変身。 作:玲 - 2004/06 **************************************************************************                  --1-- 私は、受話器を架台に叩きつけていた。 鉄板のようになってしまった背中が軋む。金曜日の朝までに仕上げなければならな い仕事のために、もう三日間、ほとんど徹夜のような状態が続いていたし、なのに 仕事はまだ終わらない。身体の一部をぎゅっと絞るとコーヒーが噴き出しそうなほ どカフェイン漬けになっていて、頭はきりきりと醒めていたけど、身体中に鉛の棒 が押し込まれているみたいで身体は重い。 モニターの隅の時刻表示は2004年9月16日木曜日、午後11時25分を示し ていた。あと一息という時点になって、発注先のプロダクションから電話が入り、 クライアントのわがままとしかいいようのない方針変更を告げられた。でも、その おかげで締め切りが週明けにまで延びてくれたのは、幸運だとねぎらわれた。は、 は、は。乾いた笑いを聞かせてやることしかできなかった。実質2日分の労力が、 まったく無駄になってしまったことが幸運だというわけか。それがギャラに反映さ れればいいのだけれど、このご時世でそんなことがあったら奇跡だ。 落胆と怒りのあまり、眠気はまったく感じない。カフェインとニコチンと極度の集 中でささくれだった神経を冷ますために、私はモニターに展開しているすべてのフ ァイルを保存して閉じ、ブラウザを開いた。検索サイトに適当に卑猥な言葉を打ち 込み、ヒットしたサイトをアトランダムに覗く。神経のクールダウンによくやって いる遊びだった。フロイトが人間の根本を性欲においた気持ちがわかるほど、ぞろ ぞろと何千件ものページがヒットする。読みもせずリストの中程をクリックして、 そのサイトに飛ぶ。 ざっと見れば、だいたいそのサイトのレベルがわかるので、つまらなそうなサイト ならすぐにリンクのページに移動し、そこのリストからリンクが張られている別の サイトへ飛ぶ。まるで水面に平行に投げられた石のように、私はネットを行く先も 定めず飛び回った。いくつのサイトをそうして回ったことか。魑魅魍魎の世界にど っぷりと浸り、ようやく高ぶった神経も静まってきた頃、本日60本目の煙草に火 をつけて、紫煙に曇ったブラウザ上のどこをクリックしたのかもわからず、ページ が表示されるまでの数瞬の間に、そろそろお遊びは切り上げ、明日に備えて睡眠を 確保しなくてはと考えていた。そして・・・私はそのサイトに流れ着いていた。 目に痛いほど純白の地色に、暗い赤文字でぽつんと表示されたサイトのタイトルは 『メタモルフォーシズ』。「変身」という意味だ。あまりにもシンプルなトップペ ージの造りに興味をそそられて、私は吸い付けられるようにタイトルをクリックし ていた。 『肉体を改造され、性処理器具となって一生を過ごしたい変態のみ、ここをクリッ クすること』 現れた表示は、安寧に支配されかけていた私を覚醒させた。興味が湧いてくる。た めらわずに先へとクリックしていた。 『警告する。これ以上先を閲覧した場合、肉体と精神と人間としての存在そのもの を破壊されることになる。それでも構わないという明確な意志を持つ者のみ、先へ 進め。これが最終警告である』 私はその巧妙さに感嘆していた。人の好奇心を絶妙に刺激してくれる。すぐにクリ ックしたくなる気持ちを抑えて、念のためブラウザのcookieの受け取り拒否 や、Java設定、セキュリティなどの設定を確認した。一応の安全を確認した後、 私は興味津々でENTERボタンを押す。 今までいくつのサイトで、こうした期待を裏切られてきたことか。それでも、千に ひとつは当たりがあるから、やめられないのがネットだ。次のページの表示には思 った以上に時間がかかった。画像満載の商用サイトでも現れるのかと覚悟していた ら、今まで通りのあまりにシンプルな表示に拍子抜けしてしまう。 ************************* 改造後に希望する 性別を選べ。 ●オス ●メス ●両性具有 ●無性 ************************* 雄・雌はわかるが、両性具有に、最後の無性とは何だ。どうせお遊びなのに、あま りにもシンプルな選択を迫られて結構考え込まされてしまった。もう一本煙草をつ け、そのいがらっぽさにすぐ揉み消す。結局、欲張りな私は両性具有を選んでいた。 表示が切り替わり、次の選択画面が現れたが、これもまたシンプルなくせにとんで もない内容だった。 ************************* 改造後に希望する 外見年齢を選べ。 ●幼児 ●小児 ●10代 ●20代 ●30代 ************************* 幼児や小児って何だ。そんな状態に改造されたいと思う人間もいるのか。さすがに 私はロリ萌え趣味はない。でも、やはり若い方がいいに決まっている。今度は悩ま ず、10代をクリックした。あなたの変態度をチェックするとかなんとか、お遊び テストのサイトなのかと思い始めていた。しかし、次に現れた画面を見て、私は愕 然とさせられた。 ****************************************** 登録終了。 ●改造後の形式:フタナリ2006 ●改造後の識別:AJ2202・14E ●改造後の性別:両性具有 ●改造後の年齢:14歳 ●改造後の呼称:隷花 ●改造前の氏名:坂口 祐介 ●改造前の性別:男 ●改造前の年齢:31歳 ●改造前の所在:東京都港区赤坂22−56−7−303 ****************************************** がしゃん。マグカップが床に落ちて砕けたがそれどころではない。改造前という項 目に記載された情報・・・それらはすべて真実だった。私はパニックに襲われた。 何故。何故、私の個人情報が。危険サインが頭の中に明滅する。震える手で、私は ブラウザを終了させようとしたが、すでに画面はフリーズしていた。慌ててリセッ トスイッチを押しても何の反応もない。私はパソコンのコンセントを抜こうとして 椅子を立ち上がりかけ・・・フリーズしたはずの画面が変化して、何か幾何学的模 様を映し出すのを視界の端に捉え、思わずモニターに目を向けた瞬間、モニターが 真っ赤に光った。 私の意識は、そこで絶ち切られていた。                  --2-- とてつもない頭痛とともに目が覚めた。過去に経験したどんな二日酔いよりもひど い状態。いったん開きかけた目を再び閉じ、枕に頭を埋めてこの頭痛が収まるまで 冷凍マグロのように動かずにいようと思った。かすかに身じろぎをした瞬間、嗅い だことのないフローラルな香りが鼻腔をくすぐり、思わず目を見開き、両脇を探る。 指先に触れるのは滑らかなシーツの感触だけ、酔って連れ込んだ女などはいない。 目に霞がかかっているような気がして、目を擦る。それだけの動きでも吐きそうな くらい気分の悪さが掻き立てられる。鎮痛剤と・・・胃薬も必要かもしれない。暗 い上にぼやけた視界でも、かろうじて自分のマンションの見慣れた天井だとわかる。 いったいどれほどの酒量を飲んだのだろうか。とにかく、なんとかベッドから這い 出し、棚から薬を取り出さなくてはと思った。 その時、やりかけの仕事のことが頭をよぎり、いったい何時なのか確かめようと左 腕を目の前にかざした。腕時計がなくなっている。遮光カーテンの合わせ目から差 しこんでいる光の具合を見れば、もうかなり日も高い気配だった。とにかく起きて 時間を確認し、それから薬を。と、慎重に起き出そうとして、身体が異常にだるい ことに気がついた。 震える手を突いて、なんとか上体を起こそうとした時、胸元から滑り落ちた上掛け の下から、弾む双球がまろび出したのが目に映り、見直そうと頭を下に向けたとた ん、頭蓋骨をハンマーで叩かれたような頭痛が爆発して、私は手を滑らせ、ベッド から床に転げ落ちていた。その衝撃で再び頭痛が弾け、私は床の上で胎児のように 身を丸め、頭を抱えてしばらく呻吟してしまう。 落ちた時に自分が発した妙に甲高い声に気がついてはいたが、追求する気力はまだ なく、さっき目にした、どう考えても乳房としか思えない物体についても確認は後 回しにせざるを得ないほど、まずはとにかく、脳に突き刺さる頭痛のスパイクが収 まるまで、私は目を開けることも考えることもできないでいた。 動悸が収まるにつれ、脳みそを掻き回されているような頭痛も溶けるように消えた。 頭が砕け散らないように押さえつけていた両手を恐る恐る胸に降ろすと、当然の位 置より遙か手前で柔らかな肉にめり込む。手と胸の両方から伝わるあり得ない信号 に混乱して目を見開くと、そこに・・・私の胸に、まごうことなき乳房が継ぎ目も なくくっついているありさまが目に飛び込んできた。乳房。私の胸に。あまりにも 突拍子もない事態に、私はパニックすら起こせないでいた。 「なんだ、これ」 まず我が目を疑い、思わず発した声に耳まで疑ってしまう。自分が発した声ではな かった。いや、喉と口の振動は、それが自分が発した声だと告げていたが・・・。 私本来の低く太い声ではなく、妙に艶めいた高い細い声だった。どうにもわけがわ からず、思わず手の中の肉を強く握り締めてしまい、乳房の奥に発した経験したこ とのない重い痛みが、解離しかけていた私の精神をかろうじて繋ぎ止めてくれた。 私は訳のわからない状況の解答を求めて自分の胸をまさぐり、どこをどう触っても 胸に付いている乳房が繋ぎ目もなく私の胸板に同化していることを知らされた。鏡 だ。鏡を見るんだ。真っ白になった頭の中に、その思いだけが明滅する。必死で身 体を起こし、立ち上がろうとしてよろけ、また頭痛がぶり返す。頭の中にニトログ リセリンが詰まっているかのごとく、もどかしい動きしかできない。私は立ち上が ることを諦め、四つん這いになると、這って寝室を出た。重力で垂れ下がった乳房 の重みが、これが悪夢などではなく現実だと、ひと揺れごとに思い知らせてくれる。 寝室からダイニングに出るドアの横に、化粧台のような見慣れぬ家具が薄ぼんやり と見えたが、今はそれを気にしている余裕などなく、私は思考停止状態でただひた すら四肢を動かし、玄関に置いてある姿見の前へ行くことだけに集中していた。嫌 な汗が出ている。窓のないダイニングは闇に沈み、手元すらよく見えない。しかし 照明のスイッチを入れるにしても、立ち上がらなければならず、その時の私には地 球を持ち上げるほどに不可能なことだった。 玄関の壁に手を突き、なんとか身体を支えて反対側の壁に立て掛けてある姿見に相 対した時、鏡の中には白い身体の輪郭が、ぼんやりと映るだけだった。仕事柄モニ ターを見つめ続けて、最近やや視力が衰え始めたとはいえ、これほど目が霞むなど ということはなかった。目までもが異常なのだろうか。光といえば寝室のカーテン の合わせ目から漏れてくる一筋のみ。私はいざって鏡の直前まで近づいた。だだの ぼやけた白い塊だった物が、ようやく人の輪郭になる。ほとんど鏡に身をすり寄せ るようにして初めて、目の焦点があった。 ひゅっと自分の喉が鳴るのがわかる。見たこともない裸身の少女が、鏡の前に膝を 崩して座り込んでいた。目を見開き、口を半開きにして、鏡の中の少女が私を見返 してくる。思わず目を擦ると、少女もまた信じられない様子で目を擦る。手を鏡面 に当てると、少女も手を差し伸べる。私の動きと少女の動きは完全に同調していた。 私は鏡に撥ねつけられたように身を引き、背中に壁の衝撃を受けた。機を窺ってい た頭痛が炸裂する。息を荒げ、顔をしかめて頭痛をやり過ごしている間、目の焦点 が合わないことに感謝したいような気持ちになった。ありえない少女の姿など、今 は目にしたくない。しかし、ぼんやりとした白い塊は、まだそこに、鏡の向こうに、 あの少女がまんじりともせずうずくまっていることを教えてくれる。 少女から目を背けても、自分の手脚の白くほっそりとした繊細なフォルムが目に映 ってしまう。私は立てた膝に顔を埋め、ぎゅっと目をつぶってひたすら世界を閉め 出した。いったいどれほどそうしてうずくまっていたことか。思考を停止し、逃避 し続ける私を現実に引き戻したのは、凄まじいほどの飢餓感と、そして尿意だった。 顔を上げ、目を開くと、さっきまでよりほんの少しクリアになった視界の中で、顔 を上げた少女と目が合ってしまった。フローリングの床がまるでスポンジのように 柔らかく感じるのは、動揺のあまり私の身体がゆらゆらと揺れていたからだ。鏡の 中の少女が、まるで初めて触るものであるかのように自分の端正な顔に指を這わし ている。私の顔を這う指が、覚えのない輪郭の感触を伝えてくる。少女の立てた膝 がわずかに緩み、一方の手がそろそろと股間に近づいていく。私の探る指が空振り し、そこにあるはずの物を探り当てられなかった時、鏡の中の少女は細く掠れた悲 鳴を上げた。 私は、少女になっていた。                  --3-- 記憶が一瞬途切れていた。気がつくと、私は照明のついたダイニングの壁にもたれ、 手に携帯を握り締めていた。いったいどこに電話しようというのか。救急車を呼べ ばいいのか。警察に電話して知らないうちに女になってしまったと訴えればいいの か。私は携帯を放り出し、壁にすがって立ち上がった。まるで心許ない。自分の脚 ではないようだ。頭痛はずいぶん楽になっていたが、目の霞はあいかわらずだった。 目の前、手の伸びる範囲までははっきり見えるのだが、それ以上向こうになるとま るでぼやけてしまう。まるで半径60cmのドームに閉じこめられたようで、その 閉塞感が重苦しくのしかかる。 壁伝いにキッチンへ歩き、冷蔵庫を開ける。そこに詰めこまれていたはずの食材や 酒は影もなく、がらんとした庫内にミネラルウォーターのボトルと栄養補給ゼリー のパックが並べられていた。私は貪るようにミネラルウォーターを飲み干し、ゼリ ーのパックを吸い付けた。ゼリーを2パック、ミネラルウォーターを1ボトル空に したところで、下腹を刺すような尿意に背が丸まる。トイレに行くということは、 直視を避けていた下半身の状態と向き合うということだ。怯む心を、強い生理的欲 求が押し流した。 ようやくたどり着いた便器の前で、私は途方に暮れるしかなかった。指を添えるべ き物がない。何かを探して指が動き、のっぺりとした股間に硬い金属の感触を探り 当てて、思わず私は身を屈め、自分の股間を覗きこんでいた。何だこれは。恥骨か ら股下まで、銀色に輝く金属のプレートがぴったりと嵌り込んでいた。皮膚に貼り 付いている様子で、縁に爪を立てても外れない。無理に引き剥がそうとすると皮膚 が引攣り、痛みが生じる。私は絶望的な気分になり、立っている気力すらなくして、 便座を降ろして座り込んでいた。 しかし、尿意は切迫していて、なんとかしなければ膀胱が破裂しそうだった。なん とかしてこの金属の蓋を外せないものかとまさぐっているうちに、金属板の中央に 小さな引っかかりを探り当てた。背中を思い切り丸めてよくよく見つめると、針で 突いたような小穴が開いているのがわかる。直径1ミリにも満たない穴の縁が、ほ んのわずか盛り上がっている。穴の周囲を探ると、偶然爪で縁の盛り上がりを押す ような形になり、カチリと音がして縁が沈み、そのとたん、シューっと鋭い音とと もに指を濡らして膀胱の中の物が噴き出した。 違う位置にある違う形状の尿道口が震え、異質な排泄感に鳥肌が立った。それでも 膀胱が軽くなる快感は同じ。あまりに小さな穴からの排泄で、はしたない音は延々 と響き続けた。排出される尿の勢いがなくなり、しまいにはぽたぽたと滴が垂れる 音だけになったとき、何の操作もしていないのにカチリと金属的な音が響いて排尿 が遮られた。こんな状況で汚いなどという意識が湧くはずもなく、指を当てると、 押し込まれていた縁が再び指に当たる。