rubberdoll  作: 玲
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rubberdoll-25 皮膚修復。

ずぶりと、ロドニーのペニスが僕の肛門に突き立てられた。ロドニーとは僕の術後
の計測を任された助手の名前。ただの人形に自己紹介するつもりはないようだった
が、肘と膝を直角に曲げられて四つん這いの姿勢でベッドの上に据え置かれた僕の
目の前、脱ぎ捨てられたグリーンの術衣にネームプレートがピンナップされていた。

僕の中に根元まで突き立てられたロドニーのペニスは、ロジャーやマッドに比べる
と可愛いとさえ思える小ぶりさだ。1ヶ月間の鞍馬詰めで、30人近くいる野卑な
介助士達に24時間休む間もなく犯され続け、精液をガロン単位で体内に注ぎ込ま
れてきた僕は、いまさら誰に犯されようと動揺することもない。パブロフの犬並み
の条件反射で、徹底的に鍛えられた肛門と直腸を反射的にうねくらせる。

腕と脚のすべての関節に金属を注入されるという10時間にもわたる大手術の後だ
というのに、療養室に戻されることなく、僕はロドニーの男臭い個室に運び込まれ、
ダッチワイフにされてしまった。麻酔もなしで関節を金属化される苦しみに耐え抜
いた後では、できればひとりになってささくれた精神を癒したかったけれど、そん
な贅沢はいえないようだ。

ロドニーにしたって手術の間中、助手として立ちっぱなしで働いていたのだし、術
後検査などの後処理で超過勤務を強いられて、相当に疲れているはず。小ぶりなが
ら白人にしてはかなりな硬度があるのは、俗にいう“疲れマラ”という状態なのだ
ろう。ロドニーに、ドクター・ペインの目を盗んで勝手なことをする度胸などある
はずもないから、手術後の後始末という超過勤務の代償にドクター・ペインから使
用許可を与えられたという想像が容易にできる。

考えようによっては、僕もロドニーもドクター・ペインの被害者ともいえるだろう。
それに、まあ、30人に連続で犯され続けることを思えば、ひ弱そうなロドニー君
ひとりくらいなら楽なものだ。ゴリラレベルの介助士達に慣れてしまった僕にして
みると、線の細いロドニー青年は初々しく感じて、親近感さえ湧いてしまう。自動
的に動いている肛門と直腸を親愛の情を込めて意図的に動かしてあげた。

僕の尻に必死にしがみついて、ゼンマイ仕掛けの猿のように腰を打ち付けているロ
ドニーは、改造され鍛錬され、そのうえ意識的にテクニックを加えた直腸と肛門の
蠢きに、1分と保たなかった。百舌の鳴き声のようなせわしない呻きを漏らして僕
の尻にしがみつき、大量の濃厚な精液を噴出させる。欲求不満が相当に溜まってい
たようだ。前立腺の搾り滓まで出せるときに出しておこうと、未練がましく腰をひ
くつかせていた。そのくせ、射精が終わるとそのままベッドに倒れ込み、カビ臭い
毛布にくるまってたちまち眠り込んでしまった。

足元の毛布が引っ張られたせいで僕もよこざまに倒れてしまう。ベッドから落ちる
のではないかと一瞬ヒヤリとしたが、尻が半分ほどはみだしただけでベッドの上に
とどまっていられた。ほっと一息つく。といっても口から空気を吐き出せない僕に
は、比喩でしかないけれど。すぐに壮絶ないびきが始まった。それは一刻も休むこ
となく部屋中に響き渡る凄まじいものだったが、騒々しい介助士ラウンジで24時
間酷使され続けたときに比べれば、ほどよい子守歌のようなものだ。呼吸のため開
かざるを得ない肛門から、垂れ流しになる精液のとろとろとした滴りを行儀悪く感
じているうちに、落とし穴のような睡魔が僕を呑み込んだ。1カ月間の慢性的寝不
足が堤防を決壊させ、僕は失神ともいえるような深い眠りの底なし沼に沈む。

翌朝、元気を回復したロドニーの欲情を尻と口で一回ずつ処理させられた後、シャ
ワールームで直腸の中まで清掃された。ロドニーは看護婦や介助士と違って、身体
清拭の経験に乏しいのうだろう、ひどく手際が悪く、時間がかかる。とはいえ、手
際は悪かったものの手抜きはされず、車椅子に乗せられた時には気分爽快だった。

