幻夢8   作:  しゃのん 幻夢211 とある中堅企業にふたりの新入社員が入ってきたのが、そもそもの始まりだった。 もちろん、新入社員がふたりだけというわけではなく、同期入社の十数人のうちの、ふたりの青年にまつわる話だ。 ひとりは、タカハシツトムという名前で、有能な男だった。 もうひとりは、その企業の創業者一族と姻戚関係にあり、明らかな縁故入社だった。大学を2年留年しているので、この男のほうが2歳年上になる。 ふたりは、何の因果か、同じ部署に配属された。 真面目な性格、仕事に対する前向きな姿勢、そんなタカハシ青年を見習え、という会社幹部の意図があったのかも知れない。 ふたりは、移動があっても常に同じ部署だった。 そして、何年かが経ち、タカハシツトムには何とか主任だの、係長補佐だのという肩書きがつくようになり、同期入社なのに、部下と上司という関係になってしまったのだ。 こういう事態は、この男にとっては甚だ面白くない。 この男、全くの無能ではなくて、それなりの能力はあるのだが、根気が続かない性質だった。いわゆる金持ちのぼんぼんで、幼い頃から甘やかされて育てられてきたために、辛抱ができない性質になってしまっていた。 わがままし放題で成長してきた故に、こんな事態になったとき、彼の恨みはタカハシツトムに向けられた。 タカハシツトムという人物は実直勤勉、たとえ創業者一族であっても媚びを売らない。だから、彼の恨みはますますヒートアップしてくる。タカハシ青年を乗り越えるような成長を見せれば、いずれは会社の枢要な位置の椅子を与えられるかも知れない、などと考えるような人物ではなかった。 彼には、金に飽かせていっしょに悪さをしてきた友人が何人もいる。そんな悪友のひとりが、耳よりな話を持ってきた。 耳よりな話とは、ある闇組織に頼めば、男を女に変えてくれる、というのだ。 復讐なり何なりの理由で、ある人物の身を破滅させたい、社会的に抹殺したい、家庭生活を崩壊させたい、当人に地獄の苦しみを味わせたい……、そのためには、男から女に無理矢理に変えてしまうと目的を果たせる。 これは、実に面白い奸計だった。 ただし、この謀略を実現するには相当の額の依頼金が必要だった。しかし、彼は、その金を工面する方法を心得ていた。親の資産、ゆくゆくは自分が相続することになる資産をひそかに担保にして、契約を取り決めたのだった。 こうして、闇の組織が動き、タカハシツトムという青年は、男として生きることができなくなってしまった……。 幻夢212 琴音は花鬼の話を聞いていて、背筋が凍りつくような怖い話だ、とは思わなかった。 あまりにも現実離れしていて、実感が湧かないのだ。 闇組織と言われても、琴音の日常生活からは想像もつかない。 ただ、栗岡に『雅蝕苑』に連れて行かれ、少年の人身売買を見せられた経験から、世の中の裏側では、琴音には信じられないことが多々、敢行されているのはわかる。 でも、琴音には、素朴な疑問が浮かぶ。 少なくとも、会社員がひとり、行方不明になってしまったわけだから、あのタカハシツトムという人には奥さんがいるかどうか知らないけれど、家族や友人はいるはずだし、ある日突然、大人の男が失踪していいものだろうか……? 自発的に失踪したのではないだろうし、姿を消す理由があったとも思えない。 そんな疑問に、花鬼は答えてくれた。 タカハシツトムは生真面目で仕事熱心で、女遊びなどいっさいしない善良な男で、そんな彼の前に清楚な美人が現れてタカハシツトムに好意を抱いたとする、さてどうなるのか? 免疫がないと病魔に冒されるのは早い。タカハシツトムは有頂天になり、その娘を生涯の伴侶に決めてしまった。それが悪魔の陥穽だとも知らずに……。 ふたりは結婚し、しばらくの間は甘い新婚生活が続いたのだが、突如として、極悪非道の罠が大きな口を開いたのだった。 タカハシツトムは組織に拉致され、残された新妻は切々と訴えた。 「わたしの夫には女装趣味がありました、そうです、ホモセクシュアルだったのです。わたしとの夜の営みは消極的でした……どちらかというと、嫌々ながら仕方なくという感じで……」 次々と証拠が出てくる。 タカハシツトムの体型に合うドレス、髭痕を隠すためのドーランを含めた数々の化粧用具、男の足のサイズのハイヒール……etc。 決定的だったのは、タカハシツトムが男と性交している写真だった。 四つん這いになったタカハシツトムが赤いドレスの裾を捲り上げられて男に尻を犯されているプリントは衝撃的すぎて、彼の家族は唖然とするばかりだった……。 もちろん、警察沙汰にはならなかった。 タカハシツトムはある日、忽然と姿を消してしまったが、周囲の者が納得できる事情が、組織の手によって捏造されたのだ。 何故にそんな手の込んだ、手間のかかることをするの? もっと簡単に誘拐・拉致すればいいのに……? 「その女、タカハシツトムの妻になった女は、とんだあばずれでな。今は、ある詐欺グループに属しているんだが、少女の頃から美人局で稼いでいた奴だ。美人だし演技力抜群だし、素人の男を騙すなんて朝飯前という女でな、援交がはやったときは大活躍したらしいぞ」 花鬼は愉快そうにビール缶を呷りながら言う。 オカマと結婚させられてひどい目にあわされた……、その女の仲間たち、彼女の親族に扮していた仲間たちが、タカハシツトムの家族から相当額の示談金をせしめたそうだ。 正直者、真面目な人間が損をしない、というのは御伽噺にすぎん。悪党はしぶとく悪を成し遂げる……世の中、そういうものだ、琴音、肝に銘じておけ。 幻夢213 「人が妖しいと書いて、『人妖』、何のことかわかるか?」 「?」 「レンヤオ。オカマのことだ」 「…………」 「この闇組織は『亜細亜人妖倶楽部』という名前で知られているんだ。そんな看板を出してはいないが、我々はその名前で知っている。琴音にはまったく未知の世界だと思うが、東條耕四郎という人物がいてな、裏の世界では超大物だ。わしがもし逆らったとしたら、蟻を踏み潰すぐらいに簡単に始末されてしまうだろうな。この人の傘下の組織だから広い人脈を利用できるし、息のかかった病院設備で非合法の手術もできるらしい。男を性転換手術で女に変えるといっても容易ではないからな」 (『亜細亜人妖倶楽部』って、なんか楽しいニューハーフ・パブみたいじゃん……) 琴音はへんなところに感心していた。 「その組織を仕切っている奴の奥さんってのが、性転換した元男でな、すごい美女だ。華やかな外見とは裏腹に、よく気がつくというか頭の回転がはやくて、そのくせ男を立てて自分は一歩も二歩もうしろに身をひいているような慎ましいところがあってな」 (ふう〜ん……) 「この『亜細亜人妖倶楽部』がある詐欺グループと結託して、こういうことになったそうだ」 正常な男が女の身体にされてしまったらどうなるか? 発狂する、自殺を考える……ともかく、まともな心理状態ではなくなる。 そこで、わしの出番だ。 調教師などと言われているが、それは扇情的な符牒にすぎん。 要するに、ツトムからまり子に変えられてしまった人間の心をどのようにコントロールしてやるか、それがわしの仕事だ。 心は女だけど、身体は男で、間違って生まれてきた、とはちがうからな。 まず、女の身体になってしまったことをきちんと認識させる。チ×ポもキンタマも無くなってしまった。代わりに、そこにはオマ×コが造られている。その事実を自覚させるんだ。 絶望してはいるが、生き続けさせなければいけない。誰かがそばについて巧妙に誘導してやらねばならん。 身体は女にされてしまったが、まぎれもなく男だ。身体が女であるということは、男の性的対象になるということだ。 女に強制性転換されてしまった屈辱との折り合いをどうするのか? 