ふと怖れが閃いて、そのまま指を奥に滑ら せてみると、金属の板は肛門まで達していないことが確かめられた。指に触れる菊 座の感触も、なんだろう、どこか硬く密に感じられる。 カラカラと響くトイレットペーパーのロールの音が、なんだかとても情けなく感じ る。股間に垂れた尿の滴を拭き取って私は立ち上がった。立ち上がって、そしてこ の後どうするのか、一瞬途方に暮れる。頭がうまく働かない。トイレからまろび出 て、洗面台の縁に手を突き、鏡の中の少女と再び対面した。大きく深呼吸して自分 を落ち着かせる。そうしなければ正視できなかった。 信じられないくらい睫毛の長い、大きな目が私を見返す。濡れたように輝く大きな 瞳。目の酷使で血走り、血管の浮いていた私の目の面影などどこにもない。白目は 湖のように青々と深い。鼻筋の通った小ぶりな鼻、肉厚で口角の滑らかに上がった 唇、もちろんその周りの髭のくすみもない。瓜実型の顔のライン。頭全体が以前の 私の頭に比べて、ふた回り以上小さくなっている。そんなことがあるのだろうか。 頭蓋骨そのものが変形してしまうなんて。細く柔らかなカーブを描く眉、そしてそ の眉の上で切り揃えられた前髪と、肩に流れるピアノ線のようにストレートな黒髪。 私はその髪を乱暴に引っ張っていた。頭皮が引攣れる。まさしく自分自身の髪だっ た。カツラだと思っていただけに驚きだった。最近増え始めたと思っていた白髪な ど一本もなく、なにより邪魔だからという理由だけで刈り上げに近かった私の髪が 急にここまで伸びるなどと、いったい何をどうしたものか見当もつかない。 目にも鼻にも口にも、顔の輪郭から頭の大きさまで、以前の私の面影を残す物はど こにもない。その時、さっき立ち上がってから、常に感じ続けていたもうひとつの 違和感の正体に気がついた。洗面台の前に立ち、鏡に自分を映した時、176cm あった以前の私は、すこし前に屈まなければ自分の顔を覗けなかった。今はまっす ぐに立っているというのに、鏡の中の少女の頭は、鏡の上端から10cm近く低い 位置にある。そう、私は身長さえ縮んでしまっているのだ。おそらく160cmに も足りないだろう。立って見る部屋の様子がどこなく違和感があったのも、この身 長の違いによる視点の位置が原因だったのだ。 いったい何をされてしまったのだ、私は。その時、唐突にモニター画面に映し出さ れていた赤い文字が脳裏をよぎった。『・・・肉体と精神と人間としての存在その ものを破壊されることになる・・・』。あの夜、あのサイトでクリックした文字。 『改造後』という項目と『改造前』という項目。『改造前』として表示された私の 名前と仕事場の住所。 「ありえない。こんなことはありえない」 かすれてはいたが、ハープの音のように軽やかなメゾソプラノの声。耳を押さえて その声を閉め出す。私はよろよろとダイニングに戻り、そのまま寝室を目指した。 頭痛はずいぶん収まってきている様子だが、まだうなじの奥でくすぶっていたし、 手足のギクシャクした感じは相変わらずだった。なによりこの視界の異常さは、目 をつぶって歩いているのと変わらないくらい不便だった。寝室の常備薬棚から鎮痛 剤を取り出し、おぼつかない指で包装を破る。キッチンまで水を取りに行くことも 難事業に思えて、水なしで錠剤を飲み下した。 ベッドの端に腰を下ろして、息を整えなくてはならないほど精神的に打ちのめされ ていた。このままベッドに倒れこんで、何もかも忘れて眠りに逃げたい。しかし、 安らかに眠ることなどできそうもなかった。サイドテーブルに目を近づけて煙草を 探したが、煙草もライターも見つからなかった。精神を落ち着かせるためにどうし ても一服したかったが、いまのこの目で落としたコンタクトレンズを探すように床 を這い回るのも難儀だった。 煙草を諦め、とにかく何か着て、この信じられない身体を少しでも視界から隠す方 が先決だと思えた。立ち上がるのにも掻き集めた気力が必要だった。クローゼット の扉を開ける。曇った視界でもその色彩の鮮やかさで、クローゼットの中の尋常で はない状態がわかった。目を近づけると、吊されているのがすべて色鮮やかな女物 であることが確認できた。以前の私のくすんだスーツもジャケットも、きれいさっ ぱり消えている。下着の棚を半ば覚悟して開けたとたん、予想通りの色の氾濫。香 水の匂いさえ漂ってくる。手近なひとつを指でつまんで引き出すと、ぱらりとほぐ れて装飾過多としか思えないパンティに変じた。切れ端としかいいようのない布き れをつまんだまま、私は途方に暮れた。こんな物を身につけるなんて、まるでオカ マではないか。しかし、どう目を凝らしても男物が混ざっているようには見えない。 棚の1段目にはパンティ・・・いや今はショーツとわないといやらしいオヤジ扱い される・・・が、2段目にはブラジャーが収められていた。ブラジャーなど着ける のは死んでもゴメンだった。Tシャツのような物を探して3段目、4段目を開けて も、出てくるのはペラペラした布きれだけ・・・何といったか、キャミソールとか スリップとかいったはず。それでもブラジャーを身につけるよりはマシだと思い、 あまりピラピラのないシンプルそうな物を選んで手を通した。下はせめてガードル みたいな面積の多い物をと探したのだが見つからず、しかたなくイチジクの葉より 小さそうなパンティをはいた。ブラジャーほどの保持力はないにしても、キャミソ ールによって乳房が保持され、どうにも馴染めない胸の揺れが気にならなくなった のはありがたかった。 ブラウスとジーンズかせめてパンツを探したのだが、一着もない。それどころか一 着の外出着もなかった。吊されているのはすべてネグリジェやらベビードールとい った恥ずかしい衣装だけ。とても着る気にはなれない。しかし部屋の空気は冷え切 っていて、エアコンをつけようにもリモコンが見あたらない。こんな状態の時に風 邪を引いたらどうなるのか、そう考えると仕方がなかった。ネグリジェはあまりに も淫靡な印象があったので、ベビードールを選んだのだが、身につけてみると淫靡 さは同じだった。しかし、いまさら着替える気力もない。絶望的な溜息が漏れた。 いったい誰が、何のために私をこんな状態に貶めたのか。目的は何なのだ。いった いどうやったら、身長まで変えることができるというのか。この身体は以前の私の 身体から改造されたものなのか。それとも誰かまったく違う他人の身体に脳とか記 憶とかが移し換えられたものなのか。頭の中を疑問が渦を巻く。そのどれにも答え が見つからない。誰に助けを求めればいいのか。それすらもわからない。警察や病 院で訴えても、下手をすれば精神状態を疑われ、精神病院に強制収容されてしまう 可能性も大きいだろう。八方塞がりだった。何か・・・何か打開策を探さなくては。 ・・・気を失う前に見ていたあのおかしなサイト。やはりそこに手がかりがあるよ うな気がした。                  --4-- ノートパソコンはダイニングテーブルの上、いつもの場所にあった。立ち上げ、接 続した。検索サイトに『メタモルフォーシズ』『改造』などという語句を入れて検 索してみたが、あのサイトはヒットしない。ならば、この前と同じように検索サイ トに卑猥な言葉を打ち込む。仕事場のデスクトップなら履歴をたどることもできる だろうが、家からでは記憶を頼りに探すしかない。リンクからリンクへ。覚えてい る限りの道筋をたどり、行きつ戻りつして探しまくったが、あのサイトを発見する ことはできなかった。 テーブルの上にパソコンと並べて置いてあったテレビのリモコンを手に取り、息抜 きのつもりでテレビをつけてみたが、テレビを見るためにはその側まで行かなくて はならず、あまりにも日常的なバラエティ番組の笑い声など聞く気分でもなかった ので、すぐに消してしまった。煙草が欲しかった。途中で一度どうしても我慢でき なくて、部屋中を這い回り鼻を床やテーブルに擦りつけるようにして探したが、見 つからなかったのだ。この格好のまま近くの自販機へ走ろうかとも思ったが、どん な騒ぎになるか容易に想像できてしまい、身震いが出た。 疲れた目をモニターから外し宙をさまよわせる。頭痛も手足の不調和もずいぶん楽 になっていたが、目の異常だけは治らなかった。半径60cmのボケた檻。何かを 見つめていないとその空間の閉塞感に押し潰されそうな気がしてきて、私はすぐに モニターに視線を戻した。そのとき、パソコンの横に置いておいた携帯電話に目が とまる。高田という名前が閃いた。高校時代の同級生で2年前の同窓会の幹事だっ た。確か家を継いで開業医をしていたはずだ。同窓会のときに、緊急の連絡先とし て携帯の電話番号を伝えてもらい、メモリーに入れたあったはず。 しかし・・・こんな変じてしまった声で名乗っても、疑われるだけだろう。同窓会 以上の親交はないし、いったい何といえばいいのか。私は携帯電話を握り締めたま ま、逡巡していた。私自身を名乗るのではなく、私の知り合いと偽って、とにかく 来てもらうことはできるだろうか。せめて、まともな衣服があれば、こちらから出 向くこともできるのに。それとも、他の誰かに衣服をもってきてもらって・・・。 でも、誰に? 思い惑いながら、指が無意識に電話帳ボタンを押していた。そして愕然とした。な にひとつリストが表示されない。「データが登録されていません」というメッセー ジが表示される。プライベートも仕事相手の番号さえ。何度やり直しても同じだっ た。携帯電話そのものを見直す。蓋の横に以前ぶつけて塗装のはげた跡もある。間 違いなく私の携帯電話だ。ふと嫌な予感に促されて、着信履歴を表示しようとして、 そこにもいっさいの記録がないことを知った。着信履歴も発信履歴もきれいさっぱ り消えている。 もっと嫌な想像が湧き、携帯電話を放り出して、パソコンのメーラーを開いてみた。 首筋の毛がチリチリと逆立つような得体の知れない恐怖感。メーラーには一通のメ ールもなく、アドレス帳もまっさらにされていた。私はしばらく放心していたよう だ。メーラーの白い空白を眺めていると、そこから徹底した悪意が伝わってくるよ うな気がする。メーラーもブラウザも、通信そのものをクイットした。 なすすべがない。こんな目で動き回る気力もなく、どのくらいぼんやりとしていた だろう。ふと、日が陰ってきたように感じて、いつもの癖で腕時計を見ようとした。 その折れそうに細い手首に腕時計がないことを忘れていた。溜息をついて、モニタ ーの上の隅にある時刻表示に目を移す。 2005年7月12日火曜日、午後6時08分。なにげなく眺めて、もう夕餉の時 間かと、のんびりした感想を抱き、ずいぶん遅れてその日時の恐ろしい意味が私を 直撃した。2005年。何度見直しても年号は2005年だった。そんな馬鹿な。 私は恐る恐る携帯の待ち受け画面を見つめる。年号までは表示されていないが、日 付は同じく7月12日となっていた。私の記憶の昨日は9月16日。いや、パソコ ンや携帯のメモリーまで細工されているのだから、日付だって変えられているのか もしれない。そんなことをする理由など思い浮かばないけれど。携帯で117にか けてみたが、時刻が正確なことがわかっただけで自動音声は日付まではいわなかっ た。私はブラウザを立ち上げ、最初に表示されるプロバイダのトップページを食い 入るように見つめた。そこにある日付もまた2005年7月12日だった。 10ヵ月。その間の記憶は、どんなに考えてもカケラすら浮かんでこない。私の記 憶ではつい昨日、嫌な仕事にへとへとになり、おかしなサイトを見て意識を失った はずなのだ。その記憶が10ヵ月も前の記憶だなんてどうしても信じ切れなかった。 色褪せた記憶ではない。あまりにも生々しく思い出せる。しかし・・・私の目はヒ ラヒラのベビードールを盛り上げて視界を隠す自分の乳房に注がれた。ひとりの人 間をこんな身体に変えるには充分な時間なのかもしれない。しかし、しかし、しか し。いったい誰が。いったい何のために。 私はパソコンが何か禍々しい物のように思えて、椅子を立ち、部屋の隅に蹲ってい た。膝を抱えるように座ると、胸が脚に圧迫され、否応なしに乳房の存在を思い知 らされる。頭の中がぐるぐるして、吐き気すら感じた。でも、そうして身体を丸め ていなければ、足元がいっぺんに崩れていくような恐ろしさに耐えられなかった。 牡蠣のように心を閉ざし、何も考えないでいたかったが、心は乱れに乱れ、努めて 考えないようにしていた股間の空虚さにどうしても思いが向かってしまう。 指が固く貼り付いた金属の曲面を探り当てる。そこにあるべき突起物は、跡形もな い。あるべきものがなくなると、指の記憶が混乱する。何度も何度もまさぐってし まう。私を象徴する物。私が男であると証明するもの。私の遺伝子を未来に繋ぐは ずだったもの。存在の根幹に関わる器官が失われていた。私は歯を食いしばってむ せび泣いた。何年ぶりだろう。何十年ぶりかも知れない。混乱続きで気力が消耗し ていたのだろう。股間の金属プレートの上を指が滑るたびに涙が絞り出された。 そのとき、玄関のドアロックが外される音がした。私は全身を硬直させ、全身が一 瞬で耳となった。                  --5-- ドアが開き、ザワザワとした大人数の喧噪が僕の耳に飛び込んでくる。 「さあさあ、みなさま、ご足労でございました。こちらでございます。商品の以前 の住居を正確に模してございますので、入り口が狭くなっております。ご順にお入 りください。ええ。靴のままで構いません。どうぞどうぞ」 とにかく窮状を訴え助けてもらいたいという欲求と、こんな姿を人目にさらしたく ないという欲求が、私の中で拮抗した。しかし、耳にしたこの言葉は、何か不穏で 不吉だった。弾かれたように四つん這いで寝室に逃げ込もうとした私を、横から現 れた黒い影が押さえつけた。首筋を巨大な手が握りつけ、腿の内側にもう片方の手 が添えられて、私は紙切れのように軽々と持ち上げられ、振り回され、ダイニング のテーブルの上に据え置かれた。 「や、やめろ。放せ。な、なんだお前達は」 せいいっぱい威嚇的に叫んだつもりだったが、哀れなくらいか細く可愛らしい声が 出ただけだった。誰も答えない。腕が背中に捩じあげられ、手首に分厚い革のベル トが巻き付けられた。両腕が引き絞られ、肩が軋む。肘の上にもベルトが巻き付き、 手首のベルトと繋がっているのか、私の腕は背中で腕組みするように固定されてし まった。 「痛い。放せ。やめてくれ」 前に伸びた私の脚が押し広げられる。びっくりして脚を閉じようとしたものの、私 の脚を押さえている腕は筋肉の束がうねるほどの太さで、子鹿のように細い今の私 の脚力ではどうにもできなかった。上体を捻り、精一杯の抵抗をしてみたが、何の 意味もない。膝の上にベルトが巻き付けられる。両脚のベルトを短い金属棒が繋い でいる。その金属棒がつかえて、拡げられた股を閉じることもができなくなってし まった。脚を固定していた腕が離れ、私は恥ずかしさのあまり必死で脚を引きつけ る。ガシャガシャと金属棒を固定する金具が鳴る。できる限り身体を丸め、脚の崩 れた横座りのポーズになって私はうずくまった。 「はい、ご用意ができました。みなさま、テーブルの周りにお集まりください。今 日の商品はなかなか活きがよろしいようで」 いったい何が起こっているのか、あまりの事にパニックを起こした私の耳にそんな 言葉が突き刺さり、はっとして顔を上げ辺りを見回したが、不自由な目にはゆらゆ らと揺れる黒い人影しか見えなかった。私を乗せたダイニングテーブルの周りを、 隙間なく人影が埋めている。必死で見回しても逃げ出せるような隙間はなかった。 立ち上がろうにも膝の棒がつかえて叶わず、私は人垣の中で、脚の金具を鳴らしな がら、不自由な体を揺らすだけ。全身に無数の視線を感じる。女に変わってしまっ た異常な姿を無防備に晒し、誰とも知れない無遠慮な視線に見つめられていると思 うと、胃が浮き上がるような困惑と頭が沸騰しそうなほどの恥ずかしさが渦巻く。 