賀状をやり取りしている。朱美が年賀状を見て招待したのだろう。新郎側の友人は当然女性だからな。 俺の父親はもう亡くなっていて、母親は入院中で意識不明、披露宴に参列している親戚達は渋い顔だ。しかし、俺達が困っていた時に誰一人として助けてはくれなかった。俺がそういうことになったとなれば、もうこれで縁切りだろう。 俺と篠田は最後の大キャンドルに灯を灯して、席についた。 俺は完全に開き直った。 「純一。いや純子さん。」大学の友人だ。「そういうことと知っていれば、俺の彼女にしたのに。本当にセクシーだよ。」 俺は精一杯の笑顔を作って、会釈した。 「そのおっぱいも、その唇も最高にセクシーだ。」会社の同僚だった奴だ。 披露宴の最後で、俺は篠田とキスすることを司会者に求められた。 俺は躊躇したが、篠田が俺のあごを持ち上げ、俺の口紅を引いた唇と、篠田の唇が合わさった。会場は拍手の渦に包まれた。 披露宴が終わり、俺達は着替え、出席者に見送られて新婚旅行に出発するという段取りになっていた。 俺は用意されていたピンクのツーピースを着せられ、足首にはアンクレット、耳にはイヤリング、胸にはネックレスを着け、白いレースの手袋にピンクのサテンのハンドバックとブーケを持って女物の時計を着け、やはりハイヒールを履いて、篠田にエスコートされてホテルの玄関口に向かった。 「いい女になれよ。」 「お幸せに。」 参列者が列を作り、祝福の米を投げる中を二人で通り抜け、俺はさんざんに肩や尻を触られた。最後に後ろ向きにベールを投げる。玄関口の華やかな騒ぎを後に、俺たちは車に乗り込んだ。 そして、そのまま、本当に新婚旅行に出発した。 ●第十五章 新婚旅行 「どうだ?疲れたかい?」篠田は運転しながら言った。 「ええ。疲れました。」俺はスカートのすそを引き下げながら言った。 「無事終わってほっとしたよ。」 俺が途中で切れて式をぶち壊すことを恐れていたのだろう。 「死ぬほど恥ずかしかったです。」 始めて上から下まで女の姿にされ、いきなり衆人環視の中に引き出されたんだ。 「良くがんばってくれた。これで君も晴れて僕の妻だ。」 「・・・篠田さんの関係者もずいぶん来てましたよね。」 「ああ。」 「俺なんかと結婚式を挙げて大丈夫なんですか?」 「大丈夫さ。」 「でも、ご結婚なさっているってこともごぞんじなんでしょう?」 「それぞれどう取ってもいいさ。僕は気にしないね。」 「あれだけ派手にやれば奥さんにも知れますよね。」 「もう、女房にも話してある。さすがに結婚式に出るとはいわなかったがね。僕は隠し事は嫌いなんだ。」 運転しながら、篠田の手が俺の太ももに置かれた。 「でも、純子。本当に綺麗だよ。」 「よしてください。女になるなんて嫌です。」俺はその手を押し戻した。 「君は僕の妻になったんだ。妻になった以上、女として暮らしてもらうよ。それにもう、君はみんなから女と認められたんだ。今日の式でね。」 「許してください。」 「ダメだ。」篠田の口調が変わった。「どっちにしろ、お前はもう男としては生きていけない。男のお前は会社をつぶし多くの人を不幸にし、妻も母も幸せにすることはできなかったじゃないか。」 「・・・。」俺は黙ってうつむいた。 篠田の言う通りだ。 うつむいていると、涙が目から溢れ出た。涙は頬を伝わり、スカートに落ちた。 レースの手袋をした俺の手を、篠田が握ってきた。 「なあ。僕は君も、朱美さんも、君のお母さんもみんな幸せにしたい。だから、いままでの悲しい人生を捨てて、全て僕に任せるんだ。」 俺は篠田の手を払いのけることができなかった。 俺達を乗せた車はリゾート地の町からかなり離れた岬の突端の瀟洒なホテルに入った。 ボーイに荷物を運ばせて、俺たちはいくつかあるキャビン風の離れの一つに入った。 豪華な内装を施された部屋の中央に大きなダブルベッドが置いてある。 「この中に旅行中に着るものを用意しておいたよ。」篠田はトランクを部屋の真中に運んで来て言った。 「あ、あの。着替えてもいいですか?」 「ああ。楽にするといい。」 俺は胸の谷間を作るために乳首の下から締め上げているブラジャー風のベルトがきつく、脇に食い込んでひどく痛んでいたので、速くそれを外したかった。 「見ないで下さい。」 「いいじゃないか。もう夫婦なんだから。」 しかたなく篠田に見られながら、ピンクのツーピースを脱ぎ、スリップを脱ぐ。その下にはビスチェとTバックショーツだ。お尻が丸見えでとても恥ずかしい。 パットを外し、ストッキングを吊っていた金具を外し、ビスチェを外し、胸のベルトを外す。きつく締められていたので食い込んだ跡が胸に赤く残っていた。 篠田にもらったトランクをあけると、そこには女物の下着や服がたくさん詰っていた。 「これを着るんですか?」 「ああ、今日からは全て女物を着るんだ。胸もちゃんと作らなければだめだ。」 「胸を作るって...」 「そうだ。ブラジャーを着けるってことだ。よし、今日は僕が選んであげよう。」 俺は篠田に白地に小さなピンクの花柄のついたブラジャーを着けさせられ、パットをカップの中に入れられた。その上から長いスリップを被り、胸の開いたロングドレスを着せられ、ストッキングを脱いだ素足にハイヒールのミュールを履いた。 「ああ、綺麗だよ。素晴らしい。」 篠田は前に立ち、俺の両肩を抱いた。 俺は身体を固くして抵抗しようとしたが、抱き寄せられ、篠田は俺にキスをした。 長いキスの末に、篠田の舌が俺の唇を分けて入って来た。俺の舌に篠田の舌が絡みつき、彼の唾液が入って来る。 彼の妻になることを承諾した以上、俺には拒否する権利はなかった。俺は篠田に買われたのだ。俺は身体の力を抜き、彼に委ねた。 ドレスの上から彼の手が俺の膨らんだ胸をまさぐる。 『いよいよ抱かれるんだ。』 不思議と恐ろしいような感じはしない。 何週間も毎日そのことを考えて暮らして来た。 「君は僕のものだ。」 キスをしながら篠田は言った。 「分かっているな。」 「はい。」俺は頷いた。 ●第十六章 初夜 そうしているうちに食事が運び込まれ、俺達はキャビンのテラスで夕日を見ながら食事を摂った。 食事が済むと、篠田は俺に先に風呂に入るように言った。 俺は風呂に入り、念入りに身体を洗った。 風呂から出ると脱衣所に次に着るものが用意されていた。 それは白いシースルーのベビードールだった。同じ生地の横が紐になっていて後ろがTバックのパンティもある。 『これを着ろというのか。』 しかし、裸で出て行くわけにも行かず、俺はそれを身に着けた。 下半身は辛うじてペニスが包まれているが全く剥き出しで、上半身も胸から下が少し隠れているだけで、裸より恥ずかしい感じだ。女はこんなものを着て男を誘惑するのだろう。 俺は乳房もないし、尻も丸くないので悩殺的なプロポーションというわけには行かない。 「ああ、似合うよ。凄く似合う。」 俺の姿を見て、篠田は嬉しそうに言った。 「下半身が丸出して、寒いです。」 篠田はピンクのシルクのガウンを俺にかけてくれた。 「俺が風呂に入っている間、化粧を直しておきなさい。」 俺は言われた通り、ドレッサーに向かい、ファンデーションを振るい、口紅を引きなおし、付け睫毛を付け直した。 プロにやってもらった化粧よりはるかに下手糞で、下品な娼婦のような化粧になった。 篠田は風呂から上がると何も身に付けず、裸のまま、部屋に入って来た。 俺は篠田の鍛えられた逆三角形の肉体に目が吸い寄せられた。下半身の黒々とした陰毛の中から彼のペニスが垂れ下がっている。 「おいで。」 俺は誘われて、彼の前に立った。 篠田は俺のガウンの紐を解き、ガウンを脱がせると足元に落とした。 ベビードールを着て彼の前に立つことは、裸で立つよりも恥ずかしい。 篠田は軽々と俺を抱き上げると、ベッドに運んだ。 俺は落ちないよう、彼の首に両手を回し、抱きついた。 俺をベッドに寝かせると裸の篠田が俺の上に乗ってきた。 俺は、身体に力が入り固くなり、震えた。 篠田は俺の上に乗ったまま、キスしてきた。 また、篠田の舌が入ってくる。俺達は舌を絡ませあったまま、長いキスをした。 お互いの唾液が混じり、篠田は俺の口の中を自由に味わった。 俺は篠田のペニスが勃起し始めるのを太股に感じた。 篠田は俺の上から横に添い寝するような体勢を取ると、パンティの中に手を入れてきた。 「ああ、やめて。」俺はうめいた。 しかし、篠田は俺のペニスを掴み出すと、微妙に揉み始めた。篠田の口は俺の乳首を吸っている。篠田に攻められて俺のペニスはゆっくりと勃起し始めた。 『男にいじられて感じるなんて。』俺は情けなくなった。 篠田の巧みな指使いで俺のペニスはギンギンに固くなった。 すると彼はベッドの脇にいつのまにか用意していたローションを手につけると、それを俺のペニスから股の間に塗りたくった。塗りながら、篠田の指が俺のケツの穴を攻め始めた。 「あっ!ああん!」指を入れられて俺は思わず声を出した。 「気持ちいいか?」篠田の声が弾んでいる。 「お願い、優しくしてください。」 「よし。優しくしてやるよ。」 そう言うと篠田は俺の股の間にひざまづき、俺の両足をM字型に広げさせ、パンティの紐を解いて取り去った。 てっきり後ろから入れられるものと思っていた俺は驚いたが、篠田は構わず前から俺の腰を持ち上げるとケツの穴にペニスをあてがった。 「行くぞ。」 「あ、待って。」気持ちの準備ができていないので待って欲しかったが、篠田は構わず押し込んできて、それはずるっと入った。 「ああー!」俺は悲鳴をあげた。 痛みはなかった。プラグで何日もかけて拡張していたからだ。 しかし、ついに超えてはならない一線を超えたことが俺に思わず悲鳴を上げさせたのだ。 篠田は深く挿入したまま、動かなかった。ただその指先が、俺のペニスの先を刺激しつづける。挿入されて俺のペニスは少し柔らかくなった。勃起どころじゃなかったのだろう。 篠田はゆっくりと腰を使い始めた。俺は自分の体の中で彼のペニスの動きを感じた。 『早く終わってくれ。』俺はそう願った。 俺のペニスを扱く篠田の手が次第に早くなり、それに合わせて腰の動きも激しくなった。 不意に、俺は身体の中に暖かいものを感じた。 『い、いかん。だめだ。』 俺の思いとは裏腹に、俺のペニスはゆっくりと勃起し始めた。 「おお、いいぞ。感じてるな。」篠田は嬉しそうに言い、いよいよ激しく攻め立ててきた。 「あ、ああっ!だめ。だめぇ。い行くぅ!!」 俺は一気に上り詰め、エクスタシーに達した。 「俺も行くぞ!!」 俺が篠田の手の中に射精すると、篠田も俺の中に深く突き立て、そのまま身体を硬直させた。不思議なことに俺は腹の中に暖かいものが出されたことを感じた。篠田の精が注ぎ込まれたのが分かったのだ。 俺の目から涙が溢れた。 『もう、戻れない。』 篠田はティッシュで俺のペニスの周りについた俺の精液を拭いてくれた。 「愛してるよ。純子。」 俺は身体中が敏感になって、篠田に触られるとビクッとして鳥肌が立った。 篠田はしばらく俺の身体を触っていたが、そのうち、俺の手を自分のペニスに導いた。それはゆっくりと起き上がり始めていた。 「ほら。弄って。」 そう言われ、俺は篠田のペニスを弄った。するとそれは見る見る固くなり、勃起した。 篠田は俺を四つん這いにさせ、今度は後ろから入って来た。 前の余韻が残っていたので彼のペニスはほとんど抵抗なく入って来たが、後ろからだととても深く入れられたように感じる。篠田は激しく腰を動かし、俺の尻は篠田の腰に叩かれてピチャピチャと嫌らしく鳴った。篠田に突かれる度に俺の身体は前に押し出され、俺は必死にふんばった。 「おう。いいぞ。いい気持ちだ。行くぞ。それ!」 篠田は二度目の射精を俺の中にした。 彼がペニスを抜くと、たらっと俺の肛門から彼の精液があふれ出た。 俺はそのまま突っ伏して、うつ伏せになった。 俺はこれで終わったと思った。 しかし、それは終わりではなかった。 篠田はさまざま体位で俺を犯し、初夜の晩に俺の中に七回も射精したのだった。 俺は最後にはくたくたに疲れ果て、そのまま眠ってしまった。 ●第十七章 朝 朝、何かにのしかかられて目を覚ますと、篠田が俺の横に添い寝し、後ろから俺のケツにあれを差し込んでいた。前の晩に七回もやったのに、朝からこれだ。 俺はそのまま寝たふりをして篠田が済むのを待った。 篠田は後ろから手を回してきて俺のペニスを弄び始める。 「いやん。だめ。」思わず俺は女言葉で言い、彼の手を払おうとした。 しかし、彼はいたずらを止めない。 その内、俺もおかしな気分になってきた。 「だめよ。だめぇ。」 そして、とうとう行かされて、俺は篠田の手の中に射精してしまった。 その自分の精液のついた手を俺は舐めさせられた。 「よし、今度はこっちの番だ。」 彼は激しく俺を突きたて、そして果てた。 俺は自分の身体の中が篠田の精液で満たされてしまうような感覚に捕われた。 篠田はなおも俺に絡み付いてこようとしたので、俺は逃げ出し、バスルームに逃げ込みシャワーを浴びた。俺の太股には篠田の精液がべっとりとついて乾き、ごわごわになっていた。 温かいシャワーで身体を洗う。なんだか自分の体じゃないような感覚だ。 男に抱かれ、犯され、自分も行かされた。 アヌスの周りはジンジンと麻痺したような感じだ。 でも、俺は思った。予想していたほどひどくはない。 バスルームを出て、俺は荷物の中から新しいパンティとブラジャーを出し、それを着けた。なんだかそれが当然のような気がした。 ブラジャーにパットを入れ、その上からキャミソールを着た。 ドレッサーの前に座り、肌の手入れをする。裸の篠田がベッドから出てきて、俺の背中にキスした。 「可愛いよ。」 俺は無視して手入れと化粧を続けた。 女じゃないとばれるのが恐くて、俺は真剣に化粧をした。 イヤリングをして、ダイヤのついたシルバーのネックレスをすると、だいぶ女らしい顔になる。 ガーター部分にシリコン製のゴムがついているストッキングを履き、上からガウンを羽織った。 篠田がバスルームから出てきた。 「で、今日の予定は?」俺はぞんざいに尋ねた。 「一日中、ここでセックス。」 「...やめてよ。壊れちゃう。」 「そうだな。」篠田はにやりと笑った。「せっかくの新婚旅行だ。一生の思い出になるように観光でもしようか。それに君は女の姿で人前に出ることに慣れなきゃならん。」 そう言いながら篠田は荷物の中から白いワンピースとボレロのアンサンブルを出した。 背中のファスナーを開けてワンピースに袖を通すと、それはひざ上20センチのミニ丈のワンピースだった。 ハイヒールを履き、バッグを持って、俺は篠田とホテル内のレストランに向かい、食事を摂った。椅子に座るとほとんど太股が丸見えになり、辛うじてパンティが隠れる。 「ほら、猫背に座ると、パンティが見えちゃうぞ。」篠田は俺を冷やかす。 俺は食事しながら、ワンピースの裾を常に気にしなければならなかった。 車の助手席に座ると、パンティがほとんど見えそうになるので俺はそこにバッグを置いて隠した。 観光地は閑散としていたが、それでも人がいないわけではなく、俺は篠田の身体に隠れるように寄り添って歩いた。 篠田に抱かれたことで、俺は身体が触れるほど篠田に近付いても気にならなくなっていた。篠田も自然に俺の肩や腰を抱く。 人気のないヨットハーバーの脇で、篠田は俺の手を引っ張った。 「もう、我慢できん。」 俺は篠田に手を引かれてそこにあった公衆便所の身障者用トイレに連れこまれた。 壁に手をつかされ、尻を引っ張られてへっぴり腰にさせられ、篠田にパンティを引っ下ろされた。 「こんなとこでやるの嫌です。」 「構わん。」 ズボンを下ろすのもそこそこに篠田のあれが俺のあそこに入ってきた。 「いやん。」 よほど我慢していたのだろう。篠田がものすごい勢いで俺のケツを突いた。 俺はあそこを出入りする彼のペニスを感じながら、誰かに物音を聞かれないかとひやひやしていた。そう、俺は全く痛みを感じていなかった。それどころか早く終わって欲しいと思い、篠田の動きに合せてケツに力を入れた。大便を切るように無意識に篠田のペニスをケツの穴で絞っていたのだ。 「おう、いいぞ。凄くいい。」篠田は感じているようだ。 俺はどういうわけかそれを嬉しく感じた。 「は、早く済ませて下さい。誰か来ますよ。」 心とは裏腹に俺は言った。 そのうち篠田の動きが速くなり、そしてぐっと身体を硬直させ、動きを止めた。 『ああ、終わった。』と思った瞬間、俺は身体の中から湧き上がってくるキラキラときらめくような感覚に全身を包まれた。 「あ、嫌。」俺の身体はガクガクと震え出し、篠田の射精を身体の中に感じながら、俺はエクスタシーの波に翻弄された。 俺のペニスは勃起もしていないのに、俺は快感を全身に感じたのだ。 俺は立っていられなくなった。 篠田がペニスを抜くと、俺はその場にしゃがみこんだ。 するとしゃがみこんだ俺の頭を両手で抑え、篠田はまだ勃起しているペニスを俺の口の中に突っ込んできた。 俺はいままで自分のケツに突っ込まれていた篠田のペニスをしゃぶらされた。しかし、俺はエクスタシーの余韻で身体が言うことを聞かず、篠田のなすがままになった。 「ほら、ちゃんとしゃぶってくれ。」 俺はケツの穴から篠田の精液をたらしながら、彼のペニスを無我夢中でしゃぶった。 ずいぶん長い時間しゃぶらされたと思う。 そのうち、篠田は俺の頭を強く抑え、俺は彼のペニスをのどの奥まで飲み込まなければならなかった。そして、俺は彼のペニスの先端から熱い精液が溢れ出すのを舌で感じた。 「出すなよ。飲むんだ。」 俺はそれを飲んだ。 ●第十八章 新婚生活 その日の夜、篠田は俺を家に送り、本宅の方に帰って行った。 俺はミニのワンピースを脱ぐ余裕もなく、ソファに倒れこみ、そのまま眠った。 翌朝、俺は目覚めるとシャワーを浴び、着替えを出そうとドレッサーを開けた。驚いたことに新婚旅行の間に中身が一変しており、全て女物の下着や服に変わっていた。きっと朱美が入れ替えていったのだろう。 俺は仕方なくパンティを履き、ブラジャーを着け、パットを入れ、キャミソールを着た。 比較的地味なフリルのブラウスを着て、長めのスカートを履く。 机の上に、朱美の書いたと思われるメモがあった。 『御結婚おめでとう!純子。 旅行どうだった? 篠田さんにたくさん愛されたんでしょうね。 篠田さんに尽くしていいお嫁さんになるのよ。 