Kawahagi   作:Z
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20
少女は動揺していた。
無理も無い。高山の態度は高圧的というより、ほとんど脅迫だ。
なまりの強い大阪弁ということもあって、スケ番丸出しの高山の前に少女は次の言葉を切り出せないでいた。
しかし、このままでは埒があかない。少し態度を和らげ高山の方から切り出した。
「悪かったな。しかし俺達の方もここが肝心なところやさかい、大人気ないとは思ったがベロンされないよう1発目はかまさせてもらったんや。
もうええわ、あんたもそないに悪い奴やないようやし・・・
安心して話を次に進めたってくれや。」
それまで表情をこわばらせていた少女は初めて少し微笑み、話を始めた。
「そうですか。それではお話をさせていただきます。
あなた方もご存知の通りわたし達の今いるこの世界は、あなた方がかつていた世界とは共通性はありますが、
全くの別物です。つまりあなた方から見て異次元空間ということになりますね。」
「そうやな、そこまでは薄々感じてはおった。」高山は答えた。
少女は続ける。
「実はわたし達も元はあなた方と同じ、あなた方がいた世界、いえ時空間に暮らしていました。
しかし思うところあり、賛同者をつのり、偶然のような形で見つかった次元ポケットを通ってこの次元に移って来たのです。」
「ほう。いったい何人くらいこの世界に移住して来たのや?」
「そうですね。最初は100人くらいから・・・その後いろいろなネットワークを使い仲間をつのり、今では約3万人程がこの空間に移って来ました。
あなた方がもお気づきのこととお思いでしょうが、この次元には女性だけしか存在していません。それも30代くらいまでの美しい女性しか・・・・たとえ元男性でもこの空間に足を踏み入れたとたん、以前の年齢、容姿にかかわらずそのような妙齢の美女かそれより若く美しい女性、時としては10代の美少女にまでに変身させられてしまいます。実はわたしも以前いた世界、それはあなた方がかつていた世界でもあるのですが・・・・そこにいた時は男性だったのですが、今のような姿に変身してしまったのです。
どうやら、前の年齢に関係なく極端に若返ってしまう様なのです。ただ反対に加齢されてしまう事はありません。」
「まあ、そうやろうな。俺たちもそうやったし・・・」
「そして女性にも変化が起きます。男性の時と同じく妙齢の美しい女性になってしまうだけでなく、ある特徴が生じてきます。」
「自分が妊娠するだけでなく、相手を妊娠させる生殖能力やろ」
「そのとおりです。それは元男性だった時も同じ。この時空間にいる女性はかつてあなた方がいた世界にいた女性とは異なり、自分自身も新しい生命を宿す能力もありますが、愛する女(ひと)に新しい生命を授ける能力も持っているのです。そしてこの世界にはそのような女性しか存在していません。この空間たとえ他の次元から別の人達が迷い込んだとしても、時空間自体がその人をそんな女性に変身させてしまいます。丁度あなた方のように・・・・」
「待てい!!俺達の場合はちょっと違うで。気持ちくそ悪い皮を送り届けられてな・・」
「それも、この時空間がもたらした現象の一つなのです。美しい女性同士が愛し合い、新しい生命を宿し、宿され生み出す。そして生まれてくるのも皆そのような女の子だけなのです・・・・そして彼女達は美しい少女を生み育て世代をつないでいくことになるのでしょう。それは人間に限りません。
この世界に生きる生物は皆、雌のみ。生殖活動もおそらく人間と同様でしょう。
もっとも以前の世界でも魚類、両生類以下では性は簡単に変換してましたが・・・
そしてわたし達人類も含めこの時空間の生物は非常に寿命が長いと予想されます。そして何時までも若さと美しさを保ってゆくと予想されます。ストレス、環境悪化、災害その他もろもろの悪条件から開放されたからでしょうか?もっとも今後どのような事が起きてくるのかわかりませんので油断は禁物ですが・・・」
少女はそこまで言うと奥に入りコーヒーを3人分持ってきた。
高山も荻原も何も話さず考え込んでいた。

再び高山は少女に向かって言った。
「あんたの言いたいことはまあ分かった。といってもあまりい馬鹿馬鹿しすぎて今でも半信半疑やがな。
それよりや。何故俺達を呼んだのか、そちらの用件の方を聞かせてもらおうやないか。」
少女はにっこり笑って話しを再開した。
「そうですか、失礼いたしました。さてあなた方をこの世界にお呼び致しましたのは、ほかでもありません。
あなた方のシステムエンジニアとしての才能、実力を見込み、お力を貸して頂きたいと思っているからなのです。
空港ホテルのPCのシステムはご覧になったでしょうか?