「外せ。見るな。何する気なんだ」 「必死な顔がそそりますな。可愛い口から乱暴な男言葉。このアンバランスがまた この商品の魅力かと存じます。じっくりご鑑賞いただけましたでしょうか。では、 身体の方も品定めしていただきましょう。さあ、みなさま、お手を触れても結構で ございます。衣装はたやすく引き毟れるようにできております。たまに噛みつく活 きのいい商品もございますのでご注意くださいませ」 笑い声が起きた。周り中から手が伸びてくるのが見えて、私は凍りついた。ベビー ドールが引っ張られ、肩口がビリッとほつれる。私は悲鳴を上げて身を捩った。 「あ、や、やめろ。やめてくれ」 ビリビリ、ブチブチっと引き千切られ、ベビードールはあっという間に無数の細片 に分解してしまった。下着までもがあっけなく毟り取られ、宙を舞う。私は必死で 身体を丸めることでしか抵抗できない。衆目の面前で裸を晒すなんて。全身が火に 炙られているように火照る。これ以上ないほど屈辱感に歯がギリッと鳴る。こんな 辱めが、自分の身に起きるなんて信じられない。しかし、身体のあちこちを無遠慮 に触られる皮膚感覚は、紛れもなくリアルだった。 「あ、うう、ひい」 突っ伏した身体を引き起こされ、乳房を揉まれた時、こんな状況だというのに甘美 な感覚が走り抜けて、私は息を呑んでいた。身体中を撫で回す手の感触にもみくち ゃにされ、噛みつく気力などなく、私は身をすくめるのが精一杯だった。自分の意 志を無視され、一方的に蹂躙されることがこれほど消耗させるものだとは思わなか った。身体だけでなく精神までもが揉みくちゃにされたようで、何本もの手が股間 に突き込まれ、貼り付いている金属板をまさぐっても、私はもはや身じろぎすらで きないほど消耗していた。 「当社の最高傑作の一体でございます。ご堪能いただけましたでしょうか」 賛同のつぶやきがいっせいに起こった。 「ありがとうございます。では、これよりこの可憐なお尻の蕾の初夜権を競りたい と思います。まずは500万円から始めさせていただきます」 可憐なお尻の蕾という言葉が何を意味するものなのか、私の頭に届くまでにしばら く間があった。血の気が引くという言葉が比喩ではなく、ほんとうにある事だと知 る。テーブルが火に炙られた鉄板に変じたかのようだった。私は弾かれたように身 を起こし、膝でいざって逃げだそうとした。しかし、人の壁は厚く、何本もの腕が 私を嘲笑うかのように押し戻す。いざっては突き戻され、また別の方向へよろめい ては突き戻されているうちに、競りの金額は1000万を超えていた。 「はい、1200万円。他にはございませんでしょうか。では、肛門の初夜権は佐 藤様に。1000万円の次点で高橋様に二時使用権、920万円で渡辺様に三次使 用権となります。おめでとうございます。続きまして、口の初使用権にまいりたい と思います。まずは100万円から」 「やめろ、やめてくれ。いやだ。出してくれ」 懇願は空しかった。お前の中に出してやるよ、という声がして怒号のような笑い声 が部屋を揺らした。全力で身を投げ出すように身を投じても、小さくなって体重ま で減ってしまっている今の身体では、片手ですら押し戻されてしまう。何とか立ち 上がろうとして、かろうじて成功しかけても、すぐに引き戻される。息が切れ、懇 願さえできなくなっても、私は何とか逃げようとあまりにも無駄な行為を繰り返す しかなかった。 「はい。口の初使用権は530万で鈴木様に決定いたしました。二時使用は斉藤様、 三次使用は田中様となります。ではでは、いよいよ封印された処女の破瓜権とまい りましょう。破瓜の権利は、なにせできたてでございますため、ご一名様限りとな ります。ご了承ください。ではまいります。まずは1000万円から」 処女。私が。処女。目眩がした。私の身体は女そのものに変えられてしまったのか。 男のシンボルを無くしただけではなく、女の器官まで。そしてそこに男を受け入れ るというのか。いや、口にも、肛門まで犯されるというのか。毛穴から血が噴き出 しそうな恐怖と嫌悪感に、私は獣じみた叫びをあげて、人垣にぶつかっていった。 一瞬人垣が崩れ、身をこじ入れる隙間が開いた。それが私にとっては最後の希望だ った。落ちて首の骨が折れようが構わなかった。私は唯一の脱出路にすべてを賭け て身を躍らせた。                  --6-- 人垣を擦り抜けた。そう思った瞬間、私の身体は空中でお手玉のように受け止めら れていた。最初に私をテーブルに載せたあのプロレスラーのような腕だった。私は 紙人形のように軽々と反転させられ、テーブルに押しつけるように座らされた。脚 が両側に開き、女の子のような座り方になる。そのまま背中を強く押し潰され、上 体がテーブルに突っ伏してしまう。喉がテーブルにくっついてしまうほど強い力で、 背中と首筋を押さえつけられる。首が思いっきり反り返り、声も出せない。かすれ た喘ぎを漏らすのが精一杯だった。私がかろうじて動かせるのは足先だけというあ りさま。上から「潰れたカエルだ」という声が降ってきて、私の屈辱感をいっそう 煽り立てる。 唯一のチャンスが潰え、私は真っ黒な絶望に呑みこまれてしまった。硬いテーブル の上をゴリゴリと這い回った膝の痛みだけが生き生きと疼いている。私を潰して押 さえつける手は容赦が無く、競りの声は死刑台への秒読みを告げるカウントダウン のようだ。金額は信じられないほど吊り上がっていた。 「おめでとうございます。小林様が4800万円で破瓜権を獲得なさいました。そ れではお待たせいたしました、佐藤様。隷花ちゃんの初物、存分にご賞味ください」 歓声とともに男達の人垣が揺れ、ひとつの影が私の後ろに回った。何かが私のさら け出された肛門に触れる。ヒィっという声が漏れた。べっとりと冷たいものが肛門 に塗りつけられたのだ。そして、身構える暇も覚悟を決める暇もなく、私のお尻の 穴に熱く硬い棒の先が押し当てられた。 「あ、やめ、やめろ。や、やめて。だめ。だめだ。男なんだ。私は男なんだって」 そんなことを叫ぼうとしたが、引き伸ばされた喉を通って出た声は、ほとんど意味 不明の唸り声に過ぎなかった。しかし、それを聞き逃さず、司会の男が周りの男達 に伝えてくれた。 「自分は男だと訴えております。隷花ちゃん必死です。まだよく状況を理解してい ないようです。ここに参加した紳士のみなさまは、まさに元男だったからこそ、高 額な金を積み上げて初物権を競り合ったということを。隷花ちゃんは、自分が男だ と主張することで、陵辱されることから逃げられると考えているようですが、それ が返ってみなさまの性欲を高めてしまうなどとは想像もつかないことなのでしょう。 おおお、佐藤様のイチモツが、ますますそそり勃ち、青筋を浮かべております」 含み笑いが渦を巻く。私は吐き気すら感じた。もはやなすすべもない。それでも懇 願しようとしたとき、肛門に押し当てられた太い棒が、括約筋を引き千切らんばか りに押し広げて、私の中に侵入を始めた。 「あ、あああああああああああああ」 ずぶずぶと、焼けた鋼鉄のような塊が私の中へと押し込まれてくる。私は頭の中が 真っ白になり、ただただ喘ぐしかなかった。 「ゆっくりゆっくり佐藤様の亀頭がめり込んでおります。隷花ちゃんの肩から脇腹 にまで一瞬で鳥肌が立ちました。男が男に犯されるなど、隷花ちゃんの想像を絶す る事態だったに違いありません。ご覧ください、この苦悶に歪んだ顔の色っぽいこ と。おおお。涙がひと滴、こぼれ出しております。いたいけな乙女の涙です」 「あぐうううう」 粘膜の襞を掻き分けて、熱く太く硬い肉の棒がその先端をついに私の中に埋まって しまった。経験したこともない異様な感覚が背筋を貫く。あまりのおぞましさに、 呼吸すら満足にできなかった。亀頭部の巨大なエラが肛門の筋肉を通り抜けた時、 反射的に筋肉が締まり、自ら肉棒を咥え込んでしまう形になってしまったことにも 気がつかず、私は必死でいきみ、何とか異物を排出しようと全力を込めていた。 「おほう。いい道具だねえ。締まる締まる。こりゃあ、名器だ」 中途半端に先端を入れたままで動きを止めた佐藤という男が感嘆の声を上げたが、 私にはその意味を解する余裕などなかった。 「あー。あー。あー」 死に物狂いで押し出そうとする動きが返って吸い込んでいることにすら気がつかず、 私は内臓を吐き出すほどの力を込めていきみ続けた。ぐねりぐねりと腸が蠕動する。 腸の襞がイソギンチャクのように波打っていた。 「おひょう。吸い込まれる。こりゃ凄いぞ。もう、たまらん」 その言葉とともに、力一杯突き出された佐藤の下腹が、私の尻を叩いた。 「あうああああああああああ」 私の体内深く、とてつもなく太い心棒が突き刺さっていた。犯された。男に犯され てしまった。尻の穴にペニスを突き込まれてしまった。そんな思いだけが頭を破裂 させんばかりに頭蓋の中で響き渡る。犯された。男に。男なのに。 「ついに、貫かれてしまいました。佐藤様の太い陰茎が、その全長をすっぽりと隷 花ちゃんの身体の中に収まっております。隷花ちゃんの肛門の処女は散らされてし まいました。いいですねえ、この放心の表情。もう周りの声など聞こえてもいない かのようです。自分の中にぐっさりと打ち込まれた杭にのみ意識が行っているので しょうね」 「うああ。これはまた。素晴らしい。肉が絡みついてくる。絞り上げられてる。そ れに・・・ううう・・・吸い込まれている。これはたまらん」 佐藤が腰を引いた。内臓ごと肛門から引き出されるみたいな感覚に、私の全身が総 毛立つ。 「佐藤様のおっしゃる通り、腸が絡みついているようです。腰を引くと、ほら、肛 門がぷっくりと盛り上がって、肉襞が見えるようではありませんか。それがまた、 隷花ちゃんがいきむたびに息づくみたいに膨れあがって、得も言われぬいやらしさ です。肛門括約筋のみならず、腸そのものがうねっていなければここまでの絡みつ きはできません。最高傑作といわれる所以でございましょう」 佐藤が激しく腰をグライドさせ始めた。私は内臓中を掻き回される恐怖と、屈辱と おぞましさに石になった。 「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」 一突きごとに圧縮された空気が肺から押し出されるようで、意識せずに呻きが漏れ ていた。真っ白だった頭の中が、次には真っ赤に染まったような気がする。男に、 男に犯され、激しいピストン運動に直腸を擦り立てられている。舌を噛み切って死 にたいくらいの絶望感が尻の穴から注入されているかのようだ。しかし、あまりの 衝撃と絶望の深さに、身も心も麻痺したように固まり、舌を噛み切る力さえ湧いて こなかった。私の心は虫けらのごとく萎縮し、ただ身体だけが絶対に馴染めない嫌 悪感と異物の侵入で引き起こされた強烈な便意に動物的に反応し、全力で排除しよ うといきみ続ける。 「うおお。お。お。こりゃ、たまらん。んんん。イキそうだ。もったいない。でも、 吸われる。締めつけられる。お。いかん。あおおおお。うおおおおおおおおおおお」 佐藤が力一杯腰を突き出し、私の中に深々とイチモツを埋めこんで果てようとして いた。熱く膨張した亀頭がぶるぶると震え、私の体内に礫のような精液を放出し始 める。私は身体の芯でその放出をありありと感じた。精液。私は男の精液を注入さ れている。その認識が秘結した精神に届いた時、私は女そのものの悲鳴を上げた。 「いやあああああ。ああああああん」                  --7-- 背中にずしっと重さがのしかかる。佐藤の汗ばんだ腹が私の尻と背中にねばついて いた。分厚い肉を通して筋肉のヒクつきが感じられた。私の中では、まだ脈打ちな がら最後の一滴まで絞り出そうと、佐藤のペニスが身を震わせている。 「く、きつい。抜けない」 佐藤が私の腰に手を突いて身を引き剥がそうとしたが、痙攣を起こしたように固く 絞り込まれた括約筋に根元を縊られて動けないでいる。力任せに佐藤が腰を引いた 時、私の肛門はジュポッという大きな恥ずかしい音を立てた。ざわざわと観客のざ わめきが大きくなる。 「いやあ、大変な見物でございました。私のズボンまでテントを張ってしまってお ります。如何でございましたでしょうか、佐藤様。ご満足いただけましたでしょう か」 「いやいや、これほどとは思っていませんでしたよ。これは病みつきになりそうで すな。締めつけるだけでなく捻るように吸い込まれる。無数の吸盤があるような。 私も自分のイチモツには自信があったんですが、こうもあっけなく吸い出されてし まうとは。いや、しかし、堪能しました。払った金の額に不満はありませんな」 「それはそれは、よろしゅうございました。私どもの研究所で開発された生理的嫌 悪感を強調して腸全体が鳥肌立つようにして吸い付ける仕組みを施してあるそうで、 とんでもなく強力な吸引力を発揮するとは聞いておりましたが、まさかこれほどと は」 ジンジンする肛門の疼きをぼんやりと感じながら、私は自棄的に放心していた。も はや抵抗する気力もなく、ただ荒い息をつくだけの肉の塊と変わらない。ごつい手 が私の顔面を握りつけ、もうひとつの手が顎を固定した。力ずくで顎をこじ開けら れる。口の中に何かブヨブヨした固まりが押しこめられ、私の歯と歯茎を覆い尽く す。大口を開けた形で奥歯に何かが嵌り込み、カチンとロックする響き。手が離れ ていっても私は口を閉じることができなくなっていた。 「あ、おお、おおおう」 言葉すら奪われ、大口を開けたみっともない顔を赤の他人に品評される屈辱に涙が 滲む。 「さすが隷花ちゃん、お尻の締まりは逸品です。つい今しがた佐藤様のぶっといイ チモツを咥え込んでいたというのに、抜かれるやいなやシュッと収縮して蕾に戻っ ております。佐藤様のお情けの精液を漏らすこともなく、しっかりと呑み込んで。 緩い尻の穴ではなかなかこうはまいりません。さあ、続きまして高橋様。お口の方 のご用意もできましたので、鈴木様もどうぞご堪能ください」 再び冷たい潤滑液が肛門に塗りこめられ、眉を顰めて小さな喘ぎを漏らした私の前 に、湯気を立てそうに真っ赤に膨張したいびつな亀頭が突きつけられた。60セン チ以内の物にはその毛穴さえ数えられるほど優秀な私の目は、亀頭の表面のデコボ コさえはっきり見える。つんと鼻を突く恥垢の臭い。吐き気がしそうだった。見つ めるうちにその脈打つペニスが私の顔面に迫り、そしてどうしようもなく開かれた 口の中に押し入ってきた。必死で避けようとする舌に、熱い肉が押しつけられる。 「ん、む、ん、ああああ」 男のペニスを口に入れられるおぞましさ。髪の毛がザワザワと立ち上がっていくよ うな嫌悪。絶叫しようにもあっという間に口が塞がれ、先端が私の喉を詰まらせて いた。それだけではない。後ろからは新たな怒張がメリメリと括約筋を引きちぎら んばかりの勢いで挿入されてくる。前も後ろも同時に犯され、心と身体の拒否反応 で、私は無我夢中でのたうたなければならなかった。 吐き気。怖気。気色悪さ。苦痛。窒息。拒否。嫌悪。悪寒。蠕動。便意。疼き。熱。 臭い。粘膜の音。捏ねくり回される粘液の粘つき。呼吸困難。顔面と尻の肉に打ち 付けられる腹の肉。そのリズミカルな肉の音。私の中で脈動する太い二本の肉の杭。 その熱。その硬さ。えずき。流れる汗。上から降ってくる汗。涎。鼻水。涙。粘膜 の摩擦熱。竜巻に巻きこまれたかのように、私の精神と肉体は揉みくちゃになった。 頭の中で何本もの血管が切れていくような気がした。私の上で交わされる男達の賞 賛の声も、実況中継する司会の男の声も、すでに遠いものとなっていた。 喉の奥まで突き込まれると私は息を吸うことができなくなる。引き抜かれようとす る一瞬に、激しく吸い込まれた空気がヒイイイっと泣き声のような音を立てる。酸 欠で意識が朦朧となる頃、私の中の前と後ろで、ほとんど同時に精液の噴出が始ま った。