幻夢  作:しゃのん ☆幻夢1 白石克彦が『淫乱女装子に発情する俺たち』という掲示板サイトにその書き込みを発見した のが、そもそもの始まりだった。 「琴音さん、覚えていますか? 今から4年ほど前、『シンデレラ』に載った艶やかな和服姿が忘れられません。 現在はどのような生活を送られておられるのか、私には知る由もありませんが、ぜひとも、 もういちど、琴音になったあなたをこの目で見てみたいものです。 もしも願いが叶うならば、琴音に変身したあなたとお会いしてみたい。 メールを頂ければ幸いです。                                        栗 」 『シンデレラ』というのはアマチュア女装誌だ。ちょうど4年ほど前、克彦の女装姿がグラビ アに掲載されたことがある。そのとき、克彦は20才で、まだ大学生だった。そのグラビアの 克彦は和服姿だった。専門の着付け係とメイクさんがいて、鬘ではなく付け毛を巧みに使って アップの髪型にしてもらい、着たことのない和服女装を整えてくれたのだ。 克彦は幼い頃から女装趣味があったわけではない。都会に出て、大学生としてひとり住まいを 始めると、待ちかねていたのように女装生活にのめりこんだ、というわけではない。 あの頃、克彦は半年ほどの間、女装に熱中していた。 『淫乱女装子に発情する俺たち』は、女装者との性交渉にまつわる過激な書き込みがメインの 掲示板サイトだった。女装愛好家の淫情を挑発するような書き込みで女装者が交際相手を求め る声、あるいは倒錯したセックス交際を望む女装愛好者の声などが書き込まれている。 「俺、黒紫の極太亀頭の鋼鉄巨根の持ち主、おまえのアナルマ×コを貫いて、ひと晩じゅう、 ヒイヒイよがらせてやりたいぞ。俺、精力絶倫が自慢。白肌ムチムチの美女のおまえ、俺とい っぱつやりたくないか?」 「わたし、おんなになりたくて、ホルやってます。お肌はスベスベになってきたし、おっぱい もふくらんできました。殿方に楽しんでいただけるようにオマ×コは自分で拡張しています。 正真正銘の処女です。どなたか、わたしのヴァージンを奪ってえ!」 「女装マゾ求む。 年齢美醜は不問。条件はただひとつ、美味なケツの穴」 「どなたか、あたしを女にしてください。もうすぐ30才になるんですけど、このまま男の生 活を続けるのは嫌なんです。ちんぽをしゃぶれと言われたら一日じゅうでもおしゃぶりします。 お尻が裂けるほど掘りまくってください。 あたしには奥さんがいますが、子供はいません。このままでは子供がてきてしまって父親にな って、残りの人生を本当に男として過ごさなければなりません」 女装男の貌に塗り込められた脂粉の濃臭と、淫獣と化した変態同性愛者の饐えた精液の匂いが 漂ってくるような書き込みが多くて、まともな人ならまず見ることはないが、克彦はひそかな 趣味として、時々このサイトを覗いていた。 「琴音さん……」と、ディスプレイから呼びかけられて、克彦はわが目を疑った。誰かとまち がえているわけではない。グラビアが載った時期、「琴音」という名前、和服女装……、自分 のことだった。 克彦は、すぐには返信しなかった。 ☆幻夢2 克彦が「栗」に返事したのは約3週間後、正確には20日後のことだった。 初めは、返事する気は毛頭なかった……、いや、返事するつもりはないのだ、と自分に言い聞 かせていた。そのくせ、毎晩、『淫乱女装子に発情する俺たち』を開いては、じっと眺める日 が続いていた。そこに書き込まれている「琴音」という文字から目が離せなかった。「栗」か らの続信を期待していたのかも知れない。 その頃の心境をうまく言い表すのは難しい。 袋小路に追いつめられて、どうにもならなくなって降参するのを予見できるのに、敢えて目を そむけて知らんふりをしている……、そんな感じだった。 克彦は、すでに、導火線に点火されたのがわかっていた。 「『琴音』は僕です。 僕だった、と言うべきでしょう。 今はもう、女装はしていません。 あのグラビアは、僕にとっても懐かしい思い出です。 久しぶりにあの頃のことを思い出しました。 その意味では感謝しています」 克彦は本心から感謝していた。あの和服女装姿は、われながら艶やかだったと自負していたし、 見ず知らずの人物からとはいえ、賛美の声は嬉しかった。 「女装はやめたと聞いて、甚だ残念に思っています。 あのグラビアの艶姿から、気品ある官能の萌芽が垣間見られるのを御存知でしょうか? 若さゆえの愛らしさや清楚の輝きに眩しさを放っている琴音嬢は、女装を続けていれば、 やがて、麗しい色香を放つ美女にグレードアップしたことでしょう」 「お褒めの言葉をいただいてたいへん有り難いのですが、僕は女装を再び始めようとは思って いません。 あのグラビアが掲載されたとき、僕は大学生でした。 たまたま女装誌が目にとまり、女のように美しく着飾ってみようか、と気まぐれな行動を起こ したまでです」 「そうですか。貴方の心境はよく理解できます。 しかし、当方の心境を申し上げるならば、残念至極に尽きます。 あのグラビアを拝見する限り、琴音嬢は端正な顔立ちで、それほど大柄ではなさそうです。 これ以上語るとないものねだりになってしまいそうですが、あれから4年経って、蕾から開花 した琴音嬢の艶姿をぜひとも拝見したいものです」 おおむね、こういうやりとりがしばらくの間、「栗」との間で続いた。 「栗」は露骨に性的なものを求めているわけではなかった。克彦が、かつて一度だけ女装した 姿に惜しみない賛辞を送ってくれているにすぎない。そして、もういちど克彦に女装させて、「琴音」に変身のを望んでいた。それも、きわめて控えめで紳士的な態度で……。 克彦は、「栗」と名乗る男とこうしてメールのやりとりをするのが嫌ではなかった。何だか、 若き女王が家臣に跪かれているような気分だった。 そして、とうとう、来るべき事態がやってきた。 「栗」は克彦と会うことを望んだ。 小さな蟻の穴から堤防が決壊するような結果が予感できたが、克彦は敢えてそういうことを 考えないようにして、「栗」と会うことを承諾した。 ☆幻夢3 克彦はホテルのティールームで「栗」と待ち合わせた。 直前のメールに顔写真が添付されていたので、先に来ていた彼を見つけるのしは容易だった。 克彦は会社帰りのスーツ姿、彼は仕立てのよいグレーのスーツをりゅうと着こなしていた。 「栗岡修太郎」というのが彼の名前だった。渡された名刺には『マックスキャピタル代表』と 記されていた。 『マックスキャピタル』とは何を業務にしているんだろう……、と克彦が名詞を眺めていると、 「金融コンサルタントをやっとります」 と、栗岡がにっこりと笑顔を見せた。 栗岡という男は謹直な銀行員風には見えない。上品なスーツを着ているが似合っていなかった。 どう見ても堅実な勤め人には見えない。克彦に優しげな笑顔で話しかけてくるが、ひどく精悍 な顔立ちだ。年齢は50を越えているだろう。だとすると、父親と変わらないぐらいの年頃だ、 と克彦は考えていた。 しばらくの間、栗岡は当たりさわりのない話題に終始した。新しいビルができて、そこには有 名ブランド店のテナントが入るとかいった話題だ。克彦は相槌をうつだけだった。 緊張感のなかで、克彦はふと、栗岡と自分はまわりの人々にはどのように見えるのだろう?  と思った。上司と部下なのか、あるいは何か一族の用で待ち合わせた叔父と甥……。 