女の身体を持った男、まず、まり子の意識にそのことを染み込ませねばならん。 まり子と名づけられたけれども、実体は男だ。男と性交しなければならん。男のチ×ポをしゃぶったり、人工マ×コにチ×ポを突っ込まれるのに耐えなければならん。 ここのところが難しい。 タカハシツトムという人間の性格やら何やらを探りながらの駆け引きになるんだ。 正気ではなくなる寸前で正気を保たせる、わしの手腕が試されるところだ……。 花鬼は御機嫌でしゃべり続ける。 (この人の講釈って面白いんだけど……、でも、快楽とどんな関係があるんだろう……?) 幻夢214 まり子は見ての通り、ここに軟禁されている。 こういう閉鎖空間に閉じ込められて自由を奪われた生活はもちろん異常だし、ここに至るまでの間、まり子は性転換手術を強制されて、心身ともに極度に疲弊してしまっている。 しかし、人間とは不思議なもので、どんなに異常を極めた状況に置かれても、それが毎日続くと慣れてくる。非日常が日常になってくるんだ。 まり子の日常となってしまったここの生活で、まり子は知らず知らずのうちにわしに依存してくるようになる。今のまり子の狭い世界の中心に君臨しているのはわしだからだ。 こんな天地がひっくり返るほどのトラブルにまきこまれて奈落の底に転落してしまうと、誰かにすがりつきたくなるものだ。まり子はもともと真面目な性格だったと聞いていたが、わしに頼ろうする弱みを見せる傾向があった。こんな絶望的な窮境に追いやられたら、誰でも藁にでもすがりたい気分になるだろうが……。 わしはまず、まり子と会話することから始めた。コミュニケーションは重要だ。 まり子、タカハシツトムは、何が何だかわからないままに、女の乳房を造られ、女の性器を造られてしまった。 ここに連れてこられたとき、まり子はその理由がわからないし、理由を考える余裕すらなかった。 「山崎雅之という奴を知っているか?」 「…………」 「知ってるなら知ってるで、返事せんか!」 「……知ってます」 「おまえがこんな目にあったのは、山崎雅之がおまえを破滅させたいと考えたからだ」 あいつに恨まれるようなことは何もしていない……、とまり子はぼそぼそとしゃべった。 わしが聞いている話でも、タカハシツトムのほうに落ち度があるとは思えん。いわれのない恨みを向けられてこうなってしまったのはわかるが、理由はきちんと説明してやらねばならん。 そうして、優しくしてやることも大事だ。 虐めるだけでは駄目なんだ。そのあたりの匙加減が難しいし、その難しいところが面白いんだが……。 そうやって、わしはあいつに、彼の知らない情報を少しずつ与えていった。 おまえが結婚した女は、とんでもない食わせ者だったという事実、彼女の証言によってタカハシツトムという男は、実は女装して男とセックスするのが好きなホモセクシュアルだったという虚像がつくられてしまっている……云々。 だから、おまえが行方不明になって家族は心配しているが手の打ちようがない……。 あいつを誑かした女が、いちど、ここに訪ねてきたことがあったな。 幻夢215 「美恵子……?!」 そこにいるのは確かに美恵子だったが、彼が知っている美恵子とはまるで別人に見えた。 まず、服装がちがう。彼の妻だった美恵子は、こんな派手なお水系のスーツを着るはずがない。髪の毛も明るい茶色だし、化粧も濃い。 「ふふ……、ツトムさん、って呼ぶの、もう無理みたいね」 美恵子が意地悪そうな笑みを浮かべて言う。その美恵子の視線は彼の下腹部に向けられている。開脚縛りにされて、隠しようがない彼の股間からは、すでに男の証が消失していた。 「まり子って名前になったんですって? 女らしくって、いい名前じゃないの」 美恵子の背後には、彼女の兄が立っていた。 大柄だが、どこか温厚な人柄を感じさせる人物だったのに、今は視線が険しくて、堅気ではない雰囲気を漂わせている。 彼は、花鬼から結婚そのものが陰謀だと教えられていた。だから、この男は兄と称していただけだと察しがつく。 美恵子は細身の煙草をくわえて火をつけた。フーッ、と紫煙を吹き出した。 美恵子の顔と声をした別の女がそこにいた。……いやちがう、彼の妻となった美恵子は、この女の演技で創り上げられた女だったのだ。 「きれいにお化粧して、大きなおっぱいつくってもらって、変われば変わるものね」 煙草の臭いがきらいなんです、お酒はあまり飲めません、と可愛くて清楚だった美恵子の面影はどこにもない。 美恵子の本性を目にしたショックから立ち直ると、彼は屈辱的な羞恥に襲われた。全裸で縛りつけられて、恥ずかしい局部を晒しているのだ。 「ここにあったチ×ポはどうしたの?」 と、美恵子という名前で知っている女は彼の下腹部を指さし、彼の顔面に紫煙を吹きかけて嘲笑う。 「美恵子、おまえとこうしているときがいちばん幸せだ、なあんて言ってたわよね。あたしのオマ×コに粗チンを突っ込んでさ。あたしも、いいわいいわ、なんて悶えるふりしてたけどさ」 彼は俯いて唇を噛みしめるしかなかった。 「でも、もう女のオマ×コに突っ込むチ×ポも無くなっちゃったしね」 美恵子の視線が痛いほどに下腹部に感じられる。 この女を妻に娶り、短い期間だったとはいえ結婚生活を営んでいたのだ。 彼の下腹部に疼くような感覚が戻ってくる。 この女を抱きしめ、キスし、芳しい匂いをかいで性交したのだ。身悶える白い裸身と濡れそぼった女の蜜壺の記憶は鮮明だが、疼きを生じる男根が無い……。 幻夢216 「ねえ、あんた、こっちに来て見てごらんよ。ちゃんとした女のオマ×コになってるん だから」 美恵子が甘え馴れた声で言う。それで、彼には、兄妹と名乗っていたふたりの本当の関係が推察できた。 「ツトムさん、お元気でなによりです」 「…………」 どこまで人を食った男なのだ。初対面のときも、妹の美恵子をよろしくお願いします、とどこまでも低姿勢だった。 美恵子はしゃがみこみ、手術で造られた人工性器を見つめ、その横に兄と称する男もしゃがんだ。 「ねえ、こういうのって、オカマなの? もう、チ×ポはないしさ」 「オカマはオカマだろ。男なんだから」 「でもさ、性転換したニューハーフとかとはちがうでしょ」 「そうだな、男が好きでオカマになったわけじゃないしな」 「こんな手術で造ったオマ×コって、どんな感じなんだろうね」 「見ためは女と変わらんな」 「ちょっと、ハメてみたいとか、思わない?」 「俺はこいつが男だったのを知ってるからな」 「でも、こんないやらしい形したオマ×コだわよ、ムラムラってこない?」 「もとは男だとわからなかったら勢い余って犯っちまうかもしれんな」 そこで、ふたりはおかしそうに笑った。 「女にされるって聞いてたけど、ほんとに女にされちゃったんだ……」 「ツトムさん、俺たちは、決してツトムさんが憎くてあんなことしたんじゃないんですよ。俺たちが請け負った仕事の標的がたまたまツトムさんだっただけなんですからね」 美恵子の兄を自称していた男は腰の低い物売りのようなしゃべり方をするが、その言葉の背後には得体の知れない迫力が秘められている。 今さら後悔しても手遅れだが、この美恵子と名乗っていた女に、ころりと騙されたのが口惜しい……。 「俺たち、ツトムさんには感謝してるんですよ。ツトムさんの御家族からね、ちょっとした額の慰謝料をいただきましてねえ。俺たちのグループで山分けして臨時ボーナスにさせていただきました。いやはや、たいへんでした、捜索願を出すだの何だのって、そりゃ混乱してましたからねえ、俺たちは一応、被害者ですからね、早々に退散させてもらいましたが」 彼は家族のことは考えたくなかった。これ以上自分が惨めになるのに耐えられそうになかった。 