rubberdoll  作: 玲
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rubberdoll-20 喪失。

キャスターが滑らかに回り、僕と一体化した鞍馬器具は流れるように運ばれていく。
廊下には窓もなく、ただ同じ壁と同じ床が延々と続き、見るべきものもない。こん
なとき、いつもなら僕の意識は自動的に省エネルギーモードに落ち込む。つまり、
目を開けていても何も見ず、何も考えない、半ば眠っているに等しい状態に。でも
今回だけはそうするにはあまりに不安が大きかった。

何度か角を曲がり、廊下の突き当たりにまで運ばれたようだ。最後の角を曲がって
から、廊下の照明まで薄暗く感じられた。ロジャーがつきあたりのドアの鍵を開け、
ドアを引き開けた。暗い入り口が目の前で大きく口を開く。運び込まれたその部屋
は薄暗く、狭い上に棚やら山積みされたダンボール箱やらでますます狭くされた用
具室のようなところだった。鞍馬の角が当たって、立て掛けられていたモップが転
がった。

なんでこんなところに連れてこられたのかわからなかった。他人の思惑に振り回さ
れることに慣れてしまった僕は、ほとんど思考停止状態で、ぼんやりと当惑するし
かなかった。ロジャーとマッドが、背後でごそごそ動く音が聞こえる。

「勝った方が後ろ、負けた方が前でいいな。ついでに負けた方がキャスターのロッ
クもするんだからな」

ロジャーの声にマッドが賛同の唸り声で応えた。コインを弾く澄んだ音が聞こえて、
「表」というマッドの声が響く。手の甲を叩く音、そしてマッドの悔しそうな呻き
声。いったい何を賭けているのだろう。僕はいまだ昼行灯モードに落ち込んだまま
だった。とうに気がついてもよさそうなものを。いや、気づかなかったのではなく、
気づかないようにあえて馬鹿になっていたのだ。とまれ、気がついたところでどう
なるものでもないのだけれど。そして・・・突然、露出している尻を撫でられた。

「おうおう。いいケツしてるなあ、吸いつくみたいだぜ。こんな柔らかい尻肉は初
めてだ」

ロジャーの声が後ろから届いた。耳の機能が鼻の穴に移されて、背後の音は聞き取
りづらくなったといわれたが、狭い部屋で音が反響するからだろう、ロジャーのだ
み声がはっきり聞こえる。お尻の肉の柔らかさを褒められても嬉しくもない。その
とたん、呼気を排出するために弛める癖がつき始めた肛門に、太い指が根本まで突
き込まれた。僕は驚きのあまり、声なき悲鳴を上げていた。いままでジェシーによ
る看護行為としてのさまざまな肛門挿入には慣れていたけれど、こんなに無遠慮で
乱暴な扱いは受けたことがない。

「ぬるぬるだ。締まりも最高だぜ」

ロジャーの指が数回捏ねるように回され、湿った音を響かせた。その指が唐突に引
き抜かれたかと思ったら、入れ替わりに肛門に何か太くて熱い塊が押しつけられた。
思考力が低下しぼんやりした頭でも、さすがに何が行われようとしているのかを悟
る。悟ったとたん、今はもうないはずの全身の毛が逆立つ。一気に意識が覚醒した。

犯される!

でもまさか男に犯されるなんて。考えたこともない。考えたくもない。あってはな
らないことだった。あってはならないことなのに、はっと気がつくと僕の肛門は熱
くて硬いものに強引に押し広げられていた。めりめりっと音が聞こえたような気が
する。確実に容赦なく熱い肉棒の先端が僕の肛門を押し広げていく。僕は括約筋を
必死で締めつけ抵抗しているつもりだったが、それが肛門の締まりをよくし、侵入
してくる肉棒に快感を与えるだけということには気が回らなかった。たった一束の
筋肉で、体重をかけて突き込まれる鋼鉄の棒みたいなペニスを遮断できるはずもな
いというのに、パニックのあまり、そんな自分の間抜けさにすら気がつかない。括
約筋が千切れそうに痛む。ずりっずりっと芯のある肉の塊が入ってくる。入ってく
る。入ってくる。そして・・・ついにペニスの鰓が括約筋の防波堤を突き破り、つ
かえが取れた勢いで一気に奥まで滑り込んできた。ずんっと身体の芯に衝撃が走る。
あああああああああ。犯・・・された。犯されてしまった。僕は男なのに。男に犯
されてしまった。痛いよりも何よりも、僕のアイデンティティが崩壊していく悲し
さに僕は号泣した。顔は相変わらず間抜けな薄笑いを浮かべたまま。

「おおおおおおお。締まるぞ。こりこりして、絡みついてくる」

「てめえ、人がキャスターロックしてるのに揺さぶるんじゃねえよ。がっつきすぎ
だぜ」

マッドの声がした。僕の視界の中に横から入ってきたマッドは、すでにズボンとブ
リーフを脱ぎ捨て、介助士の白い上衣の裾を押し分けて黒檀の棍棒のような巨大な
ペニスを勃起させていた。固定され、つぶることもできない僕の視界の中で、グロ
テスクなほど血管の浮いた一物が、いっぱいに拡大され、脈打っていた。それがこ
れから、僕のどこに入れられるのかはわかりきったことで、恐怖のあまり胃が千切
れそうに痛む。マッドの亀頭が視野いっぱいに迫ってきた。しかし僕には黒人の亀
頭を観察している暇も、絶望している暇さえも与えられなかった。下腹に芯が通さ
れたみたいな重い圧力を生み出して詰め込まれてしまったペニスが、せめてそのま
まじっとしていて欲しいという僕の願いも空しく、激しくピストン運動を始めたの
だ。改造され疣と襞のジャングルのようにされた直腸粘膜が、生のペニスに擦り立
てられ、押し広げられるという、あまりにもおぞましい感覚に、僕の意識は噴き飛
ばされた。

