ある性転者の告白 作:高野奈緒美
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ある性転者の告白11

  それまでほとんど口を開かずに、ただその場のやりとりをニヤニヤした表情で見ていた本城と田中がソファから立ち上がると、私の方に近づき、ゆっくりとロープをほどき始めたのです。
約3時間も拘束されていた私の足首はロープの跡が残り、つま先が血の気を失ったように青白くなり、かすかに痺れてさえいました。  私は、涼子の後に続き、部屋を出て、案内されるままバスルームに入りました。
私は、それまで、頭を覆っていたロングのウィッグを無造作に外し、ピンク色のブラジャーを外そうと手を伸ばしました。初めて身につけた女性もののランジェリーは、外そうにもなかなか外れません。
私は改めて、この数時間、自分がこんなものを身につけさせられていたのだという現実を思い知らされ、急に激しい羞恥心に襲われたのです。同時に、何はともあれ、そんな恥ずべき姿から解き放たれたという解放感にホッとしたのでした。
 全裸になり、脱衣所からバスルームに入った瞬間、閉めようとしたドアが何者かによって、妨げられました。私が、ハッとして後ろを振り向くと、そこには、涼子が微笑みながら立っていました。しかも、その背後からは、本城と田中が続いて中に入ろうとしていたのです。 「私たちも、一緒に入るからね。ちょっと、用事があるから・・・。ああ、この人たちはあなたが抵抗しないようにお目付役ね。さあ、入って。中に・・・。」 「よ、用事って、何だよ。いったい・・・。」  私は、その意図が解りかねて、怪訝な表情で言いました。 「いいから、いいから・・・。後で解るって。」  涼子はそう言うと、私の背中を押してバスルームの中に押し入れたのでした。
 私は、かすかな抵抗を試みましたが、背後に本城と田中という「お目付役」が控えていたために、強くは出られませんでした。一緒にバスルームに入ると言っても、全裸になっているのは私だけです。他の3人は皆、服を着たままなのです。その様子はあまりに不自然で、彼らが一体何をしようとしているのか、すぐには解りませんでした。
 そんな私の疑問が消えたのは、全身を洗い流し、再びバスルームを出ようとした時でした。ドアに手をかけた私を、田中の手が止めたのです。 「まだ、用事は終わってないんだよ。な、涼子さん?」  田中は、それまで監視しているだけだった涼子に向かって言ったのです。 「そうよ、まだ、終わってないわ。することあるんだから、さあ、こっちに戻って・・・。」
 私は、不安になりながらも、もう一度、バスルームの椅子に腰を降ろしました。 「さあ、脱毛しましょうね。全身、つるつるにしないとね。フフフ・・・。」  涼子はそう言うと、用意していた袋から脱毛クリームを取り出したのです。 「な、何をするつもりなんだ?」 「だからー。脱毛だってば・・・。全身のむだ毛を落とさなくちゃ・・・。それとも抵抗する気?だったらいいけど。どうなったって、知らないわよ。」
 涼子の言葉に私はそれ以上の抵抗はできません。涼子一人なら力ずくで押しのけることも可能だったでしょう。しかし、そばには田中と本城も目を光らせているのです。いえ、逃げ出す気なら、いくら男として、非力だとは言え、その場から飛び出すことくらいはできたでしょう。けれども、仮に逃げ出せば、あのあまりにも恥ずかしい女装姿の写真を公開されて、しかも、契約の不履行による合計2億円もの返済を即時に行わなければならないという立場に追い込まれていては、その理不尽な要求にも従わざるを得なかったのです。  それから、約1時間が経ったでしょうか。涼子の手により、全身の脱毛を施された私は、全裸のまま、促されるままにバスルームを出て、再び長い廊下を不安な足取りで辿ったのです。前を案内するように涼子が、そして相変わらず傍らには本城と田中がなにやら、談笑しながら歩いています。私の心に言いようもない不安と恐怖が止めどなく、わいてくるのでした。

