ある性転者の告白 作:高野奈緒美
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ある性転者の告白1

  私は今、都内の某住宅街の古びた屋敷でメイドとして暮らしています。
私がこの屋敷に初めて足を踏み入れたのは、今から4年前の夏。ある三人の男と一人の女によって、私のここでの生活が始まったのです。
私はこれから、この4年間にこの身に起こったことを、できるだけ詳しくお話しようと思いますが、精神状態が安定していないこともあって、また、思い出したくもない辛い出来事も多くて、もしかしたらお話が途切れ途切れになってしまうかもしれませんが、どうぞお許しください。
ただ、それほど時間をかけられないこともわかっています。「10日間で書き上げること」が、ご主人様方がお与えになった命令ですから・・・。
 4年間の体験をお話しする前に、今のここでの生活についてお話しさせてください。  今、私がこの屋敷で、メイドとして暮らしていることは、初めにお話ししました。  
でも、それは表面上のことで、本当は、別の顔(いえ、もしかしたら、そちらの方が主だと言えるでしょう。)を持っています。もちろん、ご主人様方の身の回りのお世話もさせていただいておりますが、それ以上に重要な仕事として、ご主人様方の性的なお相手、いえ、もっと平たく言ってしまえば、「性奴隷」としてのお勤めをさせていただいているということです。
 私は、毎朝起きると、部屋のテーブルの上に置かれた一枚の紙片に目を通さなければなりません。そこには、その日のコスチュームからメイクから、何から何まで事細かに書かれたご主人様方からの指示があるからです。  
今は、白いレースがあしらわれた黒いサテン地のフレンチメイドの衣装を着ています。メイクは、少し濃いめでルージュは深紅のセクシーな色。鏡に映してみるとたっぷりとグロスを含んで淫靡に輝いています。そんなメイクを少女のような可憐な顔立ちの上に施しているのです。さらに、フレンチメイドの衣装と言っても、部屋のドレッサーに入っているのは、普通のものはありません。
丈は極端に短くて股下5センチもなく、胸元は深くカットされていて、今ではHカップにまでふくらんだ巨大な乳房を、申し訳程度に覆っているにすぎません。鏡に映る私の姿は、自分が、男性の目を楽しませるだけの存在であることを思い知らせてくれます。
いつもなら、この後、ご主人様方から呼ばれるのをじっと待ち続け、言われるまま、恥ずかしいお仕事をしなければならないのです。  でも、今日から10日間だけは、こうして告白を書くことに時間をいただくことができ、少しホッとしています。
 私は本名を高野直樹と言います。はい、実は戸籍上は、いえ、生物学的にもれっきとした男性です。しかも、つい最近までは、戸籍上、既婚者、つまり妻もいたのです。(子供はいませんが・・・。)  
でも、今の私の姿をご覧になって、それを信じてくださる方は、誰一人いないと思います。  この屋敷に住むようになる前、つまり、まだ、男性として生活していた頃の私は、172センチ55キロと、平均的な男性としては、少し細めでしたが、ごくごく平凡な男でした。それが、この4年の間に施された様々な手術や投薬によって、今のこの姿になったのです。  
身長160センチ・体重40キロ、Hカップのバスト、大きくふくよかなヒップ、そして下半身には、女性器もあるのです。
しかも、信じられないでしょうが、定期的にメンスの煩わしさも経験しています。最新の臓器移植によって、体内に卵巣と子宮が埋め込まれているからです。つまり、いつでも妊娠の危険性を持っているということです。そんな身体にされた当時は、シャワーに入るたびに、自分の変わり果てた姿を鏡に映し、涙することもありました。そんな気持ちも、今はすっかりなくなってしまっていますが・・・。
 今、私は、ご主人様方からいただいた「奈緒美」という名前の、一人の女性として暮らしています。いつかは、この屋敷から逃げ出すことができるのではという淡い期待も、すっかりなくなってしまいました。第一、この姿で自由になれたところで、どんな人生を送らなければならないか、考えただけで恐ろしくなってしまいます。  では、時間も限られていますので、告白を始めたいと思います。

