Kawahagi   作:Z
戻る  次へ  書庫メニュー
15
どうやって部屋に戻って来たか分からない。高山が部屋のベットで目覚めた時はもう朝だった。
結構深酒していたはずだが頭はスッキリしている。意外と気分爽快だった。
ゆっくりとベットから起き出す。気がつくとスリップ姿で寝ていたようだ。
ルームサービスが届いたのか朝食セットを載せたワゴンが出ている。
焼きたてのパン、バター、ジャム、ミルク、コーヒー、絞りたてのオレンジジュース、スクランブルエッグ、ベーコン、ハム、生野菜、コーンスープ
朝食のメニューとしては定番のものだ。
カタカタとキーを動かす音がする。振り向くと萩原が机に向かいPCを操作していた。
ただしもう服を着て身支度をすませている。
「起きたのか?気分はどうだ?今少し調べたい事があるのでもう少し待っててくれ。
俺は今朝は朝食はいらないから。君は先に食べてててくれ。」PCに向かったまま振り向かずに萩原は言った。
「コーヒーぐらいは飲まないか?朝からすきっ腹というのもええ事やないで。もっとも二日酔いで気持ち悪うてたまらんのなら無理には勧めんが・・・・」高山は身支度をしながら言った。
「いや、すまない。コーヒーだけいただくよ。」
「ミルクは入れるのか?」
「アメリカンにしてくれ。」
「ほんまに、子供みたいなやっちゃな。ほれ」高山は萩原にコーヒーを煎れてやった。
「すまない」萩原は答えながらカップを受け取る。しかし目はモニターに向けたままだ。
高山ははっと気がつく。これでは夫の為に朝食の支度をする主婦ではないか。
そんな妄想に一瞬とらわれ頭を振って否定する。
そういえば髪はほどいて萩原のようなセミロングになっていた。
鏡の前でアップに結いなおす。
「おい、真、今日の予定はどうするのや?」高山は身支度を終え、朝食を摂りながら萩原に聞く。
「そうだな、今日はレンタカーでも借りて街にでも行って見ないか?」萩原は相変わらずPCに向かったまま答えた。
「あの、遠くに見える街にか?」
「そうだ、目視で直線距離約70Kmぐらいか」
「いや、100Km以上はあるやろ」
「そうか・・・ところでやっぱり俺も朝飯食うわ」
「なんやねん!食うなら食う、食わんなら食わんではっきりせい!ほんまに優柔不断なやっちゃ!」
「すまん、急に腹が減ってきたんだ。ところでうまいか?」
「この手のホテルのものとしてはまあまあのもんやろ。ところで朝早くから起きて何やっとんのや?昨日あれだけ深酒しておきながら朝からPCをいじれるとはお前も元気やのー」
「少しここのシステムとBBを調べてみたかったんだ。ところでこのPC、俺達の使っていた物とはシステムがかなり違うぞ」
「当然やろ。しかし惜しいことしたなー。届かないで行方不明になった手荷物の中にノートが入っとたんや。あれがあれば少しシステム、プログラムの対比が出来たかもしれんのに・・・」
「結局、持って来れたのはハンドバックに入れていた数種のソフトと携帯電話だけか・・・」
「その中に確かプログラム解析ソフトがあったはずやな?」
「ああ、それをこのPCで使ってみた。」
「どやった、結果は?どないなマクロが表示された?」
「何も表示されない。OS,アプリケーション、サイト、どれもプログラムを探ってみたが曖昧模糊としたが画像に行き当たり、それから先へは一切進めない。」
「女になってから毎日訳のわからんことばかりやって腕が落ちたとのちゃうか?こんな普及型のOSのプログラムぐらい解析できんでどないすんねん!ちょっとかしてみ。」
高山は萩原を押しのけてPCの前に座る。高山はかつては日本でも5本の指にも入ると言われていたこともある天才プログラマーだ。しかし萩原だってシステム開発については卓越した才能を持っているのだが・・・・・。
5分とたたないうちに高山も匙を投げることとなった。
「何やこれ!プロテクトとしてマクロの上にモザイクがかかっているというなら分かるが、どこまでいってもピンク色の画面ばかり・・・・プログラムなんか始めからないのとちゃうか・・・・」
高山は苛立たしげに叫ぶ。
「そう、確かに俺達が既製概念で描いているプログラムは存在しない。なのにシステムは動いている。何故だと思う?」萩原は答える。
「知るかい!幽霊が動かしてでもいるんやろ!」
「その通り。幽霊だ。ただしバイオプログラムという名のな。」
「今度はナノテクノロジーかいな。DNAやRNAを使って作られたプログラムのことやろ。しかしあれはまだ実用化には程遠いはず・・」
「しかしこの空間の人間達はそれを実用化していた。それもかなり広範囲で・・・・ところでこのことで何か気づくことはないか?」
「何を?」
「俺達がこんな肉体になった原因さ。」
「まさか」
「そう、俺が手に入れたあの「皮」はバイオプログラムのサンプルだったのさ。遺伝子を組替え男を女に変身させるようにプログラミングされた・・・そして指令に基づき俺達に襲いかかり遺伝子を組替え、俺達を肉体的に完全に女に変身させた。」
「それなら聞くが、誰が何の為に俺達にそないなものを送り付けたんねん?」
「今から考えてみればあの話が俺のところに持ち込まれた時から大いなる意思が働いていたとしか思えない」
「なんや、とうとうオカルトか。まあええわ。はよう朝飯を済ましたりいな。こうなればいよいよ外にでてみなければならん。」高山はそう言うと萩原に急ぐよううながした。
