幻夢 4  作:しゃのん 幻夢79 さて、『菊蘭麝』とは、どういう所なのか? 端的に言うと、好みの女装者と逢瀬する目的でやってくる男色紳士と、男に抱いてもらい たい女装者たちの出会いの場所である。 『菊蘭麝』の従業員といえば、楓ママとカウンターの奥でお酒を用意するバーテンダーさ んだけで、ホステスというのはいない。 『菊蘭麝』に集う特殊性欲を持った男と脂粉で 彩った女装男は意気投合し、近くのラブホ、あるいはその他の場所で倒錯快楽に酔い痴れ るのだ……、琴音の理解するところでは、『菊蘭麝』はこのようなシステムになっている。 そこで気になるのは、媾合の代償として金銭授与があるのかどうか、ということだが、 楓ママの言によると、何らかのプレゼントはあるそうだ。それが紙幣なのか、物品なの か、楓ママとしてはは知らないことになっている。 楓ママは場を提供するだけで、自由恋愛については一切関知しない立場をとっている。 つまり、公然たる売春ではないが、限りなく売春に近いグレーゾーンの取引、すなわち、 金銭による肉体売買の取引が行われているのだろう、と琴音にも薄々わかっている。 ただし、ここに集まるのはプロの女装売春婦ではない。100%お金目的ではなくて、 男に尻穴性交してもらうのが大好きな女装男たちだ、ということもわかっている。 だからこそ、初めてここに連れてこられた夜、琴音は、あの奥の更衣室で眉をひそめて しまうほどの濃厚な淫臭を嗅いだのだ。香水や化粧品の匂いとともに、まぎれもない男 の体臭、そして、かすかに漂う精液臭が琴音を困惑させたものだが、それも昔の話だ。 琴音は今はもう、そういう世界にどっぷりと浸かってしまっている。 やがて、『菊蘭麝』にたむろする女装者たちがやってくる。 カオリさん、フジコさん、ナツコさん……。 琴音はここにちょくちょく姿を見せているので、すっかり顔見知りになり、簡単な あいさつを交わすようになっている。 みんな素人の女装者とは思えない。長く伸ばした 自毛と整形乳房の持ち主ばかりだ。 主婦のお買い物外出風の地味な衣服で現れて、奥の 部屋で着替えると、豊胸乳房もあらわなドレスに艶やかな化粧の女装麗人に変身してしま う……。 幻夢80 「あら、駄目ですよ、このコに色目を使ったりしたら」 と、楓ママが琴音に近寄ってきた男をやんわりと笑顔でたしなめた。 スポーツジャージーの上下を着て、見るからにスケベそうに顔をほころばせている初老の オヤジだ。 一見して、近所の商店街のひまオヤジみたいな風体だが、見た目では判断で きない。外見からは想像もつかない大物なのかも知れない……。 「このコ、クーさんの専属ですからね」 「ほう、栗岡ちゃんが発掘してきたのか……」 露骨に見つめられて、琴音は身悶えしてしまいそうになった。 彼の熱い視線は、明らかに琴音に対して発情していたからだ。 この可愛くて色っぽい女装娘を犯してみたい、と彼の目は語っている。琴音には、その気 配がひしひしと伝わってくる。だからこそ、琴音もまた欲情してしまうのだった。 「栗岡ちゃんのおなごなら手は出せんなあ……」 と、口では残念そうに言うものの、好色丸出しの目で琴音を舐めるように見つめている。 「琴音ちゃんって言うんですよ」 楓ママが。「琴」の「音」という字を当てるのだと説明してくれる。 「そうか、琴音ちゃんか……。今風のカタカナっぽくなくて情緒があっていいねえ」 「ありがとうございます」 「大きなおっぱいだ」 琴音ははにかんでしまう。きれいだね、とか、かわいいね、とか褒められるよりも乳房を ほめられると、ズキン、と疼くような嬉しさがある。ふくらませた胸は、女に似せて造り 変えてもらった部分だからだろう。 「ママ、このコを連れ出せないのは了解したからな。 でも、琴音ちゃんを肴にしてビールを飲むぐらいはいいだろ?」 楓ママは肩をすくめ、 「それは琴音ちゃん次第ですよ」 と返事し、「どうする?」と目線で琴音に問いかけてきた。 「いいですよ。あたしなんかでよかったら」 「そう。じゃ、琴音ちゃん、このエロおじさんのお相伴してあげて。この人、戸張さん」 「よろしくおねがいします」 幻夢81 琴音がビールを瓶からグラスに注いであげると戸張さんは一気に飲み干した。 琴音もビールをすすめられ、「お酒はあんまり飲めませんから」と断ったものの、横には べっているのだから少しは飲まなくっちゃいけないのかな、と思いなおし、グラス一杯の ビールを少しずついただくことにした。 戸張さんは、あっという間に瓶を空にし、追加 注文する。顔面は真っ赤になり、ますますいやらしいスケベ面になってきた。 「琴音ちゃん、男のチン×をしゃぶるのは好きか?」 「え……?」 いきなりの過激な質問に琴音は何と返事していいかわからない。 「はじめは嫌々だったが栗岡ちゃんに仕込まれてフェラチオ大好きになった? 図星だろ?」 「……えーと、まあ、そんな感じですけど……」 本当はそうではない。栗岡に悦んでもらいたくて、懸命になって口淫愛撫を覚えたのだ。 「わしな、本物の女にしゃぶらせるより、女になりたい男にしゃぶらせたほうが興奮す るんや。琴音ちゃん見てたら、そのピンクの口唇でしゃぶってもらったらええやろな、 サイコーやろな、で、わしのチン×、ギンギンにおっ立ってしもうてるんや」 「うふっ」 「わし、カミさんも子供もおるし、もうすぐ孫が生まれるんやで。しかしな 、それはあくまでも表向きの顔や。本性は女装した男が好きでな。ここに来るのはわしみ たいな男ばかりや。そやからな、琴音ちゃんも変に格好つけんで本音でしゃべったらええ んやで」 「……はい」 「おかまのケツを掘りたい男がやってきて、ケツを掘ってもらいたいおかまがやってきて、 波長が合えばいっぱつやって楽しむ、ここはそういうとこや。世間から見たら変態の巣窟 みたいやけどな、少数派の快楽を求めてるだけで、世の中のすけべ男たちとちっとも変わ らんのよ」 「……あ! やめてください……」 口では立派なことを言いながら、戸張さんは琴音の太腿を撫で上げ、さらに内股の奥に 手指を侵入させようとしていた。 「なんにもせえへんがな、琴音ちゃんのチン×、パン ツの上から触ってみるだけや」 「……でも」 「な、ちょっとだけや」 「でもお……」 拒絶する口ぶりで応えているが、琴音はこのスケベオヤジに触ってもらいたかった。 あ たしのチン×をスキャンティの上から触るだけでこんなに喜んでくれるなんて……、 琴音はうれしくなってししまうのだ。 幻夢82 その下り階段は決して急勾配ではないのだが、栗岡の腕にしっかりとつかまっていないと 前につんのめって転げ落ちそうになる。 そもそも、踵の高さが10センチを越えるピン ヒールをはいて階段を下りるなんて無謀にもほどがある。平坦な道を歩くのだって、うっ かりすると足首を挫いてしまいそうになるのに……。 小さな踊り場を経て1階分の階段 を下りきると、頑丈そうな鉄製の扉が待ち受けていた。 金色の文字で『雅蝕苑』と書か れた小さなプレートが貼られてある。 栗岡が扉の端にある呼び出しボタンを押す。 ちょうど覗き窓のような矩形の枠が開き、濃いメイクをした目が栗岡を確認して、 目の表情が和らいだ。 ギイィー、と蝶番の軋む音がして、重そうな扉が内側に開いた。 「いらっしゃいませ」 と、ふたりの美女に迎えられる。 胸のカップなしの赤いビスチェ風の上、赤いレザーの超ミニ、真っ赤の網タイツ、ふたり のおそろいのショッキングセクシーの衣装に琴音はびっくりさせられた。さらに衝撃的な のは、ふたりの股間からペニスがぶら下がっているのがすっかり丸見えなのだ。 あらわになった胸には量感たっぷりの乳房、艶やかにメイクした顔……、鼻があまりに尖 角的に形良く整っているのが整形っぽいが……。ひとりは金髪で、もうひとりは栗色の髪 で、どちらも背中までの長さだ。 そうして、包皮の剥けた亀頭が太腿の間でぶらぶら揺 れている。 目を瞠いて彼女たちの男根を見つめてしまった琴音だが、きらきら金髪に染めたほうが、 「ようこそ『雅蝕苑』へ」 と言ったので、あわてて彼女の下腹部を見つめるのをやめた。 彼女たちはふたりとも、わざとウルトラミニをはいて垂れるペニスを見せているのだと わかる。 「コートをお預かりします」 赤いマニキュアの指の手が差し出され、栗岡が背後にまわって琴音のファーコートを脱が せてくれる。 金髪の彼女は琴音に笑顔を向けている。 あなたも男なのね、わかってるわよ、 と、その目が語っているように思えた。 幻夢83 琴音の今日の出で立ちといえば黒いロングドレスだ。 ホルターネックで、胸のところで斜め十字に交差して胸元をカバーしている。背中も脇腹 もすっかり露出した大胆なセクシードレスで、左サイドには深々とスリットが入っている。 髪はアップにまとめ、アクセサリーといえばダイヤストーンのイヤリングと同じダイヤ ストーンのブレスだけ、きわめてシンプルなセクシーシックな装いだ。 その地下の部屋 は小ぶりの円形の舞台が中央にあり、舞台を扇形に囲むようにしてボックス席が並んでい た。 すでに何組もの客が席についている。 栗岡と琴音は、舞台がすぐ前の、特等席ともいうべきボックスに案内された。 今度は、 黒い胸出しビスチェにブラックレザーのミニ、黒網タイツでペニスぶらぶらの 美女がやってきて、 「お飲み物はいかがなさいますか?」 と、ハスキーな声で訊いた。典型的なニューハーフ声だ。 栗岡は、マール何とかを注文し、琴音が何を望んでいいのかわからなくて困っていると、 「このコには何か口あたりのいいカクテルを」と栗岡が言ってくれた。 新しい客たちがつぎつぎと席についてゆく。 紳士淑女のパーティ……。 あまりキョロキョロするのも恥ずかしいので、琴音は目線だけを動かせて周囲をうかがっ た。 栗岡は「いいところに連れていってやろう」と言っただけで、ここが何の会場なのか、 琴音にはさっぱりわからないのだ。 「今日はトランスセクシュアルの日だから」 と 栗岡に耳元で囁かれ、琴音は「はい」と返事した。 「はい」と言ったものの、要領を得ないというか皆目わからないままだ。 やがて照明が落とされ、 「何が始まるの?」 と、栗岡に訊いてみた。 「見てなさい」 「……」 舞台にスポットライトが当たり、ふたりの美女が登場した。 先ほど、入り口で琴音たちを出迎えたふたりだ。 レザーのミニスカートは脱いでいて、赤いビスチェ風の挑発衣装の裾から伸びたサスペン ダーで赤い網ストッキングを吊り、脚には赤いエナメルのピンヒールをはいている。 さっきはぶらんと垂れていたのに、ふたりの美女のペニスはそそり立ち、赤黒い亀頭は テラテラと光っている。 