「それじゃ、食事に行こう」 と栗岡が言い、断る理由もないまま克彦は従った。 克彦は地下のパーキングでシルバーグレイのメルセデスの助手席に乗せられた。車は少しの間 走り、とあるビルの地下駐車場に入った。 エレベーターで地上に出ると、そこは高級飲食店の立ち並ぶ一角だとわかった。克彦のような 若者が客として来る界隈ではない。 そこは、克彦が入ったこともないようような料亭で、ふたりは奥のほうの個室に案内された。 落ち着いた和室には鍋料理の用意が整っている。すると、これは予約されていたことになる。 「すみません、僕がこんなごちそうしてもらえるなんて……」 と、克彦は困惑をあらわにした。 「遠慮しなくてもいいさ。かつて、私の目を楽しませてくれた御礼だと思ってくれたらいい」 栗岡は克彦に酒をすすめた。 「それで、もういちど女装しようとは思わないのか?」 今日出会って初めて核心の話題に触れてきた。 「はい。就職したし、結婚を予定している女性もいますし……」 「ほう……」 女装趣味から完ぺきに足を洗い、近い将来には結婚してふつうの生活を始めるのだ、と克彦は 自分に言い聞かせていた。 栗岡は、ほう、そうかね、という眼差しを克彦に投げかけている。 きみは女装するのを止めた、なるほど、世間からは後ろ指をさされかねない趣味からきっぱり と絶縁してまっとうな人間になるわけだ。結婚して子供をつくってまともな社会人、家庭人に なろうとしているわけだ。 だが、もしそうであったなら、どうして、ここで私と会っているのかね? 私と会って、私と食事しているのは何故だね? 栗岡の目はそう語っていた。 栗岡に、すべてを見透かされていた。 ☆ 幻夢4 料亭を出ると、栗岡は客待ちしているタクシーに克彦を乗せた。 食事をしただけで別れる、という雰囲気ではなくなっていた。何か必然的な流れのようなもの ができていて、克彦は栗岡とともにタクシーの後部座席に座ったのだ。 栗岡が行き先を告げる。克彦は身を固くしていた。 克彦の胸の裡の緊張と動揺、太鼓を打ち鳴らすような心拍の増大は、後から思えば、人生の重 大なターニングポイントのちょうどその地点にいたからだとわかるのだ。けれども、そのとき、 克彦はただ心臓バクバク感に堪えていたのだった。 タクシーは少し走り、キャバクラや飲み屋などが密集する大衆繁華街のけばけばしいネオンに 彩られた通りの手前で止まり、克彦は栗岡に促されて降りた。 栗岡は勝手知ったるようすで歩き、克彦は、これからどこに行くのだろう? と不安でいっぱ いだった。 狭い路地に入り、右に左に曲がる。ネオンが届かず薄暗く、ゴミのポリ容器が並んでいる。 小さな雑居ビルの階段をのぼって2階に上がると、そのドアには小さな銘板が貼られているだ けだった。 『菊蘭麝』 妖しい響きの名前に、克彦はいよいよドキドキしてきた。 中に入ると、「あーら、クーさん、いらっしゃい」と華やいだ声がかかる。 その声は女を装っているが、明らかに男の声だった。声とともに濃密な脂粉の香りが漂って くる。 栗色の長い髪を優雅な巻き毛にした女性が栗岡と克彦をこぼれる笑顔で迎えた。もちろん、 本物の女ではない。 ここの女将で、「楓」という名だと栗岡が克彦に紹介する。 「まあ、クーさんったら、そのコ、生け捕りにしてきたの?」 と言って、楓は克彦のほうを眺め、 「このコ、細身だし、美人になりそうねえ」 と、楓は、ふふふ、と魅惑的に微笑むのだった。 楓は胸元の深く刳りこんだドレスを身にまとっているので大きな乳房の山がほとんど見えて いる。目鼻立ちが大きくまとまった美人顔に厚化粧、露出している肩や腕の肌は驚くほど白い。 もう30代ではなさそうだ。しかし、年齢を想像するのは難しい。年齢不詳の年増の女装麗人 といったところか。 ここはニューハーフの店なのだろうか? カウンターがあり、ボックス席が3つ、4つあり、美しく着飾った女装者たちが客の相手を しているのが見える。 「このコは女になったとき、琴音という名前になるんだ。琴の音と書く」 「あら、女装の経験があるのね」 楓に見つめられて、克彦は顔が赤らむのを感じた。 「クーさんったら、こういうコを見つけてくるのが上手なんだから」 「楓、このコをきれいな娘に変身させてくれないか?」 「今?」 「そう。今、すぐに」 「クーさんは昔からわがままなんだから」 楓は克彦に、「じゃ、琴音ちゃん、って呼ぶわね、それでいいんでしょ?」と言った。 克彦は頷いた。 ☆幻夢5 その部屋は余り広くなく、舞台裏の楽屋のように部屋だった。 壁に大きな鏡が備えつけられて、鏡の前にはたくさんの化粧品が並んでいる。スツールの後方 には色とりどりのドレスがハンガーに掛けられている。 克彦は狭い部屋に充満している香水と化粧品の濃厚な匂いに圧倒された。 その匂いは、ひどく懐かしい匂いだったが、克彦が女装していた時期に馴染んだ香臭とは どこか異質だった。女装者の体臭や汗や垢臭といったものが染み込んでいて、ある種の糜爛が 感じ取れる。けれども、克彦にとって消して不快な匂いではなかった。身体の奥底がザワザワ と煮立ってくるよな刺激があった。 「まずはお化粧しましょ。そんなうっとうしいスーツなんか脱いでしまいなさいよ」 克彦は仕事帰りだっのでスーツを着たままだった。 楓が言う「うっとうしいスーツ」という感覚は克彦にもよくわかる。スーツを着てネクタイを 締めて会社勤めをするようになり、克彦は息苦しさや圧迫感を覚えていた。もっと言うなら、 苛立つような違和感だった。 上衣を脱いでネクタイを外していると、楓がすぐそばまで近づいてきて、克彦の顎のあたりを 撫でた。 「朝、剃ったの?」 「はい」 「琴音ちゃんはヒゲは薄いわね。でも、男だから、生えてくるものはしようがないし」 楓は女性用の剃刀を克彦に手渡し、 「そこのドアを開けたら洗面所があるから剃ってらっしゃい」 と、言う。 克彦は言われたとおりにヒゲを剃った。 そして、楓の指示によって、克彦は上半身、裸になり、鏡の前のスツールに座った。ヘアバン ドで髪を上げてから楓がメイクにとりかかる。 自分の顔が女の貌につくり変えられてゆくのを眺めていると、克彦は浮き浮きしてくるのだっ た。栗岡という人物のことをまったく知らないし、この女装美女の怪しげな酒場も未知の世界 なので緊張と不安に押しつぶされそうになっているのだが、気分が弾んできたのも事実だった。 鏡のなかの顔がくっきりと陰翳を持ってくる。もともと目鼻立ちはしっかりしているので、 化粧映えして美人顔になるのは経験済みだ。 「さすがにクーさんが見つけてきただのことはあるわ。琴音ちゃん、美人になったわねえ」 楓はお世辞ではなく本気で言っているようすだった。 続いて、克彦はズボンとトランクスを脱がされた。 今さら恥ずかしがっても仕方がないので、克彦はペニスを手で隠して素っ裸になった。 「本当はね、腋の下とか脚のすね毛とか、ムダ毛をきれいに処理して、お風呂に入ってたっぷ りと時間をかけて男の匂いを洗い流したほうがいいんだけど、今日のところはこれでよしとし ましょ」 楓は黒いストッキングとガーターサスペンダーを克彦に手渡した。そして、刺繍の入った黒い スキャンティ。 「ガーターで吊ってからはくのよ、わかってると思うけど」 その艶めかしい下着に、克彦は瞬時に魅了されてしまっていた。ペニスが丸見えになるのもか まわず克彦はいそいそとストッキングをはいた。