おそらく、あなた方の世界のOSの概念ではあのシステムは把握できないでしょう?
お二人ともシステム解析をなさろうと悪戦苦闘されたようですが、概念が違う以上今まであなた方がなされていた方法では解析不可能です。」
「そうやろうな。俺もちょいといじくらさせてもらったがとうとう匙を投げてしもうた。
俺の見るところあれはバイオプログラムと見たがどないや?」
高山は言った。
「さすがは高山様、その通りです。この世界のコンピューターはすべてバイオプログラムによって動かされています。」
再び少女は微笑み答えた。
「ただ、困ったことはそのバイオプログラムがわたし達の力によって開発されたものでは無いということなのです。」
「どういうことや?」
高山は少女に聞いた。
「わたし達がこの世界に来たときすでにあったということです」
少女は急に改まった表情で答えた。
「良く分からん。もったいぶらずにもっと詳しく説明したりいな!」
いらいらした様子で高山は少女に聞いた。
「この世界にあるインフラ、今わたし達がいるこの高層ビルもそうなのですが、施設、設備これらはもとからこの世界に存在していた物なのです。わたし達はほとんど着のみ着のままでこの世界に来て、そして皆、妙齢の美女に変身してしまいました。
準備していたこともあり、沃土、気象にも恵まれ、最低限の衣食住の確保まではうまくいったのです。あちこちにある農村はわたし達の苦闘のなごりです。しかし・・・・」
少女は依然改まった表情で話を続ける。
「衣食が足りて以前俺達がいた世界のような文化的な生活を求め始めた。しかしそのような物は一朝一夕に作り出せれる物ではない。そういうことやな?」
高山は言った。
「その通りです。」
少女は答えた。
「なら、俺の方も一つ質問がある。」高山は言った。
「何でしょうか?」何を言われるのかと少女は怪訝な表情で答える。
「あんたは先程俺に沃土、気象にも恵まれ、最低限の衣食住の確保まではうまくいったと言ったな?」
「はい」
「そして、あちこちにある農村は苦闘のなごりであるとも言った」
「その通りです。」
「この、ど阿呆!人をたばかるのもええかげんにせい!俺も実家が農家だったこともあり、子供のころやらされた経験から言うのやが、一口に百姓仕事と言ったって並大抵のもんやない。いくら条件に恵まれていたからって、田起こし、畑起こしから始まって、収穫にいたるまですべて力仕事の連続や、いくら機械化しておってもな。しかしどうや?あんたをはじめとしてこの世界にいる住民はみんな、可愛らしいお嬢ちゃんかきれいな若奥さんばかり・・。女子プロレスラーとまではいかないまでも少しは農家のおっかさんのようなたくましい女がいるはずやないか?まあ、こんな格好をしている俺達にあんたらのことを言えた義理ではないのやが・・・しかしな、ぽっと出の俺達ならいざしらず、この世界の大地を開拓して、己の食い扶持をまかなってきたはずのあんたらがそないなちゃらちゃらしているのはおかしくないか?それとも何かかい?ここにきてからの苦労が実りやっとそないな綺麗なおべべを着て贅沢こけるようになったとでも言うんかい?」
「ご不審に思われるのもごもっともです。しかしここに来てからというものそれなりの苦労はわたし達にもありました。
あなたのおっしゃられる通り衣食住を確保することは並大抵のことではありません。しかしあなたがおっしゃられたこととはまた別の苦労があったのです。あなたのお考えの通りわたし達は非常に非力な存在です。この世界に来ると同時に、このような肉体に変身させられてしまったため、重作業にはとても耐えることが出来ないと、一時期絶望に打ちひしがれたこともありました。
しかしわたし達には表面的な容姿からは伺いしれないような潜在的能力が備わっていたのです。」
「ほう、おもろい話やな。もっと詳しく聞かせてもらおうやないか。」
「すみませんが、危険ですので少しお下がり願えませんでしょうか?」
少女は立ち上がり高山と萩原に言った。
「何をしようというんや?」
今度は高山の方がうろたえ始める。
「いいから、彼女の言葉に従おう」初めて萩原が口を開いた。
「やかましい!今ごろ口を叩きやがって。お前もあのお姉ちゃんと同類なんとちゃうか?」
高山は今度は萩原に食って掛かった。
「いいから、彼女の言うとおり危険だぞ。」
萩原は高山を部屋の隅に引っ張って行った。
少女はテーブルの上にあるガラス製の灰皿を天井に放り上げると同時に「やっ!」と声を上げた。
その瞬間だった。
灰皿はこなごなに砕け散ってしまったのである。
しかしその破片を受けたはずの少女、いや高山と萩原もかすり傷一つ負っていなかった。

「硬気孔か?やるやないか、お姉ちゃん。なるほどその方法で大地を耕し、作物その他のものを育ててきたという訳か・・・
いや大したもんや。そこまで気を使いこなすのは並大抵のことやない。しかしや・・・そこまで天地の気を極めたあんたらが、何故あのくそ汚れた物質文明にこだわらなくてはならん?そりゃ贅沢はでけへん。着ているもの、食い物、住居、最初は質素なものしか作り出すことしかできんやろ。しかし、あんたがさっき言うたように、かつて俺達がいたあの世界に蔓延していた文明の毒からは開放されたんや。せっかく、自然な生き方を出来るようになったのに何故再び毒にまみれなければあかんのや?」
高山は声を大きくして言った。
少女ははっとしたような顔をして、その後沈黙したままだった・・・
「最初はあんたらはもっと別の物を求めていたはずや。だからこそ有志をつのり、かつていたあの世界を捨てたのやろ。
たとえ、我が身が女に変わろうとも、いや女性化したことをいいきっかけとして、生まれ変わったつもりでやり直そうとしたんやろ?