妖しくも淫らな雰囲気が立ちこめて琴音は息を呑んだ……。 幻夢84 舞台のふたりは、下腹部からそそり立つペニスを誇示している。 琴音たちの座っているボックス席は舞台のすぐ近くなので、ふたりのペニスの青筋まで もが鮮明に見える。ふたりとも恥毛はすっかり剃り落としているらしく、股間から屹立す る牡根はさながら彫刻のようでもある。 ……琴音は圧倒されていた。 セクシーなコスチュームが一因であるのは明白だが、それを差し引いても、舞台のふたり の艶然さは群を抜いていた。ニューハーフとしてのクオリティの高さがずば抜けているの だ。 ふたりとも整形手術を受けているにちがいないが、男好きのする色っぽい顔立ちだ 。舞台に映えるように濃艶にメイクしているので、ひときわあでやかだ。 肩のラインは なだらかで優美だし、巨乳といってもいいほどのたっぷりとした乳房は乳首も大きくて、 とても男を豊胸したとは思えない。ウエストは引き締まり、ヒップはぷりぷりとセクシー にふくらんでいる。太腿はむっちりとして足首は細い。 何よりも驚かされるのは脚の長 さだ。日本人離れした脚の長さで、ウエストがずいぶん高い位置にある。 琴音は羨望の 眼差しで眺め入ってしまう。 硬立したペニス棒を持つ麗しき美女たち……、その性的魅力にあふれた女体と怒立した 陽根の取り合わせは両性具有の幻想だ。 栗色の髪の美女がしゃがみこむ。 目の前には屹立した肉棒……。 金髪のほうは腰に手を当てて仁王立ちになっている。 真っ赤なマニキュアの長い爪の指が力を漲らせているペニスの胴幹を包み込む。 ほっそりとした白い指で、どう見ても女の手指だ。 裏筋がくっきりと浮かび上がった逞 しい肉棍に顔そっと寄せてゆく。つけまつげと濃いアイライナーの間からうっとりとした 眼差しで見つめ、そして、紅唇を少し開いて舌を伸ばし、雁裏を舐め上げた。 舞台を凝 視していた琴音は、その瞬間、ああんっ! と喘ぎ声を発してしまいそうになった。 自 分が舐めるほうの立場で昂奮してしまったのか、それとも舐められるほうの立場で感じて しまったのか、琴音には判然としない。けれども、喘ぎそうになった原因ははっきりとし ている。 それは、これが公開フェラチオだからだ。 密室で、ふたりだけで楽しむ行為ではない。 観客たちに見られるのを承知で口淫愛撫を実行する……そこには、恥の意識があるはずだ……。 幻夢85 時間をたっぷりとかけたフェラチオ淫戯は続く。 亀頭傘面を舌で舐め啜り、裏筋に舌面を這わせ、陰嚢を吸ってねぶる……。 金髪美女の赤黒い亀頭は唾液に濡れそぼり、そして滲み出したカウパー腺汁も交じってい るのか、粘っこいヌラヌラに光りはじめて淫猥この上ない。 おしゃぶりに熱中している ほうの栗色美女は、空いているほうの手で自分のペニスを浅ましくもしごき上げている。 ボックス席で神妙に座っている琴音は、膝の上に置いた手の平がじっとりと汗ばんでく るのを感じていた。身体が微熱を帯びたように火照り、伸縮性のスキャンティの奥でペニ スが膨脹してもがいている。 こういうドレスを着るときは下着のラインが出ないように パンティをはかないものらしいが、ペニスを有する琴音には、それは不可能だ。だから 、陰茎を折り曲げて股間からお尻の谷間に向けて隠すように収納してあった。 この地下にやってきて、男根をぶらぶらさせているふたりの美女を目にしたときから勃起 の兆候はあった。そうして、今、下着の中で痛いほどに伸張してきているのだ……。 舞台の上では、栗色の髪の美女が仰向けに寝て、その上から金髪の美女が逆向けにおお いかぶさる。 豊満な乳房のふたりの美女が互いの股間を舐め合う姿勢だが、実際は相互 吸茎なのだ。 円形の舞台がゆっくりと回転しはじめる。 赤いビスチェ風をまとった細胴、赤い網ストッキングの脚、赤いエナメルのピンヒール… …、目にも鮮やかな扇情的衣装と豊麗な女体、にもかかわらず、玉袋と勃立するペニス棒 を持ち、貪るように互いのペニスを舐めしゃぶっている。 そんな淫らな口戯を客たちは じっくりと鑑賞している……。 幻夢86 琴音の目の前のテーブルにはカクテルグラスが置かれたままになっている。 乳白色の液体が入っていて、栗岡の説明によるとアレキサンダー何とかという名だそうだ が、琴音は頭がボーとしてしまっていて覚えられない。 咽喉の渇きをいやすためにひと 口、飲んでみる。 生クリームの味が口中にひろがり、確かに口当たりはいいが、これでは咽喉の渇きが おさまりそうにない……。 舞台の上では、栗毛の美女が四つん這いになり、臀丘を高々 と掲げている。金髪美女の両手は栗色美女の尻丘を左右に大きく割り拡げている。 その白いまろやかな肉丘の狭間にひっそりと窄まった菊蕾は客衆の前に晒し出され、 これからこの尻穴を生チン×で犯しますよ、皆さま、じっくりと御覧あれ、とアナウン スしているも同然だ。 ああ……、男と男の性交なんだ……、と琴音はあらためて認識し た。 牡を誘うフェロモンが匂い立つ美女なのに、ふたりとも男なんだ……。 絢爛たる倒錯、妖美なる淫夢……。 そして、琴音は生唾を呑み込む。 ぬら光る亀頭が肛門狭穴に圧し当てられ、美女の細腰をつかんだ美女が背後から強犯した。 またもや、琴音は、あんっ……、と喘ぎそうになった。 発熱した琴音のペニスの先からはガマン汁が漏れはじめている。 太腿をしっかりと閉じ合わせていないとダメだ……。 ドレスに染みをつくってしまうかもしれない。せっかく栗岡が買ってくれた高価なドレス なのに……。 もちろん、ゴムなんか使わずに生で嵌入している。潤滑ローションを塗り こめる場面は見ていないので乾肛インサートだと思うが、それにしてはあまりにもすんな りと入ってしまった。 栗色美女のアナル孔が被姦馴れしているのか、それとも、 前もって肛奥にローションを塗布して周到に準備してあったのか……。 ゆっくりとした 舞台の回転は、観客たちにさまざまな角度から犯淫ショーを見物して楽しめる趣向だ。 ちょうど肛門媾合の裏正面から見る位置になると、ぷりぷりとセクシーなお尻から陰嚢が 垂れていて奇妙な違和感がある。ほとんど重なり合っている4本の美脚、網タイツとピン ヒールの赤は目にも絢な妖しさだ……。 幻夢87 これは男と男の肛門性交なのだ、と、琴音は何度も自分に言い聞かせなければならなかっ た。 一見すると、コスチュームといい体型といい、ふたりのゴージャス美女のからみ合 いなのだが、ひとりのペニスは相手の肛門性器を犯し、 もうひとりはペニスをそそり立たせて先走り汁の糸を滴らせている。 ふたりの顔が正面に来ると、琴音は思わず目を伏せそうになる。 舞台はスポットライトで照らされ、客席は暗いのだから、舞台のふたりが琴音を認知する はずがないのだが、琴音はふたりと目線を交えるのがこわかった。 それはたぶん、 羞恥の意識だ。 大勢の観客たちがお酒を飲みながらくつろいでいる前で余興のセックスショーを演じる 羞恥が、琴音にはまるで我がことのように感じられてしまうのだ。 琴音は、ちらりと 栗岡をうかがった。 彼は、無表情というか、冷然たる顔つきで舞台を眺めている。 男どうしの尻穴ファック・ショーを楽しんでいる風でもなく、どこか醒めきった眼差しだ。 舞台では、金髪美女が腰をひいてペニスを抜去した。 栗毛のほうは、力尽きたように舞台フロアに上半身を崩してべったりと顔面まで伏せてしまう。 金髪がふくよかな尻丘を、ぴしゃりっ! と平手で叩いた。 すると栗色美女はあわてて体を起こし、身体の向きを変えて、金髪のペニスを頬張って フェラチオ愛撫をはじめる。 肛穴に生刺しされていたペニス棒だ。 金髪のほうは女王然として舌戯を見守っている。 客席から話し声が聞こえるわけでもないし、ショーにバックミュージックが流されている わけでもない。静まり返った地下の一室で行われている淫靡なショーの熱気が、琴音には 痛いほどに感じられた。 琴音の席からだと、口舌で肉棒を摺り上げる淫猥な音まではっ きりと聞こえてくる……。 幻夢88 再びドッグスタイルで貫通されたニューハーフ美女は堰を切ったように悶え喘ぎはじめた。 切なげな、嗚咽にも似た呻きが生々しく響き渡る。 豊麗な乳房は震えて揺れ、膨脹した亀頭からはねばねば粘液が糸をひいて滴りフロアを 濡らしている。 金髪が、一段と烈しく腰を使いはじめた。 ふたりの陰嚢が、まるでふたつの振り子のように揺れ動いて当たっている。 ……そして、金髪美女が濃艶メイクの顔を歪め、栗色美女がのけぞって呻いた。 ……琴音には、何が起こったのか、はっきりとわかった。 中出しされたのだ。 肛奥に射精されたのだ。 熱い精液を腸腔に噴射された経験を持つ者なら誰でもわかるはずだ。 金髪が腰を退く。 ザーメンの残滓の付着したペニスは萎えつつある。 栗色美女はぐったりと上体をフロアに沈みこませてしまっているが、なおも臀部を高々と 掲げたままだ。弛緩した肛穴からは白濁粘汁がトロリと漏れて睾丸の皺袋に伝い落ちてゆ く。 だが、これでふたりの肛交ショーが終わったわけではなかった。 金髪美女が、ふふふ、といわくありげな笑みを浮かべる。 琴音は厭な予感がしていた。このあと、何かとんでもないものを見せられるにちがいない ……。 金髪美女は、指先をそろえて手指を楔のような形にした。 その手楔の尖らせた先端が栗色美女の肛門を狙う。 え? ……まさか? 赤いマニキュアの爪先が排泄細穴を探るようにしながらゆっくりと侵犯してゆく。 うそでしょ……? んあっ、はああっ……、と喘ぎとも呻きともつかぬ声が栗色美女の紅唇から洩れはじめる。 ありえないわよ、こんなのって……。 指先の第一関節、そして、第2関節まで肛菊穴に埋没してゆく……。 幻夢89 この地下室は、琴音にとって、まったくの異世界と化していた。 豊胸手術で乳房をふくらませて女装し、栗岡に抱いてもらうようになり、異常な世界の 住人となってしまったと自覚している琴音だが、世の中のアンダーグラウンドの領域には 、琴音の想像もつかないような別世界が存在していたのだ。 舞台では、金髪美女の肛門 フィストが佳境を迎えていた。 手首まですっぽりと肛穴に収まりきってしまっていて、琴音は唖然とするばかりだ。 栗色美女は狂乱したように顔を振って地声の男の声音で啼き叫んでいたが、今は声も出 さずに苦しそうに美貌を歪めている。 肛道には射出された精液が溜まっているはずだ。 精液をローション替わりにしてのフィストファック……。 金髪美女の手指の拳はもちろん、どんな極太ペニスよりも大きい。だから、肛門輪管は 伸び切ったチューブ管のようにふくらんでしまっているにちがいない。 