『アニマの贄』 作: 玲 23.『昼食』 土曜日。昼。1時。 逝き疲れるなんてことがあるとは、初めて知った。玉袋の付け根あたりがジンジン熱く疼いている。精を出せな いエクスタシーは緩く低く連続してきりがない。ペニスが痛痒く腫れあがり、血でも噴きそうに脈動している。 海綿体が過敏になりすぎて、低周波の刺激がムズ苦しさにしか感じられなくなり、ようやくエンドレス絶頂周期 から外れることができた。 意識を切り替えて頭の中をエロで満たせば、まだ逝けるけど、体力が心配だった。逝かないでいれば、低周波の 刺激が苦痛にしかならなくなるけど、苦痛なら耐えることができる。僕は尻振りダンスは続けながら、最低レベ ルに落ちた身体の酸素飽和度を上げるための、ゆったりした呼吸リズムに集中した。股間の呼吸口からバターの いい香りが鼻に届く。キッチンで何かを炒めているような音が聞こえる。 ピロリロという電子音は何の器機だったろう。股間の苦痛から意識を逸らすために、どんなつまらないことでも いいから頭を使う必要があった。3回尻を振ったところで思い出した。炊飯器だ。男は本格的にご飯まで炊いて いる。他人の家で他人のキッチンで他人の食材で。不法侵入者たる男の、堂々たる居直り具合が面白い。 自分の中に閉じ込められているような状況では、考えるといっても堂々巡りになりやすい。僕の唯一残された外 部センサーたる耳を最大限使って、気を紛らわすための外部刺激を取り入れなくては。皿を出して炒め物をフラ イパンから移しているだろう音。フライパンをざっと流し、たわしで油を取ってから洗っている。たわしを使う なんて、大雑把な男ではない証拠だ。炒め物を載せた皿を持ってダイニングテーブルに歩き出した男の視界に僕 の姿が映ったのだろう、男がテーブルに皿をおいた後、股間の低周波が停止した。 「ずっと尻振りダンスしてたのか。すまんすまん。料理にしてる間、見えなかった。休んでいいぞ、ポチ。お座 り。伏せ」 へとへとだったからありがたく、盲導犬並みの従順さで、僕は床に伏せた。 「もうちょっと待ってろ。おまえの餌も作ってやるからな」 餌。餌かぁ。犬気分が満喫できる。目が塞がれて丸1日。耳は犬猫並みに鋭敏になった。男の行動がかすかな音 から推測できる。炊飯器の蓋を開けた音。しゃもじで掻き回している音。茶碗によそう音。次の音は鈍い感じだ。 木の椀にオタマが当たる音だろうと見当をつける。とすればみそ汁まで作ったんだな。台所のシンクの上の棚を 開ける音。重そうな何かを取り出している音。何かを濯ぐ音。冷蔵庫が開く音。 「ポチの昼食は、卵と肉と野菜屑と牛乳少々、それに栄養ゼリーのミックスだ。味は保証の限りじゃないが、栄 養満点だろう」 ボチャ、ボトッと次々材料が落とされる音。最後にドボドボと液体が流し込まれる音が聞こえる。そして男が取 り出した器械の正体がその作動音でわかる。ジューサーミキサーだ。なるほど、流動食になる。 「うーむ。味見する度胸はないが、臭いも相当だな。味を感じられないポチは、ある意味幸せかもしれない」 うえー。いったいどんな物ができあがったんだろう。材料は真っ当だと思うけど・・・もしかして肉は生肉なの かも。椀や何かをダイニングテーブルまで運んだ男が、僕の方へ近づいてきた。膝の裏と腹に男の手が差し延べ られ、身体が浮いたと思った瞬間くるりとひっくり返された。そのまま男の腕の中に収まり、運ばれる。これは、 あのお姫様だっこという形じゃないか。僕の女性化願望がきゅうんと痺れた。 僕の体格が小振りとはいえ、それでも人形外皮やゴム衣装の重さが加味され、60キロ近くはあるはず。男は重 そうな素振りも見せずに僕を運び、そして僕を尻から降ろした。降ろされた時のわずかな距離と尻の感触から、 床ではなくテーブルの上だとわかる。上体を後ろに倒され、背と後頭部がテーブル面に着く。テーブルの大きさ を考えたら、頭がぎりぎりテーブルの端に乗っている位置だろう。腰の下に手が添えられ、持ち上げられて、腰 の下にクッションが押し込まれた。 男の手際がよすぎて、僕はまるでオムツを替えられる赤ん坊のようになされるがままだった。恥じらう暇すらな く、ブルマとパンティが脱がされ、でも、おかげで呼吸がずいぶん楽になる。足先を立てるようにしてM字に開 脚され、腕は身体の脇に揃えられた。僕の股間の向こうに男が座る気配がして、チュチュの襞の折れ曲がりが直 された。男からみれば、僕はチュチュの花びらの中心から下半身のみを覗かせ、疑似股間を丸晒しにされている わけだ。 「なかなかいい見物だな。その股間の穴から匂いだけでも楽しむといい」 全頭マスクがまた鼻まで捲り上げられ、口に再びチューブが挿管された。いましがたのフェラチオで、太いペニ スを収めていた喉は充分に開いて、何の抵抗もなくチューブがするりと滑り込む。チューブの先端に浣腸器が捩 じ込まれていたらしい。最初にチューブ内の空気がぷすすと僕の胃の中へと噴き出し、それに続いてどろっと特 製の流動食が流れ込んできた。味も匂いもないのが幸いだった。機械的に胃が膨らんでいく。あっという間に胃 がぱんぱんに張り詰め、僕の食事、いや餌の時間は終わった。 栓されたチューブが喉の奥に格納され、男が浣腸器をキッチンに持っていく。僕の股間の前に座り直した男が食 事を始める。僕はテーブルを彩る単なる花瓶にされてしまった。肉野菜炒めなのだろう。オイスターソースの香 りがいい。箸休め代わりに、僕は股間をイタズラされた。僕の膣口に擬した呼吸口に箸先が刺さる。息が詰まっ た。クリトリスが弄くられた時は、男がそのスイッチ機能を知っているのかどうかわからず、もし知らずに呼吸 口閉鎖してしまわないか冷や冷やさせられる。 ペニスが収まっている下腹や、睾丸が隠れている陰唇部に箸先が深々とめり込んだりもした。僕の呼吸の変化を 楽しんでいたのだろう。男は急がず食事を楽しみ、僕は僕で男のイタズラを楽しんでいた。食事が終わり、男が 皿を下げて洗い物をしている間、僕はテーブルの上に横たわって自分の中に意識を向けていた。今自分の胃の中 で、食事と男の精液がゆっくりと混ぜ合わされている。そう思うと、何だか自分が溶け出していくような、変容 していくような感覚がじんわりと拡がる。 ギシッと股間の向こうで椅子が軋み、カチャンと僕の脚の間に食器が置かれる。ふた呼吸で、香ばしい珈琲の匂 いが鼻に届いた。ああ、いい香りだ。人形外皮を縦断する長い呼吸管を通ると、濃い匂いしか感じられなくなる。 こんな風に呼吸口の傍に匂いの元がないとほとんど臭いを嗅ぐことができない。そのため、人形外皮の中での暮 らしは、ほとんど無味無臭の透明なものとなり、たまに届く臭いは、香りであれ悪臭であれ鮮烈に生々しく感じ られる。 「ふう。何だなあ、天気は上々、気怠い土曜の昼下がり。腹もくちいし、旨い珈琲もある。いつでもどこでもや りたくなったらチンポをぶっ込める尻マンが目の前にあって、その具合も病みつきになるほどの名器ときてる。 何でもいうこときいてくれるしなあ。ここは天国だな」 男の手が僕の股間を優しく撫で回す。くすぐったかったけど、妙に気持ちよかった。そのまま男は黙り込み、無 言で僕を撫でていた。時折珈琲を啜る音が聞こえ、静かに時間が流れていく。確かに気怠い土曜の昼下がりだっ た。アンニュイだけど決して退屈じゃない、不思議と満ち足りた時間。こもまま永遠にこうしていたいような気 がした。でも、永遠に続くものなどありはしない。飲み干された珈琲カップがソーサーに置かれる音が、モラト リアムな時間の終了を告げる合図となった。 僕の尻尾がぐっと握られる。ぐりっと捩じられ、力任せに引き抜かれた。内臓が一緒に持って行かれそうな感じ がして喘いでしまう。肛門が開きっぱなしにならないように、力を込める。ぎゅっぎゅっと締め上げると、身体 の内部を伝ってねちゃねちゃした音が聞こえる。身体の中が、空虚で物足りない感じがした。尻の穴に何かを入 れているのがあたりまえな尻マゾになってしまったのだな、と思う。物悲しく思うべきなんだろうけど、面白が る気持ちの方が強かった。 「精液は吸収されたのかな。もうあまり臭いがしないよ。代わりにウンコの臭いがする。浣腸しなくちゃな。よ し、起きろ。テーブルから降りたら、四つん這いだ」 乱暴に尻尾が刺し戻された。あふっと満足の吐息が漏れる。浣腸かぁ。男には浣腸器の知識はあるようだから、 浣腸の実経験もありそうだ。昨日僕が自分で浣腸する姿を見ていて、僕の限界量とかもわかるだろう。そんなこ とを考えながら身を起こし、慎重に身体を捻って脚を床に降ろした。膝を曲げないように注意して、手を突く。 首輪から鎖は外されていたけど、その鎖を取りつけるリングに直接男の指が引っかけられ引かれた。 スペシャルルームに行くのかと思っていたら、その前を素通りして直接バスルームに入る。思い込んでいたので、 頭の中の地図を切り替えるのが間に合わず、バスルーム前の小物棚に脚をぶつけて転倒しそうになった。バスル ーム前でいったん待たされる。衣装を脱がされるのかと思っていたら、そうではなく、ガサガサと袋を拡げる音 がして、男が何やら準備を始めた。 脚を上げるようにいわれ片足を上げると、拡げた袋の口が脚に被された。脚を包む気なのかと思ったら、袋の底 に大きな穴があり、そこから足が出てしまう。もう一方の足も同じ穴に通すと、袋が引き上げられた。穴から絞 り出されるように僕の尻が半分ほど出てしまう。何だろう。チュチュの拡がりを包んで袋の口が脇の下まで届く。 ガサガサした触感に僕の胴体をすっぽり包むほどの大きさ・・・これって、ゴミ袋じゃないだろうか。それ以外 に考えられなかった。 でも、僕は普段、バスルーム前にゴミ袋など置いていない。ということは、男がわざわざ用意したというわけだ。 いつの間に・・・。食事前か食後に男がキッチンに立った時。もしくはもっと前、氷風呂の時か。ビーッという 音がして身体に何かが巻きつけられた。脇の下から胸上を通り、ぐるぐる何周もして尻の上で止まった。ビニー ルテープだと思う。ゴミ袋が身体に固定される。 なるほど。浣腸による衣装の汚れや濡れを防ぐためだろう。今着ているコルセットは硬質ゴム製だけど、チュチ ュとしてのペプラム部はレース生地だ。汚れた時の面倒さを思い、男の気づかいに感謝していると、再び脚を上 げるようにいわれ、今度は足先に小振りなビニール袋が被せられる。それもビニールテープでぐるぐる巻きにさ れた。長い方のトゥブーツはゴム製だったけど、今履いている丈の短い方は革製だからだ。革に糞便が染み込む と、なかなか臭いが取れない。これも感謝しているうちに、両足先がビニール袋で包まれ、最後に首輪が外され た。トゥブーツも首輪のように、ビニールで包むより外した方が早いと思うけど、男は爪先立ちにこだわりがあ るのだろう。 背中を優しく押され、バスルームに入る。壁に手を突いて立ち上がるようにいわれた。