前から篠田さんに言われてたことだけど、結婚して奥様になったんだからちゃんと女らしい服を着ること。お化粧もちゃんとするのよ。 言葉遣いも女らしくすること。自分のこと俺なんて言っちゃダメよ。 がんばってね。』 俺は全く自分が情けなくなった。 妻の朱美にこんな手紙を書かれるなんて。彼女が俺を愛しているなら、耐えがたいことのはずなのに、「がんばって」ときた。 情けない思いで俺はドレッサーの前に座った。 たくさんの付け髪がつけられた俺の髪はセミロングといった長さで、それをヘアバンドで持ち上げて、俺は化粧をした。 別にどこかへ行ったり、誰かと会うわけでもないが、化粧をしないといけないような気がしたのだ。上から下まで完全な女装をしているのにノーメイクだと凄く変に感じるのだ。 化粧をしながら俺はふと思った。 今や、俺は社会のあらゆる責任から切り離され、篠田の庇護の下に入った。男として働き、妻や家庭を守る責任も、子供として母を守る責任すらも事実上なくなった。その全てを篠田が引き受けてくれたのだ。俺が篠田の愛を受け入れる限り、朱美も母も、俺なしで生きて行ける。 俺は自分の肩の重荷が一気になくなったような晴れ晴れとした気分になった。 篠田とのセックスにしても、恐れていたほどのひどい苦痛ではなかった。 過去の自分を全て脱ぎ捨て、新しい人生を始めるのも悪くない。 そうして、妻、いや篠田の女としての俺の生活が始まった。 篠田は二日か三日に一度の割でやってくると俺を抱き、泊まらずに帰って行く。 朱美は週に一度やってきては俺の身の回りのものや食料を補充していく。 彼女が任された店は順調に売上を伸ばしており、忙しそうだ。 俺は自分の身体の手入れと、料理や掃除や洗濯などの家事をし、時間が空くとテレビを見たり本を読んで過ごした。本といっても朱美の持ってきたファッション雑誌などだ。 篠田に抱かれるたびに俺の身体は敏感に反応するようになった。もうすぐ篠田が来ると思っただけでケツの穴が湿ってくる。篠田に抱かれキスされると全身の力が抜け、どこを触られても感じてしまう。篠田に後ろから挿入されるとすぐにエクスタシーを感じ、篠田が行くまで二度も三度も絶頂に追い上げられる。篠田のペニスをじゃぶるのでさえ、嫌ではなくなった。いつしか、俺は篠田が来るのを心待ちにするようになり、篠田はそんな俺を可愛がり愛してくれた。 ●第十九章 本妻 ある日の午後、玄関のベルが鳴った。 俺は朱美がきたのかと思い、ドアを開けた。 そこには美しい女性が立っていた。 「あなた、純子さん?」 俺は見覚えのない彼女に警戒した。 「あの、どちらさまでしょう?」 「篠田の妻です。」 俺は驚いた。篠田の奥さんが尋ねてきたのだ。 「入ってもいいかしら?」 俺は戸惑った。篠田の奥さんであれば決して俺にいい感情を持っているとは思われなかった。 「なんの御用です?」 「あなたに会いに来たの。どんな人かと思って。」 「・・・。」 俺は断る理由もないと思い、彼女を中に入れた。 彼女は俺より少し背が高く、モデルのようにすっきりとした体型で、とても美しかった。 「ずいぶん探したのよ。ここが彼の隠れ家というわけね。」 俺はティーカップを出し、彼女のために紅茶を用意した。 「ちょっと。そこに立って。」 俺は言われるままに立ち止まった。 奥様は俺の身体をてっぺんからつま先まで鋭いまなざしで見た。 「良く化けてるけど、やはり男ね。」と吐き捨てるように言った。「もっと綺麗な人かと思ったわ。」 俺はティーカップを置いて言った。 「好きでこうなったわけじゃないんです。」 「知ってるわ。御自身の失敗と、奥さんの借金、お母様のご病気よね。それで、手術とかしたの?」 「手術?」 「ええ、整形手術とか、豊胸手術とか、去勢手術とか、性転換手術とか。」 「してません。それにそんなの嫌です。」 俺はスカートの両脇を持ち上げて椅子に座った。 「へえ、じゃあ、男のままなんだ。」彼女は興味深そうに俺の顔を覗き込んだ。 「だとすると、本当に可愛いわ。外を歩いたって女には見えても男には見えないわよ。」 「それは、こんな服を着て、こんな髪型で、化粧をすれば女に見えるでしょう。」 「そうでもないわ。」彼女は俺のあごに手を添えた。 「お肌もきめ細かいし、色も白いわ。」 俺は彼女の表情に隠れている意図を訝しく思った。 「・・・怒っていらっしゃるんでしょう?」 「そうね。いい気はしなかったわ。」紅茶を口に含んで、彼女は言った。「だって、私のほかに愛人を作るなんて、私じゃあ満足していないってことですものね。」 「あんな、結婚式、やるなんて思っていなかったんです。本当に恥ずかしかった。」 「ねえ、どうなの?あなたは別にそういう趣味はなかったんでしょう?」 「もちろん。生まれてから一度も男性に魅力を感じたことはありません。」 「今はどうなの?篠田のことどう思ってるの?」 「...御主人には助けていただいて、本当に感謝しています。」 「感謝?それだけなの?」 まるで刑事に尋問されているような気がして、俺はすこし苛立った。 「お、俺には妻もいるし、本当はこんなことは嫌です。」 彼女は俺の目の前に迫ってきて言った。 「そうよね。あなたは男ですもの。普通だったら例えどんなに困っていても、篠田のこんな申し出は断るわよねえ。」 「奥様は俺にどうしろと。」 「あなたの気持ちを確かめたいのよ。」 「気持ち?」 「もし、あなたが男に戻りたいなら、私、多少はお金もあるし、助けてあげてもいいのよ。」 「でも、妻を棄て、母を見捨てるわけにはいきません。」 「それだけ?」 「それだけって、あといったい何が。」 「あなた、篠田に抱かれてどうだったの?」 「どうって、そんなこと言えません。」俺は頬が赤くなるのを感じた。 「あら...良かったみたいね。」 「知りません。」 「いいのよ。私も結婚したころは毎朝、毎晩篠田に抱かれたものよ。もっとも、私はあまり感じなかったけど。」 俺は彼女が何をしに来たのか、怪訝に思った。 「でも、あなた、もし、篠田に棄てられたらどうするの?」 俺はドキッとした。 全く篠田に捨てられるなどと思ってもいなかったからだ。 今の俺は全面的に篠田に依存して暮らしている。 篠田に棄てられたら、俺には生活の全てが無くなってしまう。 「私も、篠田に棄てられるのが恐いの。」 彼女はいよいよ俺に近づいて来た。 「ねえ、二人で協力しましょ。」 「きょ、協力って。」 「私は彼の正式な妻よ。そしてあなたは彼の心をひきつける愛人。私達が協力すれば、篠田に対抗できるわ。」 俺はそんなことをすれば二人とも棄てられると思った。 「私の味方になって。」 「奥様の味方になることは構いませんけど、篠田さんに対抗することはちょっと。」 「あなた、篠田に抱かれてあの人が好きになったんじゃないの?」 「そ、それは何とも。」 「ほら、男に戻りなさい。篠田より、私の方がいいでしょう?」 彼女は俺の耳元にセクシーに囁いた。 「奥様。だめですよ。そんな。」 彼女は俺の手を彼女の乳房に導いた。 「あなたにはこんな胸はないでしょう。」 ドレスの下はノーブラだった。俺は思わず彼女の乳房に触れた。それは柔らかく、豊満だった。 彼女の手が俺のスカートの中に入って来る。 「仲良くしましょう。」 彼女の唇が俺の唇に重なった。 俺が彼女の乳首に触れると彼女は俺の耳たぶをかみながら言った。「もっとして。」 彼女ほどの美しいセクシーな女性にこんな風に誘惑されたら、耐えられる男はいない。 パンティの中で俺のペニスはゆっくりと勃起し始め、彼女の手が、それをつまみ出して刺激し始めた。 「奥様。いけません。」 彼女は俺のスカートの中に頭を入れると、俺のペニスをしゃぶり始めた。 俺は堪らず、腰を浮かして彼女の口の中にピストン運動を始めようとした。 すると、彼女は俺から身体を離し、服を脱ぎながらこう言った。 「続きはベッドでしましょう。」 俺は勃起したペニスでスカートの前を膨らませながら、彼女に手を引かれてベッドに入った。 「あなたは動かないで。」 彼女は俺の腰の上に跨り、俺のスカートをめくり、勃起したペニスを出すとその上の腰を沈めて来た。 「ああ、いいわ。素敵。」 彼女は感じている様子だ。自分で乳房を揉み、乳首をつまみ始める。 その様子を下から見上げて俺は男として興奮した。彼女は美しく、たまらなくセクシーだ。ゆらゆらと動くバスト。少し眉をしかめた表情と赤い唇。長い髪。 彼女のあそこに咥えこまれた俺のペニスはギンギンに勃起し、固くなった。 彼女は俺のパットで膨らませた胸に両手をつくと、腰を上下に動かし始めた。俺は両手で彼女の胸に触った。俺は両方の乳房に触りながら、心の中でそれが欲しいと思った。俺は自分の胸がこんな風に膨らんだ様子を想像した。そして、その胸を篠田が吸っている情景が浮かんだ。 彼女の動きに合わせ、彼女の乳房は大きく上下に揺れ、俺は彼女のあそこから愛液があふれ出て俺の股間をぬらすのを感じた。 「いいの。凄くいいわ。感じるぅ。」 彼女は激しく腰を動かし、俺もたまらなくなってきた。 「奥様、いけません。もう我慢ができません。」 「出して。ああ。行く。行く!」 彼女は大声を出した。それが刺激になって、俺は彼女の中に射精した。 彼女は腰を俺の腰にしっかりと押し付け、俺のペニスを外に出さなかった。 「全部ちょうだい。あたなから篠田からもらったものも、全部出して。」 彼女は俺のブラウスのボタンを外すと、キャミソールをブラジャーを押し上げ、パットを外すと俺の乳首を指で弄び始めた。 そこは篠田にもよく愛撫される場所だった。 「ああん。」俺はため息を漏らした。 「感じるの?」 俺は目を閉じた。 「篠田にもこういう風にされてるの?」 彼女の中で、俺のペニスが固くなる。 彼女は身体を倒し、俺の乳首を吸った。 彼女の柔らかい唇は何ともいえない快感をもたらした。 「あ、いい。」 「そうよ。感じて。素敵よ。」 俺の両方の乳首を彼女は指と唇で刺激しつづける。 ずいぶん長い時間、俺達はそうやってお互いを愛撫しつづけた。そして、俺は次第に上り詰めていった。 「あ、行く。」 彼女も同時に身体を震わせてエクスタシーを感じているようだった。 俺達は一緒に風呂に入り、お互いの身体を洗い合い、彼女は湯上りの俺に、服を選び、身体の手入れの方法をいろいろと教えてくれた。 「実はね、私、男の人とセックスしてオーガスムを感じたの初めて。」彼女は頬を染めて言った。「良かったわ。」 俺は何と答えてよいのかわからなかった。俺の感覚ではむしろ俺の方が彼女に犯されたようなものだ。 俺は彼女に言われて篠田に棄てられる事を思うと、彼の妻とこんな関係を持ったことを後悔した。このことが篠田に知れたら、それこそ棄てられるかも知れない。 「これからも仲良くしましょうね。」 「でも、俺。篠田さんを裏切るわけには行きません。」 「大丈夫。どうせ昼間は仕事で、家には居ないし、私たちで仲良くして、あなたは夜のおつとめをすればいいのよ。」 俺は思った。彼女は篠田の妻であり、俺よりも立場が強い。彼女に嫌われたら俺の立場も悪くなる。言うなれば彼女が正妻で俺は妾なのだから。 彼女は俺にメイクのこととか、服のコーディネイトのこととか、アクセサリーのことをいろいろと教えてくれた。彼女は元ファッションモデルであり、プロの美容師だったそうだ。彼女の指導で、俺は一皮向けたかと思うほど女らしい装いができるようになった。 「奥様。ありがとうございます。」帰りがけに彼女を玄関まで送って、お礼を言うと「その奥様って言うのやめてくれない。翔子と呼んで。」と彼女。 「でも、私は篠田さんの言わば妾ですから、その立場をわきまえませんと。」 「・・・そう、じゃ、好きにするといいわ。また来るわね。」 ハイヒールの靴音を響かせ、長い髪をなびかせて彼女は颯爽と玄関先に停めてあったポルシェに乗り込むと、走り去って行った。 後姿の長い髪、細いウエスト、肉感的なヒップと太もも、そして細く引き締まったくるぶしが俺の目に焼きついた。 ●第二十章 レズビアン 翌日、朱美が食料やさまざまのものを持ってやってきた。 「あら、あなた。どうしたの?」 俺を一目見た瞬間、朱美は言った。 「どうって、どうもしないけど。」 「そうかしら。お化粧の仕方、変えたの?」 俺は、昨日、奥様に教わったやり方でメイクしていた。 「あ、そうね。少し変えたんだ。」 「あら、素敵よ。とても似合ってるわ。」 「そう?」俺ははにかんだ。 「ずっと女らしくなった。綺麗になったわ。」 妻にそう言われて、俺は嬉しいような悲しいような気持ちだ。 食べ物を冷蔵庫にしまい、その他の日用品を片付けると俺達は食堂のテーブルで珈琲を飲みながら四方山話をした。 朱美の店は順調に売上を伸ばし、店員を増やしたそうだ。篠田も時々店に来ては帳簿を見たり、仕入先との交渉を手伝ってくれ、この間のセールでは篠田の関係する独立した小売店の中では一番の売上になったそうだ。 「事務の子を雇おうと思ってるの。忙しくなったから売り子と両方兼務させるのは無理になってきたわ。」 「俺、よかったら手伝うけど。」 「・・・そうね。あなたなら経理の経験もあるし、いいかも。でも篠田さんなんて言うかしら。」 「ここに居ても暇だし、なんとかならないかな。」 「ただ、あなた、髪も伸ばしてセットしてるし眉も髭も抜いちゃってるから、その顔で男として働くのは少し難しいかもね。店にオカマが働いているとでも噂になったらお客が逃げちゃうわ。」 「男として働くのがダメなら、女でもいいよ。」 「そうね。女ならいいかもね。いまのあなたなら声を出さなければ立派に女性にみえるもの。表に出ない事務ならばれる確率も少ないし、OLしてみる?」 「とにかく朱美を手伝いたいんだ。」 「ありがとう。でも、あなた、本当に綺麗になったわ。」 朱美が俺のとなりに座って、俺の顔を覗き込んだ。 「こんな俺、もう夫としてダメかな。」俺は朱美に見捨てられる不安から思わず言った。 「・・・そうね。私にはもう、あなたは夫とは思えないわ。」 「そうだよな。こんな女の姿にさせられたからな。」 「でも、私、女になったあなたが好きよ。」 「え?」 「前のあなたより、今のあなたが好き。」 「朱美。」 朱美は俺にキスして来た。 キスしながら朱美は言った。 「ごめんなさい。私、あなたに嘘をついていたの。」 「嘘?どんな。」 「私ね、男の人には何も感じないの。」 「何も感じないって・・・」確かに朱美は俺とのセックスのときも自分ではなにもせず、マグロのように横たわっているだけだった。 「高校の時から、私、ずっと女の子と付き合ってたの。」 「それって・・・」 「そう、私、レズビアンなの。」 俺は驚いて顎が外れそうだった。天と地がひっくり返ったような気分だ。 「あなたと結婚してからも、実は私、付き合いが続いていたの。」 「付き合いって、レズの彼女とか?」 「ええ、ごめんなさい。お店の借金も、元はといえば彼女が原因なの。」 「つまり、朱美。お前が店をつぶしたのはレズの彼女に貢いだ挙句ってことなのか。」 「そういうことになるわ。」 「い、今でも続いているのか?」 「お店がつぶれて、あの子はいなくなった。私もバカよね。そういう子だということが見抜けなかった。」 「今はどうなんだ。他に好きな人はいるのか?」 「そりゃ、お店で働いてる子は私が自分の好みで採用したから、みんな好きだけど、恋愛感情をもってるわけじゃないわ。それより・・・」 「それより、何だ?」 「私、今のあなたを見て、心がときめいたの。」 「お、女の姿の俺を見て、ときめいたというのか。」 「そう、素敵よ。こんな気持ちになったの初めて。」 「俺は女じゃないぞ。」 「女よ。」朱美はキスしながら俺をソファに押し倒した。 俺は全く混乱していた。 妻がレズビアンで結婚して以来、一度も俺との生活に喜びを感ず、女の愛人をもっていたなんて。 そしてその妻がいま、俺を女として愛そうとしているなんて。 今の俺は篠田の愛人で、彼に操を立てなければならない気持ちがあった。篠田には捨てられたくない。 でも、俺達は夫婦なんだ。夫婦が愛し合って何が悪い。俺は開き直った。 朱美は俺のブラウスを脱がせ、キャミソールをたくし上げると俺の首筋に舌を這わせ始めた。 「動かないで。」俺は起き上がり彼女の上に乗ろうとしたが、朱美は強く押し戻し、俺の胸を舐めつづけた。 ファスナーを下げ、朱美は俺のスカートを膝まで下げる。 俺は朱美に胸や首筋を舐められ、だんだん変な気分になってきた。 『朱美はレズの彼女ともこんな風にしていたんだろうか?』 朱美の指が俺の乳首を弄ぶ。篠田に抱かれるようになって、俺は乳首でも感じるようになっていた。 パンティの中で俺のペニスが膨らんでくる。 「感じる?」朱美が囁く。 「うん。最近感じるようになった。」俺は正直に答えた。 「篠田さんにもこうしてもらってるの?」 「あの人はもっと乱暴。」 朱美は俺の耳を噛みながら行った。 「あなたにとって篠田さんは『あの人』なのね。」 耳に息を吹きかけられて俺は思わず唸った。 身体全体が火照る。 朱美はいかにも女が女を責めるように時間をかけて優しくゆっくりと俺を愛撫した。 俺はたまらなくなった。 「おい。行かせてくれ。」 「だめよ。お楽しみはまだこれから。」 朱美の手が俺のパンティの中に入り、俺の尻を撫で始め、俺をうつぶせにすると、そのまま自然にパンティを膝まで脱がせた。 「いいことしてあげる。」 朱美は俺の腰を引っ張って四つんばいの体勢にすると、俺のケツの穴の周りを舐め始めた。 「ううー!」俺は快感に悶えた。 朱美は尖らせた舌に力をいれてあそこに入れようとしたり、周りを舐めまわす。 たっぷりそこを舐めて濡らすと、今度は指を入れてきた。 「ああん、だめ。」 俺は手足の力が抜けた。 指は一本二本と増え、中を微妙に刺激し始める。 「やめてぇ・・・」 「いいわ。もっと感じるのよ。」朱美の息が弾んでいる。彼女も興奮している。 「あ、だめ、あ、いく・・・・」 身体が震え出し、頭の中が真っ白になった。俺は朱美の指で行かされた。 「あ、あたしもよ。」朱美が俺にのしかかってきて、彼女も身体を震わせた。 「ああ、いー!!」 俺は朱美に後ろから抱きつかれ、背中に彼女の乳房を感じながら、快楽の波に飲み込まれた。 ●第二十一章 ドライオーガスム 「あなた、射精してないのね。」 