ある性転者の告白 作:高野奈緒美
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ある性転者の告白31

  「あら、何・・?その目・・・。反抗的な目しちゃって・・・。ほめてあげてるんじゃない、可愛い子は得だって・・・、さあ、早くしなさいよ。次は、このワインレッドのルージュでしょ?これで、また、村井ちゃんのオチンチン、おしゃぶりしなくちゃいけないんでしょ?アハハハ・・・。」
 私は、長い廊下に響き渡るような、涼子の笑い声を聞きながら、 (そうなんだ、このメイクも、衣装も、すべて、男の性欲を満たすためのもの。僕は今、単に男を喜ばすためだけに生きているみたいなものなんだ。このルージュだって、あの忌々しい男たちのペニスを愛撫するために引いているだけなんだ・・・)  私は、持っているルージュを思わず、叩きつけようとしましたが、最後の自制心がそれを抑えました。
そういったあからさまな反抗的な態度を取ることは、自殺的な行為だと知っていたからです。私は、反抗することすら叶わない、自らの無力感と戦いながら、再び、男たちの欲望を満たすためのメイクに取りかかるのでした。
 そんな耐えるだけの日々が数日続いた頃、私は、慢性的に続く肛門の痛みと精神的な苦痛から、睡眠が全くとれなくなっていたのです。そして、ついには、睡眠不足と過労から、彼らの前で倒れてしまったのです。
「ねえ、奈緒美ちゃん、私があげている精神安定剤、ちゃんと飲んでるの?」 メイド部屋のベッドに全裸で寝かされた私に、涼子が時折、怪訝そうな顔つきをしながら言いました。  そう言えば、私は、涼子から与えられる錠剤を最初の2,3日間、服用しただけで、パッタリと止めていたのです。それは、精神安定剤としての効力が全く感じられなかったからです。
もちろん、その原因は、次から次へと日増しにエスカレートしていく彼らの要求のせいだと思っていました。つまり、薬などの一時しのぎでは、自分の精神を安定させる効果はなくなっているのだと感じていたのです。でも、それにしても、なぜ涼子は、精神安定剤の服用を確かめるのに、私の全身をなめ回すように見つめているのか、その理由がわかりませんでした。しかし、それも後日、判明しました。その時の涼子は、私の身体に全く変化が女性的な変化が全く現れてこないことを不思議に思っていたのです。なぜなら、涼子が私に与える錠剤は精神安定剤などではなく、高密度の女性ホルモンだったからです。 もちろん、その時の私には、全く思いもよらないことでしたが。

ある性転者の告白32

 私は、指示に従っていないことに、また脅迫されるという恐怖から、うつむいたまま、小さく首を振りました。 「だめじゃない。ちゃんと飲まなくちゃ・・・。じゃあ、今日から、これ飲みなさいね・・・。これはね、ただの精神安定剤じゃないの。よく効く痛み止めも入っているの。奈緒美ちゃん、これからも、あの人たちにお尻を使わなくちゃいけないんだから、少しでもその痛みを和らげなくちゃ・・・ね。」
 私は、思いがけない涼子の気遣いに自然と、涙が溢れてきました。いくら、復讐心があるとは言え、そこは妻のことです。きっと、苦痛にゆがむ私の表情を見て、人間的な同情心が沸いてきたのでしょう。涼子の言葉にはそんな優しさが感じられたのです。もちろん慢性的に続く、肛門の痛みを和らげることができるという喜びの方が強かったかもしれませんが。 「お、お姉様、ありがとう。奈緒美、う、うれしいです。」  私は、涼子の気が変わらないように、最新の注意を払って、言葉を選びながら、謝意を表すと、差し出された錠剤を口に含み、ためらいもなく飲み込みました。
 数十分後、私の肛門の慢性的な痛みが少しずつ消えていくと、私はいつしか、深い眠りに落ちていったのです。妻の心に、私を思う気持ちが少しは残っていたという安堵感に包まれながら・・・。
 私は、その日から約20日の間、涼子からの差し出される錠剤を毎晩、飲み続けました。その間も、屈辱的な肛交という行為が収まることはなかったからです。しかし、その錠剤のおかげで、少なくとも肉体的な痛みからは、逃れることができたのです。
 ところが、ある晩、私は、自らの身体に現われ始めた変化に気づいたのです。いつものように村井たちに気がされた身体から、その獣欲の残滓を洗い流すため、シャワールームに入った私は、ハンドルを回すと、シャワーヘッドから全身にたたきつけるような水流を感じながら、目をつぶりました。そのシャワーを浴びるわずかな時間だけが、その時の私に与えられたかすかな幸福感をもたらす時間だったのです。そのかすかな幸福感をすべて満喫しようと目をつぶったのです。ところが、その日、身体を流れ落ちるシャワーの水流の微妙な変化を感じ取り、私は思わず、閉じていた目を開いたのです。
 胸の辺りを伝う水流が、なぜかかすかな曲線を描いているのです。やせていて胸板も薄く、直線的な体型の私には、何となく違和感がありました。私は、自分の胸の辺りをそっと手のひらで触れてみました。 (ん?ど・・・どうしたんだろう?太ったのか?)
 手のひらに、何となくふくよかな肉の弾力が感じられるのです。しかも、その中心部には固いしこりのような感触もあります。しかし、これまでの過酷な日々の中で、食欲もほとんどなくなっている私が太るはずはないのです。その証拠に、ウェスト部分にはまったく肉は付いてはいません。私は、抑えようのない不安に襲われ、さらに、身体の変化がないか確かめようと、視線を下に落とすと、両脚に残っていた脱毛の跡がほとんど見えないことに気づいたのです。そう言えば、この3日間は脱毛という行為すら怠っていたことのです。私は、とっさに自分の口元に手をやりました。髭に変化がないかを確かめるためです。しかし、指先には、髭剃り跡がほとんど感じられず、ツルッとした感触だけが伝わってきます。それらは、私の体毛のほとんどが失われつつあることを示すものでした。