ここで浣腸するとしたら ・・・イルリガードルをバスルームに持ってきてあるのだろうか。天井から吊すことはできないから、スタンド ごと。だったらスペシャルルームでした方が面倒がないだろうに。背後で、かちゃかちゃきゅっきゅっ、と何か を捩じる音がする。何だろう。 ジャババッと水が床を叩く音。バスタブの蛇口を開けたのだろうか。しばらく間があって、ぐいっと尻尾が引き 抜かれた。じゅぽっと尻の穴が間抜けな音を立てる。と、ジャバジャバとぬるい水流が肛門に当たり、疑問を抱 く暇もなく、小振りな硬い物が肛門に押しつけられた。肛門と筒先に挟まれた水流がじゅわわわっと肛門で弾け、 その勢いで肛門がこじ開けられてしまい、大部分は僕の中に入ってくる。 シャワーホースだと閃いた。バスルームで温湯の出せるものは、バスタブの蛇口かシャワーだけ。僕の尻まで届 くホース、となればシャワーしかない。ノズル部を外され、管だけにされたシャワーホースだ。わかったからっ て、水流が弱まるわけじゃないけど、得体の知れない物のままにしておくよりは不安感が減る。パニックを起こ さず、受け入れる気構えが作れる。 勢いが強い。イルリガードルの比じゃない。必死で肛門を締めても、かなりな量が体内に入ってくる。ぐりゅぐ りゅと腹が鳴り、直腸がじわっと膨らんでいく。ビニールホースのはずなのに、先端は硬い金属の感触がある。 その先端が、肛門の襞を引っ掻いて、さらに強く肛門に押しつけられた。まさか男は、このホースを僕の中に入 れてしまうつもりなのだろうか。怖かった。こんな勢いの水流を一気に体内に流し込まれては、腸が破裂するか もしれない。 先端が菊座の襞にめり込んでしまった。穴があれば、圧力はその最も弱い部分に集中する。つまり、僕の体内へ。 シャワーから噴き出す水流のすべてが、一気に僕の中へ流れ込んできた。一瞬で直腸が膨らみ、その圧力は必然 的にさらに奥へと押し寄せる。大腸が出口に近い部分からビキビキと拡げられていく。重苦しい内臓痛が生じた。 腹が内側から押し上げられる。コルセットの下端までのわずかな部分が、メリメリと膨張した。 声なき声を上げて口を開いた時、わずかに肛門括約筋が弛み、ずるずるっとホースが身体の中に入り込んでしま った。膨らみきった直腸の中を何の抵抗もなく進み、結腸に突き当たって止まる。大腸へ流れ込む水流が一気に 増した。たまったものじゃない。大腸はソーセージの皮のように一瞬でぱんぱんになった。大腸を限界まで膨ら ませた水圧が、激しい痛みを生じさせ、僕は立ったまま激しく震えた。 24.『洗腸』 土曜日。昼。2時。 破裂するう。パニックに陥りかけた瞬間、圧力が小腸に抜けていったんは楽になった。でもそれは、小腸まで膨 れ上がるという、いうにいわれぬ苦痛の始まりというだけに過ぎなかった。イルリガードルによる浣腸は、流量 調節がしてあるから、ここまで激しい痛みは生じない。シャワー浣腸は、浣腸などという生やさしいものじゃな かった。膨腸とでもいえばいいのだろうか。 「よく我慢してるなあ。腹がぱんぱんだろう。我慢しきれなくなったら、そのまま出していいんだぞ。そうしな いと腸が破裂してしまうぞ」 そのまま出していい。ということは男は温湯の注入を止める気はないのだろうか。腹のあちこちで、今にも裂け る寸前といった痛みが弾ける。恥ずかしいとか、どうしようとか考えている余裕はなかった。全力で肛門を開く。 ドジャバババッ、とまず直腸内の湯が噴き出し、必死でいきむと大腸の湯もドバッと溢れ出した。なのに、男は 突っ込んだホースを抜こうとはせず、温湯の注入を止めようともしない。 一瞬でも肛門を締めると再び腸内圧力が高まり、身悶えしたくなるほどの苦しみが生じるので、僕は肛門を締め ることができなくなった。いきまないでいても、結腸の所でどんどん噴き出す温湯が、肛門から噴水となってジ ャバジャバと流れ落ち、いきむと大腸から押し出された湯が、ドババッと激しく噴き出る。ときおり肛門を擦過 して柔らかな塊が飛び出していく。僕の腸内にあった消化物だろう。 腹筋を引き攣らせて、腸内の温湯をせっせと押し出し、腹内の苦しさはかなり減じた。でも、肛門を開きっぱな しにしていても、シャワーホースから噴き出す流れの一部は下に落ちず、大腸の中へと入り込んでくる。少しず つ膨らんでくる腸の圧力を感じるたび、僕は定期的にいきまなければならなかった。いったいいつまで、こんな 情けない格好を晒していなければならないのだろう、と思い始めた頃だった。 「ふうむ。まだ、ときどき固形物が出てくるなあ。意外と奥まできれいさっぱり洗えないもんだな」 男はそんなことをいうと、僕に突き込んでいるホースに何かし始めた。開きっぱなしの肛門に、たわむホースが パタパタと当たる。しばらくして、僕の胴体に何か紐のようなものが巻きつけられた。きゅっと引っ張られると、 ホースが結腸に押しつけられ、チクリとした痛みが生じる。腰で紐が結ばれた。ホースを身体に固定されている のだ。その後、ホースが軽く引かれて、抜け落ちないか試される。 「よしと。抜けないな。腸内が完全にキレイになるには時間がかかりそうだから、当分そうしてろ。食材もなく なってきたし、煙草も買いたいから、俺は買い出しに行ってくるよ。カードキーと現金少々借りていくぞ。まさ かなあ、こんなに長居することになるなんて思ってもいなかったからな。せっかくムショで否応なく禁酒禁煙に 成功したんだが。出所しちまうと、元の木阿弥ってな」 そう言い置いて、男はバスルームを出て行ってしまった。えー、置いてかないでよ。そういいたかったけど、ど うにもならない。またしても僕は、見てももらえずに独り虚しく苦しまなければならなくなった。まるで生きた 噴水のように尻からドボドボと湯水を噴射しながら、壁にすがりつくように爪先立ちしている。膝がカクカクし て、座り込んでしまいたくなる。でも、下手に座り込んでホースが捻れ、腸を傷つけたり、排水ができなくなっ たりしたらと思うと、怖くてへたり込むこともできなかった。 ジョボジョボ。ジョボジョボ。ジョボジョボ。僕は闇の中で、自分の尻の穴が立てる情けない音だけを聞いてい た。肛門を自分の意志でずっと開けっぱなしにしたことなどなかった。しかも常に水流に擦過されながら。つい、 力を込めてぎゅっと締めたくなる。尻から直腸全体がムズムズしている。居ても立ってもいられない状態とは、 こういうことをいうのだろう。その欲求が極限に達し、胴震いと共に僕は力いっぱい肛門を締めつけていた。 堰き止められた水流が逆流し、まるで腸全体を無数の手で押し広げられるかのような、圧迫感が生じる。わずか に萎んでいた下腹が、ぼこんと迫り出すのがわかる。肛門を締めつける満足が先か、膨張の限界が先か。すでに 相当量が注水されている腹の圧力が勝った。肛門が爆発したかのように温湯が噴出した。僕は壁を掻き毟りなが らガクガクと震えた。激しい水流に乗っていくつかの固形物が腸の奥から運び出され、撃ち出されていく。腸の 奥までキレイにするには、この方が効果的だろうけど、身体への負荷はかなりきつい。 僕は肛門を締め、腹一杯に湯を溜めては、爆発的に噴出させるという行為を繰り返した。虐げられた腸が重苦し く痛むけど、何度か繰り返しているうちにコツがわかってくる。腸が破裂する怖れもなくなり、この強烈な腸洗 いを楽しむ余裕が出てきた。膨腸感は苦しいけど、腸を流れる水流自体は心地よいといえる刺激だった。注意し なくてはいけないことは、腸の奥、特に小腸にまで流れ込んだ湯は、どんなに力んでもすぐには流れ出さないと いうこと。全部出したつもりでも、奥にかなりな量が残っていて、それを忘れて肛門を締めてしまうと、少しず つ少しずつ小腸が膨らんで、気がつけば破裂なんてことになりかねない。もう出ないと思えても、しばらくする とドッと出てくる、ということを肝に銘じておく必要があった。 ぎゅうう。肛門を締める。限界まで我慢して、ドバババババババババ。それを十数回繰り返したあたりだろうか、 ぞわわっと全身が鳥肌立つような感覚と共に、強いいきみが生じた。横隔膜が勝手にねじくれて、腸全体がうね くったような感じ。肛門が内側から捲れた腸の襞を吐き出し、肉色の菊の花が咲いただろうと思う。止むことな く、延々といきみが続く。息が詰まり、そのうち頭の中に赤い警告灯が瞬いた。窒息回避の条件反射が勝り、自 動的に息を吸いつけた時、どこまでも続くいきみがようやく絶ち切られた。 くらくらした。逝ったみたいだった。粘膜刺激で逝くのとは違う。快感ではあるのだけど、エクスタシーの快感 ではない。何というか全力を出しきった後の爽快感に近い。物凄いボリュームの大便を排泄しきった後の虚脱感 にも似ている。ペニス的絶頂とは違うけれど、それでもそれは脳全体を痺れさせるほどの逝きだった。荒げた息 がようやく落ち着いた頃、また全身が反転されたようないきみが生じた。射精する代わりに肛門から大量の温湯 を噴き出して、僕は再び、いきみで逝った。 眩暈がして、さすがに膝が折れた。僕はずるずると壁を滑り落ちるように床にひざまずいてしまう。グリセリン 浣腸では味わったことのない、逝き方だった。グリセリン浣腸での排泄は、確かに目から火花が散るほど強烈に 気持ちいい。でも、それは一瞬のことで、連続せず、絶頂感とはならない。でも、温湯の連続排泄なら、排泄時 の快感が永遠に続くのだ。排泄快感を蓄積した果てに、初めて味わうこんな不思議な逝き方があるなんて。 連続していきみ逝きしていては、さすがに呼吸が追いつかず、酸欠による昏倒が心配される。周期性のあるいき みの発作が再燃しかけた時に必死でこらえてみると、かろうじて発作をいなすことができた。膝を突くことで体 勢が変わったからかもしれない。制御できなかったいきみが、ぎりぎりでコントロールできるようになっていた。 ほっとして気を緩めたとたんいきみがぶり返し、また逝ってしまったけれど。 適当に間を空けるようにして、それから数回いきみ逝きを楽しんだけれど、この逝き方は体力の消耗が激しかっ た。身体中ががたがたして、疲れ果てていることに気がつく。それからは気を引き締め、逝かないよう、発作を いなすことに専念する。体力の回復と呼吸の安定に努めながら、ただひたすら尻から湯を垂れ流し続けた。 ジョボジョボジョボジョボ。尻の音を聞きながらぼんやりしていると、ふと、今、男はどこにもいないという事 実に気がついた。尻の穴に取りつけられたホースなど、やろうと思えば引きちぎれるだろう。手足は動く。逃げ ようと思えば逃げ出せる。男だってそのくらいわかっているだろう。僕は試されているのだろうか。・・・いや、 それならすでに昨夜、試されている。僕は残ることを自分の意志で選択したのだし、男もそれはわかっている。 だとすれば・・・男は僕を全面的に信頼しているということになるのではないだろうか。 他の考え方もあったかもしれない。