兄は花嫁になった どうしてこんな事になっちゃったんだろう? マリッジブルーとかで塞ぎこんでいたあたしに囁いてきたのは悪魔だったに違いない。 結婚式をあと1か月に控えたある夜、不安に嘆くあたしの耳に聞こえてきた声は 「そんなに不安なら誰かに代わってもらうか?」 「誰?」 「誰でもいいさ、お前の気持ちはどうなんだ」 「あたしは・・こんな気持ちには耐えられない」 「そうかわかった」不思議な声はそう言って消えていった。 そして翌日、よりにもよって兄さんと肉体が入れ替わってしまうなんてっ!! 「なんだこりゃ!ないっ!」目覚めるなり響き渡った兄さん…声はあたしのものだけど…の叫び。 「どうしたのよ?」と母さんの声がして足跡が叫び声のしたあたしの部屋に向かった。 そして、あたしは自分の肉体が兄さんのものになっているのに気が付いた。 とりあえず式をどうするかが問題だった。結婚自体を中止することも考えられたが ひょっとしていつもとに戻るかもしれないので今の段階では式を中止する訳にも行かないと母さんが言う。 結婚を取りやめるためには理由が必要だ、病気や大怪我をした訳ではないのだから。 「とりあえず、式までになんとかなればいいでしょ。乗りきれば身内だけの問題で済むわ」と母さん 「それまでに戻らなかったら俺にウェディングドレスを着ろと?」 「可愛い妹の一生に一度の晴れ舞台なのよ。兄としてそれくらい協力しなさい!!」 それからが大変だった、「あれ!」「うひょ!」「どーすんだよこれ」私の声で兄の奇声が飛び交う。 その度に母さんが「しょうがないわね」「こうだからね」「ちゃんと覚えなさい」と世話を焼いている。 三日もするとなんとなく様になってきたが時折とんでもない恰好をして私たちを慌てさせる。 それでもキレイにお化粧してあたしのよそ行きを着ると鏡の前でうきうきして見入っている。 けっこう楽しんでいるんじゃない?そう思った。 今日は彼と式場の下見がてらデートだそうだ。自分が行きたいけどこの兄さんの体じゃそうもいかない。 可愛らしい色のミニ丈のワンピースを着てメイクしたあたしはキレイだった。 ちょっと悔しいけど「楽しんでおいで」と母さんとならんで見送った。 その日の夜、予定より遅めに帰宅した兄さんはなにかウキウキしているようだった。 あたしの顔をみるとポっと頬を染めてプイと目をそらしたのが気になった、まさか・・? そして今。あたしはあたしの体の兄さんが父さんに導かれてバージンロードを歩いているのを見てる。 父さんは兄さんを彼に引き渡し、あたしの隣に戻ってくる。 式は何事もないかのように進んでゆく。 ベールの下で兄さんはどんな顔をしているのだろう? 「・・を誓いますか?」司祭がお決まりの言葉で問い掛ける。 「はい、誓います。」彼の力強い宣言が返った。 本来ならもっと間近でその言葉を聞いていた筈なのに… 「・・を夫とし、生涯変わらぬ愛を誓いますか?」 それは、あたしに向けて問われるものだった。 「はい…誓います…」兄さんはあたしの声でそう応えていた。 あの日、彼と結婚式場を下見に出かけ、その後おしゃれな街でデートすることになった。 彼は俺に甘い言葉をささやきそっと肩を抱いてくれた。 スマン、俺は妹じゃないんだ、その時はそう思った。 彼は結婚したその後の計画を語ってくれる、ああ妹は幸せだなと思った時なぜか羨ましくなった。 このまま妹として結婚式まで、そして彼と・・・いやいやそれはないと首を振る。 ホテルのレストランで夜景を見ながらディナーをとる。 「部屋をとっておいたよ、いいだろ?」彼がやさしく言う。 「え、それは・・」躊躇したが二人の関係では断る理由はない。 「ワインサービス頼んでおいたから」部屋に入り窓際の応接セットに座ると彼がグラスを渡してくれる。 ほんのりと頬をそめて俺・・は彼を見つめた。いいだろう?このくらいは・・心の中でつぶやく。 彼がとなりに座りそっと俺を引き寄せた、そして彼の唇が近づき俺の唇にも柔らかいものを感じた。 男と初めての口づけだがなぜか嫌悪感はなかった。俺は彼のキスに夢中で応えた。 ワンピースを脱がされ下着姿でベットに寝かされた俺に彼が覆いかぶさってくる。 そして股間に彼の熱いものを感じ、やがてそれが侵入してくると俺は喜びに打ち震えた。 この幸せは俺の・・・わたしのものよ、誰にもわたさない。 指輪が交換され、ベールが外され彼に抱擁されながらキスされた兄さんはこれ以上ないくらいに幸せそうな顔をしていた。 女の子としての幸せを体で感じて喜びにあふれていた。 それはあたしの嬉しさの涙だったはずよ? 式が終わると二人はそのまま新婚旅行に出発するためにハイヤーで空港に向かった。 空港のホテルで1泊し翌朝の飛行機で旅行先のサイパンに向かう予定だ。 二人がハイヤーに乗るのを見送ったとき兄さんと目が合った。 その目はわたしが新妻なのよと宣言しているように見えた、あたしはどうすれば良いの? 結婚式も新婚旅行も初夜さえそして彼さえも全部兄さんに取られちゃった。 「このまま彼女の兄として生きていくしかないな。」不思議な声が頭の中で囁いた。 とうとう元には戻らなかった。あたしは兄として生きていかないといけないのかしら? 彼と兄は新婚旅行から帰って来て近くのマンションで新婚生活を始めた。 あたしは時々遊びに行くと彼と兄は喜んで迎えてくれた。 部屋のあちこちに置かれた調度とかキッチンの調理道具など全部あたしが彼と選んだものばかりだ。 リビングのソファーに座っているとキッチンで2人の声がする。 「だめよ、兄さんいるんだから」「いいから」「うふん・・」彼に甘える兄の声。 トイレに行こうと通り過ぎたドアのすき間から見えた抱き合いキスする2人、奥歯がギリっと音を立てた。 黙って玄関のドアを開けて家に帰った。 電話が鳴る、兄からだった「大丈夫?なにかあった?」あったよ、ガマンできないことがねと心の中で叫んだ。 3か月経ち兄と彼が揃って我が家に来た。この2人は仲がいい、いつも一緒だ。 入れ替わりの事実を知っているのはあたしと兄と父母だがこの頃の父母は元から何もなかったの如く2人と話してる。 あたしの気持ちはどうなるの? 彼はいつも以上にニコニコしている。そして一番恐れていた言葉が伝えられた。 「今、3カ月です」彼は私の姿になった兄を見ながらニコニコして父母に報告する、 父も母もおめでとうと祝福している。 そして兄はポッと頬を染めていた。 目の前が真っ暗になり、あたしはそこで記憶が途切れた。 「起きなさい。いつまで寝てるの?」あたしは頭を押さえてベットから起き上がった。なにかいやな事があったような? 「今日は式場の下見でしょ?早く準備しないと彼が来ちゃうわよ」母さんの声に 「はーい」と返事してベットから降り、姿見を覗き込むとそこには今日もちゃんと可愛い娘が映っていた。 -end-