フェイク・ガール-2 『思いこんだらフル・スカトロットル』作: 玲 **************************************************************** ●1.ディスカバリーなデリバリー。 まだ午後7時だっていうのに、道には車影も人影もない。風がものさびしく枯れ枝 を鳴らしている。以前来たときは行きも帰りも車で送ってもらったから、歩くとこ んなに遠いとは思わなかった。ファッション性重視でコートを選んだから、風よけ にも心もとなく、もとより防寒機能なんてないにひとしい。冷え性の女性の気持ち に共感できるようになったもんね。 緩やかな坂を上る頃、民家はなくなり、左は林、右は高い塀だけになった。塀沿い に街灯5つ分歩いて、ようやく門にたどり着いた。ガチガチガチ。歯がカスタネッ トになってるよう。八甲田山を彷徨った兵士の気持ちにも共感できちゃうぞ。 門の奥、植木に半ば隠れているけれど、母屋に明かりがあることを確認して、イン ターフォンのボタンを押した。コートの襟をかき合わせ、足踏みしながらひたすら 待つ。この際、マッチ売りの少女にも共感しちゃおう。 『はい。ど、どちらさまでしょう』 インターフォンが懐かしの豚男ちゃんの声をさえずった。 「こんばんわ〜。お届け物にまいりました〜」 インターフォンのCCDカメラによく写るようにポーズを決めてウインクする。 『え、いや、あの、と、と、届け物って』 わは。取り乱してる。確かに、僕の格好は宅配便屋さんにはみえないだろう。間違 えられるとしたら99%出張ヘルス嬢。お姉さまファッションで決めてるし。 「出張ヘルスじゃありませーん。チェンジも不可でーす。なんて。もー、やだなあ。 約束、忘れちゃったんですか。っていうか、まだわかりませんか。ご・しゅ・じ・ ん・様」 『えええ、まさか、でも』 「寒くて死にそうで〜す。はやく入れてくださ〜い」 『い、いま行くから。いや、い、いま、開けるから』 わはは。舞い上がってる。門がリモートで開いた。敷地に入って石畳の上を歩いて いくと、母屋の方でドアの開く音がして、走る足音が聞こえた。懐かしの豚男ちゃ んが、どたどたと走ってくる。僕のところまで来たときには、かなり息切れしてい た。あいかわらず、冴えない情けないそして太った醜い中年男なのが嬉しい。 「ほ、ほんとに、き、き、君は・・・はあはあ・・・し、信じられない」 僕を上から下まで舐めるように見つめて、それでもまだ半信半疑の様子。僕はにっ こり笑って彼の前に立ち、えいっとスカートを捲りあげてやった。ガーターベルト に真っ赤なゴムパンティ。股間の穴からペニスがご挨拶しているのが見えたはず。 変態チックでしょ。 「ほとんどマスク被されてたから、顔の印象は薄くても、このおちんちんには見覚 えあるでしょ。っていっても、寒すぎて縮こまっちゃってるなあ」 「ああ、いや、はは。・・・き、君らしいなあ・・・間違いなく。と、と、とりあ えず、中に入ろう」 居間でブランデーをたらした熱い紅茶をもらい、冷凍死体がゾンビくらいに回復し た。懐かしの居間。2カ月ほど前、この床で初めて飲んだ豚男ちゃんの熱い精子の 喉ごしは忘れてない。冷え切った身体に、ブランデー入り紅茶と熱い精液、どっち が芯から温まるかなんて馬鹿なことを考えていた。 「ま、まさか、き、き、来てくれるとは、お、思わなかった。ち、ち、違う人を選 んだと・・・」 僕はティカップをサイドテーブルに置いて、ソファから滑り降り、豚男ちゃんの前 に正座した。やっぱ、ご挨拶は大事です。居住まいを正し、三つ指突いて、深々と 頭をさげる。 「ご無沙汰いたしました。少々お時間をいただきましたが、お世話になる決心と準 備ができました。本日は、この身体、お届けにまいりました。いたらぬ点も多々あ ると思いますが、性処理道具としてお気に召していただけますよう、誠心誠意ご奉 仕させていただきます。末永く、どうかご存分に使い廻していただきますよう、お 願いいたします」 決まった・・・かな。練習したんだけど。丁寧言葉は緊張します。と、彼が慌てて、 自分も床に正座し、頭をさげた。 「い、いや、こ、こ、こちらこそ。なんていったらいいのか、その、ありがとう。 ありがとう。よろしくお願いします」 こういうところが豚男ちゃんの好きなところ。床の上で互いの目があった。先に吹 きだしたのは僕の方。 「ははは。丁寧言葉は似合いそうもないですね、僕には。疲れるし。こんな僕です けど、口の利き方が悪かったら、遠慮なくペニスでも突っ込んで塞いでください」 「いや、僕も、ざっくばらんな、き、君の話し方の方が好きだよ。それにしても、 びっくりしたなあ」 「突然来たことがですか。それともこの女装のことですか」 「う、うう、両方。2カ月も、た、経ってるし、最初から僕が選ばれるなんて思え なかったし、他にふたり、こ、候補がいるって聞いてたし。いまごろ、別の人と幸 せにやっててくれればいいなって思ってた」 「えへへ。じつは、ここで一晩過ごした直後から、もうほぼ、こちらでお世話にな ろうって決めてたんです。すいません、いわなくて。でも、あの後まだふたりの方 達と会う約束でしたし。その方達も僕とのメールに誠実に応えてくれた方達だし、 会う約束をしていたのに、一方的にお断りするのも不誠実だなって思えたんで。だ から他のおふたりともきちんと会いましたし、・・・一晩いっしょに過ごしました。 そのうえでやっぱりここしかないって、もう一度決めたんです。で、その、すぐ連 絡しなかったのは・・・えへ・・・びっくりさせようと思って。それと、身辺整理 に思いのほか時間が取られちゃって。役所やら保険会社やらマンションのことやら、 家財の処分とか、ほんとに人間っていろんなものに縛られて生きてるんだなって実 感しました。でも、もうきれいさっぱり。僕はこの身体ひとつです。社会との繋が りは全部消しました。知り合いには外国に永住するって話してあります。あ、そう そう、最後に社会を利用させてもらって、これもらいました」 僕は保健所でもらったエイズ検査結果証明書を、豚男ちゃんに手渡した。もちろん 陰性。 「そこまでしたんだ。君がほんとうに本気なんだってわかったよ。いや、疑ってた 訳じゃないんだけど。なにか、ようやく少し実感がわいてきたというか。ほんとう に、僕にすべてを託してくれるんだなあって」 「信じてくれて嬉しいです。手続きだけだったらもっと早く来られたんですけど。 そんなんでばたばたしている内に、こちらで使ったあのポリマーオイルで固まった 皮膚が水膨れみたいに浮きあがってきて、全部きれいになるまで1週間以上外出が できなくなったんですよ。水疱瘡みたいに小さな赤い斑点が、腕から始まって一晩 で全身に拡がって。ひとつひとつがだんだん大きくなってきて、赤から塩辛みたい な色に濁るし。ぶよぶよしてるし。なにか首から下が爛れたみたいになって。けっ こうホラーしてましたよ。見た目の不気味さは首から下だけでしたから、服に手袋 とマフラーでもすれば隠せましたけど、あのポリマーって、皮膚から浮くと、なん か独特の酸っぱい臭いを出すようになるんです。知ってました?ご主人様が自分に 試したのって部分的にだから気がつかなかったかもしれませんけど、全身からとな ると凄い臭いです。皮膚の強度はハサミくらいじゃ切れないし。錐で穴を開けて、 カッターの刃をねじこんで・・・力入れ過ぎたり、もし手が滑ったりしたら大怪我 しそうでしたけど・・・なんとか切れ目を入れて無理に剥がそうとしたら、ポリマ ーと皮膚がまだ一体化している部分まで剥がれかけて出血しちゃうし。もちろん洗 ったって擦ったって無駄だし。結局、水ぶくれが全部つながって、全身のポリマー 皮膚が完全に浮いた状態になるまで、外出できませんでした。でも、最後は、なん ていうか蛇の脱皮みたいで、異様な楽しさでしたけど。ポリマーの中から、垢だら けのおチンチンと同じ臭いが噴きだして、とんでもなく臭かったですけど」 「そうか、それは申し訳ないことをしたね」 「いえいえ。ずっと使い続けるならあのポリマーオイルは素晴らしいものですよ。 色は白くなるし、肌は手入れをしなくてもつやつや。次に会った人とのプレイで鞭 で打たれたんですけど、傷ひとつつかないし。痛みも感じ方が半分くらいに感じま したしね。痛いプレイは苦手だったんですけど、好きになりそうですもん。それに、 さすが宇宙活動用。暑さ寒さに完璧に強くなりますね。皮膚と一体化している間は、 この時期素っ裸で寒風にさらされても寒さを感じないですし、そもそも身体が冷え ません。面白いからいろいろ実験してみましたけど、サウナに入っても汗ひとつか きません。暑さ寒さの皮膚感覚が、ほぼ完璧になくなるみたいですね。調子に乗っ て熱湯を腕にかけてみたときは、熱いというかほんのわずか痛痒いような感じがし ただけでした。その部分の色がほんのり赤っぽく変色して、それから2〜3日は強 く触るとちくちくしてましたが、ひどい火傷にはなりませんでした」 「おいおい、無茶するなあ。大怪我にならなくてよかったけど」 「おもしろいと思っちゃうと、とことん確かめたくなる性格なんで。じつは、酸と かも試してみたかったんですけど」 「だ、だめだよ。もうこれ以上、け、怪我をするような実験はしないで。頼むよ。 しかし、き、君がいまここにいるのも、もしかしたら変態に対する君のその、と、 と、とことん極めるっていう性格のおかげかもしれないね」 「えへへ。そういう面もあるかも知れませんね。じつは、この女装は、最後に会っ た人が女装させる趣味があって、命じられるままに化粧してみたら・・・自分でい うのもなんなんですけど・・・けっこうイイ線いってるし。まえまえから、興味は あったんですけど、化粧道具やら衣装やら一式あつらえるのが手間ですし、なんた って貧乏学生にお金はないし。でも今回、家財を処分してお金ができたし、ご主人 様も、こういうのがきっと好きだと思ったから」 「いや、まあ、好きだけど。ど、ど、どうしてそう思ったのかな」 「だって、このまえ着せられたラバースーツに乳房ついてたじゃないですか。コル セットも女性形態にするためのものでしょ」 「あ、そうか。で、でも、やっぱり君は鋭いね」 そのとき、僕のお腹が“鋭く”鳴った。 ● 2.ホールド・ミイ・タイトで、めでたいっと。 豚男ちゃんがありあわせでパスタを作ってくれた。驚いたことに玄人はだしのでき ばえで、ダイエット意識がきれいに吹っ飛ばされちゃった。 「ごちそうさまでした〜。高級イタリア料理店からこっそり出前取ったのかと思い ましたよ」 「独り暮らしを40年続ければ、だ、誰だって、か、簡単な料理くらいできるよう になるよ」 照れてる。あはは。 「元気でました。エネルギー満タン。充電完了。えー、いつでも性処理用具として ご使用いただけますよ」 「いや、あの・・・まだ、と、と、突然で、心の準備が。それに、食べた直後は消 化に悪いし」 責めていじめて苦痛を与えて、性欲を処理するための道具に過ぎない相手の消化の 心配をしてくれるご主人様って珍しいような気がする。 「あは、遠慮してますね。でも、まあ、こんなに突然だと気持ちの切り替えも難し いですよね。そうだ、じゃあ、儀式をしませんか」 「ぎ、ぎ、儀式?」 「ええ。性処理道具になるための誓約の儀式。以前、メールでそんな話が出たこと あったじゃないですか。ネットで検索したりして。あのときのご主人様の書いてき た儀式の手順、すごく興奮させられました。覚えてますか」 「あ、う、お、覚えてるけど。だ、だって、あれは、く、空想の話だし。ほんとに あんなことして・・・」 「もちろん、いいんです。きっぱり」 豚男ちゃんは急に真剣な顔になって、黙り込んだ。顔が赤らんできた。現実には不 可能と思い、妄想の歯止めなく書いた話が実現可能といわれて、嬉しいやら心配や らで動悸が昂進しているんだろうね。 「そうか、そうだな。き、君がここまで捨て身でやってきたというのに、僕は驚い てうろたえてばかり。それじゃあ。き、君に、た、対して失礼だ。僕も腹をくくら なきゃいけないな。・・・ご、ごめん。僕に1時間くれないか。いろいろ、か、か、 考えたり準備する時間」 対人苦手症の豚男ちゃんらしいやり方だ。でも気持ちはわかるな。心の準備もして いないところに、突然押しかけ変態マゾが台風みたいに飛びこんできたら、誰だっ てちょっとひとりになって一息つきたくなる。 「はい、喜んで」 「その間、風呂にでも入って、冷えた、か、身体を暖めるといい。ちょうど入ろう と思って、お湯は張ってあるし、タ、タオルやなにかも全部出してあるから、自由 に使って。もし時間が余ったら、何でも好きなことしてていいし、何でも、か、勝 手に使ってくれていいから。浴室は知ってるよね」 「はい。わかりました。あ、じゃあ、お風呂から出たら、地下室見学しててもいい ですか。この前は目が塞がれてて、なんにも見られなかったんで」 「もちろん、いいよ」 「あとひとつ、お願いがあるんですが・・・」 「なんだい」 「君って呼ばれるのが、性処理道具には似合わないっていうか、入りこめなくなっ ちゃうっていうか・・・。だから僕に、性処理道具としての新しい名前をつけても らえませんか。今日から新しく生まれ変わるために、人としての名前は捨てたいん です」 「そうか・・・そうだよね。わかった。それも、か、考えるよ」 すまなそうにぎくしゃくと背を向けた豚男ちゃんは、ドアの前でゼンマイが切れた かのように歩みを止め、しばらく固まっていたかと思うと、急に雄牛のように鼻息 も荒く身を翻して僕の前へ戻り、力まかせに僕を抱きしめた。わお。次はキスかな って期待してたら、豚男ちゃん、僕の耳元でささやいただけでした。 「ありがとう」 んー。応える間もなく、照れくさそうに体を離した豚男ちゃんが、逃げ去っていっ ちゃった。