身体の中に精液を注がれる焦げ付くような嫌悪感に重なって、とにかくこれ でいったん凌辱が終わるという安堵感もあった。 思考能力などとうに雲散霧消していたため、喉の奥深くまで詰めこまれていた肉の 栓がわずかに引き戻された時、逆毛立たされたような喉粘膜の疼きで反射的に喉を 鳴らしていた。私は唾とともに、舌の上にドロリとこぼされた精液を呑み込んでし まった。もはや汚いなどという意識はなかったが、鼻に抜ける青臭さと例えようも ない粘りの感触は泣きたいほど不気味だった。開いた喉に亀頭が突き刺さる。私は 息もできず、肺を痙攣させながら、食道の粘膜に流し込まれる精液の熱さを恨めし く感じることしかできなかった。 一瞬、意識がフェードアウトしていたようだ。新たな肉茎が口と肛門に差し込まれ ようとしていた。涙と鼻水でベタベタになった顔を、思わずイヤイヤさせていたけ れど、私の意志などお構いなしに臭い亀頭を頬ばらされた。3本目の肉茎が私の尻 の中に収まり、再び私は肉の鐘となってリズミカルに突きまくられる。にちゃにち ゃと粘膜が鳴り、ぐぷぐぷと喉が鳴る。私は前後から圧縮される肉のフイゴだった。 ただひたすら、この想像を絶する苦行が一刻も早く終わってくれることだけを念じ ていた。痙攣した舌が突き込まれる亀頭を舐め上げる形になった時、びくびくっと 跳ね上がったことで、私の赤熱した頭もようやく学習した。とにかくこの息苦しさ を解消するためには、どんなに屈辱的だろうと何だってやる。私は舌を蠢かせた。 ぎこちなくとも効果はあった。頭の上から聞こえてくる喘ぎ声がいっそうせわしく なり、そしてあっけなく放出が始まった。 いつから、身体を押さえつける手が外されていたのかわからなかった。強制などな くても、疲れ果てた私の身体はテーブルの上に潰れたまま、動く気力もなかった。 口から、肛門から、3人分の濃厚な精液をたっぷりと注ぎ込まれた私は、もはや男 のアイデンティティを完膚無きまでに破壊され、汚されてしまった。精液で満杯の 肉の袋がテーブルに押し潰され、荒い息をついている。その肉袋は、自分が男でさ えなければ、これぼど惨めな思いに苛まれなくても済んだのだろうかと考えていた。                  --8-- 「みなさま、たいへんにご満足いただけましたようで。隷花ちゃんも疲労困憊の様 子です。男の矜持を踏みにじられ、徹底的に汚されて、目も虚ろといったありさま ですな。しかし、まだどこかに自分は男だなんて意識が残っているやもしれません。 ここはきっぱりトドメを刺してやりましょう」 私の身体が裏返された。膝の上のベルトが外され脚が自由になったものの、まった く力が入らず、蹴りつけることもできなかった。両側から足首が握られ、頭の方に 引かれる。私の股が全開に近く拡げられ、尻が持ち上がって、隠したい部分に全員 の視線が集中した。視線を逃れようにも、私の脚は万力で固定されているかのよう で、身じろぎすらできなかった。誰かの手が股間の金属板の上を撫でさする。 「さて、いよいよ時間です。仕上がり具合は如何でしょう。いま、この金属板の内 側では、ナノマシンの大群が最後の仕上げを精力的に施している最中です。間もな くその作業も終わり、ナノマシンは自らを分解して痕跡も残さず排泄されることと なります。さてさて・・・はい、時間です」 金属板の一端がつままれた。あれほど強力に接着していた金属板だったのに、ペリ ペリとテープのように簡単に剥がれていく。股間に外気を感じたが、それだけ。私 にはそこがどうなっているのか知りようもなかった。 「おお、見事な割れ目です。ほんのり薄桃色がかって。初々しい。まだ男を知らぬ 処女の聖域。造形は完璧です。ここに節くれだった肉棒と皺だらけの玉袋がぶら下 がっていたなどとは信じられません。しかし、まちがいなく、ここには男のシンボ ルがあったのです。しかも隷花ちゃんはフタナリ型です。そのシンボルの成れの果 てがまだひっそりと隠されているのです。さあ、さっそくご覧にいれましょう」 私の股間、女だったらクリトリスであるべき肉の露出が強く押された。すると・・・ 身体の中から大きな芋虫が身をくねらせて這い出してきたのかと錯覚するほど、私 の意志とは無関係に私の身体の一部が蠢き、めりめりと肉を押し開いて真っ赤に濡 れ光る肉の棒が股間から押し出されてきた。 「お、あうあ、あ、う、あああ」 奇怪な感覚だった。私の以前のペニスのような形はしていたが、陰茎部も亀頭と同 じ赤い粘膜であり、肉の中から迫り出してくる時の摩擦で、思わず腰をくねらせて しまうほどの快感を発する。宙に伸び出した私の肉茎は最初から硬く秘結していて、 その先端をテーブルの上の私の顔に向けていた。尿道のない妙につるんとした亀頭 部。余分な皮などなく、胴部の赤い粘膜はぴんと張り詰め、ぬめっと光っている。 どよめきが周囲から沸き起こった。ざわめきが静まるのを待って、司会者の指が私 の変形したペニスをそっとなぞる。それだけの接触で、まるで電流が走ったかのよ うな快感に、私は思わず喘いでしまった。 「ああああ」 「感度も抜群なようです。なにしろ全体が常人の6倍の密度の神経を埋めこまれて いるといいますから。ほら」 つんと指で突かれただけで、私の腰がびくんっと跳ね上がる。 「あああん」 「ほら」 「ああん」 「ほら、ほら」 「あ、あはあ」 「あまりに正直な反応で、つい調子に乗ってしまいました。これほど敏感なスイッ チですから、ここさえ刺激してやれば麻薬患者並みに、何でも労せずしてやらせる ことができるでしょう。本人ももっと刺激を欲しがっておりますが、しかし、いま はまだ、おあずけ。隷花ちゃんには欲求不満でいてもらいます。ではこれより、本 日のハイライト、隷花ちゃんの処女喪失の儀式とまいりましょう。さあ、長らくお 待たせいたしました。小林様。おおお、もう準備万端整っておられるようです。ま ことにご立派なイチモツがそそり立っております。さあさあ、こちらにどうぞ」 視界の向こうにぼやけた人影が進み出し、私は拡げられた脚の間からその人影を覗 く格好になった。汗にまみれ、上気しているはずの肌が、端からぶつぶつと鳥肌立 っていくのが見える。精神より先に肉体が拒否反応を示していた。精液の臭いをふ んぷんと立ち上らせている私の口に誰のとも知れない指が入りこみ、固定具のマウ スピースを抜き取ってくれた。 「さあ、処女喪失直前の隷花ちゃんの感想を窺ってみましょう。隷花ちゃん、何か いっておくことはあるかな」 「あああ、や、やめてくれ。お願いだ。もう、勘弁して」 「残念ながら、小林様は隷花ちゃんの処女喪失に4500万円もの大金を支払って いるんだからね。ワガママはいけないよ。それとも隷花ちゃん自身が4500万円 以上の現金を支払うというなら別だがね」 「払います。払います。だから、助けてください」 「払いますといってもねえ。君の預金口座には100万円足らずしかなかったけれ ど、どうやって現金を用意しようというのかな」 「か、貸してください。サラ金でもなんでも、借りますし、一生かかっても払いま す。あああ、やめ、あうわああああああ」 私の真っ赤なペニスがむんずと握りつけられ、問答無用で身体の中に押し戻されて いく。そのあまりにも異様な感覚と、同時に生じた状況をわきまえない快感に、私 は悲鳴を上げていた。自分のペニスで自分が犯されているような混乱した感覚。気 が狂いそうだ。股間から伸び出した私のペニスは、ほとんどが体内に押し戻され、 割れ目から亀頭だけが鰓の下を縊られるように覗いている状態にされてしまった。 「残念ながら、今現金を積み上げなくちゃ手遅れなんだよ。貧乏はしたくないもの だね。やはり、処女を捧げて身体でお金を稼いでもらわなくちゃならないようだ。 さあ、観念して、貫いてもらいなさい」 「堪忍してください。お願いです。何でもいうことを聞きます。助けて。あ、ああ」 哀願も空しかった。小林の指だろう、股間に取って付けたように突出している亀頭 をつままれ、ごりごりと乱暴にこじり回された。腰が砕けるほどの快感が走り抜け、 私の意識を半ば消し飛ばす。つままれ、捻られ、擦られ、そのたびごとに押さえよ うもなく、私は恥知らずな嬌声を漏らさずにはいられなかった。 「おおお。ご覧ください。まだ男を知らぬ隷花ちゃんの花弁が、ほんのり恥じらい の色に染まりながらも花開いてきました。その奥に秘められた処女膜がご覧いただ けるでしょうか。膣の襞が上気して赤く濡れ光っております。おおお。たまらずに 身を捩るその動きで、中から濃密な愛液が噴きこぼれてまいりました。とろりとし たたる蜜の、清純なまでの透明感。どれほど嫌がってはいても、肉体は正直なもの です。さあ、いよいよ小林様がそのイチモツの先端を隷花ちゃんの花弁に押し当て ます。隷花ちゃんじつにいい声でさえずっております。そして、いままさに・・・」 私の身体の中心に、信じられないほど太い異物が侵入してきた。鉈で何度も斬りつ けられているような痛みが股間に走り、私は息を詰まらせる。 「あ、ひ、いた、痛い、痛い、いいいい」 その感触をじっくり味わうように、肉の塊がゆっくりと私の中へ潜り込もうとして いる。めりめりと肉の弾ける音すら聞こえるようだ。信じられないほど痛い。半分 ほどその先端を押し込んだところでいったん侵入が止まり、掻き回すように先端が 捩じ回された。痛みが倍加する。私の中から分泌された粘液を、たっぷりと先端に まぶしているのだ。痛い。痛い。もう、勘弁して。 「あああ。いやだ。痛い。助けて。入れないで。痛い。裂ける。あうああ」 たっぷりと粘液にまみれて滑りのよくなった亀頭が、さらにぬるりと力ずくで私の 中心を貫き、押し入ってきた。ブチッ、ブツン、と肉の襞が切れる音が私の内臓に 響き渡り、私は私の処女膜が裂けた瞬間を知った。巨大な亀頭部が狭い膣口を通り 抜け、私の肉襞を掻き分けて・・・あああ・・・私の膣に収まってしまった。その まま、私の身体の中心を一直線に貫通して分け入り、きつく閉じていた私の肉の隙 間をこじ開けながら、奥へ奥へととめどなく突き進んでくる。ズンッと肉襞の底が 突き上げられ、内臓がくじられる嫌な痛みを感じた時、私の股間に小林の恥骨がめ り込んでいた。ついに、ついに、私は男のモノを体内深くに受け入れてしまった。 私の中に埋めこまれた肉の棒は、驚くべき事に私の臍のあたりにまで届いていた。 入り口の痛みは、自分がこのまま股からふたつに裂けてしまうのではないかという 分裂の恐怖を生じさせる。そしてどうにも耐えられないのが、身体の中に他人の肉 を刺し込まれるという、経験したことのない感覚。あまりに重く、内臓の奥を刺激 し、居ても立ってもいられないような焦燥感に囚われる。犯されたという実感。そ して男としてあってはならない、征服されてしまったという恥辱。私はもう、声も なく、動くこともできずに、自分の内部に全神経を奪われていた。 「みなさま、ご覧ください。破瓜の血です。きれいな鮮血が一滴、小林様の腿に滴 っております。隷花ちゃん、見事に散華いたしました。処女喪失です。おめでとう。 これで晴れて女として、殿方の精の捌け口となる生き物としての、新たな人生のス タートです。元が男だっただけに、感慨もひとしおでしょう。さっきからぴくりと も動きません。もはや自分の運命を従順に受け止めたということなのでしょうか。 さて、処女喪失の儀式はここまでといたしましょう。小林様にはこのまま寝室にて、 たっぷりと隷花ちゃんをご賞味いただきます。みなさま、本日はご参加いただき、 まことにありがとうございました」 私の脚が小林の腰を抱くように回され、足首が何かで固定された。腰を両側から握 りつけられ、身体を貫かれたまま空中に持ち上げられる。私は膣口の痛みにかすか に顔をしかめただけで、もはや抵抗する気力も哀願する気力もなく、壊れた人形の ように小林の下腹に磔にされたまま寝室へと運ばれていった。                  --9-- 茨の巻き付いた棍棒が、身体の中を出入りしているかのような痛みがあった。ひと 突きごとに私の破れた処女膜を引き千切ろうとしているような苦痛。しかし、私が こらえきれずに呻き喘いでいるのは苦痛のせいばかりではない。燃えるように熱い 火袋として、身体の芯にありありと感じられる膣道が、小林の張り出した亀頭のエ ラで掻き回される時、全身が海老反るほどの摩擦熱と・・・不快なだけではない戦 慄が生じるからだ。内臓に直接酒をぶちまけられたかのような火照り。思わず何か にすがりつきたくなるような、じっとしていられないほどの肉のよじれ。私の膣道 に無数に折り畳まれている襞のひとひらごとの疼きが積み重なって、私にとって絶 対に認めたくはないことながら、不快であると同時に快感ともいえるモノになりか けている。 じゅぼ。ぐちゅ。じゅぼ。ぐちゅ。じゅぼ。ぐちゅ。私の身体が鳴り続ける。あっ、 ひっ、ふっ、ああん、あっ、ひっ、ふっ、いいい。突き固められた空気が噴き出す ように私の喉が鳴る。見ず知らずの他人にいいように弄ばれる悔しさも、押し出さ れる呼気とともに抜け消えてしまった。執拗なまでの粘膜の摩擦に、私の感情さえ 摩耗してしまったかのようだ。大股開きという、あまりに恥ずかしい自分の格好を 思い、少しでも股を閉じようと無駄な足掻きを繰り返したが、腿の筋が攣りそうに なってあきらめた。 粘液と血の混じった泡が圧縮され、じゅぶじゅぶと猥雑な音を立て続けている。私 の身体は高熱を発しているかのような瘧に震え、全身の皮膚が粟立っている。何も かも耐えられず、しかしどうにもできずに、私は虚ろな目であーあーと止めどなく 呻き続けていた。組み敷かれた身体がピストンのたびに、支離滅裂に揺すられる。 膣粘膜を擦り立てられるだけならまだしも、先端だけ縊り出されている私自身の亀 頭が打ち付けられる小林の下腹に擦られ、そこから発する男として馴染み深いダイ レクトな愉悦が数倍に増幅され、圧縮蒸気のように体内に逆流してくる。嫌悪と快 感。相反する感覚が私の中で氷と炎のようにぶつかり合い、私の意識と肉体を混沌 の坩堝に変えてしまう。 じゅぼ。ぐちゅ。じゅぼ。ぐちゅ。じゅぼ。ぐちゅ。もう何百回、肉の襞を擦りつ けられたのか。裂けた膣口の痛みすら麻痺してしまった。そうなると、血を噴き出 さんばかりに充血した粘膜の、焦げるような熱さが膨張してくる。擦り付けられる 亀頭の快感と相まって・・・あうっ、ひあっ、ふうっ、あん、あむっ、ひっ、ふっ、 おあ。自分の喉から漏れこぼれる呼気の音が、次第に甘さを帯び始めるのをこらえ られない。 喘いでいるのは私だけではない。私にのしかかる小林もまた、苦行僧のような表情 で耐えに耐えている。私の中心を抉り抜いて造築された肉穴の性能など、私自身に わかりようもないけれど、小林の反応を見ている限り私の直腸にも劣らぬ機能を持 っているように思える。ときおり譫言のように小林の口から漏れる言葉は、私の蜜 壺への惜しげもない賞賛だった。人間の物とは思えないとさえいわれる蜜壺とは、 一体どんな物なのか想像もつかない。どうせ私は化け物なのだ。それは否定できな い。そんな人間離れした膣からの刺激に、ぎりぎり耐え抜いている小林という人物 の性豪ぶりも称賛に値する。性技に長け、精力を誇り、修練を重ねてきたのだろう。 強靱な意志で自己の昂りを自制し、力強いグライドを維持して私を貫き続ける。そ んなタフネスぶりが、私には恨めしい。しかし、延々とボロ雑巾のように揺さぶら れ続けるうちに、次第に身体の芯から蜜蝋のごとく、とろりとろりと蕩け出してい る自分にも気がついてしまった。 じゅぼ。ぐちゅ。じゅぼ。ぐちゅ。じゅぼ。ぐちゅ。体温が5度ほど上がっている ような気がする。身体中の毛細血管が、倍の太さに膨れ上がっているんじゃないだ ろうか。ゆるゆると溶けた蜜蝋が渦を巻き、私の脳まで溶かし込んでしまった。ぎ いいっ、あふうっ、ぐう〜っ、あいいん、んああん、ひいうっ、ええうんっ、おお おん。