ある性転者の告白12

  私が案内された部屋は、一階の玄関脇の小部屋で、調度品やドレッサー、さらにはベッドの様子から、使用人部屋、いえ、いかにも女性的なインテリアが飾ってありましたので、メイドさんか何かの部屋だと直感しました。
 ええ、そうです。その部屋こそ、今私が暮らしているこの小部屋なのです。彼らは、この屋敷に、私をメイドとして住まわせるという計画を立てていたのです。この部屋は、そんな私のために彼らが準備したものだったのです。
もちろん、その時の私に、そんなことに気づくゆとりは全くありませんでしたが・・・。  私は、涼子に指示されるまま、ドレッサーの前に座りました。 (また、女装させられるのか・・・。と言うことは、また縛られて・・・・。一体、こいつらはどこまで、この俺に恥をかかせるつもりなんだ?)  私は、そう思うと激しい羞恥心がわいてきて、その場を逃げ出したい衝動に駆られましたが、それが不可能なことは、わかっていました。  私は、ある種の諦観を感じながら、黙って涼子の作業に従いました。
 女装させて縛りつけられる。その苦痛は確かに耐え難いものでしたが、もし、それだけで、契約を履行することができるのなら、なんとか我慢し通すこともできるのではないか。という思いも、心の片隅には芽生えてきていました。しかし、それは本当に甘い考えでした。彼らの、とりわけ、涼子の増幅された復讐心は、その程度のことで収まるほど小さなものではなかったのです。
 涼子は嬉々とした表情で、次から次へと、私の顔にメイクを施していきます。それはもう、私が夫であるという認識すらしていないそぶりでした。 「さあ、できたわ・・・。ホントに今まで気づかなかったけど、あなたって女装が似合うわねぇ。完璧な女の子って感じ・・・。フフフ。」  私は目の前の鏡に映る自分の姿に、思わず、息を飲んでしまいました。確かに、涼子の言うように、ちょっと見では、誰も男だとは気づかないほどの完璧なまでの女装姿だったのです。
もちろん、それを喜んで受け入れるような趣味は私にはありません。羞恥心の高まりだけが、止めどなく大きくなってくるだけです。同時に、なぜか、こんな線の細い男に産んだ両親を恨みがましく思ったのでした。 「じゃ、今度は、服を着ましょうね。どれがいいかなぁ・・・。フフフ・・・。」  涼子は楽しげにそう言うと、タンスから、淡いバイオレットのブラジャーとパンティを、そしてクローゼットからは明らかにメイド服と見られるコスチュームを取り出し、広げて見せるのです。
「どう?すてきでしょ?これ・・・。さ、早く立って・・・。私が着せてあげるから。」  目の前に女物の衣類を見せられ、私の羞恥心は一気に高まり、抑えることができませんでした。私は、思わず、大きな声で訴えたのです。
「お、お願いだ、涼子・・・。も、もうこれ以上の辱めはたくさんだっ・・・。」  激しくかぶりを振る私の頬に、ロングヘヤーのウィッグの毛先がちくちくと触れてくるのがわかります。と、その時でした。視線を上げた私の前に、それまで傍らにいたはずの本城のにらみつけるような顔があったのです。 「お前、いいのか?抵抗なんかして。兄貴に報告しても・・・。」  そう言うと、本城は田中に目配せをしました。田中は待ってましたとばかりにドアのノブに手をかけ、部屋を出て行こうとしたのです。
「ま、待ってくれ。それだけは・・・。で、でも、こんなことしたくないんだ。お願いだ。許してくれ。」  私は、半分泣き声になって、言ったのです。 (もうどうすることもできないんだ。)  私はすべての弱みを彼らに握られていることを改めて悟り、いったんは立ち上がりかけた身体を、再び、力無く、スツールに落としたのです。
「さあ、涙ふいて・・・着替えなくちゃ・・・。抵抗したって無駄なことなんだから・・・。たった、3ヶ月の辛抱なんだから。ね、あなた・・・。フフフッ・・・。」  そう、3ヶ月、たった3ヶ月の辛抱なんだ。私はその言葉を何度も何度も、心の中で繰り返し、涼子に手伝われながら、とうとうメイド服に袖を通したのです。 「さあ、準備完了。できたわよ、すっかり・・・。それにしても、ホントよく似合うわ・・・。女の私から見てもホレボレするくらい・・・。ね、どう?二人とも・・・。」
 涼子は本城と田中の方に視線を送ると、私の身体を、彼らの方に正対させたのです。 「おぉー、ホントにいい女だなぁ・・・。こりゃ、男にしとくのもったいないぜ。なあ、聡。」 「あ、ああ、なんか、俺、ヘンな気になりそうだぜ・・・。」  本城と田中は口々に下卑た言葉を投げかけてくるのでした。