サスペンダーに留めてから、薄い布地のスキ ャンティをはく。ペニスを股間に畳んで隠してしまう。黒いストッキングに包まれた脚は、わ れながら悩殺的だと、うっとりとなってしまう。 そうして、疑似乳房の胸パッドの入ったランジェリー風の黒いドレスを着せられ、最後に黒毛 のロングウィグをかぶると、ちょっと小悪魔風の美女が鏡の中ではにかんでいた。 ☆幻夢6 克彦は女装して、酒席のお相伴、すなわちニューハーフのホステスのようなことをするの だろう、と思っていた。 ところがセクシーな女の装いに身を包んだ克彦を、栗岡はファーコートを手にして待っていた のだ。 「外は寒いから、これを着なさい」 と、背後からコートを着せかけてくれる。 外? どこへ? たちまちにして疑念が浮かぶ。けれども、予想はついた。 克彦は栗岡に軽く肩を抱かれ、エスコートされるような格好で『菊蘭麝』を出た。克彦の足の サイズに合わせた黒いハイヒールを楓がみつくろってくれて、それを履いているのだが、履き 慣れていないので歩きにくい。踵が高くて、すぐに前につんのめりそうになる。そのたびに、 克彦は栗岡の腕にすがりついて、「すいません」と小さな声で言った。 女装は何度もしたが、それは屋内のことであって、外出するの初めての体験だ。 克彦の緊張感はいやが上にも昂まる。 通りに出ると、ネオンの明かりで明るくなる。道行く人たちが、みんな自分のほうを見つめて いるのではないか……、そんな強迫観念に襲われる。幸いにロングのウィグをつけているので、 俯き加減に歩けば誰とも目を合わさないですむ。 高いヒールの歩きにくさに難渋し、さらに加えて、下半身が心もとない。ズボンをはいていな いと、こんなに無防備感を覚えるものかと、あらためて実感させられる。 歩き方が見苦しくないだろうか? 男の歩き方だと、すぐに女装オカマだと見破られてしまう……。 克彦は知らず知らずのうちにそんな心配をして、できるだけ内股で女らしく歩こうとしていた。 栗岡の腕にすがって少し歩き、また路地に入った。 そこにはラブホがあった。 ……ああ、やっぱりそうだったんだ。 克彦は、一瞬、目の前が真っ暗になりそうになった。 そして、今なら、まだ引き返せる、と思った。 だが、今さら拒否してどうなるというのだ。 ここまで栗岡にのこのことついてきたのは、すべて覚悟の上じゃなかったのか? 今日、初めて栗岡と会ってからというもの、常に栗岡が主導権を握っていた。克彦は栗岡の 言いなりに従ってきたが、それがごく自然だったような気がする。 そもそも、栗岡に返信したときから、こうなるのは予期していたのではなかったか……? 「さあ、行こうか」 栗岡に促され、克彦はハイヒールの足をふるえさせながら一歩、踏み出した。 ☆ 幻夢7 そこで、「いいのか?」とか、「心の準備はできているか?」などと念を押されたら、 「ごめんなさい」と謝って逃げ出していたかも知れない。不安が増大し、克彦は今にも パニックを起こしそうになっていのだ。 ところが、栗岡は克彦に躊躇する余裕を与えなかった。 ホテルの部屋に入ると、栗岡はベッドに腰かけて、前に克彦をひざまづかせた。 そうして、栗岡はズボンのベルトを自らの手でおろしたのだった。 克彦の眼前に勃起したペニスが出現した。亀頭は赤黒く膨れ上がり、肉茎には青筋が浮かび 上がっていて、克彦の目には驚くほどの巨大な陽根に見えた。 「フェラチオはしたことがあるのか?」 欲望にギラついた声音ではなかった。スケベおやじのいやらしいしゃべり方だったら克彦は 臆していただろう。だが、栗岡はセックスとはまるで無関係のようなしゃべり方をする。 男根をはちきれんばかりに勃立させているというのに……。 克彦が顔を小さく横に振ると、「じゃ、フェラチオの初体験だな。しゃぶってみなさい」と、 促された。 嫌だ! 男のペニスを口に咥えるなんてとんでもない、そんなおぞましいことができるわけがない……。 ふつうなら、こんな反応になるはずだ。けれども、克彦は拒絶する気分にもならなかったし、 嫌悪感が湧き上がってくるわけでもなかった。 嫌悪感というより、好奇心が湧いていたように思える。 それに、自らすすんで咥えるわけではない。あくまでも強要されてのフェラチオなのだ、と 克彦は自分に言い聞かせた。 「さあ、はやくしなさい」 穏やかな声だが、有無を言わさぬ響きを帯びていた。 克彦は手を差し伸べて栗岡のペニスの胴幹を手の平で包みこんだ。熱くて、血管が脈打って いるのがわかる。短い爪が赤く塗られたきゃしゃな指が巨大な肉茎を握りしめている。 克彦には、それが自分の手指だとは信じられなかった。 顔を傾けると、まぎれもない『男』の匂いが、むっ、と鼻腔に流れこんでくる。 オスの強い精の匂いだ。 克彦は意を決して、栗岡のペニスを口中に収めた。 口の中が硬い肉の棒でいっぱいになる。経験がないとはいえ、どのようにすればよいのか わかっている。 口中で舌先を亀頭表面にまとわりつかせてゆく。唾液をまぶしてヌルヌル状態にして摩擦して ゆく。雁裏の敏感なあたりは、舌でくすぐるようにして念入りに摺り上げてゆく。こうすれば、 きっと栗岡は気持ちいいはずだ。男どうしだから、どこを刺激すればいいのか克彦にはわかっ ていた。 舌を巻きつかせるのを中断して、今度は口唇で肉幹を絞り上げながら顔を前後に動かせてみる。 そんな風にフェラチオ行為に没頭していると、克彦自身のペニスも硬くエレクトしてきた。 小さなパンティから亀頭がはみ出してしまっている。克彦は、もう一方の手をドレスの裾の奥 に忍ばせた。自分のペニスに触れるだけで電撃が走るような快感がもたらされ、先端からはカ ウパー腺液がトロトロと溢れ出ている始末だった……。 ☆ 幻夢8 フェラチオに夢中になっているうちに、克彦ははっきりと淫欲に目覚めてきていた。 溶鉱炉に投げ込まれたような激烈な昂奮を味わいたい……、握りしめた自分のペニスは コチコチに硬くなっている。 克彦は懸命になって舌と口唇を使って栗岡の巨根を舐めまわし、淫楽に浸った。だんだんと 頭の中が白熱してくる。 突然、克彦の口から栗岡のペニスが去った。栗岡が腰を退いたのだ。 次の瞬間、克彦は強い力で体勢を変えられた。 絨毯の上に四つん這いにさせられる。あっ……、と小さく抵抗めいた声を出してみたが栗岡に は逆らえない。 両手で上体を支え、両膝で尻臀を掲げる格好をとらされる。次に何が起こるのか、克彦には 百も承知だ。 ドレスの裾を捲り上げられ、薄いパンティに包まれた臀丘が露出する。今さっきまで勃起して いた克彦のペニスが萎えてゆく。 栗岡は媾合を求めている……。 あの太くて固い牡根で貫こうとしている……。 肉体の痛みと精神の屈辱……。 次の行為の辛さがわかっていながら、克彦は尻丘を高々と掲げて待ち続けた。 男なのに男に犯される……。 パンティを剥き脱がされ、栗岡の手指で尻肉が左右に開かれた。 肛門穴がすっかり晒け出される。その恥ずかしい器官に栗岡の視線が注がれているのが痛い ほどにわかる。 肛孔口に栗岡の指先が触れた瞬間、克彦は「ひっ!」と小さく叫んで反射的に腰を引いた。 肛道に指先が少しだけ侵入し、それは痛みというよりも、おぞましさというよりも、どこかく すぐったい触感だった。と同時に猛烈な羞恥を伴っている。 指先はいったん去り、次はひんやりとした粘っこいオイル状のものが肛内襞に塗りこめられて ゆく。 克彦は、自分が処女を奪われる女の心境になっているのではないか、とふと思った。 