ある性転者の告白2

  私は、大学を卒業してすぐ、先輩・友人と共にコンピューターのソフト会社を設立しました。幸い、設立後1年で会社は軌道に乗り始め、同時に収入面でも充実したものになっていきました。
会社からは、「専務」という肩書きをもらっていました。まだ、23歳という若さにも関わらずです。もちろん、会社設立当時は死にものぐるいで働き、まったく休みもないような状態でしたが、金銭的に余裕が出始めると、ちょっとした浮気の虫が出てきたのです。  
私は、大学卒業後、すぐに西村涼子という女性と結婚しました。彼女は大学の同級生で、2年の時からつきあいでしたが、若気の至りと言うべきか、それほどの恋愛感情もないままに、ただ、性的な満足というか、恋人らしい存在を持っていたいという、やや不純な感情でつきあい始めたのです。そんな彼女と結婚しなければならなくなったのは、4年の 時に彼女が妊娠したという理由からです。いわゆる「できちゃった結婚」というわけです。  その後、残念ながら、子供は流産してしまいましたが、その後も、結婚生活は続きました。
 私は、妻に対し、元々恋愛感情が乏しく、それほどの深い愛情も抱いていなかったので、生活に余裕が出ると、当然のように、気持ちが不倫に向いていったのです。  当時、私の事務所には加藤結花という、一つ年下の社員がいました。外見はスリムで、短大時代はモデルのバイトもしていたという美しい女性でした。性格的にも穏和で優しい雰囲気を漂わせていて、とても魅力的な女性でした。  
私たちは、若い重役と社員という関係でしたが、いつしかお互いを異性として意識するようになり、ある日を境に関係を持つようになったのです。そして、単なる遊びとしての不倫がいつしか真剣に愛し合うようになり、本気で結婚を考えるようになったのです。そうなると、当然、妻とは離婚をしなければならなくなります。
 結花とつきあい始めて1年後のある日、私は思いきって涼子に離婚したいということを告げたのです。私からの離婚の申し出に対して、涼子の心の動揺は非常に大きなものでした。
それはそうでしょう。表面的にはとてもうまくいっているように見えた夫婦が、ある日、突然、他に好きな人ができたから別れたいという言葉で、その生活に幕を閉じることになるのです。私はいささかなりとも罪悪感を覚えましたが、結花を思う気持ちを抑えることはできません。
その日、私は、泣きながら声を荒げる涼子を必死に説得しましたが、とうとう同意を得るまでには至りませんでした。