期待は裏切られたけど、それがなんとも不器用な豚男ちゃんらしくて、 じんわり温かいものが胸に拡がった。 温かいものは胸いっぱいに拡がったけれど、物理的に暖めてくれるものでもないし、 直腸いっぱいにインサートされた摩擦熱にも劣るので、さっさとお風呂をいただく ことにする。ここに来る準備として、身体の内も外も徹底的に磨きこんできたから、 ウイッグを外し、化粧を落とした後は、ひたすら湯船に浮かんでいた。温まるう〜。 八甲田山よさらば。マッチよさらば。 それにしても豪華な浴室だなあ。浴槽は中でレスリングができるほど広いし、床は 大理石だし、天窓まである。群雲ににじむ月など眺めて、ずーっと極楽していたい ような気分だけど、身体の芯までほっかほかになって、これ以上浸かっていたら芯 から溶けてクラゲに変身しちゃいそうな気がしてきたので、湯船からしぶしぶ這い 出した。 浴室を出るとき、服はあえてそこに残し、バスタオルを女性式に胸から巻いただけ の素裸でいることにした。だって、すぐ脱がなきゃならないし、こっちのほうが色 っぽいもんね。屋内は温度管理されているみたいでこんな格好でも風邪を引く心配 もなさそうだ。では探検に出発。 廊下をぺたぺたと裸足で歩き、エレベーターで地下へ降りる。エレベーターの扉が 開くと、そこは・・・ミニキッチンだった。あれえ、秘密の地下室っていう淫靡な 期待をしていただけに、ギャップにとまどう。壁際に大型冷蔵庫とこぢんまりした 流し台。電子レンジに電子ポット、ミキサーなんかが並んでいるけれど、調理器具 や食器は目につかない。小さなテーブルの上に灰皿と飲み残しのマグカップ。椅子 代わりなのか車椅子が一脚。右側の壁は全面収納棚で、部屋の印象は独身向けワン ルームマンションじみてた。 そんな、そこはかとなく日常っていう部屋にまるでそぐわないものが、正面の壁に めりこんでる。金庫室並に分厚い鋼鉄の扉。ロックされたらスーパーマンじゃなき ゃ破れないだろうな、なんて思いつつ、いまは開いているので、おじゃましまーす といって入る。もちろん誰もいないけどね。ここに閉じこめられるのは僕なんだか ら。んー、つまり僕の部屋ってことかな。いやいや、僕は単なる性処理グッズのひ とつ。せいぜいお掃除ロッカーひとつ分が分相応でしょう。僕って謙虚。 そこは漆黒の部屋。期待にたがわぬ怪しさ満点の部屋だった。部屋の広さは十畳間 って感じ。でも倍の広さに見えるのは、右手の壁が全面ミラーになっているから。 広くはないけど、あんなことしたりこんなことしたりするには充分なスペースだ。 むふふ。閉所愛好症の僕としては、密閉感、閉塞感がほどよさげ。床も天井も鏡以 外の壁も、真っ黒な硬質ゴムが貼りつけられている。 奥の壁がクローゼットになっているようだ。左壁の手前隅には、透明なアクリ箱が あって、丸めて納められた太いホースが透けて見える。汚れ落としに、水攻めにも 使うんだろう。アクリ箱は短い足で床から少し浮かされていて、その下に大きな排 水口が見えた。つまり、あんなことやこんなことをした後でも、放水してそのまま 流せちゃうってことだな。うーわくわく。 地下にしては高めの天井には、無数のレールや金属棒が張り巡らされていて、チェ ーンが何本か垂れさがっている。その奥に照明と空調。もし空調が故障したら窒息 死の可能性もあると思い至ったけど、それはそれで、性処理道具としてふさわしい 死に方のようにも思える。照明は舞台並に設備されていて、よく見るときちんと防 水処置されている。なるほど、感電死の危険も考慮されてるんだね。 スポットライトが多数あったけど、いま点灯されているのはただ一灯だけ。正方形 の部屋のちょうど真ん中に、高さ1メートルほどの旗竿みたいな太い金属柱が、床 から垂直に生えている。その真上のスポットライトだけが円錐の光を投影して、金 属柱を妖しく光輝かせていた。 なんだろうこれ? ● 3.誓約に制約は違約でイヤ〜ン。 こんなもの、前にこの部屋で責められたときにはなかったように思う。でも、なに せ全頭マスクで視覚を奪われた状態で連れてこられ、意識朦朧で運び出されたから、 確信はないけど。きらきらと、輝きは綺麗だけど、どこか凶悪な趣もある。 僕は愚かな蛾のように吸い寄せられちゃった。入り口から12歩。うーん、以前連 れてこられたとき、確かにこの場所で吊られて、あんなことやらむふふなことやら、 いや〜んなことやらされたんだよね。興奮しまくっていたけど、目を塞がれて他に することもなく、歩数を数えたんだよなあ。確かに覚えてる。入り口をまたいで入 って、まっすぐ12歩。この金属柱の位置も入り口からまっすぐ12歩の場所なん だよね。あのとき、こんな物があったのなら、吊られてぶらぶらしていた僕の身体 が何度も当たっていただろうしなあ。 金属柱の直径は5〜6センチほど。先端は卵状に一回り大きくなっている。先端か ら20センチくらい下に、金属柱よりふた回りほど大きな幅広のリングが嵌ってい るように見えたけど、よく見るとしっかりと一体化していた。こういうのって、な んていうのだろう。鍔。へり。節。でっぱり。張り出し。ぴったりこないけど、ま あそんなものだ。 リングの厚みは1センチほど。その厚みの面をぐるりと一周して、えーと、ひいふ うみい・・・八個、円く浅い穴がある。目を近づけると、それは穴の中に納められ た金属棒の先端だった。な〜んとなくだけど、この棒が飛び出してロックになるん じゃないかという気がする。 「これって。まさか・・・」 ただのアートなわけないしなあ。先端の丸みがなんとも・・・お尻の穴がむずむず するのはなんでかなあ。 「き、君、いや、おまえのために、つ、造ったけど、こ、このまえは、つ、使わな かったんだよ」 振り返ると豚男ちゃんが、なんていうのか、ちょっと男らしい雰囲気を漂わせて立 っていた。いつもどんなときでも豚男ちゃんにつきまとう、おどおどオーラが少し 弱まったような。腹をくくったからだろうか。だとしたら、ちょっと惚れ直したぞ。 豚男ちゃんは僕のタオル巻き姿を見ても動じなかった。ちぇっ、不発か。グラスの 載ったワゴンを押して僕の前に来ると、おごそかに命じた。 「裸になってそこに跪きなさい」 「はい。ご主人様」 神妙にお答えする。いいなあ。命令されるとぞくっとする。僕も気合いを入れなく っちゃ。タオルを外し、金属柱を背にして滑るように跪く。外したタオルを流れる ように畳んで、後ろの床にすっと置く。所作は優雅に気品よく、が僕のこだわり。 「いまから、おまえが性具となるための、ぎ、儀式を行う」 豚男ちゃんの声はちょっと震えていたし、緊張してるのか台詞が固いけど、でもも のすごい進歩だ。よしよし。紙を渡された。両手で受ける。文字でぎっしりのプリ ントアウト。そのいちばん上には『性具誓約書』と記されてる。 「その誓約書を、はっきりと大きな声で読みあげなさい」 ぞくぞくぞぞぞ。感じる〜。座ってるのに、立ってしまうものな〜んだ。とふざけ ている場合じゃない。僕はひとつ深呼吸し、頭の中を変態マゾモードに切り替えて、 粛々と読み始めた。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 性具誓約書。 1、 私は、生命、肉体、精神のいっさいの自由と権利を放棄し、人格を有さず、    御主人様の性的欲求を処理する一個の道具『性具』として、御主人様の所有物となり、    全身全霊をもってお仕えすることを誓います。 2、 私は、性具としての呼称を『ペロ』とし、    終生をこの呼称のもとに過ごすことを誓います。 3、 私、ペロは、御主人様が望まれるいかなることがらにも、    時間、場所、状況、可能不可能など内容の如何を問わず、    性具として使役される喜びをもって無条件に服従し、    御主人様が肉体的にも、精神的にも、常に快適で充足しご満足いただけるよう    能力のすべてを捧げることを誓います。 4、 私、ペロは、御主人様の御命令があった場合、御命令された事柄の完了、    または御主人様よりの中断の御命令があるまで、無限に継続し続けることを誓います。 5、 私、ペロは、御主人様のきまぐれ、お好みのまま、    あるいは、性具としての性能向上、機能拡張のために、    薬・興奮剤・麻薬の使用、刺青、焼き印などの所有物としての刻印、ピアッシング、    豊胸、整形、性器の拡大、伸張、あるいは切除など、    どのような損壊、除去、変形、改造もすすんで甘受することを誓います。 6、 私、ペロは、御主人様の御命令あるいは定められた規則によって、    家具、装飾物、性具、家畜、奴隷、メイドなど、適宜、役割を担い、    与えられた役割を遂行するために最適の動作、振るまい、音声、言語、技能を    速やかに修得し、かつ混同することなく駆使して、ご奉仕することを誓います。 7、 私、ペロは、性具として最高の機能を開発・維持するため、    身体の柔軟化、口、肛門、ペニスの機能強化のための訓練に励み、    同時に、さらなる高性能な性具となるため、精進することを誓います。 8、 私、ペロは、御主人様の御命令あるいは問いかけに応える場合を除き、    許可なく発言・発声することなく、発言の際には常に最上級の敬語を使用し、    一切の非礼を行わないことを誓います。 9、 私、ペロは、御主人様および御客様が排泄を希望された場合、ただちに便器となり、    小便および大便の区別なく粗相なきよう努め、    また、ごみ箱、痰壺、灰皿として御利用の場合も同様に、    感謝していただくことを誓います。 10 私、ペロは、御主人様が他の殿方・ご婦人と交際される場合、    御主人様の御友人に対しても、御主人様に対するのと同様にご奉仕し、    交わられる場合には、御命令あるまで床にて待機し、いったん御命令があれば、    おふたりの愉しみがより充実したものとなるよう、誠意を持ってご協力し、    また、交合後のおふたりの性器の舌清浄、    殿方・ご婦人の胎内に放出された精液の吸い出しなど、    清掃・事後処理作業に喜びを持って、全力で努めることを誓います。 11、私、ペロは、御主人様の御命令あるいは定められた規則によって、    炊事、洗濯、掃除等、御主人様および御客様の身の周りの一切のお世話を    感謝して努めさせていただくことを誓います。 12、私、ペロは、洗濯おいて、御主人様の下着は必ず口で汚れを吸い取り、    その後に心を込めて手洗いすること、    また、便所掃除において、便器の清掃は舌をもって行うことを誓います。 13、私、ペロは、日常において別途御命令なき場合は、屋内外を問わず、    一切の体毛を除去、および定められたゴム衣装の装着と性器の開陳を原則とし、    御主人様の御前にて、待機においては、常に太股を開いて正座し、両腕を背後に組み、    ご鑑賞の妨げにならないよう心がけ、    移動においては使役による必要時を除き、四つ脚で這い歩くことを誓います。 14、私、ペロは、原則として御主人様の排泄物と、残飯をもって餌とし、    それ以外の何物をも摂取しないことを誓います。 15、私、ペロは、一切の排泄行為を、御主人様の許可なくしては行わず、    原則として監視の元、便器食器兼用のボウルを使用して行うことを誓います。 16、私、ペロは、御主人様の御命令により、どのような場所、状況でも自慰し、    また、御命令以外での自慰は一切行わないことを誓います。 17、私、ペロは、一日に一度、この誓約書を黙読し、    その内容の徹底を図ることを誓います。 18、私、ペロは、万が一にも奴隷の心得を怠るようなことがあれば、    どのような罰をお与えいただても甘受することを誓います。 19、私、ペロは、御主人様の選定された懲罰において、道具が必要な場合、    直ちに自ら口に咥えて持参し、懲罰の後は可及的速やかに片づけることを誓います。 20、私、ペロは、自身に非がなく、御主人様の気の向くままに懲罰を加えられても、    謹んでお受けすることを誓います。 21、私、ペロは、消えることのない傷跡が残るような懲罰を与えられても、    御主人の手で刻まれたものと心から感謝し、    もし使役に不都合が生じてもかまわないと御主人様が判断された場合、    たとえ手足を切断されようとも甘受することを誓います。 22、私、ペロは、御主人様の御命令により、どなたの元に貸し出されても、    御主人様の名誉や評価を貶めることのないよう、    性具としての最高級の機能を発揮し、御奉仕することを誓います。 23、私、ペロは、御主人様の必要がなくなり、    生命の停止を含む廃棄・払い下げ処分とされても、    諾々と従うことを誓います。                    私、ペロは、以下に自記署名の上、                    御主人様に本性具誓約書を献上致します。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 読み終わったとき息切れした。「性具」だって。「性処理道具」よりいやらしい感 じがする。股間が痛いほど張り詰め、床にこぼれるほどの我慢汁が流れだしている。 この誓約書は、以前僕がネットで見たものとはかなり違っている。というか、メチ ャクチャ厳しい条件になってるし〜。お遊びレベルではほとんど実行不可能な内容 だよね。でも、僕はたぶんこの誓約書通りに、それ以上にできちゃうんだろうなあ。 そして新しい名前。僕は『ペロ』。『ペロ』。犬の名前だね。ふふふ。気に入りま した、新しい名前。ペンを渡されたので、では、サインしてっと。豚男ちゃんが誓 約書を受け取り、アクリの額に入れた。最上級の敬語って書いてあったな。それと ポーズ。僕は股を開いて座り直した。手を後ろに組む。 「まったく異存がございません。