琴音は、あまり のおぞましさに、背筋をブルッとふるわせた。 背中丸出しのドレスだけれど、玉の汗が浮き出るかと思えるほど昂奮していたのに、一気 に身体が冷え切ってしまったみたいだ。 金髪美女は、もう一方の手で栗色美女の勃立ペ ニスを握りしめてしごきはじめる。 フィスト被姦されているニューハーフ美女の苦悶の 表情がいっそう険しくなる。重たげな乳房を揺らし、間歇的にのけぞっては吼えるような 呻きを発する。いや、もう苦役の叫びと言ってもいいかもしれない。 フィストファックなんて、きっと泣きそうになるぐらい痛いんだわ……。 痛みもさることながら、拳を嵌入されたりしたら肛門管が裂けてしまうんじゃないか……、 琴音はそんな恐怖に怯えて、再び、背筋をブルッとふるわせた。 金髪美女の手首が前後に動いている。 尻穴の中でフィストのピストン往復が行われている。精液でどろどろぐじゅぐじゅになっ た輪管を真っ赤なマニキュアの手指が容赦なく犯虐している……。 琴音は、自分の見ているものが、未だに信じられない……。 ……そして、栗色美女は腰をひくひくと震わせ、低く掠れた呻き、むせび泣くような呻き を洩らしたかと思うと、彼女の亀頭からトロトロと濃厚白濁ザーメンが噴出した。 ぐったりと上体が崩れ落ちる……。 金髪美女が慎重に手拳を抜き去ると、膝をついて臀丘を掲げたままの栗色美女の排泄孔はぽっかりと口を開いて緩みきっていた……。 幻夢90 こうして、おそるべき肛虐ファック・ショーが終わり、舞台のスポットライトが消えて 元の照明に切り替わった。 栗岡が思い出したかのように煙草を口にくわえた。 琴音は、すかさず、ライターで火を点けてあげる。 このひと、ショーの間、ずっと煙草 を吸わなかったわ、無感動な表情で眺めてたけど、けっこう真剣に楽しんでたのかも……。 席を立つ人たちはきっとお手洗いに行くのだろう。 ペニスぶらぶらの黒コスチューム美女が何人も出てきて、飲み物のおかわりの注文を受け ている。 舞台では、裏方従業員風の若い男が数人がかりでフロアに飛び散った精液を拭 き取っている。 凄絶な倒錯ショーが演じられた熱気と興奮が残っているかといえば、 そんな雰囲気でもない。きっと、こういうショーを見慣れている人たちばかりなのだろう ……、と琴音は想像してしまう。 「琴音」 「はい?」 「どうだった?」 「…………」 「フィストを見たのは初めてだろう?」 「あんなの入っちゃうなんて信じられない……、それに痛そうだし……」 「訓練すれば琴音だってできるようになるぞ」 「えっ……?」 この人、あたしのお尻にフィストファックしたいのだろうか……? 一瞬、琴音は凍りつきそうになった。 肛門フィストなんておぞましすぎる……、だけど、このひとが望むならどんな辛いことで も覚悟はできている……。 「琴音、ケツにチン×をハメられるのと、フィストを突っ込 まれるのと、どうちがうか、わかるか?」 「え……?」 それはシチュエーションにもよるけど、正常な肛門性交だと、このひとに愛されてる……、 って感じられてうれしいし……。 が、そんな想いは羞ずかしくて口には出せない。 「嬲りものにするためのフィストファックなんだよ」 「…………」 「フィストされるほうはオモチャにされて弄ばれる屈辱を味わう。まして、こんな風に大 勢の目の前でケツの穴に拳固を突っ込まれるなんて恥さらしもいいとこだが、そういう恥 辱を受けて悦ぶ奴もいるしな」 「…………」 照明が消えて舞台だけが明るくなる。 次の演し物が始まる……。 幻夢91 スポットライトの眩しい光を浴びて華麗なチャイナドレスに身を包んだ女が登場した。 真っ赤な地に金色の刺繍が燦めいて長身に良く似合う。 客席から、ふくみ笑いや、しのび笑いが洩れる。 彼女は決して美人とは言えなかった。 猿顔……、いや、ゴリラ顔なのだ。その類人猿っぽい顔に入念なメイクを施している。 濃いアイシャドウにつけまつげはダブルみたいだし、チークは筋がくっきり浮かぶほど紅 いし、こってりと塗り込めたルージュは色っぽいというより仮装めいている。 ……誰が 見ても男の女装だと、ひと目でわかる。 『みなさま御存知のタケシくんです』 場内にマイクの声が響き、タケシ嬢は客席に向かって優雅に半身を折って一礼する。 拍手が沸き起こり、タケシ嬢は満面の笑みを浮かべる。まるでディナー歌手の登場のよう だ。 『今宵もまた、タケシくんに舞台に上がってもらいました。タケシくん、元気そう ですね』 『はい、おかげさまで』 舞台の天井のあたりに高性能の集音マイクが設置されているのだろう。タケシ嬢の声は 増幅されてはっきりと聞こえる。 『相変わらずおきれいですね』 『ありがとうございます』 タケシ嬢の声は、見事におかま声だ。女声をつくろうとする努力は報われず野太さを まったく隠しきれていない。 『あれから、またお尻を大きくしたんだって?』 『はい』 『おっぱいは、もう3回手術してるよね。お尻は2回め?』 『そうなんですよ。もっとお尻が大きいと女らしくなれるかな、って思って』 タケシ嬢はおかま声の上に、さらに女っぽい抑揚をつけてしゃべる。 『それじゃ、今宵のお客さまに、タケシくんの色っぽくなったお尻を披露してください』 『はい、わかりました』 タケシ嬢のチャイナドレスに包まれた肢体を見ると乳房とヒップが異様に大きいことがわ かる。 顔はお世辞にも美人と言えないが、長い髪は栗色に染められて艶やかな光沢があ り、柔らかくカールされてきれいにセットされている。 タケシ嬢はくるりと半回転し、両側に太股の上のほうまでサイドスリットの入っているド レスのうしろ半分を自らの手でまくり上げた。 生脚が露出し、ヒップが丸出しになる。 『タケシくん、いちだんと女らしいお尻になりましたねえ』 『殿方に楽しんでいただけるように手術したんですよ』 タケシ嬢は下着をはいていない。ぷりぷりにふくらませた尻丘は惚れ惚れするほどゴージ ャスな曲線を描いている。 琴音の座っている位置からだと、量感たっぷりの臀丘から素 足にハイヒールまでの後ろ姿は相当なセクシーさで、そこだけ眺めているととても男の下 肢とは思えない。 『では、タケシくん、いつもの台に乗って御開帳してくれますね?』 『はい』 幻夢92 いつもの台、というのは、婦人科の検診台のような代物だった。 その台は舞台の中央に運ばれて設置された。 黒いクロームパイプで形成されて、お尻を載せるところと背凭れの部分が革張りになって いる。高い位置にフレームが伸びてふくらはぎを載せる架台があり足首を固定する革ベル トが付いている。そして、ちょうど顔の横のあたりになるのだろう、両手首を拘束する枷 ベルトが付いている……、そう、SMの恥辱拷問台みたいなのだ。 タケシ嬢は、その台の横でストリップティーズをはじめた。 脇腹のところのジップをおろすと、胸元の布地がぱらりとまくれる。 圧倒されてしまうほどの巨大な乳房が露出する。 両肩を抜き、へその下あたりまで脱ぐと、彼女の上半身ヌードがすっかり客たちの目に晒 される。 肩幅は広く、肩から腕には男の筋肉がついている。ウエストは細いが無理に絞 りこんだら しく腹筋が浮いている。脇腹のあたりには肋骨の形がくっきりと見えている。 上体には女らしい柔らかさが少しもない。男の上半身に大きすぎる乳房が接着されたよ うな感じなのだ。だが、肌の色は男にしては生白い。 琴音は、タケシ嬢のひどくちぐは ぐな印象に戸惑っていた。 栗色の髪は匂わんばかりに女らしいけれど、男顔に厚化粧……、スイカップという言い方 があるけれど、ほとんどスイカ大の半円球がふたつ、胸に造られている。それは乳房と いうには女らしいまろやかさに欠ける。 脚は長くて、ぷりぷりにふくらませたお尻から のレッグラインは素晴らしくセクシーだ。 ……全体にアンバランスすぎる。女のように 変えた部分と、どう見ても男、という部分が奇抜に融合している。それは、ある種、猟奇 美と言っていいかもしれない。 タケシ嬢は巧妙に股間を隠しながらチャイナドレスを脱 ぎ、そのひとかたまりになった赤い布を下腹部に当てがう。 そうして、ハイヒールだけ の全裸になったタケシ嬢は、羞じらうように台に腰かけた。 すかさず、裏方従業員風の 若い男がふたり現れて、彼女の双脚を担ぎ上げるようにして足載せ架台に乗せて足首を革 ストラップで固定する。 その間も、タケシ嬢は、まるでバスタオルで隠すようにして股 間をチャイナドレスで頑なに被っている。 彼女の両脚は露骨なM字開脚を強いられる。 いや、M字というよりはV字に近い……。 幻夢93 『タケシくん、準備はできましたか?』 『はい』 『その格好、苦しくないですか?』 『ちょっと苦しいけど、大丈夫です』 膝が乳房に触れるぐらいにまで折り曲げられていて、腰かけているというより、台の背凭 れに張り付けられているような屈曲姿勢だ。 『ところで、タケシくんのおっぱい、でっ かくていいですねえ』 『ありがとうございます』 『私の極めて個人的な嗜好なんですけどね、タケシくんのおっぱい、いかにも人工的な ふくらみでしょう? 中に何かのパックを詰めて豊胸整形で造りました、って感じでしょ う? 男の胸に巨乳ですよ、って感じでしょう? すごくそそられるんですよ。 自慢じゃないが、わたしもアブノーマル大好きのヘンタイですから』 『…………』 『乳首も大粒だし、黒ずんでますね』 『……男の人にいっぱい吸ってもらうと、こんなになるんです』 『タケシくんの乳首、敏感ですか?』 『はい。ビンビンに感じます』 『……そうかあ……、タケシくんを縛り上げて、ニップルクリップで責めてみたいなあ』 『わあ……、そんなことされたら、あたし……』 『クリップに重石なんかぶらさげて、ちぎれそうになるぐらいに乳首責めしてみたいなあ』 『……ああん』 『男のくせにこんな大きなおっぱい造って、こんな黒ずんだ乳首になって、恥ずかしくな いのか? なあんて、いたぶってみたいなあ』 『……ああ、やめて……』 『お? いかんいかん。私が自分のチン×をおっ立ててる場合じゃないんだった。 司会進行役だったのをすっかり忘れてしまっていたぞ。……それでは、脱線はこのぐらい にして、タケシくん、準備はできましたね?』 『あ……、はい』 『御来場の皆さまにごらんになっていただきますよ』 『……はい』 『では、タケシくんの御開帳!』 チークの紅だけではない、タケシ嬢の頬は赤味を帯び、首筋もほんのりと桜色に染まっている。 タケシ嬢は股間を隠していたチャイナドレスを、はらり、とフロアに落とした。 琴音は、あっ! と小さく叫んで息を呑み込んだ。 そこにあるべき男根は喪失していた。 