rubberdoll  作: 玲
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rubberdoll-19 鞍馬。

ジェシーが去って、待つほどもなく再びドアが開いた。天井に固定された僕の視界
に、あばただらけのブルドックのような顔がぬうっと入ってきた。何度か介助して
もらったことがある介助士だった。胸のプレートには「R.J.」と記されている
が、周りからはロジャーと呼ばれていた男だ。ロジャーは舐め回すように僕の顔を
眺めていた。目をぎらぎらさせ、いまにも涎を垂らしそうなほどにやついている。

「どっからどう見ても、そそる女になってるぜ。見ろよこの口。たまんねえなあ」

ロジャーを押しのけるように、もうひとつの顔が視界に入り込んでくる。マウンテ
ンゴリラに生まれていたらボスになれたんじゃないかと思えるような立派なゴリラ
顔をした黒人で、確かマッドと呼ばれていた。毛のない頭に汗を浮かべて、鼻息も
荒く、どう見ても発情したゴリラだった。

「毛がない女っていうのも疼かせるな。しかしこれが元は男だったなんて信じられ
んよ。けっこう立派なディックをぶら下げていたっていうじゃないか。ウタマロっ
ていうんだろ。綺麗さっぱり切り取られるなんて、哀れな奴だ」

岩のようにごつくて荒れた手が僕の股間を撫でさすった。巨大なむさ苦しい男二人
に至近距離で覗き込まれ、息を吹きかけられて、臭覚細胞は失われているというの
に、饐えた体臭とニンニク臭い口臭を嗅いだような錯覚がした。

「代わりにこんな立派なオッパイを付けてもらったからいいじゃねえか。見ろよこ
のパイ。仰向けだっていうのに潰れてないぞ。見たことあるかこんなの。意外とこ
いつは喜んでるのかもしれないぜ。まあ、俺は死んでもごめんだけどな、息子をち
ょん切られるなんて。考えただけで鳥肌が立つ」

僕の乳房が、その弾力を計るように揺さぶられた。僕はそんな風に触られたことな
ど初めてで、いったい何がどうなっているのか混乱しまくっていた。

「誰もおめえなんか改造しないって。金をどぶに捨てるようなもんだ」

「け、いうじゃねえかマッド。俺がおまえの玉を蹴り潰して改造してやろうか」

「おいおい、喧嘩してる場合じゃねえだろ。あの看護婦が手間取ったせいで、ただ
でも超過勤務なんだ。さっさとセットしちまおうぜ。やることやって、あとはじっ
くりってな」

「それもそうだな。じゃあ、蓋を開けてくれ」

ロジャーの湿った手が僕のうなじにかかり、落ちていたティッシュをつまみ上げる
ように軽々抱き上げられた。度重なる手術で骨も内臓までも切り捨てられ、移植さ
れた人工器官は徹底的に軽量化されていたから、誘拐される前には68kgあった
体重は身体の改造終了時点で48kgにまで落ちたという話は耳にしていた。それ
が、先ほどチェック中の暇潰しにジェシーが教えてくれた話によれば、今度の筋肉
固定処理で細胞の水分含有量が減り、骨格の軽量化と合わせて、さらに30kgに
まで減ってしまったという。ヘビー級レスラー並みの体格をしているロジャーとマ
ッドなら、指でつまんんだだけで楽々と僕を振り回せるだろう。

視界の隅に見たことのない器具が見えた。まるで体操の鞍馬のような形状の器具だ
った。上部の鞍部分は黒革のクッション張りされた角柱状で、X字に交差した2本
の太い金属柱が支えている。支柱の下端は太い横棒となって、鞍馬を安定させ、そ
こにはキャスターも付いているようだった。しかし体操競技の鞍馬とは決定的に違
う部分があり、それが、鞍部分の下、両端近くから垂れ下がっている4本の長い革
袋だった。前部の2本の革袋は短めで、後部の2本は長く、先端が床に届きかけて
いた。

マッドが鞍部分の鍵を外し、押し上げるようにすると、鞍部はふたつに割れて開く。
蓋のように開いた上部も基台となる下部も、内側は空洞となっていて、黒い内張が
施されていた。突然、ぐわんと視界が回転し、僕の身体はお手玉のように空中で反
転された。直下に鞍馬の内側が見える。内側の詰め物が黒くて、一瞬わからなかっ
たが、底に穴があるようだ。重力のままにだらんと垂れ下がる手足の先が、マッド
の手によって位置を合わされ、ゆっくりと身体が降ろされてゆくと、まず脚が、続
いて手がそれぞれの穴に滑り込んでいく。手の先、足の先が受ける感触で、この穴
が、先ほど目にした垂れ下がる革袋に続いているのだろうとわかる。

鞍の下半分に身体が収まる寸前に、マッドのゴーレムのような手が僕の頭を鷲掴み
にして、力任せに引き起こした。僕の首が軋むように曲がって、顎を精一杯突き出
した格好で、僕の身体は鞍の空洞に落とし込まれた。胸と腹と喉が詰め物に柔らか
く受け止められる。

驚いたことに、鞍部の前面と後面に穴が開いていた。鞍の下半分の半円になった穴
に、顔とお尻の下半分がすっぽりと嵌り込んで初めて気がついた。穴の縁の詰め物
が、顎の下と頬に柔らかな圧迫感を与える。鞍の後面にも、もっと大きな穴がある
ようで、僕の尻がはみ出すように嵌り込んでいる感覚がある。

うなじと背中と腰に幅広のストラップが回され、身体が固定された後、開かれてい
た鞍の上半分が閉じられてしまうと、僕の身体はすっかり鞍馬の中に収納され、顔
面と尻だけを両端に設けられた穴からレリーフのように晒しているという、滑稽で、
異様な状態にされてしまった。疑問と不安と、なんだか胸苦しい嫌な予感で僕は困
惑し、動悸が昂進し始める。意識の底からひとつの解答が浮かびかけるのを認めた
くなくて、僕は意図的に意識を逸らせていた。

そういえば、胸に圧迫感がない。とっさのことでよく見ることができなかったけれ
ど、感触では胸の部分にも乳房を収める袋があるようだ。乳首が押し潰されている
感触はないけれど、革に触れている感触もないということは、もしかすると乳首だ
け露出しているのかもしれない。何故乳首だけ、と考えてまた嫌な予感がうごめき
始め、慌てて別のことを考える。手足を収めた革袋にはその先にストラップがつい
ているのだろう。マッドとロジャーの馬鹿力で、革袋全体がやや斜めに、ぎしっと
軋んで引き下げられ固定された。

「よーし。準備完了だ。ヘイ、ロジャー。さっそく・・・」

「おまえはほんとうに猿並みだな。マッド。こんな不安定なクッション床だぞ。倒
れでもして、もしこのお人形ちゃんに傷でも付けたら、どういう目に遭うと思って
んだ。3年前にドレイクがどういう罰を受けたか忘れたわけじゃないだろう」

「だってよう、いま休憩室に戻ったらほとんど全員揃ってんだぜ」

「わかってるって。ま、いいから運び出そうぜ」

鞍馬と一体化した僕は、器具ごと持ち上げられ、廊下に運び出された。

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