しかしや・・・ここからは俺の推測やが、それまで、質素だが堅実な生活を続けていたあんたらの前に突如として、こないなきらびやかな、それでいて無人の文明都市が表れたんや。
それらはまるで失われた古代文明の遺跡のようにあんたらの眼前に表れたが、遺跡ではなかった。エネルギー、消費財、産業、いや高度情報網までまるであつらえたようにあった。まるであんたらの覚悟をためすかのようにな・・・」
「・・・・」少女も荻原も無言のまま着席していた。高山は続けた・・・
「そして、案の定あんたらは転んだ。高度な消費生活という甘美な毒にな・・・・いや、別にあんたらを責めているのやない。
俺達だって他人のことは言えへん。事実二人ともここ1週間というもの贅沢三昧の生活に耽溺しておったのやから・・
話を戻そうか?かつて暮らしていた村落を捨て、突如として表れた文明都市に移り住んだあんたらは、その都市システムがバイオプログラムによって管理されていることに気がついた。そしてそのシステムを解析し、より深く利用、いや自分達でもバイオプログラムを作り出そうとして俺達に白羽の矢を当てた、これが俺達をこの世界に呼び込んだ真相やろ?違うか?」
「さすが高山さま。その通りです」
やっと少女は答えた。


「しかし、あれから1年か・・・・まるで100年以上も経過したような気がするよ。」萩原真、いや本城怜子はホテルの1室から宝石をちりばめたような街の夜景を見てつぶやく・・・・・・
「まあな、あの後あのお姉ちゃん、おっと社長をこないな呼び方をしてはいかんな、の申し出を受け、今のプログラム解析の仕事を初め・・・・何とかたどりついたということやろか?」高山安岐いや新堂美貴は怜子に言った。
「さあ、どうかな?ただ前いた世界よりは安心して生きていけることは確かなようだ・・・」怜子が答える。
「それはそうとお前に頼んでおいた例の件はどないなった?」美貴は思い出したように怜子に尋ねた。
「安心しろ。この街周辺の農村地帯に格好の物件が見つかった。築2年木造3階建て、10LDK,回りには10ha程度の農地付き・・・まあ良い線だろう」
「まあな、不都合なところがあったら俺達のイマジネーションで変えるだけやし・・・」
「会社における勤務時間は週3日だけだけだからな・・以前いた世界よりは時間的余裕があることは確かだからな・・・」
怜子は再び思い出したように遠くを見ている・・・
そして思わず笑い出した。
「どないしたんや?前からおかしいとは思っていたがとうとう切れたか?」美貴が尋ねる。
「いや、さっき、お前がバスを使っている間、俺はいつ元は男だったということのボロが出るかと本気で心配したんだ。しかし考えてみたら心配する必要なんかないんだよな。この世界には女しかいない、そしてその内半分以上が元は男だったということを忘れていたんだ・・・」
「また、始まりよった。もうろくするには早すぎるで・・。あほうが・・・下らん色芝居ばっかしとるからそんなことになるんや。」
「ああ、あの千秋というバーガーショップの女の子もあのバーテンダーもそしてをお前も俺も・・・・皆、女だったんだ・・・
昔は男だったけど・・」
「そういうことや・・過去はどうあれ俺達がこの世界でしっかりと生きてゆく、元は男、そしてこれからは女として・・・そのことには変わりはないやろ・・・」美貴もホテルの窓から外を見ながら言った。
「ああ・・」怜子が答える。
地平線のかなたが明るくなりはじめた。夜明けだ・・
新しい生命の躍動のようなその風景を、新たな希望を持って見つめる二人だった。
(kawahagi 終)

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