ある性転者の告白 作:高野奈緒美
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ある性転者の告白96

 私は、言いようもない不安に襲われました。涼子の口調もさることながら、彼らの手によって、ビデオに収められたきたことで、自分がこれまでに味わった数々の辛い体験の記憶が蘇ってきたからです。 「手術は、11時間もかかったんだけど、これは、3時間にまとめてあるの。でも、大事なところは全部撮ってあるから、ゆっくり、見てね・・・。フフフ・・・。」
 涼子はそう言うと、ベッドの脇の椅子に腰掛け、ビデオの始まりを待ちました。傍らには村井が意味ありげな笑みを浮かべながら、同じように腰掛けていました。  やがて、テレビの画面が、白く変わり、なにやらタイトルらしき文字が浮かびあがりました。 『奈緒美・・・REBIRTH編』  画面には、そんなタイトルがピンク色の文字で現れました。 (リ、リバース・・・?「再誕生」?な、何だ?これは・・・?)
 私は、画面を見つめながら、胸騒ぎがし、動悸が激しくなっていきました。けれども、同時に、 (ああ、そうか、男に生まれ変わるってことか・・・、つまり、奈緒美を捨て直樹に戻るってことだ。そうなんだ。)  私は、不安を取り除くために無理矢理、自分に言い聞かせ、画面を見つめ続けました。  しかし、なんということでしょう。次の瞬間、私の目には信じられない場面が飛び込んできました。タイトルが消え、画面が映し出したのは、見慣れた屋敷の一室です。そう、私が5日前まで暮らしていた部屋です。さらに、追い打ちをかけるかのような画面が目に飛び込んできたのです。
 カメラは部屋の中を一回りした後、中央に腰掛けている女性に向けられると、だんだんと、その女性をアップにしていきます。 (ゆ、結花・・・、結花じゃないか・・・、これは、一体・・・・ど、どういう・・・)
 そうです。そこの映し出されたのはまさに私の最愛の恋人、加藤結花の姿だったのです。 私には、一体何が起こっているのか分かりません。ただ、夢の中にいるような気分でした。 (ま、幻か、いや、これは、確かに結花だ・・・・でも、どうして・・・。)
 私の呆然とした視線に気づいたのか、涼子が言いました。 「どう?結花ちゃんよ。あなたが愛している結花ちゃん。びっくりしたでしょ?フフフ・・・、よかったわね、結花ちゃんに会えて・・・。」  私は、その言葉で、画面上の女性が、幻などではなく、結花本人であることを思い知らされたのです。けれども、私は自分の不安を打ち消すために、できるだけ楽観的な考えを抱こうと、自分に言い聞かせました。 (そ、そうか・・・、涼子たちは結花を私に会わせるために呼んでくれたんだ。そうだ。そうに違いない。)  しかし、次の瞬間、画面の中の結花が話し出した内容を耳にして、私のかすかな期待は消え去り、奈落の底に突き落とされたのでした。  画面の中の結花は、カメラの方を直視して、ゆっくりと口を開きました。口元には、かすかな笑みが浮かんでいましたが、その目は落胆と、怒りと、哀れみが混じり合ったような複雑な色をたたえています。

