ある性転者の告白 作:高野奈緒美
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ある性転者の告白76

  「そう、最終テスト。だから、合格すれば、晴れて解放ってわけよ。どう?うれしい・・・?それとも、もう男には戻る気がなくなっちゃったかしら?フフフ・・・。」  私は、涼子の言葉に、思わずドキっとしました。もちろん、うれしくないわけはありません。監禁生活から解放されるのですから。でも、心のどこかで、(本当に男に戻っていいの?このまま、女の子として生きていた方が幸せなんじゃないの?)という問いかけがわき上がってくるような気がするのです。私はそんな問いかけを理性で打ち消そうと、首を左右に振ると、心の中で強い男の意識を持ってつぶやいたのです。 (何、考えてるんだ?男に戻って結花と暮らせるんじゃないか?うれしいにきまってるだろう?)
 けれども、実際に私の口から出た言葉は、 「ホ・・・ホントなんですね?う・・・うれしいです。奈緒美、とってもうれしいです・・・。涙が出てくるほど・・・うれしいです・・・。」 というものでした。もちろん、それは、村井たちのご機嫌を損ね、解放の約束が反故になることを避けなければという防衛本能によるものでしたが、心の片隅に、男たちから可愛く見られたいという女性化した心理があったからかもしれません。
 私の自分でも驚くほど自然な女の子としての仕草に、村井も涼子も、心から満足げな表情を浮かべて、頷きました。 「でも、セックスアピールテストって・・・・何ですか?」
 私は、最終テストであることを告げられたことの喜びに、肝心な部分を確かめるのを忘れていたのです。 「うん、それはね、ここにいる人たちは、みんな奈緒美ちゃんのこと知ってて、可愛い女の子になったって思っているけど、外の知らない男の人たちにはどれだけ魅力的に写るかわからないじゃない?だから、それを試してみるの。ね、だから、そんな地味なのじゃなくて、グッとくるような服にしないと・・・あ、そうだ、ちょっと、待ってて・・・」  涼子はそう言うと、リビングの片隅に予め置いてあった衣類を抱えて、私のそばに歩いてきたのです。
 私の心から快活さが消えていき、一方で不安な思いが大きくなっていきました。 「さあ、これに着替えて・・・。この方が奈緒美ちゃんらしくて似合うんだから・・・。フフフ・・・。」  私は、涼子の差し出す衣類を手に取り、広げてみました。
 それは、タオルのようなソフトな素材でできた純白のツーピーススーツのようなものでした。ただ上下に分かれたそれぞれが見るからに小さな布きれに見えたのです。 (ああ、やっぱり、こういうことになのね・・・。最初から、これを着せるために用意していたんだわ・・・。)
 私は、自分の甘さに情けなくなりました。このテストの一番大きな目的が、私に恥ずかしい思いをさせることだったことを忘れていたのです。彼らは、私に上品なスーツなどで外出させる意図は最初からなかったのです。恐らく私が上品なスーツに身を包むことで明るい気分になることを涼子は予期していたのでしょう。そして、その上で羞恥心をあおれば、より一層の効果があることもわかっていたに違いないのです。
 私の口からは、無意識の内に、大きなため息がこぼれましたが、これが最終テストだからと心に言い聞かせ、着ていたスーツを脱ぐと、ピンクのブラジャーと、スキャンティだけを残して、手渡された衣類の上の部分に袖を通そうとしました。
「ちょ、ちょっと、待ってよ。ブラしてちゃ、だめでしょ。そういう服を着るときはノーブラにしなさいって、教えてあげたじゃない・・・。忘れちゃったの?フフフ・・・。」  私は、涼子の言葉で、今手にしている服を身につけた自分がどのような姿になるのかを予想することができました。きっと、かなり過激で露出度の高いものなのだろうと・・・。けれども、今更、拒否することはできません。私は、背中に手を回すと、ブラジャーのホックを外しました。抑圧から解放された豊満なバストがブルンッと音を立てるかのように露わになり、そばで見ていた彼らの視線が一斉に注がれたのです。私は、思わず、両手をバストの前で交差させ、その視線をそらそうと、身を屈めました。 「ホントに何度見ても、惚れ惚れするくらい、良いスタイルしてるわね・・・。恥ずかしそうにしている仕草も、女の子そのものじゃない。とても、男だなんて信じられないわ。ねえ、いっそのこと、ホントの女の子になっちゃった方がいいんじゃない?その方が、あなたも幸せだと思うけどなぁ・・・。」  涼子はそう言うと、うつむく私に声をかけたのです。