これより『ペロ』として、性具として、どうかよ ろしくお願いいたします」 「あ、いや、こ、こ、こちらこそ。いや、その、け、敬語はやめましょう。なんだ かどぎまぎしてしまう。それに、こ、これ、ネットで慌てて検索して、拾ったもの を、ちょ、ちょっとだけ修正したものだから、なんだか凄い内容になってるし。こ、 こ、今後のこともいろいろ相談したいし。それに、け、敬語でいわれると、た、た、 他人行儀で。僕はもっといろんなことを、き、君と、あ、いやペロ君と、楽しく話 したいし。き、君の話し方、あ、いや、ペロ君の話し方、大好きなんだよ」 「え〜、気分出るんですけど。まあ、お望みなら。って、こんな生意気な話し方が いいんですか。あ、でも、さすがにペロ『君』はやめてくださいよぅ。呼び捨てに してください。お願いです」 「あ、うん。わかった。ペロ。こんな名前でよかったのかな」 「もちろん。気に入ってます。犬みたいで屈辱的なところがたまりません。それに、 この性具誓約書、すごいですね。あ、遠慮される前にいっておきますけど、僕、こ の誓約書通りにやっちゃいます。やっちゃってください。御主人様のうんちを食べ る覚悟とか、最初にここに来たときからできてますもん。というか、そこまでやっ て欲しいです。御主人様だって、やれるもんならやってみたいって夢想してません でしたか」 「そ、それは、その・・・か、か、考えたことはあるけど」 「じゃあ、しちゃいましょうよ。やる方もやられる方も同じこと望んでるんだから、 問題なし。敬語だけは僕も苦手だから、いうことききますけど」 「でも・・・いや、やっぱり、それは・・・」 もー。煮え切らないったら。誓約書を読んで昂った情欲が、肩すかしを食らった。 僕はちょっとイラついた。で、ついいっちゃった。 「もう、どうしてそうなのかなあ。豚男さん。そこに座ってくれますか」 僕は目の前の床を指さした。 「え、あ、はい」 豚男ちゃんが弾かれたように僕の前に正座する。僕も豚男ちゃんの膝に膝をくっつ けて座り込んだ。 ● 4.マイウエイをフランクに。 「重苦しい話になっちゃいますから、あんまり話したくはなかったんですけど、ご 主人様に踏ん切りをつけてもらうために、僕自身のこと少し話させてもらいます。 真剣にいいます。嘘はいいません。だから、真剣に聞いてくださいね」 「はい」 僕はしばし息を継いだ。自分の過去に思いを馳せたときいつも感じる、船酔いのよ うな、胃のあたりが不安定にざわめく感覚が強まっていた。僕は動悸の強まる胸に 手を当てて、なんとかそのざわつきを押さえこもうとした。ふと、豚男さんの、僕 を見つめる途方に暮れたチワワのような目と目があって、なんだかふっと気持ちが 軽くなる。 「中学2年の時でした。学校帰りに近所の駐車場に落ちていたSM雑誌を拾って読 んでしまったんですよね。頭の中に火花が散るようなショックで、そういう世界が あることを知りました。その夜、生まれて初めて自慰をしました。そのとき僕の妄 想の中では、その雑誌の中でいたぶられている女性の方に、自然と自分が重なって ました。痛いほど興奮すると同時に、生まれて初めて、居たたまれないほどの罪悪 感も感じました。まだ無知だった僕には、自ら望んで苦痛や辱めを受ける人たちが いるなんて信じがたいことで。だからそれは犯罪で・・・そんな悪魔的な世界に魅 入られた自分も犯罪者のような気がしたんです。拾った本はいたたまれなくて、す ぐ捨てちゃいました。でも、いったん頭の中に擦り込まれた妄想は、抑制しようと すればするほど心の底で膨らんで・・・。孤児だった僕を引き取って育ててくれた 叔父に、自分で自分を縛って自慰している姿を見られてしまいました。叔父は、無 言で、それからもその話題に触れることはしませんでしたが、それが僕にとっては 叱られるよりも重いプレッシャーになりました。叔父との関係がぎくしゃくしたも のになって、それを修復する間もなく、叔父の癌が発見され・・・すでに手の施し ようもない状態で、叔父はあっけなく他界しました。入院してわずか3ヶ月しか保 ちませんでした。苦しむ叔父の姿を見ていると、なんだか自分のせいのような気が して、叔父の死によって僕の罪悪感は解消する機会をなくし、マゾヒスティックな 欲求や妄想は徹底的に押し殺し封じるしかありませんでした。でも、それがいま思 えば、よくなかったんでしょうね。秘めたことで、押さえつけたことで、欲求不満 がじわじわと僕の心を裏側から蝕んで」 一息ついて、豚男ちゃんを見ると、初めて聞く僕の身の上話に身じろぎさえしない で聞き入っている。 「それが高校1年の時です。天涯孤独になっちゃいましたが、叔父がマンションと いくらかの蓄えと保険金を残してくれたおかげで、学業は続けることができました。 傍目にはごく普通の高校生活に見えたと思います。でも僕の精神は、ひどく不安定 になっていました。なにか、世界と僕との間に透明な幕が一枚はさまっているかの ようで、自発性がほとんどなくなり、判で押したようなパターンでしか行動しない というか、それしかできないというか・・・朝起きて、学校に行って、家に帰り、 勉強して眠るだけの生活。単純なパターン化した手順を、繰り返しなぞることで、 脆い心をかろうじて保持していたんだと思います。そんな離人症状態は、大学に行 ってからも続き、先輩から男同士の関係を迫られたのが1年の夏で、まるでゾンビ かロボットみたいに、自分の意志というものが希薄になっていた僕は、請われるま まに関係を持ちました」 なんだか要点がまとまらない話になってしまった。もっと簡潔に話すつもりだった んだけど。でも、豚男ちゃんが真剣に聞いてくれるので救われる。 「その当時の僕は、いまの僕とは別人みたいで、感情を表すっていうことがなく、 能面みたいに無表情で・・・先輩にしてみたら、そんな僕の無反応さに苛立ったの かもしれません。あるとき、先輩が僕を縛りました。目隠しと猿ぐつわも。僕を動 揺させたかったんでしょうね。おままごとじみたものでしたが、僕が押し込め封じ てきた妄想の封印を解くきっかけになってしまいました。潜在意識の中で肥大しき っていた妄想があふれかえり、同時に封じていた罪悪感と感情とが、どちらも破壊 的に爆発しちゃいました。・・・とにかく収拾がつかなくなってしまって、泣いて 喚いて暴れて、その先輩ともそれっきり。それからが大変でした。いったん解き放 たれた欲求不満と罪悪感と自己嫌悪と被虐妄想と自己破壊願望が入り乱れて・・・。 突然居ても立ってもいられなくなったり、泣き出したり、吐いたり、過呼吸になっ たり、目眩に動悸に頭痛にと、精神だけでなく身体的な不調まで出てしまい、休学 して引きこもりみたいになりました。いま思えばさっさと病院に行くべきだったん でしょうけど。鬱状態で自暴自棄になって自殺まで考えたり、妄想の内圧が高まっ て破裂しそうになるのを、自分で自分を縛り、自虐して、かろうじて内圧を下げて いるって状況だったんです」 ふと当時の感覚が蘇りそうになって、胸が騒ぎ、僕は大きく溜息をついて意識を逸 らせた。 「自分が臓器部品として売られて、生きたままバラバラにされたいとまで、真剣に 思い詰めるようになって、さすがにこのままでは危険だと思い、それまでほとんど 興味のなかったネットで、心理学とか神経症とかの知識を読み漁りました。そのう ちに僕のような被虐妄想を抱く人や、SMとして実践している人たちが実際にいる ことを知って、SM掲示板やチャットに参加して、別人格になって妄想を書き散ら すことで吐き出しながら、自虐と自慰でかろうじてバランスをとっていました」 いまここで、こうして話している僕は、そのとき創り上げた人格なのかもしれない と思うことがある。深く追求すると怖いことになりそうだから、適当に思考停止し ているけれど。 「そうやって参加していると、気の合った同士が現実に会ってプレイしたりしてい ることも知りましたし、誘いも多く受けました。でも、僕の膨らみきった妄想は破 裂寸前で、片手間みたいなプレイやお遊びで、欲求不満をこれ以上高める結果にな ったとしたら、今度こそ自己破壊しちゃうか精神が壊れるっていう予感がありまし た。このままなんとか自分を騙し騙し、大学を卒業して適当に就職して結婚して、 人並みで普通の生活を送るっていう未来も、できるだけ冷静に客観的に考えました。 何度も何度も考えましたけど、どう考えてもそういう人生に魅力を感じることがで きませんでした。そうだとしたら、僕の膨らみきった妄想以上のことを、現実に与 えてくれる相手を捜すっていう選択肢しか残りません。後はご存じの通りです。だ から僕は徹底的にマゾとして扱ってもらいたいですし、そのためには、まともとい われる人生を捨てる決心もついています。思いつきなんかじゃありません。真剣に 考えて、人生を賭けてご主人様を選んだんです。最初の掲示板での告知でも、メー ルでも何度も念を押しましたよね。一生飼ってもらうなんて無理なことはいわない ですが、少なくとも5年10年のスパンで、飼育してもらい、24時間365日、 徹底的に最低のマゾ扱いをしてほしいって。家も売り、なにもかも精算してここに きたんです。人間は捨てました。だからこんなこともできたんです」 僕は口を開けて指を入れ、上下の歯を外して引っぱり出した。入れ歯だけど、ただ の歯じゃない。豚男ちゃんによく見えるように思いっきり口を開き、一本の歯も残 っていないことを示す。豚男ちゃんの目に、歯のない口をしっかり焼き付けて、入 れ歯を戻した。入れ歯がないとちょっと滑稽な話し方になっちゃうもんね。豚男ち ゃんの目がドングリみたいに開いてる。 「もういまは、一本の歯もありません。これなら口奉仕の時にどんなに苦しくても、 我を忘れても、歯を当てて傷つけたりする心配もないです。今回のお見合いで、最 後に会ったご主人様候補の方が歯医者さんだったんです。そちらの方にはお世話に ならないというのに、ずうずうしいのは承知で、必死でお願いして、抜歯と入れ歯 を作ってもらいました。この入れ歯、見た目は普通なんですけど、じつはゴム製な んですよ」 僕は指を歯に当てて強く押して見せた。歯がくねりと曲がる。 「硬質ゴム製だから話すぶんには不自由ないんですけど、固形物は食べられなくな りました。豆腐とかよほど軟らかく煮たものなら大丈夫ですけど、それ以上固いも のは噛み切れません。でも、それでいいという覚悟でやってもらいました。これな ら、僕が心底本気で、真剣で、そしてどれくらい切羽詰まっていたかわかってもら えますか。だから、頼みます。お願いします。僕を助けると思って、遠慮や気づか いはもうやめてください」 豚男ちゃんは、あっけにとられた顔で、言葉もない様子だった。でも、僕が正面か らその目を見返しても、目を逸らすことはなく、それからその表情がゆっくりとほ どけていく、つと視線をさげて、しばらくそのままなにやら考え込んでいる様子だ った。 それからゆっくり視線をあげ、僕を正面から見据えたその目は、いつものうろうろ した動きもなく、頼もしいくらいにしっかりとして、そして優しさがあった。豚男 ちゃんは、よいしょっと膝を崩し、あぐらをかいて、両手を拡げる。 「こ、こっちに来て、座ってくれるかい」 「え、あ、・・・はい。・・・失礼します」 当然、四つん這いで進む。豚男ちゃんを跨いで正対して座るのか、あぐらを椅子代 わりに背を向けて座るのか迷っていると、豚男ちゃんが僕の手を取り、背を向ける かたちで座らせた。 豚男ちゃんのあぐらの椅子は、僕のために誂えたかのように、僕のお尻にフィット する。豚男ちゃんの胸肉に背を預けると、後ろからふんわりと抱きすくめられた。 太めの豚男ちゃんのお肉は、最高のクッションだと思う。豚男ちゃんの体臭が、温 かく僕を包み、1カ月前の強烈な一夜の思い出がフラッシュバックした。 ふと、子供の頃、叔父とも、よくこうしてあぐらの中に座ったことを思い出した。 だからなのか、なんだかとても懐かしい想いと、性的な想いがいっしょくたになっ て、ふうっと口から息が漏れていた。耳元で豚男ちゃんが柔らかな声で話し始めた。 「なんだろうね、ようやく、き、君が、あ、いや、ペロが、身近に、か、感じられ たよ。ペロも、若いのに、ハードな人生を送ってきたんだね。ち、ちょっとだけだ ろうけど、理解できた。妄想に押し潰される、き、気持ちもね。・・・僕も同じよ うなものだったから。ペロと一晩過ごすためだけに、こ、こんな設備や、ど、道具 を、た、大金かけて用意したりしてね。ペロが僕を選ぶ、か、可能性など、あり得 ないと思ってたのに。で、でも、こ、これが僕なりの、自分の肥大した妄想に押し 潰されないための方法だったんだろう。ペロと知り会って、まだ最終候補に残る前 から、もう、ち、地下室の内装や、ペロのための衣装一式や、と、特製の道具なん かを準備しだしてた。そうやってなにかを、妄想だけでなく、ぐ、具体的に考えた り、け、計画したり設計したり、か、買いそろえたりすることが、僕にとっての、 ガ、ガス抜きだったんだろう」 豚男ちゃんの腕に力がこもった。 「話を、き、聞かせてもらって、ペロのことがいっそう愛おしく思えるよ。だ、だ って、ペロと僕は、似たもの同士だとわかったから。見た目は美女と野獣だけれど ね。愛おしいからこそ、僕はペロを、ペロの妄想以上に扱わなければならないんだ」 僕の身体の芯に固く巻きつき、がんじがらめに結びついていた鋼鉄のワイヤーが、 するっと解けたように感じた。身体から無駄な力が抜けていく。このまま後ろ向き に、豚男ちゃんの柔らかな肉にめりこみ、そこで溶けてしまいたい気分。なにかい いたかったけど、言葉にならなかった。だから、僕を抱きしめている豚男ちゃんの 腕を、そっと抱きしめた。 「ペロのこと、だ、大事にするよ。だ、大事にするからこそ、もう遠慮はしない。 