女奴隷への道    優理子 1.SMクラブ  誠は東京で一人暮らしをする大学3年生の男の子だ。周囲からはそこそこイケメンと ささやかれているのだが、本人はいたってマジメな性格らしく、そんな自分の容姿には気 づいていない。大学の講義もマジメに受けており、理系なので周囲に女子学生もいなくて、 女性には縁のない生活を、大学と自分の部屋との往復で過ごしていた。   誠は中学生の頃からSMに興味があり、今ではSM雑誌やDVDなども自分の部屋に 置いて毎晩眺めたりしている毎日だが、まだ経験はない。誠が興味があるのは緊縛である。 麻縄に締め付けられて蠢く白い肌がなんとも色っぽいと思う。ぜひ生身の女性を縛りたい と思うのだが、なかなか女性と知り合う機会もなく、かと言ってバイトで生計を立ててい る身なのでSMクラブ通いもまなならない。かくしてSMの実体験は無いままに大学3年 生までになり、未だにSMは小説やDVDの画面の中にとどまっている。   しかし、普通の男の子は女性を縛って虐めたい、セックスしたいと思うのだろうが、 誠は違っていた。誠は縛られた女性が緊縛の気持ちよさを味わうのがうらやましく思えて いたのである。ネットでのSMサイト、SMビデオやSM小説を見ていても、誠はいつも 縛られ責められている女性の方に自分を感情移入させて見ていることに最近自分でも気づ いてきた。自分は男性なのに、縛って責める男性の側に感情移入はしてないのだ。   自分でも縛りを練習したいと思い切ってSM雑誌の広告記事を頼りに六本木のSM ショップに行き、SM用の縄を買ってきて自分の部屋で自分を縛ってみた。身体に縄をか けるのはそれほど難しくない。足も縛れる。猿ぐつわも出来る。しかし、手を縛るのは難 しい。なんとか自分の二の腕に縄をかけ、縛り付けても肘から先の手は自由である。自分 一人だとどうやって手首を縛ればいいのか、見当がつかなかった。誠にとっては縛りとは 後ろ手の縛りである。しかし、後ろ手に縛るのは自分一人の自縛では非常に難しいのだと わかってきた。やはり生身の女性を縛りながら縛りの練習をしたいものだ、と一人暮らし の部屋の中で毎晩思うようになっていた。   この時点で、誠はまだ自分がどんな存在か、気づいていなかった。M女性に感情移入 しながらSMビデオを見ているのに、漠然と自分は男だからSなんだろうと思っていたの である。事実、試しに借りて見てみた女王様がM男性を責めるビデオにはまったく感情移 入出来ず、10分ほど見てすぐにビデオを止めてしまったくらいである。だから、自分は M男性ではなく、S男性なんだろうなと思っていた。   どうしても生身の女性とSMしたい。そう思えてきた。彼はバイトもしていたので、 さすがに一回SMクラブに行くくらいのお金は持っていた。ここで行けば、あと半年は行 けないかなぁとか思いながらも、なけなしのお金を使って、SMクラブに行ってみる決心 をして、ネットでいろいろ探してみた。すると、SとMとで値段が違うことに気づいた。 自分がS男性として行くよりも、M男性になる方が安い。誠としてはその差1万円はバカ にならない。情けない話だが、その1万円の差が無視できないのだ。M男性として行けば、 来月にもう一回行けるかもしれない。そんな計算をし始めた。   自分のことを振り返ってみた。自分はSMビデオとかを見ていて、いつもM女性の方 に 感情移入させていることに気がついた。それならばM男性なのかもしれない。男だからS だというのは、思いこみなのではないかと。いや、それよりも、自分がM男性ならば安上 がりでSMが出来るという安易な思いがあった。   そこで、思い切ってネットで探した中で家からも近い場所にあるSMクラブに思い きって行ってみた。いったいどんな場所なんだろうと思っていたが、中は案外狭く、聞い てみると外のホテルを使ってプレイするのだという。ホテル代は男性客持ちなので、これ で持ち合わせのお金は全部ふっとんでしまうと思ったが、ぎりぎりなんとかなると素早く 計算した。店長の男性がアルバムのような物を持ってきて女性を選んでくれというので、 ページをめくりながら、なんとなく好みの女性を一人選んで「この人を」と指さした。す ると、店長さんが奥に行き、さっきからずっと聞こえていた明るい女性達のおしゃべりが 一瞬消えて、一人の女性がやがて目の前に現れた。「行きましょ。」   その女性に縄で縛られ、鞭打たれ、蝋燭を垂らされて、SMプレイの初歩をひとわ たり味わってみたが、プレイの最中に一瞬見えた女性に責められている自分の姿に、一気 に醒めてしまった。違う。何かが違う。違うんだ。その女性には申し訳なかったけれど、 結局は射精することは出来ずに時間が来た。その女性は「ごめんね」と優しく言ってくれ たが、その女性のせいではないと思えてきた。何かが違うんだと。   落ち込んでのSMクラブからの帰り道、誠は自分はSMの気はないのではと考えてみ た。 しかし、自分の部屋に帰ってから持っている何枚かのSM物のDVDから気に入っている 一枚を見ていると、やっぱりSMはしたい。SMに興奮する自分がいた。では、さっきの 違和感はなんなのだろう。やがて、彼は目の前のSMビデオの画面を見ていて気づいたの である。女だ、と。   さっき相手をしてくれたSMクラブの女王様が悪いのではない。鏡で見た自分が女じ ゃなかったからダメだったんだ、と思った。責められるのは女性でないと美しくない。 誠は緊縛が好きだったが、特に股縄が美しいと思っていた。自分は男だから股間に股縄が 食い込む感触は味わえないし、当然さっきのSMクラブでも女王様は股縄はしなかった。 しかし、鏡で見て股縄が無い緊縛姿はどうも魅力が無く思えた。自分が責められるなら、 女性でないとダメだと。ならば、今度は自分がS男性になってM女性を縛って責めればい いのだが、さっきのSMクラブで味わった、自分が後手に縛られて鞭打たれるのに、何と も言い表せない快感があることは認めざるを得なかった。M側の快感は感じることが出来 る。 もう一度味わいたい。でも、自分は男だからダメだ、と。考えは堂々巡りになってきて、 いつのまにか寝てしまった。 2.ランジェリーショップ   翌朝は大学の講義は午前中だけで午後は休講だったので、帰り道にふと人混みが恋 しくなって久しぶりに新宿に出てみた。いろんな店を見ているうちに、女性服の店に目が 行ってしまう自分に気づいていた。女性の服…、女性の服を着れば、女性みたいに見える かな。女性みたいに見えれば、M側で責められても絵になるかな、と。歩いていて、女性 下着の店の前に来た。思わず足を止め、中に並んでいる色とりどりの華やかな女性下着を ずっと眺めたい衝動に駆られたが、店内の女性店員や女性客が変な目で自分を見ているこ とに気づき、恥ずかしくなってその場を急いで離れた。   自分の部屋に帰ってからいろいろ考えた。何を考えたかというと、さっきのランジ ェリーショップは新宿の有名なデパートだったからダメだったんだ。どこか、お客の少な い場末のランジェリーショップを探さなきゃと。自分の住んでいる近くなら、そんなラン ジェリーショップが駅の反対側の裏通りにあることに気づいた。新宿とは比較にならない が、少々の飲み屋は歓楽街っぽいちょっとしたお店はある駅前なのだ。ランジェリーショ ップもそうした歓楽街に働く女性相手にそこそこ売り上げはあるのだろうと思った。だと したら、午前中なら店内は閑散としているはずだ、と考えた。   翌朝、朝食をそそくさと済ませると、駅の反対側のランジェリーショップに行ってみ た。締まっていた。シャッターには『午前11時〜午後11時』と書いてある。そうだろ うな。 彼は一度自分の部屋にもどると、11時少し前に待ちきれないように出かけていった。ラ ンジェリーショップはちょうどお店を開けているところだった。自分よりは少し年上の、 22,3歳くらいの若い女性の人がシャッターを開けると鍵を開けてお店の中に入ってい った。美人とまでは言えないがショートカットのボーイッシュな感じのサッパリした感じ の女の子で、スタイルは抜群だった。その子をお店の近くでこっそり見ながら、その女性 を抱きたい、縛りたいという欲望より、その女性のスタイルがうらやましいと思っている 誠がいた。「いいなぁ〜…」誠は思わずつぶやいていた。   幸い、近くに人通りは無かったので、お店の外から穴の空くほどウィンドウに展示 されている女性下着を眺めていた。色とりどりに女性下着。その一つ一つを自分の頭の中 で自分に着せて、似合うかどうか想像していた。やがて、誠に気づいたその女性店員が 「あの… 何か?」と優しく声をかけてきた。誠はびっくりし、慌てて全力疾走でその場 から走り去ってしまった。   でも、どうしても女性下着が忘れられない。手持ちのSM物ビデオを見てみた。 裸の場面より、今度は下着姿の場面ばかりを見た。こんな下着姿になりたい。自分がこん な下着姿になってるところを想像し、激しく自慰をした。翌朝も、その翌朝も、あるいは 帰り道も、いつもかならず、そのランジェリーショップの前を通って陳列されている女性 下着を眺める日が続いた。 ある日の午前中、その日は大学の講義は夕方だけなので、昼はゆっくりしようと駅前 まで来て、やはりあのランジェリーショップの前に足を止めて見入ってしまった時の こと。 「中に入る?」 びっくりした。