ある性転者の告白3

 翌日からの私と涼子の結婚生活は、まさに「仮面夫婦」そのもので、お互いに一言も口をきかない日々が何日間も続きました。
そして、そこのことと呼応するかのように、涼子の外出が目立つようになり、帰宅時間も遅くなっていきました。しかも、その外出時の外見と言えば、服装もメイクも派手になり、それまでどことなく地味だった印象はすっかり消えてしまっていました。そのことはとても気になっていたのですが、夫から突然の離婚の申し出による寂しさが、その行動の元になっていることは明らかでしたので、私は、注意することができなかったのです。
 そんなある日のこと、いつものように会社帰りに、結花と待ち合わせて食事に行った時のことです。結花は、いつもは明るい表情が急に暗くなり、大きな瞳にいっぱいの涙を浮かべて訴えるように言ったのです。彼女の話によると、このところ連日のように嫌がらせの電話がかかってきたり、帰宅した時に自宅のマンションの部屋の前に不審な荷物が置かれていたり、帰宅途中で誰かにつけられたりするというのです。
私は、とっさに妻による行動だということを察知しました。  私は、帰宅してから、妻の帰りを待ち、問いただしたのですが、涼子は「そんなこと知らないわよ。」という返事を繰り返すだけで、それ以上は口をつぐむだけでした。
私は、涼子の復讐心の高まりが止めようもないほどになっているのを感じ取り、いよいよ離婚をしなければという気持ちになったのです。  翌日から、私は遅い妻の帰宅を待ち、連日のように離婚への説得を続けました。私は焦りと恐怖にも似た感情を抑えることができなくなっていたのです。なぜなら、その間も結花に対する嫌がらせはエスカレートする一方で、結花自身もかなり精神的に参っているのがわかったからです。  私は、会うたびに、大粒の涙を浮かべながら、訴える結花を抱きしめ、「もうすぐだから、それまで待ってほしい。」と慰めることしかできなかったのです。
 そんなある日のこと、帰宅したばかりの私に電話がかかってきました。それは、妻の涼子からのものでした。 「もう、あなたの気持ちはわかったわ。離婚届けに判を押してあげるから、今すぐここに来て・・・。」  妻は、電話口でそう言うと、今、自分のいる住所を事務的に告げてきたのです。私は、涼子の豹変ぶりに、一瞬、自分の耳を疑いましたが、 (ついに離婚ができる。これで、結花と暮らすことができるのだ。) と思い、取るものもとりあえず、指定された住所に向かったのです。ただ、妻の後ろで聞こえてきた複数の男の話し声や妻の言葉の冷たさに、少しばかり、異様なものを感じはしていましたが・・・・。

ある性転者の告白4

  指定された住所に、迷いながら、たどり着いた時には、もうすでに夜の11時近くになっていました。その場所は、某住宅街の古びた洋風の屋敷で、かなり大きな敷地をもっているのが、塀の外からもわかりました。  
そうです、その屋敷こそ、今、私がこうして暮らしている屋敷なのです。  私は、恐る恐るインターホンに手を伸ばし、一度、深呼吸をしてから、指先に力を入れ、思い切って、ボタンを押しました。
やがて、中から聞き慣れた妻の声が返ってきました。 庭先を20メートルほど歩き、玄関のドアの前に立った私が、もう一度深呼吸をして、ノブに手をかけた時、ドアが開き、妻の涼子が姿を現しました。  涼子は冷たい微笑を浮かべると、私を屋敷の中へ招き入れました。  私は離婚届を受け取りに来たことを告げましたが、涼子は、「それは、後でね。」と言うだけで、そのまま奥の部屋に向かって歩き続けたのでした。  その屋敷は、古びてはいましたが、中はかなり広く、部屋数も相当あることがわかりました。私と涼子はいくつかの部屋のドアが左右に並ぶ長い廊下を進み、一番奥の部屋の前で立ち止まりました。
 涼子は、部屋のドアをゆっくりと開け、私を中に招き入れました。と、その瞬間、私の視線に3人の見知らぬ男たちの姿が映ったのです。私は、とっさに妻が離婚の調停のために依頼した弁護士か何かだと思いましたが、どうも風貌がそんな職業を感じさせません。どちらかと言えば、ヤクザ風のちょっと崩れた感じの印象を受けました。
「紹介するわね、こちらが、私が今、お世話になっている人たちなの。村井さんと本城さんと田中さん。で、こちらが私の旦那・・・。」  涼子は、私と彼らにそれぞれを紹介するように言ったのです。  私は、不安な気持ちを抑えながら、軽く会釈をすると、 「ぼ、僕はただ、離婚届けを受け取りに来ただけだけなんだが・・・。」 と、少し、緊張した口調で言いました。  
その言葉に妻と村井たちは、お互いの顔を見合わせると、一瞬、ニヤリと口元に笑みを浮かべて、頷きあったのです。  私は、案内されるままに、ソファに腰掛けると、しばらくの間、彼らと何気ない会話を交わしました。彼らは、意外にも、ヤクザ風の風貌には似合わない、比較的物腰の柔らかい話しぶりでした。私は、やはり、弁護士か何かなのだろうと、それまで抱いていた不安が薄らいでいくのがわかりました。