こ、こういう性格だから、と、時々怯んでしまうかもしれないけれど、と、とにか く、ど、努力する。だ、だから、一生とはいわない、ペロが贖罪を済ませて、再生 して、もう一度人間に戻りたいと思う日が、く、来るまで、僕といて欲しい。そし て、で、できうるものなら、き、記号みたいな、ご、ご主人様としてだけじゃなく、 僕を僕として愛してくれるようになって欲しいと思う。こ、こんなひどい面相の男 には、無理なお願いかな」 胸にナイフを突き込まれたみたいに、驚いてしまった。豚男ちゃんは“贖罪”とい った。僕でさえ、自分の非常識な行いの底にある意味に気がつくまで長い時間が必 要だったのに。豚男ちゃんはたったこれだけの話から見抜いてしまったというのだ ろうか。見た目に騙されてしまうが、あなどれないお方だ。でも、自分を見透かさ れても不快じゃない。なんだろう、恥ずかしいのか嬉しいのか、よくわからない感 情が湧いてきて、全身がボッと熱くなり、まるでイッた時のように身体が震えた。 声が出るようになったのは、深呼吸を3回した後だった。 「愛とか恋とかって、よくわかりません。でも、僕の心の中にはこの2カ月、そし ていまも、ひとりの男の人が居座ってるんですよ。その人はねえ、こんな太い腕で、 こんな毛だらけの脚で、こんなお腹のお肉で、こんなお尻で、小さな目で、大きな 鼻で、大きな口で、広いおでこで、腋臭があって、煙草臭い口臭で、そして恥垢で いっぱいの太くて長いおチンチンしてるんです。人が苦手で、気が弱くて、遠慮深 くて、優しくて、困っちゃうくらい自信がなくて、性欲絶倫で、妄想でいっぱいの とんでもなく普通じゃない人なんです。でね、その人を、思い浮かべただけで、な んだか温かい気持ちになるし、抱きつきたくなるし、安心するし、おしゃべりにな るし、楽しいし、信じられるんです。他の人には何故か感じなかった気持ち。いい も悪いも全部含めて、僕の中にその人が住み着いちゃって、それがなんでか不快じ ゃないんですよね。これって、ご主人様っていう単なる記号なんでしょうか?」 僕は力を込めて、上体を深く彼のお腹に埋めた。 「だから、どうか、末永くそばにいさせてください」 僕の口が、豚男さんの唇で塞がれた。舌が絡み合い唾液が混ぜあわされ、唇が接着 してしまったかのように感じるほど、長くて濃厚なベーゼだった。唇がなごり惜し そうに糸を引いて離れたとき、フライパンで溶けていくバターの気分がわかったよ うな気がした。 「ところで、さっき僕のことを『豚男さん』って呼んだけど、僕の昔のあだ名のこ とメールに、か、書いてたっけ」 え。わああああああああ。大失敗。あわわ。どうしよ。せっかく、いい雰囲気にな ったのにい。嘘ついちゃおうか。ごまかせないかな。うー。うー。だめだ。嘘つい ちゃいけない気がする。気を悪くしたらどうしよう。でも、でも、でも、えーい。 「ごめんなさい。ごめんなさーい。じつは、じつは、最初にあったとき心に浮かん だ印象で、御主人様のことを考えるときの愛称にしてたんです。でも、でも、馬鹿 にしてるとかいうんじゃなくて、絶対そうじゃなくて。愛称なんです。なんか可愛 いから。『豚男さん』って。ね、可愛く聞こえるでしょ。ほんとに、待ち合わせし て、一目見たとき、悪い印象なんかなくて、ほんとになんか可愛いって感じがして。 嗚呼、これも失礼じゃん。違うんです。好きだから、だから」 豚男ちゃんが苦笑してた。 「ははは。いいよ。いいよ。こ、子供の頃はずっとそう呼ばれてたし。この鼻は、 だ、誰が見たってね。気にしてないから。いまとなってはなにか懐かしい感じがす る。豚男さんでも豚男ちゃんでも好きなように呼んでくれていいよ」 「いや、まさか。そんなことできません。あー。ほんとうにごめんなさい」 「ペロとは、こ、こうやって、こ、心を開いて話し合いたいんだ。だ、だから、全 部表に出して欲しい。それに、ペロが愛情をこめて、そう呼んでくれてたのはわか ってるから。変態モードのときは、き、切り替えなくちゃいけないけど、和みモー ドの時は豚男でいこう。あ、こ、これ命令ね」 「えー。命令って・・・。だってー。うー」 「き、切り替えが難しいかな。じゃあ、僕の方から合図することにしようか。呼び 方は・・・うん、か、か、『解禁』といったら、こ、こうして人間に戻ってくつろ ぐ。き、禁を、と、解くという意味と、襟を開くという二重の意味あいがあるから ね。で、でも、僕はカ、カ行と、タ、タ行がどもるから、『お解禁』ということに するよ。それで、変態性具になるときは、うーん・・・『お勤め』かな。ははは。 と、とりあえずということで。じゃあ、ペロ、『お解禁』で、呼んでごらん」 「うひゃああ。えー、うー。ぶ・・・豚男さん・・・」 「く、繰り返して」 「あううう。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚 男さん。うー、いいづらいです。これって懲罰かも」 「はは。ち、懲罰でもいいな。慣れるまでいい続けること」 「豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚 男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。豚男さん。慣れま した。慣れましたよ。ほんとですってば」 豚男ちゃんはチェシャ猫みたいに笑っている。ブタオの最初の『ブ』の字を、ほと んど発音せず、後ろの『タオ』にアクセントを入れると、『タオさん』と聞こえて、 まだ後ろめたさなくいいやすい。そうしよ。そうしよ。ふと、お尻に固いものを感 じた。豚男ちゃんのペニスが、ズボンの中で硬くなり始めていた。これ幸いとばか りに、話題を変える。 「儀式はこれで終わりですか。以前のメールのやりとりだと、続きがあったと思い ましたけど」 「うまく話を逸らしたね。た、た、確かに続きがあったね。さっきまでは、そこま でしていいものか迷ってたけれど。もう、遠慮しないからね。それじゃあ、ペロ、 『お勤め』だ。もう一度跪きなさい」 お見通しでやんの。でも嬉しいから、元気よく返事して、再び豚男ちゃんの前に膝 をつく。顔がにこにこしてしまいそうなのを抑えるのがたいへんだった。 ● 5.先例のない洗礼、ピッスだらけのキッス。 「で、では、ペロ。性具への、だ、第一の儀式、だ、断髪を行う。か、か、鏡の方 を向いて、自分の、か、変わっていく姿を、目を逸らさぬよう見つめていること」 「はい。ご主人様」 膝を送って体の向きを変える。股を開き、手を後ろに組み、胸を張って背筋を伸ば す。性具の基本姿勢。鏡の中に、見慣れた自分の顔がある。でも、もうこの顔とも お別れだった。これからの僕は、全身に一本の体毛もない、宇宙人のような容貌に なるんだ。 豚男ちゃんが僕の髪を無造作に握りつけハサミを入れた。ばらばらと切り取られた 髪が膝と床に散る。ちょっと感慨深いものがある。別れと出会いみたいな、寂しさ と期待の入り交じった感情。でも、これが僕の望んだこと。僕の人間卒業式。 豚男ちゃんが僕の周りを一巡りした後、鏡の中に、無惨な頭の僕がいた。適当にハ サミが押しあてられ、マダラになった頭。顔にも身体にも、散り落ちた髪の毛が黒 い粉を噴いたようにへばりついている。その横で、全裸になった豚男ちゃんが、そ こだけは世界の一流品という雑誌で紹介したいほどの逸品を雄々しくそびえさせて いる。その手には空のガラスのゴブレット。 「こ、こちらを向き、正座しなさい」 豚男ちゃんの方へ体の向きを変え、性具のポーズを取り直す。目の前にゴブレット が差し出され、その口になにか太い棒のようなものが乗せられた。じょぼじょぼじ ょぼじょぼ。ゴブレットの中に泡立つ黄色い液体が注がれていく。ビールなわけな いし。ま、まさか、この液体は?・・・なーんてね。この儀式は僕と豚男ちゃんが メールのやりとりの中で創作したものだから、一部アレンジは変わっていたとして も、だいたいなにが行われるかはわかってる。言わずもがなだけど、ゴブレットの 中味は豚男ちゃんのオシッコだ。 豚男ちゃんが運んできたワゴンの上に水差しがある。そこに入っているのは水のよ うだ。最初豚男ちゃんは、ただのお水で儀式をしようと思っていたのがわかる。教 会じゃあるまいし、お水じゃあね。これは性具としてのイニシャライズなんだから。 僕を身体の中から豚男ちゃんの色・臭いに染めるもの。僕は捧げ持つようにゴブレ ットを受け取った。手の平に液体の温度を感じる。入れ立ての生々しさ。 「おまえが性具として終生仕えるご主人様の聖水だ。謹んで味わい、残らず飲み干 しなさい」 「はい。ありがたくちょうだいいたします」 ゴブレットに口をつける。つんと鼻を突く、オシッコ特有の饐えた臭いがする。ど きどきどきどき。初体験のような初体験ではないような。自分のものを飲んだこと はあるけれど、人のものを飲むのは初めてだ。なぜこうも興奮するんだろ。心臓の 鼓動が手に伝わって、オシッコの表面が波立ってる。頭の中に蒸気が沸く。脳みそ が蒸されて赤い脳汁を汗のように滴らせてる感じ。これは僕の精神が変態モードに 変わるしるし。目の前に肉色のベールがかかり、鼻の奥に生臭い匂いが漂うような 気がする。こうなれば、スーパーマンと同じ、なんでもできるようになっちゃう。 ゆっくりと一口啜り、舌の上で転がすように味わう。どっくんどっくんどっくん。 心臓が自分はポンプだと自己主張してる。しょっぱい。どこかぬるっとしたしょっ ぱさ。わずかな苦み。口の中で温められ鼻に抜けた臭いは、小便ならではの生臭さ。 口に含んだ小便を舌でよーく攪拌し、唾液もたっぷり混ぜこんでから、ようやく僕 は飲み込んだ。喉がこくりと鳴る。豚男ちゃんの小便がするすると僕の喉をくだり、 胃の中に流れこんでゆくのがわかる。 飲み込んだ後、喉と舌にエグ味が残る。あー、快感。豚男ちゃんのエッセンスが、 胃から吸収され、血に混ざり、毛細血管の隅々にまで行き渡って、僕の細胞をひと つ残らず汚し、脳にも流れこんで、シナプスを小便臭くしてくれる。終いには毛穴 から小便滓が滲み出し、僕は豚男ちゃんの小便臭に包まれる。 僕は変質し、侵蝕され、肉体も精神もすべてを豚男ちゃんの排泄物で置き換えられ る。なにより僕を興奮させるのが、それが妄想などではなく、まぎれもない事実だ ということだ。人の細胞は一定の日数で新たな細胞に置き換わる。皮膚も肉も。そ の新しい細胞は口から摂取した物質で造られるのだから。そうやって、いつかいま の僕という存在は消え、豚男ちゃんの肉体の排泄物の塊と化して生きることができ る。一口、また一口、ゆっくりと味わいながら、僕は最後の一滴まで飲み干した。 美味しくないけど、美味しいよ、豚男ちゃん。 「で、ではこれより、性具ペロの洗礼を行う。自分の指で瞼を押し広げなさい。洗 礼の間、け、決して目を閉じることのないよう、こ、こ、心しなさい」 「はい、ご主人様」 豚男ちゃんが一歩前に出て、僕の足を跨ぐように仁王立ちした。豚男ちゃんも異常 に興奮しているのがわかる。どもりが強くなっているし、鼻息も荒い。僕は両手の 指で瞼を力いっぱい開き、そのときを待ち構えた。 顔の前に豚男ちゃんの怒張したペニスが差し向けられた。僕は息を詰める。ペニス の先端がぽっかりと口を開いたのが見えた瞬間、僕の顔面に豚男ちゃんの小便が弾 けた。熱いほとばしりが目に向けられる。反射的に目をつぶろうとする動きを指で 妨げる。 眼球に熱い水圧を感じ、視界が白い光の洪水に覆われる。目玉がじかに小便で洗わ れているんだ。痛いというより怖い。逃げ場のない眼球がぎょろぎょろと上下左右 に潜り込もうと動いてしまう。指が震えて、離さないようにするためには強い意志 が必要だった。 両目が交互に洗われた。濃厚な小便の臭いが漂う。アルコールも少し混ざっている ようだ。豚男ちゃん、度胸付けに1杯引っかけたんだな。注がれる小便の場所が下 がり、顔から頭のてっぺん、胸に肩に腹に、そして股間のペニスにも、直接小便が 注がれた。豚男ちゃんがペニスを握って放出をコントロールしながら、僕の背後に 回った。背中に小便のマントを着せかけられる。とっても温かいマントだ。 「か、か、身体を前に。尻をあげて」 「はい」 素早く体勢をかえる。まだ出るんだ。そうとう我慢してたんだなあ。僕の肛門が小 便で洗われる。ウォシュレットな快感。いまなら豚男ちゃんには見えないから、ち ょっとずるして目を閉じるという不埒な考えが閃いたけど、性具の意地で目を見開 き通した。そんなことを考えているうちにも、肛門に肉の噴射ノズルの先が押しあ てられ、反射的に受け入れようと括約筋を弛めてしまう僕は、骨の髄まで尻マンコ な生き物だ。 亀頭の先端のみが肛門括約筋にめりこみ、僕の中へ小便を流し込んだ。全部入れて くれたらいいのに。腸粘膜が熱さを感じる。小便浣腸なんて初めての経験。シャワ ーに比べれば、噴出の勢いが違う。でもそのじわじわした温かな拡がりが快い。こ れもお気に入りになりそうだなあ。 たっぷり入れてほしかったけど、さすがに放出が終わり、僕はようやく目を閉じる ことを許された。せわしく瞬きをすると、瞼が粘るような感じがする。涙がにじん できた。小便は意外と目に染みるもんなんだ。 水洗トイレを使っている現代人は、小便のほんとうの臭いを知らないのかもしれな い。僕の頭から肩から流れ落ちた豚男ちゃんの小便は、床にプールをつくって、強 烈な臭いを放っている。出したてだから、まだそれほどアンモニア臭はないけれど。 内側からも外側からも小便まみれ。想像したり妄想したりすることと、現実に物理 的に自分の五感で体験することは、情報量が圧倒的に違う。人間の想像力なんて、 ちゃちなものだ。特に臭覚と皮膚感覚は圧倒的で、小便を全身に浴び、小便で目玉 を洗われ、その臭気に包まれるるということは、レイプみたいに暴力的だ。小便洗 礼は実感という点で最適だった。 「こ、これで、ペロは性具となった。