私はいつしか何もかもが溶けて、膣という穴ひとつしかない革袋に成り果て ていた。熱蝋の温度と圧力がひと突きごとに増していく。しかし、唯一の入口で出 口は、鋼鉄のワイヤーを寄り合わせたかのような肉の栓に塞がれ、圧力の逃げ場を 奪われているのだ。私の身体は、まもなく風船のように膨張しきって、破裂するの かも知れない。 火の棒の収められた火の袋から生じたうねりと疼きが、巨大な肉の花弁をもたげる ように、私の内臓の奥から拡がりかけていた。あとふた突き、いやひと突きだった かもしれない。しかし、最後の一線を越えて溢れ出そうとした直前、あろうことか 小林が果ててしまった。耐えに耐えていたのだろう。小林が心臓発作を起こしたか と見まがうほど全身の筋肉を引攣らせて反り返り、沸騰した精液を砲弾のように私 の花芯へと撃ち込んでくる。小林は私と、股間の一点で結合したまま断末魔の魚の ようにビクッビクッと仰け反り、最後の一滴まで絞り出した後、私の上に突っ伏し た。 重い。粘つく汗と饐えた男の体臭が私を包み込む。男は嫌だ。こんな脂ぎった生き 物が、私の腹の中にその肉の突起を挿入しているかと思うと、反吐が出そうだ。そ んな思いが、この瞬間にも私の心の奥底に存在している。ただそれが官能の蜜蝋に べったりとコーティングされているから混乱してしまうのだ。私の壺の底で肉襞を 膨らませて流動している精液は、男である私にとって悲鳴を上げたいほど気色悪い 物であると同時に、精液の収まるべき場所にとっぷりと精液が収められたという、 当然の帰結のようにも感じられるのは何故だろう。私の、男としてのアイデンティ ティは、変質し始めていたのかも知れない。 小林は果てても、私の肉の昂りは登りっぱなしで下降する気配すらなかった。煮込 まれ続けるシチューのような状態。思考はぷくぷくと表面で弾ける泡のように脈絡 がない。一線を越えられずおあずけ状態にされているのはもどかしい気もするが、 ゆらゆらと肉シチュー状態を漂っているのも快いと感じる。しかし、その浮遊状態 は、回復した小林が今度は私の肛門を使い始めたことでいっぺんに冷まされた。 肛門への挿入は、嫌悪感が強く前面に立ってしまい、私の心を屈辱で押し潰してし まう。私は冷水を浴びせられた犬のように、尻尾を丸めて自分の中に逃げ込んでい た。何故だろう。人工的に造られた膣と違い、肛門は以前の男としての自分と共通 する部分だからかも知れない。膣を貫かれる時は女として犯されているのであり、 肛門を貫かれている時は男として犯されていると感じるからだろうか。かすれた喉 での懇願も哀願も当然のごとく無視された。苦行どころではない、拷問に等しい状 況が延々と続き、ほとんど発狂直前だった。死ぬほどおぞましいのに、固く絞り込 まれた括約筋のせいで排出することもできず、体内に留めている3人分の精液。そ のおぞましい精液のブレンドに、さらにもうひとり分が追加されてしまった。どう にも忌まわしく、汚らわしく、馴染むことなどできそうもない種付けされる嫌悪感 と、とりあえず拷問が終わるという安堵。疲労困憊してしまった今は、安堵の感情 が勝ってしまう。 小林がいつ離れていったのか定かではない。背中で固定された腕が全体重を受け続 けて、無数の針で内側から刺し貫かれているように感じ、意識が呼び覚まされた。 無様に開きっぱなしだった脚を閉じ、身体を横向ける。それだけの動きでも腹筋に 力が入り、股間からぷちゅっと粘つく液体が漏れてしまった。自分のせいではない とわかっていても、やっぱり全身が強張るほど情けなく、恥ずかしい。腕が拘束さ れていては、内股から尻たぶへ伝わる粘つきをどうすることもできず、私はひたす ら胎児のように身を丸めていた。 「あらあら。まったくやりっぱなしなんだから。お片づけなんて考えもしないのよ ね。お客様方だからねえ」 いやに甲高い声が聞こえた。ぼやける目では影くらいしか目にできないとわかって いるのに、ついつい声の主を捜してしまう。横手から突然目の前に、化粧した河馬 とでもいえそうな凄まじい顔が私を覗きこんだ。思わず身を引いてしまい、また体 内から精液が漏れ出してしまう。 「なによう。失礼ね。私はアンタの世話係。チョウコって呼んでちょうだい。この 顔はね、商品であるアンタ達を引き立てるために計算して変えてあるの。ホントは 色男なんだから。それにしても酷使されたわね。さすが最新鋭の2006型。よっ ぽど具合いいんでしょうね」 チョウコが私の股間に何かあてがってくれた。そのままゆっくりと引き起こされ、 私はベッドの端に腰掛けるように据えられる。消耗しきって頭を支えることすら難 事業だった。チョウコが押さえてくれていなければ、くたくたと倒れてしまってい ただろう。股間を見下ろすと、生理用のナプキンがあてがわれていた。ナプキンと は・・・情けない。腕の戒めが解かれる。完全に痺れ切って感覚がなかった。戒め を解かれても関節が固まっていて腕が戻らない。チョウコが片腕ずつマッサージし ながら腕を戻してくれた。筋張って筋肉質なくせに、チョウコの扱いはデリケート で、上手なマッサージのおかげで腕の感覚が戻り始めた時のたまらない痺れも意外 と苦しまずに耐え切れた。 「もう、大丈夫かしら。ちょっとナプキンを見せてくれる」 私は逆らう気力もなく、腰をずらして脚を拡げた。チョウコが股間に貼り付いたナ プキンをそっと捲る。 「出血もほとんど治まってるわね。よしよし。それにしても汗と精液とオヤジ臭さ の移り香がふんぷんよ。身体中舐め回されたみたいね。臭いこと臭いこと。まずは シャワーしましょ。立てる?」 私はチョウコに付き添われ、ほとんど肩を借りるようにしてバスルームに運んでも らった。チョウコの介助で全身を洗い清める。歯を磨き、ビデで膣内を洗浄する。 股間に突出していた亀頭を、あら可愛いわねとチョウコはつまみだし、私をこれで もかと喘がせながら執拗に洗い清めた後で、渋々体内に詰め戻してくれた。最後に、 髪をチョウコに洗ってもらいながら、痛めない洗い方と手入れの仕方を伝授しても らう。バスルームに来る時は情けないくらい笑っていた膝にも、力が戻ってきた。 「ああ、いいのよ。アンタはじっとしてて。その方が早いから」 そんなことをいわれながら、私はベルトコンベアーに乗せられて組み立てられる製 品になった気分で、全身をピカピカに磨き上げられ、タオルで水気を拭われ、ドラ イヤーで髪をセットされた。寝室のドレッサーの前に連れて行かれ、いちいち解説 されながら化粧される。未だに自分の物とは思えない瑞々しい少女の顔が、はっと するほど妖艶な小悪魔の顔に変貌していく。叩きのめされた精神が消沈している上 に、マシンガンのように話しまくるチョウコを遮るタイミングなどなく、いうにい えないでいたが、モジモジする私の様子をチョウコの方で察してくれた。 「あら、何。落ち着かないわね。お腹減った?なわけないか。おトイレよね」 私は頷く。トイレにまで手を貸して入ろうとするチョウコを押しとどめて、私は便 座にぐったりと腰を下ろした。しばらくはどうしても出なかった。それでも深呼吸 して力を抜くようにすると、ちょろちょろと花弁を伝って小水が漏れ出し始める。 ほとんどは汗と涙になって出てしまったのか、あっという間にちょろちょろが終わ る。私は頭を抱えてその馴染みのない排泄の違和感に耐えた。オシッコをするだけ で気力も尽きかけたけれど、まだ出さなければならない物がある。私は、私の意志 とは無関係に固く蕾を閉じている肛門の緊張を、なんとかして解きほぐさなくては ならなかった。括約筋と腸粘膜が腫れ上がっているのだろう、肛門を開くのはひど く難しい。何度も何度もいきみ、ついに小さなおならとともに私の体内に注入され た精液の一部がとろっと流れ出す。便器の水にぽちゃんぽちゃんと滴る4人分もの 精液が、なんとも惨めで恨めしく、嗚咽が漏れるほどに悲しかった。 「おーい、大丈夫?」 「あ、う、うん。今出るから」 結局、固形物は出なかった。出たのは精液の滴りだけ。私はトイレットペーパーを 巻き取って、はて、いったいどうやって拭いたらいいものか、一瞬迷った。 「おーい。拭く時は前から後ろへ、が基本だからね。後ろから拭いたら尿道炎にな っちゃうよ」 「え、あ、そうなのか。・・・ありがとう」 トイレットペーパーが花弁に触れる、がさがさした感覚がくすぐったい。トイレを 出ると、チョウコが下着と新しいベビードールを手渡してくれた。まさに集団レイ プそのもので衣服を剥ぎ取られた時のことが脳裏をよぎり、身に付けるにも気が重 い。とはいえ、赤の他人の前で裸のままでいるわけにもいかず、私は溜息を噛み殺 しながらパンティに脚を通した。 「テーブルは拭いておいたわ。なんとも、相当修羅場だったみたいだわね。血と汗 と粘液でべとべとだったわ。何人にやられたの」 「え、あ、はい、7人・・・」 チョウコのなれなれしい口調に、つい馬鹿正直に答えてしまった。 「おやまあ、ご愁傷様。それじゃぁ、お尻もオマンコもヒリヒリしてるでしょう。 薬棚に軟膏があるから塗っておくといいわよ。薬棚は知ってるわよね。アンタの以 前の部屋を再現してあるんだから。それと、栄養ゼリーでエネルギー補給しておい た方がいいわ。脱水症にならないように水分もたっぷり摂ってね。一眠りした頃に は新しいお客さんが来るから、充分に休んでおきなさい。じゃあ、またね」 チョウコがヒラヒラと手を振って去りかけたので、私は慌てて追いすがった。 「待って。待ってください。もっと説明を・・・。このまま放って行かれたら、気 が狂う・・・」 「そういわれてもねえ。勝手に教えると私が罰を受けちゃうし」 「お願いします。もう少し、もう少しだけ」 「しょうがないわねえ。じゃあ、とにかくやることやってから、ちょっとだけね。 軟膏を持ってくるから、アンタは冷蔵庫から水とゼリーを持ってらっしゃい」 私はチョウコの気が変わらないうちにと、よろめく脚を叱咤して冷蔵庫へ向かった。 水のボトルとゼリーの袋を手に戻ると、チョウコがテーブルの前の椅子を示して私 を座らせる。 「ほら、パンツを降ろしてさっさと座って。脚を拡げてね。軟膏を塗ってあげるか ら、貴方は栄養を摂ってなさい」 一瞬ためらわれたが、今機嫌を損ねるわけにもいかない。椅子に浅く腰掛けてベビ ードールとパンティをいっしょくたに引き下ろす。いったい一日に何人の他人に股 間をさらけ出さなくてはいけないのか。命じられたままにゼリーの吸い口を吸い付 けていると、股間にチョウコの指が当てられ、あろうことか膣の中にまでべとべと する軟膏を塗り込まれた。私は思わず噎せそうになる。顔をしかめて指の感触に耐 えていると、膣を抜け出した指はそのまま肛門に移動し、その中にまで軟膏を塗り 込められてしまった。 「いまさら、じたばたしないの。もう何人も咥え込んだでしょ。よし、いいわよ」 私が惨めな気持ちでパンティを引き上げているうちに、チョウコはティッシュで指 を拭きながら、テーブルの向こうに回って椅子に座った。私も椅子を引いて座り直 す。さっき自分が上に乗せられ、粘液と涎と汗と涙を振りまきながら犯されたテー ブルに、何事もなかったかのように座って話をするという強烈な違和感に目が眩み そうだった。目の前に、押し潰された自分の尻とさらけ出された肛門が見えるよう な気さえする。 「さ、何が聞きたいの」 あれもこれもいっぺんに訊こうとして、言葉に詰まる。頭を一振りして、とにかく 思いついたことを口にした。 「いったい、ここはどこで、私はどうされてしまったのか・・・」 「ここは特殊な売春宿で、アンタは女の身体に・・・いや、アンタはフタナリ・シ リーズだから男でもあるけど・・・改造されて売春婦のひとりになったって事よ」 「ば、売春婦・・・そ、そんな・・・何故・・・」 「何故って、自分で志願したんでしょ。記憶は消されちゃってるから覚えてないで しょうけど」 「自分から・・・志願・・・まさか・・・。記憶が・・・じゃあ、やっぱり一年分 の記憶が・・・」 イタズラ心でクリックしたサイトの警告文・・・あれが志願ということなのだろう か。それとも、失われた時間のどこかで自ら望んでこうなったのだろうか。 変身。 玲 - 2004/06/09 04:24 - 「身体改造はDNAレベルで調整されなきゃいけないから、準備に時間がかかるの よね。その間、精神的な訓練と調教と条件付けが洗脳レベルで施されてるの。すべ ての準備が整ったら、注射器一本分の調整されたナノマシンをチュ〜っと入れて、 あとは1週間でハイできあがり。記憶もきれいさっぱり消されて、初々しいままデ ビューってわけ」 「私の部屋を・・・再現したっていいましたよね。ここは・・・」 「当然でしょ。アンタの元の部屋じゃないわよ。この部屋がアンタの昔の部屋そっ くりなのは、いろいろ滅茶苦茶な事になるから、それぞれの売春婦にとっていちば ん親和性の高い環境を用意することで、精神がパンクしないようにって事らしいわ。 実際かなり効果的だって聞いてる」 「信じられない・・・間取りもなにもかも再現してあるなんて」 「窓のカーテンを開けてみるといいわ。ほら、寝室の窓を見てきてごらんよ」 私は促されるまま、手探り状態で寝室へ行き、窓のカーテンを引き開けた。不自由 な目でも、窓のサッシの向こうに空などなく、真っ白に輝くアクリルパネルで埋め 尽くされているのがわかる。 「わかったでしょ。実際ここは地下6階よ。窓から逃げることもできないわ」 いつの間にかチョウコが、横のベッドに腰掛けていた。 「私は・・・私は・・・耐えられない。教えてください。どうやったらここを出ら れるんですか。どうやったら・・・その・・・志願を取り消せるんですか」 「最初はみんなそういうのよね。まあ気持ちもわかるけど。耐えられなくったって 何ができるわけでもないしねえ。いまさら志願を取り消しになんか、できるわけな いのわかるでしょ。そうねえ、アンタの身体を改造するためにかかった費用の倍は 稼ぎ出さないと、出るに出られないわね」 「そ、そんな・・・稼ぐって・・・」 「稼ぎ方は身に染みてわかったでしょ。そうねえ、アンタのクラスなら、一日5人 として・・・3年で元が取れるんじゃないかな。そうなれば後は交渉次第ね」 「そ・・・」 私は走り出した。ダイニングのテーブルに腰を当て、何かにつまずいて足指を思い っきり打ったけれど、痛みになんか構っていられなかった。ドアに身体を叩きつけ ドアノブを探る。ドアを押し開け、外廊下に一歩出ようとした瞬間・・・身体が固 まってしまった。焦る気持ちが空回りするものの、私の身体は所有者である私の命 令をいっさい受け付けず、私は木偶のように土間に立ちつくしていた。そもそも息 をしていなかった。息苦しさが私を駆り立て、死に物狂いで動こうと足掻いた。ド アノブを掴んだ右手の小指が、数ミリ動いたような気がしたが、それだけ。肺が焼 けるように苦しくなってきた。私は脱出を諦め、何とかしてチョウコに助けを求め ようとしたとたん・・・急に身体が動くようになった。 反動でよろけ、上がりがまちにへたりこんでしまう。目の前でドアがゆっくりと閉 まっていく。脱出への希望が潰えていく。私は手を見つめる。何の問題もなく動く。 息もできる。いったい何だったのだろう。何だかわからないが、動けるようになっ たのだからともう一度ドアを開け、一歩踏み出そうとして、また凍りついてしまっ た。足掻きまくって、結局どうにもならないことを充分に思い知る。部屋へ戻ろう とするとまた身体が動くようになる。私は憔悴して壁にもたれてへたり込んだ。荒 い息が治まってしまうと、目の前にあるのに届かない唯一の脱出路を眺めながら座 り続けるのもつらすぎる。私には他に行き場もなく、うなだれてダイニングに戻る しかない。 「たっぷり時間をかけて条件付けされてるっていったでしょ。理解できてなかった ようだけど、今は充分に理解できたでしょ。自分自身に裏切られるのって、キツイ のよね」 ダイニングテーブルの椅子に座ったチョウコが、楽しそうにいった。 