そして、太いペニス棒が克彦の肛門性器に……。 ☆ 幻夢9 「白石クン、例の商品の入荷、確認してくれた?」 「あ……、はい……、いますぐに……」 古参のOL女史が、「ダメねえ、このコは……」という表情をする。 もともと将来を有望視される社員ではないが、ここのところ特に、仕事中にぼんやりしている のが自分でもわかっている。 あの夜、栗岡と過ごしたひとときが、克彦の心の裡の何かを確実に変化させていた。 ……あのラブホの夜、栗岡のペニスが完全挿入されたわけではなかった。ローションを塗り こめられた尻穴に硬い亀頭がめりこんでくる感触は、いかにも「犯されている」という倒錯感 が伴っていた。栗岡の亀頭部が細孔に埋没したところで、そこから先は激痛が走り、克彦は 「痛いっ……」と叫び続けたのだった。 あれだけの巨根をアナル処女の克彦が受け入れられるわけがない。泣いて痛みを訴えるもの だから、栗岡は途中で挿入を断念した。 ……それにしても、あの濃密な空気は何だったのだろう、と克彦は思う。 フェラチオを開始してから帰り際まで、克彦はほとんど栗岡と会話らしい会話はしていない。 栗岡は克彦の若い肉体を味わうのを望んでいたし、克彦は栗岡に肛姦される覚悟ができていた。 男どうしのセックスという淫らに歪んだ行為を、栗岡は圧倒的な存在感でリードし、克彦は 羞恥に苛まれながら従った。 身も心もすべて隷従する被支配感……この人の命令なら何でも従うつもり、この人に悦んで もらえるなら何でもするつもり……、そんな幸福に包まれていたのを否定できない。 結局、栗岡は深奥までのインサートを諦め、克彦は解放された。 栗岡が射精した気配はないし、克彦は肛交の痛みに耐えていたのでエレクトするどころでは なかった。 しかし、あの一夜を経て、克彦の世界は完全に変貌してしまった。 何よりも、男のペニスを口に咥えて不快感や嫌悪感を抱かなかったのがショックだった。 自分はホモなんだ……、女のきれいな着物を身にまとって喜んでいたけれど、それは美しい 和服が好きなだけで性嗜好は至ってノーマルだと思いこんでいたのは大きな間違いだったのだ。 自分の本性は、男にセックスしてもらうのが好きな変態女装男なのだ……。 それが証拠に、栗岡のペニスが完全に挿入できないとわかり、すまない気持ちになってしまっ たではないか。 しかし、本当にそうなのだろうか……? 栗岡という男にそそのかされて、あらぬ方向に足を踏み出してしまっただけではないのか……? ☆ 幻夢10 克彦には川崎京子というガールフレンドがいる。 京子は同じ会社に勤めるOLで、克彦よりひとつ年上だ。性格がきつく、常に主導権を握ら ないと気がすまないタイプの女だった。克彦はもともと性格がおっとりしているから京子に リードされても苦にならなかった。 24才の若い男にとって、いつでもセックスさせてくれる女は有り難かった。だから京子との つきあいが続いているのかも知れない。京子は克彦との結婚を考えている。克彦もそれでいい と思っていた。 「いかなかったのね?」 克彦が京子の女体から離れると、京子が不満げに言った。 「安全日なんだからさ、なかで出してもよかったのに」 克彦のペニスはもうすでに力を失っている。いつもなら元気に射精して終わるのに、今日は どういうわけかフィニッシュを迎えられなかった。 「仕事のストレスね、ま、仕方ないか」 京子はそそくさと衣服を身につけた。 「ほんとは泊まっていきたいんだけど、用事があってダメなの、ゴメンね」 京子は克彦の口唇にキスしてから、克彦の住まいのワンルームマンションから去っていった。 ……ほら、やっぱり女とセックスしたほうが気持ちいいじゃないか、と、克彦はベッドに仰向 けに寝そべったまま、自分に言い聞かせた。 豊満な乳房を揉みしだき、濡れそぼった女性器にペニスを突き入れる快感は素晴らしいではな いか……。 ……だが、京子とのセックスが途中からだんだんと気乗りしなくなってしまった理由は、克彦 自身、よくわかっていた。 あの夜、栗岡の怒立した男根を口に咥えて舌を使っていたときの沸騰するような昂奮を思い出 してしまう。あのとき、克彦のペニスは今までに経験したことがないほど硬く勃起していたで はないか。もうあと何回か、手指で擦りあげてやれば、めくるめく射精エクスタシーに到達し たはずだ。 ……知らず知らずのうちに、克彦は下腹部に手を伸ばしてペニスを握りしめていた。萎えてい たものが再び勃立してきていた。中出ししても大丈夫な日だったので生挿入していた。だから、 克彦のペニスには、粘つく女汁が付着している。 克彦はペニスから手を離し、鼻先に指を持ってきて匂いを嗅いでみた。 女の発情したいやらしい匂いがする……、この匂いに昂奮しない自分はやっぱりノーマルな 男じゃないんだ……、黒い陰毛に縁取られた京子の女性器を思い浮かべてみたが、オスの本能 がときめく気配はなかった。 再び、克彦はペニスを握りしめた。 お尻を差し出して、栗岡の硬い肉棒を嵌め入れてもらう……、肉竿の根元まで完全挿入して もらって、肛襞を摺りあげてもらう……。 「琴音のお尻は締まり具合がよくて最高だ」 と、栗岡にほめてもらい、肛奥に熱い精液を中出ししてもらう……。 ああっ! 克彦は、瞬く間に頂点に昇りつめ、夥しい精を迸らせてしまった。 ☆幻夢11 「あら、あなた、たしか、琴音ちゃんだったわね」 克彦が『菊蘭麝』を訪ねると、楓ママは訝しげに克彦を眺めてから、克彦の女装名を思い 出したのだった。 「どうしたの? クーさんと待ち合わせ?」 「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」 「ふうん、せっかくだからそこに座んなさいよ。まだお客さんも来てないし」 克彦は落ち着かない気分でボックス席に座った。 楓ママは冷えたビールを持ってきてくれて、グラスに注いでくれる。 「外は暑かったでしょう? ほら、飲みなさいよ。ビール代とるなんてケチなことしないから」 克彦は、夏風邪をひいて体調不良、という口実で会社を早退してきたのだった。 「ふうん……、こえして見ると、あんたって、スーツを着たまともな青年じゃないの」 楓ママもビールを飲みながら言う。 「僕は……、まともですよ……」 「あらまあ、ノーマルな若者が、顔いっぱいに悩みがあります、って貼りつかせて、 真っ昼間からこんなところにやってくるかしら?」 「…………」 「琴音ちゃん、何を悩んでるの?」 「…………」 「告白しなさいよ。力になってあげるから」 「……実は、栗岡さんから連絡がないんです……」 「それで?」 「……ですから……」 「クーさんに抱いてもらいたい、ってわけね」 「…………」 「恥ずかしがることないわよ。男のチン×を舐めたいとか、男にお尻を掘ってもらいたいとか、 って、琴音ちゃんもわたしもそういう星の下に生まれてるんだからちっとも卑下することは ないのよ」 楓ママは堂々としたものだった。男が好きで何が悪い? と開き直っている。克彦にはそこ までのすぶとさはないが、楓ママの堂々とした態度に、幾分、気が楽になった。 「琴音ちゃん、クーさんのチン×、おしゃぶりしたんでしょ?」 「……はい」 「ぶっとくって美味しかった?」 「…………」 美味しかった、という表現は適切かどうかわからないが、フェラチオ行為の最中、克彦は 今まで体験したことのない強烈な性的昂奮に襲われたのだった。 