声がした方向を振り返ると、あの若いランジェリーショップの店員さんが にっこり笑ってこちらを見ている。ドギマギしながら「あ…あのぉ…」 としどろもどろになりながら応えようとすると、その女性店員は 「いいのよ。わかってるから。そうなんでしょ?」 「え? あの いえ、その…」 「いいから、中へどうぞ。この時間はお客さんは誰もいないし。」 誠は誘われるままに、ついにランジェリーショップの中に入った。その中は想像を遥に 超えるお花畑のような華やかな世界で、あたり中に華やかな色とりどりのショーツ、ブラ ジャー、キャミソール、ストッキング、ガーターベルト、ウェストニッパーといったラン ジェリーが並べられていた。誠は何も考えられず、女性店員の存在さえ忘れてそのランジ ェリーの群れをじっと見入っていた。 「あなた…自分で着たいんでしょ?」 「え?」 「わかるわよ。プレゼントを買いに来る人と顔が違うもの。今、一つ一つのランジェリー を眺めながら、自分が着けたらどんなかな、と考えてたでしょ? ちがうかしら?」 図星だった。誠は顔を赤らめ、うつむいて女性店員の顔が見れなくなってしまった。 知られてしまった。誰にも、いや、自分にさえわからなかった性癖を、この女性に知られ てしまった、と。 「あ、ごめんね。困らせるつもりじゃなかったのよ。毎日ずっと通い詰めていたから、 気になっていたの。なんか、助けてあげられないかなって思って。女性の下着を着けたい っていう人、案外多いのよ。あなただけじゃないわ。ゆっくり見ていっていいのよ。買う ならお手伝いするわ。」 ここまでばれてしまったのだから、この人から女性の下着を買いたかった。でも、正直 今はお金がなかったし、もう少しがまんと思った。それに、女性の下着を着たからってど うだというのだ。欲しいし、着たいけど、自分は着てどうしたいんだろうと思った。 「え、ええ、実は、そうなんです。」 「やっぱりね。でもあなたは小柄だし、ごつい感じじゃないから、お化粧したら女の子 に見えるんじゃないかなぁ。なんか、試着してみる?」 「あ…あの…今日は…見るだけで。 いいですか?」 「いいわよ。ゆっくり見ていっていいわ。私は整理することがあるから、なにかあったら 声をかけてね。」 結局この日は1時間くらいこのランジェリーショップにいた。 「また、いつでも遠慮無く来てね。」 女性店員に明るく送り出され、気恥ずかしいような、少し肩の荷がおりたような、 ホッとした気分でランジェリーショップを後にした。このとき、近くでじっと誠を見つめ る視線があったことに彼は気づいていない… その後、女性店員と話せるようになったという気安さもあり、店内にお客さんがいない 時を見計らって時々は店内に入ってランジェリーを見させてもらうようになった。 華やかな女性下着を見ていて、自分が来て似合うかなとか考えてしまっているのに気づい た。 「あなたは、いつも女性の下着を着けてるの?」 女性店員に聞かれて、誠は答えた。 「いえ、持ってません。でも…興味があって…」 「うふふ。興味があるのね。そうよね。着けてみたいということは、カワイイ女の子に なりたいのかな?」 「なれるかなぁ…」 「なれるなれる。あなたなら大丈夫よ。きれいな女になれるわよ。そしたら、いい男が いっぱい声かけてくるわよ。」 誠はびっくりした。考えたこともなかった。 「え?男の人??」 「あら、違うの?こんな女性の下着を着けるっていることは、男に人に抱かれたいって いうことでしょ?ホモ、というのかしら。」 「ち、違います。男の人となんて、考えたこともなかったです。」 「あら、あなたは違うの? じゃ、なぜ女の下着を着けたいの?女の下着って男の気を 惹くためにあるのよ。」 そう言われて誠は戸惑ってしまった。そんなこと、考えたこともなかったのである。 女性の下着に興味あること、女性の下着姿に憧れること、女性の下着姿に自分もなってみ ないと思うことと、性的興味の対象が男性ということは、誠にとってはまったく別問題だ った。自分が女性に憧れを抱き、自分が女性のようになれたらなと思う願望の中に、自分 以外の男性はなかったからだ。 「違います…。よく、わからないけど、男の人に抱かれたいなんて、考えたこともなか ったです。ただ、こんなきれいな下着を着けてみたくて…」 「へぇ。そうなんだ。女はね、セクシーな下着を着けるのは、男の気を惹くためなのよ。 あなたは違うのね。ふ〜ん。」 女性店員はよく理解出来ないという感じで会話を打ち切ってしまった。   誠はちょっとショックだった。今まで、なんとなく女性の下着に魅力を感じてきた。 それは憧れの女性に少しでも近づきたいということでもあったし、理屈抜きに女性の下着 を見ていて、目が離せない魅力があった。誠はまだ女性経験は無いので、女性の下着から 生身の女性の肉体を想像することはない。想像したくても、経験が無いので出来ない。だ から、女性の下着になんとなく惹きつけられてしまう。自分でもなぜかわからない。そん な感じなのだ。   だから、さっきのように女性の下着を着けることは、男性に抱かれたいからとズバリ 言われてしまうと、戸惑ってしまったのだ。決してそうではない。女性経験も無いけど、 少なくとも同性である男性に抱かれないなんて、思ったこともなかった。自分にホモッ気 はない。だとしたら、なんのために女性の下着を身につけるのか。女性の下着を身につけ るなら、男に抱かれなければいけないのか。誠は今まで考えたこともなかった世界の入り 口を不意に覗いてしまった気分だった。   女性に憧れてはいるが、女性になりきることは、女性として男性に抱かれること だったのか。誠はSMクラブでの経験を思い出していた。M男性として責められる自分の 姿が美しくなくてショックだった。それで、女性の下着に目が行った。自分が女王様に責 められるM女性の役割をすれば満足と思っていたのだが、よく考えてみたら、女王様が責 めるのはM男性であろう。となれば、M女性の役割を自分がしたら、自分を責めるのはS 男性…!    3.拉致   誠はその日から、大学の講義も上の空でそのことを考え続けた。女性に憧れて女性 の姿になると、それは男性に抱かれることを意味するなんて…。それはいやだった。 誠は女性が好きだから、女性の下着に憧れたのだ。自分もキレイになりたかったから。   そうこうしているうちに夏が来て、誠も大学の試験シーズンになった。あのこと ばっかり考えている試験なんか出来ない。無理矢理試験に集中して試験をこなすと、やっ と夏休みが来た。1,2週間欲望を抑えつけて試験勉強に集中していた反動で、試験が終 わった日の帰り道はどうしてもあのランジェリーショップに寄ってみたくなって、急いで 大学から帰ってきた。しばらく行ってなかったけど、あの女性店員の人はいるかな?そん なことを考えながらランジェリーショップに近づいていくと、店の傍に大型トラックが停 まっていた。珍しいなと思いながら店に入っていく。 「いらっしゃい」 いつもと違う、初めて見る30代に見える女性の店員が出迎えた。   あれ?と誠は思った。あの女性店員がいないのは、交代とかいろいろあると思うの でいいのだが、何か違和感を持った。何の違和感なのか、わからないままに、せっかく入 ったのだからと並べられているランジェリーを眺めていると、不意に後に人の気配がした と思うと、顔に何か布のような物が押しつけられた。そして、意識が遠ざかっていった…。   ぼんやりとした思考の中で、誠はなにがなんだかわからなかった。ぼーっとしている。 あまり考えられない。それでも、目を開けてみると、見慣れない殺風景な部屋の中にいた。 窓もなく、コンクリートの壁がむき出しの無機質な部屋。重い鉄で出来たような、分厚そ うな扉。そして、自分は、とぼんやりとした頭で自分の姿を見て…   誠は驚きのあまり、大きな声を上げてしまった。いや、正確には大きな声を上げよ うとして声にならなかったので、あらためて驚いた。誠は後手に縛られていた。身体のあ ちこちに縄がかかっていて、足も一つにそろえて縛られていたので動くことも出来ない。 口にはどうやら何かで猿轡が噛まされているらしい。なにやらボールを銜えているような 気がする。そして、何よりも驚いたのは、自分の姿である。鏡が無いので全身はわからな いが、目で見る限りスカートを穿かされていて足にはストッキングが着けられていた。上 半身の服も華やかなピンク色を主体とした服なので、きっと女性物の服なんだろう。なん となく頭も鬱陶しいので、どうやらウィッグも着けさせられているようだ。   いったい何が起こったんだ?誠はぼんやりした頭で記憶を手繰っていった。 あのランジェリーショップに入ってすぐに記憶な無くなっていることに気づいた。そう。 だんだん思い出してきた。あの時に店に入ってすぐに感じた違和感は、自分を初めて見た 30代の女性店員が、自分を見て不思議そうな顔をしなかったからだ。顔なじみの若い店 員さんならともかく、なぜ、自分を知らない店員さんが女性ランジェリーショップに入っ てくる若い男性を不信感を抱かずに迎えたのか?多分、麻酔薬を嗅がされたのだと思うが、 その時にその女性店員が何か悲鳴とかを挙げた記憶も無い。そして、店の外に停めてあっ た、普段は見慣れない大型トラック…。そして、この状況…。誠はようやく、自分が組織 的に誘拐されたんだということに気づいた。   それにしても、なぜ僕を?それが不思議だった。誠はお金持ちの子ではない。 