「いったい、どういう・・・」 「この部屋から許可なく出ようとすると、身体がいうこと聞かなくなるようにアン タの潜在意識のいちばん底にガッツリ刷り込まれてるって事。先にいっておくと、 自殺もできないようになってるから。無駄なエネルギーは使わない方が賢明よ。い ろいろ教えすぎたかな。じゃあね。次のお客さんが来る前にもう一度顔を出すけど、 それまで寝ておいた方がいいわよ。接客は重労働だからね」 私の泣き言を無視して、チョウコは出ていった。私はひとり、呆然として残されて しまう。まさにここは袋小路だった。                 --10-- あきらめきれずに、それから3回、ドアからの脱出を試み、酸欠でふらつきながら 私はベッドに倒れ込んだ。窓からの光が眩しく、ぼやけた目で見れば、ごく普通の 窓にしか見えない。しかし、その窓の向こうに世界はなく、発光パネルの先には何 万トンという土があるだけと知ってしまっては、すがすがしさなど感じようもない。 といって、カーテンで光を遮ってしまえば、その圧迫感がよけい増しそうな気がす る。不良品になってしまった目も、見たくない物を直視しなくていいという点では ありがたいものなのかも知れない。 ベッドのシーツはチョウコが換えてくれたのだろう、乱れた様子もなく糊の匂いが 香る。無理に鼻を近づければ、シーツの下に染み込んだ男との交わりの残滓を嗅ぎ 分けることもできるのだろうが、わざわざ悲惨な体験を想起して自己憐憫に耽る趣 味はない。すでに充分疲れ果てているのだから。骨の髄まで疲労感が染み通り、チ ョウコのアドバイスに従って眠った方がいいとわかってはいても、あんな体験の後 で安らかに眠れるわけもない。といって、こんな視力では活動的に動き回って気を 紛らわすこともできないし、第一そんな気力もない。今の私にできることといえば、 ベッドの上で放心していることしかなかった。 何もせず、ただぼんやりしていると、意識はすぐに内向きになる。するとフラッシ ュバックのように、先ほどの陰惨な凌辱体験が脳裏に閃いてしまう。私は惨憺たる 思いで輾転とし、どうしても頭の中の酷い映像から意識を切り替えることができず に、ついに跳ね起きてしまった。胸の奥が怒りと嘆きでざわめき、思わず手で押さ えようとして、自分の胸にたわわに実った乳房をつかんでしまう。ベビードールの 薄い布越しに指が乳首をかすめた時、背筋がビクンと仰け反るほど尖った、痛みに も似た強烈な快感が走り抜けた。経験したこともない鋭さに驚き、次いで思わず甘 い吐息を漏らしてしまった自分が、たまらなく卑しい生き物に思える。なのに、今 もジンジンと乳首に残る余韻があまりにも甘美で、そのままにはできないほどもど かしい。取り返しのつかないことになるという直感を感じながらも、私の手指は吸 いつけられるように乳房へと向かっていた。 期待と怖れと後ろめたさに指が震える。そっと両手で乳房を包み込み、薄布を持ち 上げるように尖っている左右の乳首を、爪の先で幽かに引っ掻く。・・・はしたな いほどの声が出てしまった。乳首に発した強烈な官能が、電気のように乳房全体を 駆け回り、背骨から後頭部へ抜けていく。快感なんていう薄っぺらい言葉では表現 し尽くせない、複数の感覚が複雑繊細に絡み合った玄妙なまでの感覚。しかも圧倒 的なまでの生々しさ。とてもじっとなどしていられるものではない。 あまりの強烈さに、頭の中の悲惨な鬱積など吹き飛んでしまった。ひと擦りすれば、 その快感とともに生じる焦がれるようなじれったさが、次のひと擦りを誘引する。 はしたないとか浅ましいという思いは一瞬で蹴散らされていた。理性すらへしゃげ て潰れていた。私はたちまち、乳首いじりの虜になってしまう。撫で、擦り、つま み、引っ掻き、押し込む。いじればいじるほど快感が昂り、同時にむず痒いような じれったさ、もどかしさも倍加する。自制などできなかった。 乳首への刺激は、強ければいいという乱暴なものではない。触れるか触れないかと いうほど微妙に擦りつけた時がいちばん感じる。目覚めたばかりに自分で揉んだ時 や、男達に凌辱されている時に感じなかったのはそういうことだ。同じ刺激をただ 続ければいいというものでもない。巨大な岩を揺り動かそうとする時の、押す力と 引く力の力加減に似て、快感の波の振幅に合わせた微妙な加減が必要なこともわか ってくる。乳房全体を優しく揉み上げることで、さらに快感が重層的に深まること も学習した。振幅が頂点に達しかけた時だけ、乳首をボタンのように押し込むと、 内臓を裏返されたような居心地の悪さと表裏一体で、全身の細胞が膨張しているか のような多幸感が拡がる。 乳首による快感は、男だったときの射精に繋がる爆発的な快感とは違い、全身の細 胞から熱い粘液が染み出すような湿った感覚だった。絶頂へ導かれる上昇感とは質 の違う、大波の重いうねりのような蕩揺感。だからこそ止めどなく、終わりもない。 すべての女がこんな気持ちのいい器官を持っているのだとしたら、神様とはずいぶ ん不公平な存在だ。ただ、過去の自分の女性遍歴を振り返れば、ここまで感度のい い相手はいなかったように思う。とすれば、これは改造による感度アップのせいな のだろうか。脳の90%は快感に溺れ、残りの10%も熱に浮かされたようで、そ れでも切れ切れにそんなことを考えていたら、急に怖くなって乳房から手を放して いた。あまりの気持ちよさに溺れ続けているうちに、こんな身体に改造されてしま ったことを心の奥底で容認しかている自分に気がついたのだ。改造された女の身体 を受け入れてしまえば、私という存在は変質し消滅してしまうだろう。 私は上体を起こし、腕で支えることで、いまだジンジンと膨張し刺激を求め続ける 胸から手を遠ざけていようとした。深呼吸を繰り返し、霞がかかったような頭を振 って正気を取り戻そうとした。身体の火照りとざわつきが治まってくると、股間の 異変に気がついてしまう。見ずとも、そこがしとどに濡れそぼっているのがわかっ てしまう。膣がぬるっと粘つく感覚がわかる。濡らしていたのだ。私はあくまでも 女の生理に支配されている自分の身体を呪った。女の身体、女の生態。女としての ホルモン分泌で脳まで女性化していくとしたら、私という男が消滅する日も近い。 女として生きる自分・・・そんな想像をしかけて、全身で拒否していた。 いや・・・私の脳裏に赤い肉棒の映像がよぎる。私はまだかろうじて男としての私 と繋がっている。私の視線が股間に向いた。ベビードールのブルーマーは、漏れ出 た愛液で濡れ、股間に貼りついている。何もない、つるんとした曲面。思わず私は 指が這わしていた。あるべきものが触れないという奇怪な感触。空虚。その喪失感 が我慢できなかった。私はベビードールのブルーマーとパンティを脱ぎ捨てていた。 一本の毛もない、幼女のような膨らみ。そこに薄紅を掃いたような一筋の断裂が走 っている。私は切り傷に指をこじ入れるような怯みを感じながら、未だに自分の股 間にそんな物があるとは信じられない割れ目の奥を探った。クリトリスの位置に包 皮のない肉の粒が盛り上がっている。指が触れただけで思わず腰が引けるほどの快 感が、電気のように全身を強張らせる。すがりつくような思いで、震える指をその 肉粒に当て、強く押し込んだ。 カチリと音でもするのかと身構えていたが、そんな機械仕掛けではないようだった。 身体の奥の方で意識せずに締め上げていた、あるはずのない筋肉が緩む感覚があり、 同時に内臓の一部が勝手に動いて絞り出すような捻れも感じる。肉粒の周りできつ く収縮していた緊張が、内側からの圧力に応じて緩み、拡がって、まるで肛門のよ うに縁を盛り上げ、そこからぬるぬると真っ赤な粘膜ペニスが押し出されたきた。 改めて観察するとじつに不気味な光景だと思う。皮膚を剥ぎ取られた巨大な寄生虫 のようにも見える。天を突いて反り返り、下腹を打ちそうなほど完全な勃起状態だ というのに、以前のような硬化感がない。海綿体を張り詰めているものが血液では ないからだろうか。私は、恐る恐る、そのまだしっとりと湿っている肉棒を握り締 めた。握り締めたとたん、まるで絶頂を極めたかのように全身を痙攣させていた。 「あ、ふ、んんんん」 身体ごとどこか違う世界へ持っていかれそうな気がして、恐ろしさのあまり指を動 かすこともできない。心拍が上がり、身体中が脈動しているような気までする。筋 肉が勝手に突っ張り、上体を起こしていることすらできなくなって、私はベッドに 倒れ込んでいた。それでも、掌が肉棒に貼り付いてしまったかのように離せない。 全体が亀頭と同じ状態にされ、さらに神経が6倍に増やされているということの真 の威力を、骨の髄まで思い知らされた。 こんな物を本格的に刺激されたら、思考力など消し飛んで、まさに性の獣になって しまう。まるで爆弾の起爆装置と同じ。とんでもない危険物だとわかっているのに、 ペニスを握り締めるという懐かしい安堵感も絶大で、私は手を放すことができなか った。そうして手を離せずにいると、ほんのわずかな身体の動きですら脳天を叩き つけられるような快感のマグマが噴出する。次第に自制心をも溶かされ、気がつく と私は、もう片腕を乳房に添えていた。思わず乳房と乳首をひと揉みし、つられて ペニスを握り締めた手が動いてしまう。一撃だった。脳が沸騰する。乳首への刺激 でいまだ燠火のように燻っていた官能が、一気に再燃した。私は、火に炙られた蚯 蚓のように激しく身をくねらせ、辺りを憚らぬ悩ましい声を上げて・・・一瞬で絶 頂していた。 男だった時の絶頂など、ハイキングコースの丘のように感じるほど、強烈なエクス タシー。肉体と脳の中で何かが決壊し、何トンもの沸騰する粘液が解き放たれたよ うだった。意識が蝋紙のように燃え尽き、残るのは貪欲な本能だけ。男の生態が残 されていれば、一度の絶頂でいったん醒めるはずが、尿道すらない粘膜棒から放出 される物もなく、醒めるどころかますます昂っていく。肉棒のひと擦りごとに、限 界を超えたエクスタシーが爆発する。まるで巨大なミキサーの中に落とし込まれ、 血も肉も骨も粉砕されて肉ジュースにされているかのようだ。マシンガンのように 炸裂する絶頂の連打に、私の意識はあっけなく散華した。                 --11-- 「あらまあ、大胆な格好ねえ」 チョウコのダミ声が、私の眠りをいっぺんで覚ました。下半身丸出しであられもな い寝相を見られてしまったと悟り、私は全身に針を突き刺されたかのような羞恥で 跳ね起き、上掛けを強引に引き寄せて身体を被う。よりにもよって最悪な姿を晒し てしまった。自分の迂闊さと節操のなさに、顔が溶けるんじゃないかと思うくらい 真っ赤になっていくのがわかる。 「いまさら遅いわよう。アンタのひとりエッチショーは、中継されて放送されてた んだから。倶楽部中のお客様が大喜びされてたわ。スタッフの男子トイレも、アン タの痴態を見てテントを勃てた男どもで大賑わいだったみたいよ。そのおチンチン、 とんでもない感度みたいね。しかも収納式なんて、2006型は画期的だわ。借金 増やしてまで再改造を希望する子もいっぱい出てきそう。プロトタイプのアンタが いい成績を上げれば、量産化されるだろうしね。というわけで、商売商売。ベッド メイクしている間に、シャワーでも浴びてきなさい」 私の自制をなくした獣みたいな痴態を、中継されていた・・・赤くなった顔から一 瞬で血が引いた。監視カメラぐらい想定しなかった私は、最低の阿呆だ。 「ほらほら、未通女じゃないんだから、いちいち大げさに騒がない。とっととベッ ドから降りなさい」 とにかくこの場を逃げ出せるのはありがたかった。私は上掛けを身体に巻き付けた まま、バスルームに逃げ込む。そこでベビードールのペラペラを脱ごうとして、こ こにも監視カメラがあるだろう事に気がついた。辺りを見回しても不自由な目では カメラらしきものも見あたらないが、ないと考えるほど私は楽観主義ではなかった。 冷静に考えると風呂場だけじゃない、トイレにだってカメラが隠されているだろう。 私にプライバシーなんてものは許されていないのだ。私が上掛けを巻き付けたまま バスルームでうずくまっていると、鬼軍曹のようなチョウコの声が外から響いた。 「アンタねえ。手間がかかるわねえ。アンタは見られてナンボ、触られてナンボ、 犯されてナンボの娼婦なんだから、いい加減観念しちゃいなよ。まったく、記憶消 去タイプって面倒なんだから。お客さんには受けがいいけど、こっちは毎度毎度世 話が焼けてさあ。アンタが自分でできないなら、筋肉ゴリラの男スタッフを呼んで 力ずくで準備させることになるけど、それでもいいの」 よいわけはない。カメラで撮されたくもないし、力ずくでいじくられたくもない。 しかし、他に選択肢は用意されていないようだ。 「わかったよ。自分でやるから。ちょっと・・・時間がほしいんだ」 「まったく。時間がないんだから、早くしてね。それから、ベッドの上掛けとベビ ードールは出しといてよ。濡らさないでね。シャワーを出たら化粧も直すからね」 チョウコがやり手婆のようにつぶやきながら去っていったので、私は息を詰め、上 掛けの下でひと思いにペニスをつまみ、身体の中へ押し込んだ。ペニスを見られる のがいちばん恥ずかしいような気がしたから。昨夜、というか寝入る前に、いいか げん盗撮されてしまったとはいえ、ペニスを体内に押し戻している様を他人になど 見られたくはない。歯を食いしばって、漏れそうになる快感の声を押し殺した。ペ ニスが全部体内に戻ると、埋まった棒の付け根で筋肉が収縮し、しっかりと咥え込 む。亀頭も完全に没し、襞が収縮して亀頭の先を縊り出しクリトリス状に変形させ る。すべてが快感であり、もう一度引っぱり出して慰めたくなる気持ちをこらえ、 私は覚悟を決めて立ち上がった。上掛けを落とし、ベビードールを脱いで、いっし ょくたに丸めると、バスルームのドアから手を伸ばし、洗濯機の上に置いてある汚 れ物の籠に放り込む。洗濯機の上に新品のバスタオルが用意してあるのが見えた。 チョウコの気づかいだが、今は素直に感謝する気にはなれなかった。 シャワーを終え、私はバスタオルを巻いた姿でドレッサーに座らされている。髪の 手入れと化粧法を再度チョウコに手ほどきされていた。私は適当に相づちを打ち、 いわれるままに自分でアイラインを入れたりもした。チョウコの目には、そんな私 の態度が従順と映っただろうか。実際は上の空だったのだ。私は必死でこの現状を 打開する方法を考えていた。もう時間がない。この後、お客が来ると告げられてい るのだ。これ以上男に犯されるなんて絶対に耐えられない。なんとか回避する方法 を探し出す必要があった。 「よーし、初めて自分でやったお化粧にしては上出来じゃない。可愛いわよ〜」 「チョウコさん。お願いがあります」 私は蜘蛛の糸にもすがる気持ちでいった。どれほど考えても、この部屋を自力で脱 出することは不可能だと思えた。私の潜在意識に刷り込まれたという行動規制は強 力すぎて、一朝一夕では破れそうもない。試してはいないが、自殺もできないとい うチョウコの言葉を疑う理由もない。 「な〜に」 「ここの責任者に会わせてください」 「ええ〜、それは無理よ。それに、会ってどうしようっていうの」 「今のフタナリは、私の本意じゃないんです。いい加減に選んだもので、本当は女 そのものになりたかったんです。だから、もう一度身体を改造してもらえるようお 願いしたいんです」 チョウコはきょとんとした顔で私を見下ろしていた。しばらく珍しい生き物でも見 るように私を眺めていたが、その後に笑い出した。 「アンタ、また突拍子もない理由をこじつけたわねえ。今まで聞いた誰の言い訳よ り笑えるわ。この部屋をとりあえず出る口実としては、そのくらい飛んでる方がい いのかもね。一瞬、マジにアンタがそう願っているのかも、なんて思っちゃった。 ダメダメ。アンタは今の身体の元を取るまではここを出られないの。