ある性転者の告白97

  「こんにちは、お久しぶりね。直樹さん。びっくりしたでしょうね。私がここにいるなんて・・・。でも、ホントは私の方がびっくり・・・。だって、直樹さん、アメリカにいるとばかり思っていたんだもの。それが、こんなところにいたなんて、電話で村井さんたちに呼ばれて、ここに来てみて、ホントに驚いたわ。でも、もう、そんなこと、どうでもいいの。私がびっくりしたのは、直樹さん、あなたの秘密を知ってしまったことよ。あなたはとっても優しかったわ。顔立ちも優しかったし、私はそれが大好きでした。でも・・・それが優しさではなく、あなたの性癖のせいだったことを知って、どんなにショックを受けたか分かる・・・?直樹さん・・・、あなた、私をだましていたのね?私、私・・・、本当にバカだった。最初、村井さんたちにあなたの写真、そう、女装した写真見せられて、まるで狐につままれたような気分だったわ。きっと、これは騙されてるんだって・・・。それに、写真の直樹さんは、眠っているように見えた。だから、悪い人に拉致されて、無理矢理あんな格好させられているんだって・・・。私、そう、信じ込もうとしてたわ。わかるでしょ?私の気持ち・・・。でも、その後、いろいろなテープを見せられて、そんな気持ちも消えてしまったわ。直樹さんが、小さいときから、ずっと、お・・女の子に・・・・女の子になりたかったなんて・・・・、そして、自分から進んで女装をしているんだって。でも・・・でもね、それだけなら、直樹さんのこと、許せたかもしれない・・・。ううん、それでも、いやだけど・・・、でも、それだけなら・・・我慢できた。私を愛していてくれるなら・・・。でも、直樹さん、女の子になって、男の人に愛されたいって思っていたのね。ううん、思ってるだけじゃないじゃない。直樹さん、あんなことまで・・・、男の人と・・・あんなことまでするなんて、もう、悔しくて、悔しくて、見ていられなかったわ・・・。ね、直樹さん、あなたにとって、私は何だったの?一体何だったのよ?私は、あなたと結婚できることを夢見ていた。でも、あなたがあんな変態だったことが分かったら、そんな気持ち、全部消えてしまったわ。当たり前よね?私、何時間も泣いた。大声で泣いたの。ね、直樹さん、あなたにこの気持ち分かる?」
 結花の瞳に大きな涙の粒が溢れ出し、それが一本の筋となって頬を伝っていきました。 (ち、違うんだ、結花、違うんだぁ・・・。き、君はだまされてるんだ・・・。そいつらにだまされてるんだぁ・・・。)  私は、何度も叫ぼうとしましたが、その言葉は完全に打ち消され、 「んんん・・・、ううんん・・」 といううめき声にしかなりません。しかも、身体を動かして抵抗することも叶わず、私は、幾筋もの悔し涙を流すことしかできませんでした。
 一旦、画面が切り替わり、再び、映し出された結花が口を開きました。
 表情は、少し落ち着きを取り戻し、瞳は冷静な色に変わっていました。 「直樹さん、あなた、今日、ホントの女の子になる手術を受けるんですってね。村井さんに聞いたわ。あなたが、そこまで考えてるなんて、信じられない気持ちもあったけど、その方があなたのためにはいいのかもしれないと思ったわ。でも、やっぱり信じられない。あなたが、私たちと同じ女の子になるための手術を受けるなんて・・・。それも自分から望んで・・・。どうしても信じられなかった。でも、村井さんが言ってくれたの。それじゃ、もし、あなたが本当に心から、女の子になることを望んでいるのが分かったら、手術を手伝ってくれないかって・・・。そんな、素人ができるの?って聞いたら、それは大丈夫だって。医者のアドバイス通りにすればいいって。それは、一度は愛した人だもの。いくら、騙されたと言っても、もし、本当に直樹さんが望んでいることならって、答えたの・・・。私、これから、病院に行くわ。そして、あなたの本心を確かめる。できるなら、全てが嘘だって信じたいけど・・・。」   画面が変わり、病院が映し出されました。

