フェティシュ・バーで・・  舞  「お待ちどうさま・・・」 青木一美が肩も顕なワンピースドレス姿で、店の外側にある階段を降りて来て 扉を開けて中を心配そうに覗きこみながら声を掛けている。 「おおっ。似合うねぇ・・いい女振りだ」 店のマスターが最初に一美を見つけて驚いて掛けた声を聞いて、茂も振り向い ている。 そこには店のママに付き添われた一美が華やかなお化粧をして、肩も顕なドレ スを着て恥ずかしそうに立っていた。 その濃い紫のワンピースドレスは白い肌をした一美には本当に良く似合ってい る。 「ママさんが・・・お化粧が上手だから・・・」 店に他にお客がいないことを素早く確認して、ホッとしたような一美が小さく 呟いて、右手を上げてウィッグの髪を掻き揚げた。 その右腕の付け根は綺麗に毛が処理されていて、輝くように地肌が覗いている。 それを確認した茂は満足そうに頷いたのだ。 伊崎茂と青木一美は都内で行われた教育関係のセミナーで知り合った。たま たま偶然に隣同士の席に腰を下ろしていた。 自己紹介をして名刺を交換すると、青木一美は都立高校の数学の教師であり、 伊崎茂は大手の出版社のドリル等の担当の社員であった。 話をしていて、茂は隣になった青木一美が何処と無く山元景に似ているのを 感じてドキリとしている。顔かたち等は景の方が丸くて違っていると思うの だが、大人しい話し方や控え目な態度など雰囲気が景にソックリであった。 茂は高校から大学時代の甘美な思い出を思い出してしまった。 午前中のセミナーも終わって昼食を取って同じ階にある喫茶室で話す頃には、 少々強引な正確の茂は、昔、自分の女にしたこの山元景に似た雰囲気を持つ 一美を自分の女にしてしまおうと決心していた。 話を聞くと、青木一美は32歳、今の都立高校に移って2年目、独身で区こそ 違うが茂の住んでいるマンションからさほど遠くはない所に住んでいるとの ことであった。 「折角お知り合いになったのだから、僕の知っているところで一杯やって行き ましょうよ。・・・明日は学校の方はお休みなのでしょう?。お送りしますよ」 セミナーも終わって、茂が誘うと一美は口の中でモゴモゴと言い訳をしなが らも、茂が停めたタクシーに乗り込んでいた。 <こう云う優柔不断のところも景にそっくりだな>タクシーの中で、下心の ある茂は思わずほくそ笑んだものである。  中野にある茂が良く行っているバーで、あまりアルコールには強くない一美 には口当たりの良いカクテルを飲ませている。 散々煽てられて、すっかり良い気持ちになってしまった一美は、三杯目のカ クテルを頼んだことさえ忘れてカウンターの上で寝込んでしまった。 茂はいつもよりは飲んではいなかった。(続く)