車椅子の向かった先は、初めての場所で、ドアプレートには「マイクロ修復処置室」
とある。中に入ると、大型バスほどもある巨大なシリンダー装置が、横置き状態で
部屋のほとんどを占めているのが見えた。その円筒の中ほどから飛び出したヒレの
ようなコンソールに向かって技師がひとり座っている。大きな部屋なのに巨大装置
に占有され、わずかに残ったスペースも得体の知れない機械類で埋められて、かろ
うじて残されたような狭い通路を、技師の前まで運ばれる。椅子を回して振り返っ
た技師の好色な視線で、僕は全身を舐め回された。男を受け入れることには抵抗も
嫌悪も感じなくなっていたが、無遠慮で下卑た視線に晒されると、羞恥で身体が火
照ってしまう。

「ドクター・ペインの最高傑作とは聞いていたが、これの元材料があのジャップの
モンキーだったなんて信じられんな。見ただけで勃ってきちまう。修復も高精細レ
ベルでとオーダーがきてるが、なるほどね」

「高精細レベルというと、毛穴まで消してしまうレベルですか。時間も相当かかり
そうですね」

「傷跡も古傷もホクロもシミも毛穴も何もかもさ。時間がかかるのは当然だ。レー
ザー測定のデータは持ってきたろうな」

ロドニーがCDディスクを差し出すと、技師はそれをコンソールのスロットに差し
込んだ。読みとりの間があってほどなく、ディスプレイ上にワイヤーフレームの人
体モデルが現れ、それがあっという間にレンダリングされて写真のような僕、タミ・
ジョの姿になった。

「ミクロ走査モードにしてみると・・・ほほう。肉眼じゃあ見えないが、凄いな、
全身ずたずたに切り込みがある。最高傑作というだけあって、手が込んでる。こい
つは時間がかかるな。修復予想時間は・・・126時間だと。こいつは最高記録だ。
並みの10倍以上かかっちまう」

「126時間・・・5日と6時間。じゃあ、来週水曜日の16時に受け取りにくれ
ばいいですね」

「そういうことだ。こっちはその間、交代の技師とふたりだけで、つきっきりでモ
ニタしなきゃならないということさ。味見させてもらいたいところだが、許可なし
でやっちまうわけにもいかんしなあ。目の毒だから、さっさとマシンの中にセット
しちまおうか。まず、指を拡げて・・・あ?硬いな」

「ああ、それは関節硬化処置をしてあるんです。曲げたい関節をまず引っ張れば、
曲がる状態になります。お手伝いしますよ」

「ほう、こうか。ほほう。なるほど、曲がるな。じゃあ、手を貸してくれ。あんた
は左手の指をまっすぐに伸ばしてして大きく拡げてくれ。それが終わったら脚の指
もできるだけ大きく拡げるようにして固定だ」

僕の関節がぐいぐい引っ張られ、ピンと伸ばされていく。手足の指がめいっぱい拡
げられると、手も脚もまっすぐに伸ばされた。腕は身体に付かないように心持ち拡
げられ、脚も肩幅ほどに拡げられる。円柱の一部が横に長く開いていくのが見えた。
それを最後に瞼が閉じられ、二人がかりで持ち上げられて円柱の中に収納されてし
まう。尻の穴に硬い筒具が差し込まれ直腸栓に接続された。呼吸管だろう。開きっ
ぱなしの口からは別のパイプが突き込まれ食道に詰まった。こちらは水分補給と食
餌のためだろう。

それからしばらく間があった。ロドニーの手の感触とは違う手が、僕の股間を執拗
に撫でさする。つるんとした肉の丘でしかない股間の感触がそそるのか、泣きたく
なるほど延々とまさぐられた。皺ひとつないのっぺらぼうの股間に触れられるたび
に、あるべきものがないという現実を否応なく実感させられ、喪失感が冷気のよう
に僕の心を凍らせる。

自分がもう男ではなく、まして女でもなく、模造品であるという認識が、針のよう
心に刺さってくる。手指がなごり惜しそうに離れていった後も、カサブタを剥がさ
れてしまった心がしくしくと疼き、僕を動揺させ続けた。だから、開口部が閉じて
いく音がして、瞼を透けてくる光も感じなくなり、機械の腹の中にたったひとり封
じ込められたと知ったとき、僕は恐怖ではなく安堵を感じた。