ある性転者の告白98

  (ほ・・・本当の女の子になるための手術って、ど、どういうことだ、いったい、お前たちはこの僕をどうしようという気だ・・・?)
 私の不安は頂点に達し、自分の身に起こったことを、一刻も早く確かめようと、身体を動かそうとしましたが、全身の拘束具がそれを許してくれませんでした。  画面が再び切り替わり、手術室が映し出され、その中央の手術台に、一人の全裸の女性が寝かされています。いえ、それは外見上は完全な女性ですが、女性ではありません。そう、高野直樹、私自身なのですから。  やがてカメラは周囲にいる人の顔を次々にアップにしていきます。それぞれが白衣を着て立っています。医師の小島、二人の看護婦、そして、村井、涼子、さらに、もう一人の女性・・・、そう。それは、やはり結花の白衣姿だったのです。あの時、麻酔のせいで朦朧とした意識の中で、幻だと思っていた人影は、やはり結花本人だったのです。 (ゆ、結花・・・、やっぱり、結花だったんだ・・・。)  画面の中の涼子が、結花に話しかけます。 「ほら、よくご覧なさい。これが高野直樹の本当の姿よ。ほら、もっとよく見て・・・ね?分かるでしょう?胸だって、お尻だってこんなに大きくなって・・・。それも全部自分から望んでしたことなの。ね?私たちの離婚の原因が分かったでしょ?あなたを愛しているなんてみんな嘘。私もこの人の女の子願望についていけなかったのよ。ね?分かるでしょう?」
 結花が呆然とした表情で手術台の変わり果てた私を見つめています。 「こ、これが、直樹さん・・・、し、信じられない、やっぱり、信じられない・・・。」  結花が小さくつぶやきます。 「そう、それもそうよね、愛する彼にこんな趣味があったなんてね。じゃ、いいわ。彼に聞いてあげる。本当に手術したいのかってね。」  涼子はそう言うと、手術台の私に近づいて、耳打ちし始めたのです。
   「よかったわね、いよいよ、手術が始まるのよ。うれしい?ね、うれしいでしょ?だったら、微笑んで見せてよ。そして、お医者様に、お願いして。『手術してください。』って・・・。」  そう、それは、あの朦朧とした意識の中で聞いた涼子の言葉でした。 手術台の私は、その言葉に応えるかのように、大きな笑顔を見せながら、消え入るようなかすかな声で、 「お、お願いします。手、手術を・・・手術をしてくだ・・・さい・・・。」 と言ったのです。  その表情は、事情を知らされていない人なら誰でも、自分から進んで手術を受けようとしている人の表情にしか映りません。
 涼子は、私の元から離れ、再び、結花の近くに歩み寄り、 「ね?あんなに喜んでいるでしょ・・・?これはみんな、彼が望んでいることなの。だから、お手伝いしてあげて。一度は愛していた彼なんだから・・・。」
 涼子の言葉に、結花は幾筋もの涙を流しながら、その場に泣き崩れてしまいました。  手術中の私はそんなことに全く気づきませんでした。もちろん、麻酔の影響で、すでに深い眠りに落ちていたからです。
 手術室には、数分間の沈黙、いえ、結花の泣き声だけがこだましています。

ある性転者の告白99

 やがて、画面が切り替わり、手術台の私が大写しになり、次に頬に涙の乾いた跡を残した結花のアップが続きます。
 結花は、一度、大きくうなずくと、 「よく、わかりました。直樹さんと涼子さんの離婚の原因も、全部・・・。私、お手伝いします。直樹さんとのお別れを心に決めるためにも・・・。」 と言い、眠っている私のそばに近づきました。 「直樹さん、いえ、こうして、あなたの身体を見てると、とても直樹さんなんて言えないわ。奈緒美さん・・・、あなたは、そう呼ばれることを望んでいたのね。これから、あなたを望み通り、本当の女の子、本当の奈緒美さんにしてあげる。お別れの記念に私がお手伝いしてあげるわ。」
 結花の表情は、開き直った、さばさばとしたものでしたが、その瞳の奥には、明らかに自分を騙し続けていた男に対する復讐心の鈍い光を現れています。 (だ・・・、だめだ、結花・・・。君は・・・、君はだまされてるんだ。信じてくれ・・・、僕を信じてくれぇ・・・。)  私は、それが、すでに終わったことであり、今更どうにもならないことであるのも忘れ、必死になって、画面の結花に叫ぼうとしました。
 小島は、手に持った小さな小瓶から、私の二つの睾丸をシャーレーに移し替えると、それを結花に手渡します。 「これを、あの容器に入れて・・・・。」  結花は、小島に言われるまま、シャーレーを受け取ると、手術室の端に置いてある大ぶりの瓶に二つの睾丸をポトリと落としました。すると、中の液体と反応するかのように、激しい煙を出し、どんどん溶けていくのが分かります。 (な・・・、なんてこと、や・・・やめてくれぇ・・・)  私は、必死になって声にならない声で叫びました。 「あれは、濃硫酸液だ。これで、睾丸は全て溶けてなくなる。つまり、彼の男性としての機能は二度と再び戻ることはない。」
 小島の冷淡で事務的な説明が続きます。そして、看護婦からメスを受け取ると、それを、結花に手渡し、眠っている私の下半身に顔を近づけながら、なにやら説明をし始めたのです。その様子を冷たい笑みを浮かべながら眺めていた涼子も彼らに近づき言いました。 「ほら、見て。結花さん、彼のオチンチン・・・、ね、こんなに小さいのよ。自分じゃ、クリちゃんだって思ってるの。まあ、そう見えなくはないけどね。でも、これじゃ、あなたを喜ばすことなんか、二度とできないわよねぇ・・・。だけど、これもみんな、彼の望みなのよ。フフフ・・・。」 「ホントね、涼子さんの言うとおり、こんなちっちゃいものになってるなんて。そう言えば、テープの中でも言ってたものね。早くオチンチン取って、本物のオマンコ欲しいって、それで、いっぱいいっぱい、男の人に愛されたいって・・・ね。」
 私は、結花の口からそんな下品な言葉が出てくるのを信じられない思いで見つめました。しかし、それ以上に、衝撃を受けたのは、次に行なわれようとしている手術の内容を、小島が説明した時でした。 「これから、この患者の陰茎を切り落とし、女性器の形成を行うから、あなたにはそれをお手伝いしてもらいます。」 (な、何を・・・、何を言ってるんだ?こいつらは・・・、結花、結花・・・、だめだ、そんなことしちゃ、だめだぁ・・・。)
 画面は陰部の大写しになり、そして、次の瞬間、結花の持つメスが、その矮小化した根本に静かに入っていくのです。 (ぎゃー、や、やめてくれ、結花・・・、やめてくれぇ・・・。)  
   私は気を失いそうになる自分を必死に抑え、画面を凝視し続けました。  結花は少しのためらいもなく、メスを前後に2、3回動かします。  小指の第2間接ほどの太さしかなくなっている私のペニスは、あっさりと切り離されました。