「あ、そうそう、言うまでもなく、この女は美恵子なんていう名前じゃありません。俺の女なんですがね、残念ながら本名を教えてさしあげるわけにはいかんのです。結婚詐欺というよりも、公文書偽造の罪に問われるんでねえ、あしからず」 幻夢217 人妻にされる、って言ってなかったっけ……? 『人妻』という言葉に、琴音はひどくドキドキしたのだった。 女装して奥さんの真似をするのではない。女装も何も、性転換手術を受けて、すっかり女の体になってしまっているのだ。 男が好きで同性愛の傾向があったわけではない。それなのに、人妻にされてしまうなんて……! その激震にも似たドキドキ間が何に起因しているのか、琴音にははっきりとわからない。だけど、沸き立ってくるものがあるのだ。 琴音の質問に、花鬼は上機嫌で答えてくれた。 琴音が予測していたとおり、まり子を陥れた山崎某という人物が考えた残酷な余興だ。 アトリエ花鬼での調教が終了すると、まり子は山崎某が用意したマンションに移り住むことになっている。まり子はそこで、山崎某の妻として過ごさねばならない。 エロティックな下着、セクシーなランジェリーを身にまとって、山崎某の妻として夜の務めを果たさねばならん、まり子は女として夜伽せねばならんのだ……。 花鬼は愉快そうにしゃべり続ける。 (……でもさ、そんなひどい目にあわされて、まり子さんって我慢できるの? さっきは、あきらめた、とか言ってたけど、限度を越えて辛抱できなくなって、まり子さんだってもう大人なんだから、逃亡を図るなんていくらでも方法はあるだろうし……。犬みたいに首輪でつないでおくとか、鉄格子の檻に閉じ込めておくとか……、ってわけにもいかないだろうし……) 逃げ出さないようにするのが、わしの手腕だ。 (はいはい、手腕ね) 琴音は尊敬の眼差しで花鬼を見つめながら耳を傾けた。尊敬というより、なんかよくわからないけど、すごい人なんだ、という程度の眼差しだが……。 こういうタイプっているものだ。 揺るぎなき自信家で、滔々と講釈を垂れるのが好きで、熱心に耳を傾ける者がいるとますます上機嫌になってしゃべり続ける……。 (なんだ……、初めはもっとこわい人かと思ってたのに、けっこうかわいいとこがあるじゃん、このおじさん) 屈辱にまみれて辛い目にあわされても、その辛さが必ずしも嫌でないように馴致するわけだ。 なるほど、とうなずきたいところだが、琴音にはよくわからない。 被虐の悦びに目覚めさせればいいんだ。奴には、その素地がありそうだ……。 幻夢218 山崎という男は莫大な金を使っとる。その金をどんな方法で捻出したにせよ、金額に見合 うだけの快楽を得る権利がある。 (わっ。本日のキーワードの「快楽」だ……) 本人の意思に反して無理矢理に性転換手術を施して女の身体にしてしまって、妻にならせていっしょに暮らす……? かなり変質的っていうか、グロテスクに歪んでいるような気がするけど……。 「花鬼さん、それって、やっぱ快楽ですか?」 もちろん、快楽だとも。 客観的に見ればひとりよがりの私怨だが、山崎某にとっては積年の恨みつらみを晴らすことになる。 人間は誰もが快楽を求めて生きているんだ。わかるか? 琴音。 快楽を基準にして物事を考えればわかりやすいぞ。 たとえばな、好物の食べ物を腹いっぱい食べて満足するってのも快楽だ。 懸命に働いて金を稼いで高価な車を買うのも快楽だ、人は、それぞれの快楽原則に沿って生きてるんだ。 (……おいおい、話が横道にそれてきたような……) 快楽はセックスに関わることだけではないが、セックスの快楽の昂揚感は質がちがう。 そもそも、性的快楽は善良であってはいけないんだ。 邪悪な毒素が混じればそれだけ刺激が強くなる。わかるか? (……もお、そんな一般論ってゆーか、漠然としたお話はいいからさ、まり子さんが人妻になるってとこを聞かせてよ) かわいい花柄のエプロンなんかして、キッチンでせっせとお料理なんかしてて、「おかえりなさい、あなた」とか言って、玄関でキスして……なんてことはないよね。何たって邪悪な毒素だもんね。 「まり子さん、その人の奥さんになるんですか?」 「奥さん?」 「そうじゃないんですか?」 「人妻の真似事をさせるだけだ。山口某が気の済むまで弄んで嬲り尽くして楽しんだあとは、亜細亜人妖倶楽部が引き取るようになっとるそうだ」 (引き取られてからどうなんの?) あれだけの巨大乳房に人工オマ×コを持った女体に改造済みだからな、セックス玩具としての使い途はいろいろある。当人は女になりたかったわけではないからな、その方面の嗜好を持つ愛好者には喜ばれるだろう。性転換娼婦として働かされるかもしれないし、まり子を気に入った誰かに買い取られるかもしれん……。 幻夢219 「そろそろだな」 と花鬼が言って立ち上がり、何をするのかと琴音が見守っていると、彼はデスクの下からプラスティックの洗面器を取り出した。 何……? 琴音が怪訝な顔をしていると、 「さっきビールを飲ませただろう? そろそろ催してくるころだ」 何が……? 「琴音、行くぞ」 花鬼に促され、琴音も立ち上がる。花鬼はドアを開けて奥の部屋に入って行く。 まり子は、花鬼の手にしている洗面器を目にした途端、美麗に化粧した顔面を歪めた。 「まり子、お客さまの前でおまえが女に成り下がったところを見てもらうんだ」 まり子は恨みがましい目で花鬼を見た。その辛さをたたえたつけまつげの奥の眼差しを楽しむかのような笑みを見せた花鬼は、まり子の前の床の上に洗面器を置いた。 「琴音はまだチ×ポが付いてるから立ちションはできるな?」 「え……?」 「だが、まり子はもう立ちションはできんのだ」 「…………」 「まり子、さあ立ちションできなくなったところを見てもらえ」 と、花鬼が強い口調で命じる。 まり子は仕方なく、といった風情で腰かけたベッドから立ち上がった。そのとき、琴音と視線が合った。まり子の情けなさそうな表情に、琴音は動揺してしまう。 まり子はランジェの裾を持ち上げて洗面器を跨いだ。 体毛を失った生白い脚は男の逞しさはなくなっているけれど、女の脚の優美さがあるわけではない。ランジェを身につけているだけで下着は穿いていない。 「まり子の調教具合を見物に来た客たちには、必ずこれを見せるんだ」 まり子は洗面器の上にしゃがみこむ。 琴音にはピンとこない。 まり子にわざわざ排尿させて、その姿を眺めるのが楽しいのか……? 琴音には理解できない。ただ、悪趣味だというのはわかる。 若い女の子なら、小用している姿を誰にも見られたくないが、琴音はずっと男の子だったから女の子の羞恥がわからないだけなのか……。 シャー、と流水の音がして、まり子の股間から迸った尿水がプラスティックの洗面器に溜まってゆく……。 幻夢220 仕切りで区切られた奥のほうに行くと、そこにはダブルベッドが置かれている。 どこかラブホのような雰囲気がないでもない。 驚いたことに、ベッドのちょうど天井の部分が鏡張りになっていて、その鏡のせいでひどく卑猥な何かを感じさせる。 「まり子、股ぐらを開帳して、お客さんに見せてさしあげろ」 はい、と返事するわけではないが、まり子は従順だ。 花鬼の命令に嫌々ながら従わざるを得ない気配がはっきりと伝ってくる。花鬼の命令はまり子にとっては絶対的なもののようだ。 調教とはどういうことなのか、琴音にはよくわからないが強制性転換された元男性は、すっかり花鬼に隷従している。 「琴音、あそこの椅子を持ってきなさい」 と、花鬼が指をさす。その仕切られた区画の隅っこに折りたたみのスチール椅子が数脚、立てかけられている。 琴音が、自分の分と花鬼の分と2脚、もってゆこうとすると、椅子はひとつでいいのだ、と言われた。 