「ヘイ、ロジャー。揺するな。おまえの方もこいつの鼻のスイッチを入れるだろ?」

「おお、ううう。つい我を忘れちまった。こいつは凄いぞ。そんな機能使わなくて
もこれだ。たまらんぞ。スイッチ入れたらアトミック・ボムだぜ、マジに。早くス
イッチ押してくれ」

鼻の穴にボールペンが突き入れられた。マイク自体がスイッチになっているため、
頭の中にがさつく大音響が響いた。まず僕の口腔内がぶくぶくと膨らみ始める。口
の中に他人の手が埋め込まれているみたいに、僕の意志とはまったく関係なく粘膜
が波打つ。もうひとつの鼻の穴にもボールペンが差し込まれ、奥のスイッチを押し
たとたん、ロジャーの獣みたいな叫び声が響く。

「マイガ。なんたる。締まる。吸い込まれる。ひい。う。あ。いく。だめだ。おお
おおおう」

ロジャーが僕の中で精を弾けさせたとき、僕の口に黒い肉棒が杭のように打ち込ま
れた。釣り上げられた魚のように僕の尻にしがみついて射精の痙攣を繰り返してい
るロジャーが射精を終えるまですら保たず、マッドも雄叫びを上げて精液の粘つく
塊を僕の喉の奥深くに噴射した。理性の消し飛んだ2匹の獣に前後を挟まれ、叩き
つけるようなピストン運動にもみくちゃにされながら、僕は性処理の道具として造
り変えられてしまった自分の畜生以下の存在価値を魂の底まで思い知らされていた。
注ぎ込まれた精液の粘りと熱さと味が、精子の数だけの刻印となって、内臓にべっ
とりと刻まれていくような気がした。

ロジャーとマッドは狂喜して僕を賛美し、場所を入れ替えて再び挿入する。どこが
誰に何回犯されたのか判然としないくらい僕は酷使されもみくちゃにされた。僕は
虫以下の思考能力しかなくなり、おぞましい刺激から逃れようと意識の中では暴れ、
喚き、泣き、のたうち、殴りつけようと、右往左往していた。現実にはただ肛門を
ひくひくと震わせるだけだったけれど。

直腸に注入されたふたりの精液は、膨張した直腸が吸い込むように動くために流れ
出すことができず、直腸の奥を膨らませて溜まっていた。30分なのか1時間なの
か、犯し続けられている間、直腸栓からの呼吸は自動的に中止されていた。その間、
僕はどこからも酸素を取り入れることができず、フルオロカーボン液に溶け込んで
いる酸素を消費することで生きながらえていたことになる。それにも限界が訪れた。
突然僕のお腹の中で電子音が鳴り始め、あろう事か声まで発した。

『酸素飽和度低下。強制ベンチレーションを開始します』

自分の腹の中で他人の声が発せられるなんて経験をしたことがある人など、僕が初
めてかもしれない。唖然としてベンチレーションの意味すらとっさに思い出せなか
った。その声が響いたとき、僕の口にはロジャーのペニスが、僕の直腸にはマッド
のペニスが、それぞれしっかりと嵌め込まれていた。

「なんだ今の音。声がしたぞ」

「強制換気っていってたぞ」

ふたりがペニスを入れたまま慌てている。そのとたん、僕の肛門括約筋が僕の意志
に反して最大に拡がり、入り口付近の膨張がしぼむと同時に、直腸奥が握り潰され
たように収縮した。その収縮がウエーブのように、腸の奥から入り口へと走る。腸
の奥に溜め込まれていた精液が奔流となって出口に殺到し、ブジュッという破裂音
とともに、マッドのペニスで栓をされた肛門の全周から噴き出し、マッドの腹とい
わず胸といわず飛び散った。

「うわわわわ」

マッドが大慌てで後ずさり、すぽんと直腸のペニスが抜け出した。直腸の絞り出し
運動が3回続いた後、直腸全体が最大限に拡がって、激しい空気の流入と排出が行
われた。襞とイボが空気流を掻き乱し、尺八の音に似たボゥーという間抜けな音を
肛門から響かせる。上着から裸足の脚先まで精液まみれになり、呆然と佇むマッド
の姿にロジャーが大笑いしていた。彼の腹が揺れるのに合わせて僕の口の中でペニ
スがぴくぴくと踊り、やがて萎み始めた。

「つい夢中になりすぎて、このお人形ちゃんの呼吸のこと忘れてたなあ。もう1時
間もやりまくってたってことか。さすがに精液もからからだぜ。それでもしたくな
っちまう。このお人形ちゃんは麻薬みたいなもんだな」

「精液臭せえよ」

「パンツででも拭くんだな。半分はおめえのだ」

「残りの半分はおめえのじゃねえか。汚ねえなあ」

「なにが汚ねえだ。そこにペニス突っ込んで掻き回して喜んでたじゃねえか。早く
始末しちまいな。パーティはお開きだ」

強制換気のおかげで腸内の精液は出すことができたが、胃の中に注ぎ込まれた精液
はどうしようもない。吐きたくても横隔膜は固定され、えづくこともできない。そ
れはそのまま消化され、僕の血肉になってしまうのだと思うと、はっきりと一線を
越えた自分が意識された。心の奥の方で、必死で守り続けてきた何かが折れた。

僕は尊厳という支えを、永遠に喪失した。

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