でも、僕の脳は快感で麻痺していて、それ以上考えるのも面倒だった。男が 僕を信頼していると思うことに決める。住居不法侵入に窃盗、男同士でレイプは成立しないだろうけど傷害罪に はなるだろう。刑務所から出て半年くらいでまた逮捕されたら、今度は刑期3年じゃ済まないのではないだろう か。それだけのリスクを僕に託してくれているわけだ。僕は身体を男の自由にされている。男の為すがまま。で も、男の人生に対する、遙かに重大な生殺与奪の権利を僕は持っている。預けられている。 お尻にホースを突っ込まれて生き噴水と化した僕が、実は相手の人生を左右する力を持たされているなんて。考 えるとちょっと可笑しい。逃げようなどとは最初から思っていないけど、ますます逃げる気がなくなってしまっ た。この状況を楽しもう。そう思うと、力が出た。僕はつい力んで肛門を締めないように注意しながら、そろそ ろと立ち上がる。最初のポーズを取り、直腸を洗い流す水流の刺激を逝きすぎないように楽しむ。 結構な時間が経ったはずだけど、まだ男は帰ってこない。立ちポーズだと、腸のムズムズをこらえていきまない ようにするのが難しい。膝がスポンジになったかのように心許なく、僕は男の早い帰りを待ち望んだ。ぶるるっ と悪寒に似た疼きをいなし、ざわざわ逆毛立つ過敏さに耐える。もう、固形物は出ない、と思って油断していた。 でも、脇腹がしくっと疼き、ぐるるっと空気が泡立つ音がしたと思ったとたん、奥の方からブチブチした塊が大 腸を擦りながら転げ出てきた。 一瞬、水流が詰まる。次の瞬間、ドバブリュッと相当量の固形物が肛門から噴き出した。ビジャバジャッと、床 に大量の未消化物が撒き散らされ、残飯の臭いが立ち上った。固形物の擦過で、ぎりぎりの所で踏み止まってい た腸壁の疼きが一気に臨界を超え、腹の底からのいきみが生じて、僕はまた登り詰めてしまった。激しい胴震い がきた。全身の関節がぐずぐずになったみたいで、僕は糸の切れたマリオネットみたいに、またまた床にへたり 込んでしまった。肛門が絶頂の波に連動してひくつき、溢れ出す水流がぶばっぶばっとエクスタシーのリズムを 刻む。 「おやおや。何だか、逝っちゃってるようにも見えるが。気持ちいいのかな」 男の声がしても、僕は強烈ないきみの最中で、とっさに答えることができなかった。全身をガクガクと震わせて へたり込み、答えの代わりにぶばっぶばっと間欠的に湯を噴くだけ。待ちかねた男の帰還に、慶びの感情が湧き、 それが絶頂感を2割増しにしてしまう。腸全体が捻れるように蠢き、また奥から大量のみ消化物が送り出されて きた。男に見られている、と酸欠の頭の隅にひらめき、恥ずかしさがさらに快感を増幅してしまった。 尻から大量の固形物をばらまきながら、僕は釣り上げられた魚のように、バスルームの床でびくんびくんと跳ね ていた。この快感に包まれたままなら死んでもいいと思った。幽体離脱しかけたような浮遊感に乗って、意識が 消えていく。意識が完全に飛ぼうとした刹那、男に抱き起こされ、はっと現世に引き戻された。萎みきった肺が 痛みと共に大きく拡がり、細胞に染み入るような酸素が朦朧とした意識を呼び醒ましてくれる。 「間違いなく、逝ってたな。洗腸でも逝けるなんて、面白いヤツだなポチは」 抱きかかえられながら、申し訳ないような気持ちになる。自分が、オナニーを覚えたての猿になったような気が する。人形外皮の中で照れ笑いを浮かべたけど、外見上はお澄まし顔なので効果がないのが残念だった。男の腕 に抱きかかえられて、ほっとしている自分に気がつく。独りぼっちは、やはり心細かった。抱きしめられると女 の子になったようで、ほんわりした依存心が生じてくる。それは、決して不快な感情ではなかった。 男の手が動き、ずるずると尻からホースが抜かれた。ホースの口が床に向けられ、勢いを増された水流が、飛び 散った僕の排泄物を押し流す。せっかく男が僕の後始末をしてくれているのに、この上まだ腸の奥の固形物が出 たら申し訳ないなと思いながらも、腹の中にたっぷり満たされた温湯の排出を止められない。ほっとしたことに、 それ以上の固形物は押し出されてこなかった。 男の手が、僕の腹を優しく押し、奥の温湯を押し出してくれる。押されるたびに、ジャボッと湯が溢れ出し、自 分が一個のポンプになったように感じられる。抱えられたまま、何度も湯を噴き出しているうちに、僕は身体を すっかり男に委ねきっていた。腹の中身までさらけ出し、もう恥ずかしいことは何もなくなってしまったような 気がする。 男が途中一度手を休める。シュボッという音が聞こえ、しばらくして煙草の臭いが吸い上げられてきた。何の銘 柄だろう。煙草の煙は好きではなかったけれど、男の吸う煙草の煙は香りがそれほど不快ではない。腹のポンピ ングが再開され、ジュブジュブと泡立った温湯の残りを垂れ流しながら、僕は糞便の臭いよりもましな煙草の臭 いを楽しんでいた。 「立てるか?」 腹の中がとりあえず空になり、押されても泡すら出なくなった時、そう訊かれて僕はこくりと頷いた。普通に立 とうとして、四つん這いを命じられ、自分が犬であったことを思い出す。首輪を引かれてバスルームを出た。胴 体と足先を包んでいたビニール袋が破り取られる。居間へ戻るのだろうと思っていたら、トイレに連れて行かれ た。足腰が頼りなく、手を借りて便座に座らされるとほっと溜息が出る。 「洗腸した後は、しばらくしてまた出てくる。そこで完全に出きるまで、しばらくそうしていな。おっと、洗腸 すると膀胱も溜まってるだろ。ちょっと待ってろ」 腸内に大量の水が入ると、身体は水分バランスを取るために排尿する。確かに膀胱は満タンに近かった。こうい うプレイに経験のある男でよかった、としみじみ思う。そうじゃないと、気がついてもらえずに膀胱破裂なんて ことになりかねない。男が戻り、尿道に排尿管を捩じ込んでくれた。栓を開くと水鉄砲のように細い水流が掠れ た音と共に噴き出す。すぐには止まりそうもなかった。 「じゃあな。腹の奥まで出きった頃合いを見計らってまた来るから、キレイさっぱりひり出しな」 煙草の煙と共に男は去り、トイレのドアが閉じられた。また独りぼっちだ。背筋を伸ばしている姿勢が辛くて、 揃えた脚の膝に肘を突き、立てた腕のボールの上に顎を乗せる。口で息をした方が横隔膜の緊張が取れて、出す のも入れるのもスムーズになると知っていたから、口で呼吸はできないけどせめて口を開いてみる。一応効果が あるのか、しばらくすると腹の奥で、ぐるるるる、とチワワの唸り声みたいな音が鳴った。 こういう、ただ待つという時間を潰さなくてはいけない時、目が使えないというのは困りものだ。トイレに閉じ 込められれば、耳も用なし。男がテレビでも観ていれば、その音が漏れ聞こえてくるはずだけど、音は何にも聞 こえない。残る臭いは、股間から便器の底に溜まった水道水のかすかな塩素臭さを感じるだけ。他にすることも ないので、僕の意識は必然的に内臓へと向かう。 肛門は腫れているみたいに熱っぽい。直腸はぞわぞわ落ち着かない感じがする。続く大腸は空っぽだった。腹を 半周して盲腸の手前あたりに何かかすかな詰まりのようなしこりを感じる。小腸から押し出された固形物なのだ ろうか。そこから先、小腸全体はまだ内部の温湯によって膨らみ、詰まった感じだ。不当に詰め込まれた温湯を 絞り出そうと、うねうね蠢いているのが、腹鳴りの移動でわかる。 右手の先のボールを右脇腹に押し当て、揉むように押してみる。ぐりゅっと腸内ガスがアブクを鳴らす。できる だけ深い呼吸を心がける。腹膜と横隔膜をリラックスさせるように試みた。3度目の呼吸で、盲腸部の詰まりが ぷちっと破れるような音と共に、転がるように動き出したのがわかる。撃ち出されたピンボールのように、大腸 のアーチを半周して直腸に落ちてくる。過敏になった直腸の襞をなぎ倒しながら出口に殺到し、スプリンクラー のように噴出した。 そんなことが間を置いて3回繰り返され、固形物は完全に出きったようだった。もともと昨日からゼリーしか食 べていないのだから、固形物の材料はそう多くはないはず。今、出ているのは僕の宿便なんだろうか。それから は何事もなく、本当に無為な時間が流れた。肘を突いているのもしんどくなって、僕は膝を抱えるように上体を 突っ伏していた。時折、たらっと液状のものが肛門から垂れるだけ。名残の温湯なのか、僕の腸液なのかはわか らない。 退屈な時間だったけど、それでもいい休憩になった。体力も気力もずいぶんマシになったように感じる。腹の渋 りも捻れるような疼痛もなくなり、丸一日入りっぱなしの人形外皮の締めつけに身体が適合変形してしまったの か、きつさも感じない。直腸粘膜は酷使されまくり、摩耗していそうなほどだけど、傷を思わせる痛みも疼きも ない。最悪の酸欠状態にさえ慣れてしまって、今のようにパンティも穿いていない呼吸口丸出しの状態なら、大 口開けて深呼吸しているようなものだ。身体の弱い子供だった僕が、普通の人なら絶対に耐えられないほどの暴 虐から、こうも簡単に回復できるほど健康体になれたのは、自虐経験の賜かもしれない。 よいしょっと上体を起こして、座ったまま背伸びする。身体のあちこちがペキパキ鳴るのは運動不足のせいだ。 肛門性交や犬歩き、浣腸に洗腸は充分行っているわけだけど、これらは運動にはならないのだろうか。適度な運 動をした後のような、ほどよい疲れの余韻ならあるのだけれど。だるくないし、眩暈もしない。脈拍も正常。血 圧も大丈夫そう。実に状態良好だった。 と、その時、姿勢を変えたせいだろうか、グルッと腸のうねりと共に腹が鳴り、あらら、と思っているうちにも、 堤防が決壊したかのように右脇腹で大量の濁流が弾けた。一瞬で大腸を駆け抜け、空気混じりの激しい破裂音を 響かせて、どこに入っていたんだといぶかしむほど大量の湯が、尻から噴射された。 尻の穴から小便をしているようだった。背筋がビクビクしてしまうくらい快感がある。大腸だけでなく、小腸ま でが水流に擦過されるディープな内臓快感。流れる液体は体内で温められ、直腸に熱い。腹が萎んでいく感覚が ある。長々と続いた噴出も、最後にブリュッとはしたないおならが出て打ち止めとなった。奥の奥から内臓ごと こそげ出されたような気がする。今までぽっこり膨らんでいた腹が、今は抉れたみたいにへこんでいるだろう。 ぶるっと身震いが出た。これで終わりなんだろうか。確信が持てず、自分の腹の奥の感触を探っていた時、ドア が開いて男の呼びかけが聞こえた。 「もういいだろう。まあ、少々残っていたって、俺が栓してやるから大丈夫だ。犬ポーズで出ておいで」 栓してやるだって。エッチだなあ。マスクの中でにまにまと苦笑しながら、肛門をぎゅうっと絞り上げ、床に手 を突いて前に出る。便座から立ち上がる必要がないからスムーズだ。意識しないのに、膝を真っ直ぐ伸ばしてい た。