股間には、女の性器が造られていた……。 幻夢94 どう見ても男が濃厚なメイクで彩っている容貌であり、胸には明らかに豊胸整形とわかる 乳房が付いていて、声はオカマ声だし……。 琴音は、タケシ嬢がまさか性転換している とは、思ってもいなかった。 彼女の股間には男根があるものだ、という揺るぎなき先入観にとらわれていた。 ひょっとしたら玉抜きして、睾丸はもう無いのかもしれない……といった疑惑すらなくて 、チャイナドレスでしっかり隠しているなあ、やっぱ、男の証を見られるのが恥ずかしい んだ、と思っていたのだ。 琴音は、意外な事実を見せつけられて仰天してしまい、 タケシ嬢の局部に目が釘付けになったままだ、 両脚を無理にまで屈曲して開かされてい るために、縦割れの女溝が半開きになってしまっている。恥丘は逆三角形にトリミングさ れた陰毛が生え、淫唇のあたりにも黒毛が残っていて鶏の笹身色に濡れた穴性器の内壁粘 膜が垣間見え、さらに、そのすぐ下の排泄孔までもがすっかり露呈してしまっている。 その股間だけ眺めてみると、性転換手術で造った疑似女性器という印象はない。 目利きが見たら本物と偽物の違いがわかるかもしれないが、琴音には違和感はまったくな い。ひどく猥褻なたたずまいで、男なら勃起ペニスを挿入したくなる割れ目に見えるのだ。 裏方従業員風の男たちは台の横で待機していて、タケシ嬢の両手首を革ベルトで拘束し てゆく。顔の横ではなくて、頭よりずっと上だ。 タケシ嬢の腋の下はすっかり剃り落と されている。太い肩の裏側の腋下の体毛をきれいに処理しているのを見て、琴音は妖しい 気分になった。そこにも、女になろうとする嗜みが色濃く反映されているように思えたか らだ。 『タケシくん、強制開脚大股開きのオマ×コ剥き出しの磔ですねえ』 『んんぅ……』 手足の自由をすべて奪われて、股間丸出しの羞恥を強いられた格好のタケシ嬢は極細に描 いた眉を寄せて辛そうな表情になっている。 『タケシくん、お尻の穴まですっかり見え てますよ』 『……あんんぅ、はずかしい……』 『性転換オマ×コは男にチン×をハメてもらう穴だけど、タケシくんはアナルファックも できるんですね?』 『……ああ、はい』 『性転換するまでは、お尻の穴に犯られまくりですか?』 『ああんっ……、そう……です』 『タケシくんのお尻の穴、ぜんぜん素人じゃないですね。ぶっといチン×を突き刺されて さんざんバコバコ犯られてきたのが歴然としてますよ』 幻夢95 舞台がゆっくりと回転しはじめる。 真紅のハイヒールの尖った爪先は天井を向き、細くて長い踵はフロアと平行して高い位置 にある。 露骨な恥部晒しを強要されているタケシ嬢の二重つけまつげの奥の眼は充血し て潤んでいた。艶めいた喘ぎを洩らすとき、巨大な乳房とともに胸が上下する。 『タケシくん、女のオマ×コを造って、もうどれぐらいになりますか?』 『……え〜と、3年……、もうすぐ4年です』 『その性転換オマ×コに、今まで、何人の男にハメてもらいました?』 『えー? わかんなーい……』 『わからないことはないでしょう?』 『だってえ……』 過剰なまでに顔や上半身をくなくなとくねらせてシナをつくる動作、無理してハイキーを 出そうとするオカマ声……、あと一歩でピエロの笑劇になりかねないのだが、彼女の股間 に造られた淫靡な女性器が倒錯した緊張を醸し出している。 『だって、わかんないんだ もん』 『だったら、だいたいの人数でいいですよ。100人ぐらいですか?』 『えー? ……もっと多いです』 『じゃ、200人ぐらいですか?』 『えー? わかんなーい……』 舌足らずをよそおった甘え声がグロテスクにさえ聞こえる。 この人、いくつぐらいだろう……? と、琴音は推測してみた。 ぜったいに20代前半ではあり得ない。 もう30に近いかもしれないし、30才をいくつか越えているかもしれない。 『それじゃ、いちおう、200人ってことにしておきましょう。本当は500人かもしれ ないし、1000人かもしれないですけどね』 『まあ……、いじわるなんだから……』 『タケシくんの股ぐらにあるのは、少なく見積もっても200人のチン×をハメられた人 工オマ×コですね?』 『……はい』 『タケシくんは妊娠する心配がないから、もちろん中出しが定番ですね?』 『……はい』 タケシ嬢はくなくなと肩をふるわせて羞じらう。 少なくとも200人以上の男と、あの淫媚な人造女性器で性交したというのか……、 琴音には衝撃だった。 たとえば風俗の店で働いて娼婦まがいの仕事をしている娘なら、 200人ぐらいは驚くべき数ではないだろう。けれども、琴音の視界には、性転換手術で 造った、男と性交するための肉穴がはっきりと見えているのだ。 画像でも映像でもなく 、生身の実物だ。 琴音の胸の奥のどこかで火花がスパークした。 そして、ほんの一瞬だが、立ちくらみのように、頭の中がクラクラとなった……。 幻夢96 『タケシくん、手足を縛りつけられて、まったく抵抗できない状況ですね?』 『……はい』 『タケシくんの性転換オマ×コはモロ剥き出しですね。ほとんどマングリ返しですねえ』 『…………』 『隠そうと思っても脚は閉じられないし、手の自由は奪われてますね?』 『……はい』 『その格好のままでボッキ生チン×を性転換オマ×コにぶちこまれたりしたらどうなります?』 『……ああんっ……』 『エラの張った黒光りする亀頭ですよ。青筋が浮き上がった逞しい巨根ですよ。ギンギン の灼熱チン×を、いきなり、ぶすり、と生ハメされたらどうなります?』 『……いや、ああ……』 『こんなにたくさんのお客さまの前で、手足を拘束されてレイプされるんですよ』 『……んああ……』 『タケシくんはやっぱりスケベですね。想像するだけで感じまくってるでしょう?』 『……ああ……たまんない……』 『生身のチン×なんて淫乱のタケシくんを悦ばせるだけだから、おとなのオモチャで嬲っ てあげましょうか?』 『……んん……』 『ほら、チン×そっくりの形をした張形ですよ。それを性転換オマ×コに突き刺してあげ ましょうか?』 『……ああ……』 『それとも、モーターでくねくねと卑猥に動くやつがいいですか? 性転換オマ×コの中 をかきまわすようにしていやらしく動くんですよ』 『……んんう……』 『電動張形を突っ込んだままで、しばらくの間、放置しておいて、タケシくんが恥知らず に悶えまくるようすをお客さまに鑑賞していただきましょうか? 性転換オカマ、バイブ 責めに悶絶、なんて、やってみましょうか?』 『……ああ、やめて……』 『そうだなあ、お尻の穴にも、バイブ、突っ込んじゃいましょうか。2穴同時責めに、性 転換オカマ、悶え狂う』 『いや……いやあ……』 『そうなると、口には生チン×ですね。磔にされた性転換オカマ、3穴責めに狂乱。フィ ニッシュは濃厚オス汁の口内射精』 『いやっ! ダメッ……ダメッ……んああっ』 タケシ嬢はのけぞった。 喉仏が大きく浮き上がる。 巨大乳房の谷間に汗が噴いて光っている……。 幻夢97 『タケシくん、アクメっちゃいましたねえ』 『……すみません』 『性転換して、もうチン×が無いわけでしょう? どんな感じなんですか? やっぱり、 精液どぴゅっ、みたいな感じですか?』 『似てるんだけど、ちょっとちがうんです』 『どんな風にちがうのか、ぜひ教えてくださいよ。チン×のない性転換オカマのエクスタ シーは、チン×のあったときとどのように異なるのか? 私だけじゃなくて、御来場のお 客さまも興味津々ですよ』 『……もどかしいんです』 『もどかしい……?』 『射精するときの、あの炸裂するような快感が来ないんです。もうすぐそこまで来てるの に、最後の爆発が起こらないんです。それで、じわじわ、って蕩けるみたいになって、照 準が定まらないうちにフライングして精液が漏れることがあるでしょ。あんな感じ……』 『なるほど。……といっても、わかったようなわからないような。面妖ですねえ。これ ばっかりはチン×を切ったオカマになってみないとわかりませんねえ。さあてと、タケシ くん、昂奮はおさまりましたか?』 『……はい』 『それじゃ、タケシくんの両手を自由にしてあげますからね。皆さんの前でオナってみてください』 『えっ? そんな……』 『ははは、ウソですよ。タケシくんのオナニーを見るより、もっと面白い趣向を考えてあ るんです』 『…………』 『題して、性転換オマ×コはいかにして造られたか? 生体標本を使っての講義です』 さっきのふたりの男が現れて、素早くタケシ嬢の両手首の枷ベルトを外した。 彼女は、 あわてて股間を手の平で隠す。長い爪は流行りのネイルアートでなくて、鮮烈な赤なのが 妖美だ。 『タケシくん、隠したりしたらだめですよ。何のために大股開きになってるん ですか? お客さまにタケシくんの性転換オマ×コをじっくり鑑賞していただくために、 わざわさざこんな台を用意してるんですからね』 『……はい、すみません』 タケシ嬢は、仕方なく股間から手を退ける。そして、大きな 乳房の下で両手を交錯させた。 今のところ、そこしか手の置き所がない、という感じだ。 幻夢98 『さあて、タケシくんの人工オマ×コは、見れば見るほど本物そっくりですね。肉ビラの シワシワぶりが実にいやらしい……。肉ビラの黒ずんだ色合いが何ともヒワイですね。 精力絶倫のダンナに毎日毎日やりまくられてる人妻のオマ×コみたいですよ』 『…………ああ……』 『タケシくん、クリトリスはどれですか? 皆さんによくわかるように指で示してくださ い』 タケシ嬢は右腕を伸ばし、ややためらいがちに赤い爪先が女性器の肉核を指した。 それは割れ目の上部に位置し、はっきりそれとわかるほど大きめに造られている。 『クリトリスをこすったりしたら、感じます?』 『かなり……』 『そんな肉のマメになる前は、それ何だったんですか?』 『ああ……、言わせないで……』 『タケシくん、ブリッ子みたいに羞じらってますね。でも、ちゃんと白状してもらいます よ。さあ、言いなさい』 『……ああ、元はチン×だったんですう……』 『そうなんですか。タケシくんのチン×が手術で加工処理されて、そんな風にちっちゃな クリトリスになってしまったんですね。だから、感じるんですねえ』 『……そうです。これって、海綿体なんですよ』 『亀の頭ですね。なるほど、チン×の成れの果てですね。かつては硬くそそり立っていた のに、今や、落ちぶれて女のクリトリスになってしまったんですね』 『……ああ……』 『オマ×コというからには肉穴ですね。男のボッキしたチン×をハメてもらう穴ですね。 タケシくんは股ぐらに穴を造ったわけだ。