両親は田舎で普通に農業をしており、あまりお金も無いので仕送りは最低限にしてもらっ て、バイトで稼いだお金を授業業や生活費に充てていた。だから、自分を誘拐しても身代 金などどこからも来ないはずなのに。身代金が狙いでなければ、何が狙いか?そもそも、 いったい誰が??   そこまで考えたとき、重い鉄の扉が開いて、何人かの人が入ってきた。いずれも鋭い 目つきの男達だった。ゾッとするものを感じた。誠の口に嵌められていた猿轡を外すと、 リーダー格らしい男が話しかけてきた。 「おい、目が覚めたかい。」 「い、いったいこれはなんのつもりだ!」 「お前の望み通りにしてやろうというわけだ。うれしいだろ。」 「の、望み通り??」 「まあ、いい。いずれわかってくる。ともかく殺しはしないから、安心しな。」 「僕を、あのランジェリーショップで誘拐したんだな。」 「ああ、そうさ。お前のことは前から目を付けていた。」 前から目を付けていた??誠は驚いた。自分を狙っていたなんて。それではあの若い女性 店員からして奴らの仲間か。感じのいい人だと思っていたのに。なんか、裏切られた気が した。 「前から目を付けていた?それなら、あのランジェリーショップの店員も、僕を騙したのか!」 「あの子か。あの子は違う。あの子は素直ないい子だ。疑っちゃあかわいそうだ。ただ、 俺たちがお前を狙って拉致することを気づいたからな。かわいそうだが、口封じのために は、あの子も確保して おく必要があった。」 「確保?じゃ、あの子もここに? いったい、あの子をどうするんだ!」 自分のためにあの感じのいい女性店員の子が巻き添えになったと聞くと黙ってはいられな い。 自分の災難を棚に上げて、誠はあの女性店員の事が気になってきた。 「あの子もお前の仲間になる。心配するな。殺しはしない。」 そう言うと、その男は周りの部下に目配せした。部下らしい男達が誠を取り巻いて抵抗 できないように押さえた。 「おい!なにをする!こら、離せ!!」 誠は精一杯抵抗したが、縛られている上に自分よりずっと強そうな男達数人が相手では 抵抗はたかが知れている。男達の中から、一人、乱暴者ではなさそうな男が進み出てきた。 その男は注射器を持っている。注射??いったい何を。麻薬か??誠の頭は混乱してきた。 必死になって抵抗したが、やがて腕に注射されてしまった。すごく痛い注射で呻き声を上 げてしまった。さらにその男はカプセルを誠の口に入れると、コップの水を誠の口に入れ てきた。カプセルなんて飲むものかと思ったが、結局は連中の腕力に負け、飲まないと半 殺しにするぞという脅しに屈してカプセルを飲んだ。飲んだだけでは特に何も身体に変化 はなかったが、それだけにいったい何の薬か、不気味だった。   やがて、男達は数人で縛られて動けない誠を持ち上げて運び出した。連れて行かれた のは普通の部屋のような場所だったが、窓には曇った白いガラスがはめられていて、光は 入ってくるが、外の景色は見えなかった。ただ、ベッドも家具も備え付けられていて、本 も何冊かあった。ワンルームマンションの部屋みたいにトイレやバスもついていた。男達 はその部屋に誠を放り出すと縄を解き、去っていった。誠はすぐに部屋のドアにとりつい たが、そのドアは内側からは開かない仕組みのようで、ノブはまったく動かなかった。閉 じこめられたらしい。 4.監禁   誠はしばらく呆然と部屋の中のベッドの上にうずくまっていたが、何もしないのも 手持ちぶさたなので、部屋の中のクローゼットやタンスを開けてみた。中には、なんと、 女性物の衣類がぎっしり詰まっている。もちろん、大量の女性の下着もある。皮肉なもの だ。あのランジェリーショップで憧れて見ていた女性下着が、数え切れないくらい目の前 にある。ここは女性の部屋なのか?女性の部屋に閉じこめられたのか。ここの住人の女性 は帰ってくるのだろうか。それとも連れ去られてしまったのか。誠は不安なままに眠りに ついた。   朝、誠が目が覚めると、横のテーブルに朝食が置いてあった。時計を見ると、いつの まにかもう昼だ。こんな部屋に閉じこめられて不安で堪らなかったが、お腹が空くのはそ れとは別と見える。ともかく、与えられた朝食を食べることにした。パンにサラダにハム、 コーヒー。すっかり冷めてしまっているが仕方がない。食べ終わると、風呂に入りたくな ったのでバスタブにお湯を溜めて風呂に入った。湯船に浸かりながら、この先どうなるん だろうとぼんやり考えた。   風呂から上がると…着替えが無いことに気づいた。着た服の洗濯をどうするのかも わからないが、ともかくも今着る服が必要だ。部屋を見回すと、クローゼットの中に女性 の服があることに今更ながら気づいた。こんな形で実現することになるとは思わなかった が、他に着る物が無いというのを言い訳に女性物の下着を出して着てみることにした。ベ ッドの上にパンティー、ブラジャー、ストッキングと拡げてみた。閉じこめられていると いうのに、色とりどりの華やかな女性下着を見ていてなんとなく気分がよくなってきた。 裸でいるわけにはいかないんだから、と自分に言い聞かせ、薄いピンクに濃いピンクの花 の模様が刺繍してあるパンティーを取り上げると、おそるおそる穿いてみた。男物のブリ ーフとは全く違う柔らかい布地に驚いた。とっても気持ちいい。パンティーはビキニなの で、股間の男性器ははみ出しそうになるが、なんとか納めた。とにかくパンティーはいわ ばパンツだから、少々デザインは違っても心理的な抵抗は少なかった。   次はブラジャーだ。こちらは抵抗があった。どうしよう…。誠は思った。ブラジャー をしてしまうと、なんか女装趣味があると認めてしまうことになるような気がした。ピン クのブラジャーを手に取ってみたものの、結局着けずにストッキングと共にクローゼット に戻してしまった。パンティだけを穿いた姿でベッドの中に入って、部屋の中に置いてあ った雑誌を退屈しのぎに読むことにした。部屋の中の雑誌は全て若い女性が読むようなフ ァッション雑誌なのだが、なにもしないよりはマシだ。       夕方になった頃、部屋のドアが開いた。ベッドの中から見ていると、女と男の二人 が入ってきた。先に入ってきたのは女。よく見ると、拉致された時に女性店員だった人だ。 やっぱり、と思った。男の方は見覚えがあまり無いが、昨日誠をこの部屋まで連れてきた 男達の中にいたような気がした。背が高くがっちりした男で手に鞭を持っている。ゾクッ とした。とても逆らえない、と思った。男がバッとベッドの掛け布団をめくってしまった ので、誠はベッドの上でパンティ一枚の姿で座らざるを得なくなった。   女の方が口を開いた。 「この部屋の住み心地はどうかしら?あなたはしばらくここで暮らすのよ。逃げようと しても無駄。絶対に逃げられないわ。そのかわり、おとなしく言うことを聞いていれば殺 したりはしないし、あなたにもいいことがあるわよ。」 「僕をどうしようって言うんだ。こんな女の部屋に閉じこめて。男物の服なんてありゃし ない。 いったい何を着ればいいんだ。裸で暮らせって言うのか?」 「あらあら、威勢がいいわね。何か勘違いしてないかしら。この部屋は確かに女の子の 部屋だけど、あなたの部屋よ。ここに納めてある服はみーんなあなたの。あなたが着るた めに用意したの。だからこの部屋に用意してある服はみんな好きに着ていいのよ。」 「好きにって、女の服じゃないか!」 「だって、あなたは今、女物のパンティを穿いてるじゃない。」 「う…」 そこを指摘されてしまったら一言もない。言われてもいないのに女物のパンティを穿い ていたら、まるで自分から女の格好をしたいって言っているようなものじゃないか。 「女の服を着るのが好きなんでしょ?だからあのお店にいつも通っていたんでしょ?」   そうだったのか。あのお店に通っているところを見られていたんだ。目をつけられて、 それで拉致されたのか、と気づいた。すると…いったい連中の狙いは?? 「いったい、僕をどうしようって言うんだ。」 「女にして稼いでもらうのよ。」 「お、女に??」 誠はびっくりした。女にする?女性の格好をさせる?女装で酒場で接待とかさせるのだろうか。 女が後の男に目配せすると、いきなり男が手に持っていた一本鞭を振りかぶって打ってき た。 背中に受けたが焼け火箸を当てられたような激痛で、誠は気絶するかと思った。呆然とし ていると、いつの間に持ってきていたのか麻縄で縛ってきた。誠の両手をグイッとつかん で馬鹿力で背中に廻させると後手に縛られてしまった。さらに両腕を身体に密着させるよ うに二巻き三巻きと身体にグルグルと麻縄をまかれ、ギュッと絞られて縄止めされてしま った。さらに足をあぐらに組まされて足首も縛られてしまったので、身動きできなくなっ てしまった。さらに口に布を詰められ、その上からギュッと縛られた。猿轡を噛まされて しまったのだ。後手に縛られ、足もあぐらに縛られ、猿轡を噛まされたことで、誠はまっ たく何も出来なくなってしまった。 抵抗も出来ず、口もきけなくなった誠に、女は1日3回必ず指定された薬を飲むことを 言われた。そして1日一回かならず注射をされることも申し渡された。そして1日3回の 食事を必ず摂ることもきつく言われた。さらに、1日一回は調教と言って、その女に縛ら れて鞭打たれるということも。それに逆らうと屈強な男が何人もやってきて、よってたか って乱暴するのだという。