トイレから出たところで、止まれの声がかかり、僕は訓練された盲導犬並に静止する。僕の場合、目が見え ないのは犬である僕の方なんだから、盲導犬はおかしいか。 なんて無意味なことを考えていると、尻がぼわっと温かくなった。ちょっとビックリしたけど、すぐにお尻を拭 いてもらってているのだとわかり、尻を委ねる。紙じゃなく、湯で絞ったタオルだった。肛門がほくほくと温か い。実に気持ちがよかった。導尿管が抜き取られ、股間も拭き清めてもらった。ここぞという時、憎いくらいに 心配りしてくれる。泥棒にしてはデリカシーありすぎだと思う。感謝の気持ちを表したくて、恥ずかし気もなく 尻を振ってみせる。と、するりと柔らかな物が滑り込んできた。もうすっかり馴染み深い双頭ディルドオの尻尾 だった。 25.『空気』 土曜日。昼。3時。 居間に戻される。居間の真ん中、アクリルガラスのテーブルが置いてあったはずの場所で、伏せのポーズを取る ようにいわれた。絨毯に顔と腹を埋める。お腹の具合もよくなり、尿意もなく、空腹でもない。パンティを穿い ていないから空気もたっぷり。居間という場所は寛ぐための場所であるからして、僕は遠慮なく寛いだ。ただ、 一点だけ寛げない部分がある。それが膝の裏。正座できつく折り曲げると、人形外皮の厚みが食い込んで、痺れ てしまう。 ガサガサと男が何かの包装を開けているような音がする。コンッとアクリルガラスの上に硬いものが置かれた音。 テーブルは男が座る一人掛けソファの横に移動させられたというわけか。またガサガサ。そして、コンッ。同じ 物のようだ。そんなことが延々繰り返された。いったい何をしているのだろう。今、男が開けている包みに心当 たりはない。男が買ってきたものだろうか。 脚の痺れが大事になる前に、尻を男に向けて仰向けに寝るように命じられた。脚は空中に持ち上げて自分で抱え ろといわれる。いったい何をされるのだろう。不安が胸をどきどきさせるけど、それ以上にわくわくしている自 分がいた。まったく、退屈させないでくれる。オムツ替えの赤ちゃんポーズを取ると、尻尾がちゅぷりと引き抜 かれた。んふっと股間から息吹が漏れ出す。 「尻マンコを拡げておけ」 尻マンコといわれると嬉しく感じるのは何故だろう。反射的に締めようとした括約筋から慌てて力を抜く。そこ に何かが塗りつけられた。ぬるっとしたもの。男の指が僕の中にまで入ってきて、そのぬるぬるを塗り拡げる。 潤滑剤だと思う。潤滑剤などなくても、僕の腸は粘つく腸液を分泌してるし、昨夜からいろいろな物を入れられ て拡張も充分。潤滑剤を塗らなくてはいけないほどの大きな物を入れられるのだろか、とちょっぴりビビる。ち ゅぽっといやらしい音を立てて指が抜かれ、代わりに何か丸い物が押し当てられた。 ピンポン玉くらいの大きさで、ボール状の物体だった。それにもたっぷり潤滑剤が塗られている。尻尾ディルド オより小さい上に潤滑剤の滑りで、何の抵抗もなくちゅるっと僕の中に収まってしまう。これじゃあ物足りない。 と、もう一個。え、っと思っているうちにも、次の一個。次から次へと玉が入れられる。物足りないなんて思っ た僕が浅はかだった。22個の玉が僕の体内に押し込まれた。下のお口は頬ばりすぎてパンパン。最初の方に入 れられた何個かは、押されて大腸にまで転がり込んでいった。 トドメとばかりに、肛門に押し込まれた物は、馴染み深い感触でアヌス栓だとわかる。バルーン部が括約筋の輪 を通り抜け、鍔が肛門を塞ぐように覆い被さる。バルーンへの空気注入口にゴムポンプのチューブが接続され、 空気が送り込まれた。男はアヌス栓の構造を熟知している。バルーンが膨らみ、詰め込まれたボールをぎしぎし と押しのけて、さらに奥へ押し込んでしまう。ほんとうにもうお腹いっぱいという感じ。 「しかし、この尻栓はよくできているなあ。電子制御だなんて。これひとつで幾ら使ったんだ。金持ち専用の尻 栓ってかい」 55万円でした。金持ちは僕じゃなくて父親で、金持ちの馬鹿息子でいるというのもいろいろあるんだけど、恵 まれているのは自覚してるから言い訳はしない。言い訳したくてもできないけど。拝金主義の父親が、不正とま ではいえないまでも汚い手段で集めた金を、社会に還元する使命がある、っていうのは言い訳にはならないかな。 でも、高いとはいえ、充分に使って元は取ったと思う。 アヌス栓の注入口にチューブが差し込まれた。また浣腸なのかな、と首を傾げてしまう。注入口のシャッター構 造をした接続環が絞られ、チューブをしっかりと咥える。この構造は、差し込むチューブの口径を選ばないから、 使い勝手がいい。男が軽くチューブを引っ張ると、肛門が盛り上がるのがわかる。そのありさまを見られている と思うと、この期に及んでも恥ずかしいのは何故だろう。 すぐに浣腸液が流れ込んで来るものと身構えていたら、起きてひざまずくようにいわれた。チューブの向こうが 何に連結されているのかわからないけど、イルリガードルだったら気をつけないと引っ張ってスタンドを倒して しまう怖れがある。脚などを引っかけても危ないので、慎重に身体を起こした。身体を動かしてみると、お尻に 連結されたチューブに重みを感じない。イルリガードルなどに繋がれているなら、長いチューブ自体の重みで栓 が引っ張られる感覚があるはず。と、腿の部分にぽんぽんと弾む何かを感じた。 尻から伸び出しているチューブの揺れに合わせて、丸い物が当たっている。その感触で、ゴムボール式のポンプ だとわかった。弁を内蔵したゴムボールを手で握り潰して、ボールの両端に繋いだチューブの一端から液を吸い 上げ、同時に他の一端から送り込む方式だ。大量に注入する場合は、何度もボールをポンピングしなくてはなら ないから大変だけど、少量の注入ならこちらの方が手軽にできるし、場所も選ばない。 詰め込まれたボール状の物といい、ボールポンプといい、何をされるのかわからないという不安と期待が、再び 胸の内で交錯する。と、脇腹が探られ、バチン、バチンとコルセットの金具が外されていく。バカンとコルセッ トが開く。普通ならコルセットの締め上げから解放された爽快感があるのだけど、そもそも人形外皮によって強 制的に締め上げられているから、コルセットの重みの分、身体が軽く感じられただけだった。 次に、手のボールグローブが外された。グローブの中でずっと握りしめていたから、関節が固まってしまい、外 されてもすぐには指を開けない。次は足かなと思ったけど、足のトゥブーツはそのままだった。立つことは許さ れないというわけだ。足と頭以外は裸にされたことになる。裸といっても人形外皮の裸だけど、顔立ちがマスク で隠されているから、肌の光沢を気にしなければ、どこからどう見ても普通の女の身体にしか見えないはず。 僕にとって頭に被せられている全頭マスクは、着けていることを忘れる程度の存在でしかなかったけれど、ある とないとでは男の目に大きな違いが生じる。気分転換に衣装替えするつもりなら頭のマスクも外されるのかなと 考えていたら、外されるのではなくさらに追加されてしまった。ぱさりと網状の物が頭に乗せられる。口を開け と命じられて、マスクの中で大きく口を開くと、ゴムマスクにボールが押しつけられ、マスクのゴムごとボール が口の中に押し込まれた。 唇が巻き込まれて痛かったので、もぐもぐとボールを噛み締めるようにして位置を直す。頭の周りで金具が締め られ、ストラップが肉に食い込んでくる。ここまでくれば、それが何かは簡単にわかる。僕が昨日、浣腸自虐し ている時、頭に着けていたストラップネットだ。自分の顔が、今、どうなっているのか想像してみたら、股間が キュインと萌えてしまった。僕本来の顔の上にまったく別な作り物の顔。その顔すら、全頭マスクでただのボー ル状にされ、その上、持ち帰り用のスイカのように、ストラップの網が被せられている。まさに、ただの物体。 身体を隠して首だけを見られたら、その中に生きた人間の頭があることなど、誰にも想像されないだろう。 肩にばさりと、何かが掛けられた。チャラッ、という金属の当たる音もする。身体の前後に垂れ下がる物があり、 揺れて下腹や尻にぱたぱたと当たる。同じような感覚を、今、頭に感じていたばかりだった。ストラップネット。 でも、頭部用は持っていたけど、身体用の物など持っていない。僕の腸でぎしぎし擦れあっているボールといい、 このストラップネットといい、男が持ち込んだ物だとしか考えられない。しかし、どこから。スーパーと煙草屋 さんに売っていないことだけは確かだ。 「息が詰まったり、苦しすぎたりしたらいえ。サイズは見たところ大丈夫そうだが。六本木が近いというのは便 利だな。ポチもよくあそこのSM用品店を利用しているんじゃないのか?5年ぶりくらいで、まだあるかどうか わからなかったんだが、行ってみたら店は前より大きくなって、品揃えも増えてたな。外国の輸入物が多くなっ ていた。時代は変わったな。それだけ客がいる、需要があるってことなんだろう。日本の将来が心配になるぞ」 最後の台詞は冗談ですか。冗談なんですね。身体のあちこちを締め上げられながら、僕は何となくにこにこして いたと思う。確かに、六本木に大きなSMショップがあることは知っていたけど、僕は利用したことがない。小 心者の僕には、たとえ変装したってそんな店に入る度胸などない。僕が国内で利用しているのは、3年前にネッ トで知った、ほとんど個人営業のようなSMショップだ。輸入代行もしているけど、オリジナルの物がユニーク で、しかも質が高い。いろいろ難しい注文も受けてくれるし、メンテナンスもしっかりしてる。割高でも、結局 は得ということ。 男がどこから新しいアイテムを仕入れてきたのかはわかった。当然、僕の金なんだろうけど、文句はない。残る 疑問は、僕がいったい何を詰め込まれているのかということ。感触で、卵じゃないのはわかる。卵だったら僕は 拒否していただろう。卵をこんなにぎゅうぎゅう詰め込まれたら、いくつか割れて腸を傷つけてしまう。それは、 命に関わる問題だ。 肛門を通り抜ける時の感触と、腸内での感触を総合すると、プラスティックの球体。何個もの球を繋げて、肛門 に押し込み、引っ張り出す時に快感を与えるという道具は知ってるけど、それでもない。僕の中のボールは独立 している。ピンポン玉は何回も入れたことがあるけど、入れられたボールはもっとつるりとしていたし、もっと 重量感があった。やはり、どう考えても電動ローターの類だと思える。股間にストラップベルトが回されて、考 えが中断した。呼吸のことを心配したからだけど、それがちょっとした身動きに表れたのだろうか、男が安心さ せようと説明してくれた。 「大丈夫だよ。ちょうどオマンコの部分はリングになってる。呼吸に問題ないだろ。ションベン穴は塞がるけど な。リングから後ろは二股に分かれるから尻マンコもちゃんと使える。よしっと。結構強めに締めたが、苦しく ないか?」 