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 私は、その言葉になぜか、本心を見抜かれているような錯覚を覚え、思わず、涼子の顔にキッとした視線を送ったのです。
「冗談よ。冗談・・・。今日のテスト終わったら、解放されるんだものね。わかってるわよ。アハハ・・・。でも、合格すればだからね。がんばってよ。奈緒美ちゃん・・・。フフフ・・・。」  ブラジャーを外した私は、彼らの視野から裸の乳房を隠すように背を向けて、再び、袖を通しました。 「な・・・何、こ・・・これ・・・?」  私の口から驚きの声が漏れました。袖を通してみて、改めて、その服が頼りないほど小さいことに気づいたからです。それは、町中で着る衣服などと呼べるようなものではなくセパレートの水着の上部ほどの大きさしかないのです。これでは、Dカップのバストが作る胸の谷間とウエストのほとんどすべてを晒しています。しかも、素材が思った以上に薄く、服越しにもツンとした乳首の色や乳房の形まではっきりと見て取れるのです。 
   私は鏡に映る自分の姿に驚きを隠すことができず、着替える手を止めて、呆然とするだけでした。 「なに、ぼーっとしてるの?自分の姿にホレボレしちゃったわけ?ホント、ナルシストなんだから・・・・。さ、早く、下も着なさいよ。」
 私は、その言葉にハッとして、もう一枚の布きれ(そう呼んだ方がピッタリするような小さな服でした。)を手に取ると、両足を通しました。 (ああ、やっぱり・・・)  私は、心の中でつぶやきました。恐らくマイクロミニであることは、予想していましたし、広げて見た時に、かなり小さいこともわかっていましたが、改めて鏡に映し出してみると、そのスカート部分の丈は、想像を遙かに超えた短さだったのです。股下数センチの超マイクロミニの裾と、スキャンティのアンダーラインとの差は、恐らく1,2センチしかありません。
いえ、そればかりではありません。スカートの上部が、腰骨にやっと届くくらいの、いわゆるヒップハンガータイプのデザインで、ウエストのほとんどが露出しているのです。 「うん、やっぱり、奈緒美ちゃんにはこの方が似合うわよ・・・。抜群のスタイルしてるんだもの。みんなに見せつけてやらなくちゃ・・・ね。フフフ・・・。」  私は、背中越しに涼子の声を聞き、目の前の姿見に、恐る恐る視線を向けました。私の顔は、高まる羞恥心で火がついたように赤く染まっていきました。 (ああ・・・こ・・・こんな・・・)  恥ずかしさのあまり、うつむき加減の姿勢をとっていたために、スカートの後ろの裾から、ピンクのスキャンティがかすかに顔を覗かせています。
 私は、反射的に背筋を伸ばし、胸を張りました。けれども、そういう姿勢を取ると、今度は、ノーブラのバストが強調されて、乳房全体の形もツンと突き出た乳首の位置も、くっきりと映し出されてしますのです。  それは、あの新宿での悪夢のような体験をした時以上の過激なスタイルでした。 もしも、このまま外出すれば、通りすがる人々の視線や投げかけてくる言葉が、どのようなものか、考えただけでゾッとして、背筋が凍り付く思いでした。  けれども、彼らの指示を拒否することができないことは、自分が一番よく知っています。私は、結局、そのままの服装で彼らと一緒に屋敷を出たのです。
 私たちは、住宅街を駅に向かって歩いて行きました。彼らは、その日はあえて、車ではなく電車での移動を選んだのです。もちろん、それにも計画された企みがあったからですが。

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 幸い屋敷の近くは、閑静な住宅街だったため、行き交う人もほとんどいませんでした。でも、決して皆無というわけではなく、時折、何人かの男女とすれ違うことはありました。その中には、あからさまに、私の姿を見て、好奇なまなざしを向ける男や、明らかに嫌悪感を示す女の顔がありました。そして、時折、ひそひそと噂しあう、グループもあり、私の心の中の羞恥心はいやが応にも、高められていったのです。下をうつむきながら歩く私の視線の先にには、すらりと伸びたノーストッキングの脚と純白の高いヒールのミュールだけが映っていました。 (ああ・・・恥ずかしい・・・死にたいくらい・・・恥ずかしい・・・。)