こ、今後はモノとして、ど、道具として、最 高の性能を発揮するよう、全身全霊で奉仕しなさい」 「はい。ご主人様。ペロをよろしくお願いします」 小便溜まりに手を突き、小便にまみれた豚男ちゃんの両足先を舐め啜り、最後に目 の前にそそり立っている肉棒の先端にキスをした。これで、性具の儀式は終わり。 豚男ちゃんも嬉しそうだった。天涯孤独。誰とも心を交わさない凪のような数十年 の後で、突然天から降ってわいたように人生を共にする相手が現れたのだから。喜 ばなかったらバチが当たる。そしてそれは僕も同じだった。ほんとうによろしくお 願いします。可愛がってね。 ● 6.ヘアーレスなんかフィアーレス。 飢えた赤子のように、ペニスの先端に吸いついていつまでもしゃぶり続けている僕 に苦笑して、豚男ちゃんはストップをかけた。しぶしぶ、待機の姿勢に戻った僕に 手渡されたのは、あのポリマーオイル。脱毛・漂白・皮膚強化・光沢化・耐熱・耐 寒・感覚抑制・潤滑効果がある。こういう場合、いったいなんの薬といったらいい のやら。 とまれ、性具としての最初のお仕事で〜す。お仕事いうより身支度か。いえいえ、 身支度も立派な性具のお仕事。性具の心得・第13項。『私、ペロは、日常におい て別途御命令なき場合は、屋内外を問わず、一切の体毛を除去、および定められた ゴム衣装の装着と性器の開陳を原則』とするわけですからして。 とはいえ、この薬のしんどさは、塗り薬だけにまさに身に染みてしってるから、鼻 歌交じりに身体に塗るほど覚悟はできてない。できるわけない。でも塗るしかない。 お仕事ですから。とほほ。今回はなにひとつ装具をつけていないから、大騒ぎしな いよう自分で自分を抑えなきゃならないのが、かえってつらい。 「頭にも、か、顔にも、と、と、特に耳と鼻の穴には、奥まで念入りに塗りこめる ように。いくら大声をあげても大丈夫だから」 大丈夫といわれてもなあ。しかし、そういわれると、性具としてのプライドが刺激 されちゃう。我慢のできない奴と思われるのだけはいや。負けん気が出てきたぞ。 「はい。ご主人様」 返事がワンパターンだけど、それだけ余裕がないってこと。僕は立ちあがり、ほん とうに手早く、でも塗り残しがないように注意しながら、全身に塗っていった。同 時に豚男ちゃんが後ろから僕の背面に塗ってくれる。 しばらくして、拷問が始まった。むぎいいいいいいいいいいい。って叫んだのは心 の中でだけ。一回目の経験で、コツをつかんでいたおかげだ。声も出さず、身悶え も最小限で耐えきったよ。偉いでしょ。誰も褒めてくれないから、自分で褒める。 15分足らずで、豚男ちゃんが部屋の隅からホースを引いてきて、僕に冷水を浴び せた。あれ、早くないかな。確か、定着までに30分かかるって聞いた記憶がある けど。とはいえ、冷たさは感じないけど、冷水が火照った肌を鎮めてくれるのはあ りがたい。 よぶんなポリマー剤が溶けた体毛の滓とともに流され、ついでに小便も切られた髪 の毛も、いっしょくたに排水口へ消えていった。残されたのは真っ白宇宙人になっ た僕。短時間だったけど、皮膚は完全にポリマー化されているようだ。ポリマー化 された指でポリマー化された身体を触ると、強い弾力を感じ、指を滑らせるときゅ っきゅっと鳴る。冷水も冷たいとは感じなかったし、光沢が出て、天井のライトが ぬるっと反射している。ビスクドールになった気分。 でも、顔は・・・おそるおそる鏡を見た。うわあ。変だ。ヘンだ。頭はツルツルの ぴかぴか。眉もなく、睫毛もないから目のまわりが腫れぼったく見える。髭はもと もと薄くてないも同然だったからいいけど。うーん。たかが髪の毛と眉毛と睫毛を 失っただけで、こんなに印象が変わるなんて。マスクをして変わるのともまた違う。 奇妙で、不気味で、しかも滑稽だ。これが、これからの僕の顔かあ。この顔に馴染 むことができるんだろうか。 「さあ、ポリマーオイルをもう一度塗って、スーツだよ」 うげ。また塗るの。やっぱり、さっきのは下地作りですか。しくしく。でも返事は 明るく元気に。 「はいっ。ご主人様」 豚男ちゃんが奥のクローゼットにスーツを取りにいっている間、もうやけくそで、 ポリマーを塗った。もちろん、塗り残しはしないように注意してだけど、慣れてき たのか、さっきの半分くらいの時間で塗り終えることができた。豚男ちゃんが全身 ゴムスーツその他を持って戻り、背中を手伝ってくれた。 手渡されたのは、濡れ光る亀頭のように真っ赤な全身一体型ラバースーツだった。 粘るように光る赤は、なまめかしく扇情的だ。今までの経験では黒しか身につけた ことがなかったけれど、赤の方がいやらしくて好きになりそうだ。でものんびり眺 めている暇はない。手早く脚を入れて尻を入れ、ペニスを筒部から引き出し、睾丸 をゴム袋に納める。胸まであげて腕を入れる。胸にはゴムの人工乳房つき。 全身ゴムスーツの着方にはコツがある。空気を入れないようにすることだ。密着感 が違うし、スーツの破損の原因にもなる。オイルのおかげで滑りがいいので簡単だ った。ただ、ポリマー化した皮膚が突っ張るので、関節を深く曲げるときには結構 な力がいるし、完全には曲がりきらないので、着ている間にみっともない動きにな らないよう注意する。性具の動きはスタイリッシュじゃなくっちゃ。ご主人様が使 用されるときの、あられもない恥ずかしい格好との落差が劣情を刺激するんだから。 これが僕のこだわり。 そして、おお、今度はマスク一体型なんだね。ぎゅうう、ぬるりんっとマスク部分 に頭を入れる。目と口、そして鼻の穴の位置を会わせて、背のジッパーをおろして もらうと密封完了。 各部をチェックし、空気の泡やゴムの捩れがないかチェックする。スーツのゴムは マシュマロのように柔らかく皮膚に密着してる。その心地よい密着感をのんびり味 わってる暇もなく、ポリマー剤の苦しさが襲いかかってきたあああああ。歯を食い しばろうにもゴム製だから食いしばれないんだけど、まあ、そういった気持ちで身 構える。 くー。効くううう。掻き毟りたいけど、ゴムスーツを破きそうだし、一回そうする と、とめどなく全身を掻き毟ってしまうことになるのは明白。だから、拳を握りし めてただただ立ちつくしていた。でも、なんだか慣れてきたのか、前より耐えやす い感じがする。 とにかく、最初の10分間をやりすごせばいい。そうはいっても、変態マゾじゃな きゃ10秒でギブアップしちゃうだろうな。豚男ちゃんも僕の状況はよく理解して くれているから、10分間はそっとしておいてくれる。インターバルを利用して、 奥のクローゼットの前にワゴンを運んで、装具の準備をしてるようだ。しかし、こ ういう時の10分の長いこと。はあはあぜいぜい。うぎいいいいいいいい。 「少し楽になったかな」 時間を見計らい、豚男ちゃんが、僕の顔を覗きこんだ。僕は背筋を伸ばして姿勢を 正す。 「はい。ご主人様。なんとか。3回目ですし」 「じゃあ、つ、つ、続きを」 「はい。ご主人様。よろしくお願いいたします」 はあ、はあ、はあ。このオイルの効能に、筋トレ効果も追加できそうだ。暴れない ように耐えようとすれば、全身の筋肉に力を込めてこらえなくちゃならない。これ ってまんま筋トレだもんね。最悪の10分は過ぎたとはいえ、まだ全身がまだビリ ビリしているし、筋肉もへろへろ。きっちり拘束してもらえば休めるから、大歓迎。 ● 7.奴隷度アップのドレスアップ。 次は気道確保全頭マスクかと思っていたら、豚男ちゃんが取りあげたのはコルセッ トだった。色はメタリックな黒。赤いキャットスーツとのコントラストが、美しく 映えそうだ。 前回は最初から目を封じられ、最後は意識朦朧でよく眺める暇がなかったけど、ま のあたりにすると、腰のくびれは平均的な女性のライン程度でしかない。あれ?前 回はあんなんだったろうか。もっと人間の限界を超えているように思えたけど。 人間の限界というのはちょっと大げさかな。ネットでは、直径を十センチくらいに まで締めあげた女性の写真を見たことあるし。そこまではいかないまでも、僕のウ エストは常態の半分以下になっていたはず。指で計ってみたのだから間違いない。 豚男ちゃんが持ち上げたコルセットの見た目は、滑らかな曲面が美しい筒だし、な んの仕掛けも見えない。あのウエスト幅が半分になるようには思えないけど。前回 のものとは違うタイプのものなのだろうか。などと頭にクエスチョンマークを浮か べている僕の目の前で、コルセットは脇のラインで貝のようにふたつに割られ、ま ず前半分が胸に押し当てられた。 全身スーツに付属しているゴム乳房の下のラインに沿って、根元を抉るように嵌り こむ。ウエスト部を、お腹を思いっきり引っこめるようにして収めたとき、その感 触でこれが前回のものと同じだということがわかった。 背面が被せられ、左脇で前半分と合体する。乳房の下からお臍の下までが、硬質ゴ ムの厚い殻に覆われてしまったわけ。コルセットの前面はつるりと光っているだけ だけど、その分、脇や背面、上端と下端にたくさんの金具が埋めこまれている。黒 くコーティングされているので目立たないけれど。 どちらかといえば女っぽい体型とはいえ、男の腰ラインが女の腰ラインに押しこめ られれば、かなりきつい。豚男ちゃんが背後から、腰の両側の小穴に小さなT字レ ンチを差しこんだ。先端がコルセットに埋まり、カチンとロックしたような音が伝 わる。この前のと同じ音だ。 豚男ちゃんが両方の握り部分を回していくと、キリキリキリキリキリキリキリキリ キリキリキリキリ。う。ううう。ウエストがみるみる締まっていく。コルセットの 内部の仕掛けが動く気配もないのに、その直径がみるみる縮まってゆく。 うふぁふぁふぁ。ぐにゃりと内臓が上下に押し分けられ、肋骨の下端もなりゆきで 締めつけられる。息苦しいのに深呼吸ができない。苦しさに息を詰めていても、圧 迫され、勝手に息が漏れてしまう。 いったいどういう仕組みなのか分解して調べてみたいような気がするけど、仕組み を知ったところでこのきつさが解消する訳じゃないしいいいいいいい。限界です。 胃袋が口から出てきそう。前回は胃も腸も空っぽだったけど、今回は豚男ちゃんお 手製のパスタ大盛りと、これまた豚男ちゃんが作りだした聖なる水・・・通称ショ ンベンが、胃の中、腸の中でたぷんたぷんしてるしいいいい。 小便臭いゲップが出た。嗚呼、はしたない。うぎぎぎぎぎぎぎぎ。破裂しそううう。 豚男ちゃんがなにやらぶつぶつ呟いている。金具の回転した数を数えてるようだ。 62回で一回手が止まり、終わったのかなと思ったら、最後にもう一回転。うげぇ。 今度はほんとに終わったのかな。終わったみたいだな。もしかして豚男ちゃん、前 回より一回多く回したのかな。多分そうだろうな。少しずつ少しずつウエストが絞 りこまれていくわけだ。半年後にはどんなウエストになってるのか、怖いぞ。 コルセットのおかげで背骨が反り返るほど伸びきり、姿勢が素晴らしくよくなって る。背中が曲げられないから乳房が邪魔して下の様子がよく見えない。鏡を見ると、 もの凄い腰のラインの僕がいた。お尻の半分近くに細められた腰。見ている分には 色っぽいと思うけど、人ごとじゃない。人ごとじゃないけどただごとでもないので、 苦しさを忘れて見入ってしまう。ナルシストなんです、僕。 続いて上体コルセットが嵌め込まれる。首の上までが固定され、下は腰のコルセッ トと合体して、合体して完成した穴から風船のようにゴムの乳房が絞り出された。 本物の乳房なら、さぞ痛いんじゃないかな。作り物だから僕は別に痛くもないし、 面白がっているだけだけど。 自分の胸に乳房ができると、無意識に女っぽい気分に支配されるのがおかしい。体 中の筋肉から芯が一本抜けて、くねっとシナを作りたくなる感じ。乳首を弾かれる と神経もないのにあはんと吐息を漏らしたくなったりね。 とはいってもそれは妄想の中でだけ、現実にはそんな肉体の弛みは許されず、首の カラーで頭が押しあげられ、首が伸びる。コルセットでまっすぐに矯正された背骨 とともに、頸骨が理想のカーブに整えられちゃう。首の軟骨が伸びる音がした。こ れで身長が数センチは伸びたんじゃないだろうか。でも、前回と違ってまだわずか に首を動かす余地がある。何故だろう。 あ、そっか、まだ口を全開していないからだよね。前回は開口具付のマスクを着け て、口と顎が全開状態にされてから首が固定されたんだった。中途半端に首が動く のって、なにかすっきりしないなあ。やっぱりこう、ぴくりとも動かせないように されるのがいい。もうどうにもならないから、好きにしてっていう潔さみたいな。 人間って無意識に動くようにプログラムされている生き物で、動かせないっていう のはそういういちばん原始的な生理に反してるから、長時間になればなるほどもの 凄く辛いんだけど、拘束マニアとしてはそれがまた気持ちいいんだよね。でも頭の わずかなぐらつきの解消は、まだおあずけみたいだ。おあずけ。おすわり。お手。 わんわん。って感じに犬っぽい気分。ペロだしね。わんわん。くーんくーん。 豚男ちゃんは醜くて情けなくて気が弱くてデブだけど、決して愚鈍ではない。話す とどもるので会話はもたつくけど、作業においてはじつに手早く段取りがいい。コ ルセットの下端に二重ゴム帯が留められ、ベロリと下に垂れた。ペニスが二枚のゴ ム帯を貫通した穴から引き出される。これは前回も使われたからよく知ってる。で も、肉眼で鏡に映った自分の姿を見てみると、他人に大事な部分をなすすべもなく いじくられている様が、情けなくてイイ。 玉袋が下のゴム帯のスリットから引っぱり出され、必然的に睾丸がせりあがって胎 内に押しこめられる。そのうえ玉袋がびろーんと拡げられ、ゴム帯に固定された。 まず下のゴム帯が後ろに回され、股に食いこむほど引っぱられてコルセットに留め られる。いたたたた。ペニスの根元の両脇に押しこめられた睾丸が圧迫されるうう。 