大丈夫と伝えるために頭を振ろうとして、ネットと首輪が連結され、ほとんど首を動かせなくなっていることに 気がついた。首輪にまで繋ぐと、何かの拍子に無理なポーズになってしまい、首が押しつけられたりした時に、 頸動脈が圧迫されて事故を起こす可能性があったから、用心のため自分では繋いだことがない。男がその危険性 を認識していることを願うのみ。首が振れないから、僕は指でオーケーサインの丸を作った。 自由な手で、首と身体を探る。首輪と身体のストラップまで連結されていた。ストラップに弛みはなく、しっか り食い込んでいる。僕は、ボンレスハム状態になった自分の姿を思い浮かべる。乳房の根元が締めつけられ、乳 房がボール状に絞り出されていることに気がついて感心してしまう。人工乳房だから、何の感触もないのがちょ っと残念だった。 ウエストから下腹へ手を下ろすと、臍のあたりから恥骨まで、ストラップがなく、ぽっかり空間が開いているの がわかる。大きな菱形を描くように、下腹の脇をストラップが走っているようだ。だから、人形外皮の下に埋ま ったペニスに、ストラップの圧迫を感じなかったのだと納得する。 「なかなかいい感じに刺激的だぞ。エロエロになった。新しい尻尾に触ってみな」 僕は手を後ろに回し、指で肛門を探った。肛門をぴっちり塞いでわずかに盛り上がるアヌス栓の底部と、そこか ら伸び出すゴム管が触れる。身体を軋ませながらさらに傾け、ゴム管を指に挟んで下へ辿ると、ポンプボールが つかめた。この形状の尻尾とすると、僕はトイプードルになったのだな。と、馬鹿なことを考えながらポンプボ ールをまさぐっていたら、小さな疑問を探り当ててしまった。浣腸のためなら、ポンプボールからさらに液を吸 い上げるための管が垂れているはずなのだけど、それがない。このポンプは浣腸のためじゃなく、ただの飾りな のだろうか。 「その状態で、立てるか?」 立つ、って、トゥブーツの爪先立ちで?・・・それは無理。数秒間でいいなら立てるけど、目が見えなければ長 く立っていられるわけがない。僕は、両手の指を交差させ、×印を作って見せた。 「だよな。というわけで、ポチには悪いんだが、勝手に鴨居に金具を取りつけさせてもらった」 鴨居って・・・ああ、ダイニングとリビングの境のことか。へえ。別に悪くはないと思うけど。立てない僕を立 たせるための金具っていうことは、そうとうしっかりした金具だろうと思う。取りつけは大変だったろう。むし ろ、後々使える金具なら、力作業をタダでやってもらったようなものだし。僕は気にしていないことを伝えるた め、オーケーサインを作って見せた。 「そういってもらえると、助かるな。侵入した家に侵入の形跡を残さないっていうのが、俺のプロとしてのポリ シーなんでなあ。どうも心苦しいんだ。他の空き巣連中には、散らかし放題、壊し放題ってヤツもいるが、スマ ートじゃないだろ」 いや、泥棒のポリシーを口説かれても困ってしまう。でも、侵入した家にちょっとした傷を付けることさえ気に する泥棒には、そうじゃない泥棒より安心して身を任せられる・・・というのもおかしいかなあ。僕の頭の頂に、 鎖が取りつけられた。立つように命じられ、男の肩を借りてよちよちと危なっかしく立つ。男の肩に手を掛けた まま、鴨居まで4歩ほど歩き、そこで頭全体が引かれるように頭の鎖が鴨居の金具に固定される。確かにこれな ら不用意に倒れることはない。 男に命じられ、腰を落とすようにして鎖に体重を掛けてみる。頭と首のストラップネットがぎしぎし軋み、首が 引き延ばされるけど、ネットが加重を分散してくれるおかげで、首への負担は思ったほどじゃなかった。絞首刑 並みに、よほど激しく一気に体重を掛けない限り、このままぶら下がっても、窒息したり首の骨がおかしくなっ たりする感じはしない。とはいえ、それを試すのは怖いから、倒れないようにしっかり立っていようと思った。 「うーん、いい構図だ。白い肌に食い込んだ黒いストラップがいいコントラストになる。たまらないな。何も知 らん人間が見たって、ビンビンにおっ勃てるだろうが、中身まで知っているとひとしおだぞ。今すぐ入れたくな ってきたが、それじゃあ身が保たん。ポチにはしばらく俺の目を楽しませてもらおう」 僕の尻尾、尻からぶら下がったポンプボールが握りつけられた。 「あれ。入っていかないな。・・・ああ、そうか、弁を開けてないじゃないか」 チューブを抜く時は、漏らさないように自動的に弁が閉じる仕組みになっているけど、チューブを差し込んだだ けでは弁は開かない。イルリガードルで浣腸する時など、チューブにアヌス栓を取りつけてからお尻に入れたり もするので、勝手に弁が開いてしまうと液が漏れてしまうからだ。男の手が僕の尻の割れ目に押し込まれ、アヌ ス栓の底部を探って弁機構を解除した。 ポンプボールが握り潰される。最初にポンプボール内に入っていた空気が、ブフォッと僕の腸内に噴出する。続 いてもうひと握り。また空気がズウッと入ってくる。そして、また空気。また空気。ようやく僕にも、何が行わ れているのか理解できた。浣腸液ではなく、空気を浣腸されているのだ。これではまるで生きた風船だった。男 がポンプを握るたび、僕の腹は少しずつ少しずつ膨らんでいく。 液体とは違い、空気は腸とボールの間をするすると抜けて奥へ流れ込む。当然、液体よりはずいぶんと軽い感覚。 小腸へも抵抗が少なく入り込んでくる。わずかに排便欲求が生じてはいたけど、浣腸液の薬効によるものとは違 い、何ほどのこともない。腸が詰まる感じはなく、腸が張る感じがする。これも初めて味わう腸感覚だった。耐 えやすいと思った。腹が一刻一刻と膨らんでいく。コルセットは外されて、しかも下腹部分にはストラップも走 っていない。その分、膨らんだ腹は大きく迫り出していくようだった。 ポンピングが100回を超えようとする頃、さすがに腸の張りも限界に近づいていた。大腸も小腸もパンパンに 空気に満ち、腸の皺は引き延ばされて消え、つるつるになっているだろう。それでも男はポンピングを止めない。 さすがに一押し一押しがビキビキと腸全体に響く。苦しいい。子供にイタズラされて尻から空気を詰め込まれる カエルの気持ちがよくわかる。吐き気も生じた。液体よりも腸の膨らみがよく感じられる。僕はどうしようもな く、どんどん膨らむ腹を押さえて、ただひたすら身を捩っていた。 120回。圧倒的な空気を送り込んで、ようやくポンピングが終わる。男の手を放れたポンプボールがぱたりと 垂れ下がり、腿の裏を打つ。完璧な逆流防止弁は、わずかな空気漏れも起こさなかった。身体が軽くなったよう な気がするのは単なる錯覚だとしても、今の僕がビーチボールのように水に浮かぶのは間違いない。息苦しさを 覚えるのは、肺が下から押し上げられているからだろう。でも・・・耐えられた。便意がないお陰だ。 26.『ボール』 土曜日。昼。4時。 肩で息をしながら人間風船状態に耐えていると、男の手が身体に掛けられた。何だろう。抱きしめられるのだろ うかと思って力を抜くと、あろうことか、ふわっと身体が持ち上げられる。頭を吊る鎖がジャラッと鳴った。横 抱きにされ、男の手が僕の身体の脇と腿を保持している。押さえる手がお腹だったら、膨らみきったお腹が押し 潰され腸が破裂していたかもしれない。ぞっとしたけど、男の手の動きには、腹にかからないように配慮してい る気配があった。 男を疑ってしまった自分を恥じ、心の内で謝りながら、男が持ち上げやすいようにほどよく身体を伸ばす。こう いう状況では不用意に手足をばたつかせたら危ない。反射的に手を動かしたりしないよう、腿の上を走るストラ ップに指を引っかけ、しっかりとつかまるようにした。どうされるんだろう、といくつかの可能性を考えて、動 じないよう心の準備をしていたけれど、まさか真っ逆さまにされるなどとは考えもつかなかった。胸の下と腿を 抱きしめられるような形で、僕は空中で回転させられ、肩口と股間に男の手が移動して保持される。男としては 小柄とはいえ、羽根枕みたいに扱われるなんて。何だか自分が、中身スカスカのセル人形になったみたいだ。男 の配慮と力を100%の信頼してたし、目が塞がれていたせいもあって、それほど恐怖を感じなかった。 だから、自分の体内で起きた異変にもすぐに気がついた。直腸が上となり、重力の方向が変わったとたん、直腸 内のボールがころころと、拡げられた腸内を転げ落ちていく。男が僕の身体を軽く揺さぶるようにしたから、ボ ールは詰まることなく、カシカシぶつかり合いながら大腸の奥まで転がり進んでいく。腸内で生じる無数のノッ ク。くすぐったいような、突っ張るような、不気味で摩訶不思議な感覚だった。 再び身体が回転し、すとんと何事もなかったかのように僕の爪先が着地した。かすかに眩暈がしたけど、一度だ け。いくつかのボールが、ストトンと左脇で盲腸部に落ちて、僕をぴくんと仰け反らせる。大腸全体にボールが 行き渡り、そこでゆらゆらと揺れているのがわかる。大腸はパンパンに膨らまされて粘膜の皺も伸びきり蠕動も 起こせないだろう。つまり、このままではボールを排泄することなどできないというわけだ。 「腹の中のボールが、大腸の奥まで転がっていったろ?」 体内で転がるボールという異様な感覚と腹の膨張感で震えながらも、僕が指で丸を作ると、男は僕の背後から手 を回し、満足そうに僕の妊婦腹を撫でさすった。背中から抱きしめられるというのも、なかなかいいものだ、と 腸の不快感は棚上げにして思う。背筋に沿って硬く太い物が密着している。僕の腰のカーブにぴったりと嵌って いる。誂えたみたいだった。 「さすがに膨れてるなあ。妊娠5ヶ月って所か。苦しいか?」 僕は背後の男に見えるように手を差し上げ、親指と人差し指を近づけて示した。 「なるほど、少しってわけか。じゃあ、マゾとしてはぜんぜん大丈夫ってことだな。なら、これからしばらくは 俺のために踊ってもらえるよな。なあに、ただの尻振りダンスさ」 男の手が僕の腕に重ねられ、右手は股間に、左手は胸に添えるように当てられる。男が離れていき、ソファに尻 を落とす音が聞こえた。・・・ダンス。社交ダンスどころか、フォークダンスすら踊れない僕にダンス。尻振り ダンスっていったいどうやるものなのかも知らない。 「さて、胸と股間をいやらしく揉みながら、よがるように尻をくねくね前後左右に振るんだ。見た人間の劣情を ビンビン刺激するようにな。腹の中のボールがぶつかり合って、カチカチ音が聞こえるくらい激しくだぞ」 そんな大胆なマネを、人の見ている前でやれっていうのか。勘弁して欲しかった。でも、勘弁してもらうにも、 頭が鎖で吊られていては、土下座もできない。それに、そんなダンスの効果音のために、僕の腹の中にボールま で入れるという手間をかけたのだから、簡単には許してくれそうもない。やっぱり、やるしかないのだろう。せ めて音楽をかけて欲しいけど、男は座ったまま動く気配もない。 