 私は、心の中で呟きながらも、道行く人々からの視線を避けるようにして、歩みを勧めたのでした。 やがて、駅についた私に、涼子は、耳打ちしました。 「さあ、ここからは、一人よ。私たちは遠くから、指示するから・・・。」  私の耳に小型のイヤホンが差し込まれました。それは、無理矢理持たされた白いハンドバックに入れられた無線機に伸びていました。 「ま、待って、ひ、一人に・・・一人にしないで・・・。」
 私は、離れていく涼子たちの背中に向かって蚊の鳴くようなか細い声で呼びかけました。
 10時を迎える駅の構内は、ラッシュアワーもピークが過ぎ、混雑も収まっていました。 一人ぽっちにされて、改めて、周囲を眺めてみると、行き交う人々の私に向ける視線がそれまでの遠慮がちなものから、どんどんあからさまになっているのがわかりました。見るからにヤクザ風の村井たちがそばにいたときは、私のことをヤクザの情婦くらいに思っていたのかもしれません。もしも露骨な視線を向ければ、どんな因縁をつけられるかわかったものではないという心理が働いていたのだと思います。けれども、彼らと離れ一人にだけになれば話は別です。見るからにおとなしそうな女の子が、その顔に不釣り合いな濃いめのメイクをし、立ちすくんでいるのです。しかも、大胆にもウエストの大半を露出し、今にも下着が顔を出しそうな超マイクロミニという、まるで昔のディスコのお立ち台にでもいそうな挑発的な服装をしているのです。それは、朝の駅の構内には全くそぐわない姿です。もしも、これが、3ヶ月前で、私自身がこんな姿の女の子を駅で見かけたら、きっと男を欲しがっている淫乱で変態な女の子だと思い、露骨な視線を浴びせたことでしょう。
「すっげー、見てみろよ。あれ・・・、ほら、ほら・・・」 「ん?どれどれ、おっ、すげーな・・・、あんな服着て・・・、もしかしてあれか?痴女ってやつか?」 「いや、でも、それにしちゃ、可愛い顔してるじゃん。それに、すっげーいい身体してるぜ・・。オッパイもでけぇしな・・・。」
「ホントだぜ、それに脚も細くて、足首なんかきゅっと締まってて・・・うまそうー・・・。」 「なんか、俺、おったっちまったよ・・・」 「お、俺もだよ・・・。」
 私を見て、噂しあう男の声が聞こえてきます。 (ああ・・・恥ずかしい・・・お・・お願い・・・そんな目で・・・見ないで・・・・。)  私は、下をうつむいて、聞き流すしかありませんでした。本当は、その場で身を屈め、彼らの視線を避けたい思いでしたが、もちろんそれは、許されません。そんな姿勢を取れば、純白のスカートの裾からピンクのスキャンティが露わになってしまうのがわかっていたからです。

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 その時でした。数人の女子高生らしきグループが私を見かけて、一斉に辛辣な言葉を言い合っているのが聞こえてきたのです。 「な、なに、あれ・・・、痴女よ、痴女・・・。」 「え?すごいわね・・・、チョー変態って感じ・・・。」 「男が欲しくてあんな格好してるのかなぁ・・・」 「決まってるじゃない、男に犯されたくて、あんな格好してるのよ。」 「でもさ、結構可愛い顔してるじゃない。普通の格好してても、モテるんじゃない?」 「ばか・・・病気なんだって・・・。普通のエッチじゃ、物足りないだって、きっと・・・。」 「そうよね、いつも、あそこ濡れ濡れになって、誰か入れてーって思ってるのよ。」 「うわっ、すごい露骨ー、でも、よく恥ずかしくないわね、同性として、ちょっと許せないって感じ・・・。」
 私は、思わず、心の中で叫びました。 (ち、違うんです。こ、これは、仕方なく・・・、それに、本当は男なんです。だ、だから、そんな、そんなこと言わないで・・・・。)  新宿での外出の時もそうでしたが、聞こえよがしに発する言葉は、女性の方が露骨だと思います。そこには、言葉の内容とは裏腹に女性特有の嫉妬と羨望の思いが込められているからだと思います。
   女子高生のグループがようやく私の前を過ぎ去った時、耳元から涼子の声が聞こえました。 『フフ・・・、どう、みんなに見られている気分は・・・?みんな、奈緒美ちゃんのこと、変態の露出狂女だと思ってるわよ。そりゃそうよね、そんな格好してるんだもの。じゃ、テスト始めるわよ、いいわね、最終テストだからね、がんばらなくちゃだめよ。』  私は、黙って頷きました。