こうして見ると、ずいぶん下つきですね』 『……男って、骨格の関係なのか……よくわからないんですけど、こんな下のほうにしか 造れないみたいなんです』 『キンタマがぶらさがっていたあたりですね』 『……そうです』 『ヘンタイスケベの私としては、タケシくんの性転換オマ×コの奥の院まで御開帳、って いうのを見てみたいんですけどねえ』 『え?』 『特出し露出ですよ。ここまで来てるんだから、性転換オマ×コの中まで見せてもらわな きゃ気がすまない』 『……そんな……』 『タケシくん、両手は使えるでしょう? 肉ビラをぱっくりと拡げてみてくださいよ。 あたしのオマ×コの中、こんな風になってます。皆さま、どうかごらんになってください、 性転換手術で造った男のオマ×コなんです、皆さまの御目汚しになるかもしれませんけど ……、みたいな感じで披露してください』 『…………』 『まさか嫌だなんて言わないでしょうね?』 『……お見せします』 幻夢99 タケシ嬢はさすがに躊躇しながらも、両方の手の爪先で淫唇を左右にまくり上げた。 もともと強引な開脚姿勢なので、少し力を加えるだけで肉裂がぱっくりと剥き拡がってし まう。 『驚きましたねえ、タケシくんのオマ×コの中、ヌルヌルですね』 『……はい。もう、感じまくりで、濡れ濡れになっちゃいました』 『愛液豊潤、極上のオマ×コですね』 『はい』 『タケシくん、ウソはドロボウのはじまりですよ。濡れ濡れのべちょべちょなんてウソを ついたらいけまんよ』 『えー? やっぱりバレてます?』 『丸バレですよ。性転換オマ×コが、そんなにマン汁を分泌するわけがないでしょう?』 『あたし、ローションをいっぱい塗ってきたんです。感度抜群で、すぐに濡れてべとべ と、みたいにしたかったんです』 『見栄を張ってみたかったんですね?』 『……そうです』 『浅ましいですね』 『…………』 『タケシくんは性転換オカマなんだから、身の程をわきまえなければダメですよ。わかってますね?』 『……はい』 『もっと時間をかけてタケシくんの性転換オマ×コを考察したいところなんですが、そろ そろ時間がなくなってきました。それでは、恒例のオークションを始めたいと思います。 あ、タケシくん、手は離さないで、オマ×コは剥き出しにしたまま、皆さまにごらんにな っていただくんですよ。じゃ、タケシくん、アー・ユー・レディ?』 『……はい』 『さて、御来場の皆さま、今宵のショーが終わってからのタケシくんの夜伽に御値段をつ けていただきます。ひらたく言うと、タケシくんといっぱつやる御値段です。メインの商 品はもちろん、今、皆さまのその目でしっかりごらになっていただいている性転換オマ× コですね。淡いピンクに濡れそぼった肉ヒダが妖しくも蠱惑的ですね。さらに、説明不要 の爆乳も魅力たっぷり、前戯にパイズリなどいかがでしょう。性転換オマ×コだけでなく アナルマ×コも使用可能です。美味2穴、御随意にお楽しみいただけます。タケシくん、 マウスファックもOKだよね?』 『……はい、精一杯リップサービスさせていただきま す』 『リップサービス?』 『やだ、おしゃぶりのことですけど……』 『ああ、そうか、フェラチオですね。性転換オカマのスケベフェラチオですね。タケシく んは男のくせに、男のチン×を舐めるのが大好きなドスケベの変態だから、口唇と舌でい やらしくおしゃぶりするんですね』 『…………』 『顔射OK、直飲OKですね?』 『……はい、よろこんで飲ませていただきます』 『股ぐらのふたつの穴には、生入れ、中出しですね?』 『はい、いっぱい出してくれたらうれしいです』 『タケシくんは、ほんとに淫乱スケベですね、困ったもんだ』 幻夢100 琴音は不思議で仕方がなかった。 ふたりの馴れ合いめいたやりとりはいったい何なのだろう……? 声だけの司会者の男は礼儀正しい口ぶりだが、タケシ嬢を侮辱して弄んで面白がっている。 タケシ嬢といえば、蔑まれるのを承知して、決して嫌がってはいない。 『さあて、御来場の皆さま、タケシくんの真っ赤なルージュのお口をはじめとして、手術 で造った人工オマ×コにアナルマ×コ、3穴よりどりみどり、どんなお楽しみ方をしてい ただいてもけっこうです。SM好きの方なら、タケシくんを縛り上げて、抵抗できないよ うにしてからファックレイプしてくださってもけっこうです。タケシくんは、何をされて もよろこんで従います。そうですね? タケシくん』 『……はい、こんな性転換オカマ ですけど、殿方に楽しんでいただけるなら、どんなご奉仕でもさせていただきます』 『ではいよいよ、タケシくんの夜伽に御値段をつけていただきましょうか。そうですね え、まずは、1万円からスタートします』 一瞬、間があり、2万円、5万円、とあちこ ちから声が挙がる。 『5万円、ですね、さあさあ、お値打ち品ですよ』 10万円、12万円、15万円……、次々と声がかかる。 『タケシくん、15万円まできましたよ』 『……ありがとうございます』 『タケシくんの売りは、性転換オマ×コですね。せっかくモロ出しの御開帳してるんですから、もっとアピールしてください』 『……ああ、あたしのオマ×コ、締まりがよくって、いつもほめられるんです……』 『タケシくん、ちがうでしょう』 『え?』 『そういうアピールじゃなくて、チン×とキンタマのあったところにオマ×コを造っちゃ いました。世にも珍しい男のオマ×コです。ぜひいちどお試しファックしてみてください、 みたいなアピールでしょう? タケシくんのオマ×コに誰も名器を期待してませんからね。 言わば、珍味を味わう面白さなんだから。タケシくん、わかってます?』 『ああん……、あたしの、ここに、チン×が生えててキンタマがぶら下がってたんです。 でも、手術で切り取って、女のオマ×コを造ってもらいました。男の人にチン×入れても らうために手術したんです……お尻にハメてもらうだけじゃ満足できなくて……あたし、 女のオマ×コが欲しかったんです……』 幻夢101 結局、タケシ嬢とのベッドインは30万円で落札された。 タケシ嬢は、台ごと運ばれて舞台裏に姿を消した。 舞台のスポットライトが消え、場内の照明が戻り、幕間の時間となる。 琴音は、性転換手術で造られた人工女性器を間近で見た昂奮がおさまらない。身体は火照 って、胸のドキドキはまだ続いている。 栗岡が苦笑を押し殺したような表情で琴音を見 た。 その目は、どうだった? と訊いているが、口には出さない。 「30万円なんてびっくりしちゃった……」 本音のところは値段ではなかった。額が問題ではなくて、こんなオークションに驚いて いたのだ。 恥部を晒け出して身体の売値を公開で決定される……人間性を奪われて商品 扱いされて嬲りものにされる……もし、自分がタケシの立場で売り買いされたらどんな気 分になるだろう……。 ツーンと、腰の奥が疼く。琴音の勃立したペニスはスキャンティ からはみ出してドレスにテントを張っている。 先走り汁が溢れてドレスをべとべとにし てしまっている……。 「祝儀なんだよ」 「えっ?」 「あのコはトランスセクシュアルの日には毎回、出てくる」 「……そうなんだ」 「どこから見ても女なんだけけれどペニスが付いている、というのとは、ちょうど裏返し になるんだよ」 琴音は首をかしげた。愛らしく顔を斜めにするのが板についてきている。 「どこから見ても男なんだけれど、オマ×コが出来ている」 「あ、そっか、そういうことなんだ」 「なにしろ、あの御面相だ、女になるには無理がある」 「顔の整形とか、すればいいのに……」 「してるんだよ、あれでも。あごの骨を削ったりしてるんだが、もともとの土台が悪すぎたようだ」 「…………」 ちょうど黒コスチュームのペニスぶらぶら美女が通りかかり、栗岡はマールなんとかを注文し、琴音には、アレキサンダーなんとかのおかわりを注文してくれた。 幻夢102 「御祝儀って?」 「あのコが女になるには無理があるのは、琴音にだってわかるだろう?」 「……はい」 「にもかかわらず、性転換手術を受けて女の性器を造ってしまった滑稽な女体だ。乳房だ って、不自然に大きくて、まったく女の乳房には見えん」 「…………」 「嗤いものになるのを承知で、赤恥を晒して出演したギャラなんだよ。30万円を出費す る人物は、このショーを後援するタニマチ気分だからな、30万円なんて、その人物にと っては痛くも痒くもない額だ。道楽に大金を注ぎ込める金持ちが集まってこんなショーを 楽しんでいるんだ。むしろ、30万円程度の安値でしか評価されないあのコが哀れなよう な気もする」 「30万円も出して、セックスするの?」 「そうだな……、あのコを抱くかもしれないし、セックスも何もしないかもしれない。 ひと晩、あのコの身体を自由にできる権利を買ったというだけで満足しているかもしれな い。どちらにしても、30万円は、あのコのふところに入る」 公開の場で値段を付けら れて体を買われる……そんなセックスオークションに、琴音は強烈な刺激を受けていたの だが、栗岡の説明を聞いていると、実情は琴音の感じ取ったニュアンスと少しちがうよう だ。 ここに集まった人々は飢えてはいない。余興として面白いものを見せてくれた者に は褒美を与えてやろう……という鷹揚な楽しみ方をしているのだ。 「ああいうゲテモノを抱いて楽しんでみたい、という男は多いんだよ。いろいろと放蕩を 尽くしてくると、元は男だったなんて信じられないぐらいの美女に変身したオカマよりも 、断然に面白いセックスが楽しめるそうだ」 「あのひとと、してみたい?」 琴音はちょっと拗ねたふりをして訊いてみた。 栗岡は、おや? という表情になり、それから笑みがこぼれる一歩手前の顔になった。 「抱いてみたい、と言ったら、琴音は怒るのか?」 琴音は頬をふくらませて栗岡を睨みつける真似をした。 「俺は値段をつけるのには参加しなかったしな」 「…………」 「琴音を同伴してるんだから、そんなことはできん」 きっぱりと言うわれて、琴音は胸が詰まるほどうれしくなった。 「じゃ、もうひとつ訊いていい?」 「何だ?」 「性転換したひとと、したことある?」 「ある」 「よかった?」 「……それなりに楽しめるな」 「…………」 幻夢103 照明が消えて、舞台にスポットライトが灯った。 ショーは終わりではない。まだまだ続くのだ。 琴音は、また新たに、見てはいけないものを見てしまうのだ、と身構え、緊張していた。 なにしろ、この地下に一歩足を踏み入れてからというもの、驚きの連続なのだ。 舞台には奇妙な台が置かれていた。 