僕の肺は自力で膨らむこともできなくされて、どんなに動揺しても息を荒げること
すらできない。さざめいている気持ちを落ち着けるために、深呼吸がしたかった。
閉所恐怖もあったのだろうか、動かない肺に意識が集中し、肺があたりまえのよう
に動いていた頃の感覚が蘇って、それが窒息感の引き金になった。パニック発作が
生じて、ハウリングのように理性を吹き飛ばした。

こんな境遇にされてしまって、ときどき何でもないきっかけから感情が暴走するこ
とがある。そのまま発狂した方がどれほど楽かと思うのに、生存本能というよけい
な機能が、僕の意志とは無関係に、奈落の淵から僕を引き戻してしまう。動かない
肺の代わりに、金魚のように肛門が喘ぎ、破裂寸前の感情の圧力を逸らせていく。
パニックは回避され、ギザギザになった感情の昂りもゆるやかな下降線を描いて鎮
まっていく。僕にとって不幸なことは、引き戻された現実が、死や狂気よりも悲惨
な地獄だということだった。

気分が落ち着き肛門から力が抜けていく頃、背中にぬるっとした液体を感じた。音
もなく液体は量を増し、比重の高い液体なのだろう、僕の身体が浮き上がっていく。
全身が浮き上がり、まるで無重力空間のような心許ない感覚がする。続いて、最初
の液体とは感触の違う、さらっとした液体が僕を浸していく。その液体は僕の身体
より比重が軽いのだろう。僕は完全に水没し、比重の違う2種類の液体にサンドイ
ッチされて、液中に固定されてしまった。

そしてスキン修復処置が開始された。頭全体に、なにか小さな小さな接触を感じる。
無数の髪の毛がさわさわと絡みついているようでもあり、無数の針で突かれている
ようでもある。ある部分は熱いようで、ある部分は冷たくも感じる。電気刺激に似
たピリピリする感覚もあり、時折チクリとした痛みもあった。それらが一体となっ
て、そこら中を無数の虫が這い回っているような感じがする。どのような技術なの
か皆目見当もつかない。とにかくそれが僕の皮膚を修復し、切り刻まれた傷も毛穴
もすべて消してしまうということだけしかわからない。こんな状況で眠れるかどう
か心許なかったが、そんなことを考えているうちにも僕は眠ってしまった。

乳首が突き回される快感で意識が半ば戻った。頭部に虫どもの感覚はない。修復は
順次下へ移動したようだった。何時間が経ったのかまるでわからない。僕は再び眠
り込んだ。

突如、指先をバーナーで炙られているかのような激痛が走り、僕は叩き起こされた。
臍のあたりと指先に虫どもの活動を感じる。その指先が痛い。抜き取られた爪の跡
が、ほじくり返されているみたいだ。予想もしていなかっただけにショックが大き
く、僕はパニックを起こした。全身の神経に過電流が流れたかのように緊張が走り、
もし筋肉固定処理を受けていなければ釣り上げられた魚のように跳ね回っていただ
ろう。実際は舌が口の中で跳ね回り、肛門に差し込まれた呼吸管をへし折りそうな
ほど括約筋が収縮する。アドレナリンが大量に分泌され、全身の血管が収縮すると
同時に心拍数が上昇する。反射的な呼吸昂進が起きても肺は動かず、それが強烈な
窒息感をもたらして、パニックを助長する。苦しい。息が吸いたい。

酸素消費量の増加を検知した体内センサーが酸素量を増加させてくれたのか、肉体
的なパニックはすぐに収まった。しかし、心理的なパニックは意志の力でしか押さ
え込めない。痙攣的に収縮した肛門括約筋が尻の中にある呼吸管の太い存在を伝え
てくる感覚に必死で集中し、窒息するはずがないことを自分にいいきかせた。何度
も何度も呪文のように、窒息することはないと自分に言い聞かせる。ようやく心理
的パニックが収まると、忘れていた指先の苦痛を再び感じ始めたが、落ち着いて苦
痛の度合いを見極めれば、過去の苦痛体験で自己流に開発した、強引に意識を逸ら
すテクニックで、やりすごすことができるレベルの痛みだとわかる。びっくりした
あまり、こんなレベルでパニックしてしまった自分が恥ずかしくなった。

永遠にも思える苦痛の時間がナメクジのようにべとべとと過ぎていく。それが数分
だったのか、数時間だったのか数十時間だったのか、僕には知りようもない。薄膜
が剥がれていくように指先の苦痛は消えた。胴体の虫どもは臍のあたりまで降りて
いた。