「うふふふ、図星でしょ。琴音ちゃんは目覚めたのよ。男どうしの愛、なんてきれいごと じゃなくて、男のくせに男のチン×をしゃぶったり、お尻の穴にチン×をハメてもらったり するのがうれしいことがわかったのよね。そういうのって、世間じゃアブノーマルって言う けど、気にしたらダメよ。自分に正直に生きなきゃ」 ☆ 幻夢12 「わたしたちは同類なのよ」 と、楓ママに言われて、克彦は胸の奥の重荷が取り払われたような気分になった。 栗岡にラブホで挑まれたとき、亀頭の先っぽが入った程度で、奥まですっかり入らなかった、 ……だから、栗岡は気分を害して、その後、連絡してくれないのではないのか……。 楓ママになら何でも話せそうな気がして、克彦は恥ずかしい事実を語った。ビールの酔いも 手伝っていたのかもしれない。 「琴音ちゃんのお尻は処女だったんだから仕方ないわよ。初めてのお尻に、あんな太いチン× が入るわけがないわ。無理に入れたりしたら傷つくじゃないの」 確かにあのとき、尻穴が裂けてしまいそうな痛さだった。 さらに、克彦は、栗岡が射精した気配がないことを楓ママに話した。男なら、射精のフィニッ シュで満足すべきなのに、栗岡は不完全燃焼だったはずだ。 ひょっとしたら、自分の肉体が栗岡に気に入ってもらえなかったのではないか……? 克彦には、そんな不安が萌芽していた。 「琴音ちゃんが帰ってから、あの後、クーさんは桃花ちゃんを誘って外出したわ。きっと、 桃花ちゃん相手にたっぷりと楽しんだと思うけど」 「…………」 「そんな心配そうな顔して。琴音ちゃんのかわいいお尻が初めてだったから無茶したくなかっ ただけだと思うわ。心配しなくっても大丈夫」 「……そうだといいんですけど」 「琴音ちゃん、クーさんにお尻のヴァージンを捧げたいのね?」 「……気に入ってもらえば、と思ってます」 「じゃ、お尻をちゃんと使ってもらえるようにしとかなきゃ。クーさんのチン×って極太でし ょ? 琴音ちゃん、クーさんのをしゃぶったからわかると思うけど、かなりの巨根だったでし ょ。あんな太いのを入れてもらいたかったら、しっかりと拡張しとかなきゃ」 拡張……、と耳にして、克彦の身体の芯がズキンと疼いた。 「ちょっと待っときなさいよ」 と、楓ママは言い置いて席を立ち、奥の部屋に姿を消した。 今日、『菊蘭麝』にやってくるには勇気が必要だった。どうにもならない不安に苛まれたあげ く、仕事どころではなくなり、うろ覚えの路地を何度も行ったり来たりしてようやく『菊蘭麝』 にたどり着いたのだった。 楓ママが再び姿を見せたとき、その手には張形が握られていた。 「まずこっちの細いほうね、これはアナル用だから、これが根元までちゃんと入りきるまで訓 練するのよ。それから、こっちの太いほう、見てのとおり極太ペニスの形してるでしょ。これ が入るようになったら一人前ね。このローションを使うといいわ」 克彦は楓ママから張形を受け取った。 いよいよ河を渡ってしまった、もう後戻りできない……、という気分だった。けれども、後悔 の念は少しもなかった。 ☆ 幻夢13 細いほうのアナル用の張形はすっかり嵌入させることができたけれど、太いほうはまだまだ 入りきらない、と克彦は楓ママに報告した。 克彦は毎日、仕事から帰ると、バスに入って肛孔を揉みほぐし、張形を使って拡張トレーニン グをしていた。 トレーニングを終えると自己嫌悪にいたたまれなくなるときもある。僕はどうしてこんなバカ なことをしているんだろう……? 男にペニスを入れてもらうために痛みをこらえて肛孔を拡 げているなんて……。 そんな風に気分がひどく落ち込んでいたとき、楓ママから連絡があった。 栗岡から伝言があるので、いちど『菊蘭麝』にいらっしゃい、というものだった。 早い時間のほうが楓ママとゆっくり話ができるので、克彦は、田舎の親族に不幸があった、と 嘘をついて会社を休み『菊蘭麝』にやってきたのだ。 栗岡からの伝言とは、今は仕事上のトラブルで忙しくて会えないが、一段落したら琴音の望み を叶えてあげるから、それまでに準備を整えておくように、という内容だった。 「栗岡さんって、金融コンサルタントって言ってましたね?」 「クーさんの仕事? 『マックスキャピタル』って名刺、もらってない? 表向きはそういう 顔なんだけどね、琴音ちゃんもサラリーマンしてるからわかると思うけど、クーさんってカタ ギの仕事してないわよ。どんなアブない仕事してるのか、わたしは詳しくは知らないし、知り たくもないけど」 確かに、楓ママの言うとおり、栗岡という男は得体の知れない側面を持っている気配がうかが える。栗岡の隠された一面は、克彦にとっては恐ろしくもあるが、逆に、頼もしい一面でもあ るのだ。 「髪の毛を伸ばそうと思うんです」 と、克彦は楓ママに言った。 それから、お化粧の道具とかもそろえているんです。ほんのわずかの間、女装の経験があると はいえ、お化粧の練習もしなくちゃいけないと思うし……、と克彦は楓ママに訴えるように言 った。 きれいにメイクしてアナル拡張に励んでいると、急にハイになってしまってオナニーしてしま うことがある。勢いよく精液を迸らせたあと、猛烈に落ち込んでしまったりするけれど……。 「そうねえ、ウィグだと興醒めっていう殿方もいるしねえ……」 克彦は、髪の毛を長くして、フレンチロールにしたり、ポニーテールにしたり、アップに結い 上げてみたりしたいと望んでいた。 そのあたりは、女装してきれいになりたい、という願望で、少なくとも以前から克彦の裡に胚 胎していたものだ。ところが、女装願望が男とのセックスと深く結びついてしまって克彦は困 惑していた。 ということは、自分は「女」になりたいのか……? 冷静に自分自身に問い詰めてみると、否だった。 女のようにきれいになって男に愛してもらいたいだけなのだ、決して「女」になりたいわけで はない……、今のところ、克彦はこんな答えしか見つからない。 ☆幻夢14 桃の花と書いて〈ももか〉と読ませる。 桃花という名前から、若くてかわいい女装娘を想像していたが、いざ本人と顔を会わせて、 克彦はびっくり仰天してしまった。 まず大柄なのに圧倒される。艶のある栗色に染め上げられたロングヘアー、こってりとした厚 化粧、キャミ風のドレスの大きく開いた胸元からは豊満な乳山が過度に露出している。美人顔 というよりも、明らかに整形手術で整えた顔立ちだ。本来の唇よりも誇張して真っ赤なルージ ュを塗っているので口元がひどく好色そうに見える。 桃花はボックス席に座っている克彦に、「こんにちは」と、シナをつくって身をくねらせなが らあいさつした。 「あなたって、クーさんが手籠めにしょうとしたコね。でも、あまりに痛がるので途中でザセ ツした、って言ってたわよ」 克彦は顔面が熱く火照った。 「あら、かわいいこと、赤くなっちゃって」 桃花の声音は、男が女声をつくっているのだとすぐにわかる。野太さを隠しきれていない。 桃花は楓ママに、 「これからキヨさんにいっぱつしてもらうことになってるのよ、じゃ、またあとで」 と言って『菊蘭麝』から出ていった。桃花のつけていた濃厚な香水の匂いが残った。 「あの……、栗岡さん、あのあと、あの人と……?」 「そうよ。あの夜、琴音ちゃんを帰したあと、クーさんのお相手をしたのは桃花ちゃん」 「桃花さんって、もっと若い人かと……」 克彦は、実物の桃花を目にするまで、美少女風の女装娘だと思っていたのだ。