ちょうど洋式便器の台座のような円形の低い台があって、その両側にスチールパイプの手 すりがある。 琴音の第一印象は、体の不自由な人のための洋式便器に似ているな、とい うものだった。ただし、便座はずっと低い位置にあり、ペニスの形をした張形が一本、 天井を向けて固定されている。 極太の黒いディルドウだ。 その男根形状の淫棒を目にするだけで、琴音の胸はざわついた。 それが淫猥な使われ方をするのは明らかだ……。 さらに、両サイドの手すりからは革輪の付いた鎖が垂れている。 今度は何……? と、栗岡に訊ねてみたい衝動を琴音はこらえた。 わざわざ訊かなくても、目の前ですぐに実演されるのだが、琴音は栗岡に話しかけて、 すぐそばに居てくれるのを確認しかった。 舞台に女性が現れた。 ゴールドのマントで首から下をすっぽりと被っている。マントの裾は足首まであり、 履いているハイヒールもマントと同じゴールドだ。 そのゴールドはラメをちりばめてあ るので、スポットライトを浴びて燦然と輝いている。 長い黒髪は、前頭部でカチューシ ャで留めて後ろに流してある。琴音が羨むほどの艶やかな黒髪は背中の半ばまで届いてい る。 濃艶なメイクをしているわけではない。 目鼻立ちがくっきりとして、どこか柔和な顔立ちだ。 切羽詰まったような面持ちだが、淫らめいた気配はほとんど感じられない。 年の頃は、琴音とほとんど変わらないだろう。しっとりと落ち着いたお嬢さん、という雰 囲気がある。 この人、どうみても女だわ……。 でも、トランスセクシュアルの日、というからには……。 幻夢104 もう我慢できずに、琴音は、 「何がはじまるの?」 と、栗岡の耳元に小声で囁いてみた。 「何だと思う?」 「想像もつかない……」 「俺もあのコを見るのは初めてだ」 「あの人……」 「そうだな、とても、男には見えんな」 『さあて、御来場の皆さま』と、さきほどの司会者の声がスピーカーから響きわたる。 『舞台に登場しましたのはM子さんです。本名は明かせないので、イニシャルで、M子さ ん、と呼ばせていただきます。Mではじまる可憐なお名前ですよ。M子さんの私生活を少 しだけ暴露しますと、彼女は人妻です。ごらんのように、若妻ですね。しとやかさとほの かなお色気をたたえた若奥さまです。そんな人妻が、どうしてこんな地下の怪しい舞台に 立っているのか……? もちろん、それには理由があります。それじゃM子さん、そのマ ントを脱いで、皆さまに、驚愕の秘密をお見せしてください』 よく見ると、彼女は首筋 のところで、内側から自らの手でマントを押さえていた。 M子嬢は困ったような、戸惑 ったような表情を浮かべ、マントの前を、ぱっ、と開き、そして、一大決心したかのよう に手指を離すと、ゴールドのマントは、すとんと足元に落ちた。 ……やっぱり。 琴音は驚くまでもなかった。 彼女の下腹部には、予想に違わず、男根がぶらさがっていた。 『皆さま、びっくりなさいましたね。こんなしとやかな美しい若妻にチン×が付いている んですねえ! 事実は小説より奇なり、人は見かけによらない!』 彼女は全裸を晒して 羞じらっている。肩のラインは柔弱で、上膊部や腕には男を示す筋肉はまったく見えない。 胸のふくらみもナチュラルだ。やや垂れ気味なのが、詰め物をした整形乳房でないこと を物語っている。腰から下にはむちむちと肉が付いて色っぽい。 下腹部は無毛で、ペニ スがぶら下がっているのが異様だ。 だが、サイズ的には立派な代物で、包皮が剥けて黒紫に乾いている。 『イニシャルでM子さんと呼ばせていただきますが、当然ながら、生まれたときは男の 名前でした。M子さんというのが仮名なんですね。しかしながら、チン×さえ見せなけれ ば、どこに出しても女で通るんですよ』 人妻のM子さん……、しっとりと女らしい人な のに、ペニスがあって、実は男だなんて……。 彼女はニューハーフ、と呼ばれるような タイプではない、と琴音は感じていた。 ちっとも女を装っていないのだ。 幻夢105 『舞台に上ってヌードになってしまったからには、M子さんには、それなりのことをして もらわねばなりません。それでは、M子さん、スタンバイしてください』 M子嬢は台に 載って腰をかがめる。さきほどのように男がふたり現れて、彼女の両手首を革輪に留めて ゆく。 『ここから先は、私ごときの声はお邪魔以外のなにものでもありませんね。私はしばらく の間、沈黙させていただきます』 マイクの声が消えて静寂が訪れた。 琴音には、何が始まるのか、もうわかっている。 M子嬢は客席と目を合わさない。伏し目がちにゆっくりと腰を下ろしてゆく。彼女のむっ ちりとしたお尻は、台座に据え付けられた張形をめざしている。その張形はローションを 塗られているのか、ヌラヌラと光っている。白い尻丘の狭間に黒い亀頭の先端が隠れてし まうあたりは、琴音の座っている正面の位置からだと、彼女の垂れたペニスの陰になって よく見えない。 M子嬢は、いちど腰を沈めようとして中断し、少し腰を浮かせる。そし て、両手で手すりをつかんで、角度を調整するように腰を蠢かせ、意を決したようにゆっ くりとしゃがみこみ、眉根を寄せて、「んああ……」と喘いだ。 あ、入っちゃってる… …。 M子嬢の肛門孔が太い張形で貫き通されたのは、誰の目にも一目瞭然だ。 琴音は、自分の肛門性器が貫通されてしまったような疑似体験を味わい、思わず両膝をす り合わせた。 ほとんど、和式の便器にしゃがみこむような格好だ。 爪先でバランスをとらなければならない。といってもピンヒールなので、思うように支え られない。だから、彼女はパイプの手すりをしっかりと握っている。革輪の手枷から短い 鎖が伸びてパイプに固定されているが、その鎖の長さだけの自由は利くのだ。 皓い歯を 見せて、「あ、ああ……」と喘ぐ。その声には、男の低い音質は含まれていない。 これって、いったい、何なの……? 彼女のやっていることは、ひとことで言うならアナルオナニーだ。 両手を、手すりのあの位置で拘束されているのはどういう意図なのだろう。 このあと、抵抗できない上体でレイプみたいにアナルセックスを強いられるのだろうか……。 琴音の妄想は勝手にひろがってしまう。 M子って、どんな名前なのだろう……? まゆ子、みわ子……、琴音のイメージからすると派手な名前ではない。その名前を教えら れたら、ああ、そうなんだ、と納得するような魅力的な名前にちがいない。 幻夢106 彼女は爪先と膝を使ってゆっくりと腰を上下させている。 膝は左右に大きく開かれ、彼女の下腹部が客席から丸見えになっている。 そうするほうが自慰しやすい体勢なのか、それとも、客たちに恥部がよく見えるように開 脚しているのか、琴音には判断がつきかねる。 最前列の特等席から眺めていると、彼女 の陽根が充血しはじめて、鎌首をもたげるようにして勃起してきた。 それは、琴音には 、ドキドキする光景だった。 ペニスの海綿組織に血が集まってむくむくと膨脹するときの快感が伝わってくるようだ。 やがてM子嬢の男根はそそり立った。 そこだけ見れば、性欲を持て余しているオスだ。雁首が逞しくて黒光る亀頭、太い胴幹に は青い血管が浮き上がっている。彼女の陰嚢はべろんと垂れているのではなかった。 ちりめん皺の皮袋いっぱいに睾丸が包まれている感じでほとんどたるみがない。 だが、 顔や胸元や脚を眺めると、男を匂わせるものがない。肌の色は生白い白さではなくて、ま ろやかなすべすべ肌の白だ。 あり得ないものを見ている……、と琴音は感じていた。 さ きほどのタケシ嬢の性転換女体は、人工的に造られた痕が濃厚で、畸形美といえるものだ ったが、M子嬢はそうではない。ナチュラルな女体に猛立ペニス……醜悪なフリークス ではないのだ。 琴音は、羨望の眼差しで彼女の肢体を見つめていた。 自分は、あんなに女らしい身体じゃない……、細身で色白ではあるが、あんな女っぽい柔 らかさはない……。 M子嬢のゆっくりとした腰の上下は続いている。硬質ゴムの男根が 彼女の肛門性器内でピストン往復する。……いや、ディルドウは固定されているので、彼 女自らが肛内壁粘膜を擦り上げていることになる。 M子嬢は眉をしかめて美貌を切なげ に歪める。細い描き眉ではなくて、きれいに整えられた自然な眉だ。顔はもちろんメイク しているのだろうけれど、薄化粧で、淡いピンクに塗った口唇がグロスで光らせているよ うに見えて、ひどく扇情的だ。 正直に言うと、人妻という紹介に、琴音はドキッ、と疼 いた。 もちろん男だから公式には婚姻はできない。だけど、好きな人といっしょに住んで、 奥さんになって毎日を過ごしているのだろう。 きっと素敵な若奥さんなんだろうな…… 、そんな想像は、琴音を惑乱させてしまう。 幻夢107 舞台に若い男がひとり、現れた。 その顔には見覚えがある。 先ほどから、舞台に現れては補助作業をしていた裏方従業員風の男だ。 彼はすっかり全裸になって登場したのだ。 腹部に脂肪がつきすぎているきらいはあるが、がっちりとした逞しい体躯をしている。 当然、素っ裸で出現したからには、淫らな媾合が実演されるのはまちがいない……、と 琴音は期待した。 ……そうなのだ。もう、こんないやらしいショーは見たくない、 ではなくて、次は何が始まるのか、と琴音はわくわくしながらペニスを勃立させていた。 琴音の頭に描くシナリオは、若い男はいきなり前に立ちはだかってM子嬢に問答無用の フェラチオをさせる、というものだった。嫌も応もない、鼻先に突きつけられたペニスを おしゃぶりしなければならない……。 しかし、実際には、少しちがう行為が始まった。 M子嬢は頭を後ろに反らし、天井を仰ぎ見る格好になる。 そのM子嬢の顔面を、若い男が跨いだ。 M子嬢は、男の尻朶の間に鼻面を突っ込み、舌を這わせはじめた。 玉袋の垂れ下がる根元から肛門穴のあたりを舐めさせられている……。 舐めるのを強制されているわけではなくて、むしろ、積極的に舌を使っているのだが、 琴音は、舐めさせられているのだ、と思ってしまう。 それはたぶん、彼女の両手が革輪 で繋がれているためだろう。革枷には鎖が付いていて見るからに兇々しい。 M子嬢の腰 の上下動は中断している。 肛穴の奥深くにまで太いディルドウを埋没させたまま、男の尻穴を舐めさせられる屈辱… …、琴音はゾクゾク、と身体に震えが走るのを感じた。 その「震え」の正体はわからな い。 あんなおぞましいことをさせられるなんて……。 男の肛門が汚い、という意味ではない。徹底的に辱められている、と琴音は感じ取って しまうのだ。 幻夢108 舞台が回りはじめた。 観客は、あらゆる角度からM子嬢の痴態を眺めることになる。 