地球征服に関するオレ的実践と顛末 作: 摩火
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地球征服に関するオレ的実践と顛末51

その時、耳元でくぐもったような女の声が聞こえた。
「こっち、こっちよ、女郎1号」
それと同時に誰かの手が俺の腕をしっかりと握り、引っ張っていこうとした。
それは例の看護婦の声だった。
看護婦はしっかりした足取りで、よろけそうになる俺をどんどんと引っ張っていく。
少しすると、有毒な煙のほとんどない場所に出た。
非常灯の淡い光の中で、オレは新鮮な空気を思いっきり吸った。
「ウウウッ、まだここは危険だ。間もなくここにも火の手が押し寄せてくる。こっちだ、こっちに非常脱出装置がある。」
その声に初めて気がついたのだが、それはあの戦闘犬5号と呼ばれているドーベルマンだった。
ドーベルマンと看護婦はわざわざ危険を冒して俺を助けてくれたのだ。
看護婦はいつの間にか付けたのか、防毒マスクを被っていた。ただの防毒マスクではない。眼鏡の周りには暗視用のノクトビジョンと思しき装置が付いている。
「早く、早くこっちへ」
防毒マスクを脱ぎ捨てて駆け出した看護婦の声にオレは我に返った。そして急いで2人の後についてオレも駆け出す。
ハイヒールは走りにくかった。そしてそれ以上に大きく揺れるオレの胸がじゃまだった。尻も走るたびに大きく左右に揺れた。
すっころんで捻挫しなかったのが不思議なくらいだった。
やがて先行する看護婦と犬が何の変哲もないトビラをこじ開け、中に飛び込んだのが分かった。
オレもその後を追って急いで扉の中に飛び込む。
そこは非常に小さな部屋だった。いや、部屋というより宇宙船の内部のような作りになっていた。

地球征服に関するオレ的実践と顛末52

窮屈そうな椅子が4つある。そのうちの2つに看護婦とドーベルマンは座ろうとしていた。
「ちっくしょう、何で戦闘犬用の椅子がないんだよ。」
ドーベルマンは悪態をつきながらもなんとか椅子の上にまるまり、その上から看護婦が安全ベルトを締めている。
オレも空いている椅子に飛び込んだ。そしてみようみまねで安全ベルトを締めた。
「電力が途絶している。非常用動力で発射するわよ。だいぶ揺れるからつかまって。」
看護婦がテキパキと指示を出した。
オレは看護婦の指示に従って椅子の肘をギュッと力いっぱい握り締めた。
ドーン!!
物凄い音が響き渡った。その瞬間、物凄いGが俺たちを椅子に押し付けた。
ガタガタと部屋全体が不安になるくらいの振動を発している。
「ギャーッ」
黄色い悲鳴をあげ、オレはもう生きた心地がしなかった。本部の爆発に巻き込まれたのだろうかとさえ思った。
しかし、その振動も数秒くらいで収まった。
「脱出成功!」
看護婦の興奮した声が聞こえる。
その声にオレは恐る恐る周りを見渡す。
オレを椅子に強く押し付けていたGは消え、聞こえるのは飛行機のようなゴーというエンジン音だけだった。
「た、た、たす、たすかったんですか。」
オレの声はまだ震えていた。そして大量に吸った煙のせいでしわがれ声になっている。
「とりあえずはね。」
看護婦が答えた。そして何やら表示ディスプレイを見ている。
やがて看護婦は深いため息をついて言った。
「どうやら脱出できたのは私たちだけみたいね。」
「ウウウッ、本当か、仲間達は誰も脱出できなかったのか。」
ドーベルマンが唸った。

地球征服に関するオレ的実践と顛末53

「本当にそうみたい。モニターには爆発する本部が映っているわ。誰かが自爆スイッチ押したようね。」
看護婦とドーベルマンは振り返ってオレのほうをじっと見た。
「あっ、あわわわ、オ、オレのせいじゃありません。ほんとこうなるなんて知らなかったんです。あのフェロモンがこんな結果になるなんて・・・ほんと、オ、オレのせいじゃないんです。」
オレは慌てて弁解した。
「分かっているわ。あんたが女郎1号の能力を使えるようになるなんて、こっちの想定ミスだったわ。」
看護婦とドーベルマンはオレから視線を外した。
「とは言うものの、これからどうしようか。機体はとりあえず山梨県にある地獄大佐の基地に向かっているけど・・・」
この二人がオレを責めるつもりがないことが分かり、とりあえずオレはほっとした。
「あの爆発で、埼玉本部の大幹部達は全滅ね、やっぱり地獄大佐の軍団を頼るしかないみたい。」
看護婦が考え考え言った。
「葬神博士は地獄大佐とあまり仲が良くなくてね、ただ単にあたしたちが行ってもあまり良い顔しないでしょう。ヘタすると埼玉本部の基地全滅の責任取らされて処刑されるかもしれないわ。」
看護婦が物騒なことを言った。
「そこで、口裏を合わせておかなくっちゃ、いい?女郎一号、あんたの役割、重大だからね。」
オレ達は額を寄せ集め、これからの作戦をヒソヒソと話し合った。
「まずは女郎1号、あんたは最初っから女の子だったことにするわよ。」
看護婦がオレに命じた。
「えっ、ええっ〜っ、でも・・・」
「つべこべ言うんじゃないの、もし元が男だとバレたら、ホモ嫌いの地獄大佐のことだから、あっという間にバラバラにされて犬のエサにされてしまうわよ。そうなりたくなかったら、あんたは組織にさらわれた一般の女の子で、女郎タイプに改造された可愛そうな少女ということにしなさい。そうすればうんと可愛がってもらえるから。」
うんと可愛がってもらえるという言葉は気になったが、オレだって犬の交尾相手になるならまだしも、バラバラの肉の塊にされて食われるのはまっぴらごめんだった。
オレは渋々頷いた。

地球征服に関するオレ的実践と顛末54

「それから、埼玉本部に仮面バイザーが殴りこみをかけてきたことにするわよ。
私たちはたまたま脱出装置の近くにいて、自爆サイレンが鳴ったので脱出したことにするからね。いい?」
そんなことを色々と話し合い、こうしてオレ達の相談はまとまった。
「さあ、そろそろ到着よ、女郎1号」
「あのう、その女郎一号っていうの止めてもらえないでしょうか?」
オレは恐る恐る切り出した。
「なんでよ、女郎1号」
「だって、自分がなんだかロボットのように言われているようで・・・オレには高志って名前があるので・・・」
「バカ、あんたこれから本物の女の子のフリしなくちゃならないのよ。高志じゃなくて沙織とかなんとかそんな名前にしなさい。
でも公式には女郎1号、これが組織の中のあんたの名前、あたしだって看護婦13号というのが正式な名称よ。」
結局、オレは沙織こと女郎1号以外のなにものでもないことになってしまった。
後で知ったのだが、ジョッガーの組織は固体を表わす名前が機能も表わすことになっている。
だから女郎は永遠に女郎、つまり娼婦のままなのだ。
日本の自衛隊や在日米軍が何を監視していたのか知らないが、俺たちは防空識別網にも引っかかることなく無事山梨の山中の地獄大佐の基地に到着した。
脱出カプセルのドアがプシューッと派手な音を立て、もうもうたる蒸気とともに開いた。
そこには10体ほどの戦闘員と、えらく派手な軍服を着て、獰猛な顔つきをした大男がいた。

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