元々体力に自信のない誠は、逆らう気などなくなってしまった。 5.女装へ  それからは、来る日も来る日も3度の食事と3度の薬、1回の注射、そして、その女 (美香と言うらしい)に縛られて鞭打たれての「調教」と称するものの繰り返しであっ た。この部屋にいると季節もわからない。いったい今日が何月何日なのかもわからない。 どれだけの時間が過ぎたのかもわからないまま、部屋に置かれる女性ファッション雑誌 だけを楽しみに暮らしていた。部屋では女性の服装を強制されていたので、ショーツに ブラジャーを着け、ガーターベルトにストッキングという色っぽい女性下着姿に、さら にワンピースやスカート、ブラウスなど女性の服を着ることを強いられた。逆らったら 気絶するほどの鞭打ちが待っているので、誠はおとなしく女性の服を着ることにした。   お化粧も教えられた。誠の指導係とも言える美香によって誠は眉を剃られ、女性的 な眉の書き方、ファウンデーションの基礎からアイシャドー、ハイライトなどの入れ方を 教えられた。美香に初めて化粧された自分の顔を鏡で見た誠は、鏡の中に自分の理想の女 性が映っていることに驚いた。これが自分とは思えない。この少女と僕は恋したいと誠は 思ってしまった。 「あなた、ナルシスト? うふふ。素質あるかもね〜。」 美香にからかわれたが、お化粧して女性の顔になってしまった自分の姿から、目を離せ なくなってしまった。それに、顔に塗られている化粧品の香料の匂いが、なんとも言えな い華やかな気分にしてくれた。美香にはいくつかの香水やコロンを渡され、毎日いろんな 香水を使って、その中から自分の匂いを作っていくようにと言われた。それ以来、お化粧 して香水を付ける作業は単調な毎日の中で好きな作業になってしまっていった。  そうした単調な毎日を過ごしていて、いった何ヶ月たったろう。完全空調で季節感も 無いまま日々を暮らしていたある日、シャワーを浴びている時にふと違和感を覚えた。い ったいどんな違和感なのか、シャワーの湯を流しながら自分の身体を眺めて考えているう ちに、湯の流れ方が違うのだと気づいた。なんとなく肌が滑らかに柔らかくなり、肌の上 を伝わる湯の流れ方が違う…。自分の身体のどこかが今までと違ってきている気がした。  ふと気になって、鏡に映った自分の裸体を見てみる。 「胸…」 胸が違う。乳首が…。乳首は明らかに大きくなっている。そしてその乳首を載せている胸 も、 ほんのちょっとだが膨らんでいるような気がする。誠は目の前が真っ暗になった。転びそ うになるのを慌てて体勢を立て直し、ともかくもバスルームを出てヘッドの上に座った。 そして、あらためて自分の胸と乳首を眺めた。 「やっぱり、大きい… ふくらんでいる…」 気のせいではない。なぜ…。そう考えて、ずっと飲まされている薬、ずっと続けられて いる注射に気づいた。 「あれは…女性ホルモンだったんだ…」 このままでは女になってしまう…。僕は男だ。混乱しながらもそう思う誠は、自分の股間 を触ってみた。男根は隆々と天を向いている。 「やはり、男だ。ちょっとくらい胸が大きくなったって、僕は男であることには変わらない。」 そう思うと誠はいくらか気が楽になった。  しかし、そのまま日を過ごしているうちに、だんだん胸が気になってくるようになった。 ちょっとふくらみが目立ってきたような気がする。乳首は既に男の乳首ではない大きさに なってきている。そして、誠をもっと心配させたのが股間の異変である。いろいろいやら しいことを想像しても、立ちにくくなってきたのである。 「ま、まさか… 男でなくなってしまうのか…」 美香が言っていた「女にする」という言葉を思い出した。あの言葉は女装させるという 意味ではなく、言葉通り、自分を女の身体にしてしまうことを言っていたのではないのか。 もし、そうだとしたら大変だ。男ではなくなってしまう。  そこまで考えて、誠はあのランジェリーショップで若い女性店員との会話を思い出して いた。 女性が色っぽい下着を着るのは男に抱かれたいため…。そうだとしたら…このまま自分の 身体が女性になっていくと、男に抱かれないといけなくなるのか。そう言えば、美香は 「女にして稼がせる」と言っていた。稼ぐというのは、男相手ということを言ってるので はないのか。女相手にうまい商売があるとは思えない。『稼ぐ』という言葉の重みを考え ると愕然としてくる。今のままの自分が稼げるとは思えない。ということは、稼ぐように なるまでに、もっともっと恐ろしいことが待ちかまえているのではないのか。誠は、わー っと大声を出して狂いたかった。しかし、そんなことをしたら、連中に鞭を浴びせられる。  そこまで思いが至ると、自分の胸が恨めしく思えてきた。もはや男にはふさわしく ない大きさに膨らんできている胸。自分の手のひらでちょっとふくらみを掴むくらいは出 来る大きさになってしまっている。このまま女性の身体になってしまうのはいやだ。女性 の下着を着けたいというあの頃の気分はもう吹っ飛んで、自分の男性の部分を意識するよ うになってきた誠であった。  数日後、美香が段ボール箱を抱えて部屋に入ってきた。何なのかなと思ったら、 誠の部屋のクローゼットのブラジャーを箱の中に入ってるブラジャーと取り替えている。 「美香様、何をしているんですか?」 「見ればわかるでしょ。取り替えているのよ。」 「なぜ、取り替えるのですか?まだキレイだし、着られますよ。」 「あら、気づかなかったの?サイズよ。サイズが違ってきたから。もうあなたの乳房は Bカップよ。だからBカップのブラジャーに取り替えているの。あなたは素質あるのね。 速かったわ。」 誠は頭を棒で殴られるくらいのショックを受けた。Bカップ…。それくらいは誠でもわか る。 Aカップより大きなカップだ。Aカップの女性も少なくない。ということは、誠の乳房は もう女性並みになってきたということか…。少しずつ大きくなってきたとは思っていたが、 それでも後戻り出来る程度だと思っていた。既に自分の胸がBカップだという現実を突き つけられると、それは誠にとってはかなりショックなことだった。 「さ、脱いで。裸になるの。調教の時間よ。」 いつものように美香に言われて裸になり、手を背中にまわして縛られていく。手が縛ら れた後、麻縄はさらに誠の身体にまわされていく。その縛り方が、誠に乳房の上下を縛り、 その縄をさらに縦に絞って乳房を括り出すような縛り方になっていることに気づいた。最 初の頃は胸はこんなに凝った縛りにはしていなかったはずだ。上半身を縛られていきなが ら、この縛り方はどこかで見たことがあると思った。そう、以前にSM雑誌のグラビアで 見たことがある、M女性を縛る縛り方だ。乳房の上下を縛る縄を縦に絞られて首縄をかけ られていると、自分の乳房が、まるで女性の乳房のように縄で上下を絞られて突きだして いることが見て取れる。 「ふふ、だんだん女の胸みたいになってきたわね」 美香がからかうように言う。誠は返す言葉を失ってだまってしまった。 「どうしたの?女の胸になるのは屈辱?それとも、長年の望みがかなったのかしら?」 「僕は男だ。女の身体になんてするな。」 「あら、威勢のいい。でも、もう胸は女の胸になってるわよ。ほら…」 美香はその手で優しく誠の乳首を触ってきた。初めての感覚に誠は戸惑った。脳天まで しびれるような、なんとも言えない快感が乳首から身体全体に伝わってくる。男としては 決して味わうことになかった快感である。もっと、もっと触ってと思わず言いたくなった。 「感じてきてるわね。これが、女の快感よ。」 美香は勝ち誇ったように言う。くやしいが、誠は乳首は既に女の乳首になっていること を認めざるを得なかった。誠は縛られたまま、美香からいつものように鞭を浴びせられて 呻いたが、鞭打たれる感覚も、気のせいかなんとなく今までと違うような気がした。 「こんなところにしておくわ。」 いつもより短めに鞭打ちを終えた美香は、誠の後にまわると、不意に布を誠の口元に被 せてきた。また麻酔だと気づいた誠だが、後手に縛られている上に鞭打ちに体力を消耗し ていた時だったので、抵抗しようもなかった。そのまま、誠は深い眠りに落ちていった。 その眠りの先にどんな世界が待ちかまえているかも知らずに…。 6.性転換手術 深い深い眠りから浮かび上がって目覚めると、自分の部屋にベッドに寝ていた。何も無 かったのかなと思い、そのまままた眠くて寝ようとしたが、どことなく股間に違和感を感 じた。もう手は縛られてなかったので、おそるおそる股間を触ってみると…無い…。股間 に何もない。男性の象徴たる男根もタマの入った袋も無い。 誠は布団を跳ね上げ、がばっと身体を起こした。そしてベッドの上に膝立ちになり、 もう一度パジャマの中に手を入れて自分の股間を触った。やはり無い。男性の象徴は跡形 もなく、股間は悲しいまでに平坦になっている。指でよく触っていくと、平坦なだけでな く、襞があり、そこをまさぐっていくと、指の入る割れ目があった。指を入れていくと、 どんどん入る。怖くなって人差し指の最初の関節くらいまでしか入れなかったが、この股 間の割れ目は女性器に間違いないと誠は思った。 「僕は…女にされちゃった…」 悲しくなってどんどん涙が出来てきた。女性の下着を身につけてみたいとは思ったけれど、 女性に姿になって縛られてみたいとは思ったけれど、女性そのものの身体になりたいとは 思っていなかった。