いい加減、観 念しなさいってば」 愉快そうに笑うチョウコの目が一瞬逸れた機会を逃さず、私はチョウコに飛びかか った。後ろに回り、羽交い締めして、手に持った眉ペンシルをチョウコの喉に突き つける。 「動くな。こんなものでも刺されば命に関わるぞ。いいか、ゆっくり動け。ゆっく り動いてこの部屋を出る。わかったか」 チョウコは動かなかった。ドレッサーの鏡越しに面白そうな表情で私を窺っている。 「動け。ただの脅しじゃないぞ。死にたいのか」 私はともすれば可愛らしく響く自分の声を必死で低めて、なんとかドスを利かせよ うとした。しかし、あまり成功したとはいえないようだ。 「うーん。やるね、隷花ちゃん。さっきのお願いは、私の気を逸らすための方便か い。暴れたり、騒いだりは大勢いたけど、人質を取るっていうのはアンタが初めて だよ。活きがいいねえ。できれば応えてやりたいんだけどもさ、無理なのよ。いっ たでしょ。アンタには徹底的な刷り込みがされてるって。試してごらんよ。そのペ ンシルで私の喉を突いてごらん。もしできたら、私が責任持って逃がしてあげるか らさ」 「嘘だ。本当に怪我するぞ。本気だぞ」 「はいはい。じゃあ、さっさとやっちゃって。時間ないんだから」 チョウコの落ち着きように、目の前が真っ暗になった。それでも信じたくなかった。 絶望が強烈な怒りになり、その憎しみが唯一手の届く組織の人間であるチョウコに 向かってしまう。私は目の前が真っ赤に狭窄するほどの怒りを腕に込め、突き上げ ていた。・・・突き上げていたつもりだったが、腕は1ミリも動いていなかった。 もう一度。そしてもう一度試して、私は自分が自分の中の刷り込みとやらに完全に 制御されていると、絶望とともに知った。 手に持ったペンシルが、するっと抜き取られる。私はいつの間にか膝をついていた。 まるで芸のできた犬のように、チョウコは私の頭を2度軽く叩いた。 「もう一息だったのにね。刷り込みがいい加減だったら逃げられたかも知れないわ。 といっても、そうね、せいぜいこの階のエレベータまでかな。私もただの消耗品だ から。アンタの方が商品として価値がある分、命までなくすことはないでしょうけ ど、私なんてアンタを逃がさないためならトイレットペーパー並みに死のうが生き ようが関係ないって扱いされてたでしょうね。人質としての価値はゼロだもんなあ。 アンタは、自分自身も他の人間も怪我をさせるような行動ができないのよね。考え たらわかるでしょ。アンタのお客さんはこの国のVIP達なんだから、万が一にも お客さんを怪我させるような事態は起こせないの」 私は、土下座した。何度も何度も、カーペットに額を擦りつける。 「お願いです。私をここから出してください。男の相手なんてできません。気が狂 います。何でもします。お金だって何とかします。助けてください。お願いです」 「頼む相手を間違えてるよ。それ、これから来るお客さんにやってみたらどお。私 に頼まれたって、私だってまだ死にたくないからね」 すがりつこうとする私の手をかわして、チョウコは出ていった。必死で呼びかけ、 哀願したが応えは戻らない。バタンと玄関ドアの閉まる音が聞こえてきた。私はタ ールのような絶望に内側から冒され、震えを止められなかった。その震える指で今 一度ペンシルを手に持つ。その先端を自分の喉に向けた。先端が私の喉の下でぶる ぶる震え、喉の下を汚す。どうしても突けなかった。刷り込みのせいなのか、それ とも私の臆病さのせいなのかはわからない。バスタオルが解けて落ちた。私は露わ になった乳房の下にペンシルの先端を移動させる。自分で突く力はなくとも、この 状態で前に身を投げれば、体重で心臓に深々と刺さるだろう。膝が浮く。何度も寸 前まで身を起こすのだが、どうしても身体を投げ出すには至らない。手の中でペン シルがミシミシ鳴っていた。握る手にあまりに力を込めすぎて、折れる寸前だった。 私はついに精根尽き果てて座り込んでしまった。あまりに強く握り締めていたせい か、ペンシルを握った指が開かない。左手で指を引き剥がして手を開いた。万策尽 きた。間もなく客がきて、私はダッチワイフにされてしまう。身体の中に他人の肉 が重く埋まる感覚。あんなグロテスクな感覚はもうたくさんだった。見えない目で 辺りを見回す。逃げ道などない。目に映るのは自分の乳房と脚ばかり。床にクシャ ったバスタオルが目にとまり、自分がまだ素っ裸であることに、いまさらながら気 がついた。こんな姿を晒すのは、わざわざ客の欲望を煽るようなものだ。他に着る 物もなく、私はパンティとブラジャーを着け、その上にベビードールを着る。さら にもう一枚、少しでも露出を減らしたくてネグリジェを重ねた。ネグリジェ・・・ ネグリジェというものは、私にとって中年のおばさんが着るものという認識がある。 そんな物を自分から着ようとしている私自身が、たまらなく情けなかった。 身支度をし終えた時、入り口のドアが開く音がした。私の心臓が、肋骨にひびを入 れそうなくらい跳ね上がる。罠にかかった獣のように、無意識に身を隠す場所を探 した。クローゼットの中に逃げ込んだってすぐにわかってしまうだろう。相手が見 えないとどうしても受け身になり、それは自分を不利にするだけだ。といって、正 面切って対決するには、この身体は脆弱すぎる。何でもいい、相手との間に障害物 がほしかった。私はベッドの足元と壁の間の30センチほどの隙間に逃げ込んだ。 座り込み、見えない目を寝室の入り口に向ける。 「さてさて、隷花ちゃんはどこかいな」 そんな声が聞こえた時、入り口でぼやけた肌色の影が動いた。手回しよく服を脱い だのだろうか。ぼやけた視力のおかげで、中年男の醜い裸なぞ見なくて済んだのは 不幸中の幸いか。 「近寄るな。男のオモチャになんかならないからな。死んでも抵抗する。アンタも 怪我したくなかったら、近づくな」 私は精一杯の大声で、厳めしく叫んだ。しかし、ちっとも厳めしく響かない。 「おおお。そんなところにいたのかい。よいねえ。元気だ。昨日の競りでは負けた けれど、今日は一番乗りだ。2時間たっぷり楽しませてもらうには、そのくらい元 気じゃなくてはのぅ。思いっきり抵抗してくれ。その方が興奮する」 やはり威嚇は効果がない。私は立ち上がった。ぼんやりした影の動きを必死で凝視 する。まったく、こういう時は視力の劣化が呪わしい。相手が近づいているのか、 止まっているのかすらよくわからないのだ。私が相手を傷つけられないように条件 付けられていることを教えられているのだろうか。もしそうだとしたら、私に勝ち 目などない。私は全身を緊張させて必死で目を見開いていた。目の前に突然、節く れだった掌が映った。60センチの境界を超えて、私を捕まえようと入ってきたの だ。私はその手を払いのけ、脇をくぐってダイニングへ逃げようとした。しかし、 以前の70キロあった体重のつもりで相手にぶつかっていったのが間違いだった。 今のこの身体は40キロあるかないかだろう。私は相手との体重差で跳ね飛ばされ、 大きくよろけてしまった。それでも精一杯機敏に床に手を突いて跳ね起き、走ろう とした。突然全身がガクンと引き留められ、私の肩口で布の破ける音が響く。ネグ リジェが失敗だった。裾を踏まれてしまったのだ。破れたネグリジェを腰巻きのよ うに下半身にまとわりつかせ、倒れてそれでも必死に這い逃げようとする私の身体 が、後ろから抱きすくめられてしまう。そして、軽々と引き起こされてしまった。 「く、くそっ。放せ。放せよ」 私は胸に回された男の腕を引き剥がそうと、必死で押し下げた。しかし、力まで女 の子並みにされている。皮膚の弛んだ中年男のたいして鍛えていない腕でさえ、ビ クともしなかった。思いあまって、私はその腕に噛みつこうとした。その瞬間、刷 り込みが発動し、私は男の腕に口を付けたまま、顎を閉じることができなくなった。 男の一方の腕が下に降り、私の股間を押さえつける。ぞわっと総毛立ってしまった。 私はじたばたと暴れ続けた。こうなれば暴れ続けて何とかチャンスを窺うしかない。 「大人しくやらせてくれるなら、放すのだがなあ。そんな聞き分けがいいわけはな かろうし、第一それでは、せっかくのウブ物買いの楽しみが半減するというものだ。 せいぜい嫌がってもらわにゃ」 耳元で嫌らしい濁声がし、耳に息が吹き込まれた。その息に含まれたニンニク臭が 吐き気を催させる。抵抗しないでマグロになったら、興を削がれて解放してくれる だろうか。そんな甘い期待が通用するはずもないのに一瞬気が引かれたのは、絶望 的な状況に気力が折れかけていたせいかもしれない。弱気を振り払うために、今ま で以上にもがき続けていると、偶然振った肘が男の脇腹に食い込んだ。男が一瞬呻 いて、わずかに身を捩る。そうか、意識さえしなければ相手を傷つけることができ るんだ。そうわかっても、相手がダウンするほどのダメージを意識しないで与える など至難の業だ。私にできることは、全力で暴れまくって、偶然手や脚が相手の弱 点へヒットすることを期待するだけ。それでも、何もしないで犯されるよりはいい。 「おおお。じゃじゃ馬だ。これはたまらん。おっと、いたた。じっくり楽しんでい ると痣だらけになってしまいそうだ。あいたた。こりゃ、たまらん。しょうがない」 私を抱き留めていた腕が開いて、私は反動で床に突っ伏してしまった。必死で床を 這いずり、男から離れる。男があきらめたのかと、かすかな希望が胸に灯った瞬間 ・・・凄まじいショックによって、私の身体は一本の棒のように強張っていた。反 動で身体が跳ね上がるほど。苦痛などというものではなかった。下腹の奥から背骨 にかけて、高圧電流が流されたみたいだった。全身の筋肉が一瞬で収縮し、視界も 頭の中も真っ白になる。苦痛の認識はかなり遅れてやってきた。 「がっ!げっ!」 内臓を、見えない手で掻き回されているかのような苦しみ。身体の内側から、無数 の爪で肉を抉り取られているかのような激痛。皮膚に、数千本の針を突き刺された かのような痛み。何もかもがいっしょくたになって、私を床でのたうちまわらせた。 失禁していることにすら気がつかなかった。そして・・・驚いたことに、苦痛は訪 れた時と同じように一瞬で跡形もなく消え去った。私は放棄された吊り人形のよう に床に潰れて、大きく目を見開いたまま荒い息をついていた。全身から血の気が引 き、体毛が一本ずつ逆立っているような感じがする。いつまた苦痛が襲ってくるか と怯えつつ、私は自分の腹を探った。腹が裂けていて、臓物の塊に指を突っ込むか も知れないと覚悟していたが、指先に何の異常も感じない。それでも安心できなか った。その時の私は、私を犯そうとしている男のことなど考える余裕もなかった。 だから、ちょっと心配そうなダミ声がかけられた時、思わず素直に応えていた。 「大丈夫か。まだ苦しいのか?」 「いや、今は、もう・・・」 「そうか。さすがに、このお仕置きボタンは強烈だのう」 何?・・・お仕置きボタン?・・・何のことかわからないまま、私は重病人のよう に半身を起こすと、壁に背中を預け、男の方向へ目を向けた。男は私のすぐ脇に片 膝を突き、私を覗きこんでいる。私は初めて男の顔を見た。見た瞬間後悔した。カ マキリのような顔をした初老の男だった。残り少ない白髪が汗に濡れて額に貼りつ いているのがおぞましい。皮膚には染みと老人斑が浮き、弛んでいる。他はいい加 減耐用年数が切れかけているというのに、股間の白髪交じりの恥毛から伸び出して いる血管を縄のように浮かせた赤黒い怒張は、種馬並みに頭を振り立てている。汗 とアンモニアとニンニク臭が物理的な塊のように押し寄せてくる。こんな男に抱か れたいという女がいたら、それはゲテモノ食いの趣味のある女だ。私はゲテモノな ど御免だし、まして女ですらない。目を逸らしたかったが、男の腕に目が引き寄せ られていた。男は素っ裸なのに、左の手首にだけ腕時計にしては幅広のベルトを巻 き付け、そのベルトに取り付けられた四角っぽい機械に右手の指を乗せていた。 「大人しくいうことを聞かないと、もう一度お仕置きを喰らわせることになる」 私の頭は、とんでもない苦痛の衝撃から、まだ半分も回復していなかった。だから、 男が何をいっているのかさっぱりわからない。 「冗談、じゃ、ない。だ、誰がいいなりになんか・・・うぎゃ!」 男が腕の機械のボタンを押すのがはっきり見えた。そのとたん、さっきと同じ激痛 が腹に走り、私はその場で弓なりに反り返るほど痙攣していた。喉の筋肉さえ引攣 り、おかしな音を一瞬鳴らしただけで悲鳴すら上げられない。男が機械から指を離 した瞬間に苦痛が消える。反り返った身体が床に落ち、私は再び腹を押さえて胎児 のように丸まった。 「かっ、かはぁっ、うぐぅ・・・」 ゾウリムシのようになった頭でも、男の腕の機械と自分の腹の激痛の因果関係は、 文字通り骨身に染みて理解できてしまった。 「どうやら、このお仕置きは初体験だったようだのう。どうだ、効くだろう。素直 にいうことを聞かないと、何度でも痛い目に遭うことになる。わかったかな」 「わ、わかった。わかったよ。もう、や、やめてくれ」 「よしよし、イイコだ。では、楽しいことを始めようか」 私の最後の抵抗も、信じられないくらい残忍な方法で剥奪されてしまった。私の中 で、私という存在を支えていた意地とプライドが、ボッキリと折れてしまった。私 はこの瞬間、性の奴隷に成り果てたのだ。                 --12-- 「くっくっくっく。その口惜しそうな顔。ぞくぞくするほど、そそるわい。やはり、 こうでなくてはいかん」 男が後ろに身を引き、ぼけた斑点になる。私はその頃になってようやく、股と尻を 浸す失禁に気がつくありさまだった。濡れたベビードールとネグリジェの残骸が、 ベタベタとまとわりついて気持ちが悪い。人前で小便を漏らしてしまうなど、臍を 噛んで死にたくなるほどの失態だけれど、こんな状況では騒ぐほどのことではない ように感じた。あの苦痛を一度でも味わってみれば、失禁ぐらい当然という気にも なる。きしりとベッドのスプリングが軋む音がした。 「さあ、いつまでも座り込んでないで、ベッドにおいで」 「ま、待って。着替えさせてくれ・・・」 「小便漏らしたままは気持ち悪いか。だが、私は気にしないぞ。まあ、いい。そこ で下だけ脱ぎなさい。もたもたしてるとまたお仕置きだからな」 私に逆らう余裕などなかった。絨毯の小便溜まりを避けて、壁にすがるように立ち 上がり、パンティごとするりと脱ぎ捨てる。ベビードールの上部分、キャミソール とでもいうのか、それでかろうじて股間が隠れるのでほっとする。 「おあつらえ向きに、床にバスタオルが落ちている。それで拭いなさい」 ああ、さっき勝手に落ちたタオルか。そのあたりに目を向けると、白い塊が見える ような気がする。そこまで歩き、床に膝を落としてタオルを拾い上げ、腿と尻、股 間をできるだけ男から隠すように拭いた。なんだかたまらなく惨めだった。 「なんだ、ベビードールの下にブラジャーを着けているのかね。そんな着方はない だろう。それも外してしまいなさい」 そういうものなのか。考えてみると、ベビードールは寝具の一種だから、確かにブ ラジャーを着けるのはおかしいともいえるが、身体を隠したいから着ているだけで、 安眠したいからじゃない。ブラジャーを外してしまえば、ペラペラでスケスケのピ ンクの布きれ一枚になってしまう。そんな鼻紙みたいなものでは、ないも同然のよ うな気がする。躊躇っていると、ほんの一瞬、下腹にチクリとした痛みが走った。 あの悶絶の始まりを告げる痛みだ。私は息を呑み、慌ててベッドの方向を睨みつけ た。男の様子はよく見えないが、腕のスイッチを一瞬だけ押したことは間違いない。 百万言に匹敵するメッセージだった。私は大慌てでブラジャーのフロントホックを 開き、ベビードールの裾が捲れ上がらないように苦心しながら、肩紐を腕にくぐら せて外した。ベビードールの裾からブラジャーがぽとりと落ちる。身体にフィット する物がなくなり、私はまるで素っ裸になったような気がした。