少し落ち着いてから、朱美は俺に言った。 彼女の言う通り、俺は絶頂を感じたのに射精をしていない。ペニスはまだ硬さを保ったままだ。 「最近、行っても射精しないことがあるんだ。」 「今みたいに、後ろを愛されたときじゃない?」 「まあ、そうだね。」 「それって、あなたが女の喜びに目覚めたってことよ。」 「女の喜び?」 朱美が言うには、男でもアナルに刺激を受けると、射精を伴わないオーガスムがあり、それをドライオーガスムというそうだ。彼女は婦人雑誌から得た知識を披露した。 「あなた、篠田さんに愛されて、自然にドライオーガスムを感じるようになったのね。」 そういえば、快感の感じ方が確かに違う。 射精するときは少しずつ快感が増して来て、最後は一気に発射する感じだが、しないときはすうっと快感が増して、しばらくその状態が続き、絶頂を感じてもそれがしばらく続く。射精した後はすっきりするが、快感はなくなるのに対して、射精しない場合は、快感の余韻がずっと続く。 「それは女の感じ方よ。あなたの女の部分が、篠田さんのおかげで目覚めたのね。」 「女、女って言うなよ。俺はお前の夫だぞ。」 「あなたは私の女。私は女のあなたを愛しちゃったの。それに、もうあなたは私に女として愛されたんだから、」朱美は俺にのしかかってきた。 「もう一度あなたを行かせて上げる。」 朱美に体中を舐められながら俺は思った。朱美の女でも悪くない。いままで、朱美がこんなに積極的に俺を愛したことはなかったし、俺が朱美を愛した気持ちは本物だった。 朱美のテクニックは抜群だった。俺は直ぐに絶頂の一歩手前まで追い詰められる。 「ほら、行きたいんでしょ。」 「ああ、あ、御願い、行かせて。」 「あたしの女になりなさい。」 「行かせて。」 「ほら言うのよ。女になるって。」 「なります。女になりますから。」 「朱美さんの女になるといいなさい。」 「朱美さんの女になります。」 「これからはお姉さまと呼びなさい。」 「ああ。いい。お姉さま。」 「いい娘ね。行かせてあげるわ。」 朱美の指は俺の中で激しく動き、俺は再びエクスタシーの光芒に包まれた。 「い、いい、いく、行くーぅ!!」俺は大きな声を上げていた。 朱美によって、俺は意識してドライオーガスムを感じることができるようになった。 篠田に抱かれると、始めはペニスが勃起するが、アヌスに挿入されるとそこに意識を集中し、下腹に少し力を込めるようにすると、そこから快感が湧きあがってくる。 この快感はペニスで感じる快感を上回り、俺の全身を包み込み、オーガスムを感じても醒めることがない。 何度もオーガスムを感じていると本当に気を失いそうになる。 篠田はそんな俺の様子を見ると、とても嬉しそうだ。 ある朝、俺はあることに気がついて愕然とした。それは、俺の心の変化だった。 俺は、そのとき、自分のための朝食を作っていた。コーヒーを入れ、トーストを焼き、卵とサラダを添える。 朱美との生活の中でも何度もあった作業だ。 しかし、そのとき、俺はそうした作業をしながら、ずっと心の中で篠田のことを考えていた。いや、はっきり言えば、篠田に抱かれ、俺のあそこに篠田のあれを挿入されることを考えていたのだ。 俺はそれを求めていた。今すぐにでもそうして欲しいと思いながら朝ご飯を作り、それを食べ、後片付けをしながらも、ずっと、そのことが心の中から離れない。 その思いはだんだん大きくなり、俺の心を押しつぶしそうになる。 今までの人生も何もかも棄てて、一匹の雌になって篠田に抱かれたい。 俺はそのことを夢にまで見た。 夢の中の俺も、篠田に抱かれることを望み、そのために、そのためだけに全てを考えていた。 俺は、何をしていても、いつでも、篠田のことを考えるようになった。俺の心の大きな部分が、彼のことだけを常に思い続けるようになったのだ。 しかし、それは他のことが少なくなるということではない。今、自分がしていることにはそれなりにちゃんと集中しているのだ。集中していても、同時に篠田のことを考えている。 それは、全く不思議な感覚だった。同時に、複数の思いが頭の中にあって、それが違和感なく並立している。 恐らくそれが女として男を愛するということなのだろう。 女は子供を育てるとき、常に子供のことを頭の中に置く。赤ん坊に何かあったら、直ぐに反応しなければならないからだ。 男のように一つのことに完全に集中するのではなく、複数のことを同時に処理するから細やかな心遣いができる。俺も、食事をしながら髪の毛を自然に捌いたり、スカートの裾の始末に気を配ることができるようになった。 心の片隅で常に篠田のことを想いつづけているうちに俺の心も女のように変化してしまったのだろうか。 ●第二十二章 仕事 俺は朱美の前では彼女の女として振舞わなければならなくなった。 篠田は俺が朱美の店を手伝うことを許してくれ、俺はOLの制服を着て朱美の店で働き始めた。 働くにあたって朱美はいろいろと俺に注文を付け、服の着こなしやメイクなど細かいことを注意される。特に言葉遣いにはうるさく、俺が男の言葉遣いをすると、朱美はそれを数えていて、ベッドではその回数分俺のケツを思いっきり叩くのだ。 「ああん、お姉さま。ごめんなさい。」 「だめよ。あなたは本当に悪い娘ね。」 ぴしゃりとスカートをめくられ、パンティを下げられてむき出しになった尻をたたかれて俺は悲鳴を上げた。 「ひいいっ!お願い。許して。」 「もう二度と、男の言葉を使わないって誓いなさい。」 「誓います。お姉さま。男の言葉は使いません。」 「あなたのためなのよ。これからは篠田さんのためにも女らしくしなくちゃ。」 「でも、お姉さま。私は男...」 とたんに尻をたたかれた。 「何言ってるの!あなたは女よ。女!男に突っ込まれてひーひー喜んでるじゃないの。」 「あん、いやん。」俺は朱美に尻をたたかれて感じてしまった。 「女になったことを思い知らせてやるわ。ほら、見なさい。」 朱美はスカートをめくり、パンティを下ろした。なんと、その下に巨大なディルドのついたペニスバンドをしていたのだ。 「しゃぶりなさい。」 「あん、だめよ。そんなに大きなの。」 「つべこべいうんじゃないの!」 俺は髪の毛をつかまれて無理やりそれをしゃぶらされた。 十分にそれが俺の唾で濡れると、朱美は後ろから俺を犯し、俺のアヌスは極限まで拡張された。 乳首を弄られながら、俺は自分の体の中で朱美のペニスが前後に動くのを感じた。 朱美がスイッチを入れると、それはバイブレーションし始めたのだ。 「ああっ!いい!あ、だめぇ!!」俺は絶叫した。 妻の朱美に犯されながら、俺は何度もエクスタシーを感じ、最後には泡を吹いて気絶した。 朱美の調教とも言える厳しい訓練で、俺は声の出し方も、高い音でかすれ気味に話すようになり、声も、外見も、仕草も全く女らしくなった。 朝は朱美が車で迎えに来てくれ、帰りは篠田が店に来たときは彼の車に乗り、来ないときは朱美に送ってもらう。いずれにしても、俺は毎日のように篠田か朱美に抱かれる。 以前はこんなにセックスをすることはなかったが、俺はこの生活に満足していた。 「どうだ?いいか?」俺の体の上に乗った篠田が上から俺の顔を見おろしながら言った。 俺は何度もエクスタシーを感じていて身体の中にまだ燻り続ける快感に、身悶えしながら答えた。 「ええ。凄くいいの。」ベビードールを着た俺はベッドでは女言葉で篠田と話すようになっていた。 「最近は良く感じるようになったな。男としてやるのと、女としてやられるのはどっちがいい?」篠田の唇が俺の鼻の頭に触れる。 「・・・いじわる。私をこんなにしたのはあなたなのよ。」 「男に戻りたいか?」 俺は自分の身体を包み込むように乗っている篠田の顔を見上げた。全身で感じる彼の体重も今では快い。 「本当は戻りたいわ。でも、私なんか男に戻ってもどうせまともには生きて行けない。あなたに頼って生きて行くしかないの。」 「いやか?」篠田の息が俺の耳朶にかかる。 「いやじゃない。いやじゃないわ。」俺はうなされるように喘いだ。篠田に抱かれているだけで、身体が燃え上がる。 「好きよ。あなたが好きなの。」 「男なのに男が好きなのか?」 「男とか、女とかじゃなくて、あなたが好きなの。あなたじゃなきゃだめ。他の男には興味はないわ。」 篠田の唇が俺の唇に重なってきた。 「可愛いやつだ。」 俺は嬉しくなって篠田にしがみついた。「抱いて。」 篠田に抱かれ、愛撫されると俺の身体中の栓が抜けて、汁が染み出てくる。 涙や鼻水や涎や汗。 絶頂を感じながら失禁したのも一度ではない。 自分を押さえられない自分を恥じていると、篠田は優しく慰めてくれる。 篠田はそんな俺を本当に大切にしてくれ、愛してくれる。俺は妾の立場だから篠田に甘えるようなことはできないので、ただひたすら彼の愛を受け止めるだけなのだが、篠田はなにかにつけ俺のことを気にかけてくれて、俺にはそれが嬉しかった。 俺は篠田が俺を男として愛しているのか、女として愛しているのか不安になることがあった。初めて篠田に抱かれたときはお世辞にも俺は女らしいとは言えなかった。 篠田は俺が女の姿になることを望んだが、整形手術などで体に手を入れることは求めなかった。 しかし、奥様や朱美の適切な指導もあって、俺は自分から男の記号を取り除き、自然に女として振る舞い、人前でも女で通るようになった。自分では自分を男だと思ってはいるが、外見はすっかり女らしくなったことに自信を持てるようになった。 今では篠田のペニスをしゃぶることも喜びで、彼の精液も美味しく感じる。セックスでは何度も昇天させられる。篠田は俺が本当に気をやっていることを知っていて、彼も何度も俺の中に射精するのだ。俺は篠田のセックスの強さにもぞっこんだった。 あるときなど、昼間に突然店に来て、俺を連れて鍵のかかる店長用の事務室に入ると、俺のパンティとパンストを脱がせスカートをたくし上げるとあっという間に俺のあそこに挿入し、激しく腰を動かして中に射精するとそのまま、電光石火の如く次の仕事先に向かって行った。 店の売り子達は俺が女じゃないことを知っているようだか、女として扱ってくれる。俺の前で平気で着替えたり、同じトイレを使うことを黙認してくれている。 俺は朝店に行くと、レジ裏でブラウス、ベストとタイトスカートのOL風の制服に着替える。ブラウスにはボウタイがついている。かかとの低い靴を履き、ストッキングはベージュ系の地味なものだ。 売り子達が来る前にお湯を沸かし、事務所の掃除をし、彼女達が出勤してきたらそれぞれの好みでお茶や紅茶や珈琲を出す。 店が開くと、俺は暇になるが、伝票のコンピューター入力や、発注・仕入の入力、経理処理など、結構やることはある。売り子に頼まれてコピーを取ったり、お客様のお茶を入れたり、本当にOLのやるような仕事をやるのだ。 それでも、俺は仕事を楽しんだ。休み時間に売り子に混じって事務所で四方山話をするのが楽しいし、一緒にトイレでメイクを直すのも楽しかった。 このまま、篠田や明美の愛人として、彼等の愛を受け、OLとしてささやかな収入を得る生活に俺は満足しようとしていた。 ●第二十三章 妊娠 そんなある日、突然、篠田が奥様を連れて店に来た。 「純子さん。ちょっと来なさい。」 篠田に言われ、俺は二人に付いて、奥に入った。 俺は篠田が奥様を連れてきたことに不安を感じた。 奥の鍵のかかる部屋に入ると、篠田は俺に言った。 「純子。翔子が妊娠した。」 俺は、ドキッとした。 「お、おめでとうございます。」 「俺は、もう一年以上翔子とはやっていない。」 「...。」俺は覚悟を決めた。 「お許し下さい。全て、私が悪いのです。」 「よくやったぞ。純子。」 「え?」 俺は俺が奥様と寝たことを篠田に責められるものと思っていた。 「俺はずっと子供が欲しかった。だが、俺には翔子に子供を生ませる能力がなかったんだ。」 「の、能力って?」 「俺は精液は多いが、精子が少ない不妊症なんだ。」 俺は篠田の隣で微笑む奥様の顔を見た。 「篠田は私たちのことを許してくれたのよ。」 「許すも何も、俺が愛する二人が愛し合うなんて素晴らしいことじゃないか。そのうえ、俺が欲しかった子供まで恵まれた。生まれてくる子供は俺たちみんなの子だ。」 俺は状況を理解するのに時間がかかった。それは俺の想像を超えていた。 篠田は奥様が妊娠したことに気づき、奥様を問いただして子供の父親が俺であることを知ったらしい。彼は驚いたようだが、子供ができたことを喜び、その子を自分の子供にすることにしたのだ。 「この子は俺の子供にする。もちろん、母親は翔子だし、純子も親だ。」 俺は篠田が何を言おうとしているのかわからなかった。 「純子さん。この人、私とあなたと一緒に暮らして欲しいって言ってるのよ。」 奥様が微笑みながら言った。 「え?わたしと奥様と一緒にですか?」 「そうさ、お前達愛し合っているんだろう?」 「そ、そんな。」俺のつぶやきを覆うように奥様は大きな声で言った。 「そうよ。私たち愛し合っているの。そうね。純子さん。」 俺が答えに窮していると、篠田が言った。 「それは素晴らしい。俺の愛する翔子と、純子、そして翔子と純子もお互いに愛し合う。俺たち三人はお互いに愛し合っているんだ。それなら一緒に暮らさなきゃならん。」 篠田は有無を言わせなかった。 ●第二十四章 妻妾同居 俺は慌しく引越しをして、篠田の本宅に入った。 「妻妾同居ね。」 奥様は俺を玄関に迎えるとにっこりと笑って言った。 「奥様、済みません。」 「誤る必要なんかないわ。全てうまく行ったのよ。」 俺は自分の矜持を心得ていた。法律的には俺は篠田の妻でもなければ、奥様の夫でもない。生まれてくる子供の父親ではあるが、父親として子供の前に立つのは篠田なのだ。 「私ね。あなたにこの子の乳母になって欲しいの。」 「乳母?」 「ええ。私、今でも自分はモデルだと思ってるんだけど、授乳をするとバストのラインが崩れるの。でも、子供は母乳で育てたいし、だから、授乳はあなたにやって欲しいの。」 「無理ですよ。私は女じゃありません。」 「そんなことないわ。男に乳首が付いているのは何のためだと思う?本当に必要になれば、男の胸からだってお乳が出るそうよ。私、産婦人科の先生に確かめたの、男でもちょっとホルモン注射をすればお乳が出るようになるそうよ。そうすればあなたはこの子の乳親、乳の字がちょっと違うけど、親になれるのよ。それに、胸が膨らめば女性の服ももっと似合うようになるわ。」 まったく、俺は混乱した。 でも、俺が親として生まれてくる子供にできるのはそれぐらいしかないことに俺は思い至った。父親には篠田がなるし、母親は奥様だ。乳母でも乳親でも俺は自分の子供に少しでもかかわりたいと思った。 俺は奥様と一緒に産婦人科に行き、事情を説明して、女性ホルモンの処方を受けることにした。 その夜、俺は夕食後、風呂に入った後で篠田に奥様の寝室に呼ばれた。 奥様は美しいナイトガウンをお召しになって、その下には何もつけていないようだ。 「今日から一緒に暮らす。僕は僕達に何の秘密もあってはならないと思う。」 俺は篠田が何を言っているのか分からなかった。 奥様は俺のパジャマを脱がせながら言った。 「こそこそ隠れてやっちゃいけないそうよ。」 「隠れてって...」 俺が戸惑っていると、奥様はガウンを脱いで裸になった。 「愛し合うなら、隠れずにやって欲しいんですって。」 俺は全裸の奥様を前に、目がくらむ思いだった。 「お許しください。」俺は奥様との不倫をとがめられると思った。 奥様は俺のブラジャーを外し、パンティを脱がせた。 「さあ、寝なさい。」 裸になった俺に、全裸の奥様が覆いかぶさって来た。 しかし、俺のペニスは全く反応しない。女の立場で愛される生活を続けて来たので、男として女を愛することができなくなってしまったのだろうか。 ところが、篠田が俺の上にかぶさって来て、キスされると、俺は敏感に反応してしまった。 「あら、元気になってきたわね。」 俺は恥ずかしくて、消えてしまいたかった。奥様ほどの美しくセクシーな女性の裸体を見ても、俺の体は反応せず、篠田にキスされて反応してしまったのだ。 「あなたは自分が女だと思っているからなのね。でも、今は男に戻りなさい。」 奥様の指が俺のペニスを微妙に刺激し、それは硬くなった。篠田は少し離れて俺たちの様子を見ている。篠田に見られていると思うだけで、俺は体の中が熱くなった。 奥様は俺の腰の上にまたがり、俺の勃起したペニスを股間に導こうとした。 「ああ、大丈夫ですか?」俺はあえぎながら言った。 「大丈夫よ。妊娠10ヶ月ぐらいまではいいそうよ。ただし、あまり激しいのはだめ。」 俺のペニスが奥様のバギナに吸い込まれるように入った。それはもうしっとりと濡れていた。 奥様は自分で胸を揉みながら、腰を動かし、自分で快感をコントロールしてそれを楽しむ。 「ああ、いい。いいわ。」 奥様がオーガスムスの直前になったとき、篠田が奥様の体を優しく倒し、挿入した。 「あ、行く。行くぅ!」 篠田は奥様の快感の波が静まるのを待ってからまだ勃起したままのペニスを抜き、俺の後ろから挿入してきた。 俺は奥様の目の前で篠田に犯される姿を見られるのがとても恥ずかしかったが、すぐに恥ずかしさを忘れるほどの快感に全身が包まれ夢中になってしまった。 俺は二階の篠田の部屋を挟んで、奥様の部屋の反対側の部屋を与えられた。 奥様の部屋はお仕事用のコーナーとベッドやドレッサーのコーナーそして大きなウォークインクロゼットがあり、天窓からお日様の光が差し込んでくる。俺の部屋にもダブルベッドがあり、作り付けの箪笥があって、本棚と机があった。もともとは篠田の書斎なのだろう。 家には良子さんという女中さんがいたが、この人は奥様の付き人で、奥様のお世話をするのが仕事だ。 良子さんはどことなく俺のことを軽蔑している様子だ。 朝起きると、俺は身支度をして着替え、一階の居間に降りる。 良子さんが朝食の支度をしている。 「お手伝いしましょうか?」 「けっこうです。」こっちも向かないで断られた。 朝食は篠田と奥様と三人で食べる。奥様は映画のことやファッションのことなどいろいろなことを話され、篠田も相槌を打つが、俺は話に入っていけない。 「純子さんもこれからは一緒に映画や演劇を楽しみましょう。」 「そうだ。そうするといい。」と篠田。 「いや、いけません。私のようなものがご一緒しては御迷惑をおかけします。」 