その上に外側のゴム帯が被せられた。玉袋をサンドイッチしたゴム帯は股間に通さ れ、もう一度むぎゅう〜っと引っぱられ、下のゴム帯と一体化してますます股間に めりこんだ。背後でコルセットに留められる。いてててて。玉よさらば。 こんなに苦しいことだらけだというのに、淫らな変態マゾの僕は、脳内桃色でそれ を悦びにしちゃってるから、ペニスは、授業参観の小学生のように元気いっぱい手 を挙げている。そんなわけで股間を隠すものもなく、玉なしの股間というものを鏡 でしっかりと確認することができた。 ふうむ・・・まさにシーメイルです。玉袋も玉もきれいさっぱり、最初から存在し ていなかったように消えてる。ペニスが恥骨から唐突に生えたみたいだ。とっても 変。健気にも硬直して自己主張してはいるけれど、虚勢を張っているみたいで頼り なく、妙に寂しそうに見えた。あ、念のためにいっておくけど決して僕のペニスが 小さいからではないからね。 とどめに開脚ガードルを穿かされる。コルセットとガキーンと合体され、バックル が締められた。蛇腹構造の股関節はまだロックされていないけど、首から股間まで オールインワンの鎧を着たみたいなもので、歩くのは難儀そう。合体ロボか人造人 間になった気分。とはいっても頭にマスクされてるいまの僕の見た目でいえば、や られ役のしたっぱ戦闘員なんだけども。やられまくるのが好きなんだからしょうが ない。犯られまくるもはもっと嬉しいもんね。 手袋が嵌められ、背中に捩りあげられて交差することなく固定され、肘がストラッ プでさらにくっつかんばかりに引き絞られた。うぐぐぐぐう。前から見ると腕が肩 口から切断されているように見える。上衣がかぶせられ、背中の腕が隠された。 目が見えなかった前回は、乳房の部分に圧迫感がなかったから、穴があるのだろう と想像していたけど、正解でした。絞りこまれた乳房の根元と同じ直径の穴があっ て、そこから丸くなった乳房がぷるるんと飛び出してる。漆黒のコルセットボディ に真っ赤な球状乳房がぷりりんと、絶妙のアクセント。もうエロエロです。 それにしても、肘と肩が痛い。時間が経てば慣れると知っているから救いがあるけ ど。苦しいといえば、上体全体の締めつけ。呼吸も慢性的に苦しい。上体はゴムが 3枚重ねになっているというのに、着ぶくれ感はないし前よりスレンダーに感じる ほど。ということは僕の上体がきつくきつく締めあげられて、一回り縮んでいるの かもね。苦しいはずです。 深呼吸など不可能で、夏の犬のように浅い呼吸を繰り返すしかない。体を回して背 中の様子も見てみたいと思ったけど、考えたら首がほとんど回らない状態で背中の 様子は見られない。ちぇっ。 次はペニスに筒具が嵌め込まれる。なんだか僕は、工場で組み立て途中のロボット の気分。筒具の底がごりごりって感じで開脚ガードルの穴に捩じこまれ、ガッシャ ンと固定された。僕のペニスを直径で2倍にしてくれる人工陰茎。メタル調なイメ ージがあったけど、ペニスの皮が剥がされたみたいな赤でした。 嵌め込む前に豚男ちゃんが筒具の内部を覗かせてくれた。内部に16本の溝があり、 溝ひとつに一個、可動ボールが嵌めこまれている。溝から半分くらい顔を出したボ ールが僕の陰茎にめりこみ、いまは痛いけど、これが前後に動き出したら、想像を 絶する快感を生み出してくれる。で、ああ、やっぱり尿道も塞がれちゃうんだよね。 う、くううう。豚男ちゃんも慣れたようで、小型浣腸器の先端を僕の尿道に突っこ み、潤滑ジェルをじゅるる〜っと注入したと思ったら、尿道から膀胱に逆流するじ ゅるじゅる感を味わう暇もなく、バイブ・カテーテルを手早く突きこんだ。いたた たた。やっぱり、太いなあ。 あう。冷たい。パイプの外側の端が接続している金属キャップが、亀頭をすっぽり 収めて嵌りこんだ。体内に挿入された方の先端は膀胱の奥に届いてる。見た目を2 倍の大きさにしてくれる亀頭キャップが、人工陰茎に接合される。がきーん。ペニ スの固定が終了だ。もうペニスは動かせない。角度60度で宙に突き出す人工ペニ ス。亀頭キャップのおかげで、長さも1.3倍にはなってる。大型光線銃の銃身が 生えてるみたいだ。コルセットのせいで反りかえっていても、下を見れば乳房の谷 間から銀色に輝く金属亀頭部がぎらつくのが見える。その先端に豚男ちゃんがポン プを捩じこむのが見えた。 留置バルーンが膨らまされる。あつつ。パイプ自体も膨らむんだった。うううう。 膀胱内でバルーンがぷっくり膨らむ感覚が異様だし、尿道内でパイプが膨らむのは 粘膜が張り詰めて痛い。痛いことより裂けそうで怖い。でもかろうじて裂けること なく、ポンプが外された。これで、跳んでも撥ねても抜け落ちないし、悲しいかな 射精ができなくなちゃったわけだ。 鏡の中の僕は、メタリックな亀頭を持ったゴムロボット。その内部に射精だとか快 楽だとかばかり考えている肉の塊が入っているとは思えないほど無機質だ。ロボッ トは射精しない。でも、たまには射精させてくださいね、豚男ちゃん。ご主人様。 プリーズ。 しかし目立つ亀頭です。倍の大きさになった銀色の亀頭がチャームポイント。この ペニスを見た女性とか受けのホモ君にとっては、たまらない魅力になりそうだけど、 僕にとっては射精禁止の象徴。うううう。潤滑ゼリーの効果で膀胱と尿道が痒くな ってきた。もぞもぞ。 トゥブーツを履かされる。足首が固まって、指先が靴底になり、わずか数センチの 楕円2点で体重を支えなくちゃならない。ブーツの膝にはプロテクターがついてい て膝をガードしてくれる。四つん這いにはありがたい。 膝の関節部はゴムの内部が蛇腹状の金属になっていて、これをロックされると膝が 固定される。固定ガードルの股関節も同じ原理。豚男ちゃんの指示でしばらく歩き 回る。足首の固定が完璧だから、意外と歩けたけど、手を振れないし、小股でしか 歩けないし、バランスを取るために上体が前後に揺れる。まるで鳥の歩きだ。よち よちよろよろで、僕はプリマにも白鳥にもなれそうもない。せいぜいがゴムの赤黒 ガチョウ。 「なかなか、ちゃ、ちゃんと歩けるじゃないか」 「はい。ご主人様。なんとなくコツがわかってきました。でも、すぐ足首と爪先が 痛くなりそうですけど」 「次は、膝を固めてみるから、それで歩いてごらん」 「は、はい。ご主人様」 豚男ちゃんがコルセットのねじ回しと同じものを使って、まっすぐに伸ばした状態 で膝のロックをかけた。膝が締めつけられ、力を入れてもびくともしない。その状 態で歩くと、まるで竹馬で歩いているような感じ。竹馬に乗ったことはないんだけ ど。ただ、バランスを崩したら大転倒だから、けっこう神経を使う。 それに、神経を集中し全身を緊張させて運動すれば当然、酸素消費量は増大するの に、コルセットで胸郭が締めつけられているから、浅い呼吸しかできないわけで、 結果としてひどい息苦しさに苦しめられることになる。おまけに尿道が痒くて痒く てたまらないから、歩くことに神経を集中するのが難しい。でも命令には逆らえな いのが性具の悲しさ。というか、命令されることの屈辱と不自由さを、僕はめいっ ぱい愉しんでたんだけどね。 ● 8.串刺しバーで、バーベル気分。 「ここまで戻っておいで」 「は〜い。ご主人様」 部屋の中央のあの得体の知れない金属柱のところまで、ガチョウ歩きで、コッコッ と戻る。醜いアヒルの子並には安定してきた。意外とやるじゃん自分。ご褒美が欲 しいぞ。 で、ご褒美といえば僕のお気に入りの気道確保全頭マスク。全身ガチガチギュウギ ュウのここまできたら後は全頭マスクの番だよね。豚男ちゃんの横のワゴンの上に 見えている。うきうき。 と、不自由な足をせっせと交差させて、豚男ちゃんのそばまで歩み寄ってみると、 なにかさっきと違うような感じがした。なんだろ。豚男ちゃんのペニスは元気満々 で早く僕の中に入りたがってるし、豚男ちゃんの表情は、ようやく芽生えてきたご 主人様の自信と優しさにあふれてるし・・・。 あ、わかった。金属柱が低くなってる。さっきは床上1メートルのあたりにその先 端があったはず。いまは半分の高さになっている。上下する仕掛けなんだ。それと、 ワゴンの上にノート型のパソコンが、液晶画面を光らせている。なんだろう。 「ペロの好きな、き、気道確保マスクをすると、目が見えなくなるから、さすがに その、ト、トゥブーツでは、た、立てないだろう。だ、だから、つ、つっかえ棒を しなくちゃならない。ようやく、これが、つ、つ、つ、使える」 なんか豚男ちゃん、すごく興奮していないか。どもりが強いぞ。 「はい。ご主人様。つっかい棒なんですね、これ。でも・・・大掛かりですね。す ごくお金かかっていそう」 「こ、この仕掛けを設置するのに、ご、500万円くらいかな。た、たいした費用 じゃないよ。設備より、こ、この本体が自信作なんだよ。ペロも、こ、これからず っと、こ、こいつのお世話になるんだ。き、気に入ってもらえたらいいけど」 「ご、ご、500万・・・ですか、ご主人様」 僕は思わずよろけそうになった。こんな棒一本で?・・・時給1000円のアルバ イトだと、1日8時間で8千円、1ヶ月フルで24万円、一年で288万円・・・ ひえ〜。車だって新車が買えるし。学食の特A定食が10000食。毎日3食食べ ても9年。そんな金額、貧乏学生には量子物理学より想像しづらいものですよ〜。 それを、惜しげもなく。しかも使うチャンスがありながら、使いもせず。豚男ちゃ んって、謎だ。お金持ちなのは間違いないけど。郊外とはいえ都内に、敷地の塀沿 いに歩いたら凍死しそうなほど広い土地を持っているし。一番最初のメールで、仕 事は不動産関係って書いてあったのは覚えてるけど。バブルは終わってるのに。 メールのやりとりでは、あえて互いの過去は語らないようにしようと、全員にお願 いした。何故って、財産やら社会的地位やら、そんなもので自分の人生を預ける相 手を判断したくなかったし、なんといっても僕自身弱い人間なもんで、知ってしま うとつい欲に目が曇っちゃうもんね。 それに・・・僕が僕自身の過去を、あまり語りたくなかったという、理由もあった。 僕自身の中で、まだ決着が付かない感情がもつれきってるし、そんな話を聞かされ た相手が、誠実な人であればなおさら、負担に感じたり、あるいは変に同情的にな ってほしくなかったから。 そんなわけで、僕は豚男ちゃんがどんな仕事で生計を立てているのか知らないし、 僕を飼ってもらうことが、経済的にそれほど負担にさえならなければいいと思って いるだけだから、訊く気もないんだけど。しかし、なあ。あの時点で、僕とは一回 限りの逢瀬でしかない可能性も大きかったのに。500万円。うぴー。いやいや、 それだけじゃない。衣装やらオイルやら、いったいいくら使ったんだろう。無理し てなきゃいいんだけれど。 「無駄遣いにならなくてよかった。ペロのおかげだな」 「いえ、そんな。ご主人様。想像もつかない金額でしたから、びっくりしました」 「ペロをいま『お解禁』モードにしたら、無駄遣いって怒られそうだけなあ。た、 試してみようかな。ペロちゃん、ちょ、ちょっとだけ『お解禁』」 「うわああ、このフル装備状態で『解禁』されても困りますよう。気分が混乱しち ゃいますぅ」 「いや、ご、ごめんごめん。で、で、本音だと、ど、どう思ったかな」 「いや〜、確かにもったいないって思ったけど。でも、ご主・・・じゃなくって、 ぶ・・・豚男さんはお金持ちそうだし。その金額って、無理して出したものなんで すか」 「いや。お金には、こ、困っていないから。僕のような隠遁じみた生活をしてると、 お金を、つ、使うことがないから、た、貯まる一方だし」 「なら、よかった」 「た、ただ正確にいうと、ご、500万は、こ、このバーの制作費と埋めこみ作業 とかの、こ、工事費で、上についている、と、突起の部分は精密電子機器の、か、 塊みたいなものだから・・・」 「え?総額だともっと、高いんですか。いったいいくらぐらいなの」 豚男ちゃんは僕の顔色を窺ってからいった。 「いや、いうと1時間くらいお説教されそうだから、いうのやめとく。さ、『お勤 め』だよ」 「ず、ずる〜。あ、いや。え〜、はい〜。ご主人様」 「ははははは。おもしろいなあ。こ、この落差が、た、たまらなくペロを、だ、抱 きしめたくさせてくれる。が、我慢が、げ、限界になる前に、支度を済ませよう。 さあ、こ、このバーの真上に脚を開いて、た、た、立って」 「はい。ご主人様」 やっぱり、これは張り型なんだ。つっかえ棒ってことは・・・。しかも精密電子機 器っていってた。興味が津々と湧いてくる。脚を30度くらいに開いて立つ。トゥ ブーツの爪先ではこれがせいいっぱいだった。息を吹きかけられても倒れそう。 豚男ちゃんはワゴンの上のパソコンでワンクリックした。まったく無音で、滑らか に金属柱が床からせり上がってくる。といっても僕の今の状態では下を直接覗けな いので、鏡で見てたんだけど。 こんな太いモノが突然入ってきても、するりと受け入れられるほど僕の肛門は拡張 されていない。だから息を詰め、下腹をきばらせ、肛門を少しでも開くようにして 待ち構えていたら、ありがたいことに突起にゼリーが塗りつけられていた。肛門括 約筋が一気に最大まで拡げられ、裂けそうな痛みが一瞬走ったけれど、なんとかき ばって・・・グチュッと湿った音をたてて僕の中に先端が入ってきた。あつつつっ。 きっつぅ。 ゴム張り型とも、もちろん本物ともまったく違う、冷たく硬い感触。ぞわっと、も うないはずの毛が逆立った。機械に犯されるということが、これほど異質な印象と は思わなかったよお。張り型やバイブなどには、その向こうに握る手があり、それ が人間らしい動きとなって、相手の欲望や気持ちまで伝えてくるもの。この突起に 人間らしさなどない。迷いもなく、思いやりもなく、ただただ僕の奥へ奥へと侵入 してくる。 