ある性転者の告白33

  動揺した私は、バスルームから飛び出すと、ずぶぬれのまま、姿見の前に立ち、全身を映してみました。 (ああ・・・やっぱり・・・。)  身体の変化を感じたのは、やはり、気のせいではなかったのです。胸だけでなく、腰回りもどことなく丸みを帯び、全体的に曲線的になっています。さらに凝視するように目を近づけると、皮膚そのものの色も白っぽくなり、肌のきめが細かくなっているのです。元来、男性的な野性味にかけていたとは言え、自分の身体をこのように感じたことはありません。  私は、急いで、涼子を呼ぶと、それらの身体の変化を一つ一つ、説明しました。 しかし、涼子は、フンッと鼻で笑ったかと思うと、 「そんなの気のせいよ。いくら、女の子の格好して、村井ちゃんたちの相手をしているからって、身体まで女の子みたいになるわけないじゃない。きっと疲れているんだわ。そんなこと気にしないで、薬飲んでゆっくり寝なさい。」 と言うだけでした。
 私は、涼子の言う通り、やはり気のせいなのだと自分に言い聞かせ、その晩も与えられた錠剤を飲むと、いつしか眠りについたのです。私に希望をもたらす日付の×印は、すでに40個程になっていました。
 それから、10日くらいたったでしょうか。  その間も、少しずつ変化していた私の身体は、ついに、はっきりとした女性の身体的特徴を示すまでになっていたのです。  手足のむだ毛と髭は、まるで永久脱毛をした後のように、完全に消え失せ、跡形もなくなっているのです。体つきもすっかり女性的になり細いままのウエストラインとは対照的に、バストとヒップが、ふくよかな曲線を描いているのです。
しかし、私を最も驚かせたのは、自らの男性を示すシンボルが極端に小さくなってしまっていて、ほとんど、勃起することがなくなっていたのです。しかも、たとえ、勃起したとしても、手の小指ほどのサイズしかしめさなくなっていました。

ある性転者の告白34

  (ああ・・・女の・・・女の身体に・・・なってるんだ・・・。ど、どうしよう・・・?どうしたらいいんだ・・・?)  私は、涼子に、気のせいではなかったことを、動揺を抑えきれないあわてた口調で伝えました。  すると、涼子は意外な程冷静な口調で、全裸になって、見せるように言ったのです。
 私は、そばに村井がいることも忘れ、涼子の言う通り、全裸になると、羞恥心も忘れ、身体を向けたのです。  その瞬間、涼子は、驚いたような様子を見せ、 「確かに、変だわ。ねえ、村井ちゃん・・・?」 と、傍らにいた村井に同意を求めるように言ったのです。
「ああ、おかしいな・・・。でも・・・こんなことがあるのか?」   村井にも驚きの表情が浮かんでいます。しかし、二人の言葉にはどことなくわざとらしい印象が感じられ、気のせいか、ほくそ笑んでいる感じもします。けれども、まさかだまされて、女性ホルモンを大量に飲まされていたなどということは、夢にも考えていなかった私は、とにかく自分の身体に起こった変化を止めたいという思いから、村井の運転する車で、彼の知り合いだという病院へと向かったのです。
 そこは、町はずれにのある古びた個人病院でした。  病院に入るなり、村井は、受付に断ることもせず、ずかずかと廊下を進むと、診察室と書かれた部屋に入っていきました。受付にいた中年の看護婦らしき女性も、そんな村井を止めません。私はすこし不思議に思いましたが、それが許されるほどの知り合いなのだろうと、大して気にも止めませんでした。 「ここはね、村井ちゃんの知り合いの病院なの。腕は確かだって。だから、奈緒美ちゃんも安心しなさい。」  涼子が私を安心させようと、落ち着いた口調で説明しました。
 久しぶりにトレーナーにジーンズという男装姿の私に向かって、『奈緒美』と呼ぶ言葉に、その場にいた二人の女性患者が怪訝そうにこちらを見ました。  私は、表情を見て、少しホッとしました。まだ、完全に女性化したわけではないということがわかったからです。  しばらくして、診察室に呼ばれた私を白衣を着た医師らしき中年の男が招き入れたのです。その隣には、村井が無言のまま、立っていました。  男は、自らを『小島』と名乗り、すぐ診察を始めるから、服を脱いで横になるよう言いました。
 私は心の中で、できる限り不安を打ち消しながら、服を脱ぐと、診察台に横になったのです。  小島は、全裸の私になめ回すような視線を送ると、 「ほほぅ・・・。こ・・・これは・・・。」  と言っただけで、後はだまりこんでしまったのです。
 私は、その視線にどことなくいやらしい雰囲気を感じ取り、思わず、小指ほどに小さくなってしまった下半身と、思春期の少女のような膨らみをみせている胸を押さえました。約2ヶ月もの間、女性として過ごしてきたことで自然にそんな恥じらいを浮かべた仕草が出るようになっていたのです。