眠らされてからいったいどれくらいの時間が経過したのかわからない けど、股間の女性器はとても手術後とは思えないくらいきれいだったし、傷も無かった。 おそらく眠らされたままかなり長い時間が経過しているのだろうと思った。  ふと股間以外の自分の身体を手で探ってみた。胸は…やはり前よりも一段と大きくな っている。パジャマの中に手を入れて自分で自分の乳房を揉んでみた。揉んでみた感触は 夢にまで見た女性の乳房の感触ではあったが、しかし、同時に自分の乳房を揉まれている 感触もまた、味あわなければならなかった。乳首をコリコリとつまんで揉んでみた。女性 の乳首特有のセクシーで柔らかな感触だったが、やはり自分の乳首を揉まれている快感も また同時に味あわざるを得なかった。いやでも女の身体にされてしまったことを自覚せざ るを得なかった。  ベッドから起きあがってクローゼットを開けてみた。中に入っているブラジャーを手に 取ってみると、やはりどのブラジャーもCカップになっている。Cカップの胸…。そして 股間の割れ目。もはや女そのものではないか。誠は思った。 「僕、女にされちゃったのか」 つぶやいた誠は、自分の声が聞き慣れない、もの柔らかで高いトーンの声であることに 気づいた。そっと喉を触ってみると、男性特有の喉の膨らみがない。声も女の声に変えら れてしまったらしい。鏡を見てみると、セットされてはいないけれど長い髪が目に入った。 顔の感じもなんとなく丸く柔らかい。男の顔というよりは女の顔だ。もう自分のどこにも 男性だった痕跡はないと誠は悟らざるを得なかった。 不意に誠は尿意をもよおした。何も考えずに部屋にあるトイレの扉をあけ、トイレの 蓋と便座を上げて、いつもしているようにパジャマを下ろしてオシッコをしようとした。 そして…オシッコするために指で自分のオチンチンをつまみだそうというのがむなしい 努力であることに気づいて愕然とした。 『そっか…。立ってオシッコは出来なくなったんだ…』 一度上げた便座を下ろしてそこに座るのが、誠にはなんとも言えない屈辱に思えた。 あれほど女性の格好をしてみたいと思っていたのに、いざ自分が女性の身体にされた現実 を突きつけられると、二度と戻れない男の身体が恋しくなった。せめてもう一回立ちショ ンがしてみたかったと思うと涙がこぼれてきた。立ちションという行為がこれほど男性を 象徴する行為であることに、今更ながら気づかされた誠であった。  仕方なしに便座を下げ、便座に腰掛け、オシッコをしようと思うが、なかなか出てこな い。 股間の力を抜いたり姿勢をいろいろ変えたりしているうちに、ザーッと滝のようにオシッ コが出てきた。周りが少し濡れてしまったのを紙で拭きながら、これが女性の排尿なんだ と思った。今まではオシッコをしてそのままオチンチンだけ納めてトイレから出ていたが、 女性の排尿をしてみると、やはり紙で股間の周りを拭かざるを得ない。拭いていると、あ らためてそこにはオチンチンが跡形もなくて、かわりに割れ目が深く刻まれていることを 認識せざるを得なかった。  それから、誠は湯船に湯を溜め、ゆっくりと湯に浸かると、あらためて生まれもつか ぬ女の身体にされてしまった我が身をしみじみと眺めた。Cカップに成長した胸。滑らか な柔肌。くびれた腰。股間の割れ目…。この先、女として生きていくしかないんだ、とわ かっていながらも、後から後から涙が出てきて止めることが出来なかった。 7.女の身体に  翌朝、誠は目が覚めると、昨夜風呂から出てそのまま寝てしまった自分の身体をあら ためて触り、眺めてみた。もしかしたら一夜明けたら昨日のは夢で元の男の身体なのでは、 と思ったが、それは儚い望みだった。悔しいまでに見事な女体になった自分の身体を再確 認し、やっぱり女になるしかないんだなと思い直した。  ずっと丸裸のままでいるわけにはいかないので、クロゼットから下着を取り出した。 ローズピンクのレースのかわいいショーツを着ける。今までと違い、股間がすっきりして いるので、ショーツが本来のデザイン通りに股間に着けられ、自分で見ていても色っぽい 感じがする。今まで股間のオチンチンが邪魔だったんだ、と思えてきた。さらにおそろい のデザインのブラジャーを着ける。心なしか、自分の乳房がブラジャーのカップに包まれ る感触が、今までよりずっと心地よい感じがした。裸だとなんとなく自分の乳房が邪魔に 思えていたのが、ブラジャーを着けることで自分の身体にフィットし、気持ちいい。女性 がなぜブラジャーを着けるのか、その気持ちがわかったような気がした。  鏡の前に立ってみる。ブラジャーとパンティだけの半裸の姿の若い女性が鏡の中にいる。 まだ化粧はしていないが、ちょっとボーイッシュな女性という感じで、もう男っぽくは見 えない。 『これが、僕なんだ…。いえ、これが、私なのね…』 まだ、自分のことを僕と言ってしまう誠だが、もはや「僕」という一人称は似合わない ということを悟った。  部屋の戸が開いて、美香が朝食を持って入ってきた。 「あら、すっかり女性の下着が似合うようになったわね。すっきりしてうれしいでしょ?」 「うれしいだなんて…。なんで私をこんな姿にしたの?」 美香に抗議する誠だが、声はすっかり女性の声でしゃべり方も女性っぽいのでは、およそ 迫力がない。しかも、今までも美香には縛られて鞭打たれているから、どうしても強くは 出られない。 「女の身体になって感無量でしょ。もうオシッコはした?」 「はい、昨日しました…」 「女になって初めてのオシッコ、うまく出来た?」 「はい、なんとか。ちょっと濡れちゃいましたが。」 「そうなのよ。最初は要領がわからなくて、うまくいかないのよね。」 そう言うと美香は女性のオシッコの仕方を教えてくれた。そして、女性は男性より尿道 が短いので、尿意はより切迫してくるということも教えてくれた。  美香からは朝食が終わってしばらくしたら調教にすると言われた。朝食を美香が自ら 持ってくること自体珍しいので、今日の調教はいつもと違うのでは、という予感があった。 ともかく、どうせ逃げられないし、女の身体にされてしまった今となっては逃げようもな い。まずは栄養を摂っておかないと身体が持たないとばかり、誠は朝食を食べることに専 念するようにした。 朝食が終わり、鏡に向かってのお化粧が終わる頃、いつものように美香が部屋に入って きた。調教の時間だ。美香は黒革のボンデージ衣装を身にまとい、濃厚な香水の匂いを 漂わせながら誠に近寄ってきて、言った。 「さ、始めるわよ。脱いで。」 誠は今までと同じように服を脱いでいった。いつもと同じように…。いつもと言っても それは眠らされる前のこと。今では遠い昔のことのように思える。パジャマを脱ぎ、ブラ ジャーもパンティも脱いで素っ裸になった誠は、裸を見せるのが恥ずかしくて、右手で両 乳房を、左手で股間を隠しながら立った。 「あら、その手、すっかり女の子ね。いいことよ。さ、両手を背中に。縛るわよ。」 誠は今までになく緊張しながら、両手を背中に廻していった。両手首を背中で重ねている と、 そこに麻縄が巻き付いてきた。ググッと両手首を縛られると、余ってる縄で乳房の上を二 巻き縛られて縄止めされた。さらにもう一本の麻縄で乳房の下側を縛られ、首の横を通し て乳房を縛っている縄を縦に引き絞ると、首の反対側を通して背中にまわして縄止めした。 シンプルだが美しいと誠もSM雑誌で見ていた頃に思っていた後手高手小手縛りである。 しかし、乳房が大きくなってきたせいか、部屋に鏡に映すと自らの後手高手小手縛り姿が すごく色っぽく見える。色っぽく見えるだけでなく、縄で絞られている乳房がジーンと熱 を持って快感に疼いてくる。心なしか、今までより、その感覚がずっと強い。 「ふふふ。縄の味を憶えてきたようね。次にかける縄は、あなたは初体験よ。」 そう言うと、美香は誠の腰に水平に縄を巻き、おへそのあたりで縄止めすると、余った 縄尻を下に垂らし、そして、誠の股間をくぐらせると、腰縄の後あたりに縄をかけ、一気 に縄を絞った。 「あ…!! うう…」 誠は思わずうめいた。引き絞られた麻縄が誠の股間の亀裂に食い込んでくる。痛いのだが、 単なる痛さではなく、心臓を鷲掴みされたような、身体の底からの妖しい快感を伴う苦痛 だった。確かに、今まではこの縄を味わうことは出来なかった。この縄は生まれて初めて かけられた。股縄というはずだ。誠は鏡の自分の姿を見てみると、そこには全裸で後手高 手小手縛りに腰縄、股縄までかけられた哀れな少女の姿があった。誠が素敵だと思ったそ の鏡の中の少女が、今の誠自身だった。  美香は、さらに誠の髪をかき上げて、首に首輪を嵌めた。そして、そこに鎖を繋ぎ、 その端を持った。 「ふふ、これで誠はもう女奴隷ね。」 「女奴隷…」 「そうよ。あなたは女奴隷になるの。もう身体はすっかり女の身体だから、あとは奴隷 として調教が進めば、女奴隷になるわ。それが、あなたの進むべき唯一の道。」  誠は、自分が女奴隷にされるんだ、と悟った。今までもうすうすそんな気がしていたが、 今、美香からはっきりと宣言され、やはりそれはショックだった。 「あら、うっかりしていたわ。名前がまだ無かったわね。誠君だったわね。もう誠では おかしいから、女の子の名前がいるわね…。」 美香はしばらく考えてから、言った。 「真樹子というのはどうかしら。あなたは、これからは真樹子よ。」 真樹子…。自分はこれからは、真樹子という存在になるのか、と誠は思った。いや、 もう誠ではないらしい。