男の尻は、いかにも男の尻で、決して見た目はきれいではない。 M子嬢は両手で手すりを握りしめ、上体を後ろに反らせて、懸命になって尻舐めに没頭 している。 男のペニスが勃起してくる。 当然、次に来るのはフェラチオ行為のはずだ。 若い男は体の向きを変えて、M子嬢の前に立った。 眼前には、生身の屹立肉棒が迫っている。 彼女の表情は、琴音には不可解だった。 こんな太いのをおしゃぶりするなんて恥ずかしい……、という羞じらいの色は見られない。 この硬いのをはやくしゃぶらせて……、という風な淫欲がギラついた風情でもない。 今にも泣き出しそう……、いや、そうではない、沈痛な面持ちなのだ。何か深刻な苦悩を 裡にかかえて辛そうな……、琴音にはそのように見える。 けれども、彼女のペニス棒は 反り返ってそそり立ったままだ。亀頭の尿道口からは透明粘汁があふれ出て裏筋に滴り、 血管の浮いた肉胴を濡らしている。 男が腰を突く。 M子嬢は膨れ上がった陽根を口に咥えた。 手指で胴幹を握りしめて口唇と舌を使うようなフェラチオではない。まさに口腔を強犯 されていた……。 両手の自由を奪われているために、彼女には主導権はない。 だが、不自由な口淫奉仕を強いられながらも、彼女は腰を上下しはじめた。 口に肉棒を与えられて、肛内粘膜襞に摩擦快感が欲しくなる……、その淫らな欲望は、 琴音にもよく理解できる。 琴音も、ドレスのなかの熱を帯びた勃起ペニスを持て余して いるのだ。 栗岡に、肛門性器の環管を刺し貫いてもらい、狂ってしまうほど烈しく愛してもらいたい ……。 腰が溶けるほどのアナル性交で、濃密な愛欲の時間を過ごしたい……。 そして、栗岡に強く抱きしめてもらって、肌を密着させて、彼の体温を素肌で感じていたい……。 幻夢109 M子嬢がカチューシャで黒髪を留めている理由が、不意に、琴音にはわかった。 長い髪で顔面が隠れないようにするためなのだ。 舞台では、若い男が、M子嬢の後頭部を抱えて腰を使っている。 惨絶な口唇ファックだ。男のマウスレイプに、M子嬢はされるがままになっている。 太い張形で身体に心棒を通されたように下から貫通されて、両手首は鎖の付いた革輪で結 わえられているのだから抵抗のしようがない。 もう、口唇と舌を使って硬立ペニスを愛 撫するというような光景ではなくなっている。 M子嬢の口唇からはよだれが垂れ、優柔 なあごを伝って滴り落ちて乳房を濡らせて光らせている。たおやかな白い肌はほんのりと 桜色に染まり、今にも湯気の白い煙が立ち上りそうだ。 そうして、やはり、琴音は、彼 女の下腹部を凝視してしまう。 彼女の男根はギンギンにそそり立っている……。 「……あの人、あんなことされてるのに、昂奮してる」 琴音は栗岡の耳元で囁いてみた。 返事がないので、さらに栗岡に体を寄せ、彼の腕を抱え、揺すぶってみた。 「あいつは、口の中に出すつもりらしいぞ」 「え?」 男の腰がひくひくと引き攣れるように小刻みな抜き刺しを繰り返したかと思うと、動きが 止まった。 男が腰を退く。 濃い白濁スペルマがM子嬢の口唇の端からこぼれ落ちる。 よだれと同じ経路をたどって、あごから滴って乳房をトロリと汚す。 男は唾液と精液にまみれた亀頭を彼女の頬に押しつけて摺り上げる。まるで、彼女の頬の 皮膚をタオル代わりにして拭いているみたいだ。 「男とセックスするのが好きなのは、 単なる淫乱だ。男どうしの特殊性はあるにしても、ただの好色にすぎない。しかし、あの コは、そんな淫乱とはちがうぞ」 と、栗岡が琴音の耳元に小声で言った。 どのようにちがうのか……? 琴音には明解な答えはわからない。 けれども、M子さんと称される彼女の体内には魔淫の蟲が棲みついているのはわかる。 琴音は胸の奥で何か得体の知れないものが目覚めてゆくのを感じた。それは心の裡の地殻 変動と言ってもいい。 琴音は、栗岡の腕を抱えた手に力をこめた……。 幻夢110 舞台から男が去ったけれども、M子嬢が主役のショーはまだ終わりではない。 男が射精してから離れてゆき、ひとり残された彼女は、しばらくの間、うつろな表情で宙 空に目線を泳がせていた。 通常の若い男の精液の放出量を考えると、彼女はその大半を 嚥下したようだ。口唇の端からこぼれて乳房に垂れた白粘汁はたいした量ではない。 ……それにしても、と、琴音は彼女を見つめた。 口元に付着したザーメンを手で拭うことさえできない。きれいに塗られていたルージュは ぼやけて拡散してしまい、口唇のまわりを薄桃色に染めてしまっている。 男の精液を飲み下した経験を持つ琴音の感想を言うなら、口中に残るネバネバ感はあまり 気持ちいいものではない。好きな人の精液なら不快感はほとんどないが、見ず知らずの男 の精液だとしたら……。 M子嬢が再び動きはじめた。 腰を上下させて、切なそうに顔をしかめる。 両手で手すりを握りしめて、肛穴のより奥深くまでディルドウを侵犯させようとしている。 彼女は爪をそんなに長く伸ばしていない。淡いピンクにマニキュアされたかわいい爪だ。 「あのコのチン×は今にも暴発してしまいそうだな」 「……うん」 「しかし。ケツの穴を舐めて、尺八するだけで何もしてくれん」 「……うん」 たとえば、男が少し身体を屈めて手を伸ばせば、彼女の乳房を揉みしだいてあげることも できたはずだ。勃起ペニスを手指で擦りあげて、彼女を悦ばせてあげることもできたはず だ。 だけど、舞台に上がった男は、一切そういうことはせずに、牡の欲望を彼女の口の 中にぶちまけて去っていった。 「生殺しだな、自分で手コキしたくてもできない」 「……うん、でも……」 ペニスに直接に刺激を与えてもらえなくても射精はできるのだ。 琴音は体験から知っている。強烈な絶頂感を伴った爆発ではないけれど、ツーン、と響い て、トロッ、と精液が漏れてしまう。アナル快感だけで射精には到達できる……、ただし、 アナルへの極烈な快感でなければならないけれど……。 幻夢111 舞台にふたりめの男が現れた。 さっきの男ほどがっしりした体格ではないが、筋肉質で浅黒い肌をしている。さっさと同 じように全裸で登場し、すでにペニスは勃立して、自らの手でしごきあげている。 彼の陽根は黒々として獰猛に見える。特別に太いようには見えないが、亀頭は黒っぽいし、 胴幹の皮膚の色も濃い。見るからに硬くて持久力がありそうな剛槍だ。 あんなの入れら れて、責め続けられたりしたら、たまんないだろうな……。 その思いはM子嬢も同様らしく、精悍な長棹をもの欲しげに見つめている。 しとやかな若妻風の顔立ちに猥欲の風情が宿ると妖しくも淫媚だ。 ……だが、やはり、彼女の願いは叶えられない。 男は彼女の顔面を跨ぎ、彼女は尻舐め奉仕するしかない。 琴音は、自分で肛門周辺の体毛を処理している。女性用安全剃刀とか耳穴の毛を刈り取る 器具とかを買い込んで、肛穴のあたりから陰嚢までツルツルにきれいにしている。それは 栗岡の愛妾になる身だしなみでもあるのだが、そこにもじゃもじゃと毛が生えていると不 潔感があって嫌なのだ。 しかし、あの男は毛深い……というより、剛毛が密生している タイプだ。 尻穴のあたりには太い縮れ毛が生えていて、汗や垢や糞便の匂いが充満しているにちがい ない……、 そんな想像をすると吐き気を催してくる。 ……肛門穴を舐めさせられるというのは、いろんな意味で屈辱なのだ。 M子嬢は玉舐めに移っている。飢えたように玉袋をねぶりまわしている。彼女の亀頭尿道 口からは、まるでよだれを垂らしているようにカウパー腺液があふれスポットライトに反 射して光っている。 男が体の位置を変えて彼女の前に立ちはだかり、フェラチオさせは じめた。 男は腕を組んでふんぞりかえるようにして立っている。両方の手首を革輪で拘禁されてい るM子嬢は、首と顔の動きだけで口淫作業をしている。 上目使いに媚びた眼差しを男に 向けてみたり、頬張ったペニスを口から出して淫語を口走ってみたり、などはまったくし ない。舌をねっとりと絡みつかせて舐め上げたり、口唇を搾りながら顔の往復運動を加え てペニス棒を口唇粘膜で摩擦したりと、卑猥というより、鬼気迫るようなフェラチオなの だ。 先ほどのタケシ嬢のショーがコメディだとすれば、このM子嬢のショーは迫真シリ アスだ。 まるで虜われの女囚人が男の看守に性虐待を受けているようにも見える。抵抗 は許されずに、男の要求に応じてセックス奴隷として弄ばれる身分……。 幻夢112 男は陰茎を握りしめて、自らの手で擦り上げている。 M子嬢は口を開き、舌を伸ばして舌先で雁裏をチロチロと舐め摺りながら待ち受けている。 そして、ついに、男の淫太棒の先端が爆烈した。 ドバッ、と発射された白粘のオス汁はM子嬢の口中にあふれ、わずかな間を置いた第2射 からは、男は肉砲の角度を変える。 ドピュッ、ドピュッ、と亀頭から噴射された汚濁精 液はM子嬢の顔に飛散する。目を閉じて、びくっ、と美貌をふるわせたものの、彼女は顔 面ブッカケを真正面から受けとめた。 「便所だな」 と、栗岡がぽつりと言ったので、琴音は「え?」と聞き返した。 「射精するだけだ。しょんべんじゃなくてザーメンになっただけだ」 「…………」 そっか、そういうとらえ方があるんだ。 当然ながら、琴音は男の猥談がどういうものかは知っている。 誰でもやらせてくれる女を『公衆便所』と読んで陰で笑いものにするのを知っている。 けれども、舞台のM子嬢は、性欲処理の肉便器だ。そこに感情の交流はなくて、冷酷で突 き放した印象がある。 男のほうが、彼女を人間扱いしていないというか……。 男は舞台から退場し、顔じゅう精液まみれのM子嬢に観客の視線が集まる。 小鼻の横から口唇に向かって、ぬるっ、と白い粘汁がひと筋流れ、顎を伝って胸元に流れ 落ちてゆく。彼女は、ふたりの男のザーメンの濃厚な匂いにむせているにちがいない。 琴音が彼女の下腹部に目をやると、ペニスはそそり立ったままだ。 ……たぶん、いちだんと強烈な昂奮に酔っているはずだ。 快楽……、……淫楽、何か、もっとすごいものだ……。 琴音は考えたくなかった。できれば、目を背けていたい。そうしないと、甘い毒のたゆたう底なし沼を覗くことになりそうだから……。 幻夢113 続いて舞台に上ってきたのは、ダークスーツの中年男だ。 それまで放心したような目つきだったM子嬢の表情が、ふと和む。笑顔を見せたわけでは ないが、張りつめていたものが解けて全身に安堵がひろがるのがわかる。 「あのコの飼い主だな」 と、栗岡が言った。それは、琴音に説明する口調ではなくて、独り言のように聞こえた。 『飼い主』という言い方は奇妙だが、考えてみれば、琴音は栗岡に飼われているような ものだ。 