「大丈夫よ。あなたそのままで、充分女性に見えるわ。」 「いえ、喉仏もありますし、見る人が見ればわかります。」 「あなたの喉仏はそんなに目立たないわ。それにあなたが女じゃないってわかっても、私は気にしないわよ。」 「ありがとうございます。でも、朱美の店も手伝ってあげたいし、家のことをするのも好きなんで、しばらくはそうさせてください。」 「じゃ、いつでも気が向いたら言ってね。一緒にいきましょう。」 「はい。」 奥様は午前中はアドバイザーをしているお店を回られ、午後はほとんど毎日のように映画や演劇、コンサートや展覧会に行かれ、夕食はご一緒したお友達と高級レストランや料亭でお召し上がりになり、家ではあまり食べない。妊娠していても生活を変えたくないと言って、そのままだ。 篠田も毎日仕事や接待で帰りが遅く、良子さんも奥様の車を運転して、付いて行くので昼間は家には俺しか居ない。篠田は俺が朱美に使用人として使われるのをあまり快く思わないので、俺が朱美の店を手伝うのは店が忙しいときだけになり、家に居ることが多くなった。 良子さんは俺がキッチンに入ることを嫌がるが、俺は自分のや篠田が早く帰ってきたときには夕食を作らなければならない。 昼夜と毎日二回食事を作っていて、俺は自分に料理の才能があることに気が付いた。料理をすること自体が楽しいし、素材の組み合わせで最後にどんな味になるかを予測することができる。篠田もそんな俺の手料理を喜んでくれた。 材料は良子さんが週末にまとめ買いをしてくれるが、俺はときどき、近所に買い物にも出るようになった。そんなときは、タートルネックのセーターにスカートを履いて行く。どれも、奥様にいただいたものだ。髪が伸びているし、化粧をすれば俺が男とは分らないだろう。声も女らしい声が出せるようになったし、スーパーなら店員と会話しなくてもよい。 何度か女の姿で外出して、俺は自分が世の中では女として通用することに自信を持った。俺はもちろん、自分のことを男だと思っている。しかし、篠田との契約で彼の妻になった以上、女の姿をしなければならない。中途半端な女装は返って恥ずかしく、やるなら徹底的にしないといけなかった。 毎日時間をかけて手入れしているので俺の髪は大きくウェーブのかかった長い巻き毛になり、眉も細く女らしいカーブを描いている。無駄毛は一本もなく、肌もシミのない白い肌になった。化粧の乗りも良く、メイクアップも慣れて上達した。 だから、外出先でも女として振舞う。女性用のトイレに入ったりはしないが、女物の服や小物を買うのも男なら躊躇するところだが、平気だ。 臨月が近付くと奥様も外出を控えられ、篠田は、仕事を早く切り上げて家に帰って来ては奥様のお腹に耳をあてるのを楽しみにするようになった。 「まだかな。早く動かないかな。」 俺の目には篠田は奥様を今まで以上に愛しているように見えるが、夜になると俺の部屋に来て、俺を抱くのだ。 「ああ、あなた、奥様はいいの?」。 「あいつもわかってるさ。今は妊娠しているからセックスもなしだ。」 「わたし、奥様に申し訳なくて...」 「気にするな。お前も、翔子も僕のものだ。文句は言わせん。」 そうは言っても俺も篠田に抱かれると、嬉しくて無我夢中になってしまう。 このごろではただ抱かれるだけでなく、自分から篠田の上に乗り、下から挿入された状態で腰を使うようにもなった。こうすると自分で快感をコントロールできるので、絶頂感をより長く味わうことができる。 オーガスムの直前で動きを止め、今では胸まで伸びた髪の毛を揺らしながら快感に包まれていると、篠田の手が俺の髪の先で乳首を悪戯し始めた。 「だめよ。感じちゃう。ああん。だめ。」 俺はコントロールできなくなって、ぶるぶると身体を震わせ、エクスタシーに包まれた。俺は一回のセックスで篠田に何度も行かされる。そしてそのたびに篠田がよりいとおしく感じられるようになった。 女性ホルモンの注射と薬の投与で、俺の胸は、奥様のお腹と比例して膨らみ始めた。 はじめは硬いしこりのようなものが乳首の下にでき、それがだんだんに大きく、柔らかくなって行った。四ヶ月目には乳首が引っ張られて敏感になり、動くと服にこすれてブラジャーなしでは痛くてたまらなくなった。 ●第二十五章 母の死 そんなとき、長く意識不明だった母が危篤状態に陥った。 母の病院には俺と朱美が交代で週に一二度通っていたが、俺が女の姿で行っても全く意識がなく、眠ったままだった。 病院の医者や看護婦には朱美が母の娘ということで説明した。 「義母は、どうでしょうか?」と朱美。 「そうですね。あと一週間が山でしょうね。」若い医者は事務的に言った。 母が危篤となり、俺は病院に泊り込んで看病した。 病室では髪を後ろでまとめてポニーテールにし、女物のスェットシャツとジーパンを着た。医者も看護婦達もどう思ったか知らないが、俺を女として扱ってくれる。 最後の夜、俺が母の手を握ってふっと転寝をしていると、母がその手を握り返してきた。 母の顔を見ると、目を開け、俺の方を見ている。 「お母さん。」 俺が呼びかけると、一瞬、母の目が微笑んだような気がした。 ゆっくりと母の唇が動き、かすかに 「純一。」と言った。 「お母さん。ごめんなさい!」 「いいのよ。」か細い声で、母はそう言ったような気がする。それとも、それが最後の息だったのだろうか。 母の身体につながれた検査機器が、けたたましく警報を鳴らし、医者と看護婦が駆けつけてきた。 病院から一度篠田の別宅に母の遺体を引取り、篠田が手配してくれて、近くの施設を借りて形ばかりの通夜と葬式をすることとなった。 当然、親戚達が地方から上京してくる。俺は胸も膨らんみ、髪の毛も伸びていたし、例の結婚式で性転換をしたことになっていたので女で通すことにし、黒っぽいカットーソーに黒のロングスカートを履いて出迎えた。 親戚達が次々と焼香に来る。しかし、誰も俺に話し掛けてこない。俺は一人で針のムシロに座るような気分で、接待した。 「おい、純一。」叔父の弓彦が来て言った。 「前から、俺はお前がなよなよしたやつだと思っていたが、やっぱりこれだったのか。」 そう言ってオカマの身振りした。 「済みません。」俺は頭を下げた。 「あれは、もう取ったのか?」興味津々と言った様子だ。 「叔父様。私、御墓参りしてもいいでしょうか?」 母は死んだ父の墓に入ることになっていた。墓は叔父の家の近くにあった。 「お前は親不孝をしたからな。姉さんも一度は嫁さんをもらった息子がまさか女になるとは思ってなかったろうからな。でも、安心しろ。俺はお前の味方だ。」 そう言って叔父は俺の肩に手を置いた。その置き方がなんともいやらしい。 「叔父様、よろしくお願いします。」 鳥肌が立った。 「俺はな、少しはそっちの方も心得があるんだ。」 俺は叔父のニヤニヤした顔を見ながら思った。 この叔父は昔、事件を起こして刑務所に入っていたことがある。もしかしたら刑務所の中で男同士の愛に目覚めたのかもしれない。 いずれにしても味方になってもらえそうなので、俺はその叔父を前に立てることにした。 叔父は親戚の中ではつまはじきにされていたが、この葬式では張り切っていろいろと仕切ってくれた。もっとも、やたらと俺に触りたがるのには閉口したが。 親戚達は近くのホテルに宿を取ったが、弓彦叔父は母の通夜に立ち会うと言い出した。 ●第二十六章 通夜 俺は線香と灯明が絶えないように、見守りながら母の遺体の脇で夜を過ごした。 ガタンという音に驚いて振り返ると、叔父が立っていた。 「起きていらしたんですか?」 「ああ、いろいろと思い出されてな。」 叔父は俺の横に座った。かなり酔っている様子だ。 「お前、本当に男の妾になったのか?」 俺が女の喪服を着て葬式に出たのも、俺と篠田がそういう関係であることを隠さないという篠田の方針に従ったからだったし、親戚達にそういう目で見られることも覚悟のうえだった。 俺は頷いた。 「前から男が好きだったのか?」 「こんなときに、そんな話、止めてください。」 叔父の酒くさい息が近付いてきた。 「俺もお前の同類だ。もっとも、俺はやるほうだがな。」 俺は自分が危険な状態にあること感じた。 「お母さんの前ですよ。」 「構わん。お前を一目見たときから、俺は...」 叔父は俺に抱きついてきた。 「人を呼びますよ!」 「誰もおらん。この家には俺たち二人だけだ。」 俺は必死に抵抗した。 しかし、常日頃肉体労働で鍛えている叔父に、ほとんど家の中で暮らしてきた俺がかなうわけがなく、それ以上に叔父はなんとも手馴れていた。恐らく、強姦をやったのも一度や二度ではないだろう。 片手で俺の両手を掴んで抵抗できなくし、脚を俺の股にこじ入れて、無理やり開かせる。あっという間にブラジャーごとカットソーをたくし上げられ、俺の膨らんだ乳房に吸い付いてきた。 俺は悲鳴を上げた。 「た、助けて!!」 「静かにしろ!さもないと痛い目にあわせるぞ!!」 俺は心底、恐怖を感じた。『犯される!』 叔父の手が俺のパンティにかかる。 「誰か!やめて!!」 もがいても、叔父から逃げることができない。 俺はいいようのない絶望を感じた。それは、このまま犯されてしまったら、篠田に棄てられると思ったからだ。 そんなことになったら死ぬしかない。 そのとき、ふいにドアが開いた。 「純子!!」 篠田だった。 俺の目の前で、二人の男が激しい格闘を始めた。 篠田の膝蹴りが叔父のみぞおちに入り、叔父は床に倒れ込み苦しさにもがいた。 「出て行け!!」 篠田がさらに攻撃する姿勢で迫ると、叔父は床を這いつくばりながら、ドアを出て行った。 俺は恐怖が消えず、ぶるぶると震えながら泣いていた。 「純子。大丈夫か?」 俺は篠田に抱きつき、大声で泣き始めた。 「大丈夫か。どこか怪我はしていないか?」 「え、ええ。大丈夫。危なかったけど、間に合ったわ。」舌の根が合わない。 「抱いて。」 篠田にきつく抱かれ、その胸の中で暖かさに包まれていると、俺はやっと安心した。 俺が借金やあれこれで苦しんでいたとき、親戚はそうと知っていても誰も俺を助けてくれなかった。俺はこの葬式を済ませたら、一切彼らとは付き合わないことを心に決めた。 ●第二十七章 授乳 奥様が臨月になると、俺の胸もいよいよ膨らみ、それは乳房と言えるほどの大きさになった。ブラジャーのカップを大きくしなければならなくなり、風呂場でマッサージしていると、乳首から乳が出るようになった。 奥様は医者に要求して、あえて自然分娩をせず、帝王切開で出産して、体の線が崩れないようにした。 生まれた子供は男の子だった。 奥様のベッドの脇に座り、俺は子供に俺の乳首を含ませた。 弱々しく泣いていた赤ん坊は俺の乳首に吸い付くと、しっかりと乳を吸い始めた。 乳首を吸われ、乳を飲ませると俺は涙が出るほど嬉しくなった。 「吸ってるわ。吸ってる。なんて可愛いんでしょう。」 「しっかり育ててね。お父さん。」奥様は俺の手を握って言った。 子供は篠田の子供として有紀と名付けられ、出生届が出された。 俺は女性ホルモンの影響か情緒が不安定になった。すぐに泣いたり、笑ったりし、ひどく落ち込んだり、やたらとハイになったりする。 その夜、俺は篠田の胸に抱かれながら、泣きじゃくっていた。 「お願い、私を棄てないで。」俺は意味も無く取り乱して、篠田にしがみついた。 「何でも、どんなことでもするわ。あなたなしでは生きていけないの。」 「誰がお前を棄てるもんか。何を恐れているんだ?」 「怖いの。凄く怖いの。」 「安心しろ。一生お前の面倒を見るよ。」 「ああ、抱いて。」 俺は篠田に抱かれていつものように何度もオーガスムを感じ、泣きながら感じまくった。 俺は身も心も篠田のものになっていた。篠田のためならどんなことでもできる。死ねと言われれば本当に死ぬだろう。 篠田に愛されると俺の乳首からはそれこそピューピューと乳が吹き出て、ベビードールの胸をびっしょりと濡らした。 赤ちゃんが泣き始め、俺はぐったりと疲れた体を起こすと、乳首を消毒し、赤ん坊に含ませた。赤ちゃんはなんともいえない力加減でぐいぐいと吸い始める。 「ああ。いい子ね。」 赤ちゃんに乳を吸われると不安な気持ちが消え、なんとも言えず幸せな気分になった。 「こっちは僕のもんだ。」そう言って篠田がもう一方の俺の乳首を吸い始めた。 俺は乳首を吸われる快感に悶えた。 「凄く乳が出てる。」乳首を吸いながら篠田が言った。 「ああん。いいわ。全部吸って。」 乳首を吸われる快感に俺は勃起していた。篠田がベビードールの下のTバックパンティに手を入れてきて、勃起した俺のペニスを弄び始めた。 「だめよ。赤ちゃんがおっぱい飲んでるんだから。」 俺は篠田の手をどけようとした。 「おっぱいを吸われてちんちんをおったててるなんて、変なお母さんだな。」 「愛よ。どっちも愛。女だって赤ちゃんにおっぱいを吸われてるとあそこが濡れるそうよ。」 そういいながら、俺は篠田にペニスをいじられて感じてしまっていた。 「だめよ。だめだったらぁ。」 俺は篠田と赤ちゃんの二人から攻められて、悶え狂った。 ●第二十八章 育児 こうして俺の忙しい毎日が始まった。 俺は乳母として赤ちゃんを育て、妾として篠田に抱かれ、奥様には男の愛人として奉仕し、朱美にはレズの女役として抱かれる。優先順位は篠田にあるが、篠田がいないときは奥様が、二人ともいないときは朱美が俺を愛し、俺は毎日のように三人の誰かと愛し合った。 女性ホルモンの影響か俺のペニスは勃起しなくなり、俺は朱美に教わったレズのテクニックで奥様に奉仕するようになった。 奥様はもともと子供が好きではないようで、しかも産まれたのが男の子でお人形にもできないから、全く育児に興味を示さない。だから、俺が母親としての仕事を全てやった。 生まれたばかりの時は夜中でも有紀が泣き出すと乳をやり、オムツも紙おむつではなく布のオムツを使った。 うんちのついたオムツは、たらいと洗濯板を使って手で洗うのだが、少しも汚く感じない。 吐いた乳で服を汚されることもしょっちゅうだが、とにかく、俺は有紀がいとおしくて仕方がなかった。 朝、篠田と奥様が仕事に出かけると、俺は家事と育児で忙殺される。夜は夜で深夜まで愛され、朝は一番に起きて朝ご飯を作ったり、奥様のお化粧やヘアメイクのお手伝いをしなければならないので、ほとんど寝る時間もなかった。 昼下がり、洗濯物を取り込んでアイロンを当て、ドレッサーにしまうと、夕食までの間、つかの間の寛げる時間がある。 お昼寝する有紀に添い寝している内に、すっかり寝込んでしまった。 「あーたん!」「あーたん!」 気が付くと有紀が起きており、俺の乳房をたたきながら言っている。 「はいはい、おっぱいね。」 俺は起き上がり、有紀を抱き、ブラウスの胸のボタンを外し、授乳用のブラジャーのカップを外して乳首を出した。 首もしっかり据わってきた有紀はすぐ吸い付いてきて歯の生えかけた口でぐいぐいと吸う。 ときどき強く乳首をかまれると、頭のてっぺんまで激痛が走る。でも、俺は思う存分乳を吸わせた。何もかも全部、吸われてもいいような気分だった。 その日から、有紀は俺を「あーたん」と呼ぶようになった。 ●第二十九章 送迎 有紀は物心つくとすぐ、篠田の方針で英才教育の幼稚園に通うこととなった。 有紀のお弁当を作ることや、幼稚園への送り迎えの仕事が増えた。 園の方針で運転手付きの車での送り迎えが禁止されていたからだ。俺は篠田のベンツで有紀を送って行くが、他の母親を見ると、皆、ブランド物のスーツを来て、車を運転してきたとは思えないようなハイヒールを履き、ヘアもメイクも一分の隙もない。 そのことを奥様に話すと、 「純子さん、有紀のためにきちんとした服を着なければ駄目よ。そうしないと、幼稚園で他の子からいじめられるわ。」とおっしゃった。 次の日から俺は有紀の幼稚園の送り迎えに、奥様が選んだ服装をしなければならなくなった。 バックシームのストッキングを履き、ボディースーツを着込んでウエストを締める。 有紀が乳離れしてからは女性ホルモンをやめているので、俺の胸はみるみるしぼんだが、それでも、乳首はブドウの粒くらいになり、乳房もAカップ程度のふくらみが残った。その胸にシリコン製のパットを入れてボリュームを出すと、ブラウスの胸元に谷間ができる。 ブランド物のスーツを着て、ハイヒールを履き、フルメイクの上にじゃらじゃらジュエリーを付けて行かなければならなくなった。 この送迎ファッションは毎晩奥様が翌日の分をコーディネイトされ、俺はそれを試着しなければならない。 幼稚園に着くとドライビングモックというスリッパみたいな靴をハイヒールに履き替え、ベンツを降りる。他の母親達の視線が俺の体にまとわりつく。 俺は、有紀の手を引いて入口に向かうが、ハイヒールが不安定なので、一歩一歩腰を入れて歩かねばならず、どうしても腰を振る歩き方になる。 出迎えの若い娘みたいな先生に有紀を預け、有紀に手を振って車に戻る。 俺が奥様の選んだ服を着て送迎を始めてから、明らかに他の母親の服も変わった。 間違いなく、値段が一桁高くなったようだ。 ●第三十章 福の神 「全くお前は福の神だ。」 俺は快感の余韻に浸っていた。 「え?」 「お前と一緒に暮らし始めてから、何もかもうまく行く。」 全身が溶けたばかりの柔らかいロウソクのように力が入らない。皮膚の裏側に金属の粉を撒いたように、快感が漂っている。 「会社の規模はもう十倍だ。中国の工場のプロジェクトでは、相手の罠を逆にうまく利用して、濡れ手で粟の大儲けができた。」 「そう。」俺は中国との取引では決定的な失敗をしている。そんな話に興味はなかった。 「女房の会社も絶好調だし、朱美さんのお店も寝る間もない程好調だそうだ。」 「朱美...」俺はその名前をずいぶん長いこと忘れていた。 さっきまで燃え盛るように火照っていた身体がすっと醒めたような気がした。 篠田に吸われた乳首や首筋、咬まれた耳、彼のペニスに貫かれたあそこがジンジンと余韻を残している。 「ちょっと試してみたくなってな。危ない株を買ってみたんだ。」 篠田の指が俺の乳首をいじり始める。 「あん...ああ...」俺は溜息をついた。 「それが大化けしてな。あっという間に一億以上の大儲けさ。」 「よ、良かったわね。」俺はせつなくなって、身体をよじった。 「愛してるよ。本当にお前は福の神だ。」 篠田が覆いかぶさって来て、唇が重なった。 