「おいおい。いまさら恥ずかしがる間柄じゃないだろう。犬にまでなったんだから。それとも、何か、犬なら獣 と割り切って成りきれるけど、人間に扱いだと羞恥心が出てしまうっていうのか。おやおや。図星って感じだな。 だからって、はいそうですかと許してもらえるとも思っていないよな。あはは。頷いたか。今の頭の動きは頷き だよな。なかなか素直でよろしい。じゃあ、御褒美に尻振りダンスを踊りやすくしてやろう」 踊りやすくって・・・音楽でもかけるのかと思ったら、そうじゃなく、股間の低周波システムが動きだした。レ ベルは2くらい。びくっと腰が引ける。睾丸の痛さも含めて、気持ちがいい。ほどよい刺激にペニスがぴくぴく と伸び上がった。そんなわずかな動きですら、洞窟のように拡がった腸内に、揺れたボールが触れ合う、かちゃ かちゃとした音が反響する。しばらくは動かずに耐えられたけれど、ペニスの疼きが蓄積するにつれ、もどかし さでじっとしていられなくなった。 「ほおら、尻を振りだした。気持ちいいんだろ。せっかく手を添えてやったんだ、腹の上から下に埋もれている ペニスを揉んでやりな。胸は感じないだろうけど、気分が出るからそっちも揉むんだ」 恥ずかしいけど、じっともしていられない。ぎこちなく手指を下腹に突き立て、上から揉むと、むず痒さがわず かに軽減され、その分がそっくり快感に変じた。ストラップでがんじがらめとはいえ、コルセットに比べればま だ身をくねらす余裕もある。一度尻をくねらせたという既成事実ができてしまえば、恥ずかしいからできないと いう言い訳も使えない。ダンスなどとはいえないぎこちなさながら、僕は肛門から伸び出したポンプボールをパ タパタと振り始める。 「足を開いて、少し腰を落とすんだ。そうそう。動きやすくなったろう。そうそう。前後だけじゃなく。左右に も、回すようにもして。いいぞ、いいぞ。できるじゃないか。色っぽいぞ。その調子だ。じゃあ、もっと気持ち よくしてやろう」 どうせ、低周波レベルを上げるのだろうと思っていた。ところが、予想はとんでもなく裏切られた。蜂の羽音の ような振動が発生したのは、僕のパンパンに拡げられた大腸の中だった。ころころと詰め込まれている無数のボ ールが、奥から順に振動を始めたのだ。最初は下痢でも始まったのかと思った。痛痒いような微細な刺激を右脇 腹の奥に感じる。それが2カ所になり、3カ所になる。と、腹の中に黄金虫でもいるかのように何かが弾むのを 感じる。弾み、転がり、ぶつかり合って弾ける。そんな騒々しさが、大腸の形に沿ってぐるりと腹を半周した。 腹全体の輪郭がかすかにぼけるような振動。そして腸洞の中でブンブンと動き回る大量のボール。最初は不快な だけだった。腹の中が自分の意志とは関係なく動き回るもので満たされたら、誰だって困惑し、自己を侵犯され たかのような不快感を覚えるはず。互いにぶつかっては反動で跳ねるボール達の動きは、無数の指で腸を内側か ら突かれているような錯覚を生じさせる。 「フル充電で2時間連続稼働だそうだ。ポチの腹の中の大騒ぎが聞こえてくるぞ。チンチンもケツの穴の中もた っぷりマッサージってわけだな。おっと、尻の振りが小さくなったぞ。もっと大胆にくねらせろよ」 そんなことをいわれても、尻を振ると腹の中のボールが跳ね上がって・・・。直腸に詰まったボールが、ぎしぎ しびりびり風船のように引き延ばされた粘膜を揺さぶる。寒気がする。鈍麻してしまったのか、排便反射が起き ない。僕は自分の意志でいきみと脱力を繰り返した。この状態は苦痛ではないし、どうせ焦れったさで尻振りダ ンスをしてしまうのだからと、半ばやけくそでがに股になり、腰を深く落として大きく全身をくねらせた。 「そうだ。いいぞ。音が聞こえた。目の保養にもなる。いいというまで、そこで尻振りダンスをしているんだぞ」 今までの嵐のような暴虐に比べたら、こんな運動はウォーキングと変わらない。頭の鎖の保持を上手く使うコツ を覚えてしまったし、腰を落とすことでの膝への負担も軽減できる。腸内でのボールの大合唱にも、慣れれば気 持ちいいような気もしてきた。じれったさやもどかしさが、ひとひらひとひら身体の芯に堆積していく。もしか すると楽しめるかもしれない。 最初は尿漏れでも起こしたのかと思った。腸ではなく膀胱からのように感じたのだ。何か、じわっと温かなもの が腹腔内に染み出す感じがした。汗かとも思った。でも、それは皮膚感覚じゃなく、内臓感覚だった。腸が破れ て大出血したのかとも思ったけど、痛みはまったくない。それどころか、肉の間を浸していくその温かさは、達 する部分を麻痺させるかのように染み込み、それがくすぐったさを揉みほぐすような心地よさがある。 腸内の大量の空気がねっとりと身体の中に抜け出すように、気持ちよさが上へ下へと流れ出した。命令されなく とも尻を振り立てずにはいられなかった。尻を振り、回すたびに、埋もれたペニスが内側から、こつこつとノッ クされる。ボールが跳ね回るごとに腹の中全体で無数の衝突が起き、その音と衝撃が僕をぞくぞく痺れさせた。 快感なのだろうか。苦痛ではない。不快でもない。甘酸っぱい愛液を内臓が滴らせるようなおののき。 人形外皮の中で、僕はとろりと重い肉汁になったかのような気がしていた。沸騰ではなく膨張。そんな不可解な 感覚曲線の高まりがあり、尻をくねらせると、肉汁の坩堝が攪拌される。骨まで溶けたかのように身体が柔らか く波打つ。生きながら脳をシチューと一緒に煮込まれたら、こんな蕩け方をするのかもしれない。僕は柔らかく 絶頂していた。そよ風に舞うシャボン玉のように、舞い上がり、落ちかけてはまた浮き上がる。そんな逝き方だ った。 「おや。もしかして、逝ったな」 男の声が優しげに耳に染みた。 27.『交合』 土曜日。夕。5時。 逝き慣れてしまたのだろうか。それとも、腸内の微振動と低周波の複合がもたらす絶頂が異質なものだからだろ うか。ゆるゆると丘を登るような逝き方で、昇り降りを12回繰り返したというのに、僕は体力を消耗しなかっ た。それどころか、全身の血行がよくなり、いくら逝ってもまだ逝けるように思える。心のタガを外し、素直に 刺激を受け入れるようになって、心身のバランスが取れたせいかもしれない。 12回目の、糖蜜のように甘い絶頂感に浸っている時、男が止めてくれなかったら、僕はまだまだ逝き続けただ ろう。低周波とボールの振動が止まっても、ジンジンする下腹の疼きが残り、低周波も振動もが未だ続いている かのような錯覚をもたらしていた。頭の鎖を外されて、ふらりと倒れかかった身体を男の手が受け止めてくれる。 そのまま抱き上げられ、運ばれていく時にも、僕はまだ全身をひくひくと引き攣らせて、逝きっぱなしのどろど ろした悦楽を貪っていた。男の腕の抱擁感が、頼もしく嬉しい。どこへ運ばれようと、気にもならなかった。 ふわりと背中がクッションに沈む。男の腕から降ろされた先は、僕のベッドだった。仰向けに降ろされ、男が僕 の横に登る。頭の下から枕が引き抜かれて、腰を持ち上げられ、尻の下に押し込まれた。足を開かれても、僕は 抵抗などしない。それどころか、嬉しかった。手を取られ、膝裏に添えられて、自分で脚を開くようなポーズを 保持させられる。 「10回は逝っただろう。疲れたろうな」 男は数え間違えている。柔らかな逝き方を繰り返していたから、わかりづらかったのだろう。僕は首も動かせず、 手も脚を持たされて使えなかったので、右手の人差し指を一本立て、横に振って否定の意を表した。たとえ疲れ ていたって、疲れていないと表しただろう。疲れてなんかいないから、下腹全体のむず痒いようなジンジンを何 とかしてもらいたかった。指なんかじゃ届かない腸の奥を、硬いもので掻き擦って欲しかった。 「ほう。疲れてないのか。若さかな。じゃあ、一発入れても大丈夫かな」 一発だなんて、お下品・・・なんて思わなかった。素直に、正直に、まさに一発入れて欲しかったからだ。片手 じゃこの気持ちを表すのに足りなかった。僕は両手の指でそれぞれ丸印を形作り、さらに振って見せた。僕の意 志とは関係なく、肛門も勝手に賛意を示そうとして、もぐもぐと肛門栓を噛みしめる。男の目にさらけ出された 股間で、肛門栓がむずむずと物欲しげに動くのが見えただろう。 「何だよ、ポチも入れて欲しがってるのか。もの凄い心境の変化だな。俺は強姦魔だぞ。強姦魔にそんなに心許 していいのか?」 何を今さら。まあ、冗談ぽい響きがあったけど。僕は指の丸印をもっとくりくりと振って見せた。もう、恨んで もいないし、嫌がってもいないよ。自分のチンチンより、あんたのチンチンに慣れ親しんでしまったよ。精液だ って何だって、たっぷり出されて汚されても、もう平気だから。と、口が利けてたらいっていたかもしれない。 いや、やっぱりちょっと恥ずかしいし、悔しいからいえないかな。 「可愛いなあ、おまえ」 ずきゅーん。胸の奥が引っぱられたみたいに感じる。何だろう。可愛いといわれて、胸が痛くなるほど嬉しく感 じるなんて。まるで、女の子になったみたいに。さっきまでなら逝ってもそれほど上昇しなかった心拍数が、急 増してきた。可愛いといわれて、もっと可愛いと思われたい気持ちがじわっと湧いてくる。後で振り返れば、こ の時こそ僕の中のアニマが、僕の中のアニムスを掻き消し、僕の新しい主体となった瞬間だったのだろう。 肛門栓の上を、男の指がまさぐる。カチッと音がして、すかさずブフォーと腹の中の空気が抜けていく。でも、 肛門栓自体はそのままだから、お腹の中のボールは排出できなかった。洗われ、空気で膨らまされて乾燥された 腸内にあった空気は、それほど内臓臭を帯びてはいない。ほんのりと残飯臭い腸の香りが鼻をくすぐるだけ。男 の精液の臭いもしなかった。 男の手が僕のやや萎んだ腹の上に置かれる。加えられた圧力は優しかった。男の手が柔らかく押さえるように僕 の腹を撫で回すと、腸の奥にまだたっぷり残っている空気が押し出されてくる。そのたびに肛門栓の排出口が艶 めかしく鳴り響き、僕は自分が楽器になったような気がした。腸というのは何者も一気には排出できない仕組み になっている。一気には排出できないから、僕の演奏は間欠的に長々と続いた。 「腹がすっかりへこんじまったな。ポチの妊婦腹が好きだったんだがなあ。まあ、しかたない。これから肛門栓 を抜くから、出せるボールは出していいぞ。おならも我慢するな。ちゃんと出すんだぞ」 肛門栓のバルーンを膨らませていた空気が抜かれる。途中で無理に飛び抜けないように、男が押さえていてくれ た。バルーンがすっかり萎んでから、男の手の平の中に押し出すようにぬるりと肛門栓が抜けていく。肛門を拡 げっぱなしにはせず、男が肛門栓を横に置くだけの時間をおいて、直腸にぎしぎし詰まっていたボールを一個ず つ、雌鳥のように産み落とす。腹圧で吹き飛ばないように、排泄をコントロールした。 「もう出ないか?