つまり、今日の観客は琴音ひとり、ということらしい。 まり子がベッドにのぼる。 花鬼がスチール椅子をベッドのほうに向けて開き、そこに琴音が座らされる。 まり子はベッドの端に足をつけ、立て膝になって座る。上体が不安定になるのを防ぐために、両手をうしろにつく。 すかさず、花鬼がランジェの裾をまくりあげる。 ちょうど琴音の正面に、まり子の人造女性器が出現した。 「よくできたオマ×コだろう?」 「ええ……はい……」 何と返事していいかわからない。でもしかし、性転換手術で造られた女の性器を目にすると何故にこんなにドキドキするのだろう……。 「琴音もこんないやらしいオマ×コが欲しいか?」 「え……?」 性転換したいなんて思ってもないけど……。 でも、六ヶ月って言ってたから、半年前にはここにペニスがあったんだ……、それが本人の意思は無視されてこうして女の性器が造られてしまっている……。 ここにペニスがあったんだ……。 切り取られてしまって、もう男には戻れない……。 ドキドキ感は性的亢進となり、琴音の男根が勃立してくる……。 幻夢221 「まり子、お客さんに見てもらっているときは、何て言うんだ?」 「……ああ……」 まり子は低い響きの喘ぎを紅唇から洩らせた。 声質はまぎれもなく男のものだが、あまりに艶っぽい喘ぎなので耳にしている琴音は思わず赤面してしまいそうだ。 「まり子、いつものように言ってみろ」 「わたし、……男だったんです。……でも、手術で女にされて、まり子という名前をいただきました……」 「それから?」 「……ごらんのように、もうペニスは無くなってしまいました……」 「チ×ポが無くなった? そうじゃないだろう?」 「……ペニスを切り取られてしまったんです……」 「ちょん切られたのチ×ポだけじゃないだろう?」 「……ああ……、ペニスだけじゃなくて睾丸も無くなってしまいました……」 「キンタマもチ×ポも男にとっては大事なものだ。そんな重要なものをちょん切られてしまって、男ではなくなってしまったんだな?」 「……ああ、はい……」 「まり子は女になりたかったのか?」 「……ちがいます」 「チ×ポをちょん切って欲しかったのか?」 「……ちがいます」 「じゃ、なぜチ×ポを切られてしまったんだ?」 「……ちがうんです……」 「何がどうちがうんだ? 今日のお客さんは、まり子と初対面だ。琴音には何がどうなっとるのかわからんぞ。ちゃんと説明してみろ」 「……ああ……」 「女になりたくもないのに女になってしまったのはなぜだ?」 「……無理矢理に女にされてしまったんです……」 「無理矢理?」 「……そうなんです……何が何だかわからないうちに病院に連れて行かれて……」 「それで?」 「麻酔をかけられて……、麻酔から覚めたらペニスも睾丸も無くなってて……」 「股ぐらにオマ×コが造られてたんだな?」 「……ああ……」 こういう問答をわざわざ自分の前でするのは何の意味があるのだろう……? と、琴音は考えていた。 女言葉を男声で絞り出すまり子の声には苦衷がありありとうかがえる。 それはまり子という元男の精神的苦悩が悲愴なまでに表出された返答であり、琴音の目の前には猥褻感をたたえたまり子の女の性器があるのだ……。 幻夢222 「まり子、おまえのオマ×コは何のためにあるんだ?」 「…………」 「股ぐらに穴をあけたのは何のためだ?」 「……ああ……」 「おまえのオマ×コは子供をつくるための生殖器ではないな?」 「……子供は生めません」 「だったら、何のためのオマ×コだ?」 「……ああ……、男の人にセックスしてもらうための性器です……」 「……セックス? 性器だのセックスだのときれいな言葉を使うのはよさんか!」 「…………」 いきなり、花鬼が琴音のすぐ横にしゃがみこんだ。そして、花鬼は腕を伸ばし、指腹でまり子の縦の割れ目に触れる。すると、まり子は「んあっ!」と呻いてのけぞり、豊大な乳房が、ぶるっ、と揺れた。 「まり子、これはオマ×コだ。わかっとるか?」 「……ああ……」 「男にチ×ポを突っ込んでもらうための穴だ。わかっとるか?」 「……はい……」 「わかってるなら、ちゃんと言ってみろ」 「……男の人にチ×ポを入れてもらうためのオマ×コです……」 「まり子、おまえにチ×ポが付いていた頃は女のオマ×コにハメて楽しんだだろう?」 「……はい」 「オマ×コにハメると気持ちよかったか?」 「…………」 「濡れたオマ×コにチ×ポをハメて気持ちよかったんだな?」 「……はい」 琴音の目と鼻の先で花鬼の指がまり子の股間の縦割れに沿っていやらしく動いている。 指で嬲り、言葉で嬲る……。 特等席で見物している琴音は、もうのどがカラカラになってしまっている。 すぶっ、と花鬼の指先がまり子の人工性器穴に埋没した。 「んああっ!」 と、まり子がいっそう烈しくのけぞる。 花鬼の右手の人差し指がほとんど肉孔に隠れてしまい、そのようすを間近で見つめていると何か自分が指犯されているような気分になってくるのだった。 「まり子、今はこうやってハメ入れられる体になってしまったんだぞ」 「……ああ、やめて……」 まり子の太腿の付け根がヒクヒクと小刻みに悶えている……。 幻夢223 「まり子、指ハメされているのがわかるか?」 「……ああ……」 「オマ×コに指ハメされていたぶられてるんだぞ」 「……んああぁ……」 「オマ×コのヒダで感じてるか?」 「んうぅ……」 「まり子、去年の今頃は何をしていた?」 「……んんぅ……」 「言ってみろ」 「……いやあ……」 「言うんだよ。おらおら」 花鬼の人造膣指嬲りはさらに卑猥に烈しさを増す。 まり子はベッドの縁に赤いペディキュアの足指をふんばり、腰を浮かせ気味にして耐えている。……いや、琴音には、淫らな加虐に耐えているだけではないように見える。 花鬼の指弄に呼応して腰を小刻みにグラインドしてふるせているのは、嬲られるのにただ耐えているだけではない……、男どうしの愛欲にどっぷりと浸かってしまって肉の悦びを知ってしまった琴音には直感的にわかる。 嫌よ嫌よも好きのうち……嫌がる素振りを見せながら、というより、嫌なことをされているが故の昂奮刺激を甘受しているように見えるのだ。 「若い美人の嫁さんを相手に毎日やりまくってたんじゃないのか?」 「…………」 「まり子、結婚したのはちょうど一年前の今頃だったな?」 「…………」 「もちろん、おまえは花婿だったわけだ」 「…………」 「こうやって嫁さんのオマ×コを指でくじって楽しんでいただろう?」 「んん……」 「おら! 黙ってないで言わんか!」 「……ああ、美恵子の……」 「美恵子がどうした?」 「美恵子の……、美恵子のあそこに……」 「嫁さんのオマ×コに指を突っ込んでたんだな?」 「……んんっ、……そうです」 「おつゆでヌルヌルの嫁さんのオマ×コに指ハメしたんだな?」 「…………」 「スケベな亭主だ」 「……んんぁ……」 「亭主がスケベになるのも当然だ。結婚して大っぴらにスケベができるようになったんだからな。こうやってくじってやると嫁さんはよろこんだか?」 「……んんっうっ……んん……」 幻夢224 花鬼が指を引き抜いた。 すると、「ああんっ……」と、まり子が切なげな喘ぎを洩らせる。 指が引き抜かれたまり子の膣口は卑猥に濡れている。手術で造られた人工性器は豊潤に性液を分泌するわけではない。それぐらいは琴音だって知っている。 花鬼は立ち上がって、中指と人差し指の二本を伸ばし、まり子の鼻先に突きつけた。花鬼の指は透明な粘っこそうな、まるで水飴のようなとろろ汁に濡れている。 「まり子、嗅いでみろ。どんな匂いがする?」 まり子の厚化粧の表情が辛そうに歪む。 