そして、正直に 言うと、「桃花」に嫉妬していた。だから、懸命になって肛門拡張に励んでいた、という面も ある。 「うふふふ、必ずしも若いコがいいってわけじゃないのよ。年増には年増の旨味があるんだか ら」 桃花の年齢は30代の後半で、もともと男が好きだったわけではなく、結婚して子供もいて正 常な生活を営んでいたのだが、30才を過ぎて突然、どういうわけか目覚めてしまったのだ、 と楓ママが説明してくれる。 整形で顔を造り変え、豊胸手術を受けて大きな乳房を揺らせて、毎日毎日、好き者の男たちに お尻を掘られまくって至福の日々を過ごしているのよ、と楓ママは言う。 ほんのわずかの間、見ただけだが、桃花の印象は強烈だった。どう見てもナチュラルな女には 見えず、かといって、男の女装という単純なものではない。人工的に造られた女の貌と豊満な 肢体、セックスの匂いがぷんぷん臭ってきそうなほどの爛れた雰囲気……。 「そうだわ、ちょっと待っててね、いいものあげるから」 と、楓ママが奥の部屋に消えた。 克彦の脳裡には桃花の容貌や肢体が鮮明に焼き付いている。 克彦は動揺していた。その理由は、桃花に魅了されてしまったからだった。 あれほどの圧倒的な迫力は無理だけれど、特殊な性嗜好の男たちにとって魅力たっぷりの女装 娘になりたい、と望んでいる自分を発見していた……。 「はい、これ、アナルプラグよ。これを一日中、お尻の中に入れておくといいわ」 と、楓ママが小さな箱を克彦に手渡してくれた。 ☆幻夢15 そして、とうとう、待ちに待った日がやってきた。 克彦が待ち望んだ日であったが、どこかおそろしい日でもあった。克彦にとってまったく未体 験のゾーンに突入することになるので、期待と不安が交錯して、その日は朝から心ここにあら ずといった状態だった。 仕事を終えて、いそいそと『菊蘭麝』に行き、スーツを脱ぎ捨てる。胸に乳房パッドを当てて から、超ミニ丈のドレスを着る。脚や腋の無駄毛は朝のうちにすっかりきれいに剃り落として ある。髪の毛を伸ばしはじめたとはいえ、まだまだウィグは必要だ。克彦は明るいブラウン色 のウィグをつけた。 今日はストッキングは穿かずに生脚に踵の高いシルバーのサンダルを履く。足の爪には赤い ペディキュア。濃い目にメイクを仕上げて、栗岡を待つ。 心臓がバクバクしている。いよいよだ……。 「琴音ちゃん、脚がきれいね」 「あ、ありがとうございます……」 落ち着きなく座っている克彦に楓ママが声をかけてくれる。 「男の脚って感じじゃないわよ。筋肉は目立たないし、足首なんか、きゅっ、って締まってて セクシーよ」 克彦は体育系の人間ではないので脚に筋肉がつくような運動は何ひとつしてこなかった。 生白い脚だと思っていたが、こうして女装すると、けっこう女っぽく見えたりするが嬉しい。 こんな短い裾だと、ほとんどパンティが丸見えだ。男のスーツから着替えるとよくわかるが、 下肢がひどく無防備になってしまう。克彦は知らず知らずのうちに太腿をぴっちりと閉じ合わ せていた。 「それで、お尻のほうは大丈夫そう?」 「さあ……、わかりませんけど」 「でも、あの太いほうのディルドウが入るようになったんでしょ?」 「はい。何とか入るんですけど、まだ痛くって……」 実を言うと、ピンク色のかわいいショーツを買ってきて、楓ママにもらったアナルプラグを 挿入してからそのショーツをはき、スーツを着て何くわぬ顔で何度か出勤したのだった。 我ながら、とんでもない変態だなあ、と自嘲の思いを抱きながらも、病みつきになりそうだっ た。そんなことをしたのも、栗岡に完全挿入してもらえる身体になりたかったからだ。 出社しても仕事に身が入らない。叱られてばかりだ。アナルプラグのせいでやたら勃起するの で困り果てて、トイレに行ってオナニーしてこようかと、仕事そっちのけで思案したりする。 しかし、昂揚感が失われそうなので、ずっと勃立させたままにしておくのだが、股間のふくら みを隠すのが一苦労だった。 仕事でミスばかりしているし、このまま髪を伸ばし続けたりしたら上司に注意されそうだし… …、会社を辞めざるを得なくなるかもしれない……。けれども、克彦にとって、それは大した 心配事ではなかった。 克彦は、人生を大きく左右するであろう分岐点にいるのがわかっていた。 ☆幻夢16 栗岡が現れたとき、克彦の緊張は極限に達した。 どのような顔で栗岡を迎えてよいのかわからず、克彦は顔面を強張らせた。 栗岡は克彦を認めるなり、顔をほころばせた。その笑顔を、克彦は、とても素敵だと思った。 そして、栗岡は、克彦を安心させるように、二度、三度と頷く。 克彦は、何か言わねばならない、と口を開きかけたが言葉は出てこなかった。先日はすいませ んでした……、栗岡さんに気に入ってもらえるように努力します……、とか何とか言うべきだ と思ったのだが、もごもごと呟きが洩れただけだった。 いきなり、「さあ、行こうか」と言われ、克彦は立ち上がった。 『菊蘭麝』を出て、栗岡の運転するメルセデスの助手席に乗り込む。 たとえば、「きれいだよ」と克彦の女装姿を褒めてくれるとか、仕事の都合で連絡できなかっ たことを詫びるとか、栗岡はそういう余計なことを一切しゃべらなかった。女装して琴音にな った克彦が助手席に座っているのが当然であり、琴音は栗岡に従属するのが当然であり…… 、という雰囲気があって、克彦は自分の居場所を見つけたような気分になっていた。 夜の街のネオンや街灯にステアリングを握る栗岡の姿が浮かび上がる。じっと見つめるわけに もいかないので、克彦は、ちらちらと栗岡を盗み見た。クリームイエローのポロシャツにコッ トンパンツというカジュアルな出で立ちが、恰幅のよい体躯にとても似合っていた。 車は、とある高層マンションの地下駐車場に入った。 こんな超ミニで人通りの多いところを歩かされたりしたら羞ずかしいな、と思っていたので、 ちょっとひと安心だ。 車から降りてエレベーターに乗る。人の気配は無い。 20階だが21階だかのその部屋に入ってはじめて、克彦は、今日はラブホを使うのではない、 と気付いた。すると、ここは栗岡の住まいなのか……。 克彦は玄関で、ストラップで留める赤いハイヒールがあるのを発見した。 誰だろう? 栗岡の奥さん……? 愛人……?  克彦の胸中は千々に乱れた。 玄関口にもリビングルームにも必要最低限の家具類が置かれているだけで生活臭がまったく感 じられない。 ベッドルームに連れて行かれて、克彦は仰天した。 広々とした寝室のキングサイズのベッドの上に、あの桃花がいたのだ。 桃花は赤いストッキングを赤いガーターサスペンダーで留め、ベッドの上で俯せにされ臀丘を 掲げさせられていた。両手首は背中で拘束され、肩と顎で上体を支えている。 ふっくらと肉脂ののった双臀の狭間のアナル孔には張形の根元とおぼしきものが見えている。 そんな格好で、桃花はペニスを勃起させていた……。 ☆ 幻夢17 ベッドから少し離れてソファーが設置されている。そのソファーに座るとベッドのプレイが よく見える位置だ。 桃花の痴態を目にして、立っていられないぐらいに胸苦しくなった克彦の肩を抱くようにして 、栗岡が克彦をソファに座らせてくれた。 ソファの前には小ぶりのローテーブルが置かれ、ウィスキーのボトル、タンブラー、アイスバ ケット、灰皿などが載っている。