奥の方に入ってしまったボールは自然に出てくるまでそのままにしておく。おならは出ないの か。全部出しておかないと、チンポを入れても擦れなくて、気持ちよくならないかもしれないぞ」 なるほど、と思った。空洞に抜き差ししたって、確かに摩擦が起きないだろう。僕は腹に力を入れて、空気を押 し出そうと努めた。しばらくして、結構大きなおならが出る。人の目の前でおならをしたことなんて初めての経 験だった。物心ついてから、親の前だってしたことはない。こんなに何もかもやられまくった後で、まだ恥ずか しいものがあったなんて驚きだった。 最後のおならは、粘液混じりだった。ぶじゅぶじゅっとはしたない音がする。粘つき具合から察すれば、洗腸の 時の温湯ではなく、僕の腸が分泌する腸液のようだった。男はそれを待っていたようだ。肛門に馴染み深い肉の 先端が押し当てられる。溢れた腸液を先端にまぶしている。潤滑剤は使う気がないようだった。僕の腸液で代用 するつもりらしい。僕の肛門まわりにも塗り拡げられ、充分な滑りが出た頃、むりっと肉棒に体重がかけられた。 抵抗もなく、ずるりずるりと熱い肉の塊が滑り込んでくる。せっかく収縮した肉襞が掻き分けられ、また引き伸 ばされていく。でも、それが脳を溶かすほど気持ちよかった。昨日の嫌悪感はいったい何だったのだろうと思え るほど、僕はその質量を待ち望んでいた。男は急がず焦らず、ゆっくりした挿入を楽しんでいる。僕もまた、肉 襞の一枚一枚が粘つき、擦られる感覚をじっくりと堪能する。 根元まで、すっぽりと僕の中に男が嵌り込んだ。男の恥骨が、僕の隠されたペニスサックをこりこりとくじる。 呼吸口が半ば塞がれているけど、息苦しさは苦痛じゃない。完全な結合が心から嬉しかった。男も同じことを感 じているのだろうか。男は根元まで結合したまま動かず、ゆっくりと身体を被せてくる。僕の頭の脇に肘を突き、 僕を潰さないようにしてくれる。そうしても、男の腹と胸はずっしりと僕に覆い被さり、僕は身体の前面で男の 肉体を感じることができた。粘膜が引き伸ばされてぴんと張る感じ。それが何だか無性に心地よい。男が性急に 動こうとしないのも、嬉しかった。 僕がたまらず粘膜をざわりと蠢かせると、それに包まれた男の硬肉がびくりと跳ね上がる。言葉ではない、肉と 肉のコミュニケーションが繋がる。そんなデリケートな感触まで味わえてしまう。男が僕の頭を掻き抱いた。僕 の何重にも拘束された頭部が、優しく撫で回される。男の舌を顔面に感じ、嫌悪ではない感情で肛腔粘膜を震わ せてしまう。 「入ってるなあ。ずっぽりだ。ポチの中は温かい。そして、柔らかいよ。押し出そうとはしていないんだな。歓 迎してもらえているのかな。吸いつけられてるように感じるんだが」 頭を抱えられていれば、1ミリの動きでも意は伝わる。僕はもう、てらいなく頷けた。受け入れてしまえば、こ れほど楽になるのだ。頷きながら、粘膜もざわめかせてみる。いつの間にやら、粘膜のコントロールが上達して いた。吸い込む動きが意図的にできるようになっている。男の鼻息が束の間乱れる。僕はその一瞬、男を支配し ていた。それが楽しく、できる限り吸いつけるように粘膜を連続的に震わせた。 「おおおお。ううう。気持ちいい。俺は動かしてないのに。何という動きだ。ポチも入れられて気持ちいいんだ な。ははは、愉快だな。いつの間にやら、強姦が和姦になっちまった」 僕は、膝裏を抱えていた手を離し、足は男の胴に絡め、両腕は差し上げて男の身体にしがみついた。これなら充 分返事代わりになるだろう。そうして、まだぎこちないながら、男の突起を尻でしゃぶり回していた。どこまで できるのか試したかった。肛門括約筋が攣るか、粘膜の蠕動が不可能になるまで、僕は男と密着していたかった。 だから全力を込めた。 「おおお。おおおお。おい。凄いぞ。握られてしごかれているみたいだ。こりゃあ、たまらん」 僕もたまらなかった。腸の蠕動は抽送に負けず快感だったのだ。男がたまらず腰を引いても、僕は離さない。僕 の手と脚は獲物を捕らえた蜘蛛のごとくがっちりと男の身体に絡みつき、男が腰を引けば僕の尻も一緒に持ち上 がる。僕達はぴったり密着したまま、傍目にはもぞもぞ身体を摺り合わせているだけにしか見えないだろう。で も結合した僕の体内では、竜巻のような粘膜の擾乱が起きていた。 「くううう。おい。ちょっと待て。こら。たまらん。出ちまうって。こら、ポチ。俺がそんなに簡単に出しちま ったら、おまえだって楽しめないだろ」 拘束され、レイプされているのは僕の方なのに、男を支配できた嬉しさについ調子に乗っていたのだけれど、そ ういわれると確かに、僕ももっともっと感じたかった。脚の締め付けが自然に弛み、その分、男の腰の引ける余 地が生まれる。粘膜の襞が一枚一枚長く伸びて、アスパラ撒きしたベーコンのように絡みついている感じさえす る男の肉棒が、ずろろろろっと引き出された。肉汁が飛び散るような脂っこい快感が生じる。粘膜ごと肛門から 引きずり出されてみたいだ。と同時に、肛門から熱湯が噴き出したみたいだった。声が出せたら歓喜の絶叫を上 げていただろう。僕は思わず仰け反り、ガクガクと全身を引き攣らせた。 たったひと引きで主導権を奪い返されてしまったけれど、主導権なんてない方が純粋に気持ちいいのだから何の 異存もない。男は急激すぎた昂りをなだめるようにゆっくりと腰を使う。ずりずりっと侵入し、ずろろろろっと 抜去される。ひと突きごとに、無数の虫が直腸を舐め回しているかのごとく快感の怖気が火の粉を散らす。澱の ように身体の芯に蓄積していく陶酔があった。ずりずりずり。ずろろろろ。ずりずりずり。ずろろろろ。人形外 皮の中は剥き出しになった粘膜神経末端のもつれた塊だけとなり、肉も骨も溶け合って、沸騰する肉汁と化した。 ずりずりずり。ずんっ。ずろろろろ。ずりずりずり。ずんっ。ずろろろろ。男のストロ−クに力がこもる。叩き つけられる下腹の勢いで、僕は高みへと高みへと押し上げられていった。うず高く蓄積された性愛の疼きが、つ いに、ついに決壊しようとしている。溶鉱炉の釜が傾き、傾き・・・そしてついに坩堝が溢れた。何もかもを尻 の穴から吸い込み、溶かし、僕は破裂するように逝った。逝った。ついに、逝ってしまった。 28.『余韻』 土曜日。夕。6時。 身体の中から太陽に照らされているみたいだった。頭の中まで温かい。身体の芯で熾火が未だ燻っている。煮詰 めた牛乳の表面を漂う膜になった気分だ。ぽやぽやと漂う。身体中の筋肉が弛緩して、僕はうつ伏せにベッドの クッションに埋もれていた。顔面で呼吸しなくていいシステムがありがたい。誰かの何かが僕の尻を撫でていた。 それが男で、それが手だと、しばらくして気がつくくらい、頭もぼんやりしている。その指が僕の尻の割れ目に 沿って下に降り、湯気を上げているような肛門に触れた時、肛門が自動的にわなないて取り込もうとしたのを、 どこか別の世界の別の出来事のように感じた。 「おいおい。まだ足りないのか。俺はもうスッカラカンだぞ。瞬く間に絞り出されちまった。おまえも逝ったな。 はっきりわかったよ。おまえの尻マンコ・・・とんでもない動きだった。食いちぎられそうだったよ。俺も我を 忘れて逝った・・・いや、逝かされたよ。ふううう。悪いが一服させてもらうぞ」 もうどうとでも。今の僕なら、たとえ10億円の連帯保証人になれといわれたって、ほにゃーんとしながらサイ ンしていただろう。そんなことより日だまりの猫のように、まったりと至福に浸り続けることだけが望みだった。 股間から煙草の臭いが吸い上げられてきた。気にもならない。余韻はまだ大きくうねっていたし、その痺れるよ うな幸福感を、不用意に動いて台無しにしたくなかった。 男もそうとう消耗した様子だった。煙草を吸いながら、動こうとせずに僕の尻を撫で続ける。ただひたすら撫で られることが、これほどリラックスできることだったなんて、新しい発見だった。余韻に浸る時間も、セックス そのものと同じくらいに気持ちいい。どのくらい時間が経っただろう、男が煙草を吸い終えたようで、わずかに 身を起こし、煙草をもみ消すような動きをした。部屋に灰皿は置いていないから、煙草と一緒に携帯灰皿でも買 ってきたのだろう。 僕としてはまだこのまままったりした時間を味わっていたかったのだけど、射精できない僕とは違って、男には 射精後の虚脱感という雄の生理がある。ぎしっとベッドが揺れ、男がベッドを降りた。予想通り、冷蔵庫から飲 み物を持ってくる。プルトップを開ける音が聞こえたから、おそらくビールでも買ってきていたのだろう。男は 歩きながらごくごくと飲み下し、大きな息をついた。 「五臓六腑に染み渡るっていうのは、こういうことだな。ふうう。生き返ったよ。ポチも喉が渇いただろう」 そういいながら、男は僕の横に腰を下ろした。僕は余韻に浸るのに忙しく、それほど喉の渇きを覚えていなかっ たけど、そういわれると急に喉が渇いたような気もしてくる。頷いたのと、身体に男の手がかかり仰向けにひっ くり返されるのが同時だった。上体が持ち上げられ、背中にクッションがあてがわれる。脚がM字に開脚されて、 男の手が股間に差し延べられ、呼吸の具合を確かめられた。この体勢なら呼吸は大丈夫。 男がベッドに這い上り、僕の身体を跨ぐように膝立ちした。男の手が僕の顔面を這い回る。僕の頭部に食い込ん でいるストラップの絡み具合を確認しているようだ。頬と顎、首輪の部分でストラップの連結が解かれる。口に 嵌め込まれていたボールが抜かれたけど、頭全体にはまだしっかりとストラップが絡みついていた。口周りだけ のストラップを外してくれたようだ。短いストラップが金具で連結しているネットだから、こうして部分的に外 すこともできるというわけだ。ゴムマスクが口の上まで捲り上げられた。 喉に収められたチューブが引き出され、浣腸器の先が捩じ込まれた。男がもぞもぞと動き、シューッという音に 続いて、じょぼじょぼと液体が浣腸器の中に注がれる。注入はずいぶん長くかかった。カチンとガラス製のシリ ンダーにピストンが嵌め込まれる音がした直後、僕の胃の中に温かな液体がドッと送り込まれた。ん?っと何か が頭の隅に引っかかった。それが何だかわからないうちに注入が終わる。シリンダーに入ってしまった空気が最 後に送り込まれ、僕の胃の中をぼこぼこと泡立てた。浣腸器が外され、パイプに栓が捩じ込まれて喉の奥に押し 込まれる。僕は首を傾げながら、胃を押さえた。身体に食い込むストラップの菱形の隙間から胃を押すと、タブ ンと中の液体が揺れる音がする。 「おや。ばれちゃったかな。さすがに、混ぜ物なしだと」 何のことだろう。ばれたって・・・もしかして・・・。男が僕の傍らに身体を横たえ、僕の肩を抱くようにして 引き寄せた。僕は頭を男の胸にもたれる格好となる。抱かれるのは嫌な気分じゃなかったけど、胃の中の液体の ことが気になって楽しめない。