塗り込められた真っ赤のルージュの口唇を噛みしめている。 「まり子、おまえのオマ×コの匂いだぞ」 鼻腔に触れるか触れないかぐらいにまで接近した花鬼の濡れた指はどんな匂いがするのだろう……? 琴音は、ふと、その匂いを嗅いでみたくなった。 性転換されてしまった元男の性交用に穿たれた体孔に染み出した汁液はきっと淫猥に倒錯した匂いがするにちがいない。男のガマン汁でもないし、女の発情牝汁でもない糜爛した淫臭……、でも、そんな好奇心はとても口には出せない。 だから、琴音は大人しく、しかし、胸の奥の拍動を高鳴らせながら成り行きを見守っていた。 「男なら誰でもオマ×コのエロい臭さが好きだ。おまえもそうだったはずだ。紳士面した男であっても一皮剥けば、誰でも助平だ。男の本能はな、獣の牡といっしょなんだ、メスのオマ×コの匂いを嗅いで勃起して、オマ×コを舐めたくなって、オマ×コにチ×ポをハメて中出しの種付けだ。まり子、わかっとるか?」 この人、また講釈してるし……。 調教師って、こんな風にいちいち、まわりくどいぐらい説明しなきゃなんないの? 「まり子、おまえはメスになったんだぞ。男のチ×ポをおっ立たせてしまう淫らな匂いを股ぐらから匂わせる女になったんだぞ」 「……はい」 (わっ、まり子さんって、素直……) 「さあ、言ってみろ、おまえのオマ×コはどんな匂いがする?」 「……いやらしい匂いです」 「そうか、いやらしい匂いか?」 「……はい」 「男だった頃のおまえだったらチ×ポをおっ立ててしまうほどのいやらしい匂いか?」 「……はい」 幻夢225 そもそも強制性転換とは、本人が望んでいないのに男から女へと肉体改造を無理強いする 暴虐のはずだ。赤恥地獄の奈落へと突き落とす容赦なき残忍な暴力の行使だ……と、琴音 の頭の中では理解している。 だがしかし、まり子は従順すぎはしないか……? もしも、自分がまり子の立場だったら、 こんなに素直にいたぶられたりするのだろうか……。 女装ホモになってしまったけれど、 琴音はペニスを無理矢理に切り取られたりしたら正気ではいられなくなるかもしれない。 ひょっとして女として生きる覚悟に目覚めるかもしれないけれど、やはり男性器を失った らかなりのショックを受けるにちがいない。 女が好きな正常な男が性転換されてしまっ て女性器を造られてしまい、その人工肉器をいたぶられたら、それこそ生き恥をさらすこ とになる……それなのに、どうしてもっと抵抗したり反逆したりしないのだろう……。 琴音は、先ほどから脳裡に疑問符がずっと浮かんでいた。 「ほれ、まり子、わしの指を舐めてみろ」 鼻先に突き出された指を、まり子は不快そうな目で見つめる。 「おまえのオマ×コから出たおつゆだぞ。味わってみろ」 もう、花鬼は高圧的な威嚇声ではなくなっている。まり子を弄ぶのを楽しんでいる風情だ。 「ほれ、匂いだけじゃなくて、どんな味がするのか舐めてみるんだ」 まり子は濃紅に塗った口唇を開く。 舌が伸び出てくる。 舌面が花鬼の指にまとわりつく。 さすがに、まり子は目を閉じてしまっている。けれど、長いつけまつげがちりちりとふるえているのは、まり子の心理の現われだ。屈服させられて恥を受けているさまが、琴音には痛いほどに伝わってくる。 それならばストレートに性交されたほうがまだましではないか……、こんなねちねちとした陰湿なやり方で嬲られたらたまったものではない。 まり子の舌はくねりながら花鬼の指に這っている。何か、その舌だけが独立した軟体生物のようだ。 「まり子、おまえのオマ×コから湧き出したおつゆはいやらしい味か?」 頭上から花鬼が問うと、まり子は舌を使いながら顔を上下に振る。 豊麗な乳房が揺れ、鼠蹊部が痙攣気味にふるえる。 ……まり子さん、感じてる……。 「まり子、チ×ポから白いオス汁は出せなくなったが、マ×コ汁は出るようになったわけだ」 花鬼の嘲笑うような口調がさらにまり子を煽りたてているようだ。 「チ×ポから出る精液は、これからいくらでも飲ませてもらえるからな、ははは……」 幻夢226 しゃのん - 2006/07/25 06:20 - 花鬼はたっぷりと時間をかけてまり子に舌を使わせてから、再び、琴音の横に膝をついた。 花鬼と琴音のふたりの視線がまり子の股間に集中する。 「琴音、おまえも指をハメてみろ」 「え? あたしの……?」 「眺めてるだけじゃつまらんだろ。性転換女のオマ×コの中を検分してみろと言ってるんだ」 「でも……」 「琴音、上品ぶることはないぞ。ここを訪れる者は世間から見れば変態ばかりだ。琴音も尻の穴を掘られて悦ぶ一人前の変態だろう?」 「……でも……」 (てか、あたしの爪って長いじゃん、まり子さんのあそこ、傷つけたりするかもしれないし……、そりゃ、指を挿れてみたくはあるけど……) 「さあ、指をハメてみろ」 「あ、はい」 この人には何か逆らえない雰囲気がある。 (ま、いっか、あんまり乱暴にしなけりゃいいってことで……) 琴音はちらりと上目づかいにまり子を見上げた。 まり子の目は辛そうだ。 あなたまでいっしょになってわたしを嬲るのね、と諦めを訴えている。 だが、まり子の辛そうな表情を見ると、不可解なことに嗜虐欲望が沸きあがってくるのだった。それは、琴音自身にはまったく予期していない欲望だった。 椅子に座っているのでは遠すぎるので、琴音は椅子から離れて花鬼の傍らに膝をついた。 目の前にひろがる人工女性器のたたずまいは、やはり、琴音の心中を揺るがせる。どうしても、そこに男根があったのだ、と強く意識してしまうからだ。 (……じゃ、お言葉に甘えて、ちょこっとだけ) 琴音の指先が縦割れの女溝に触れると、まり子は、ビクッ、と腰をふるわせて、「んんっ!」と喘いだ。そのふるえは官能的としか言いようがないほど猥淫で、艶めいた喘ぎは男声であるだけに倒錯の深みを感じさせる。 琴音はゾクッ、となり、自分のペニスに熱い血が充ちるのを感じた。 もともと女になりたいと望んでいた元男性ならば、琴音もこんなには脈動が速まることはない。どこか暗い恐怖色に彩られた戦慄感を伴っているのは、これが強制性転換だからだ。そして、無理矢理に造られてしまった肉穴性器を指弄する加虐快美が琴音の脳芯を酔わせる。 人造性器穴をいたぶられる屈辱に身悶えする……しかし、嫌悪と汚辱はいつしか快感に反転する……、いや、変質するのではなくて、源を探れば屈辱は快感なのかもしれない……。 幻夢227 その肉の洞は妖しくも蠱惑的だった。 女の性器そっくりに模して造った肉穴だ。 子供をつくるための生殖器ではない。倒錯嗜好の男の淫欲を受け入れるために造られた偽膣穴だ。 男どうしの性愛で肛門性器に挿入してセックスするのは、琴音にとってはまだ理解の範囲というか、正常ではないとわかっていても許せる。しかし、こうして無理矢理に穿孔された性交専用の擬似ヴァギナの内襞を指で触感していると混沌とした昂奮が沸騰してくる。 女になった身体で男に愛されたい……そういう納得させられる部分が皆無なのだから、ここまで人間を貶めてもいいものなのか……性行為と直接に結びついた侮辱ゆえに沸き立つものが鋭利なのか……。 「琴音、元男のオマ×コはどうだ?」 「え……?」 そのお……、とっても猥褻で、アブノーマルすぎてドキドキしてます……なんて、口に出して言えそうもないので、顔を赤らめているしかなかった。 想像していたよりも窮屈で収縮力がありそうだ。中の濡れ具合はかなりのもので、琴音の指は粘っこい蜜汁に濡れそぼってしまっている。 「まり子、琴音はおまえのオマ×コに感心しているぞ」 「……ああぁ……」 ただ指を入れてるだけなのに、まり子さんったら感じまくり……。 「天然のオマ×コとちっとも変わらんだろう?」 