無為の時間。虫のざわめきだけが唯一の刺激。たとえ不快な刺激でも感覚遮断状況
においてはありがたい刺激だ。その刺激に集中することで、ともすれば拡散してし
まう意識をかろうじて束ねておける。そうやって保たれた意識活動を楽しみながら、
僕はぼんやりと指先の苦痛が意味するところを考えていた。

指先といえば爪だ。僕の爪は全身の大改造のときにすべて抜き取られ、爪の跡さえ
跡形もなく消されていたけれど、爪が剥がれたくらいでは新たな爪がまた生えてく
る。虫どもは指先の皮膚の修復だけではなく、指の内部の爪を生やそうとする仕組
みそのものを破壊していたんじゃないだろうか。歯と指先は、いちばん神経の集中
しているところだというけれど、皮膚の修復だけであれほど痛みが生じるとも思え
ない。内部をいじられて、その神経を刺激したんじゃないだろうか。

僕の意識レベルは痴呆状態に近いほど低く、必要な集中を維持できずに思考は脱線
と散逸を繰り返しながら、それでもようやく集約させた解答らしき推理だった。

それが正しいのか、とんでもない見当外れなのかは僕にとってさしたる問題じゃな
い。疑問を抱えたまま宙ぶらりんな気持ちでいるのが嫌なだけだったにすぎず、解
答らしきものを得られれば心穏やかになれるというだけのこと。僕は再び平安の中
に沈み込もうとした。

しかし、靴の中の小石のように心に引っかかるものがある。それが僕を眠らせてく
れなかった。自分に活を入れるため、僕は舌と肛門を闇雲にひくつかせ、馬鹿にな
った頭に刺激を伝えた。まったく、僕の脳みそは干涸らび、萎縮しているのかもし
れない。干物から水分を絞り出すような悪戦苦闘の時間が延々と続き、ようやく思
考の一滴を絞り出すことに成功した頃には、虫のざわめきは僕の股間と尻を撫で回
していた。

絞り出してみれば単純であたりまえのこと。何か忘れているような気がしていたの
は、手指に以外にも爪があるという事実だった。つまり、虫たちが頭から順番に僕
の体表面を修復していけば、最後に脚の指先に達し、そこにも爪があったというこ
とで、再びあの苦痛が生じるという確度の高い予測だった。

喉に引っかかっていた魚の骨が取れたような幸福感に包まれて、僕は今度こそ平安
の境地に自らダイブしていった。意識は分解し、溶け、霧散してしまう。次に意識
が寄り集まったのは、虫たちが足首に達したあたりだった。虫たちが波立てる範囲
が徐々に徐々に移ろい、足先に達したとき、予想通りあの灼けるような苦痛が生じ
た。思考とは素晴らしいものだ。今度は心の準備ができていたから、パニックにも
ならず耐えることができた。

足指の苦痛が消えたとたん、一瞬のタイムラグがあって、ごぼごぼとこもった音と
ともに、僕を浮かべていた液体が排出されていった。水位の低下とともに僕の身体
もゆっくりと降りていく。空洞内のクッションに背中が受け止められ、じゅるじゅ
るごぼぼっと何だか卑猥な音がして、最後の液体が排水溝に流れ落ちていった。ゴ
クンという振動とともに扉が開いたのだろう、瞼越しに光が差し込んだ。修復室の
天井の弱い光に過ぎないはずなのにこれほどまぶしく感じることが、5日間という
長い時間の経過を示していた。

4本の手が僕を機械から引き出す。棒のように硬直している僕の身体が半回転され、
いったん床に立てられた。液体の残滓をざっとタオルで拭い取られた後、再び持ち
上げられ、いつもの車椅子ではなく平らなクッションの上に寝かされた。おそらく
ストレッチャーなのだろう。病人になった気分だ。ストレッチャーで運ばれる先と
いえば手術室、という連想が湧いた。あまりぞっとしない連想だったから、僕は得
意技になっている思考停止のスイッチを入れた。

「お疲れさまでした」

ロドニーの声が聞こえた。ロドニーとは肌を合わせた関係だから、心理的に依存心
が生じてしまう。瞼を開けてもらえないかな、という甘え心の淡い期待が浮かんだ
が、神様は昼休み中のようだった。

「ここにサインしてくれ」

技師の声がして、しばらく間があり、僕は修復室から運び出されていった。少しは
休ませてもらえるだろう、などという淡い期待をしていたが、神様は長期休暇中で
南の島へバケーションに出かけているみたいだった。

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