縛られてる自分の身体をどう見ても、女そのものだった。 自分は真樹子だ。真樹子という女性にされてしまった…。 「真樹子、そこへ伏せなさい。鞭よ。」 真樹子は縛られた不自由な身体をベッドに伏せ、お尻を突き出す格好をとった。 美香がそこへ一本鞭で激しい鞭打ちを何十回も浴びせた。真樹子の尻は赤く腫れ上がり、 痛くてたまらなかったが、痛い中に何かしら身体の奥底が疼くようなものがあった。ジッ とその疼きを噛みしめながら、鞭に打たれ続けていた。 どれくらい時間が経ったろう。鞭をやめた美香は、おもむろに真樹子の口にボールのよ うなものを押し込んできた。ボールギャグだ。 「うう…」 「さ、立ちなさい。女になったあなたに会わせたい人がいるわ。」 美香は真樹子の首輪に繋がっている鎖を曳いて真樹子を立たせると、部屋の外に連れ出 した。部屋の外へ出るのはすごく久しぶりだ。自分が女の身体にされ、しかも全裸後手高 手小手という惨めな姿で鎖で首輪を曳かれながら歩かせられるという屈辱的な姿を思うと、 真樹子は奴隷に落とされたという実感をひしひしと感じざるを得なかった。長々と廊下が 続き、自分が閉じこめていた部屋と同じようなドアがずっと続いている。かなり長く歩か され、いくつか角を曲がって、やがて、ある部屋のドアを開けて中に入るように促された。 8.再会  部屋の中にはひと組の男女がいた。男はラフなスタイルの服を着ていたが、女は全裸で、 自分と同じように縛られて、首輪から繋がる鎖は男が持っているらしい。真樹子はこの” 女”も自分と同じに女性の身体にされた男性なのかな、と思った。 「真樹子、覚えてない?この子、忘れちゃった?」 美香に声をかけられて、ジッとその”女”を見つめた。歳は自分よりやや上で、色っぽ い身体をしている。男性でもここまで女っぽくなるんだ、と感心しながらその”女”の顔 を眺めていると、やがて、ある顔が浮かび上がってきた…。 「!」 「どうやら、思い出したようね。真弓、あなたも思い出した?この子のこと。あなたが ここに連れてこられる直前にランジェリーショップによく来ていた男の子がいたでしょ? その男の子が、この子よ。と言っても今ではごらんの通り、女の身体にされてしまってる けどね。今は真樹子というのよ、この子。あなたの仲間。仲良くしてあげて。」  真樹子は完全に思い出した。目の前の女性は男から女にされた人なんかじゃない。 あのランジェリーショップにいた、若い女性店員だ。真弓さんて言うんだ。ここでずっと 奴隷調教を受けていたなんて…。  真弓の方もボールギャグを噛まされていたので話すことは出来なかったが、自分のこ とは思い出してくれたようだ。こちらの身体を上から下まで何回も眺めて驚いている。そ れはそうだろうな、と諦めに近い気持ちで真樹子は思った。 「積もる話もあるだろう。今晩は一緒の部屋で過ごさせてあげるから、ゆっくり話をしな。 もう一緒の部屋で寝かせても、セックス出来ないしね。ふふふ。」 そう言うと、美香はさらにたたみかけるように言った。 「あなたたちのこれからの運命を教えてあげましょうか。あなたたちはここで完全な女 奴隷に調教されるの。今は調教の途中。奴隷調教が完成するということは、奴隷としての 商品価値が出るということ。つまり、高い値段がつく売り物になるように奴隷調教してい ると思ってもらえれば、いいわ。奴隷市場で高い値段でお金持ちに買われた奴隷は、それ はそれは幸せな奴隷としての生涯を送ることになるわ。あなたたちも、そんないい生活が 出来るために、立派な奴隷になるのよ。いいわね。」  そう言うと、美香と男は二人の縄を解き、ボーグギャグを外すと部屋から出て行った。 最初に真弓の方が口を開いた。 「驚いた…。あなた、あのときの男の子ね。どうして、そんなことに…」 「わからない。ずっと監禁されていて、少しずつ女性の服や下着に慣れさせられて。 つい最近はどうやら薬で眠らされている間に性転換手術をされてしまったらしいんだ。」 「股縄ではっきり見えなかったけど、やっぱり性転換手術をされてるのね。私と同じ女 になっちゃったのね。膣も作られちゃってるのね。その胸もホンモノでしょ?」 「うん…」 「名前は…?」 「真樹子。ホントは誠って言うんだけど。いや、誠という名前だったんだけど…」 「私は真弓。よろしくね。」 「僕こそ… 私こそ、よろしくね。」 「私の前では、無理に女言葉使わなくてもいいわよ。」 「でも、これからは女として生きていかないといけないから。」 「そうね。そうなのね。あなたは女になっちゃったのね。実を言うとね、私、ちょっぴ りあなたがいいなぁと思っていたの。あなたがお店に来る前から、駅前で見かけていい感 じの子だなと思っていたの。あなたが女装するんじゃなければ、好きになったかも。だか ら、残念だなぁ。私、あなたに抱いてもらえないもんね。」  真樹子は、いや、誠は急に悲しくなった。真弓にそう言われて、あらためて自分が女 にされてしまったことを確認させられてしまったのだ。身体はすっかり真樹子になってい るが、その精神はまだ濃厚に誠のままだった。なので、誠としてみれば、真弓は若くて魅 力的な女性だった。しかも今は二人っきりで部屋の中。しかもお互いに全裸である。女性 は未経験だったが、ムラムラとくる性欲はある。しかし、その誠としての、男としての性 欲は残酷なまでにそのはけ口が無かった。誠はもはや真樹子であり、目の前で抱きたいと 思ってる真弓と同じ女の身体にされてしまった。真弓の股間の割れ目に挿入したくても、 もはや自分の股間に挿入すべき物はなく、替わりに真弓と同じ、男の挿入されるのを待っ ている割れ目が刻まれてしまっている…。真弓の乳房を揉むことはできる。しかし、自分 の胸にも揉まれるのを待っている乳房がついているのだ。 「どうしたの?涙ぐんで黙っちゃって。ごめんね、あたし、変なこと言ったね。あなた だって、女に身体になりたくてなったんじゃないんだものね。奴らに無理矢理女の身体に されちゃったんでしょ。ごめん。あたし、ひどいこと言ったね。あなたの心の中は、まだ 男なんだよね。あの…キスでよければ、して。私で良かったら。」 真弓の優しさに泣きながら、真弓を抱き寄せ、力強く抱きしめてキスをした。長く長く キスをした。キスの間、真樹子は誠にもどっている錯覚を覚えていた。しかし、乳房と乳 房が触れあう柔らかな感触が、二人とも女であることを告げていた。 「真樹子さんは、心の中はまだ男でしょ?それだと、男の人とのセックスは考えられな いのかな。」 「考えられない。今までも調教するのは美香さんだけだったし。」 「そうなんだ。私を調教するのは男だけ。男の調教師よ。さっきの男が一番多いけど、 他にも調教師はいるわ。」 「女の奴隷には男の調教師。男の奴隷には女の調教師か…」 そこまで言って、真樹子は愕然とした。自分はもう女の身体にされている。ということは、 これから自分にあてがわれるのは、男の調教師になってくるのかもしれない…。 「もう真樹子は女の身体だから、男の調教師が来るかもしれないわ。」 真弓も同じことを言った。 「真弓さん、男の調教師って、何をするの?」 「えっとね、緊縛、鞭、蝋燭、浣腸、恥ずかしいな…、えっとね、フェラ、セックス。」 「そっか。フェラとセックスは私はまだ無いな。」 「それはあなたが今まで男の身体だったからよ。もう女の身体になったんだから、フェラ とセックスは必須場の調教になってくるはずよ。覚悟は出来てる?」 「フェラとセックス…。男のおちんちんは、やだな。」 「大丈夫よ。あなたはもう女の身体なんだから。おちんちんを受け入れて気持ちよくな ることが出来るわ。自信を持っていいわ。だって、こんなに女っぽい身体なんだもん。」 「自信って…」 真樹子は苦笑いした。でも、真弓の言うとおりなのだ。奴らが真樹子の股間に作った膣は、 男のおちんちんを受け入れるためのものでしかない。それを使う訓練をしないはずはない のだ。男…。男に抱かれる…。真樹子は死んでもいやだったが、明日からは男から調教を 受けるのだろうか。  真樹子は話題を変えようと別な話題を持ち出した。 「私たち、これからどうなるのかな。売り物になるとか言ってたけど…」 「セックスを目的とした女奴隷に調教されて、奴隷市場で競りにかけられるのよ。ここ で顔見知りだった女の子がもう何人も奴隷市場に行かされて、そのままもどってこなかっ たわ。」 「奴隷市場…」 「そう。そういう所が日本にもあるのよ。その話を聞かされてびっくりしちゃった。昔 ならそんな話聞いたら、友達みんなに、ねぇねぇ、聞いて。びっくりする話聞いちゃった、 なんてしゃべりまくって楽しむとこだけど。でも、その話を聞いたときには、この自分も やがて奴隷として売られちゃう運命になっていたんだもんね。」 「信じられない。奴隷として売られたら、どうなっちゃうんだろう…」 「さあ、それは私もわからないわ。ただ、さっき美香のやつが言ってたことは本当よ。 いい御主人様に買われたら、それこそ大金持ちの愛人みたいに、かなり素敵な生活になる らしいわ。そうやって幸せな女奴隷として暮らしている人がここに遊びに来たことあるも ん。もう何年も前に売られた人らしかったけど。」  真樹子としては初めて聞く話ばかりである。話を聞きながら、女って大変だなと他人 事のように思う時と、それが我が身の明日の運命だと言い聞かせる時と、入り交じって混 乱していた。