ある性転者の告白13

  「ちょっとぉ、いい加減にしてよね。ここに本当の女がいるんだからね。でも、ま、確かにいい女だわ。それに、そんな挑発的な衣装じゃ、男が興奮するのも当たり前ね。フフフ・・・。ほら、あなたも、自分で見てみなさいよ・・・。」  私は、涼子に引っ張られ、部屋の隅に置かれている姿見の前に立たされました。そして、恐る恐る、顔を上げ、目の前に映る自分の姿に目をやりました。
 その瞬間、改めて激しい羞恥心に、全身が熱くなるのがわかりました。 「ああ・・なんて・・・なんて格好してるんだぁ・・・。」  頭の先から足のつま先まで、完璧なまでのメイドが映っていたのです。  髪の毛は肩まで伸びたストレートヘヤ、そしてその頂上には白いレースの飾りがちょこんと可愛らしく乗っています。メイクは赤を主体にしたかなり濃いめのメイクでしたが、アイブロウ、チーク、ルージュ、さらにはビューラーで整えられた睫毛にはボリュームのあるマスカラまで施されています。そして、両耳にはゴールドのイヤリングまでついていて、服装はと言うと、シリコン製のパットで盛り上がった胸を誇張するように白いレースがあしらわれ、柔らかそうな黒いベルベットの光沢のある布地が全身を覆っています。しかも、それが描く身体のラインは、コルセットによる、細くくびれたウエストラインとヒップパットによる丸みのあるヒップラインが、見事なまでに女性的なシルエットを作っています。ただ、そんな上品な素材でできているにも関わらず、そのメイド服は、通常のものとは決定的に異なる部分があったのです。
  それは、あまりにも短いスカート丈のことです。それは、膝上何センチなどとは表現できない程の短さで、直立し、じっとしていることで、何とか下着の露出を回避できる位の長さしかないのです。これでは、もし、少しでも前屈みになれば、いえ、ちょっとでも身体を動かせば、淡いバイオレットのパンティが顔をのぞかせることになるでしょう。しかも、男にしては、ほっそりとした長めの両脚を包んでいる黒いストッキングは、バックラインの入った、ガーターベルト用の物で、真っ赤なガーターとスカートの裾の間からは、脱毛してすべすべになった白い肌が露出しているのです。 「ああ、こ、こんな・・・。」
 私はそのあまりにも扇情的な姿に変身した自分自身の姿を目にして、思わず、その場に倒れそうになりました。本当に、逃げ出せるものなら、その場から逃げ出したい。いえ、いっそ、ひと思いに死んでしまいたいとすら思ったのです。しかし、そんな絶望感をかろうじて抑えたのは、(3ヶ月後には結花と一緒になれる。そのための、これは、試練なのだ。)という心の中の言葉でした。 「さあ、いつまでぼーっとしてるの?村井さんに紹介しなくちゃ、新しいメイドさんを・・・ね。フフフフッ・・・。」
 涼子は、唇をかみしめ、うなだれる私に向かって、そう言うと、背中を強く押しました。 私は、涼子と本城、田中に従って、部屋を出て、長い廊下の奥のリビングらしき部屋に戻っていきました。廊下を歩く時に、履き慣れない高いハイヒールが奏でるコツコツという甲高い響きが、私の不安をどんどん増幅させていくのがわかりました。

ある性転者の告白14

  「うおっ、す、すげぇ・・・、すげぇじゃねぇか・・・。ホントにいい女だぜ・・・。」 部屋に入った私を一目見て、村井は目を丸くして、声を上げました。  部屋で待っていた本城と田中の視線も、まるでは私の全身をなめ回すようで、私は思わず、羞恥心に顔を赤らめ、超ミニで露わになった両脚が決して開かぬようにと力を込めたのです。
「でしょ?どう?私のテクニック。」  涼子が自慢げに言いました。 「おいおい、お前のテクニックじゃないだろうが。こいつが元から女っぽいからだぜ。でも、それにしてもゾクッとするほどのいい女だぜ。ホントに眠気も覚めたぜ。」  そう言えば、窓からはうっすらと朝の光が差し込み始め、夜明けを迎えているのがわかりました。
私は、早くこの悪夢のような時間が過ぎ去ってくれることだけを願って、ただうつむきながら、彼らの下卑た冗談を聞き流すしかありませんでした。 「あらあら、恥ずかしがっちゃって・・・。そんなに固くならなくたっていいじゃない。もう少しリラックスしたら・・・?あ・な・た・・・フフフ・・・。」  うつむいたまま、身体を固くして、立っているだけの私を見て、涼子が声をかけてきました。
「そうだ。そうだ・・。お前見て、固くなってるのは、俺たちの方だよな?俺たちのムスコだよな?なあ、充・・・。アハハハ・・・。」 「本当ですよぉ・・・俺なんて、さっきから・・・もう、ビンビンになってますよー。」
 村井の下品な言葉に応えるかのように、本城は、自分のズボンの前を押さえながら言うのです。  「あーあ、みんな、あなたのせいよ・・・。男のくせに男のオチンチン立たせるなんて・・・ホント、罪作りな人ねぇ・・・ハハハ・・・。」
 涼子はそう言うと、私の屈辱感をより一層高めるためなのでしょう。さらに追い打ちをかけるように言うのです。 「男のくせに、そんなマイクロミニ履いて、まるで、男が欲しくてたまらない淫乱女みたいじゃない・・・・。ねぇ、どんな気分?男なのに、男にじろじろ見られるなんて・・・ねえ、あなた・・・?フフフ・・・。」 「は、恥ずかしい・・・逃げ出したいくらい・・・恥ずかしいんだ・・。お願いだ・・・もう、もう・・・このくらいにしてくれ・・・。頼む・・・。」
「あら、何いってるの?まだ始まったばかりじゃない。これから、もっともっと、あなたには恥ずかしい目に遭わせてあげるわ・・・。でもさ、何かすごく似合ってるじゃない。ね、もしかして、ホントは、その気があったんじゃないの?私に隠れて密かに女の子してたとか・・・フフフ・・・。」 「ち、違う・・・そんな、そんなことは・・・絶対にないっ・・。」
私は、涼子の口から次々と発せられる屈辱的な言葉に耐えかね、つい大きな声を上げたのです。
 彼らの私に対する、一通りの「品評会」が終わると、村井は、一人、ソファから立ち上がり、やや静かな口調で言ったのです。
「じゃ、そろそろ、始めるか。」  私は、この屋敷に来た数時間前の出来事、つまり、女装させられた上に、椅子に縛られ、彼らのなめ回すような視線を浴びるという辱めが、再び、実行に移されることを予感し、思わず、身構えるように身体を固くしました。しかも、今度は睡眠薬で眠らされているわけではなく、意識のはっきりした状態で、そんな屈辱を受けなければならないのです。それは正に筆舌に尽くしがたい、拷問のような責め苦でしょう。しかし、彼らは、ロープや椅子を準備するそぶりは全く見せず、その代わりにビデオカメラと数枚の紙切れを用意したのです。