夢中になって彼の舌を貪っている内に、俺は身体の中から燃え上がる炎に身を委ね、快楽の波に翻弄され、何も分からなくなった。 ●第三十一章 性転換 しばらく会わなかった朱美から連絡があり、話したいことがあるという。 「どうしたの?風邪でも引いたの?声が変よ。」 「大丈夫。篠田さん、出張なんでしょ。じゃあ、これから行くから。」 俺はすっかり朱美の女になっていたから、また、朱美に抱かれると思い、彼女の好みに合わせて短いスカートを穿き、胸元の開いたカットソーに着替え、ヘアスタイルもメイクもフェミニンな感じにした。 玄関のチャイムが鳴り、俺は出迎えた。 「いらっしゃ....」俺は絶句した。 玄関に入って来た朱美の様子が一変していたのだ。 「久しぶり。」 それは確かに朱美だった。 しかし、顔にはひげがあり、豊満だった胸は無くなっていた。 「あなた、いったい...」 朱美は俺の肩を抱いて居間に向かいながら、言った。 「俺は、男になった。」 「え?」 その声はまだ女の声だったが、しわがれたようなトーンが混じっている。 「どういうことなの?」 「俺はな。男になったんだ。」朱美はドシンと両足を広げてソファーに座り込んだ。 「わ、私が女になったから、男になるってわけ?」 「分かったんだ。」朱美は俺を見つめて言った。「お前が篠田さんの妻になって、女になって、女のお前を愛して、分かったんだ。俺は男だと。」 「あなたは女じゃない。レズビアンなんでしょ?男は嫌いなんじゃないの?」 「レズビアンは、男の俺が女を愛する方便さ。それも分かった。ずいぶん前から、俺は女の身体に閉じ込められた男だったんだ。」 俺は全く混乱した。 「じゃ、どうして私と結婚したの?」女の姿で言えるセリフじゃないと自分で思った。 「俺だって、悩んだんだ。身体は女なんだから、女になるべきだって。」 俺は朱美の体の変化にドキドキと胸騒ぎがした。手足の脂肪が無くなり、明らかに筋肉が盛り上がっている。 「でも、お前が女になって分かった。俺は男だって。だから、手術を受けた。」 俺は心臓が飛び出しそうになった。 「しゅ、手術って...。」 「俺は男になった。」 「性転換手術を受けたの?」 「そうだ。」 俺は朱美の頬に触った。そこに生えている髭は本物だった。 「いつ受けたの?」 「もう、半年になる。」 俺が、有紀の育児にてんてこ舞いしている間に、俺の妻は性転換して男になっていた。 「それで、どうするの?」 「...どうもしない。」 「どうもしないって、私はどうすればいいの?」 「お前は、そのままでいい。」朱美が俺を抱いた。 「私は、私はあなたを愛してたわ。」 「俺は、女として愛されるのは苦痛だった。」 「・・・」俺は朱美の顔を見上げた。 「今は、俺は、男として、女のお前を愛してる。」朱美は苦しげな表情で言った。 「お前が女になって、俺は、俺は、始めて心の底からお前に愛情を感じたんだ。」 「私は、性転換するのは嫌よ。」 「もちろん、お前はそのままでいい。そのままでも十分に女だ。」 朱美は俺をソファに押し倒し、スカートのすそから手を入れて来た。 俺はひどく混乱した。 「ああ、駄目よ。私は篠田の女。他の男と寝ることはできないわ。」 「何言ってるんだ。俺たちは夫婦じゃないか。」 朱美は俺のパンティを脱がせながら言った。 窓の外が明るくなっていた。 俺はまったく口も利けないほど、ぐったりとして、腰が抜けたように、身動きもできない。 ほとんど一晩中、俺はイカされまくった。朱美は俺の身体中のつぼというつぼを心得ていて、ねっとりと、しっとりと俺を追い上げる。 ドライオーガスムは快感が失われることなく、次々に高まっていく。 俺は最後は訳の分からないキラキラ光るものの中に包まれて空中を漂っていたような気がする。 気が付くと朱美がベッドの脇に全裸で立っている。 首が男にしては細すぎるが、胸は手術の後が痛ましいが乳房がなくなり、トレーニングをしているのだろう、肩や腹筋が発達し、股間からはソーセージのようなペニスがぶら下がっていた。 はっきりとは覚えていないが、あのペニスをしゃぶったような気がする。 「小便してくるよ。」 俺は男便所に立小便をしにいく妻の後姿を見送った。その尻には以前のような女性的な丸みはなかった。 朱美は俺の戸籍を使って、男として会社の経営をするという。 やはり男の方が事業を行うには都合がいいというのだ。 「だから、離婚はしないよ。俺たちはこれからも夫婦だ。もちろん、お前にもちゃんと金を入れる。」 俺は別に金に困ってはいなかった。 篠田にもらったクレジットカードはデパートでもスーパーでも使え、なんでも自由に買ってよいと言われていたが、服や靴はほとんどが奥様にもらったもので足りるし、下着類は朱美、今は俺の男の名前である純一を名乗っているが、彼が定期的に補充してくれる。 朱美は約束通り、毎月俺に現金書留で送金してくる。明細を見ると役員報酬とあるから、俺は朱美の会社の役員にでもなっているのだろう。 俺はそれを有紀のために設けた口座に貯金したが、すぐに残高が一千万を超えてしまった。 ●第三十二章 子供 篠田は有紀を異常に可愛がり、乳離れすると、一緒に寝るようになった。 遊園地や動物園にも行き、そんなときは篠田と奥様が有紀を連れて歩く。 俺は少し離れて、有紀の着替えなどを持って付いて行く。 「あーたん!」有紀に呼ばれると、俺は有紀にジュースをあげたり、お菓子を上げる。 「有紀さま、お菓子ですよ。」俺は夫婦の前では有紀をそう呼ぶ。 奥様はすれ違う人の誰もが振り返るような絶世の美人だ。その血が有紀の中にも流れている。 二人が遊園地の遊具で遊ぶ姿は、まるでその周りに天使が飛び交っているような、この世のものとも思われない美しさだった。 「あーたん。」 俺が、洗濯物にアイロンを当てていると、有紀が部屋に入って来た。 「あ、今、アイロンを使ってるの。危ないから、近づかないで。」 「うん。わかった。」有紀は部屋の入口の脇にちょこんと座り、俺の作業を見つめている。 「どうしたの?何かあったの?」 「あーたん。僕のこと好き?」 俺はアイロンを使う手を止めた。 「もちろん。あーたんは有紀さまのこと、世界中で一番好きよ。」 「僕も、あーたんが好きだよ。」 「...ありがとう。本当に嬉しいわ。」 「あーたんがお母様だったらいいのに。」 俺は有紀の目を見つめた。 「有紀さまのお母様は世界で一番素晴らしい方よ。」 「うん、でも。」有紀は立ち上がって俺の方に近付いて来た。 「お母様は僕を抱いてくれない。」 そういえば、俺も奥様が有紀を抱いたところを見たことがなかった。 「...あーたんは有紀さまのお母様じゃないけど」俺は有紀を抱いた。 「いつでも抱いてあげる。寂しかったら、いつでもいらっしゃい。」 「ありがとう。あーたん。」有紀は俺に抱かれたまま安心したようにつぶやいた。 ●第三十三章 疑惑 俺の心の中に、ひとつ、わだかまりができた。 篠田の言った、中国の工場の大成功という話しだ。 『それがどうしたって言うんだ。』俺は自分に言い聞かせた。 俺の人生の中で今ほど幸せな時期はあっただろうか。 俺の周りにいるのは俺を愛してくれる人ばかりだ。 俺が愛する有紀ともいつも一緒にいられる。 金の心配も、何かの責任も全くない。 でも、そう思えば思うほど、俺の頭の中にわだかまりが膨らむ。 ある日、俺は篠田の書斎を掃除していた。 本棚の本に埃が積もっていたので、虫干しのつもりで、俺はそれをベランダに広げたレジャーシートの上に広げて干した。 その中の一冊から一枚の写真が落ちた。 俺はその写真に写っていた女性に見覚えがあった。 彼女は朱美のつぶれた前の店で一緒に働いていた女性で、朱美は誰とは言わなかったが、なんとなくあの頃の雰囲気で、後で思うと彼女が朱美が入れあげたレズビアンの愛人じゃないかと思う女性だった。 何でその写真がここにあるのだろう。 写真が挟んであった本は文庫本で、他に変わった点はなにもない。 でも、よく見ると、その文庫本は篠田が読みそうな本ではなかった。 篠田の趣味はハードボイルドや推理小説だ。その本は古典文学だった。 俺は篠田に古典文学の素養や趣味があるとは全く知らない。 それからしばらくして、篠田の会社のウェブサイトに中国の工場の稼動開始を記念したイベントの写真が掲載された。 俺は自分の目を疑った。 その写真に、俺を騙し、俺の会社を倒産に追い込んだ詐欺師が写っていたのだ。 なんと、彼は新工場の事務長だった。 ●第三十四章 泥棒 ある日、有紀を小学校に送り出し、洗濯を済ませて、ファッション雑誌を読んでいると、勝手口でガタンと音がした。 『猫かな?』 ふっと見ると、カウンターキッチンの向こう側に、ナイフを持った若い男が立っている。 『・・・!!』 「お、おい。」 「あなた、だれ?」 「うるさい。金を出せ。」男はナイフを差し出しながら言った。 「いいわ。お金ならあげる。お財布はそこのバッグよ。」 男はバッグをあさり、財布から一万円札の束を取り出した。 「結構持ってるじゃないか。これだけじゃないだろう。」 「現金は銀行よ。ここにはないわ。」 俺はソファに座りながら言った。 テーブルの裏側に、ホームセキュリティの非常ベルのスイッチがある。 「宝石とかあるだろう。」 「少しなら、あるわ。」 俺はテーブルに手を突いて立ち上がりながら、裏のスイッチを押した。 「ちょっと待て。」 俺はスイッチを押したことがばれたかと思い、ドキッとした。 男は俺の背中に回り、ナイフを俺に見せつけながら、俺の身体に触り始めた。 「お前は俺の好みの女だ。」 「だめよ。お願い、許して。」 男の手が俺の乳房をまさぐる。 「やめて。」 俺は篠田から言われていた。こんなとき、絶対に逆らったり、危険を冒してはならないと。 頭の中で、俺はこの泥棒に肘打ちを食わせ、ひるんだ隙にナイフを持った手を手繰って背負い投げするイメージができていた。 俺は100%奴からナイフを取り上げ、取り押さえる自信があった。 奴の手が、スカートの中に入ってくる。 「いけないわ。許して。」 「色っぽいぜ。」男は興奮して息が弾んでいた。 スカートの中の手がパンティに触れる。 俺は身体を回して奴に向き合った。 「いいわ。してあげる。」 ズボンの上から触ると、奴は勃起していた。 俺はそこをズボンの上から撫でた。 「ナイフを置いて。」 「駄目だ。」 チャックを下げ、ブリーフの前空きから勃起したペニスを取り出す。 篠田のものより小さいが、俺のより大きい。亀頭は剥けていて、興奮の為か赤かった。 片手でペニスをしごきながら、片手で奴のベルトを外す。 先端から透明な汁が出ている。 「しゃぶれ。」 「もうちょっと。いいことしてからよ。」 ズボンの前のボタンを外し、ズボンを膝まで下ろした。 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。 その刹那、男の気がそれたことが分かったので、俺は身体を離し、玄関に向かってダッシュした。 はだしのまま、たたきに降り、ロックを外してドアを開けると、ガードマンが立っていた。 「泥棒よ。まだ中にいるわ。」 「了解しました。安全のため、外に出ていてください。」 俺は改めてサンダルを履き直し、玄関の外に出て、入れ替わりにガードマンが入って行く。 外に出たとたん、恐ろしさがこみ上げてきて、俺は座り込んだ。 「つかまえたぞ!」庭の方から声が聞こえた。 「奥さん、もう大丈夫ですよ。」 玄関のドアが開いて、さっきのガードマンが顔を出して言った。 彼の後について家の中からベランダに回ると、他の二人のガードマンに挟まれるように泥棒が半分ズボンを下ろしたまま、捕まっていた。 「みなさん、お怪我なかったですか?」 「ちょっとやられました。」一人がナイフで切られた袖を見せた。少し血が滲んでいる。「かすり傷ですが...」 「あ、お手当てしますわ。」 すでに通報されていたのだろう。俺が怪我をしたガードマンの手当てをしているうちに、パトカーが来て、警官がガードマンに連れられて庭に入って来た。 「現行犯だな。それで被害は?」 俺は奴が札束を押し込んだポケットを示しながら「お財布の現金をいくらか取られました。」と言った。 「強盗傷害か。かなり喰らい込むことになりそうだな。お前前科はあるのか?」 ●第三十五章 カルテ 警官の尋問を聞きながら俺は携帯電話で篠田に連絡した。 『どうした?』 「家に泥棒が入ってね。ナイフを突きつけられたわ。」 『何だって!』 「でも、大丈夫よ。セキュリティ会社のガードマンさんが来て助けてくれたわ。」 『怪我はないか?』 「わたしは大丈夫。ちょっと触られたけどね。ガードマンさんが切られたわ。」 『そうか。』 「お巡りさんが現場検証するって言うけど、いいかしら。」 『ああ。』 「何か他に盗まれたものがないか、金庫とかも開けて確かめて欲しいって言ってるんだけど。」 『・・・よしわかった。今から帰る。』 間もなく、篠田が会社の車で帰って来た。 俺は篠田について、始めて篠田の書斎にある金庫室に入った。 「大丈夫なようだ。」 「そう、良かった。」 俺は篠田の背中におでこを付けた。 「怖かったわ。」 篠田は振り向いて俺を抱きしめた。 「もう、怖がることはないぞ。僕がいるから大丈夫だ。」 「抱いて。」 俺は篠田に抱かれて初めてほっと安心した。 金庫室の中に小さなテーブルがあり、その上に何枚かの書類が置いてあるのが目に入った。 篠田は俺を抱いたまま金庫室を出て、金庫の扉を閉めた。 その夜、俺は篠田にたっぷりと愛された。 満足して寝た篠田の腕を枕に、彼の寝息を聞きながら俺は金庫室の書類を思い出していた。 あれはカルテだった。 それも俺の母親のカルテ。 日付は忘れもしない、俺が詐欺師の中国人と契約を交わした日付だった。 どうしてそんなものがあそこにあるのか。 俺は心臓の鼓動が早まるのを感じていた。 ●第三十六章 マッサージ 俺の前に、全裸の奥様が横たわっている。 無駄毛もシミ一つもない。 プロポーションも完璧。子供を産んだとは思われない。 あえて自然分娩ではなく帝王切開し、授乳は俺がやった。俺の乳首は大きくなり、少し黒ずんだが、奥様の乳首はきれいなピンク色のままだ。 俺は温めたハーブオイルを手にたらし、奥様の身体に伸ばして行く。 ハーブの良い香りが浴室を満たす。 オイルを伸ばしながら全身をマッサージする。 頭のてっぺんから、足の指の先まで、俺は心を込めて丁寧にやる。 以前はエステティックサロンでやっていたのだが、たまたまサロンが休みの日に俺がマッサージして差し上げたら、俺の方がよいとのことで、それ以来、俺の仕事になった。 奥様はお仕事で世界中を飛びまわっているので、毎日ということではないが、俺はこれを楽しみにしている。 乳房や股間の絶妙なカーブに手を滑らせるときは、手のひらが熱くなるほど神経を集中する。 そうすると、奥様も反応して溜息を漏らされる。 「さあ、いらっしゃい。」 お許しをいただいて、俺はナースウェアのようなマッサージ用のワンピースを脱ぎブラとパンティを脱いで裸になる。 女物の下着を着ているときはペニスが硬くなることはないが、こうして全裸になると、ゆっくりと勃起してくる。 有紀の授乳が終わって、女性ホルモンをやめてから、俺の少し小さくなったペニスは再び勃起するようになっていた。 そのペニスにコンドームをかぶせ、俺は奥様の上に乗った。 裸の身体を密着させ、胸と胸を合わせる。 「ああ、いいわ。来て。」 手をペニスにあてがい、奥様のしっとりと濡れたあそこに挿入した。 「む、ううっ!」奥様が眉をしかめる。 俺は舌の先で奥様の乳首を刺激する。 奥様の声がだんだん大きくなる。 最後は奥様は俺の上に乗り、自分で腰を使われる。 俺は奥様に合わせて、腰を少し浮かせて動きを合わせる。 自分の胸を揉みななが髪を振り乱す奥様は最高にセクシーだ! 「あ、いい、あ、行く...。」 背を反らせて奥様は身体を震わせ、俺もそれに合わせて、奥様の中へ射精した。 射精するのだから男としてのエクスタシーは感じている。しかし、今の俺にとってはそれは物足りないものだ。俺はするよりもしてもらうほうが百倍も気持ちいいことを知ってしまった。 そのまま、俺は奥様とベッドのなかで抱き合った。奥様のゴージャスな髪の毛が肌に触れると、とても心地よい。 「あなたを見ていると、昔、主人の秘書だった陳君を思い出すわ。」 「トークン?」 「中国からの留学生で、主人のお気に入りだったの。」 「何でその人を思い出すんです?」 「よく似ているから。そうそう、忘年会の余興で京劇をやって、女形をやったときなんか、綺麗だったわよ。あなたみたいに。」 「留学生とか、よく使われるんですか?」 「向こうに取引先があるからね。それに、みんなまじめだし、商売熱心だから。」 「その?さんは、今どうしているんですか?」 「死んだわ。」 「死んだ?」 「ええ、病気でね。エイズだったらしいわ。」 ●第三十七章 留学 有紀は小学校を卒業し、中学からはフランスの全寮制の学校に留学することとなった。 有紀と過ごした年月は素晴らしいものだった。 俺は篠田に買われて妾になり、日々の生活はただ、篠田に愛されることだけが目的だった。それ以外の何の目標も与えられず、服を選ぶのも、家事をするのも、全てが、篠田を基準としていた。 有紀が生まれて、自分の乳で育て、育児をしているときは全く夢中だった。俺は余りに深く有紀を愛しすぎたのかもしれない。篠田に抱かれながらも有紀のことを考えることさえあった。 それは父性愛なのか母性愛なのか、とにかく、有紀が全てのように感じられたのだ。 篠田はそのことに気が付いたのだろう。 有紀の留学について、俺に反対する権利はない。しかし、俺は身体の中心をずっぽりと抜き取られたような虚脱感を覚えた。 「お前は変わらない。」 篠田が後から俺を抱きしめながら言った。相変わらず精力絶倫。あんなにたくさん精液が出せるのに、子供ができないなんて不思議だ。 「むしろ、若返ったようだ。」篠田の手が、俺の裸の身体を撫でる。 俺は有紀のことを言うと機嫌が悪くなるから、言わない。でも、少しでもいいから、有紀のことを知りたかった。どんな学校に入って、どうしているのか。 「嬉しいわ。抱いて。」 俺は、篠田が気に入るような演技をするようになった。