rubberdoll  作: 玲
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rubberdoll-22 順応。

口にも肛門にも休む間もなく男根が挿入され続け、しかも目を開いたまま自力では
閉じられないという状況で、眠ることなど不可能だと誰しもが思うはず。僕も犯さ
れ始めて最初の2日間はそうだった。一睡もできず休む暇なく酷使され疲労が頂点
に達したとき、射精し終えたペニスが引き抜かれ次のペニスが入ってくるわずか数
秒のインターバルに、僕は失神ともつかない瞬間の眠りを経験した。開きっぱなし
の目の焦点がぼけ、見ている物が意味をなさなくなる。まるで再び瞬きができたか
のようだった。一瞬の暗黒が鉈のように流れを絶ち切り、意識が飛んだ。次のペニ
スが挿入されようとしてはっと覚醒し、目の焦点が戻る。ほんの一瞬の出来事では
あったが、その意識の暗転が眠りであることははっきりわかった。ペニスが連打さ
れ、たっぷりと射精して抜け出していく。すると再び、僕の意識は大波をかぶった
砂の城のように一瞬でフェードアウトした。瞬間的で断続的ではあったが、目を開
けていても眠れるということを知り、短くとも繰り返すことで破裂しそうなほど高
まった睡眠不足の圧力を逸らすことができる。

介助士達の忙しい時間帯なのか、ときどきラウンジに誰もいなくなることがある。
目を開けたまま眠ることを覚えて、そんな台風の目のような数十分間、僕はスイッ
チを切ったように熟睡することができるようになった。しかし僕が眠れるのはそん
な切れ切れの数十分ずつ。全部かき集めても1時間足らずであり、それで睡眠が足
りるはずもない。

4日目にもなると蓄積した疲労が岩のように僕を押し潰し、僕の意識レベルはどん
どん低下して、ついには半睡半覚で性処理器具としての酷使に対処することができ
るようになった。僕の意識はつねに夢うつつのような状態となり、ペニスを差し込
まれたときだけ小石を投げ込まれた静水のごとくわずかに水面が波打ち、射精させ
るための活動を始める。射精が終わると意識は再び泥沼のような混濁状態に沈み、
束の間の眠りに戻る。極限状況に追い込まれた僕は、性処理の自動器械となること
でかろうじて睡眠を確保できるようになった。

同じ男に犯されるという、あれほど生理的嫌悪感を感じた行為も、毎日毎日休む間
もなく延べ数百本のペニスに貫き通され、生臭い精液をリットル単位で浴び続けれ
ば、感情の昂りなどあっという間に鈍磨し麻痺してしまう。少しでも早く射精させ
ることが、その分眠りの時間を長くすると気がついてからは、僕は積極的に対応す
るようになった。舌を使い、喉を締め、吸い上げ、括約筋を伸縮させ、気張り、弛
め、蠕動させる。半ば眠っている状態ながら、自分の行動に対する男達ひとりひと
りの反応を積極的に学習した。僕は男達全員のペニスの感触を身体で覚え、挿入さ
れただけでそれが誰のペニスなのかわかるようになった。ひとりひとりの快感のポ
イントも理解し、意識せずとも自動的に最適なやりかたで舌や括約筋を動かすまで
になった。

一週間も経つ頃には、男達も最初の目新しさが失せ、あまりに強烈であっという間
に精液を搾り取られてしまう粘膜膨張を使わない者も増えてきた。そうなるとます
ます挿入時間が長引き、僕は自分のテクニックで男達を素早くイカせなければ休め
ないことになる。虚仮の一念とでもいうのだろうか。必死で舌や括約筋を動かして
いるうちに、粘膜膨張状態にされていないとき、舌や括約筋に連動して口蓋や直腸
をわずかながら自分の意志で膨らませたりくねらせたりできることを発見した。直
腸のことはわからないが、口蓋の上部などに筋肉があるはずもない。それがかすか
なくねりとはいえ動くということは、ドクター・ペインに外科的に筋肉を移植され
ているという推定がいちばんありそうなことだった。この状況ではそれを恨めしく
思うこともなく、僕はただただ睡眠を確保するために積極的に利用した。

男に犯され、あまつさえ精液を飲まされるなんて、絶対に慣れることはないと思っ
ていた。しかし、眠ることも許されないほど絶え間なく犯され続ければ、状況に順
応するしかない。恥垢だらけの汚いペニスに慣れ、喉の奥まで突き込まれることに
慣れ、粘つく精液の味に慣れてしまう。人間の精神は絶え間ない緊張状態に耐え続
けることはできない。嫌悪感は摩耗し、慣れと疲れと諦めが抵抗感すら麻痺させて
いく。僕はいつしか男達の性処理器械となりきって、突き入れられるペニスを淡々
と思考停止状態で処理できるようになっていった。