16
高山と萩原は片側4車線の立派な道路を100km以上のスピードで車を走らせていた。ホテルの最上階から地平線のかなたにかすかに見えた都市に向かっているのだ。しかしまる10時間以上も走っているのになかなかたどり着かない。追い抜いて行く車はおろかすれ違う車1台来ない。道路は農地と原野の真中を貫き地平線まで届いている。広大な草原と牧場、防風林だろうかうっそうとした森林地帯、地平線まで果てしなく続く麦畑、しかし建物はほとんど見当たらない。時速100kmで2時間以上走って時たま孤立したように存在する建物に出会うだけだ。
それらが民家だけなら農家住宅ということで驚くにはあたらない。しかしその広大な平原や森林地帯の中に超高層のオフィスビルやマンション、ホテルがぽつんと孤立して立っていたらどうだろうか?現実にはあり得るはずのない光景である。しかしここではそのようなシュールな光景が普通にあった。
「おい何時になったらたどりつくんねん。もう日が暮れ始めたやないか?朝7時にホテルを出てまる1日以上も走り続けているのに街はおろか対向車一つぶつからないというのはどういう訳や?おまけに突然ぬっと現れて来る超高層ビル、あれはなんや?こないな原野の中になんのためにあないなものが建っとるんや? あの中に本当に人がいるのかいな?」
疲れのためか助手席で高山がわめき出す。
萩原も高山も朝ホテルを出てから、運転を交代に代わりながらまる12時間以上も走り続けている。休みといえば昼食時にドライブインで1時間ほど休息しただけだ。朝から晩までの高速運転の連続に二人とも体力の限界にきていた。
「もう少しだ、もう少しで小さいながら町に出る。そこで宿でもとろう。」
萩原がなだめる様に言ったとたん、原野の中に小さいながら人気のある集落が見えてきた。
17
町に入る。小さいながらよく整備された小奇麗な町だ。二人とも疲れていたのである旅館の前に車を停める。
そこには昨日二人がチェックインした空港ホテルとチェーンであることを示す看板がかかっていた。
塀に囲まれた真新しい立派な和風建築だ。敷地面積はかなり広い。料亭も兼ねていて温泉の湯元でもある。
このチェーンに加盟しているホテル、旅館で1週間以上宿泊する場合、この看板のある宿泊施設ならどこに泊まっても同じとみなされ、余分に宿泊料がかかることはない。入口で受け付けを済ませると長い廊下を渡り幾つもの部屋を横目で見ながら、おそらく中庭だろう、深い木々に囲まれた立派な日本庭園に面し落ち着いた奥座敷に通された。
「ごくろうさんやったな。まあ一杯いこか?」
夕食の懐石膳を前にして高山は萩原に杯を勧める。二人とも風呂は中庭にある露天風呂で済ませていた。
「いや、俺は水割りにしとくよ。明日の運転も結構ハードみたいだからな。」
萩原は高山が勧めた杯を断り自分でウイスキーの水割りを作り始める。
「そうか、俺にも作ってくれんか?薄目でな。考えてみれば俺も運転しなければならんのやった。」
「君は寝ててもいいよ。先ほど女将に聞いたら目的地の都市はもうすぐらしい。」
「えらい優しいんやな。何かあやしいな。人を酔わせておいてまたろくなこと考えてないやろ。これからは少し控えた方がええで。ちょいと気になることが出てきたさかいにな。」
高山は冗談めかして、しかし謎めいた言い方をした。
「何かしてもらいたいのか?残念ながら今日はそんな気にはなれんよ。食事を終わらせたらすぐ寝るつもりだ。」
「おほもたいがいにせい!しかしなんやな、お互いに相当疲れていたんやな。今日も酒の回りが速いわ。」高山はもう目を潤ませ始めていた。
「本当にどうしたんだ?昨日も今日も・・・・大した飲んでいないのにすぐふらふらになって・・・以前のお前なら考えられないことだぞ。女性化しただけでそんなに酒に弱くなるもんかな・・・・?」
萩原は頭を傾ける。
「女の方が酒は強いはずやで。もっと違う要因が働いているのとちゃうか?まあええわ。今夜は襖一つで隣の部屋は布団や。安心して飲むことができる。」高山も水割りに切り替えていた。
「ところで今朝の話の続きやが・・・」高山は言った。
「真、お前、俺建二人が女に変身させられてしまったことについて、何か掴んどるな。」
「いや皆目見当もつかない。ただ一つ確信したことがある。」
「なんや?それは」高山が聞いたとたん突然、萩原の携帯電話が鳴った。
「はい、新堂です。」高山はこの世界では新堂美貴と名乗っていた。
「毎度ありがとうございます。エアポートホテルでございます。新堂美貴様でしょうか?」
空港ホテルのクラークの声だった。
「はい、そうですが」
「只今TSFAL航空からお電話がありまして、○○市にお着き次第できればTSFAL航空の方に御立ち寄りいただけたらとのことでした。」
「ありがとう」萩原は礼を言って電話を切った。
TSFAL航空とは萩原と高山をスチュワーデスとして採用した航空会社の名である。
しかし1回だけの契約で採用したはずでもう用はないはずであった。
何の用があるのだろう?二人ともいぶかりながらも、とにかくその航空会社に行ってみることに決めた。
その晩も二人は知らず知らずのうちに清潔で柔かな布団の中で互いの美しい女体を重ね合わせむつみ合っていた。
戻る  次へ  書庫メニュー
inserted by FC2 system