そうして、有紀のことが聞ければよいと思った。 「ああ、いい。感じる。素敵。もっと、して。」 「お前は...」 篠田が、俺の身体にまたがり、両手で俺の両手首を抑え、見下ろしながら言った。 「有紀の母親にはなれない。」 「え?」俺は冷や水を浴びせられたような気がした。 「父親にもなれない。」 「・・・」 「お前は俺のものだ。」 俺は、その瞬間、篠田を拒もうとした。 しかし、彼は俺の手と足を押さえ、そのまま、俺の中に入って来た。 「あ、ああっ!!」 俺にはそれ以上のことができなかった。 「どうして泣く?」 篠田の指が俺の頬に滴り落ちた涙をなぞった。 俺は黙っていた。それが精一杯の抵抗だった。 「安心しろ。俺が見る限り、有紀はかなり有能な奴だ。俺の跡取りにちょうど良い。」 俺はずれたシースルーのベビードールの肩紐をたくしあげ座り直した。 「お前は何も心配せず、俺のことだけを想っていれば良い。」 篠田の差し出した手を、俺は舐めた。 「いい子だ。」 ●第三十八章 代理父 篠田の事業は絶好調だった。 会社をいくつも買収し、つぶれかけた銀行まで手に入れてしまった。 その直後、その銀行の倒産しかけていた大型取引先が中国相手の大規模プロジェクトの受注に成功し、不良債権が一気に解消するという起死回生の出来事が起きた。 「まったくお前は福の神だ。」 仕事のことについてはあまり多くを語らない篠田がめずらしくベッドで俺に囁いた。俺は彼の仕事には興味はなかった。 篠田は極めて多忙で、主に東南アジアを中心に出張することが多く、ひと月以上日本にいないことがあった。 翔子奥様も美容院やジュエリーショップの経営が好調で、モデルとしても超一流の位置をキープしている。ヨーロッパを中心に世界中にお出かけになり、ほとんど日本にいらっしゃらない。 今は昔の俺の名前だった純一を名乗っている朱美も、仕事が忙しく、それ以外にも新しい愛人を作って一緒に暮らしているから、ほとんど俺のところには来なくなった。彼女は朱美のことを男と思っており、女から性転換したことを知らないらしい。 そんなある日、突然家に来た朱美がこんなことを言い出した。 「なあ、純子。俺たちの腐れ縁もそろそろ終りにしようと思うんだが。」 「そうね。私もそれを考えていたわ。あなたには素敵な彼女ができたしね。」 「あいつは俺のことを男だと思っている。俺と結婚して、俺の子を産みたがっている。」 「どうするつもり?」 「俺は今では純一として暮らしている。お前の戸籍を使わせてもらいたい。お前だって、女の戸籍があったほうが便利だろう?俺の戸籍をやる。」 「篠田は別に私が男でも女でも構わないって言ってくれるけど...」俺はその後の言葉を飲んだ。奥様に何かあったとき、俺は有紀の母親になってやりたいと思っていた。 「でも、子供は無理でしょう?」 「それなんだ。今生の願いを聞いて欲しいんだ。」 結局、俺は朱美と離婚することを承諾し、最後の願いを聞き入れてやることにした。 そのかわり、朱美は自分が社長でいる限り、自分の会社の役員として俺に報酬を支払うことを約束した。 そして、離婚の手続も終り、朱美から指定されたある晩、俺は朱美の家に行った。 朱美の彼女は睡眠薬を飲まされてぐっすりと寝込んでいた。 美人というわけではないが、なんともかわいらしい女だ。母親を選ぶとしたらこんな人がいいだろう。 「あなたと愛し合うのも、今夜が最後ね。」俺は肩に乗った朱美の手を握りながら言った。 「ありがとう純子。おっと、今からはお前は朱美だったな。おかげで俺も幸せになれたよ。」朱美は後ろから俺を抱きしめながら応えた。 この絶妙なキスも最後だと思うと、もったいない気がする。 胸や身体をまさぐられ、服を脱がされて、次第に俺は感じ始めた。 パンティを下げられ、朱美は俺のペニスを口に含んだ。 男になった妻にしゃぶられるのはまったく妙な気分だ。 朱美はペニスの先をぺろぺろと舐めながら、「俺が欲しかったのはこれなんだ。」と言った。 俺は朱美の耳元に口を寄せ、「あなたのも舐めてあげようか?」と言った。 お互いに相手のペニスをしゃぶりあうのだから、これは紛れもなくホモだななどと思いながら、朱美のペニスとしゃぶっていると、突然それはむくむくと膨らみ固くなり始め、俺は心臓が止まるかと思うほど驚いた。 「あなた、勃起してるわよ。」 朱美はにやっと笑いながら、顔を上げた。 「男なんだから当然さ。」 朱美のペニスには陰茎の中に袋のようなものが作られていて、その袋の中に後ろから短いチューブが差し込まれていた。そのチューブの先端には小さなゴム製のポンプのようなものが取り付けられている。 朱美が股間に挟んだポンプを絞ると、中のゼリー状のものがペニスの中に押し出され、ペニスを勃起させる仕組みなのだ。ゼリー状のものはそのまま固まってしまい、水で冷やさないと元には戻らないそうだ。絞りきったポンプは尻の穴の中に差し込んでしまうので、セックスの最中にぶら下がってしまうことはないという。 「何人もの女と寝たが、誰も気付かなかったね。」 「まあ、こんな可愛い奥様がいるのに、悪い人ね。」俺は朱美のペニスを指ではじいた。 「いてて。やめろよ。しっかり神経が通っているんだから。」 「感じるのね。」 「ああ、挿入しているときは本当に中に入っていることが実感できて、本当にいい気持ちになれるんだ。ほら、いくぞ。」 「あん。だめよ。まだだって。」 朱美はお構いなしに、俺のケツの穴にペニスを押し込んできた。それは確かに本物のペニスを挿入されているのと変わらない感覚だった。 俺は朱美に抱かれ、アヌスに朱美のペニスを挿入され、乳首を弄られて興奮し、ペニスを勃起させた。 朱美の手が、俺のペニスを刺激する。 「いいぞ、固くなった。」 「ああん。いいわ。もっとして。」 俺のペニスは朱美の手の中で勃起した。 「よし、入れるぞ、俺も離れないから。」俺は後から朱美に挿入されたまま、彼女に自分のペニスを挿入し、後ろから朱美に腰を押さえられ、その腰の動きに合わせて、彼女の中でペニスを動かした。何の事はない、俺は朱美のペニスのキャップになったようなものだった。 彼女は睡眠薬のおかげでぐっすりと寝ていて、身体を激しく揺すられても起きる気配がない。もしかしたら寝たふりをしているのだろうか? 俺はだんだんペニスの周りが熱くなり、肛門とペニスの付け根のあたりが突っ張ってきた。 「行くわ。行く。ああ、いっくぅー!!」 久しぶりに、かなりの量の精液が勢い良く飛び出していく感じがした。俺は腰を彼女の股間に強く押し付け、深々とペニスを突き刺した。 「俺も一緒に行ったぞ。」朱美が言った。 その晩、俺は種馬のように、何度も彼女に種付けをさせられた。 わざわざ危険日を選んで、夜這いをやったおかげで、彼女は見事に妊娠し、朱美、いや純一と結婚した。 ●第三十九章 孤独 俺は男としての過去を棄てたが、身も心も女になったわけではない。 身体も男のままだし、心でも自分は男だと思っている。 しかし、俺は完全に篠田に支配されていた。 昨日の晩、篠田は俺を裸にし、そのまま、ベッドに寝るように命じた。 「お前は今、僕に抱かれている。」 指一本触れず、篠田は俺の耳元で囁き続ける。 「右の乳首を吸われているぞ。ほら、歯で咬んだ。」 篠田は俺に彼の言葉を本当に行われていることとして、想像することを命じた。 俺は、自分が篠田に依存して生きることを受け入れた。だから、俺は篠田の命令に逆らうことはできない。篠田は俺が本心からそう思っているかを試そうとしているのだ。 むしろ、俺は篠田を拒みたかった。有紀の前に、一人の人間として立つためにはこの状態を抜け出さなければならないような気がしたからだ。 しかし、もう何年も篠田に愛され続けた俺の身体は、俺の心とは裏腹に、篠田の言葉に反応し始めた。 「おう。乳首が立ってるぞ。感じてるな。」 「ああ、やめて。」 「お前の股の間に、湿った穴が開いている。」 俺はそれを想像してしまった。 「ほうら、そこに僕のあれが入っていくぞ。」 「あ、ああん。」俺は本当に篠田のペニスが挿入されたように感じて、身体を震わせた。 「どうだ?感じるか?」 「...。」 「感じるんだ!」 「か、感じるわ。」 俺のペニスが勃起し始めた。 「気持ちいいだろう。」 「気持ちいい。ああ、深く入ってくるわ。」 「もっとして欲しいか?」 「ああ、もっと、もっとしてちょうだい。」 卑猥な言葉を浴びせられ、隠微な想像を掻き立てられて、俺は夢中にさせられた。 「ほうら、もう我慢ができない。お前は俺のペニスをしゃぶり、前と後ろから俺に犯され、感じまくっている。」 「やめて、あ、やめないで。」 俺は訳が分からなくなってきた。身体が熱くなってきた。 「よし、行け。行くんだ。」 「そんな。あ、行く。いくーう...。」 俺は言葉だけで行かされてしまった。身体がぶるぶると震え、ペニスからだらだらと精液を滴らせた。 「純子。可愛い奴だ。」 篠田に抱きしめられ、それだけで、俺はもう一度エクスタシーを感じてしまった。 俺は篠田のテストに合格したようだ。 俺は身も心も篠田にものになってしまった。 篠田に抱かれると俺の身体は敏感に反応する。それだけでなく、俺の心も、篠田の命令を拒絶できず、言われるまま、言葉だけのセックスでさえ行ってしまう。 俺は篠田の性の奴隷になった。 俺の外見はとても女らしくなった。 確かに、体中の無駄毛を処理し、肌の手入れをして、髪を伸ばしているし、女の服を着ているので、自然に動きが女らしい身のこなしになっている。篠田に抱かれるようになってからは不思議と身体の線も女っぽくなったが、それでも俺自身はまだ、自分を男だと思っている。 家に一人でいるのは、そんな俺にとっては苦痛だった。 篠田は俺に外に出てはいけないなどとは言っていないが、俺は女の買い物などには興味がない。 俺の身の回りのものはほとんど奥様にいただいたものばかりだ。 音楽や演劇や旅行もこの姿では行く気がしない。奥様にはドレスアップして出かけることを勧められるが、もし、男と気付かれたらどうなるか分らないから、乗り気になれない。 篠田は男と気付かれても気にするなと言うし、奥様は絶対に大丈夫だと仰って下さるが、それでも、俺はあまり家の外には出なかった。 料理や洗濯や掃除など一通りの家事はやるが、ほとんど一人暮らしのようになってからは、そんなに時間もかからないので、一日のうちに何もやることのない時間がだんだん増えて来た。 そんなとき、俺は孤独を感じてしまう。 篠田が早く帰ってきて抱いて欲しいと思い、有紀がそばにいればと思うのだ。 孤独の中で、俺は一つの考えに囚われ始めていた。 俺に似ている?という青年のこと、エイズで死んだということは、その青年はホモだったのだろうか。彼と篠田の関係。そして俺を騙した詐欺師も?と名乗っていた。詐欺師の?は今、篠田の会社の中国支社の副支社長だ。 俺が詐欺師の?に騙されるのとほぼ同じタイミングで、朱美の店の借金が明らかになる。俺は、職を失っただけでなく、借金を背負うことになった。その借金の原因となった朱美のレズの相手の写真を篠田は持っていた。さらに母のガンが発覚し、俺は自分では何もできないまま、篠田にすがるしかない状態に陥った。母のガンのカルテも篠田は持っていた。 もちろん、俺達が篠田に援助をお願いした後で、彼が援助のために調査して、写真やカルテを手に入れた可能性は大いにある。 でも、もし、その前から、それを手に入れていたとしたら... 全てが計画されていたことだとしたら... ●第四十章 夏休み フランスに留学している有紀が夏休みで帰って来た。 有紀は帰ってくるなり、俺に抱きつきキスをした。 「お帰りなさい。有紀さま。」 「会いたかったよ。あーちゃん。」有紀は本当に嬉しそうにそう言った。 俺はこみ上げてくる涙をこらえていた。 俺を抱く有紀の腕が、とてもたくましく感じる。 「大きくなられましたね。」 「あーちゃんは変わらないね。あーちゃんのままだ。」 有紀はそのまま風呂に入り、俺も一緒に入って身体を洗ってやる。 生まれてからずっとこうしてきた。 有紀は黙って俺に身体を洗わせる。 髪を洗い、背中や肩や胸を洗う。 「さあ、後はご自分でどうぞ。」 「ありがとう。」 有紀は前を隠しているが、前はなかった陰毛が股間に生え、ペニスも大きくなっているのを見て、俺は内心微笑んだ。 有紀は俺のことをどう思っているのだろう? 俺は有紀の乳母であり、身の回りの世話をしていたので、家政婦か何かと思っているのかもしれない。それとも、篠田の妾であることに気付いているのだろうか? 有紀の帰国に合わせて、篠田も奥様も帰って来た。 その晩はレストランからコックを呼んでの豪華なディナーとなった。 有紀は留学中のことを篠田と奥様に話し、俺はテーブルの脇に立って給仕しながらそれを聞いていた。まるで有紀の周りだけが輝いて見える。有紀は惚れ惚れするような美少年になっていた。 翌日、篠田と奥様は有紀を連れて会社を回り、それぞれ自分の事業を見学させた。 有紀を教育することの他に、役員や社員に後継者を知らせる意味もあるのだろう。どちらも、何かあれば、後を継ぐのは有紀なのだ。それは、莫大な資産だった。 会社回りは二日続き、三日目からは篠田の会社が持っている山荘に行くことになり、俺も家族の世話をするために同行した。 山荘には篠田の会社の主だった幹部や税理士が先に着いていて、食事などを一緒にすることになっていた。有紀と彼等との親交を深める目的なのだろう。 食事をしながら、有紀は会社の業務について、いくつか幹部に質問をした。 それは彼等も予想しなかったような鋭い質問だったようだ。 それまでのリラックスした雰囲気が消えて、まるで会議でも始まったかのような緊張感が漂い始めた。 篠田はそれを嬉しそうに、脇から見ていた。 食事が終り、山荘のスイートルームに用意されたマッサージ台で、俺が奥様のマッサージをしていると、有紀が入ってきた。奥様は全裸だ。 「有紀さま。失礼ですよ。」 「いいのよ。親子なんだから。なあに?」と奥様。 「お母様。美容院のことなんだけど。」 「お仕事の話?」 「はい、他に人がいないところで話そうと思って。」 「いいわ。続けなさい。」 有紀は美容院を見学したときに、ある美容師が手抜きをしているのを見つけたという。その美容師の指に煙草のヤニがついていることも気になるという。 「今のステータスを維持するためには、厳しくすることも必要かと思うんだ。」 「そうね。よく気付いてくれましたね。私の方針もそうよ。首にしましょう。」 俺の目の前で一人の美容師が職を失った。 俺はこれから有紀がこういう世界に住むことになると思うと、眩暈のような感覚を覚えた。 翌日、重役達は会社に戻り、有紀と篠田は山荘の近くの山まで山歩きをすることとなり、俺も一緒に行くことにした。奥様は日焼けを嫌って山荘に残られた。 普段、まったく身体を鍛えておらず、ほとんど家の中で生活していた俺は三人分のお弁当を持って二人に付いて行くのがやっとだ。でも、そんな俺のことを有紀は気遣ってくれ、手を引いてくれる。山頂付近ではずっと手をつないで歩いてくれた。 山荘の料理人が用意してくれた豪華なお弁当を広げ、山頂で食べる。まるで、夫婦と子供がピクニックに来ているような気分だ。もちろん、俺は篠田の妻で有紀の母だ。 一人住まいの孤独に較べると、本当に天国にいるような幸せを感じてしまう。 下り道も俺はずっと有紀の腕につかまって歩いた。 「お前達、まるで恋人のようだな。」篠田が笑いながら言った。 「御父様。僕、あーちゃんのこと、本当に好きだよ。」と有紀。 「そうか、純子はお前の乳母だからな。お前は純子のおっぱいを飲んで育ったんだ。」 「うん。知ってる。だから、僕にはお母様が二人いるんだよね。」有紀はにっこり笑って言った。 俺は有紀がそう思ってくれていることがとても嬉しかった。 その晩、奥様と有紀はそれぞれの部屋に戻り、俺はみんなの荷物を集めて帰り支度をしていた。 有紀の着ていたものをたたむだけで、俺は嬉しくて思わず微笑んでしまう。 同じ屋根の下に、一緒にいると思うだけで嬉しい。 バタンと音がして、俺が驚いて振り向くと、篠田が入って来た。 だいぶ酒を飲んでいる。 俺はそんなときに篠田が何を望んでいるか、よく知っていた。 その晩、篠田はいつになく残酷だった。 篠田は俺の愛情が有紀に向かったことが気にいらないのだ。 でも、俺は、むしろその苦痛を楽しんでいた。 俺は自分の血の匂いに酔っていた。有紀のためならどんな苦痛にも耐えられる。 ●第四十一章 自殺 俺は奥様の依頼で、ある調べ物をすることになった。 俺は自分にこんな才能があるとは思っていなかったのだが、いざやってみるとうまく情報を集めることができる。かなりヤバイ情報でも手に入れることができた。 女の姿なので相手も安心するのか、余計なことまでみんな話してくれる。 奥様の依頼とは、外国で本当に腕の良い美容整形の医院を探すことだった。そのことを絶対に第三者に知られてはならない。 奥様はこの秋のコレクションで自分がトップモデルではなかったことにショックを受けられた。わずかだが、確かに年相応に肌の張りやみずみずしさが失われて、わずかな小皺が現れていたようだ。 頂点の美を競うあの世界ではそうしたほんの少しの違いが、大きな差となって現れる。 奥様はフェイスリフトの手術を考えていらっしゃるようだ。フェイスリフトは顔の周りの皮膚を切り取って吊り上げ、顔中の皺を一気になくしてしまう手術だ。 調べてみるとタイの美容整形の技術が良いとの情報が得られた。 俺は徹底的に調べ上げ、ある病院に行き当たった。 その病院の経営者に日本人がいることが分り、さらに調べると彼は闇の世界の紳士だった。 こんなことが現実にあるのだろうか。 その病院は臓器売買にかかわる病院だったのだ。その他にも犯罪者が逃亡するときに顔を変えるための整形手術や、さらってきた男の子を無理やり性転換して売春婦にするといった悪事も行われていた。言ってみれば、金さえ払えばどんなことでもやる病院というわけだ。 しかし、その設備と技術は最高のもので、倫理を超越しているからこそできるものだった。 美しさのために悪魔に魂を売るようなものだが、俺はこの病院を奥様に勧めるつもりだった。 俺が書類をまとめて、奥様の部屋に行くと、奥様はソファの上でうたた寝されているようだった。 「奥様。」 