男が僕の手を取り、自分の股間に導く。そこにはすっかり萎れた男のペニスが寝 そべっていた。揉めというのだろうか。僕は男の命令を待った。でも、命令はなく、代わりに股間と大腸の奥で 柔らかな振動が発生する。 低周波はレベル1。大腸の奥には、まだ十数個のボールバイブレーターが残されていて、それらも一斉に振動を 開始した。ぞわわと逆毛立つけど、不快からではない。僕は反射的に身をくねらせてしまった。ドプンと胃が鳴 る。でも、熾火を掻き回されたみたいに、消えかけた余韻が復活して、胃の中味から注意が逸れてしまう。除け られた手の代わりに、男の手が僕の胃に置かれ、優しく揺すった。たぶん、とっぷんとよく響く。 「ゲップしてみろ」 そういいながら、男の手が僕の胃を押すように揉んだ。3度目で盛大なゲップが出て、鼻に抜ける。そのとたん、 いいようのない臭いが鼻粘膜を刺激した。こんな臭いのする物、僕はひとつしか知らない。ああ、考えたくない。 でも、その単語はもう僕の脳裏に閃いていた。オシッコ。尿。小便。えぐみのある生臭い臭い。まさにそのもの だった。 「お、ゲップ出たな。臭うだろ。・・・ポチの胃にたっぷり詰まっているのは、混じりっ気なし、出したての俺 の小便だよ。おっと!」 思わず男を突き飛ばして、ベッドから降りようとした僕を、男は力づくで離さなかった。肩から回された手が僕 の腕を押さえ、半身を被せるようにして毛むくじゃらの脚が僕の脚を押さえつける。僕の男側の腕は、男の腹に 押し潰されて、これも動かせなかった。僕は唯一動かせる頭を振り立てることしかできない。 「どうどう。まあ、落ち着け。落ち着けったら。もう入ってるんだから。今さら慌てたって手遅れだよ。今のポ チの状態じゃ吐くこともできんだろ。吐いたら鼻が詰まって窒息するぞ」 何をいっているんだ。頭にきて暴れようとしたとたんに、股間の低周波が一気にレベル7に上げられた。自分の 意志ではなく身体が跳ね上がろうとしたけど、苦もなく男に抑え込まれてしまった。一瞬でレベルが下がり、股 間に爆発した苦痛は消える。僕はノックアウトされ、ぐったりと伸びてしまった。 「吐きたいなら吐かせてやってもいいが、その前にひとつだけ答えてみろ。胃の中に小便を入れられたってわか って、吐き気はしたか?」 何でそんな馬鹿な質問をするのだろう。あたりまえじゃないか。他人の尿だぞ。他人の尿を飲まされて、吐き気 がないわけ・・・。吐き気がないわけ・・・。あれ?僕はつんのめるように戸惑った。吐き気はしていなかった。 自分で自分が信じられない。そんなわけないのに。でも、生理的嫌悪感も湧いていない。腹をへこませ、胃をた ぷんと鳴らしてみる。それが他人の排泄した小便なんだと、いくら自分にいい聞かせても、何の感慨も湧かない。 騙し討ちみたいに告げられて驚き、断りもなくされたことに腹が立っただけだった。でも、よく考えると、僕は 断りもなく何をされても文句をいえる立場じゃない。さすがに、尿を飲まされるとまでは予想もしていなかった けど。 「吐き気はしたか?今も吐きたいか?」 もう一度訊かれた。僕は自分自身の業の深さにあきれながら、不承不承、首を振った。 「だろうと思ったよ。糞をひり出す穴で交わるんだ。小便どころか糞の臭いだって気になんかしない。男同士の まぐあいなんてそんなもんだろ。今まで男と関係したことのないポチだって、浣腸して糞小便まみれになってよ がってたよなあ。自分の尻マンコに突っ込んだ張り型をそのまま舐めたことだってあるだろう。おまえには、も ともとスカトロの素質があるんだよ」 そういわれると、確かにディルドオで自慰して、感極まってそれを口にしたことはある。浣腸して排泄する時の ポーズによっては、全身自分の糞尿まみれになったこともある。だからって、それを口にしたことはないし、口 にしたいと思ったことは・・・正直にいえば、ないとはいえない。だからって、自分の物ならまだしも、他人で ある男の小便を進んで飲みたいとは思わなかった。 「手を離すけど、暴れるなよ」 そういって男は、僕の上から身体をどかした。暴れる気はない。でも、何となくシャクに障って、身体をひとず らし男から離してやった。 「吐き出したいか?」 そう訊かれると、そのまま受け入れるのもあさましいような気がして、僕は頷いていた。ガサガサと音がして、 手に何かが握らされた。コンビニのレジ袋のようだ。 「その袋に吐くといい。喉の管は全部は抜くなよ。それでも吐けるだろ」 吐いた後に、今度は本物の水でも入れてくれるっていうのかな。何となく成り行きで吐くことになったけど、も う腹は立っていないし、その点は素直にいうことをきくことにした。自分で喉奥の栓をつまみ、半分ほど引っ張 り出して栓を取る。身体をもっと起こし、袋を口に当てて構えた。胃の中の尿の存在を思い起こすように意識し て、吐き気を高めようとしたのだけど・・・吐き気が起きない。腹筋に思いっきり力を込めてみたけど、胃袋が ひっくり返る様子もない。何回も試してみたけれど、一滴も漏れだしてこようとはしなかった。意地になって指 を突っ込み、舌の根を押そうとして、突然何だか馬鹿馬鹿しくなった。僕はかっくりとうなだれ、溜息をひとつ 股間から漏らして、手にしたレジ袋を放りだした。手探りで抜いた栓を見つけ、喉チューブの口に捩じ込んで奥 へと押し戻す。それから男の寝そべっている方向に身体を捻り、両手を拡げて見せた。 「吐かなくていいのか。俺の小便だぞ」 男がわざと意地悪ないい方をしているのがわかる。手を胃のあたりに当ててみる。さっきまでは熱いとすら感じ ていた内容物が、今では体温に馴染んでしまっている。小便か・・・。出したての尿はキレイだというし、昔、 飲尿健康法なんていうのが流行ってたことも思い出した。何だか目くじらを立てる方がおかしいような気にもな る。精液だって飲んだんだ。精液と尿、どちらがおぞましいかなんて、優劣をつけられない。返事する代わりに 捲り上げられたゴムマスクを降ろし、外されたゴムボールとストラップを自分で全部元に戻す。 ふと、今まで水分補給された時の男の手際について思い出してしまった。僕が白湯だと思っていた物も、もしか したら・・・。その疑問を男に訊いてみたくて、身振り手振りで伝えようとしたけれど、ジェスチャーゲームは 散々な失敗に終わった。そんな複雑な内容を、身振り手振りだけでどう表現すればいいというのだ。男も真剣に 理解しようとはしてくれたけど、トンチンカンなやりとりにしかならない。僕は頭を抱えてしまった。 「・・・お、そうだ、いい物があった。ちょっと待ってろ」 そういい置いて男がベッドを降りた。キッチンへ向かったようだ。何だろうと首を捻りながら待っていると、男 が戻り、僕の横に腰を下ろした。僕の腹に何か板状の物が乗せられ左手を取られて、それを斜めに支えるように 導かれた。右手に太目の棒状の物が握らされた。板状の物を縁取る金属フレームの感触と、表面に親指を滑らせ た時のきゅっと音のする滑らかさで、それがホワイトボードだと見当がついた。メモ帳代わりに、冷蔵庫のドア に貼っておいたものだ。なるほど、これなら筆談ができる。 「ホワイトボードだよ。右上にボード消しがくっついている。ペンのキャップは外してあるから、そのまま書け ばいい。これならいいだろう」 タイヘン結構です。ただ、目の見えない状況で字を書くのは難しそうだけど。でも現状ではベターな方法だろう。 僕は男への質問をきゅっきゅと書き始めた。 「どれどれ、えー。まえに・・・飲んだ・・・水も・・・オシッコだったんでしょう?・・・ほおお、気づいて たのか?いや、すまん。そうなんだよ。内緒にしとこうと思ってたんだがな」 やっぱり。どうりで僕の胃に馴染んでいたはず。目が見えない状態で漢字を書くと字が崩れて読みづらそうだっ たし、書くスピードも遅くなるので、僕はかなだけ使って書くことにした。 「えーと。なんで?ってか・・・いやあ、まあ、ちょっとしたイタズラ心というか、頭からウンコの飛沫を浴び せられた時にさ、口の中にも一滴入ったんでなあ。他愛ない仕返しのつもりでさ。最初はそんな感じで、後から は・・・そうして飲ませるたびに、おまえが素直に心を開いてくれるようになった気がしたもんでさ。それに、 何というか・・・俺の小便で、おまえを臭いづけしてやりたくなったってことだな。犬の縄張り示しみたいな心 理だな・・・マーキングってやつだ・・・俺の物だっていう」 へえ。あくまでも行きずりの関係で終わらせようとしているから、結構冷淡な人という感じがしてたけど、男に も独占欲みたいなものがあったということか。縄張り。マーキング・・・犬のオシッコ引っかけ・・・僕は電柱 なのか。つい笑えてしまった。自らの排出物で汚すことで、対等であるべき人格を貶め、支配する。そうやって 自分だけのものにしようという男の心理は理解できるような気がする。汚された僕自身、自分の消化管から男の エキスが体内に吸収され、身体を乗っ取られていくような思いもしていた。支配と被支配。精液に尿という、言 葉でも行為でもなく、最もリアリティのある生臭い実体だけにひとしおだ。 まてよ、と思った。盗みに入った先の一過性の関係のはずなのに、そこまでしたいと思う心理って何だかそぐわ ないように思える。それに、内緒にしておこうと思っていたなら、何でさっきは不審を抱かせるような動きをし て、僕が確証もなく、まだ単なる疑問にすぎなかった時点で、自分から明かすようなことをしたのだろうか。尿 を飲ませるなんて過激なことを告げて、せっかくいい雰囲気になりつつあった関係を台なしにするようなことを。 いろいろな可能性は考えられる。悪くも捉えられる。でも、今日になってからの男の行動や言動を、耳だけでな く身体で感じた勘みたいなものを信じるなら・・・。 「ん?何々・・・どうしていまになって、オシッコのこと・・・はくじょうするきになったのか・・・ってかあ。 うーん。いや、まあ、いわないでいるのが卑怯なような気がしてさ。ポチを騙したままっていうのがな」 僕はいったんボードをクリアし、新たな文字を書きつけた。 「あー・・・いわなければ、卑怯とも騙したともわからなかったのに・・・って・・・うーん、確かにそうなん だが・・・何故っていわれても」 筆談はやはりまだるっこしい。遠回しな会話には向かない。だから、直裁に訊いてみた。 「え?・・・僕のこと好きになっちゃったんでしょ・・・って、おいおい。いや、その・・・まあ何だ、泥棒と その被害者。それ以上にはなれないし、なっちゃいけないだろ」 否定はしているけど、その裏に潜む動揺が感じ取れる。僕には充分な回答のような気がした。僕はさっき離れた 距離の分、身体を戻し、男にくっついてやった。 ********************************************************************** animanoike05へ続く