ある性転者の告白15

  「じゃ、これから、お前に誓いの言葉を言ってもらうからな。内容は、この紙に書いてあるからな。で、それを証拠として、ビデオにちゃんと収めてやる。わかったら、始めろ。」
 私は、不安を感じながらも、どうやら、女装姿で縛られた上で、彼らの視線を浴びるという屈辱は避けられそうだと少しホッとしながら、手渡された紙片に目を落としました。
「こ、これは・・・。一体、な、何なんだ・・・?」  しかし、その安堵感もつかの間のことでした。そこに書かれている内容は、そんなかすかな安堵感を完全に打ち消すものだったのです。
「だから、誓いの言葉だよ。お前が今日から俺たちの指示に従うことを約束するためだ。」
「そ、それはもう、契約書でわかってるじゃないか。今更、こんなこと言う必要はないだろう?」
「待てよ。お前、勘違いしてるんじゃないか?契約書の付帯条件には、俺たちの指示は絶対だって書いてあったろうが。だったら、文句言わずにやれ。さっさとやらないと、契約はなしだぜ。そうなったら、例の写真、ばらまかれることになるんだからな。もちろん、離婚だって取りやめだ。お前には借金だけが残るってわけだ。どうだ?それでもいいのかよ。」
 村井は、ヤクザにしては本当に頭の回転が速く、淀みなく言い続けたのでした。  その時の私は、一体、借金が残ることを恐れたのか、それとも、写真が公になることを避けたかったのか、どちらかはわかりません。もしも、脅迫の材料がどちらか一方なら、断ることができたのか、それもよくはわかりません。
 しかし、いずれにせよ、私には村井の言葉を拒否する勇気がなかったことは確かです。 「わ、わかった。い、言うよ。そのかわり、写真を公開するのだけはやめてくれ。お願いだ。」
 私は、用意されたビデオカメラの前に立ちました。そして、紙片に目を落とし、ゆっくりと口を開いたのです。私の両方の瞳からは悔し涙があふれてきたのを今でも、はっきりと覚えています。 「わ、私、高野直樹は、きょ、今日から村井健三様、高野涼子様、本城充様、田中聡様に、お、お仕えするメ・・・メイドとして、このお屋敷で働かせていただきます。皆さんを、ご、ご主人様として、しっかり、ご・・・ご奉仕させていただきますので、どうぞ・・・よろしくお願いいたします。もし、ご主人様方の指示に少しでも反抗すれば、ご・・・ご厚意でいただいた契約を、すべて破棄されても・・・かまいません。また、私のこの姿を公にされても・・・公にされても・・・」
 私は、ここまで言って、とうとう涙に詰まって後が出てきませんでした。  村井は一旦ビデオのスイッチを止め、 「どうした?続けろよ。それとも、終わりにするのか。それならそれで、こっちはかまわないぜ。なあ、涼子?」 「じれったいわね。言うだけじゃないの。そんなこともできないの。もう、いいわ。村井さん、写真送っちゃって・・・。」  涼子がしびれを切らせたように言い放ったのです。  村井は、よし、わかったと言って、ドアに向かおうとしました。 「ま、待ってくれ、わかった・・・わかったから・・・。」  私は、涙混じりの声で村井を制したのです。

 
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