 そうです、この地獄のような羞恥の時が過ぎれば、すべては夢の出来事になるのです。完全に自由の身になって、解放されるのです。私は、覚悟を決めて、涼子からの指示を待ちました。 『じゃ、3番線のホームに向かって、ゆっくり歩きなさい。転ばないようにね。転んだら大変よ。丸見えになっちゃうから・・・ね、そうそう、ゆっくりね。そう、じゃ、次は階段を上ってホームに行きなさい。できる限りゆっくりね、そう、一段ずつ・・・。』
 私は、夢遊病者のようにフラフラと、足下に注意を払いながら、歩みを進め、ようやくの思いで、階段の下にたどり着くと、一段一段、ゆっくりと上り始めたのです。見上げると、長い階段には、ラッシュアワーが過ぎていたこともあって、利用する人の数はそれほど多くはありませんでした。私は、少しホッとしました。と言うのも、客が少ないということは、私に露骨な視線を投げかけてくる人の数も少ないと思ったからです。けれども、それは間違いでした。
 階段の中程まで上ったとき、私は、ハッとしました。階段の下の方から熱い視線を感じたからです。 (ああ、見られてる・・・スキャンティが丸見えになってるんだ・・・。)  客が少ないということは、それだけ視界を遮るものが少ないということだということに私は気づきました。同時に、忘れていた男の時の記憶がよみがえってきました。駅の階段で超ミニの女の子が上っていくのを見た時に感じていた自分の記憶をです。それは、ごく自然な行動として、その女の子のスカートの奥をのぞきたいという衝動が起こっていたということです。

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 私は、恐る恐る、後ろを振り返りました。その時、私が目にしたのは、太股からお尻に向けて一斉に注がれる男たちの視線だったのです。私は彼らの表情に、ぎらぎらした情欲のかけらを感じ、とっさに持っていたバックを後ろに回すと、マイクロミニの裾を覆ったのです。  と、その瞬間、私の耳に涼子の叱るような声が響きました。 『だめよっ、隠しちゃ・・・、』  私は、後ろにバックを回したまま、歩き出した脚が止めました。
『いい?隠したりしたら、今日のテストは不合格よ。今のあなたの格好、想像してみてよ。どこから見ても、痴女じゃない・・?隠すくらいなら、そんな格好するわけないでしょ?痴女なら痴女らしく堂々と見せつけなくちゃ・・・。わかった?あなたは、男じゃないのよ。男の視線に感じる露出狂の痴女になったの・・・。いいわね?』 (お・・・男じゃない・・・もう、男じゃないの?奈緒美は・・・奈緒美は・・・露出狂の痴女になっちゃったの・・・?男の人の視線に感じてしまう痴女になっちゃったの・・・?)
 私は心の中で自問を繰り返しました。確かに涼子の言うとおり、見ず知らずの男たちからの熱い視線を浴びることで、小さなペニスがかすかに反応しているのがわかったからです。  私は、熱いため息をつき、後ろに回したバックを、前に抱えなおすと、ゆっくりと階段を上り始めました。 『そう、そうよ、はい、そこで一旦ストップ・・・、ミュールのベルト直すふりして屈んでみなさい。そう、そう、思わせぶりにね・・・。そうよ。』
 私は、指示された通り、階段の途中で立ち止まり、ゆっくりと身を屈めると、右のミュールのベルトに手を伸ばしていきました。すると、その動作に呼応するように、マイクロミニの裾の感触が徐々に上に触れていくのがわかりました。 (こ、これじゃ、丸見えになってるわ・・・、きっと、みんなに見られてる。は、恥ずかしい・・・、でも・・・何?こ・・・この感覚・・・。)  私は、全身にこみ上げてくる熱い感覚を抑えることができませんでした。
『どう?見られてるわよ。奈緒美ちゃん。みんなに見られてるの。どう?男なのに、男の視線に晒されている気分は・・・・・?きっと、また感じてきちゃったんでしょ?フフフ・・・。』  私はわき上がってくる性感の高まりを抑えようと、大きく頭を左右に振ると、おぼつかない足取りで、残りの階段を上り終えたのでした。  

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