僕の思いや反応などまったく無視して、あくまでも一定の速度を保ち、金属棒が侵 入してくる。あああう。僕の腹腔内を掻き分け押し広げて上がってくる。そして、 固定ガードルの肛門穴に金属柱の鍔部が嵌りこんだとき、ようやく上昇が止まった。 突起は直腸の最奥まで達し、僕は深々と串刺しされてるう。身体に芯が入れられた 感じ。とたん、重い衝撃が肛門のすぐそばで弾けた。衝撃が固定ガードルを揺する。 突起の鍔部内からバーが飛び出し、固定ガードルの肛門部の穴に噛みあって接合し たんだろう。豚男ちゃんが後ろに廻って肛門部を覗きこんだ。 「よし。か、完全にロックした。目を、こ、凝らさないと筋も見えない。問題はな いようだけど。なにか異常はないかい。・・・お尻の中にぶっとい、き、金属棒を、 く、咥えこんでいるのが、いちばんの異常だろうけど。ははは」 お、冗談もいえるんだ、豚男ちゃん。 「いいえ。ご主人様。ガチンって突然来たので、びっくりしただけです」 豚男ちゃんは頷き、にこにこしながら、固定ガードルの股関節部分を両足ともロッ クした。全身動かせる部分が皆無となった。これで僕は完璧なゴム人形。 「じゃあ、もうひとつびっくりさせてあげよう」 豚男ちゃんが再びパソコンを操作したとたん、金属柱が再びせり出し始め、僕は固 定された姿のまま宙に浮き上がってしまう。思わず声をあげそうになり、転倒の恐 怖でバランスを取ろうと、無意識に身体が反応したけど、頭がわずかに仰け反った だけ。確かにびっくりした。 僕の全体重が乗ってもぐらつきもせず、体重は固定ガードル全体に分散して支えら れるから、快適といえば快適だった。僕は空中でおそるおそる緊張をほぐす。さす が500万円。すごいなあ。 豚男ちゃんが宙に浮いた僕の身体を一巡りしながら、押したり引いたり、ぐらつき を探っていたけど、僕の身体も支柱も、髪の毛ほども動かなかった。安心したのは 豚男ちゃんだけじゃない、僕もだった。なにかあったらひどいことになるのは僕な んだし。 お尻の中に直径6cm、長さ20cm以上もある金属棒を突っ込まれたまま、もし 空中1メートルから床に落下したらどうなるか・・・。ちらと考えて、お腹を突き 破った金属棒の映像が浮かびかけたのを、慌ててうち消した。怖わ〜。 ● 9.アイム・カミングで粘膜バーニング。 なんだか想像を超えた状況にぼんやりしてしまい、僕の意識は内向きになり、お腹 の中の金属棒の感触に集中していた。豚男ちゃんに呼びかけられてはっと我に返る。 「ペロ、凄いよおまえは。ほら見てごらん」 そういわれて差し出されたノートパソコンの画面を見る。グラフが映ってますけど。 数字とか。でも、チンプンカンプンです。なにが凄いんだろう僕は。とりあえず褒 められたから喜んでおくけど。 「はい。ご主人様。グラフですが。これはなんですか」 「いま、ペロの、か、身体が宙に浮いたとき、びっくりしただろ。そのときのペロ の、ちょ、直腸と、こ、肛門の圧力の推移。ほら、一番下が、こ、肛門部。こ、こ の数字もびっくりだ。82m/mHg。日本人女性の平均、ち、膣圧が26m/m Hg、こ、肛門で50くらいだから、ち、膣の三倍以上。こ、肛門の1.6倍以上 ある。それに、グ、グラフの、こ、肛門の上は、ちょ、直腸の、か、各部の圧力だ けど、普通はほとんどないに等しいというのに、ペロのは一番奥の弱めの部分でも 28m/mHgもある。すごいぞ。名器だ」 「ありがとうございます。ご主人様。そんなに学術的に褒められると、わけもなく 照れます。名器というか、なにせ子供の頃からいろんなものを入れたり、入れられ たりしてますから。修練の賜じゃないかと思います」 「そうか。ううう。もう、た、たまらなくなってきた。よおし、ペロの好きなマス クだ」 顔面に真っ赤な気道確保全頭ゴムマスクがちょっと乱暴に被せられた。内側から突 出している2本のパイプが、もの凄い勢いで鼻の穴を通り抜けた。その勢いに驚い て息を吸いつけたのがよかったのだろう、パイプは一回で気道にすっぽり入りこん だ。 強烈な咳の発作が生じたけど、もう声にはならない。胸郭がコルセットで締めあげ られているのに、内側の肺は咳の発作で爆発している。内と外の圧力で肋骨が軋み、 肺が錐で刺されたように痛んだ。 そんな僕の事情にはお構いなしに、豚男ちゃんが作業を進めて、僕の頭部がすっぽ りとマスクに埋まり、顔面がマスク内側の顔の形の窪みに嵌りこんで圧迫される。 口の中には筒具が入りこみ、僕の口を大きく強制的に開いてしまう。ゴム製入れ歯 を取り忘れて突きこまれたので、入れ歯がずれた、どうしようと思っていると、マ スクの下が持ちあげられ、豚男ちゃんが興奮しすぎたとかなんとかつぶやきながら、 入れ歯を外してくれた。よかった〜。 ジッパーとバックルが締まり、僕は暗闇の中、頭全体を心地よく締めつけられなが ら取り残された。頭がしっかり固定され、もうぐらつかせることもできない。歯の ない分、口の開きは楽だった。気管内のバルーンが膨らませられたけれど、咳の発 作はたいしたことなく、意外と早く収まっていた。豚男ちゃんの元に身を寄せれば、 この気道確保マスクを常装することになるだろうとわかっていたので、この2ヶ月、 自分なりに練習していた成果だ。これくらい熱心に勉強していたら、東大だって入 れたかもしれないなあ。 気道が確保された喉に、特大のゴムペニスが慌ただしく捩じこまれ、僕の食道は完 全に詰まった。それも不用意に吐き出せないように入り口のリングに固定された。 でも、お尻の金属柱を抜かないとなにもできないよなあ、と思っていると、膝のロ ックが外され、膝は折り畳まれて再ロックされた。続いて股関節もロックがいった ん外され、膝が胸の脇に密着するくらい持ちあげられ、再ロックされる。両足とも。 豚男ちゃん、手早い。ちょっと乱暴なくらい。マゾとしてはそれもまた嬉しい扱い。 物扱いされるのって、考えなくていいのが楽だからね。 お臍の上あたり、コルセットに鎖が留められた感触があった。そして、お尻の金属 柱が抜け出していった。身体の中心にぽっかり穴が開いた。喪失感。芯が抜けてク ラゲになったような頼りなさ。だから入れ替わりに、愛しい豚男ちゃんの、とって も人間臭く恥垢臭く、温かく、生きてるって実感たっぷりの肉の棒が、元気いっぱ いでめりこんできたとき、粘膜の摩擦以上に芯を嵌め戻される充足感で脳が痺れた。 うえるかむ〜。自分という肉体の檻に閉じこめられ、五感のほとんどを奪われてし まった僕は、お腹の中で脈打つ豚男ちゃんのペニスの感触だけが世界のすべて。意 識して集中させるまでもなく、全神経が直腸粘膜と肛門の神経に集まる。 襞の一枚一枚が目となり耳となり、場所ごとの熱さ、その硬さ柔らかさ、盛りあが りと窪み、脈動と震え、そして膨張と収縮をこまやかに感知する。僕という存在の、 ごっそり欠けた部分をあますところなく埋めてくれる豚男ちゃんのペニスに、感謝 と御礼の気持ちが湧いてくるのは必然というものでしょう。僕にできるおもてなし はただひとつ。豚男ちゃんのペニスに喜んでもらえるよう、お褒めにあずかった肛 門の能力を全開で、吸いつき締めあげ揉みあげ蠕動させること。 そうすることは、なにより自分自身が気持ちいいからなんだけどね。躊躇う理由な どない。羞恥もてらいも自尊心も、僕を包むゴム膜の向こうの不純物。ゴムの殻の 中は、肉と愉悦のみが溶けあった純粋な坩堝。守るものなどない。欲望のままに貪 るだけの世界。 僕の腸粘膜は襞のひとつひとつがアメーバのように豚男ちゃんのペニスに吸いつき、 舐めあげ、絡みついた。豚男ちゃんのペニスが地震のような身震いをした。そして、 やったああああああ、お待ちしておりました。ペニスのバイブが、全開運転を開始 した。 尿道管が高速振動し、膀胱内をのたうち叩きまくる。低周波が海綿体を直撃する。 人工陰茎の内側で鋼鉄の玉が、機関銃のように前後動を始める。そして亀頭に無数 の針を刺しこまれたかのような強烈な電撃。うぎゃう。一瞬で僕は天国へ吹っ飛ん だ。肛門と直腸が激しく痙攣する。豚男ちゃんがたまらず力強いグライドを開始し て、連続快楽地獄の始まりだあああああ。 この世でいまの僕ほど幸せな存在はない。全開した股間に、豚男ちゃん杭打ち機が どすんどすんと衝突する。僕は鐘突きされる鐘となり、ひと突きごとにゴーン、ゴ ーンとエクスタシーが爆発する。 手も脚も頭もない、ただの肉塊の穴と化して、泣いて喚いて悶えて絶叫する。発す るための声もなく、散ずるための動きも封じられて、行き場のない劣情が肉の内圧 を無限に高めていく。 鉄拳のような豚男ちゃんの怒張が肉の穴を出入りする度に、ジュッボ、グチュッと 猥雑な湿った音が内外にこだまする。直腸粘膜が摩擦熱で焼けつくよう。熱い。気 持ちいい。気持ちイイイイイ。 全身が衝撃に合わせてがくがく揺れる。イッた。ジュッボ。またイッた。グチュッ。 またイッた。ジュッボ。グチュッ。止まらない。ジュッボ。グチュッ。嗚呼、神様。 ジュッボ。最高です。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。死ぬう。ジュッボ。イッた。 グチュッ。いいぃ。ジュッボ。イッた。グチュッ。突き殺して。ジュッボ。イッた。 グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。突き殺して。グチュッ。かみさまああ。 ジュッボ。イクイクイク。グチュッ。神様は、豚男ちゃんの顔をしてる。ジュッボ。 グチュッ。ああああああああ。イッた。ジュッボ。グチュッ。豚男さん。ジュッボ。 グチュッ。豚男。ジュッボ。グチュッ。ああああん。あああん。イッた。ジュッボ。 僕の豚男ちゃん。グチュッ。ジュッボ。愛してるぅ。グチュッ。イッた。ジュッボ。 グチュッ。愛してる。ジュッボ。グチュッ。イッたよおおお。ジュッボ。グチュッ。 らぶ。ジュッボ。グチュッ。らああああぶ。ジュッボ。グチュッ。イク。ジュッボ。 グチュッ。ああああああああああああ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。 イッた。ジュッボ。グチュッ。イッた。ジュッボ。グチュッ。またイク。ジュッボ。 グチュッ。イッた。ジュッボ。グチュッ。いいい。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。 グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。イッ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。 ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチ ュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。 グチュッ。ジュッボ。グチュッ。おおおおおおお。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。 グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュ ッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。 ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチ ュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。ジュッボ。グチュッ。 ● 10.お尻で特にトークする。それが明日のアスホール。 んんん・・・あ、あれ。・・・あ、そうか。また昇天しちゃったみたい。射精でき ないというのがこれほどつらく、同時にとんでもない快感でもあるなんて。僕はど のくらい悶絶してたんだろ。まだ全身が快感の余波に浸ってるということは、何時 間も経ってはいないと思うけど。 いまだ心臓の鼓動が雷鳴みたいに聞こえる。完璧な虚脱状態。マスクもコルセット もそのまま。全身の拘束も変わらない。ペニスの振動は止んでいる。ちぇっ。お尻 には冷たく硬い感触。あの金属棒がまた入れられている。脚は開脚して折り畳んだ まま。そんな格好で空中に押しあげられてるようだ。 お〜い、豚男ちゃ〜ん。いないのかな。愛してるよ〜。気配はないなあ。といって も、全身何重にもゴムで包まれて、音ですらマスク越しだから、気配なんて感じよ うもないけどさ。まあ、いいや。なんだか、とっても心地いいし。ただただぼんや りして。なにもかも任せっきりで、ひたすら受けとめていればいいんだから。 幸せだなあ。子宮の中で羊水の海に漂っている時って、こんな感じなのかもしれな い。お腹の中の豚男ちゃんの精子を、感じれられたらいいのに。まだ元気に泳ぎま くって、僕の腸壁を突いているのだろうか。射精3回分。それは頭がパーになって はいても、感じてた。 それ以降は、ホワイトアウトしちゃったからわからないけど。もう一回くらい射精 してると思う。豚男ちゃんって絶倫。精子の中の豚男ちゃんの遺伝子が、僕の腸か ら吸収されて、僕の細胞に入りこむといいなあ。細胞の中から豚男ちゃんまみれに なりたい。 おもしろいなあ。目も見えない、口もきけない。耳もよく聞こえない。臭いもしな い。味もゴムの味だけ。寒くもなく暑くもなく、皮膚感覚はポリマーオイルのぬめ りとゴム衣装の快い圧迫感だけ。頭も腕も脚も動かせない。身をくねらせることも できない。なにひとつできないし、すべてが封じられ包まれている。直腸粘膜と肛 門とペニスの感覚だけがリアルだ。なのにこの自由感はなんだろ。 僕は、肉体だけじゃなく、精神も宙に浮いている。拘束の極致で、解放されている。 不思議だなあ。ああ、感覚がもうひとつお腹の中に残されてる。