女奴隷を買いに来る人のいい人がいるのかどうか怪しいものだったが、もし いたとしたら、普通の生活に戻してくれることもあるのか? 「ねぇ、真弓さん。いい人に買われたら、普通の生活に戻してくれることもあるのかな?」 「それは無理よ。奴隷になりながら普通みたいに暮らすことは出来るけど、一度ここに 来た女性は、もう二度と普通の女には戻れない。そう言われたわ。」 「やつらが監視してるから?」 「それもあるとは思うけど。そんなことより、奴隷市場で飼い主が決まると、奴隷の印 の刺青と焼き印を身体に入れられるのよ。そして、二度と外せない首輪を嵌められてしま うわ。その首輪には発信機能があって、たとえ逃亡してもどこにいても見つかっちゃうん だって。」 「刺青… 焼き印… 発信機能付きの首輪… そんなものを着けられちゃう女にされるんだ…」 「そうよ。それを聞かされて私もショックだったわ。逃げることをやっぱり考えていた から。でもね、今ではちょっと違ってきた。もうこうなったら、今を楽しむしかないなっ て。」 「楽しむ?」 「そう、楽しむの。SMのMね。私、ここに来る前もSMってちょっぴり興味あったけど。 今のこの生活って、究極のMでしょ。これ以上ないMよね。だから、私自身も究極のMの 快楽に目覚めれば、ここの生活や女奴隷として売られた後の生活も楽しめるのかなって。 」 「女奴隷の生活を快楽に変えちゃう?」 「そうよ。真樹子さんはまだ女になったばかりだから、女奴隷を楽しむ前に女を楽しむの。 いきさつは無理矢理でもせっかく女の身体をもらったんだもの。女の悦びを知らないとも ったいないわ。まずはそこからよ。」 「そうね。そうよね…。」 そうは答えながらも、目の前の真弓さんって強い人だなぁと思った。女を楽しむ。マゾ を楽しむ。それが素敵というより、そうならないと気が狂いそうだと思った。 9.女として縛られる  ランジェリーショップの店員だった真弓との再会のあと、自分の部屋に戻されてから、 、真樹子となった誠は自分の女の身体を意識するようになってきた。クローゼットの中か らセクシーに思える下着を出してきて、いろいろ身につけては鏡に自分を映し、すでに女 になった自分の身体になかなか似合ってることを確認したりした。それでも、女の身体に された先に待っていることは、怖くて考えることが出来なかった。  朝食が終わり、いつものように鏡台の前で化粧をしていると、男が部屋に入ってきた。 真弓の部屋にいた調教師の男とは違った。今、部屋に入ってきたのは隙の無い、逞しいけ どカミソリのような印象の男だ。精悍な肉体で太ってはいないが筋肉はがっちりしている。 背は180ちかくあるだろうか。この男には逆らえない、という凄みがあった。いつもな ら美香が入ってくるところなので、思わず下着姿の胸を両腕で隠しながら「え? いや〜 っ」 と叫んでしまった。なぜとっさに女の悲鳴が口をついて出てきたのか自分でもわから なかったが、突然の男の出現に驚きは隠せなかった。しかし、やはり、という思いもあっ た。今までと違い、今の自分は男に侵入される受け口を身体に造られてしまっているので、 自分でも驚くほど男という存在に敏感になっていた。 「へへ、ずいぶん女っぽくなってきてるな。見違えたぜ。おれは健。よろしくな。 これからお前を担当する調教師だ。」 「み、美香さんじゃないんですか?」 「お前は美香さんが好きなのか?今まで美香さんが相手していたのは特別扱いさ。 これからは俺がお前の調教師だ。第一、女の身体になったおまえを調教するには男でない と出来ないからな。」 やっぱりそうだ。男でないと出来ない調教と言えば…フェラとセックス…。 「さ、いいから脱ぎな。丸裸になるんだ。縛るぞ。」 真樹子は恐ろしくてふるえが止まらなかったが、健が持っている長い一本鞭はもっと 怖かった。言われるままにパジャマを脱ぎ、ブラジャーとショーツだけの姿になった。 「丸裸だ。」 「はい…」 ブラジャーを外し、さらにショーツを脱いで丸裸になり、左手で胸、右手で股間を隠し ながら健の前に恥ずかしそうに女にされた肉体を晒した。いったいこれから自分の身に何 が起こるのか…。真樹子は逃げ出してしまいたい衝動にかられながら、鞭の怖さに負けて おとなしく丸裸の肉体を晒していた。 「オッパイもなかなかだな。Cまできたな。もっともっと大きくなりそうだ。さあ、そ んなとこを隠してないで、両手は背中だ。縛るぞ。」 真樹子は、おずおずと健に背中を向け、両手を背中に廻して、美香との調教で教えられ たように、両手首をなるべく背中の上の方に来るようにして重ねた。受縛のポーズ。美香 からたたき込まれた、調教に入るときの奴隷のポーズだが、こんなに恐ろしさでドキドキ するのは初めてだ。美香の時は相手が女性という甘いムードがどこかにあった。しかし、 今度は健だ。男だ。手を縛られてしまえば、侵入を拒めない。侵入されたら最後、自分が 違う人間にされてしまうような気がした…。 背中の両手首に麻縄が絡みついてきた。いよいよだ…と覚悟して身体を固くしていると、 ギュッと縄が締まり、両手首が縛られた。 (ああ… 縛られてしまった…) 縛られるまで不安と恐れでいっぱいだった真樹子は、現実に縛られてしまったという諦 めが、かえって妙な安心に繋がってることに気づいた。麻縄はさらに真樹子の乳房の上を 二重に締めて縄止めされる。さらに二本目の縄が真樹子の身体に絡みつき、乳房の下を二 重に締め付けた上で腕のところで留め縄も施され、さらに余った縄は首の横を前に廻され て乳房を上下に縛った縄を胸の谷間のところで縦に締め上げる。ググッと乳房が縄で締め 付けられてくると、今までとは比べ物にならない快感が乳房から身体中に駆けめぐった。 (な、なにこれ…) 乳房が熱い。乳房の上下を縛られているだけなのに、身体がどんどん熱くなり、乳房が 敏感になってきていることが自分でも自覚できた。  健はさらにもう一本、麻縄を取り出して胸よりしたの下半身を縛り始めた。腹と腰に それぞれ縄を水平に廻し、さらに腰縄の正面で一度縄を結んでから余った縄尻を前に垂ら す。それを健は足の間から手を伸ばして持つと、グイッと股間に縄を食い込ませて腰縄の 後で縄止めした。SM雑誌のグラビアなどで見たことのある股縄だ。 「あぁっ」 思わず真樹子は呻き声を挙げてしまった。SMクラブに行った後でアパートの部屋で、 自分は男だから股縄を絞められた緊縛は味わえないと残念に思ったことを思い出した。 自分には永遠に縁がないと思っていた股縄が、今、我が身に施されている…。 「ふふふ、どうだ、縄の味は。これが本当の縄の味さ。女の身体でないと縄の味は味わ えないから、ゆっくりと噛みしめるんだな。これから一生この味を忘れることは出来なく なるぞ。」 そう言うと健は真樹子をベッドの上にあぐらで座らせられた。そして胡座に組んだ両足 首を縛ると、縄を左の首の横から背後の縄にかけ、右の首の後から前にまわして両足首の ところに引っかけ、さらに左肩と右肩から足首に伸びている左右の縄を束巻きで巻いてい く。エビ縛りだ。以前にも美香からこの縄をかけられたことはあったが、その時はまだ男 の身体だった。すっかりCカップに成長した乳房の上下と股間の割れ目に縄を食い込まさ れてのエビ縛りは初体験だ。しかも、女性ホルモンの影響ですっかり敏感になっている肌 に適度な力加減で食い込まされた縄は、はっきりいってすごく気持ちいい。 「しばらく、縄の味を噛みしめてろ。」 真樹子の心を見透かしたように声をかけた健は、真樹子の口に手拭いで猿轡を噛ませると、 部屋から出て行ってしまった。 女にされてしまった身体を丸裸のまま後手に縛られ、乳房の上下を縛られた上に生まれ て初めての股縄まで食い込まされてエビ縛りのまま放置されてしまった真樹子。 「う… うう…」 縛られた乳房や股間は異様な熱を孕んできていて、じっとしていられない。 (これが、縄の味…?) もしこれが縄の味というものだとしたら、悪くないかも、と思えてきた。今まで男の身 体で美香に縛られていた時とはまったく違うのだ。あのときは美しい女性である美香に縛 られたということで性的興奮はあったが、今は縛られていること自体が気持ちいい。真樹 子を放置して健は出て行ってしまったが、こうして縛られて放置されていても、生まれて 初めて味わう女としての縄の味に、しばらくは時間が経つのも忘れて興奮していた。  やがて、興奮が冷めてくると、いったいいつまでこのままでいないといけないのか、 心配になってきた。健がもどってくる気配はない。耳を澄ませると、静寂の中にかすかに 女の悲鳴らしき声が聞こえてくる。縛られて放置されていると、その悲鳴は自分の運命を 暗示しているような気がして、他人事とは思えない。場所は同じ建物の中だろうがかなり 離れているようだ。時々しか聞こえてこないが、悲鳴をあげている女性は明らかに一人で はない。やはり、何人もの女性が調教されているようだ。中には自分のように男性から女 性に身体を変えられてしまった人もいるのだろうか。 10.女にされる  どれくらいの時間がたっただろうか。健が部屋にもどってきた。 「ふふ、おとなしくしてたようだな。」 健がもどってきたことで、真樹子はなぜか安心感を憶えた。健はエビ縛りの縄を外して 足首の縄を解くと、さらに股縄を外し、真樹子をベッドに横にした。背中の手首が痛くな いようにか、背中に枕をいれてくれた。そして足を持つと左足首と左の腿を縄で縛り、同 じように右の足首を右の腿に縄で縛り、足が伸ばせないようにされた。