「あ、純子…」奥様はひどくだるそうで、顔色が悪かった。 「お加減が悪そうですが。」 「いいのよ。もう、全て終わったわ。」 「終わった?」 「そうよ。」奥様は羽織っていたバスロープの襟を広げて、乳房を出した。「御覧なさい。」 「こ、これは...」俺は言葉を失った。 奥様の右の乳房が紫色に変色し、ごつごつと醜く変形していた。 「乳癌よ。」奥様は息苦しそうに言った。 「お医者様は何とおっしゃっているんですか?」 「...手遅れ。もう、全身に転移してるそうよ。ほら。」 奥様がめくった袖の下の二の腕にも、どす黒い斑点が現れていた。 「顔の皺も、癌のせいだったの。」 「奥様。ご主人には...」 「言ってないわ。」奥様は眠そうだ。 「奥様!!」俺は背筋に冷たいものが流れるのを感じた。 ソファの下に、薬のビンが落ちているのが見えた。 「死んではいけません!」 「もう、いいのよ。」 俺は立ち上がり、電話に飛びついた。 心臓がどきどきと鼓動する。一刻が惜しい。 『はい、119番です。』 「お、奥様が、睡眠薬を飲まれて、自殺をはかって...助けてください!!」 俺は動転して要領を得なかった。 何度も聞き返され、俺はやっと、この家の場所を相手に伝えた。 「奥様!翔子様!」俺は奥様を起こそうと奥様の身体を揺すった。 「...純子さん。」奥様はだるそうに目を開けた。「有紀のこと、お願いね。」 「奥様!!駄目です。死んではいけません。生きてください。」 「私、あの子に少しも母親らしいことしてあげられなかったわ。」 奥様の目から、涙がこぼれた。 救急車が来るまでの時間が無限に長く感じられた。 俺はその間に奥様の口に指を突っ込んで、飲んだものを吐かせようとしたり、水を飲ませようとしたが、何もできなかった。 奥様の肌の色が見る見る白くなり、唇も色を失っていった。 救急車が来たとき、俺は錯乱してただ奥様の名前を呼び続けていた。 そのとき、もう、奥様は息をしていなかった。 ●第四十二章 女装 奥様の葬儀は、有紀の帰国を待ってから、執り行われた。 俺は葬儀に参列しなかった。というより、その資格もなかった。 正妻の葬儀に妾の俺が参列できるわけがない。 俺が家で待っていると喪服姿の篠田と有紀、それに奥様の付き人の良子さんが帰ってきた。 良子さんはすっかり憔悴した様子だった。 「旦那様、本当に申し訳ございません。私のお仕えが足りませんでした。」 「そんなことはないよ。良く仕えてくれた。癌ができたのも翔子の運命だし、美しいまま死にたいと思ったのも彼女が一人で決めたことだ。良子さんに責任はないよ。で、どうするかい?これからも家に居てくれるかい?」 「いえ、お二人には純子様がいらっしゃいます。お暇をいただきたいと思っております。」 「そうか、それも仕方ないな。」 「良子さん!」俺は彼女の手を握って言った。「しっかりするのよ。死んだりしたらだめよ!!」 俺は彼女が後追い自殺をするのではないかと不安になった。 良子さんは泣き笑いの表情を浮かべながら「はい、大丈夫です。」と頼りなげに言った。 後で聞いた話では良子さんは俗世の人生を棄て、修道女になったということだ。 「で、こっちにはいつまでいられるの?」 俺は有紀に紅茶のカップを出しながら言った。 「明日まで。」 ほんの少しの間に、また背が伸び、髭が生え、顔つきも引き締まってきた。 「ねえ、あーちゃん。」 「なんですか?」 「これ見て。」 有紀はジャケットの内ポケットから一枚の写真を取り出した。 その写真には女装した有紀の写真が写っていた。 「まあ、女装なんかして。」 「寮で恒例のおふざけパーティーがあってね。ことしのテーマは男は女装、女は男装だったんだ。」 俺は女装した有紀の姿を見て、心臓が高鳴るのを感じた。 「ね、似てるでしょう?」 「そ、そういえば、そうねえ。」冷や汗が出てくる。 「女装した僕、あーちゃんにそっくりだと思うんだけど。」 俺は有紀がなんでこの写真を俺に見せたか、いぶかしく思った。 「有紀様は奥様に似ていらっしゃいます。この写真だって奥様の面影があります。」 「そうかなあ。」 有紀は俺の顔をじっと見ている。 「僕、お母様じゃなくて、あーちゃんの子供じゃないの?」 俺はどきっとしたが精一杯冷静に振舞った。 「とんでもない。ちゃんと生まれたばかりの有紀様を抱いている奥様のお写真がありますよ。アルバムをご覧になってるでしょう?」 「...そうだね。じゃ、僕の願いを聞いてくれない?」 「いいわ。有紀様のお望みなら何でも聞いてあげるわ。」 「僕のお母さんになってほしい。」 「えっ?」 「御父様と正式に結婚して欲しいんだ。そうすれば、僕達親子だよね。」 俺は心の中で激しくそうなりたいと思った。しかし、それはあり得ないことだった。 「僕からも御父様にお願いしようと思っているんだけど。」 「駄目です。決してそれを御父様に言ってはなりません。」俺はきっぱりと言った。 「どうして?」 「駄目なんです。もし、そんなことを言ったら、もう有紀様に会えなくなります。」 「どうして!」有紀が目を見開いて言った。 「どうしてもです。お願いです。」俺は目に涙をためながら言った。 「・・・分った。やはり、御父様はあーちゃんのことで僕に何か隠しているんだな。」 「そんな。御父様は立派な方です。」 「僕ね、見たんだ。」有紀は真剣な表情で言った。 「見た?」 「この間の夏休み。山荘で、御父様があーちゃんをいじめているのを見たんだ。」 「・・・そんなこと」俺はどうしていいかわからなくなった。「絶対、御父様に言ってはなりません。」 「分ったよ。でも、僕、絶対にあーちゃんを守る。あーちゃんをいじめる奴は許さない。」 「ああ。有紀様。」俺は有紀を抱きしめた。 ●第四十三章 交渉 篠田は仕事で何か問題を抱えたようだった。 家に居る間にも昼夜を問わず頻繁に電話がかかってくるようになり、疲れた様子を見せる。 「お前を抱くと力が蘇る。」 俺は朦朧とした意識の中で彼のつぶやきを聞いた。 「お疲れなのね。すこしお仕事を減らされたらいかがなの?」 俺は裸で篠田の下にいる。 「そうはいかない。今が勝負の時だ。」 「あなたのことが心配なの。」 篠田は俺の横に添い寝しながら言った。 「そうだ、今度一緒に中国に行ってくれないか。仕事を手伝って欲しい。」 「私、何もできませんけど。」 「構わん。絶対に信用できる人間が一人必要なんだ。今度の仕事は裏の仕事になる。しかしこれがうまくいけば、しばらくは安心できる。」 裸で篠田に愛されているときに何か言われて拒絶できるわけがない。 「分ったわ。」俺がそう言うと篠田はまた俺の上に乗って来た。 「いい子だ。愛してる。」 篠田に愛され俺は身体の中から沸きあがってくる喜びに震えた。 俺は朱美の戸籍謄本を使ってパスポートを作り、篠田に連れられて中国へ行った。 俺の役割はボストンバックを一つ持って、ホテルの部屋で待機していることだった。 夜遅くになって、篠田が部屋に戻ってきた。 黒い服を来てサングラスをかけた二人の男が一緒だった。俺は部屋の隅の暗がりに座った。 篠田は流暢な中国語で彼と会話し、書類を受け取り、俺が持たされていたボストンバッグを渡した。男の一人がそれを持って部屋を出て行き、残った一人が、篠田とテーブルに座った。 程なく、男の携帯電話に連絡が入り、篠田と男はワインを抜いた。 「取引は成立だな。」篠田は日本語で言った。 「こんなやり方はしたくなかったんだが。」男も流暢な日本語で応えた。 「まったく。お前と俺は古い付き合いだ。ここに来て裏切られるとは思ってもいなかったよ。」 「ビジネス。ビジネス。裏切りはつきもの。油断している方が悪い。」 「ところでお前に会わせたい人がいる。」 「私に会わせたい?」 「純子。来なさい。」 ふいに呼ばれて俺は驚いたが、呼ばれるままに、俺は篠田の脇に立った。 「分るか?」篠田の声に残酷な響きがあった。 「・・・」男の目が見開かれた。「イー!」 俺は何のことかさっぱりわからない。 「そうだ。息子さんのイー君だ。」 「死んだんじゃなかったのか!!」男は早口で俺に中国語で話し掛けてきた。 俺は篠田の背後に回って、腕にすがった。 「ほとんど死にかけたが、俺が救った。ずいぶん金もかけたがな。」 「でも、どうして女の姿なんだ。」 「知ってるだろう。お前の息子はホモセクシャルで男に抱かれまくっていたことを。事故があって、こいつは過去の記憶を全部失った。それ以来、俺の女になった。」 「お前は、俺の息子を女にしたのか。」 「大丈夫。ほら。」 篠田は突然俺のスカートをまくり上げ、パンティを下げた。 「いやあ!」俺がスカートを下げようとすると篠田はその手を遮った。 「女にはなっていない。」 篠田の手が俺のペニスをつかみ上げる。 「しかし、こいつは女になりたがっている。ずっと、女として暮らしてきたからな。」 篠田の手が離れたので、俺はパンティを履き直し、スカートを下ろした。 男は俺の顔をそれこそ穴が開くほど見つめていた。 「お前の返事次第だ。」篠田が言った。 「こいつは女として俺を愛している。俺が死ねば、こいつも死ぬだろう。俺が許せば、こいつは喜んで女に性転換するだろう。」 「な、なんという。なんということだ。」男は顔を真っ赤にして悶えた。 「まだ、間に合う。こいつはまだ男の能力を失ってはいない。」篠田の声に力がみなぎった。 「おまえだって、孫の顔を見たいだろう。」 「それで、お前の望みは何だ。」 「これ以上、俺の仕事をじゃましないこと。それだけでいい。」 「それでその見返りは?」 「息子のことは俺が保障しよう。そのうち、適当な女に子供を産ませよう。」 「...分った。お前の言う通りにしよう。」男はどかっとソファに座り込んだ。 ●第四十四章 毒 取引が終り、俺は篠田と車で空港に向かった。 「どういうことなの?」 「あいつは昔、俺が面倒を見た留学生の父親だ。その縁で父親に中国の仕事を頼んだんだが、その父親というのが、マフィアだったというわけさ。」 「それで、その留学生が私と瓜二つだったの?」 「そうだ。」篠田はそれ以上言いたくないらしい。 「その人、エイズで死んだんでしょう?」 「どうして知ってる?」 「奥様から聞きました。良く似てたって。」 「そういうことだ。あいつはお前を息子だと思い込んだ。お前が俺と一緒にいる限り、向うは息子が人質にとられたようなものだからな、これ以上俺の会社を食い物にするのはやめるだろう。役人までつるんでやがるから、それ以外に手段がなかったんだ。」篠田は煙草の煙を吐き出して言った。「少し儲け過ぎたようだ。」 空港では出発時間までかなりの待ち時間があった。 俺達はチェックインを済ませ、搭乗口の脇のコーヒーショップで、時間をつぶすことにして、篠田は誰かと携帯電話で話していた。 コーヒーが運ばれて来たが、俺は化粧を直すのが忙しくて、コーヒーを飲まなかった。 電話が終わった篠田がコーヒーを一口飲んで、変な顔をした。 「どうしたの?」 篠田はコーヒーショップの店員をにらみつけた。店員はカウンターから出て、人ごみの中に消えて行く。 急に篠田は俺の前にあったコーヒーカップを腕で払いのけ、床に落とした。 「あなた。」 篠田が言った。 「やられた。毒を飲まされた。」 「え?」 そのとき、搭乗手続き開始のアナウンスが流れた。 「乗るぞ。」 「だって、毒を飲まされたのなら、手当てしなければ。」 「だめだ。もう手遅れだ。早く。」 俺は篠田に手を引かれて、搭乗ゲートから機内に入った。 ファーストクラスは空いており、他にほとんど乗客がいなかった。 シートに座って、篠田の顔色は見る見る悪くなった。 「これは奴等が自殺用に使う毒だ。」篠田は自嘲気味に言った。「油断したな。」 「あなた。」俺はただ、おろおろとうろたえた。 「一滴でも飲んだら、もう助からん。実は俺もこれを使ったことがある。臭いで分ったよ。」 「使ったって...」 飛行機が離陸した。 「エイズで苦しむのを楽にしてやるためだった。この薬は後には残らない。俺も、きっと心臓麻痺で死んだことになるだろう。」 「もういいわ。話さないで、日本に着いたらすぐに手当てしてもらうから。」 ●第四十五章 告白 「それまで持たん。俺は、お前に謝らなければならん。俺はお前の人生をめちゃくちゃにした。」 「いいのよ。今は幸せなんだから。」 「イーに出会って」篠田は語り始めた。「俺は始めて自分がホモセクシャルだということに気付いた。」 俺は篠田の手を握って、彼の話を聞いた。 「俺はイーを愛した。それまで感じたことのない深い愛情だった。しかし、イーは奔放だった。毎晩のように、俺以外の男とも寝て、そしてエイズになった。」 陳毅というその青年は、中国に代々伝わる裏の組織の末裔だった。もともとは政敵を毒殺するための専門家の家系だったという。 そうした家を嫌い、また自分がホモセクシャルであることもあって、彼は一人日本に来た。 エイズの末期症状に苦しむ毅は篠田に自殺用の毒を飲ませて欲しいと哀願し、そして、彼は死んだ。 「俺は人生の全てを失ったような気がした。そんなとき、お前と出会ったんだ。」 愛する毅と瓜二つの男が現れた。しかし、その男、つまりこの俺は既に結婚し、全く普通の男として何不自由なく暮らしていた。 「俺も迷ったよ。でも、俺はどうしてもお前が欲しかった。」 篠田は俺が会社を首になり、しかも借金を背負い込み、自分を頼ってくるようにするための作戦を立てた。 「あの詐欺師は陳の兄弟だ。陳の親父は裏社会にも顔が利くのでいろいろと手下を集めてくれた。朱美さんの愛人のこともすぐに分かった。」 篠田は朱美の愛人をうまく騙して、朱美が他の女に乗り換えようとしていると信じ込ませた。女は店の印鑑を持ち出して、銀行から多額の金を借り入れ、そのまま、姿を消した。 「あの女は金を持って行かなかった。通帳も、印鑑も置いて行った。お前は俺がお前達の借金を返したと思っているだろうが、大部分は借りた金をそのまま返しただけだ。」 「あのカルテは?」 「カルテ?ああ、お母さんのカルテか。」篠田はひどくだるそうだ。 「職を失い、借金を背負い込んで、お前が自殺しないよう、医者に金を渡して、嘘の診断を出させたんだ。病気の母親を残して自殺はできないだろう。」 「じゃ、お母さんは癌じゃなかったの?」 「いや、瓢箪から独楽じゃないが、入院した後の精密検査で悪性の癌が発見された。入院して速やかに治療したことで、少なくとも半年は余命が伸びたはずだ。しかし、俺にとってはあのタイミングで癌になってもらわなけりゃならなかった。」 やはり、全ては仕組まれた罠だったのだ。 「それから、もう一つ、俺は仕掛けをした。」篠田は目を閉じたまま話し続けた。 「お前が使ったプラグには毅が使っていた薬が塗ってあった。」 「薬?」 「そうだ、男と男が愛し合う時に、痛みを無くし、快感を増幅させる薬、一種の媚薬だ。」 「じゃあ、私が感じた喜びも、あなたが仕組んだものだったの?」 「ああ、そうじゃなければ、お前をいつまでも留めておくことができないと思ったからだ。」 「私はなにもかもあなたの思い通りになったって訳ね。」 篠田は激しく咽た。 「俺がお前を愛した気持ちは本物だ。」 ひどく息苦しそうだ。 「すまない。俺を許してくれ。」 「許さないわ。私をこんなにして、先に死ぬなんて、絶対に許さない。」俺は涙を溢れさせながら言った。 「私だって、あなたを愛しているのよ。死なないで。お願い。」 「目が、見えない。」篠田は目を見開き、手を持ち上げようとした。 俺がその手を握ると、すっと、手から力が抜けた。 ●第四十六章 相続 篠田の言った通り、医者は篠田が心臓麻痺の発作を起こして死んだと診断した。 フランスに戻ったばかりの有紀は再び、葬儀のために、日本に戻らなければならなかった。 俺は、抜け殻のようになり、家に引きこもった。 食事も摂らず、ただ、一日ぼーっと椅子に座っていた。 自分にとって、篠田がどれほど多くを占めていたかを思い知らされる。 篠田に抱いて欲しい、篠田に愛されたい。 篠田は俺の全てだった。 俺は自分がいつでも死ねると思った。篠田のいない人生に未練はなかった。 「あーちゃん!」 有紀だった。 「大丈夫?!」 どっと俺の目から涙が溢れた。 「お父様が...」それ以上は言葉にならなかった。 有紀は俺のことを心配してくれて、一時も側を離れようとしない。俺が後追い自殺でもするのではないかと心配しているのだ。 そうしている間に、篠田の会社の役員や奥様の会社の役員がやって来て、葬儀のことや、相続のことを有紀に相談し始めた。 意外なことに、有紀は既にいろいろと計画を持っていたらしく、どの仕事は誰に、この仕事は彼にと指名して、指示を出す。政治家が弔問に来た時も、実に堂々とした態度で応対した。その様子はまるで貴公子のようだった。 有紀のたっての希望で、俺も有紀に並んで葬儀に参列した。 俺は喪服のドレスを着て、黒いベールを被り、外からは顔が見えないようにした。 葬儀の間中、有紀は俺を気遣ってくれ、俺は有紀に支えられて何とか、葬儀を乗り切ることができた。 全てが終わり、最後に葬儀屋が挨拶にきた。 「お疲れ様でした。」有紀がねぎらう。 「さすが、若社長。立派な葬儀でした。奥様はお疲れではありませんか?」 「え?」 「みなさん、若社長の奥様をはじめてごらんになったようで、会場の外では大変な噂でした。お綺麗な方だって。」 「そ、そうですか。ありがとうございます。」 俺はどうやら有紀の妻、あるいはフィアンセと間違われたらしい。 確かに有紀の隣の席に座るべき親兄弟はおらず、そこにドレスを着た女性が座っていれば、そう見えたかもしれない。 有紀は残りの単位を取得するためにフランスに戻り、半年後には篠田と奥様の跡をついでそれぞれの企業群の社長に就任することとなった。 俺は、有紀の顔を見て、生きる気力が湧いてきた。 そして、大急ぎであることを手配した。 ●第四十七章 変身 俺はタイの病院のエントランスに入った。 コーディネーターの女性が俺を出迎え、応接に通した。 待ち受けていた中年の医者は早速、俺に性転換の手術について説明を始めた。 そうだ、俺は性転換手術を受けることにしたのだ。 それは、有紀の母親になるためだった。有紀のそばにいるためには、どうしても完璧な女になる必要があった。 