「……そうですね」 と言ってみたものの、女性経験貧弱な琴音にとってまり子の女性性器が巧緻に造られているのかどうか判定は困難だ。だが、こうして指を嵌入している限りは京子の性器と比べて遜色がない。ということは女の性器穴として十分に通用するのだ。 「中のヒダがザラザラしてるだろう? まるで処女のオマ×コみたいじゃないか」 言われてみると、指腹で触感する膣内襞粘膜はシワシワ感があって卑猥だ。 「キンタマの袋を使っとるとか何とか言ってたがなあ、変態男を満足させるには出来すぎのオマ×コだ。琴音、おまえもこんなオマ×コが欲しいか?」 「ええ、まあ……」 その話題になると言葉を濁すしかない。 「いつでも病院を紹介してやるぞ。亜細亜人妖倶楽部のメディカル施設には腕のいい医師がそろってるらしいからな」 「…………」 (性転換する予定はないってば……) 「性転換して元男でしか味わえない快楽を追及するのも悪くないぞ」 「…………」 (だからぁ……、そういうつもりはないんだってば……) 幻夢228 花鬼と琴音はひと休みしていた。 アトリエ花鬼の事務所の部屋に戻り、花鬼はまたビールを飲みはじめ、琴音はコーラで咽喉の渇きを潤していた。 琴音がまり子の人工膣から指を抜去したあと、驚いたことに、花鬼はベッドの下から模造男根のディルドウを取り出してまり子の手に握らせたのだ。 「それでしばらくマンズリこいてろ。あとからたっぷりと生チ×ポをハメてかわいがってやるから」 と、まり子に言い置いてきたのだ。 「まり子は今頃、オナってるはずだ。火をつけられてしまってそのまま放置だからな。自分でオナるしかない」 「……まり子さん、そんなことするんですか?」 「初めの頃はしなかったな。しかし、一度、味を覚えてしまうと、自尊心よりも目先の快感に誘惑されてしまう。人間なんて弱い生き物だからな」 「……ふ〜ん……」 「ここには好きものの男たちがやってくるんだ。強制性転換で女にされた奴が調教されてると聞いて、居ても立ってもいられない輩だ。彼らの前でしょんべんさせたり、オマ×コの御開帳させたりしているうちに恥に溺れるようになってくるんだ。わしと一対一のときは恥が甘えになってくる。そこが突破口でな、さらに恥を深化させてやるわけだ。恥が体に染みついてしまえばコントロールしやすくなる」 (はいはい、大調教師の手腕ってわけね……) なるほどなるほど、という感じで頷いていると、花鬼は得意気にしゃべり続ける。 「琴音、おまえ、まり子をいたぶりながらチ×ポを勃起させてただろう?」 「え?」 「膝を閉じて隠そうとしてたがな」 (わっ……丸バレ……) 「まり子を嬲るのが楽しかったのか? それとも、まり子のように嬲られたい、と思ったのか?」 「えーと……、両方かな……」 「そうか。両方か……。正直でよろしい」 「えへ……」 「さあてと、これからこれからまり子といっぱつ犯るんだが、琴音も参加するか?」 「えー?」 「3Pだな、三人とも男だが」 「でもお……」 「どっちでもいいぞ。今日のところはこれでお開きにしてもいいし。初めての日からそこ まで深入りしなくても、またここに来たらいいぞ。まり子は当分の間、ここで囲われの身 だ」 幻夢229 「ねえ、花鬼魍魎って人、知ってます?」 「ニューハーフの調教師って肩書きの人でしょ」 「知ってるんだ……」 「その方面だと、かなり有名な人物よ」 「そうなんだ……」 「調教師っていうだけでもいかがわしいのに、オカマ専門の調教師だなんて、いかがわしすぎると思わない?」 と言って、楓ママは笑みを浮かべた。 琴音は『菊蘭麝』に来ていた。楓ママならきっと花鬼魍魎を知っているにちがいないと思ったからだ。 「アトリエ花鬼」を訪れた経緯、すなわち、栗岡に快楽修行をそそのかされて花鬼魍魎を紹介されたこと、そして、以前はダンス教室だったアトリエで強制性転換された元男が調教されているのを見学したこと、を楓ママに話した。 「あれって、犯罪ですよお」 「犯罪?」 楓ママは怪訝な顔で応じた。 「だってそうでしょ。本人の意思をまったく無視して強引に手術しちゃったんだから」 「犯罪って、法に触れるってことかしら?」 「誘拐罪とか傷害罪とか、そんな感じでしょ?」 「わたしね、性転換してるでしょう。これって、非合法手術だったのよ」 (ちがうぅぅ……) 話がかみ合わないというか、自分の言いたいことがうまく伝わっていない、と琴音はもどかしかった。 「あのね、琴音ちゃん、表沙汰にならなければ犯罪じゃないのよ」 (あれ? ……どっかで聞いたことがあるような……) 「闇手術で性転換して女になったからといってわたしは逮捕されていないし、花鬼さんがやってることも、悪どいかもしれないけれど、きっと警察沙汰なんかにならないと思うわよ」 「……そう言われてみれば、そうですよね」 「琴音ちゃんはまだ世間の裏を知らない常識人だからね」 「…………」 (知らないこともないんだけど……) 栗岡との関係が始まってから、驚きの連続なのだ。 まず、女装して栗岡とホモセックスするようになって、それまでの人生で築き上げてきたはずの琴音の世界観がぐにゃりと歪んでしまった。 さらに、『雅蝕苑』の秘密ショー、調教師の花鬼……、琴音が垣間見る世界は異常な刺激に満ち溢れている……。 幻夢230 強制性転換して調教するなんて、あれって、一種の洗脳じゃないの? 調教って、動物に芸を仕込む調教とかじゃなくって、人間の頭の中を洗脳することじゃないの? と、琴音は楓ママに訊いてみた。 強制性転換されたまり子の反応、その以外なまでの従順さを目のあたりにして、琴音が抱いた感想だ。 「そうねえ……、宗教的洗脳って、よくあるじゃないの。盲目的な信者になってしまったら、汗水たらして稼いだお金を寄付してさ、御利益があるからって、土地を売って大金を寄進したりさ、わたしなんかから見ると何がうれしくて寄付するんだろ? って思うけど本人は大真面目だからねえ、だからさ、琴音ちゃんは洗脳って言うけど、確かに的を射てるかもしれないわねえ……」 (……そうなんだ、調教は、やっぱ、洗脳なんだ) 「まり子」という名前を与えられた性転換女、乳房や女性器といったパーツは魅惑的に造られているが、全身像を見ると、とても女には見えない……。男の名残りが至るところに顕れて、むしろ、グロテスクな印象さえ覚えてしまう……、というようなことを、琴音は楓ママに語った。 「その人、いくつ?」 「30ですって」 「お化粧なんか、自分でするの?」 「メイクは練習させられているらしいんだけど、なかなか上手にはできなくて、毎日、セミプロのメイキャッパー来て、念入りにお化粧してくれるそうですよ」 「その人、お化粧すると美人?」 「顔は整形手術ですっかり変えられちゃってるみたいなんですよ。たぶん、メイクしなくっても、かなり美人ですよ。目はぱっちりしてると、鼻はツンと高くて……」 「髪型なんかどんな感じ? まだショートボブぐらいの長さ?」 「それぐらいの長さかな……。でも、たっぷりとしたエクステ付けてるんですよ。背中の半ばぐらいまであって、まり子さんがうつむいたりすると、おっぱいの上にかぶさったりして、ぐっとフェミニンで色っぽかったりするんです」 「ふーん……、イメージがつかめてきたわね。女に改造されてしまったけど、女に成りきれてない、って感じだね」 「そうなんですよ」 「でもねえ、そんな風に女に成りきれてない、ってところにそそられる男も多いのよねえ。完全性転換済みの完璧な女だったりしたら面白味に欠ける、って、よく聞くわよ」 幻夢231 「強制性転換って、ある特定の人たちにとっては魅力たっぷりの妄想だからねえ……」 「妄想……ですか?」 「妄想に決まってるでしょう。