それでも、嫌悪や拒否や恨み、自尊心や矜持のかけらといった、まだ僕が人間であ
り続けるために最低限必要な感情が、心の奥底に誰にも気づかれないようひっそり
と、厳重に封印されて隠されていた。自分自身ですら気がつかないほど深い無意識
に沈めて秘匿していたというのに、ドクター・ペインはそんなささやかな砦すら見
逃がしてはくれなかった。その手法は考えうる最悪のおぞましさであり、それだか
らこそ残酷なまでに効果的だった。

ラウンジで2週間が過ぎたとき、ロジャーが重そうなポリタンクを運び込んできた。
僕の口と肛門をせっせと犯し続けていた介助士ふたりを引き剥がし、休憩室のあち
こちで汚物と同化しかけている非番の介助士達を呼び集めた。勤務を終えたばかり
で一刻も早く溜まった精液を処理したがっている介助士達が、口々に不興の唸りを
発していたが、ドクター・ペインの命令だというロジャーの一言で一瞬にして鎮ま
った。

「このお人形ちゃんも、象が溺れるくらい精液をぶち込まれて、ずいぶん従順にな
ってはいるが、精神改造の最後の仕上げをするんだそうだ。ここに持ってきたのが
何だかわかるか。これは交配用の豚の精液さ。豚だぜ。ぞっとするよな。これをこ
れからお人形ちゃんの直腸の栓を通して直接腸内にぶち込み、豚のDNAなんぞを
じっくりと吸収させて、もう人間じゃねえことを心と身体に刷り込むんだと。つい
ては、どうせだからおまえ達の精液も混ぜて入れてやれとのことだ。自分の精液を
お人形ちゃんの奥の奥へぶち込んで、芯から染めるっていうのはちょっと興奮する
だろ。だから一列に並んでこのポリタンクの中に迸らせろ」

僕の視界の真っ正面にポリタンクが置かれ、上のキャップが外された。その中では
とんでもない量の白い液体がだぶんと揺れている。豚の精液。あああああああああ。
豚の精液。頭の中にまで精液が流れ込んだように、僕の意識は白一色に塗りつぶさ
れ、ひたすら「ああああああ」と嘆き続けるしかなかった。肛門がすくみあがる。
それだけが僕の唯一の意思表示。だが、そんな密やかな意思表示に気がつく繊細な
神経の持ち主など、この薄汚れた休憩室にたむろする男達の中にいるはずもない。

ペニスを握りしめた男達の列が、ひとりまたひとりと精液を発射し、最後のひとり
が射精する頃にはポリタンクが満杯となって溢れ出しそうになっていた。ロジャー
がポリタンクの口に、キャップの替わりにホースを繋ぎ、それを下げて僕の後ろへ
回った。男達も好奇に目を光らせてぞろぞろと後ろへ移動していく。

お尻の穴に金属の筒先の冷たさを感じ、括約筋の抵抗など簡単にこじ開けて体内に
侵入してくるのを、僕はどうしようもなく感じているしかなかった。筒先が直腸栓
にぶつかり、ガキンと嵌り込む。身を竦ませることもせず、表情ひとつ変えようと
しないで受け入れているように見えても、その内部では心臓が爆発しそうなほど脈
打ち、脳が声なき絶叫で破裂しそうなほど膨れあがっていることを誰も知らない。

ドブッと粘つく冷たい粘液が腸の奥に流れ込んだのを感じたとき、僕は確かにブチ
ンとなにかが切れる音を聞いた気がした。それは僕を人間であらしめていた最後の
心の糸が切れる音だった。鞍馬の内部のクッションを限界まで押し潰して僕の腹が
膨れていく。男達の歓声や下卑た笑い声を聞きながら、僕はなにか人間以外の物に
変質していった。

なにもかも剥ぎ取られた後に残るのは胎児の涅槃。それは思いもかけない幸福感だ
ったかもしれない。人間であることをやめてしまえば、あれほど苦しかった絶望や
悲哀や苦悶から解放される。目の中に注ぎ込まれた精液の膜を通して世界を眺めて
いるかのような、自閉した無感覚状態がしばらく続いた。その間も僕の喉と直腸粘
膜は肉の棒に摩擦され続ける。意識の干渉がない分、純粋に物理的な刺激として受
け止めると、摩擦自体は快いものである。刺激に反応するアメーバのように、僕は
その快さに本能的に身を委ねていた。破壊された精神が少しずつ修復されていくに
つれ、僕の自意識も立ち直り始めた。そのまま永遠に失ってしまえば楽だったのに、
生命の快復力とは時に残酷なものなのかもしれない。それでも、もう僕は以前のよ
うに嫌悪することもなく、それどころか粘膜を摩擦される快感すら感じ始めていた。
喜びを持って男達を受け入れるようになり、男達の喜びを引き出すことに喜びを覚
えた。僕の前後のふたつの穴を褒められると、素直に誇らしさを覚え、ペニスへの
奉仕にいっそうの気持ちを込めるようになった。