ある性転者の告白35

  小島は、その手を強く押しのけると、一言も口を開かないまま、一通りの診察を続けたのです。そして、なにやら、カルテらしきものに書き込むと、おもむろに口を開いたのです。
「これは、性同一性障害の一種ですな。但し、ホルモンのアンバランスにより、このまま、放置しておくと、心臓に負担がかかり、やがて生命そのものの危機が訪れるでしょう。」  小島は説明は、やや芝居がかっており、もしも、その時の私に冷静な判断力が残っていたら、きっと、村井たちとグルになって、自分をだましていることに気づいたかもしれません。けれども、女性ホルモンが投与されていたことすら気づいていない私は、それを考える冷静さはなかったのです。ただ、目の前の医師の言うことを信じるしかなかったのです。
「せ・・生命の・・・危機?つ・・つまり、死ぬってことですか?」  私は、小島の目を見つめながら、真剣な顔つきで尋ねました。  もし、ここで死んでしまうことにでもなったら、これまで約一月半もの間、屈辱に耐えてがんばってきたことも無駄になってしまう。これは、もしかしたら、こんな立場になることを選択した自分に罰が当たってしまったのかもしれないという思いが沸いてきました。しかし、だからと言って、このまま死を受け入れることはできません。なぜなら、それは愛する結花との永遠の決別を意味しているからです。私の脳裏には、魅力的な微笑みを浮かべている結花の顔がはっきりと浮かんできました。 「ど、どうしたら・・・治るんでしょうか?」
 私は、うわずった声で、小島の目を凝視しながら尋ねました。 「いや、これは、手術するより他はないですな。しかし、普通の手術ではないので・・・。」  小島の言葉は、私の心に、より一層の不安をもたらすようなものでした。
考えてみれば、おかしな話で、医者が患者に対して死への不安をかき立てる言葉など言うはずはないのです。何度も、言いますが、もしも、その時、私の心に一点でも冷静な判断力が残っていたなら、小島の診察は全くのデタラメで、村井や涼子たちとグルであったことを、見抜くことはできたでしょう。しかし、残念ながら、その判断力はかけらも残っていなかったのです。
「先生、それって、どんな手術なんですか?」  涼子が小島に向かって言いました。 「いや、要は、一方のホルモンの活動を抑えてやればいいだけなんだが・・・。なかなか、難しい手術でなぁ。」 「そ、それをすれば・・・・手術を受ければ・・・治るんですか?」  私の叫ぶような質問に、小島は、うなずきながら、 「ああ、成功すれば、完全に治る。ただ、難しい手術だからな。成功の確率は50%だが・・・。」 「5,50パーセント・・・」  私は、思わず、小島の口から出た数字を繰り返しました。
 つまり、成功するか失敗するか、いえ、生きるか死ぬかの確率が半々だということです。それは、あまりに危険な賭だと思いました。しかし、もしこのまま放置すれば、確実に死が訪れてしまうのです。結花との生活だけを夢見ていた私には、もはや選択の余地はありませんでした。手術をし、成功すれば『完全に治る』という言葉を信じて、手術に同意するしかなかったのです。
私は、小島の差し出す手術の同意書に、震える指でサインをすると、小島の目をすがるように見つめながら、言ったのです。 「お・・・お願いします・・・先生。ぼ・・・僕を助けてください・・・。」  ほどなくして、手術室に運ばれ、麻酔注射を打たれた私は、全身から力が抜けていき、やがて、深い眠りに落ちたのでした。

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