一般社会で強制性転換なんて、あり得ないし」 「そりゃ、そうだけど……」 「実現不可能だからこそ、妄想としての魅力が増加するのよね」 楓ママの言う、実現不可能ってのはわかるけど……、フツーの社会だと強制性転換なんてあり得ないんだけど……、もうすでにフツーじゃない社会の裏側に首を突っ込んじゃってるし……。 サラリーマン時代の白石克彦ならびっくり仰天、事実は小説よりも奇なり、って感じだろうけど、今はびっくり具合がちがうし……。 「嫌だと言ってるのに無理矢理に女にされてしまう、って、もう明らかにエロ幻想なのよね。女装ホモの妄想がエスカレートして、そんなエロ幻想を抱くのって、けっこう多いんだから」 「…………」 (知ってる知ってる、あの『淫乱女装子に発情する俺たち』に、そういう書き込みがあったのを何度も目にしているし……) 圧倒的暴力の前に何の抵抗もできずに手術で女の身体に改造されてしまってさ、女の身体に造り変えられるってのは、もちろん、セックスの玩弄物にされるってことで、胸には本物の女以上の魅惑的な巨乳を形成されて、股間には締まりがよくって愛液トロトロの膣を造られてしまってさ、男どもが淫欲丸出しにして群がってきて……、そういう幻想の背後には女装ホモの勃起したチ×ポが見え隠れしてるんだよねえ……。 楓ママは、どこか突き放したような、呆れた表情で語る。 巨大なおっぱいを揉まれて感じまくり、人工膣にチ×ポをハメられてよがり狂う……、これって男の視点から見た女のエロスなんだよね、牡の勃起を誘発する要素なんだよ。だからね、強制性転換妄想は、男の自分のエロ幻想を女になって具現したい、って願望なんだよねえ、琴音ちゃんは女装ホモだから、そういう妄想ってない? 「えー? あたし……?」 「強制性転換願望って、ないの?」 「うーん……、どっちかっつうと、ないですけど……」 「実際に性転換した身から言わせてもらうと、人工マ×コで悶えまくりって、そんなことはないんだけどね……」 幻夢232 「あくまでも、強制ってとこがポイントなんだよね。自発的じゃなくって、強要でなきゃだめなのね。自分から進んで女になります、だと、薄味なのよね」 「薄味……?」 「そうよ。カレーがほんとに好きな人って、ただの辛口じゃ満足できなくなって、激辛を求めるようになるでしょう。あれといっしょ」 「激辛……??」 「強制的に女にされてしまうのと、自分から女になっちゃうのと、どっちが屈辱的だと思う?」 「うーん……、どっちもどっぢたと思いますけど……」 「琴音ちゃんは男に抱いてもらうのが好きなホモだから、そういう意味では屈辱にはならないでしょう?」 「セックスの面では不満はないんですけどね、オカマに成り下がって、とか言われると、やだなあ、って感じですよ」 「それ、屈辱なの?」 「悪口だから気にしないようにしてますけど」 「そんな悪口言われたりしたら、琴音ちゃんには、屈辱なのかしら?」 「そんなたいそうなものじゃないんですよ。男としてまっとうじゃなくなったんだな、って思うだけで……」 「まともじゃないけど、琴音ちゃんには琴音ちゃんの生き方がある、ってことよね」 「はい」 戸張にエスコートしてもらって、以前に勤めていた会社の前に立ったときのことを思い出す。あのときに、すべてが吹っ切れたのではなかったか……。 「強制性転換って、屈辱度が激辛なのよねえ。だから、エロ妄想としての刺激が強烈なのよねえ」 うん、わかります、という感じで琴音は頷いた。 その屈辱の質はハンパじゃない。まり子を見ていると、痛いほどに伝わってくる。 かわいそうだなあ……、ここまで惨いことしなくってもいいのに……、と憐憫を覚えてしまうが、と同時に、その底なしの泥沼のような屈辱にそそられてしまうのを否めないのだ。 恥辱に苦悩するまり子を眺めるのは、あまり大きな声では言えないが快感を伴ってしまうのだ。花鬼に嬲られるのを見物していると、琴音のペニスにストレートに反応してくる。不憫なまり子を弄びたいのか、あるいは、自分がまり子のように赤恥の奈落に突き落とされたいのか判然とはしない……、しかし、「激辛」を味わってみたい誘惑が芽生えていることは確かだ。 幻夢233 男の視点、つまり、加虐する側から見ると、その気の全くないノーマルな男に無理矢理に性転換手術を受けさせて女の身体に改造して慰みものにする、っていうのはサディズムの極致かもしれないわねえ……。 正常なヘテロの男だから、体を女性化されるだけでも屈辱なのに、さらに女としてセックスのお相手をさせられるんだからねえ……。 脳味噌は男だからさ、男に抱かれるなんて反吐が出そうなほど気色悪いはずだよねえ、でも、大きなおっぱいが胸元に造られてて、もうペニスは無くて、女の性器が造られててさ、その上、相手の男は性転換した元男だってことをことさらに強調して挑んでくるわけでしょう……。 強制性転換って、ひょっとしたら、究極の屈辱を味わせる拷問刑かもしれないわねえ……。 楓ママは琴音に聞かせる風でもなく、どこか独り言のように語り続ける。 「花鬼さんのまわりにいる男たちなら、きっと、その強制性転換女にすごく興味を持っているんじゃないかしら?」 「そうなんですよ。見世物にされてるみたいなんです」 「見世物?」 「お客さんの前で御開帳させられたり……」 「え? 御開帳?」 「はい。お股をぱっくりと」 「ストリップじゃないんだからさ……、そのコ、自分からすすんで、あそこ、見せるの?」 「そうなんですよ」 「恥ずかしがって?」 「かなり恥ずかしそうですよ」 「そりゃそうよね。わたしみたいに女になりたかったのなら、手術で造ってもらったあそこって、ちょっと自慢だったりするんだけどねえ」 「もうペニスが無くなって、こんなになっちゃいました、みたいに花鬼さんが煽るんですよ」 「ぜんぜんノーマルだった人でしょう。辛いわね」 「それに、おしっこするとこを見せたりするんですよ」 「おしっこ……?」 「ほら、もう立ちションなんかできないじゃないですか。洗面器の上にしゃがみこまされたりして」 「ああ、そういうことね。わたしなんかしゃがんでおしっこできるようになってうれ しかったけどねえ」 「あれって、恥ずかしいのを通り越してるみたいですけどね」 「……琴音ちゃんの話を聞いてると、わたしも見物したくなってきたわよ。性転換させられて女になった元男が調教って名目で性的虐待を受けてるのって、なんだか刺激たっぷりだわよねえ」 (刺激たっぷりどころじゃないんだから……、何よ何よ、いったいどういうこと……? って驚きの連続だったんだから) わたし、直接には花鬼さんを知らないけど、花鬼さんと親しい人なら何人も知ってるし……、誰かに頼んでアトリエに連れていってもらおうかな。 でも、見物するだけじゃなくて、参加させられるかもしれないわねえ。 (参加? やっぱ、そっちの方向で考えちゃうんだ……) 幻夢234 あの日、琴音は3Pに誘われたけれども、丁重に辞退して逃げるようにアトリエ花鬼から脱出したのだった。 花鬼の、まり子に対する粘着質の嬲弄を目のあたりにして琴音のペニスは勃起しまくりだった。あのまま3Pになだれこんでしまったりしたら、琴音は我を忘れて乱交にのめりこんでしまったのではないか……、そんな懸念……、本能的な危険を感じたから早々に退却したのだ。 だけど、無事に自宅に帰り着いてから、琴音の脳裡をいろんな想像がかけめぐった。 たとえば、パンティを足首まで下ろしてスカートの間から露出した琴音のペニスをまり子が吸茎する。琴音のペニスは異様な昂奮にそそり立ってしまっている。それはもちろん、琴音が望んだ口淫戯ではなくて、あくまでも花鬼に命じられての行為なのだ。 