かろうじて身体を 被っているベビードールなぞ、鼻息ひとつで捲れ上がりそうだ。胸元に過剰なくら いあしらわれたフリルがさわさわと、乳房と乳首をくすぐる。 「さあ、おいで。ベッドに上がりなさい」 ぞっとした。腕に刷毛ではいたように鳥肌が立っていく。喚きたかった。暴れたか った。罵りたかった。土下座しても勘弁してもらいたかった。しかし、男の命令を 即座に実行しなければ、あの凄絶なお仕置きを喰らわされると知っていた。それだ けは御免だった。私は唇を噛み締め、泣き喚く自分の心を押し殺して立ち上がった。 あまりの心許なさに、意識せず胸と股間を押さえ、内股になってしまう。まるで女 そのもののポーズだった。死刑台への階段を上がる死刑囚の心境で、私は嫌がる脚 を一歩一歩踏み出し、そしてベッドに四つん這いで登った。目の前に臑毛すら擦り 切れて枯れ木のようになった男の脚が見えている。拡げられたその脚の付け根には 目をやることができない。 「ほらほら。もっと寄りなさい。たまらなく嫌そうだのう。じつに色っぽい表情を しおる。しかし、目をつぶることは許さんぞ。何をするにもしっかり目を開けてい ること。それが決まりだ。・・・ほっほっほ。返事もなしか。本来ならお仕置きの 対象だが、その色っぽい表情に免じて一度だけは見逃してやろう。わかったらお返 事をしなさい」 「う・・・は・・・い」 「渋々といったところだのう。まあいい。男だった時は結構芯の強い性格だったの だろうな。それでこそさせ甲斐があるというものだ。さて、嫌だろうがもっと近く に。そうそう」 私の膝が男の内股にくっついてしまう。胃の中でロープが捻れるような嫌悪感が起 きる。 「よしよし。正座しなさい。まずは、これから奉仕するイチモツをじっくりと眺め てもらおうか。ほれ、腰を屈めて、顔を私のイチモツに寄せるんだ。屈辱的だろう。 ほっほっほ」 男の指が腕のお仕置きボタンにかかっているのを見てしまっては、否応もない。私 は嫌々腰を折って、視界の中心でグロテスクにヒクついている男のイチモツへ、顔 を近づけていった。磁石の同極を押しつけ合うような反発力を感じる。心が怯む。 男はもっと寄せろとうるさく注文し、結局私は男の股へほとんど顔を埋めるほどに 背を丸めさせられた。鼻先で男の亀頭が揺れている。饐えた臭気が肺を汚す。目を つぶることも背けることも許されなかった。自分のペニスですらここまで詳細に観 察したことはないように思う。見れば見るほど醜怪な物体だった。 「息を詰めておるな。いかんよ。たっぷり臭いを嗅いでもらおう。ほらほら深呼吸。 そうだ。さあ、どうだ、正直な感想をいってごらん。世辞やらお為ごかしの必要は ないぞ」 そんなことをいわれても、どう答えていいものなのかわからない。本音でいいなら、 オマエなぞ死ねといいたいところだが、そんなことをいえばどういう仕打ちを受け るか馬鹿でも想像できてしまう。 「く・・・臭い。蒸れてる」 「ほっほっほ。もう1週間も洗っていないからな。どんなに汚れていても、ここに 来れば、帰りにはピカピカに清められているというわけだ。もう想像がついている だろう。オマエがこれからその口で清めるのだよ」 胃袋の奥に巨大な毛玉を詰めこまれた気がした。覚悟などできていなかった。あの 苦痛から逃れるために即物的に行動していたのだから。こんな穢れた物を、口にす るなんて。いや、例えピカピカに洗い清めて香水を振りまいてあったとしても、我 慢ならないのは同じだ。私にホモの趣味などはない。・・・そう思った時、ネット のページで性別の選択を迫られ、メスとフタナリで迷った自分を思いだした。オス という選択など鼻からしなかった自分には、もしかしてホモの素養があったのだろ うか。なんだか自分がわからなくなった。いや、それでも今この瞬間、男の肉棒を 前にしてひとかけらの悦びもないことだけは断言できる。 「少々インターバルが長かった。さすがに年で持続力に欠けてきておってな。そろ そろ萎えてしまいそうだ。まずはオマエの舌でしっかり回復させてもらおう。ほれ ほれ、死ぬほど嫌なのはわかっているけれども、何がどうでも結局はさせられてし まうんだ。男らしく観念した方が楽になるぞ。ほれ、舌を出しなさい」 そういわれて、はいそうですかと従えるほど、私は割り切りのいい性格ではない。 奇跡でも起きないかと上目遣いに男を見上げても、お仕置きボタンのある腕輪がア ップで見えるだけ。下腹がきゅっと縮こまる。どうにもできない。奇跡は起きない。 何もかも諦めるしかない。私は接着されたかのように開きたがらない口を、わずか に開いた。顎が震えている。突然強度の人見知り状態になった舌は、泥の中から引 っぱり出すかのように力を込めなければ動かせなかった。ちろりと唇を割って舌先 が出る。恥垢が乾いて白い粉を葺いたようになっている亀頭まで、わずか1センチ。 その距離はフルマラソンにも匹敵する重い距離だった。心臓がバスケットボールほ どの大きさに感じられる。荒い息で喉が鳴る。頭に血が上りカアッと熱くなる。身 体は寒気がするというのに。こめかみの血管がブクッブクッと脈動している。何で こんな事をしているのか、いまだに信じられない思いがしていた。思わず目をつぶ ってしまう。目を開けていろと命じられていたが、もういっぱいいっぱいだったの だ。舌が大きく震え、それで・・・舌先に柔らかな肉の感触を感じてしまった。 「ああ・・・」 思わず声が出た。男の亀頭に触れてしまった。舌で。私の舌で。我を忘れて舌を引 っ込めてしまったものの、口の中の舌をどうしていいのか途方に暮れた。舌にべっ たりと汚物が付着したように感じる。その舌を口の中に収めれば、その汚物で自分 の口中が汚染されてしまうと気がついたのだ。私はうろたえた。息をすれば舌の上 から発散した汚物が肺を汚染しそうな気さえして、私は息を詰める。口腔の中で宙 に浮かせたままの舌を持て余していた。 息が苦しい。胸が震え、切れ切れの息が舌を震わせて吐き出される。舌の根が痛い。 ぎりぎりと音が聞こえるほど力のこもった顎も痛む。物理的な限界が来る前に、精 神の緊張が切れてしまった。息苦しさから大きく息を吸う。その動きで涎がこぼれ そうになり、あっと思った時には私の顎がバネ仕掛けのように閉じていた。倒れ込 むように舌が落ちてくねり、反射的に唾を飲み込んでしまう。ごくりと喉が鳴る。 「ん、んん〜」 あまりにも無自覚な動きだった。一日に何千回と繰り返す動きだけに、自動的に舌 が動いてしまったのだ。舌を汚した他人のペニスのエッセンスが、瞬間で唾に混じ り、口中に拡がったような気がした。それを私は、あろうことか呑み込んでしまっ たのだ。必死で忘れようとしていた昨日の凌辱が、パノラマのように蘇った。あれ は私にとってどうにもできない災害のようなものだったが、今回は違う。確かに強 制とはいえ、自分から主体的に動いてしまったのだ。受動ではなく能動。その差は 大きかった。私は自分で自分を穢してしまった。胸の奥でずんと重くそう感じる。 苦痛に負けた脆弱な自分。男としての自尊心を自分自身で裏切った私。私は小さく 小さく萎んでしまった。 「おいおい、ひと舐めで固まってしまったぞ。もっとしっかり舐めてもらわなくて は困る。オマエも男だったんだから、どこをどうすればいいかよくわかっているだ ろう。昨日だって3本も口にしているんだ、いい加減、感傷に浸るのは終わりにし なさい。さもないと・・・」 腹の奥でぢくっと弾けた痛みの前兆に、私は嘆くことすら許されず、残酷な現実に 引き戻されてしまった。 「す、すいません」 謝った後で、あまりに卑屈な自分に嫌気がさす。だからといって居直り、またあの 地獄の苦しみを味わう度胸もない。私の精神はあまりに痛めつけられ、叩き潰され ていた。できることはひとつしかない。どんなに怖気を感じても、目の前の肉を舐 めるしかないのだ。苦痛への恐怖が私を押し、全身を駆け巡る嫌悪感に耐えながら、 おずおずと再び舌を差し出した。舌一面にべっとりと肉の感触が貼りつく。ああ、 ついにここまで墜ちてしまった。情けなくて涙が出た。鼻を突く生臭さ。舌に感じ る苦味。目と同じように鼻も舌も劣化していればまだいいのにと思う。しかし、煙 草と酒に鈍麻していた以前の私の鼻と口は、改造によって新品に戻されてしまった。 鮮烈なほど生々しく、臭いと味が私を苦しめる。 「ほほう。泣いているのか。口惜しいか。惨めか。男のくせに男のイチモツを舐め させられて、まさか感激しているのではあるまい」 そんな揶揄の言葉が、ぐさぐさと胸に刺さる。なんといわれてもやめるわけにはい かない。もう一瞬の遅滞も許されず、今度は目をつぶることも見逃してはもらえな かった。何度か瞬間の痛みで競走馬のように鞭を入れられ、私は憐憫に浸る暇もな くせっせと頭を振り立て続けなければならなかった。我を忘れて舐めまくっている というのに、いっこうに嫌悪感が薄れない。舐めるごとに増してくるような気さえ する。まさに苦行だった。舌の根が痺れ、頭を振りすぎて目眩がし始める頃、男の イチモツはこれ以上なく勢いを漲らせ、激しく撥ねては私の顔を打ち据えるまでに なっていた。 「さすがに元男だけある。つぼを心得ておる。さあて、では咥えてもらおうか」 口中が男のエキスでべとべとになっているような気がする。いまさら戸惑う理由も ないというのに、男の性器を口に含むと考えただけで、息ができなくなるほど身震 いが出た。身体が全身で拒否反応を起こしている。しかし、嫌がる自分の身体も精 神も、なだめすかし騙し騙しでも行為を続けなければ、今度こそボタンが長押しさ れるに違いない。震えを無視して大きく顎を開く。すぼませた唇で亀頭の先端を吸 いつけ、そして公衆便器に頭を入れるほどの怖気を押し殺し、ゆっくりと頭を沈め ていった。 「ふん。ふんん。いいぞ。ゆっくりだ。ゆっくり入れろ」 熱い肉棒の先端が私の口を満杯にして、舌を押しつけ吐き気を催させる。私はそこ で必死に舌を動かし、男の亀頭をしゃぶり尽くした。自分がこうされたら感じると いう想像を元に、できる限りの奉仕を試みた。口に入れるのはそこまでで勘弁して ほしかったのだ。しかし、怖れていた通りに、もっと入れろという男の叱咤が飛ん できた。やはり駄目だった。私は無駄な抵抗を諦めた。これから始まる悶絶の未来 を男の亀頭の脈動に感じながら、傷口へヘドロを押し込むがごとき悲壮な覚悟で、 私は頭を押しつけなくてはならなかった。亀頭の先端が私の喉を突き、粘膜を軋ら せて嵌り込む。それでもまだ私は男のイチモツの半分も口に収めていなかった。 「男を咥えた時の間抜け顔がたまらないな。どうだ、口いっぱいに男を頬ばった感 想は」 男がほんの僅か腰を引き、かろうじて話せるようにしてくれた。 「う・・・き、気持ちふぁるい。もうこれで、勘弁しふぇくだふぁい」 「気持ち悪いか。ぶるぶる震えているな。うふふふふ。ホモでなければ、男が男の イチモツを咥えるなんて、気色悪いだけ。これ以上ない屈辱だろう。オマエの今の 惨めな気持ちを想像すると、イチモツがますます元気になってくる。残念だが、勘 弁してはあげられないな。私のイチモツのために、たっぷり気持ち悪さと屈辱を味 わってくれたまえ。さあ、もっと奥までだ。根元まで咥えなさい」 あああ。やはり・・・。空になった気力の貯蔵袋に絶望だけが満たされていく。私 は万感を込めた溜息を鼻から逃がした。喉でつかえた先端をさらに奥へ通すには、 呑み込むように舌と喉を使いこなさなくてはならない。私にできるのだろうか。頭 を下げて、喉の奥にペニスの先端を押しつけ、口いっぱいに溜まった唾を飲む。そ うやって喉を開きながら、さらに頭を押しつける。ずるっ、ずるっと亀頭の肉が私 の喉粘膜を擦りつけ、少しずつ少しずつ入ってくる。男だった時あたりまえのよう に女達にやらせていたことを自分でやる羽目になって、これほど苦しいことだった のだと初めて知った。涙だけでなく鼻水さえ流れ出す。苦しい。痛い。喉の奥が切 れそうだ。ミシミシと音を立て、喉の粘膜が限界まで押し広げられていき・・・次 の瞬間・・・ペニスが一気に私の喉を通り抜けた。ぐぼっと喉が鳴る。苦しすぎる。 食べ物を喉に詰めた時のあの苦しさ。しかも、その焦燥感はどんなに呑み込もうと しても、そこから動かない。涙がぶわっと噴き出し、視界を滲ませる。唇が男のイ チモツの根元に届き、顔面が酸っぱい臭いのする男の股間にべったりと埋まった。 口に杭を打たれて固定されたみたいで、頭が動かせない。気道が塞がれて息がまっ たくつけない。あまりにもすっぽりと収まってしまったことに、自分でも驚いてし まう。 「おおお、入った。入った」 男が腰を突き上げ、私の中でペニスがくじられ、さらに深く突き刺さる。テコの原 理で舌の奥が強く押し下げられ、そのとたん、強烈な吐き気が爆発して、胃がでん ぐりがえった。 「んぐへ、げぶ」 無我夢中で頭を引き離そうとした時、男の手が私の頭をがっしりと押さえつけてし まった。私は水ではなくペニスで溺れた。 「ぐげえええ」 腹圧で肺に残った空気が押し出され、あられもない音となって私の口から漏れ出す。 次いで身体が跳ね上がるほど強く胃が捻れ、押し出された胃液と内容物が、栓をさ れた喉の僅かな隙間を伝って、鼻と口から噴き出した。一部は気管にも流れこみ、 私は頭が爆発するほど噎せ返る。それほどの極限状態だというのに、私の口が男の イチモツを食いちぎることはなかった。刷り込みの制御が働いたのだろうか。脚を 立てて踏ん張り、力ずくで頭を引き剥がそうとする動きも制御されているのだろう か。正座する私の脚はニカワで固められたように動かず、唯一足首から先だけが、 私の極限状況を反映してばたばたと足掻いていた。自由に動かせる腕も、相手を叩 いたり突き放したりしようとすると固まり、役には立たない。 「げぶ。げええ。ぶほっ。うぐぷ」 何度も何度も鼻と口から濁った液体を噴出させ、その間、一度たりとも空気を吸え ず、私はほとんど悶絶しかけていた。目が開いているのかつぶっているのかさえわ からなかったが、真っ赤な斑点が無数に膨らんでいくのだけは見えた。苦痛がすう っと消えていくような気がして、このまま死ぬのかと思った時、頭が引き起こされ、 必然として喉の肉棒が抜けていった。私は息を吸いながら咳をするという、物理的 に不可能な曲芸演じた。小刻みに息を吸い、噎せ返り、肺に入った胃液を男の腹に ぶちまけた。肺が焼ている。喉から胸にかけて肉が抉れているかのようだ。凄まじ い脱力感。身体にまったく力が入らず、手足がどこかへ消えてしまった感じがする。 髪の毛をつかまれて、涙と鼻水と涎と胃液でぐちゃぐちゃになった顔が引き起こさ れた。何かで乱暴に拭われる。化粧が溶け崩れ、化け物じみた顔になっているだろ う。喉がひーひーと鳴り続けていた。されるがままで、もはや屈辱すら感じない。 頭が再び押しつけられ、再び硬い棒が喉を突いた。今度はたいした抵抗もなく滑る ように収まってしまう。再び顔面が男の股間に埋めこまれてしまうが、もう石のよ うに固く縮まった胃袋はぴくりとも動かない。吐くだけ吐いて、嘔吐中枢も麻痺し てしまったのか。 男が私の頭をカボチャか何かのように振り立てる。私は文句をいう力もなく、物扱 いされていた。ぐぽっ、ぐぽっ。喉が摩擦で熱くなり、自分の物とは思えないよう な湿った嫌らしい音を立てている。頭が引き起こされ、ペニスが抜けた一瞬に必死 で空気を吸う。私は何も考えず、ただそれだけに集中していた。 「ふぉ。ふぉ。おおお。いい。喉が締まる。吸い込む。吸い込む。うふぉ。あああ、 いかん・・・出てしまう・・・」 喉の奥で精液の噴出が始まった。喉の奥にも喉にも舌の上にも、精液がどろどろと ぶちまけられる。この感覚、この味、この臭い。私はこれからいったい、何リット ルの精液を飲まなければならないのだろう。脳を揺さぶられ、脳震盪の気怠い霞に 包まれながら、私は他人事のように私自身に同情していた。 (hensin2.txtに続く)