この病院は以前に奥様の整形手術を調査した時に調べた病院で、臓器売買にかかわった疑いを持たれていたが、それを承知のうえで、最高の手術を要求した。 もちろん、料金は想像を絶するほど高額だったが、俺は金に糸目はつけなかった。 「どこまでお望みなのかによりますが...」医者は流暢な日本語で言った。 「例えば妊娠して出産することも可能です。この場合は臓器移植ということになり、免疫抑制剤を一生飲み続けていただくことになります。ただ、今、実験中の療法を使えば、それもなくなるとは思いますが。」 「療法?」 「ええ、我々は免疫活性化療法と呼んでいます。免疫を抑制するのではなく高度に活性化することで、移植した臓器の細胞そのものを短時間に本人の遺伝子を持ったものと入れ替えてしまうのです。ご希望なら臓器を手配いたしますよ。」 「そこまでは望みません。」 「そうですか。何例か実績もあるんですがね。他にも妊娠した子宮を移植する手もあります。妊娠した子宮は赤ちゃんを異物として攻撃しないよう、免疫機構を抑制するホルモンを出すんです。出産後に子宮を除去すれば、後のわずらわしさもありません。」 「子供を産もうとは思いません。」俺は臓器提供者として子宮を取り出される女性のことを思って、嫌な気持ちになった。 「そうですか。では、一般的な性転換手術と、骨格の整形、脂肪誘導法といったところでしょうかね。」 「骨格の整形?」 「ええ、これをしないと体形が男のままで、女の性器を持った人間が出来上がります。若い時に性転換したのでなければ、骨格は男として完成してますからね、すぐに見破られますよ。」 彼の説明では超音波で骨にひびをいれ、その状態で整形するのだそうだ。 「ほら、骨折した後、骨が伸びたり縮んだりするでしょう。あれを人工的にやるんです。こんなこともできますよ。」 彼が出した写真を見て、俺は吐き気を催した。 写真に写っている少年の腕は途中で90度曲がっていたのだ。 「少し、痛みはありますがね。」 その日の内に、俺は手術台に登った。 ペニスの除去と人工造膣術、そして喉仏の除去手術はあっという間に終わった。レーザーメスやウォーターメスといった最先端技術が使用され、ほとんど出血も痛みもなかった。 医者が言うには、血管や神経に至るまで顕微鏡を使っての超精密な手術だったそうだ。 「医者でも遺伝子診断をしない限り、見破れませんよ。それに、神経には特別に注意しました。最高の出来です。」 卵巣の位置には今後何十年もかけて徐々に溶け出す女性ホルモンのカプセルが埋め込まれた。 しかし、その後の処置は想像を絶する苦痛だった。 超音波による骨格整形は一度に何十本もの骨にひびが入ったほどの痛みがあり、それを様々なギプスで変形された上で固定された時は、苦痛のあまり気絶したほどだった。 さらに無害な化学物質の種を皮膚に埋め込むことで、その種の周りに脂肪が蓄積されるという脂肪誘導法では体中に何千回もぶすぶすと針を突き刺された。 俺は果てしなく続く苦行に地獄を見る思いだった。始めの数日間はほとんど記憶に残っていない。気絶しては意識を取り戻し、再び苦痛のあまり気絶する。 「がんばって、ちゃんとコントロールしているから。」医者が話し掛けてくる。「麻酔を使うと、直りが遅くなる。がんばるんだ。」 その間に、俺は全身の血を一回抜き取られ、男性ホルモンに対する感受性を破壊する処置が行われた。同時に大量の女性ホルモンが投与された。 さらに、俺の顔の皮膚が慎重に剥ぎ取られた。 剥ぎ取った皮膚と身体の他の部位の皮膚を再移植して、人工皮膚の下で新しい皮膚が培養された。 その頃には骨格整形の痛みもだいぶ和らいできた。 医者たちは俺の手の指に微細なドリルを挿し込み、骨を削って細くした。これは麻酔が使われたのでほとんど痛みはなかった。 俺はまるでミイラだった。 看護婦たちは一日に何回も包帯やガーゼ、人工皮膚を取り替える。 始め、取り替えた包帯やガーゼには黄色く膿が染み付いていたが、次第にそれが薄くなっていく。 股間に差し込まれた尿道感からの小水も、始めはひどく濁った色だったが、次第に透き通ってきた。 医者は全身にギプスをした状態の俺に、リハビリをするように命令した。 再び、苦行が始まった。 俺は全く自分では起き上がることも、立つこともできなかった。 それでも身体をベルトで吊り上げ、歩く練習をさせられる。 大腿骨の付け根の位置が変わったので、まったくバランスが取れない。 何よりも腰骨に激痛が走る。 それでも、俺は、少しずつこの新しい身体に慣れて行った。 二週間目に顔のガーゼと人工皮膚が取れた。 まだ、妖怪のような血管の浮き出た顔だったが、新しい皮膚が形成され、そこには皺もシミもホクロもそばかすも全くなかった。 医者は仕上げに眉毛と睫毛を植えて、睫毛は長く、濃くし、顎の骨を削り、歯の噛み合せを直した。 それぞれわずかな修正だったが、俺の顔は完全に女の顔になり、それは自分でも美しいと思える顔だった。 始めはもう二度と立っては歩けないんじゃないかとさえ思われたが、厳しいリハリビの訓練により、なんとか立って歩けるようになった。 上から順番に鎖骨のギプス、肋骨のギプスが取れ、脚のギプスのあと、最後に腰のギプスが取れた。 肋骨のギプスが取れたときに、俺は自分の乳房がはっきりと大きくなっていることに気付いた。女性ホルモンの働きと脂肪誘導法が効果を現しているのだ。 腰のギプスが取れると全身のスキンケアが行われた。もともと無駄毛は抜いていたが、永久脱毛され、陰毛だけは女性的な生え方に整えられた。 「ほら、御覧なさい。」 俺は医師の誘導で、鏡の前に立った。 「これほどのできは今までにありません。あなたは我々の最高傑作です。」 俺は、女に、なった。 退院して、俺が乗ったタクシーが出発すると、入れ替わりに何台ものパトカーが病院に殺到して来た。 空港のテレビでは病院の関係者が皆、臓器売買にかかわった疑いで逮捕されたニュースを上映していた。 帰国してからのリハリビは順調に進み、俺はまた歩けるようになったが、俺の体格は全く変わり、完全に女の体格になった。首も細く長くなり、肩幅は狭く、指もほっそりとなって、ウエストもはっきりとくびれ、腰は広くなり、腰に対する脚の角度も変わった。 胸とヒップには見る見る脂肪がついて、歩くと揺れるようになった。俺は尻が大きすぎるような気がしたが、鏡に映してみると、見事にセクシーなラインになっていた。 そうなってみると、女物の下着や服がぴったりとフィットする。スカートやパンツを「腰に乗せて穿く」ことができる。 俺はファッションを楽しめるようにもなった。 次第に身体が馴染んで、自分のものとなり、リハリビもエアロビクスと言えるほどのメニューとなって、俺は走ったり踊ったりもできるようになった。骨格や身体のバランスが変わったので、自然に女らしい動きになる。 身体の手入れも欠かさず、奥様にしたようなオイルマッサージは欠かさない。 あの部分には毎日寝るときにダイレーターを挿入する。そうしないと癒着してしまうからだ。始めは痛みがあったが、すぐに慣れて、痛みも感じなくなった。 しかし、自分の股の間から腹の中に長さ20センチ以上の拡張用の樹脂製の棒を入れていくのはあまり気持ちの良いものではない。もちろん、快感など感じなかった。 ●第四十八章 再婚 大学を卒業した有紀が帰国し、俺は空港に出迎えた。 「あーちゃん、手術したんだって?」 有紀は俺を抱きしめ、キスをした。 俺は手紙で手術のことを子宮ガンの手術として知らせてあった。 「ええ。でも、大丈夫よ。全部取ったから。」 「じゃあ、もう子供は。」 「埋めないわ。でもいいの。私にはあなたがいればいいわ。」 有紀は俺の顔をまじまじと見た。 「あーちゃん。」 「どうしたの?」 有紀は首を振った。 「よく分からない。僕にはあーちゃんが凄く若返ったように見える。」 「久しぶりに有紀様に会えるので、ちょっと気張ってお化粧したから。」 「そうじゃない。でも、とっても素敵だよ。」 有紀はもう一度、俺にキスをした。 篠田が死んで以来、誰ともキスをしていなかったので、俺はそのキスに酔った。 帰国した有紀は、驚くべき才能を発揮し、みるみる会社を掌握し、発展させた。 俺は有紀の母親として、彼の世話を焼くことが喜びだった。 「あーちゃん。親父の仇を取ったよ。」 ある日、有紀が帰って来ると言った。 「仇って?」 「中国マフィアさ。」 「えっ?」 有紀はにっこり笑って言った。 「会社の記録を読んだ。中国での親父の仕事が分かったよ。かなり危ない橋を渡っていたようだね。」 「それで、どんなことをしたの?」俺はことの顛末を聞きたかった。 「簡単さ。工場を移転させたんだ。」 「移転?」 「そう。しかし、あれだけの規模の工場だ。現地は大騒ぎになった。僕はマフィアなら必ず強硬手段に出ると思って、ちょっとばっかり罠を仕掛けた。新しい移転先の州知事が協力してくれたよ。」 「で、どうしたの?」 「自分達で殺し合った。僕の仕掛けによって、お互いが裏切ったと思わせたんだ。」 「まあ。危ないことはしないでね。」 「何にも。向こうが仕掛けてこなければ、何も起こらないはずだった。もっとも、親父の番頭だった事務長がマフィアの手先だったのには驚いたけどね。」 「事務長?」俺を騙したあの詐欺師だ。 「死んだよ。仲間に首を切られて死んだ。親父を毒殺したボスも、下手人も、警察との銃撃戦の中で死んだ。」 俺は篠田が毒殺された話は有紀にしていなかった。下手に有紀が復讐を企て、返り討ちにあうことを恐れたからだ。 しかし、有紀はそのことを知っていた。 「あなた、警察がマフィアを殺すようにしむけたの?」 「僕?僕はだた、知事に刑務所の改修予算を全額出すことを提案し、更正の見込みのない常習犯罪者には厳格に対処するようにお願いしただけだ。」 「有紀様、」俺は有紀の手を握った。「私はとっても心配です。」 「あーちゃん。いや、朱美。もう、有紀様とは呼ばないで欲しい。」 俺は朱美と呼ばれて驚いた。 「僕はあなたを守りたい。一生、守ってあげたい。」 「私のことはいいです。自分の幸せのことを考えなさい。」 「僕の幸せがあなただ。あなたのいない幸せなどない。」 「何を言ってるの?」 「今まで、僕はあなたを母親とも思ってきたが、今は違う。一人の女性として、あなたを愛してるんだ。」 「有紀。だめよ。私は子供も産めないし。」 「もう、決めたんだ。結婚しよう。」 俺は気が動転して、どうして良いのか分からなかった。 俺は実の息子から結婚を申し込まれたのだ。 確かに戸籍上は俺と有紀は他人だった。俺は朱美の戸籍で有紀と結婚できる。 「愛してるよ。」 有紀が俺を抱きしめ、そっと、ソファの上に寝かせた。 「ああ、このときをどれほど夢見たか、あーちゃん、もう僕だけのものだよ。」 有紀の唇が俺の唇に重なり、その手が俺の豊満な乳房をまさぐった。 俺は有紀が俺を「朱美」と読んだのが気になった。有紀にとって俺は「純子」のはずだった。しかし、篠田が死んで以来、たくましい腕に抱かれることがなかった俺は彼の身体に抱きついた。そして、沸きあがる喜びの中で、そんなことはどうでも良くなった。 有紀のペニスを自分の中に受け入れた時、俺はタイの医者達が俺の身体に施した処置の意味を知った。俺は経験したことのない快感の嵐に翻弄されたのだ。それはいままでのどんなセックスより強く、快く、激しかった。 有紀の胸に抱かれ、俺は我を忘れて、快楽を貪りながら思った。 これは地獄だ。 俺の周りの全ての者が、男も、女も、妻も、息子も、俺を女として犯す。 そして、俺は犯されながら、悦楽に溺れて行く。 俺は男なのに、女としてしか愛されず、女の喜びを感じさせられる。 本当に、これは地獄以外のなにものでもない。 しかし、この地獄は俺にとって、限りなく幸せな地獄だった。 (完) ●後日談 俺は息子の有紀と結婚し、彼の妻になる。 同じ血液型で、俺にそっくりな女を探し出し、彼女を代理母として体外受精により子供を設ける。全てはコーディネーターを介し、彼女は依頼主を一再知らない。彼女の条件は夫と離婚するための裁判費用と、それ以外に500万円の支払いだった。 平凡で幸せな生活。 しかし、有紀が政界に立候補して生活が変わる。 俺の過去を暴こうとするゴシップ記者をかろうじて沈黙させ、ついに有紀は最年少の内閣総理大臣になる。 総理大臣になった有紀はアメリカとの困難な交渉を行わなければならなかった。 プッシュ大統領はひたすら押しまくりの強引な政治手法で、自国というか自分の支持基盤の石油産業の権益のために、日本に無理難題を押し付けてくる。 呼びつけられてアメリカを訪問する有紀と同行させられた俺が、ホワイトハウスのレセプションが終わって控室で休んでいると、何とプッシュ大統領が一人で現れた。 「ついにこの日が来ました。」 驚いたことに彼は流暢な日本語を話した。以前、在日米軍にいたときに覚えたと言う。 「一目見たときから、あなたが欲しかった。」 「I can't understand what you say, Mr. President.」俺は英語で答えた。 「あなたの夫が立候補したときから、私はあなたに注目していたのです。私は今日ここであなたにお会いするために、そのために大統領になりました。」彼の目が血走っている。  俺は恐怖を感じて後ずさりした。 「Please leave me. I'll call someone.」  大統領の手が俺の肩を抱いた。 「誰も来ません。この部屋は盗聴防止で完全防音です。」  レセプション用のカクテルドレスは肩紐のないデザインだった。大統領は片手で俺を抱き寄せ、片手で器用に背中のファスナーを下ろした。 「No. Don't do that...」俺は命がけで抵抗しようかとも思ったが、どう見てもかないそうもなかった。 「素晴らしい。間違いなくあなたは愛の女神だ。」大統領が耳元で囁く。この日のために日本語の口説き文句を練習したのだろう。 俺はドレスを脱がされ、ストラップレスブラを外された。乳房が揺れる。 「For give me please. It's immoral.」 彼の手が後ろからペチコートの中に入って来て、吊りガーターを外し、ペチコートごとパンティを下ろされた。 「Oh. No.」 俺は素っ裸になり、大統領に抱き上げられた。 彼が何かのスイッチを押すと、書棚が回転してそこにベッドが現れた。 なんと、この部屋は大統領が誰かとエッチをするための部屋だったのだ。きっと、モニカなんとか嬢とエッチするためにクリンなんとか大統領が作ったに違いない。  俺は覚悟を決めた。  有紀のため、日本のために、大統領の大陸間弾道弾を俺の股間で受け止めることを。 「Please don't. Oh, you are big.」俺はわざと声をかすれさせて言った。 「Oh, you are strong. Please Stop. No, don't stop that...」 大統領の精液は少し苦い味がした。 日本とアメリカの関係は急速に改善した。 大統領も石油メジャーの影響力を排除したいと考えていた節もある。 何よりも、彼は俺とのセックスに大満足だった。 「素晴らしい!あなたはこれまでに出会った女性の中で最高だ!!」 「How many ladies did you know?」 「大統領が出会える程です。」そう言って彼はパチンと音の出るようなウインクをした。  それ以来、大統領は度々来日し、その度に俺は特別な接待をしなければならなかったが、両国の関係が改善されるにつれ、それは著しい経済発展となって現れた。  そうなると収まらないのが中国だった。一番儲かる部分を日本に奪われ、結局日本の下請工場になって行ったからだ。  俺は最初に大統領のペニスが侵入してきたときにそのことを考えた。彼のペニスをしゃぶりながら、彼が射精する前に作戦は出来上がっていた。  突然、中国が日本の総理大臣を招待すると言ってきた。  歴史問題でギクシャクして、ずっと何年も日本の首相の訪中は行われていなかったので、これは歴史的偉業になる。  俺は先方の仕掛けを読み、周辺から充分に情報を収集することができた。総書記の特命を受けた機関がどこで、誰が責任者かも分った。  さらに歓迎レセプションで仕掛けが行われることすら、さまざまな情報を分析した結果予測できた。  レセプションが始まり、俺は注意深く周囲を観察した。選り抜きのSPや私服自衛官も全てを把握したうえで、周辺を固めている。  無論、俺は一再食事に手を付けず、何も飲まなかった。  いよいよ乾杯となり、このときばかりはシャンパンを飲まなければならない。そのとき、俺は俺のシャンパンを持ってきた係員がそれまでの係員と違うことに気付いた。  『来た!』  俺は着ていた和服の袖に入れていた輪ゴムを右手の指にかけ、左手の袖の下に隠した。  「それでは両国の親善友好を祝って、乾杯いたしましょう。」  司会の声と共に、俺は輪ゴムで隣の有紀のさらに隣に座る総書記のシャンパングラスを撃った。  まるで、総書記の指が誤って、グラスを突き倒したように、グラスは倒れ、中味がこぼれた。 「これを、お使いください。」俺は自分のグラスを差し出し、総書記はふいをつかれたのか、そのグラスを受け取った。シャンパンが少しこぼれて総書記の指にかかった。  会場の隅で叫び声があがった。 「乾杯!」司会が朗らかに叫んだ。さらに、別の叫び声が上がった。  総書記は差し出したグラスを持ったまま、動かなくなった。彼の目が俺を見ている。  テレビがこの情景を中国全土はおろか、世界中に中継していた。  誰かが総書記に近付こうとして、あばれている。  総書記はグラスを持ったまま、こう言った。 「祝宴の前に、話し合わなければいかんことがある。」 「こちらには・・・」有紀は自分のグラスをテーブルの上に置き「もう、お話しすることはありません。」と言った。  会場は満場の拍手となったが、その中で総書記はグラスを持ったまま立ち尽くしていた。  その後は何もなく、俺達は帰国することができた。  俺が、懐紙に染み込ませた例のシャンパンを分析させたところ、極めて発ガン性の高い物質が溶け込ませてあったことが判明した。 「動物実験であれを舐めさせただけで、口の中にガンができたそうだ。」有紀が言った。  総書記の指にガンができたという情報が間もなく伝わってきた。 2004/12/07(完)