完全性転換済みのまり子と比べて琴音のほうが見た目は女らしい容姿だ。それなのに、琴音はペニスを有していて、いかにも人工女性という外見のまり子がフェラチオに励んでいる……。 こういう倒錯性戯を変態の男どもは見て悦ぶんだ、と花鬼に指摘されて、琴音はますます盛り上がってしまう。 だが、実際のところ、琴音はフェラチオされるのが好きではない。たとえ、相手が強制性転換された元男で淫靡な倒錯感にあふれていようとも、口淫される側を好まない。けれど、琴音の男根は烈しく勃起したままだ。 そうして、準備が整ったと見た花鬼は琴音に挿入を命じる。 仰向けに寝たまり子の上から琴音がおおいかぶさる。 まり子の人工膣穴はもうズルズルに濡れそぼっていて、琴音の勃立肉棒はすんなりと嵌入してしまう。 まり子はのけぞって身悶え、琴音は女を模した膣孔の触感に感嘆してしまう。 ふたりとも豊胸整形しているから、豊麗な乳房と乳房が触れ合うところはレスボスの絡み合いのように見えるはずだ。 もっと本気で犯りまくらんか! とか、花鬼に厳しい声で命令されて、琴音は腰を使いながらまり子の豊乳を揉みしだいたりする。 けれども、そんな性交は琴音の本意するところではない。性転換手術で造られた人造ヴァギナには興味はあるが、自分のペニス棒をそこにハメ入れてもちっとも楽しくない。 琴音は、そういう男の感覚を喪失して久しい。 琴音の欲望は、言うまでもなく、肛門性器へのインサートだ。お尻を充足してもらって満悦したい……、それにはうってつけの殿方がいるではないか。 まり子にフェラチオさせている場面をしっかり目撃している琴音にとって、花鬼の黒光りする巨根は垂涎の逸物だ。冷静な心理状態なら、口が裂けてもはしたないおねだりなんかできないだろうけど、淫欲に翻弄されてしまってたりしたら挿入をおねだりしてしまうかもしれない。 ……いや、ひょっとしたら、花鬼のほうから味見してくれるかもしれない。 ああ、やめてください……、おねがい、やめてえ……。 うるせえ、物欲しそうにケツマ×コをひくひくさせてるくせに、とか言われて、すぶっ、と生ハメされたりして……。 ニューハーフの調教師なんて名乗ってるぐらいだから、男どうしの肛門性愛には熟練しているはずだし、きっと泣きそうなぐらい悦ばせてくれるだろう……。 性転換した元男に見られながら肛穴貫通されて悶え狂う自分を想像すると、もう我慢できずに琴音はディルドウオナニーしてしまったのだ……。 幻夢235 あの日、帰宅してから自慰してしまったのを思い出している間も、楓ママは嬉々として話し続けていた。 その人、まり子って名前つけられてるのね。 そんな名前、付けるほうも付けるほうよねえ、女っぽくてわざとらしいじゃないの。 性転換女どうしのレズなんてどうかしら? 亀頭が両側に付いてる張形使ってレズるのよ、面白そうじゃない? でも、やっぱり、そんなのより、もっと強烈なのがいいわねえ……。 「強烈なの、って?」 「せっかく女の体になってるんだから、あそこを使ってもらわなきゃ」 「ですよねえ……」 「人工マ×コの味比べなんかどうかしら?」 楓ママの表情が生き生きとしてきている。 「わたしなんかぜんぜん知らないお客さんの男がね、もちろんその人は性転換女愛好者でさ、わたしとまり子さんって人と並べて交互にハメるのよ、かたや性転換熟女、かたや女に成りたてのほやほや、さあて、どっちが旨味? なんてね。あ、そうだわ、その前に、おしゃぶり合戦ってのもありかな……」 楓ママの瞳には淫情が燃え上がってきている。生き生きと見えたのはそういうことだったのだ。 考えてみれば、楓ママは素人ではない。『菊蘭麝』は女装者と殿方の素敵な出逢いの場、ということになっているけれど、実際は性交を目的とした出会いだ。なかには、ほとんど売春同様の交渉も行われている。そんな場を仕切っている人なのだからセックスに無縁なわけがない。 「おフェラのテクニックには自信があるんだけどねえ。……でもねえ、テク勝負じゃないからねえ、嫌々ながら仕方なくチ×ポをしゃぶらされてる、ってところに興奮するわけだから土俵がちがうような気もするしねえ……」 そうなのだ。もともと異種なのだ。同じ性転換女であっても、女になりたかった男と、女になりたくなかった男では全く別物なのだ。 「人工マ×コのハメ比べで負けるわけにはいかないわね。わたしのマ×コは年期が入ってるからねえ。できたてのマ×コには負けないわよ。数えきれないぐらいの男を喰ってきたんだからね。交互にハメられてね、その男が気に入ったほうのマ×コで中出しするのね、中出ししてもらったほうが勝ちってことで、マ×コの優劣を競うのよ。わたしのマ×コは大勢の男たちに使ってもらって、名器とまでは言わないけど、男たちは悦んでくれたしね……」 (でも、それって、やっぱ、土俵がちがうんじゃないの……?) まり子は強制性転換された身だから、まり子と性交する男はきっと、人工性器の出来具合なんかよりも、男の勃起ペニスを犯入されて苦悩呻吟するまり子の心理に嗜虐欲望を満たされるはずだ。 楓ママの完熟女体を味わうのとはまた別の嗜好ではないのか……。 と思いながらも、琴音はあえて反論することもなく、楓ママの話に相槌をうちながら聞いていた。 あの日、帰ってから琴音が淫らな妄想に溺れたのも、今、こうして楓ママがあられもない妄想に酔い痴れているのも、強制性転換から発散される爛れた瘴気が原因なのだ……と、琴音は気付いていた。 幻夢236 マンネリ……? ちがうと思う。 これって、きっと安定期に入ってきてるからだわ。 ハッピーマリッジの季節は過ぎ去った……それだけのことだ。 週に一度か二度、栗岡と逢瀬するには、少しも変化はない。時には夜の街に連れ出されて楽しいひとときを過ごすこともある。それも、今までと、ほとんど変わらない。 栗岡に抱いてもらって、肛門性器を使ってもらって中出ししてもらう……もちろん肉欲の喜びをいっぱいに享受して幸福感に満たされるのだけれど、以前のようなときめきの火花を味わうことがなくなっている。それはそれで十分に幸せだけれど、一抹の不安を拭い去れない。 そのことを相談する相手は、今のところ良子しかいない。 例によって良子が琴音の部屋にやってきたときそれとなく話してみた。 「ことねっ! ぜいたく言うんじゃなーいっ!」 と、いきなり一喝されて、琴音は、しまった、と後悔した。 良子の酔い加減を考慮していなかったのは失敗だった。けれど、もう、後の祭り。 「だいたいね、あたしなんか、美人のニューハーフじゃないけど、いちおうは本物の女なんだよ、それなのに、休みの日にデートに誘ってくれる男なんかいないんだよ」 「はいはい、御立腹はもっともで……」 「べつに琴音ちゃんにシットしてるわけじゃないんだよ。でもね、週に何回か知らないけど、うんと優しくセックスしてもらってさ、欲しいものは何でも買ってもらえてさ、これ以上、何を望むっての?」 「わかってるわかってる」 「反省してる?」 「そりゃもう、わたしがわるうございました」 「じゃ、おかわり!」 「了解」 もお、良子ったら、酒乱なんだから……。 「……あのさ、思うんだけど、倦怠期ってわけじゃなくって、ま、そういう面は少しはあると思うけど、琴音ちゃんとあのパパさんって、男どうしじゃん。家庭つくって子供つくって、みたいなバラ色の未来があんまし見えないでしょ。そういう物足りなさってあるんじゃない?」 「あ……」 なるほど……、そう言われてみれば目からウロコだ。 そんなこと、考えたこともなかったけど……。 ********************************************************************* genmu9.txtに続く