さらに余った縄で 左右の足が閉じられないように縛り付けられてしまったので、真樹子は仰向けで足をM字 に開いたままの姿勢にされてしまった。  健が服を脱いで近づいてきた。健の股間の男性のシンボルは天を向いて勃起している。 大きい、と思った。今までは男性のシンボルは自分と同じものなので見たくない、という だけの印象しか持っていなかったが、股間をさらけ出した姿勢で動けないように縛られて いながら男性のシンボルを目の前に現実に見ると、真樹子はこの後にいったい何が我が身 に起こるのか、悟らざるを得なかった。これまで男としての女性経験は無かったが、漠然 と抱いていたセックスのイメージはもちろん自分が女性に覆い被さるシーンだった。しか し、こんな無防備な格好で男性のシンボルを目の前にしていると、もはや自分は男性の立 場ではないと思い知らされた感じだった。真樹子はまだ心の中は濃厚に男性であり、健を 異性としては見ていない。しかし、自分の股間には健の男性のシンボルを受け入れる部分 が既に造られてしまっているのだ。もはや、男性のシンボルを自分の身体に受け入れるし かない…。  うまく造られた膣とはいえ、さすがにまだ潤ってはいない。しかし、健はチューブの ゼリーをべっとりと真樹子の股間に塗りつけた。女性がいかに拒もうとしようとも、足を 開いて動けない姿勢で拘束され、股間にベットリとゼリーを塗られたら、女性は男性の挿 入を受け入れるしかないという現実を、真樹子は思い知らされた。女性とは、こんなにも 受け身な生き物なのか…。  逃げようとしているわけではないが、目の前に迫った運命の瞬間を一分でも一秒でも 遅らせようと、真樹子は激しく身体を藻掻かせた。しかし、既に女性にされてしまった我 が身に施されたきついいましめは、真樹子の動きを完全に封じていた。 「ふふふ、いくぜ」 クールに呟いた健は、縛られている真樹子の両足を手で持つと、一気に真樹子の股間に 挿入してきた。 「うう… 」 猿轡を噛みしめながら、真樹子は絶叫した。くぐもった悲鳴が部屋に響いた。痛い。 身体が股間から二つに割り裂かれるような痛みに感じた。お腹いっぱいに物を食べたよう な、なんとも言えない妙な圧迫感を下半身に感じた。なんとか健のを股間から外そうと藻 掻いたが、健は挿入したまま真樹子の上から覆い被さって両手で真樹子の身体をがっちり と抱いたので、真樹子のもがきは単に色っぽい動きから健の股間をますます大きくさせる だけだった。 健は挿入したまましばらく動かずに真樹子を腕で抱いていたが、やがて腰を動かしてき た。 動かされるとますます痛くなるので真樹子は猿轡の中で痛い、痛いと絶叫していた。女 性はセックスの度に、こんな拷問のような痛みに耐えているのか、と思った。しかし、 健の激しい腰の動きがしばらく続くと、痛くはあるが、だんだんその痛みと共に股間が 熱くなってきた。そして、その熱さは自分がかつてオナニーをしていたのと似た快感を 伴うようになってきた。 「ううう…」 真樹子のあげる悲鳴がだんだん悲鳴から微妙に変わってきたのを健は聞き逃さなかった。 「どうやら感じてきたようだな。ふふ。可愛いな、お前。俺は男とセックスする趣味は 無いんだが、お前はまるで女だ。それもカワイイ女だ。みろ、俺のがどんどん固くなって きてるのがお前にも分かるだろ。」 健の言うとおりだった。真樹子の股間に挿入されている健のが、一段と固く大きくなっ てきた。だんだん痛みは薄れ、次第に何とも表現できない激しい快感に変わってきていた。 健が興奮していることがわかった。自分の肉体で興奮してくれてるんだ、と真樹子は思っ た。やがて、挿入されている男性のシンボルがさらに大きくなったかと思うと、熱いもの が身体の中に溢れるのがわかった。健が射精したのだ。 「ふう〜、気持ちよかったぜ…」 少し疲れたように健は真樹子から身体を離し、ベッドの上に仰向けになった。満足した ように見えた。そんな健を見ていて、真樹子の中の何かが変わった。セックスで感じた快 感は、まだのめり込むほどの快感ではなかったが、そんなことよりも、健が自分の身体で 興奮して射精したということに、なにかしらの満足感のようなものを覚えていたのだ。自 分でも不思議なのだが、真樹子は女の身体にされてしまった自分の存在理由のようなもの を見いだしたような気がしていた。自分の存在によって人が満足してくれる。それは悪い 気持ちではなかった。 「どうだ。女になった気分は?」 健は真樹子の猿轡を外すと、そう話しかけながら足の縄を解き、仰向けになった真樹子 の身体を起こした。 「どうって言われても… 何がなんだかわからなくて…」 「イヤではなかったようだな。」 「最初は怖かった。でも、私でいってくれたから…」 「ほう。自分の身体で俺が興奮したのが、お前もうれしかったか。」 「ええ。」 「これでお前も女になったんだ。」 「もう女の身体になってるわ。」 「そうじゃない。男を知ったという意味で女になったと言ったんだ。」 健の言うとおりだった。今、自分は女として男を知ったのだ、と思った。男とセックス なんて絶対いやだと思っていたのだが、いざ健と女の立場でセックスをしてみると、絶対 にいやだという嫌悪感は無くなっていた。まだ健を異性として見るまでにはいかなかった が、でも自分で興奮してくれたのは悪い気はしなかった。  「さ、自分の気持ちよくしてくれたものへ、ご挨拶だ。」 健はそう言うと自分の男性のシンボルを真樹子の顔の前に突きだした。フェラチオをし ろと要求しているのだ、ということはすぐにわかった。男の物を舐めるなんてとんでもな い、と思っていたはずなのだが、さっき自分の身体の中に入って気持ちよくしてくれた物 だと思うと、嫌悪感は不思議に覚えなくなってきていた。ちょっと戸惑いはあったが、勇 気を出して、健のを口に銜えた。そして、舌で舐めて、自分ならこうされると気持ちいい だろうなと想像しながら舌を動かした。 「なかなかうまいぞ。その調子だ。気持ちいい…」 健は満足そうだった。本当に気持ちいいのだろう。健のモノがどんどん固く大きくなっ てくるのが銜えていてわかった。ちょっとうれしかった。後手に縛られていてのフェラチ オは手を使えないので難しかったが、でも自分のしていることが直接に相手の満足に繋が っていることには満足感があった。股間の膣にもこんな感じで挿入されていたのかなと考 えながら、夢中で健のをフェラするようになっていった。 11.女になる  健に女にされ、フェラまで教え込まれてから一日経った。あれから疲れて崩れるよう に眠ってしまった真樹子は翌朝目を覚まし、ベッドの中であらためて昨日のことを思い出 していた。女の身体にされて縛られた。今までにないゾクゾクするような快感があった。 夢に見ていた股縄を我が身に施されて味わったせいかもしれない。そして、縛られたまま 健に犯された。股間の膣への挿入は激痛だったが、次第にいままで味わったこともない快 感に変わった。そして健の射精を我が身で受け止めた。その後に行った健の男性のシンボ ルへのフェラは、不思議と嫌悪感がなく行えた。  女になってしまった、ということか、と真樹子は考えた。女とは男との対比で女だ。 男の性器を我が身の性器で受け止めるのが女だ。そう思うと、自分は女以外の何者でもな いと思う。では、自分は女なのか。女は男に抱かれる。男に抱かれたいと思う存在のはず だ。では、自分は男の抱かれたいのか?男に抱かれたくないのなら、自分は女ではない。 まだ男だ。しかし、股間の女性器の存在は?真樹子の思考はここで堂々巡りになっていた。 女の身体になってしまった以上、男を好きにならないといけないのではないか、と。しか し、昨日、縛られたまま健に抱かれたのは、悪い気分ではなかった。気持ちよかった。そ れなら、健を異性として見られるのか?  真樹子は真弓のことを思い出した。やはり、真樹子にとって真弓は異性だ。抱きたい という素朴な衝動がある。身体は女になっても、女になりきれてない…。身体が既に女に されてしまったのだから、もはや後戻りは出来ない。それなら、女になるしかない。でも、 心は女になれない…。理性ではこうなった以上諦めて心も女になりきる方がいいと思って きてるのだが、でも、心まで女になりきる自信がない…。  真樹子は与えられた朝食を食べたあと、裸になって鏡に自分の全身を映してみた。 鏡の中の自分は、もう、まるっきり女であると認めざるを得ない。クローゼットの中をい ろいろと探し、フランス製の黒のレースのブラジャーとパンティを取り出して身につけた。 真樹子の心の中にいる”誠”は、黒い下着を身につけて鏡に映っている真樹子の姿を、抱 きたいほど素敵な色っぽい女と見ていた。次に鏡台の前に座ってメイクをする。今ではす っかり女性としてのメイクは慣れた。というか、メイクのやり方は美香から鞭で教え込ま れた。しかし、今は、自分は本当の女になれるのか、と自問自答しながら、せめて外見だ けでも素敵な女になれるよう、試行錯誤でメイクをしていった。女性ホルモンの影響か、 すっかり顔も女顔になり、いろんなメイクをしても不自然でなく女になる。そのことが、 だんだん真樹子には腹ただしくなってきた。 ---------------------------------------------------------------------------- onnadorei2.txtに続く