身体だけでなく精神までこじ開けられ、何もかも受け入れてしまうと、犯されてい
ないわずかなひとときに自閉の殻に閉じこもることもなくなり、ラウンジにたむろ
する男達の会話も耳につくようになってきた。切れ切れの会話の断片ではあっても、
寄り集まれば情報となる。僕は自分が連れ込まれた場所がどのようなところか、初
めて知ることができた。クリニックと呼ばれているこの人体改造ラボは、州で最大
の精神病院の地下にあり、カモフラージュされていた。世界規模の人身売買・臓器
売買組織の一部で、もともとは最先端の科学技術や医療技術を開発するために、精
神病院の患者達をモルモット代わりに人体実験し、倫理や法律の枠に縛られること
なく技術を確立するための秘密研究所だった。禁忌とされている人体実験が自由に
できる環境で、技術は急速に蓄積され、表の社会の技術レベルを遙かに凌駕する闇
の技術を駆使して、特権階級の人々の延命や整形美容のための非合法な臓器移植が
行われるようになったのが20年前。そしていまでは依頼に応じて拉致してきた人
間を改造し、依頼者の嗜好品として売買することまで、通常業務の一環として行わ
れるようになっていた。

購入者の元で死んだり殺されてしまった改造体、ときには依頼者が飽きて廃棄処分
となったまだ生きている改造体まで、このクリニックが関与した商品はすべて、最
終的にはクリニックに戻されることになっている。まだ生きている者は、再改造を
受けて新たな商品にリメイクされたり、実験体となっていましばらくの生を与えら
れるが、廃棄処分と決められた者や死体は、クリニックで改造や実験中に死んだ素
材体と同じく、バラバラに分解されて、使える部品は臓器売買に回されてしまう。
残ったパーツの一部は研究用に保存されることもあるが、それ以外の廃棄物はすべ
て最地階の強酸のプールで溶かされ、跡形もなく消されるという。そこまで完全に
システム化され、組織化されている上、権力という強大なシステムにしっかりと根
を張っているがために、この組織が摘発されることなどあり得ないし、秘密が漏れ
ることもないのだという。つまり、いったんこの組織に飲み込まれてしまえば、逃
げることも救出される可能性もないということだった。

性処理器具としての自分を受け入れてしまえば、それは平穏でやり甲斐さえ感じる
生活だった。食餌は一日に一回、クジ引きや賭で負けた介助士が僕のケア当番とな
り、混合栄養液のチューブを喉の奥に差し込み、ほんの一握りを絞り出すだけ。わ
ずか数秒で終わる。切り詰められた僕の胃袋ですら満たされないほどの量しかなか
った。だから、男達の生臭いほとばしりは、常に存在する飢餓感を癒してくれる飲
み物となった。身体の清拭と排泄管の挿入は4日に一度。鞍馬が開けられ、濡れ雑
巾で適当に擦られるだけ。大雑把で、あまりにぞんざいだったが、顔面に飛び散り、
乾いてパリパリになっている精液を拭き取ってもらえるのがありがたかった。一度
破壊された僕の精神にとっては、たとえ虫けらのような扱いでも、なんの屈託もな
く感謝できる。平穏な日々がゆっくりと積み重なっていく。

しかし、もちろんそんな生活がいつまでも許されるわけがない。その日、鞍馬から
取り出され、懐かしいジェシーの顔を目にして、僕は平穏な生活の終わりを悟った。
浴場に運ばれ、身体の隅々まで清められた。僕はこれからのことを心配する無意味
さを知り尽くし、何も考えずに即物的な心地よさを味わった。

「元気そうね。セックス三昧で男の精をたっぷり吸収できたのね。肉も落ちていな
いし、肌の艶もいいわ。今日の手術も大手術になるそうだけど、1ヶ月も休養した
んだから大丈夫よね」

ジェシーから次の手術だと告げられても、僕はもう完全な諦観の境地に達していた。
ラウンジで身をもって知り合った30人の介助士とそのペニス達との別れは少々寂
しい気もしたが、それ以外は凪のような静かな感情のまま、僕は手術室に運ばれて
いった。

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