氷は溶けつつあり、灰皿には煙草の吸い殻が積もっている。 フィルターに真っ赤な口紅の付着した吸い殻もある。 ……ということは、栗岡は桃花との淫靡なプレイを中断して克彦を迎えに来たということなの か……。そして、プレイは中断したのではなくて、桃花のアナルに張形を嵌入したままの放置 プレイだったのかもしれない。 「どうだ、びっくりしたか?」と訊かれたら、「はい、驚いてます」と答えただろう。だが、 栗岡は何も言わずに、克彦が仰天しているようすを眺めている。 予期せぬ展開に、克彦はただ呆然となるばかりだ。 栗岡の存在よりも、ベッドの上の桃花のほうが気になる。克彦の視線は否応なく桃花に向けら れた。 よく見ると、赤いストッキングを穿いた桃花の両足首は黒い細い革ベルトで縛られている。 その両足首は短い竿のような棒に繋がれている。つまり、桃花は双脚を閉じられないように 束縛されているのだ。 「んんうぅう、んうぅう……」 低い声の桃花の喘ぎが断続的に洩れ続けている。明るい栗色の髪に被われてしまっているので 、桃花の表情はわからない。克彦の視線は桃花の股間に釘付けになる。とても男の臀部とは思 えない白い豊麗な臀丘、むっちりとした太腿は鮮烈な緋色のストッキングに包まれ、太腿の付 け根からは玉袋がぶら下がり、ペニス棒は勃起していた。テラテラと光る赤紫の亀頭からは ヌルヌルの粘汁が糸をひいて滴り落ちてシーツに染みをつくり、その染みが広がってゆく。 折り畳んでパンティにくるみこんで股間に収納していた克彦の男根が充血してむくむくと勃立 してくる。 さらに、咽喉がカラカラになり、克彦は生唾を呑みこんだ。 栗岡がタンブラーに琥珀色の液体を注ぎ、形の崩れかけたアイスキューブを放りこむ。そして 、ウィスキーをひと口、飲んだ。もうひと口、口に含んだかと思うと、克彦の顔の上におおい かぶさってきた。 顎先を指で押し上げられ、口唇が重ねられた。ただのキスではなく、ウィスキーを口うつしで 飲まされる。咽喉を灼くようなきついアルコールが胃の腑に流れてゆき、克彦の全身が、カッ 、と火照ってくる。 栗岡は何度も口うつしでウィスキーを飲ませてくれた。克彦は甘えるように舌をからめてディ ープキスを貪った。 「あっ、いや……」 栗岡の手が下腹部に伸びてきて、エレクトした克彦のペニスをまさぐりはじめた……。 ☆ 幻夢18 栗岡の口唇が重なり、舌を吸われる。 裾から侵入した栗岡の手は、克彦のペニスをパンティからつかみ出した。 そして、栗岡は手の平を輪状にして克彦の屹立した男根を包みこみ、ゆっくりと摺り上げてく る。そんな風に栗岡に指撫されると、余りにも気持ちよくて快感の呻きを発してしまいそうに なる。だが、克彦の口唇は栗岡に塞がれている。 栗岡の口はウィスキーと煙草の味がした。 克彦は喫煙しない。だから、ヤニ臭い口唇とキスしているのが信じられなかった。しかも、 相手は男だ。平常なら、おぞましくて吐き気を催していたかもしれない。けれども、不快感は 微塵もなかった。これが男の味なんだ、という新しい発見があるだけだ。 栗岡に舌をからめられて、克彦も懸命になって舌をからめてゆく。 キスがこれほどまでに愉楽をもたらす行為だったのか、と認識を新たにしながら、克彦は夢中 になって父親ほど年の離れた男とのディープキスに没入していった。その間、栗岡は執拗に、 そして、絶妙に、克彦のペニス棒を揉み擦り上げてくる。克彦の快感はいよいよ昂ぶり、尿道 口からカウパー腺液がトロトロと溢れだして栗岡の手指を潤し、ヌルヌルの摩擦感触が倒錯快 楽のボルテージを高めてゆく……。 ……克彦は、空いている両手のどちらかを伸ばして、コットンパンツの上から栗岡のペニスを なぞってみたい衝動に駆られていた。栗岡の肉棒を、この手で触感してみたい……、たとえズ ボンの布地越しにでもいいから、勃立した巨根に触れてみたい……。だが、克彦には、とても そんな勇気はなかった。濃厚なキスが始まったときから克彦は目を閉じていた。羞ずかしさと、 ある種の怖さがあって、栗岡と至近距離でとても目を合わせられそうになかったからだ。 ……先日のあの夜、初めて目のあたりにした栗岡の豪根の雄姿が瞼の裏に浮かんでくる。 威嚇的にまで膨れ上がった亀頭のテラテラと赤黒く光る素晴らしい色艶、青筋を浮き立たせた 太い肉茎……、克彦はあのとき、栗岡の極太ペニスに瞬時にして魅惑されてしまった。栗岡に 命じられてフェラチオ奉仕したときの、口いっぱいに頬張った感触や舌ざわりを思い出す。 なにぶん、初めての口淫なので、舌や口唇の使い方は稚拙だったはずだ。栗岡が満足してくれ たとは思えない。だが、ひとつだけ確かなことがあって、あのとき、克彦は男のペニス棒を口 唇愛撫する楽しみを覚えてしまったのだ。 克彦は唾液を吸われ、克彦もまた栗岡の唾液を吸い、飲みこんだ。 栗岡の手管に、克彦の勃起コックは今にも射精する寸前まで追いつめられる。 克彦は腰をくなくなとくねらせて、快楽の波に翻弄されていた……。 ☆ 幻夢19 克彦はパンティを脱がされ、ミニドレスの裾を捲り上げられていた。 ソファに座った姿勢で、ペニスを天に向けてそそり立たせ、酔いのまわった眼差しでベッドを 見つめていた。 栗岡も全裸になり、桃花の枕元に膝をつき、派手な栗色に染め上げた髪を掻き上げる。桃花の 濃艶なメイクの顔面があらわになり、「ああ……、琴音ちゃん……」と掠れた声を出した。 「桃花、おまえの恥知らずな格好を見て、琴音はチン×をおっ立ててるぞ」 「ああ……、はずかしい……」 女を装った声ではなくなっている。男の声で、桃花は女のように羞恥に身悶えている。 栗岡は腰を落とし、桃花の鼻先に肉棒を突きつけた。長大で剛太、惚れ惚れするほどの立派な 責め棒だ、と克彦は思う。 栗岡は桃花の髪の毛を鷲づかみにして、顔を上向かせた。桃花は、片方の肩で上体を支えなが ら身をよじるようにして、栗岡のペニスの亀頭に形良くとがった鼻先をこすりつける。 「桃花、俺のチン×を咥えたいか?」 「……欲しいわ、しゃぶらせてぇ……」 「男のくせに、男のチン×をしゃぶりたいのか?」 「欲しいのよ……、おねがい……、はやくしゃぶらせてえ……」 「桃花はどうしようもない淫乱オカマだな」 「……そうよ、変態オカマなのよ……、男のチン×が大好きな淫乱なのよお……」 「よし、咥えさせてやるぞ」 栗岡が腰を突く。 桃花の毒々しいまでに真っ赤に塗った口唇が硬立した肉根を包みこんだ。 咽喉の奥まで深々と呑み込み、咽喉管を突き刺される苦しさに桃花は女の貌を歪めた。 そして、栗岡がいったん腰を引く。桃花は首を伸ばしてペニスにむしゃぶりついてゆく。 苦しい姿勢のまま、桃花は舌を貪欲にからみつかせてねぶりまわしてゆく……。 克彦はまばたきもせずに桃花の濃淫なフェラチオ行為に見入っていた。 手足の自由を奪われた女装男が一匹の淫獣と化して男のペニスをむさぼりしゃぶっている姿は あまりにもアブノーマルだ。饐えて爛れている。しかし、克彦は魅入られてしまっていた。 克彦は思わず、そそり立った自分のペニスに手指をからめて摺り上げた。 理性をかなぐり捨てて淫欲に溺れきっている桃花が羨ましくてならなかった……。 ☆幻夢20 「琴音、こっちに来なさい」 と、栗岡に手招きされて、克彦はあわてて自慰していた手をひっこめた。 克彦は立ち上がり、よろける足取りでベッドに向かい、ベッドにのぼった。 すでに桃花の口淫痴戯は中断している。 