そのダークスーツの男は、見映えはぜんぜん素敵な中年ではない。 少し長めの もじゃもじゃ髪に白いものが混じり、黒縁の眼鏡をかけ、ずんぐりとした体つきだ。 あまり客の来ないスーパーの現場主任、赤字続きの小さな会社の経理屋さん…… 、いつも上司に叱られてばかりいる、うだつの上がらない男、琴音はそんな想像をしてし まう。 その男は眼鏡の奥から温かい眼差しでM子嬢を見つめ、彼女のほうも、どこか、 うれしげな目になる。 そっか……。若奥さまなんて紹介されてたけど、この男の人の愛 人なんだ。ふたりの視線の交わし具合、ふたりの間に漂う空気から、ふたりが強い絆で結 ばれているのを、琴音は敏感に感じ取ることができる。 琴音は、羨ましい、というより、 あ、いいなあ……、と思った。 男は、おもむろにズボンのジッパーを下ろして、勃立ペニスを露出させた。 M子嬢は、首を伸ばして肉棒を咥える。 舌で舐めたりしない。ただ、頬張るだけだ。 そして、彼女はゆっくりと腰の上下動を開始する。 男は腕組みしたりしていない。両手をだらりと垂らしたままで、陽根を咥えた彼女を愛お しそうに眺めている。 舞台の上で、大勢の観客に見られているけれども、そこにはふた りだけの濃密な交流が存在しているように思える……。 大好きな人のペニスをお口にも らってディルドウ・オナニーか……。 それはそれで昂奮すると思うけど……。 琴音は、舞台のショーの成り行きに困惑と不可解を感じていた。 幻夢114 M子嬢の握りしめた手すりがギシギシと軋みだす。 彼女の肛壁粘膜摩擦自慰はクライマックスを迎えようとしていた。 琴音のペニスも痛いほどに勃起している。 彼女の『飼い主』の中年男のほうは陰茎を咥えさせているだけで、何らかの愛撫をしてや るわけではない。 M子嬢は、口腔でいとしい肉棒を味わいながら、ひたすらディルド ウ・オナニーに没頭している。 これって、いったい何……? M子嬢の抽送が烈しさを増す。 口は肉塊で塞がれているので喘ぎ声を洩らすことができない。顔面は苦悶しているように 歪んで、凄絶だ。 眉の間に深い皺が刻まれる。 そのとき、M子嬢の亀頭先端から、ドピュッ、と白粘液が迸った。 飛沫は中年男のズボンに飛び散って汚す。だが、男は一向に気にはしていない。 彼女は 腰のピストン上下を止めない。勢いは失ったものの、ドク、ドク、……と精液を 噴き出している。 琴音は、胸がキュッ、と締めつけられるような感激に襲われていた。 その理由はとても分析できそうにない。ともかく、感動の瞬間だった。 琴音の胸の奥の何かに触れて共鳴した……そういうことだ。 舞台が溶暗する。 真っ暗ではないので、舞台で何が行われているのか見てとれる。 男は彼女の手枷を外してやり、手を取って立ち上がらせた。 スーツのジャケットを脱いで彼女に羽織らせてやり、肩を抱きかかえて舞台から退場して ゆく……。 「見事に噴き上げたな」 「……うん」 「ケツの穴の刺激だけで、あれだけ勢い良く出せるんだな」 「…………」 できないことはない……、と琴音は思う。 条件が整って雷撃的な快感に見舞われてエクスタシーに達するのは可能だ……。 幻夢115 舞台に少年か゛ひとり、連れ出された。 まさに、引きずり出された、という印象だ。 後ろ手に手錠をかけられ、革の首輪を嵌められている。その首輪から伸びた鎖を持った持 った男が引っ張ってきたのだ。 男は巨体で、濃紺のスーツに身を包み、少年は全裸で華 奢な体格だ。 今度は、何……? 少年は怯えきっている。 舞台も客席もただならぬ雰囲気に包まれる。 その気配が琴音には恐かった。だから、琴音は栗岡の腕にからませた手に力をこめた。 『さて、皆さま、本日の超目玉商品であります。この子は18になったばかり、名前はヒ ロシくん、チン×は、ごらんのとおり、まだ包茎、そして、まだ童貞……のはずです』 さっきの司会役の声が響き渡る。 うそでしょ……? 18なんかになってないわ。12か13ぐらいに見えるけど……。 『世の中にはいろいろな趣味を持つ人々がいます。趣味というのは、その人の極めて個人 的な嗜好でありまして、他人がとやかく言うべきものではありません。人さまに迷惑をか けないようにすれば、どんな趣味を持とうと人それぞれ……』 「あのコ、18だなんて、信じられない……」 琴音は栗岡の耳元に囁いてみた。 「18才未満は売買禁止だからな」 「え……?」 「酒や煙草みたいに年齢制限があるのさ。18未満の子供を売ったり飼ったりしちゃいかんのだ」 琴音には、栗岡が何を言っているのかわからなかった。 舞台には鎖に繋がれ、怯えた少年が立っている。司会の個人的趣味の講釈が続いている。 『……稚児を愛でる趣味というのは古来から存在するのです。わが国だけではありませ んよ。美少年のお尻の魅力に悶々となる中年男……、そういう映画もありましたね。 魔羅がペニスに死す……、なんちゃって、ははは……。いわゆる衆道ですね、美少年の青 いお尻に突っ込んでみたい、あなたの極太チン×の威力で若いオスのしなやかな肉体を悶 えさせてみたい、そういう願望ですね。ただし、言っときますが、こういう行為は、あま り公にはできません。世間からは変態性倒錯者として後ろ指をさされ、あなたは社会的地 位を失いかねません。悪くすれば逮捕されて塀の中で生活しなければならなくなる。 そこで、私どもがひそかに商品を用意しました。ヤクだってチャカだって、一般の人には 目の届かないところでちゃんと買えるルートがあるのです。だから、少年をひとり、売り ます。買ってくれる方はいませんか? となるわけですね』 幻夢116 ようやく、琴音にも、舞台で何が行われようとしているのか、おぼろげながらにわかり かけてきた。 あの少年は商品で、人身売買が行われようとしているのだ。 本来なら、背筋が凍りつくような恐怖感を覚えてもいいはずなのに、琴音にはそんな実感 はなかった。琴音の理解をはるかに超えてしまっているので現実感がない……。 「18才以上というのは、ここの連中のジョークなんだよ。本当は12才かもしれん。 しかし、18才ですから、人身売買法の年齢をクリアしてます、決して違法ではありませ ん、安心してお買い上げください……、そういうジョークなんだ。悪趣味ではあるが」 「…………」 「そんな悪趣味を楽しんでいるんだ。琴音には楽しめないと思うが」 「あの子、ほんとに売られてしまうの?」 「そうだ」 「買ってどうするの?」 「さあ?」 「あの子って、御両親は?」 「誘拐してきたのかもしれないし、家出坊主をたぶらかしてきたのかもしれん。俺にはわ からんよ、ここの連中のすることは世間の常識からかけ離れてるから」 「…………」 12〜13才に見える少年は、公称18才として売られてゆく……。 琴音にはやはり信じられない。人身売買ゲームをしているだけで、実際の売り買いではな いのかもしれない。 けれども、舞台の少年の表情には怯えとおののきが貼りついたまま だ。 『さてさて、本日はトランスセクシュアルの日でございますから、御来場の皆さまは、言 うまでもなくそっち方面の御趣味でございますね。ここに出品しましたヒロシくんを可愛 い少女に変えてしまいたい、と考えているあなた、決して夢想に終わらせてはいけません よ……』 琴音の目の前には非現実な光景がある。 素っ裸で両手を拘束された少年が奴隷市場で売られてゆくシーンだ。 ……そもそも、この地下にやってきたときから、琴音は非日常の世界を彷徨っている。 最初の美麗ニューハーフのフィストファックは、まだ理解できる。あまりにも過激でおぞ ましいが、見世物としてそんなショーがあってもおかしくない。 次の性転換したタケシ 嬢も、まだ許容範囲だ。性転換女性器を間近で目にした衝撃はあったけれども、 手術で男から女に肉体改造できるのは知っている。 琴音が、よくわからなくなってきた のはM子嬢からだ。 そして、人身売買……、ここって、いったい何なの……? 幻夢117 『……さきほども御紹介しましたが、この子の名前はヒロシくんです。あなたのお好みで ヒロ子ちゃんとかチヒロちゃんとかに変えていただいてけっこうなのですよ。少女にふさ わしい瑞々しいおっぱいのふくらみをつくってやって、それから髪の毛ももっと伸ばして 、フリフリのフリルのついたピンクのドレスなんか着せて、裾をまくると、そこには、に ょきっ、と立派なチン×が……なあんて楽しみ方ができるわけですね。当然ながら、お尻 のほうはまだ処女です。誰にも使わせておりません。それじゃ、ヒロシくんのお尻、皆さ んのほうに』 指示を受けた大男は少年の弱細の肩をわしづかみにして、くるりと半回転させた。 『皆さま、いかがですか? このぐらいの年齢だと少女のお尻も少年のお尻もあまり変わ らないですねえ。脚にも濃い体毛はまだ生えてきていません。女の身体に改造するなら若 いうちのほうがいいですねえ』 少年の肢体には、若さというより、幼さとか細さが感じ られる。 こんな幼さの残る肉体に性的欲望を覚える男たち……、さすがに、琴音は異常だと思って しまう。たけど、考えてみれば、自分だって、男に抱いてもらうのが嬉しい性嗜好なのだ。 何が異常で何が正常かなんて、自分には判断できる資格なんかない……。 『ヒロシくんはアナル処女ですが、購入した方がご自分で開発してお楽しみいただくのが 妥当かと思います。ヒロシくんがあなたのチン×をお尻に突き刺されて痛がって泣きわめ くのを楽しむ、男に犯されるなんて嫌だ、と涙するヒロシくんを虐めて楽しむ……、しか しですね、そういった手間をはぶいてさしあげることもできます。通常の肛門性交が可能 なまで訓練してからお引き渡しするようにできます。その訓練は私どものササービスとい うことで……』 「ねえ、あの子って、ノーマルなの?」 「何?」 「ほら、ホモっ気が芽生えてるとか、そんなの?」 「さあ? 俺にはわからんよ」 「あの子ぐらいの年でも、もう自覚している子もいると思うし……」 「ホモっ気があるならあるで、そういう紹介の仕方をするはずだ。ここは、あくまでもお 客さん至上のスタンスだからな」 「そう……、だったら、あの子、かわいそう……」 「琴音は優しいな」 「…………」 「かわいそうを承知で辛い目にあわせて楽しむんだよ。残酷であればあるほど楽しみのボ ルテージが上がる。そういった奴は世の中にはいくらでもいる。性的虐待が大好きな紳士 だ。相手が泣き叫んでいるのを見てチン×をおっ立てる変態野郎だ」 あなたはちがうわね……、あたしを大事にしてくれるもん……、はじめはもっとこわい人 かと思ってたけど……。 genmu5.txtに続く