ある性転者の告白100

  「よかったわね。直樹・・・いえ、奈緒美さん。お望み通り、もう、完全に男とはお別れよ。これからは、私たちと同じ女の子として、生きることになるの・・・。フフフ・・・。」  結花は、そう言い残して、手術台から離れ、涼子と二言三言言葉を交わすと、備え付けの椅子に腰掛けました。 (ああ・・・、ああー・・・、な、なんてこと、なんてことを・・・・・)
 私は、心の中で叫ぶと、そのまま、本当に気を失ってしまいました。ですから、この後の手術の過程をテープで見ることはありませんでした。
 しかし・・・、しかし。私は、この時、ついに男との永遠の決別を迎えたのです。しかも、そんな残酷な行為を、最愛の結花によって施されたのです。私のショックはきっとどなたにお話ししても分かっていただくことはできないでしょう。
 その後、私に施された手術は、ペニス除去から始まり、約11時間もの時間をかけて行われました。
 完全に男性器を切除された下半身には、巧みな技術で本物と寸分違わぬ女性器が形成され、胸には、Dカップを作っていた、シリコンから、新たにHカップのグロテスクとさえ思えるようなバストを作り出すための生理食塩水パックに入れ替えられました。そして、それまででも十分にグラマラスなラインを作っていたヒップ付近にも、新たに脂肪が注入され、より大きく豊満なラインを作り出したのです。それだけではありません。女性的な高音にするために声帯を細くし、胃袋を3分の2を切除し、その空いたスペースに新たに、一年間は十分に機能し続ける、高濃度の女性ホルモンの入った小型の容器が埋め込まれたのです。それにより、食欲はきわめて細くなり、女性ホルモンの大量投与による肥満などの副作用を抑え、人為的に作った体型をずっと維持し続けるのが可能になったのです。
 悪魔の所業とも言うべき、彼らの人体改造はそれだけではありません。何と、下腹部には、病死した若い女性の子宮と卵巣が移植されたのです。このことにより、私は生理の苦痛と妊娠の恐怖を与えられることになったのです。さらに、巧みな技術で形成された女性器の付近には、ボタン電池大の小さな電磁波を送るためのリモコンの受信機が埋め込まれ、陰核の皮膚の除去も施されたのです。
 私は、当初、このリモコンと、陰核皮膚除去という手術が行われたことを知らされていませんでした。それが、わかったのは、退院後のことです。電磁波の送信機のリモコンは、村井たちの手の中にあり、そのスイッチを押すことで、私の新たに作られた性器を電磁波が刺激し、激しい性欲に襲われことになったのです。そして、陰核皮膚の除去により、敏感になった女性器はちょっとした刺激でも、反応を示し、自分の身体を自分でコントロールできないほどの性欲の高まりを、強制的に与えられることになったのです。

 
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