栗岡は桃花のかたわらにあぐらをかいて座り、克彦に自分の横に来るように手で示す。 克彦は栗岡の腋に正座した。勃起したペニスはどうしようもないのでドレスの裾で隠そうと すると栗岡が制止する。 「琴音、チン×をおっ立てた恥ずかしい姿を隠す必要はないぞ」 「あ……、はい……」 「琴音も桃花も男なんだ、わかっているな?」 「……はい」 「桃花はこんな大きな乳房まで造って女みたいになってるが、男のチン×が好きな男なんだ。 琴音、おまえもそうだ。かわいい娘に女装変身した男だ、わかっているな?」 「……はい」 いきなり、栗岡の手が伸びてきて、克彦のペニスを握った。それは、握られるというよりも優 しく包みこまれるような感触だった。 「あんっっ!」と、克彦は思わず甘い声音を発して反応してしまう。 「琴音、俺の手の中で脈打ってるぞ」 「ああ……、ごめんなさい……」 「どうしてあやまるんだ?」 「あ、あたし……、琴音なのに、こんなに昂奮しちゃって……」 「琴音はかわいい娘だが、こんなにチン×を勃起させる娘だ」 「ああ……、ごめんなさい」 「俺のチン×を握ってみろ」 「……はい」 克彦はそっと手を伸ばして、栗岡の肉棒を握った。熱くて太くて、目の前がクラクラしてきそ うだった。 「俺のチン×が欲しいか?」 「……はい」 「この前は、入りきらなかったな」 「……ごめんなさい、あのとき、痛くて辛抱できなかったんです。……でも……」 「でも、何だ?」 「……でも、奥まで入れてもらえるようにトレーニングしてきました」 「そうか、今度はちゃんと入るのか?」 「入ると思います。どんなに痛くても我慢します。……、だから、おねがいです、琴音をかわ いがってください……」 ☆幻夢21 「こんどはあっちだ」 と言われて、克彦は栗岡とともに場所を移動した。栗岡のペニスをもっと握っていたかったが 、自然と手から離れてゆくことになった。 克彦は、逆V字形に太腿を強制開陳された桃花の後ろ姿を正面から見る位置に座らされた。 両肢を開かされてアナル孔に張形を嵌め入れられた姿は屈辱以外のなにものでもないはずだ。 しかし、桃花の男性器は今にも暴発しそうなほどに勃立している。恥辱もまた快楽につながる ということなのか……? 栗岡は指先でディルドウの根元を握って引き抜こうとする。 「んんうぅぅ……」 桃花は悩ましい悶え声を発しながら、いやいやするように豊尻をくねらせる。 黒い張形がだんだんと尻穴から抜き出されてくる。栗岡のペニスよりも太いと思えるほどの極 太ディルドウは潤滑ローションに濡れてヌラヌラと光っている。 「ああ……、あっ、あ、あぁ……」 桃花が男の声音で切なく喘ぐ。 男根の形状をした張形の巨大亀頭が抜け出るとき、一瞬、肛口がめくれあがり、すぽっ、 と抜去されると、穴口は赤く変色し、その奥には暗紅色の腸腔がフェイドアウトしていた。 張形が抜けた瞬間、桃花は、「んんうっ!」ともどかしげに尻朶をくねらせた。 やがて、ぽっかりと口を開いていた肛穴は窄まり、ローションがまるで女の豊潤な愛液のよう に滴り落ちて陰嚢を濡らしている。その光景は、ひどく淫猥。 「琴音、これが桃花のケツマ×コだ」 「……はい」 「ようく見てみろ」 「……見てます」 「このケツの穴で男を悦ばせるんだぞ」 「…………」 「琴音、桃花のケツマ×コを味わってみなさい」 「え? あたしが?」 「そうだ。いくら口で説明してもわからんからな。琴音のチン×で桃花の熟したケツマ×コの 味を体験してみるんだ」 こんな展開になるとは予想だにしてなかった。克彦は、どこかロマンティックな雰囲気のなか で栗岡にお尻の処女を捧げるつもりだったのだ。ところが、こんな淫らな3Pになるなんて… …。 「生でハメてやりなさい」 口調は優しそうに聞こえるが、克彦にとって、栗岡の言葉は絶対的な命令のように思えた。 「はい」と素直に返事して、克彦は中腰になって桃花の背後から迫った。 男のお尻に入れるなんてどうかしてるわ、自分はちっともそんなこと望んでいないのに……。 「桃花、琴音がハメてくれるぞ。女装レズだな、ははは」 栗岡はベッドから降り、桃花に声をかけてから、タンブラーにウィスキーを注いだ。 まだ戸惑っている克彦は栗岡のほうを見やってアイコンタクトをとった。栗岡、うむ、と頷く。 克彦は膝立ちの姿勢で、勃起したペニスの亀頭先端を桃花の肛口に当てがった……。 ☆ 幻夢22 腰をぐい、と突くと、拍子抜けするほどいとも簡単に、克彦のペニス棒は桃花のアナル孔に 呑みこまれた。 「んあんっ!」 と、桃花はわずかにのけぞって呻いた。 塗布されたローションがまだ残っているらしく、卑猥なヌルヌル感触に包みこまれながら、 管状の器官の深奥にまで挿入してしまった。 信じられない……、男に入れてるなんて……。 その異常さが克彦を沸き立たせているのも事実だった。 体の安定を保つために、桃花の腰のくびれのあたりを両手で掴む。 広い肩幅の白い背中に、手錠で縛められた桃花の手が見える。爪を長く伸ばして真っ赤なマニ キュアを塗っている。そこだけ見れば、女の手だ。いや、桃花はシーツに顔を伏せいるので、 ゆるやかにウェーヴのかかった明るい栗色の髪が小刻みにふるえている。その髪もまた、女の 髪型だった。 克彦は危険な倒錯に酔い痴れていた。髪を長く伸ばして桃花のような派手な色に染めて、爪を 伸ばして赤くマニキュアして栗岡に抱かれる自分の姿を想像すると、昂奮はますます滾ってく る。 克彦はゆっくりと腰を前後に動かし始めた。 「琴音、男のケツの味はどうだ?」 栗岡がタンブラーを片手にベッドの縁までやってきていた。 「……初めてだから……」 「そうだったな。琴音は、男のケツを掘ったこともないし、男にケツを掘られたこともない。 きわめてノーマルに、女とセックスしていた。そうだな」 「……はい」 「それじゃ、女と比べて、桃花のケツマ×コの味わいはどうだ?」 女、と言われても、克彦は京子ひとりしか知らない。京子に飲みに誘われて、半ば強引に一夜 をともに過ごすことになったのだ。そのとき、克彦は童貞だった。以来、京子と付き合い続け ているのだった。 だから、京子の女性器に挿入した感触と比べてみるしかない。 最初の印象は、女の性器とあまり変わらない、と思えた。しかし、ピストン律動を続けている と、女とは微妙に違っているのがわかってくる。アナル孔は筒状なので亀頭表面を阻む感触が ない。さらに輪状の襞壁の締め付けがきつい。柔らかく絞り上げてくる媚腔だ。桃花のこのま ろやかに熟れた肛門器は、女とセックスするよりも美味な快感をもたらせてくれるのかもしれ ない……と克彦は感じていた。 「よし、琴音、犯しながら桃花の乳房を揉んでやりなさい」 言われたとおりに、克彦は桃花の背中におおいかぶさり、手をまわして豊かな乳房に触れた。 桃花は身体をくねらせて敏感に反応する。柔らかくて量感たっぷりで、とても男の乳房とは思 えない。 「どうだ? 女とセックスしているような錯覚に陥るだろう?」 「……はい」 ふくらませた豊乳を手の平に包みこんでやわやわと揉んでやると、桃花の喘ぎはいちだんと烈 しくなる。 栗岡の言うように、男とセックスしているの、女とセックスしているのかわからなくなってく る……。 ********************************************************************** genmu2.txtへ続く