ある性転者の告白5

  私は、それまでの不安と緊張から来る、喉の渇きを癒すために、妻が運んできたアイスティーを何のためらいもなく、一気に飲み干しました。  その後、さらに数分の会話を交わした後、私の意識は徐々に遠のき始め、激しい睡魔に襲われました。その間、ほんの10分かそこらだったと思います。  後で聞いたことですが、彼らは、気楽な会話で安心させた上で、私に睡眠薬入りのアイスティーを飲ませるということを、あらかじめ計画済みだったのです。
 それから、果たして、どのくらいの時間が経過したのでしょうか。私はぼーっとする意識の中で、徐々に目が覚めていきました。気がつくと、体は椅子に縛り付けられ、身動き一つできません。さらに、視線を下に落とすと、驚いたことに、淡いピンク色の下着が目に入りました。それは、紛れもなく女性用のブラジャーとパンティだったのです。私は、一体何が起こったのかわからず、激しく頭を振りました。がんじがらめに縛られた私にとって、動かせるのは頭だけだったからです。ところが、その頭が何となく重いのです。 (な・・・なんだ?どうなってるんだ?)  私は、自分の身に起こっていることを確かめようと、さらに頭を動かしたのです。
すると、どういう訳か、長い髪が汗ばんだ頬にまとわりついてきたのです。どうやら、女性用のロングヘアーのウィッグを被せられているようでした。私は、一瞬、自分の身に何が起こったのか理解できずに、心を落ち着かせようと、少しの間、目を閉じ、再び、意識をはっきりさせてから目をゆっくりと開けました。
しかし、その視界に飛び込んで来たのは、先ほどと同じ姿でした。そして視線を上に向けると、先ほど私と話をしていた村井・本城・田中、そして妻の涼子がこちらを見ながら、ニヤニヤした不吉な笑みを浮かべて、なにやら話している姿が見えたのです。 「こ、これは一体・・・?」 私の囁くような声を聞き、 「あら、気がついたのね。」 と、涼子が言葉を返しました。 「ど、どういうつもりんなんだ?僕をどうしようっていうんだ?」 すっかり眠気も消えた私は、彼らに抗議するような強い口調で言いました。
「あら、そんな女の格好で、すごんでみても似合わないわよ。」 涼子は大きな声で笑いながら言ったのです。  ソファの真ん中で座っていた村井がゆっくりと立ち上がると、近づいてきて、 「涼子の言っていたように、お前、女っぽい顔してるから、女装が似合うなぁ。」 と言うと、他の男たちに視線を送りました。  村井は、動揺している私に、ゆっくりと説明を始めたのです。
「涼子から、お前が離婚したがっているって話は聞いている。でも、原因はお前の浮気だって言うじゃねえか。しかし、お前もひでぇやつだよな。これまで一生懸命に協力してきた女房を捨てるなんてよ。俺たち、涼子から、その話聞いてかわいそうになっちゃってな。で、そんなやつは、懲らしめてやらなくちゃいけねぇって言ってやったんだよ。」  村井の口調は、私が眠りに落ちる前のそれとは明らかに変化していました。そのすごみのある話しぶりは、まさにヤクザそのものでした。
「もうわかったでしょうけど、この村井さんって人は私の新しい彼よ。まあ、この辺じゃ、ちょっとした顔って感じ。で、本城さんと田中さんは、村井さんの弟分なのよ。まあ、そんなこと、どうでもいいことだけどね。」  涼子が村井の説明の途中で口を挟みました。 「な、何を言ってるんだ?離婚は、僕たち夫婦の間の問題で、他人にとやかく言われる筋合いはない。とにかく、このロープをほどけ。さもないと、警察に連絡するぞ。」  私は、精一杯の虚勢を張って言ったのです。しかし、彼らは笑い合うだけで、私の言葉など全く意に介しませんでした。

 
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