膀胱の感覚。オシ ッコがしたいという感覚。豚男ちゃんのオシッコを飲んだからか、そろそろ限界が 近い。 でも、豚男ちゃん気がついてくれるのだろうか。膀胱破裂なんていやだよ。性具の 心得通りだとしたら、自分からオシッコさせてということはできないし、どうすれ ばいいんだろ。気がついてもらえるまで、もじもじし続けて、それでも気がついて もらえなかったら、粗相して懲罰をくらうんだろうか。危険な賭けだなあ。 ああ、いけない。自分の中に閉じこめられてると、オシッコしたい感覚に自然と集 中しちゃう。それなのにオシッコのことを考えたら、火に油じゃん。ううう。ます ます、したくなってきた。 と、わあ、びっくりしたあ。突然、ペニスが鳴りだした。バイブレーションじゃな い。電子音が鳴ってる。尿道に入れられたカテーテルそのものが音を鳴らしてる。 音が尿道に響いて、くすぐったい。鳴り止まない。なんなんだろう、電池でも切れ たのかなあ。膀胱の中にも音が伝わって尿意を刺激する。 ううう。豚男ちゃんどうしたんだろう。まさか、そこらに昏倒してるなんて・・・ 太ってるからなあ。まさかなあ。なんだか、どんどん心配になってきた。こんなと ころで倒れたら、誰にも発見されることはないだろし、そうすると僕もまた、誰に も発見されずに飢え死に、渇き死にしちゃうんだろうか。その可能性大だなあ。 そうかあ、これは考えたことなかった。でも、まあ、それもいいんじゃないかな。 そんな状況なら楽しめそうだし。変態マゾの死に方らしい。棺はこのゴム装具の檻 ってわけか。そのまま埋葬して欲しいなあ。 ああ、尿道がくすぐったい。またペニスが勃っちゃったじゃないか。あ、そうか渇 き死にする前に膀胱破裂で、内臓小便まみれで死ぬんだ。小便まみれは本望だけど、 破裂するとき痛そうだなあ。なんだか悟りの境地だ。拘束されると悟れるんだね。 一種の座禅みたいだからかなあ、この状態は。なんて悠長なこといってる場合じゃ ないんだけれどね。おーい。 「おお、ご、ごめんごめん。湯船で居眠りしてしまった。オシッコセンサーが鳴っ てるね。破裂しそうなんだろ。今楽にしてあげよう」 わあい。豚男ちゃんだあ。よかった〜、無事だったんだ。って、そのくらい予想し ろよ自分。大奮闘の後なんだから。で、なんですと?オシッコセンサーって・・・ 尿道バイブにそんな機能があったのか。膀胱が満杯になるとチャイムを鳴らすんだ。 便利なんだなあ。僕のペニスの先に、といっても金属キャップの先だけれども、パ イプが捩じこまれた。 「あ、しまった。ペロ用の食器兼便器を、まだ用意してなかった。こ、困ったな。 ・・・そうだ、ペロは喉も、か、渇いているだろう。ちょ、ちょうどいいから、こ、 今夜は自分で始末してくれるかい」 ペニスに取りつけられたパイプのもう一方が、僕の口を塞ぐゴムペニスの底に捩じ こまれた。豚男ちゃん、僕がオシッコ飲むのが好きだと、勘違いしていないかなあ。 豚男ちゃんのオシッコを嬉しそうに飲んでみせたからなあ。 パイプの中を僕のオシッコが鉄砲水状態で突っ走り、驚いたことに僕の喉から食道 の中まで、ぎゅうぎゅうと詰まりこんでいるゴムペニスのいたるところから、オシ ッコがじゅるじゅると滲み出した。口の中にも喉にも食道にも。おかげで、自分の 小便の味をテイスティングさせられちゃった。よくわからないけど、淡白。 呼吸管による人為的鼻づまりで、味がしないのかもしれない。なにはともあれ、ジ クジク滲み出すオシッコで喉が湿ったおかげで、喉の渇きはほんのわずか癒された かも。 でもいいことばかりじゃない。ゴムペニスを入れられていて、いちばん辛いのが嚥 下。嚥下しようとすると、呼吸管やらゴムペニスやらでギュウギュウになっている 喉の奥が動き、管にくじられるようで痛い。それでもとにかく口の中のオシッコだ けは飲み下さないと、いつかほっぺたが破裂しちゃうだろうから、口の中に溜まっ てきたら少量ずつ飲み下し、それを何度も繰り返しているうちに、自分の小便が、 胃袋でたっぷんたっぷん揺れるようになった。 豚男ちゃんの小便と僕の小便が、愛のハーモニーを奏でているのね。もう究極の変 態行為だなあ。嬉しいな。自分のオシッコ自分で飲むのは冗談じゃないけど、飲ま されるのは嬉しいっていうマゾの微妙な心理が働く。豚男ちゃんがなにやら積極的 なのも嬉しいし。 でも、膀胱の中味がそっくり胃袋に移し替えられただけで、根本的な解決にはなら ないような気がするけど、とりあえず危急の欲求は解消されたから、まあ、いいか。 無心に自分のオシッコをングングしていたら、頭を撫でられた。 「よかったよ。ペロのお尻は最高だ。締めつけは蛇みたいだし、きゅ、吸盤みたい に吸いつくし、奥の方にはミミズがいるみたいにざわめくし、捩じるように波うつ し。こ、このお尻に咥えられたら、ど、どんな男も1分と保たないよ。ダ、ダイヤ モンドを、て、手に入れたと思ったら、中にウラニウムが、つ、詰まってたって感 じだなあ」 うわあい。褒められた。褒めて褒めて。快感の連続砲撃を喰らった僕の頭は、かな りお馬鹿になっていたようだ。この状態で喜びを表すにはどうすればいいのだろう。 ったって、自由に動かせるところといえば、肛門括約筋のみだし。ん、確か圧力セ ンサーが仕込まれてて、モニターにグラフがでてた。豚男ちゃんがモニターを見て いるか見ていないかはわからないけど、とにかく肛門をぎゅっと。ぎゅっ。ぎゅっ。 ぎゅっ。ぎゅううううう。 「ん?こ、肛門が反応してるな。もしかして、お返事してるつもりなのかな」 さすが、豚男ちゃん。鋭い。それともテレパシーとかかな。お返事だよ、との気持 ちをこめて、ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっううう。 「おや、まただ。ペロ、お尻を締めつけてお返事してるのなら、そうだな、一回だ け長く締めつけてごらん」 ぎゅうううううううううううう。こんなもんでどうでしょ。 「おお。こ、こんな使い道もあったんだな。はい、いいえでなら返事もできる訳か。 さすがペロ。僕にはそんな発想ができなかったよ。じゃあ、合図を決めておこう。 『はい』なら・・・短く2回締めつけ。『いいえ』なら・・・短く3回締めつけで どうかな。わかったかい、ペロ」 短く2回、ぎゅむぎゅむ。こんなもんでどうでしょ。 「短く2回だ。『はい』だね。じゃあ『いいえ』もやってごらん」 短く3回、ぎゅむぎゅむぎゅむ。 「ううむ。ちょ、ちょっと、く、区別しづらいな。じゃあ、長く一回、短く1回で やってみてくれるかい」 あ〜い。ぎゅううううむ、ぎゅう。 「おお、こ、これならわかりやすい。ん、まてよ、こ、これを応用したらいろいろ できる。あいうえお50音にあてはめたパターンを作れば・・・そうだ、それと人 工音声装置を繋げば、お尻の締め具合で、か、会話もできるじゃないか。そうだ、 なにか非常事態が起きたときの合図を、き、決めて、それとアラームを連携させれ ば、安心だ。こ、こっちが優先事項だな」 あ、それ賛成。気持ちよすぎて死ぬならいいけど、つまらない事故で死にたくない もんね。完全拘束は血行不良と呼吸困難、窒息が怖い。いざというとき伝達する手 段があれば、安心して責めを受けられ、気持ちよさ苦しさも隅々まで感じられると 思う。でも、極限までいってしまえば、死の恐怖が快楽を増幅することもあるのか もしれない。僕は・・・まだ、そこまでは求めたくない。たぶん。 「ど、どういうパターンがいいかな。SOS代わりだから、長く2回、短く2回、 長く2回でどうかな。・・・いや、長すぎないかなあ。ペロはどう思う」 うーん。たとえば急に呼吸ができなくなって苦しい状態でのことなんだから、悠長 に締めつけてるわけにもいかないよなあ。長く2回、短く2回、長く2回。ぎゅう ううう、ぎゅうううう、ぎゅ、ぎゅ、ぎゅううう、ぎゅううう、って感じか。ああ、 やっぱりこれじゃ長すぎ。のんびりすぎる。僕は短短締めで豚男ちゃんに返事した。 「『はい』か。長すぎるってことかい。それとも、こ、これでいいってことかな。 ・・・あ、僕の、き、聞き方がいけなかったんだね。ご、ごめん。もう一度、き、 聞き直すよ。こ、このパターンでいいと思ったら『はい』で、長すぎると思ったら 『いいえ』で」 いいえです。ぎゅううう・ぎゅ。 「やっぱり、長すぎるか。き、緊急時にゆっくりのんびり、こ、肛門を締めあげる っていうのに無理があるよね。うーん。自然の反応と、こ、混同するようじゃいけ ないし・・・じゃ、全力で4回短く締めつけるのはどうかな・・・イクときと、こ、 混同しちゃうか・・・やっぱり、長い短いだけじゃ、く、組み合わせに、げ、限界 があるなあ。きょ、強弱も必要だ。うん。短く弱く3回。全力で短く1回。ペロ。 ちょ、ちょっとやってみてくれないか」 はい〜。弱めに短く、最後は強く。ぎゅぎゅぎゅ、んぎゅう。 「うーん。短い3回が、つ、つながってパターンがはっきりしない。一拍置くよう にやってみてくれないか」 あい〜。えーっと。ぎゅ、ん、ぎゅ、ん、ぎゅ、ん、んぎゅうっと。こんなもんで どうでしょう。さっきから、おチンチンにもピクピクきて、なんか、感じてきちゃ ったんですけど。 「うん。こ、これなら、だ、大丈夫そうだな。ペロ、パターンを、き、記録するか ら、微妙に締め具合を変えて、10回くらいやってみてくれないか」 10回ね。平均取ったり、許容の幅を決めたりするのに必要なわけですね。僕は力 の強弱や長さをちょっとずつ変えて締めつける。おチンチンも筒具の中でピクピク して、微妙に快感。もっとやっちゃおうかな。いやいや、冗談考えてる場合じゃな い。自分の命にかかわることだし。真面目に。真面目に。 ● 11.電撃のミッドナイト、幸せのグッドバイっと。 「よーし。デ、データが取れた。じゃあ、こ、これを元に非常事態のアラームプロ グラムを創ってこよう。圧力の強さや、タ、タイミングのばらつきも認識するよう にしなくちゃならないから、ちょ、ちょっと時間がかかるな。4時間くらいかな」 え?豚男ちゃんがプログラム?自分でするの?凄いじゃん。なんだか、豚男ちゃん の知られざる一面を知ってしまった。 「その間、ペロは、そこでそのまま待機だよ。暇だろうから、えーっと、性具誓約 書の第7項の『性具として最高の、き、機能を、か、開発・維持』のための、く、 訓練でもしててもらおうかな」 性具誓約書の第7項といえば・・・。あれ、快感漬けで頭がぼけたかな。記憶力に は自信があったんだけど。あ、思い出した。よかった。『7、私、ペロは、性具と して最高の機能を開発・維持するため、身体の柔軟化、口、肛門、ペニスの機能強 化のための訓練に励み、同時に、さらなる高性能な性具となるため、精進すること を誓います』だった。 訓練ってなんなのか興味が湧く。この状態で訓練といえば、口か肛門だろうなあ。 全身石みたいに固定されてて、柔軟なんてどうやるんじゃあって感じだしさ。ペニ スの強化っていわれても、金冷法くらいしか思い浮かばないし、なのに僕の哀れな 金玉は、体の中に押しこめられちゃってるし。 そういえば、接して漏らさずとかいう閨房術の話を読んだことがある。要するに射 精しないでいることなんだけど、これならいまの僕はその達人って訳だ。ただ、そ の術は、精を放たず、相手の女性から精気を吸収するとかなんとか・・・人間業じ ゃない、吸血鬼かって突っこみを入れたくなる話だった。それ以外に、ペニスの訓 練って思い浮かばないし、やっぱり、口か肛門がらみの訓練なんだろうな。 「ペロの中に入っている、き、金属棒は、10カ所に圧力センサーがあるんだけど、 それを10秒間に一回、き、規定以上の、ち、力で締めつけること。パソコンが制 御してるから、ズルはできないよ。さっきのびっくりしたときの、ち、値を暫定的 に最高値として・・・そうだな、最初だから、1/3の、ち、力でいいことにしよ うか。真剣にやってもらうために罰も設定してあるからね。もし最低値を下回るこ とがあったら、アラームが鳴って、一回目はその下回った場所から弱い、で、電流 が流れて教えてくれる。2回連続で下回ったら、つ、強い、で、電流が流れるから、 ちゅ、注意すること。まあ、1/3だから問題ないだろうし、ご褒美も設定してあ るから、一生懸命、く、訓練に励むと思うけど。わかったかい」 はーい。短く肛門を2回締める。でも、腸内に電撃喰らうのって、どんなんだろう。 快感じゃないことだけは確かかな。それにご褒美ってなんんでしょう。これは快感 だろうし。悪い想像には思考停止、いい想像だけ考えることにしよ。なんてポジテ ィブ・シンキングな僕。 「よし、イイコだね。こ、これを設計しているとき、まさか、つ、使える、き、機 会があるなんて思いもしなかったけど、おもしろくなってしまって、か、考えうる ありとあらゆる、き、機能を、こ、凝りに凝って、つ、詰め込んだんだよ。罰の、 で、電気刺激は、か、かなり、き、きついと思うけど、か、海外の、で、電気刺激 製品も参考にして、安全性には配慮してあるから、安心だよ。じゃあ、スタート」 かなりきついけど、安心していいって、それで安心できる人はいないと思うぞ。豚 男ちゃんが合図すると同時に、なんとお腹の中で短い電子音が鳴った。合図までし てくれるのか。親切な棒だ。ぎゅうと締める。なんてことない。ピンポ〜ン。と間 延びしたチャイムがお腹の中から響く。あふん。ああ。ペニスの尿道バイブと筒具、 肛門の金属柱が振動した。弱い電気刺激もある。でも、ほんの一瞬。5秒くらい。 もっと欲しい〜。 次の合図が待ち遠しい思いで、お腹の中からポ〜ンっと電子音が聞こえた瞬間に締 めつける。ピンポ〜ン。あああ、あふ〜ん。でも、すぐ終わっちゃう。逃げていく 快楽の雫さえ貪ろうと、直腸が蠕動し金属棒に絡みついていく。我ながら欲深い肉 体です。ああん。確かにこれなら訓練をさぼらないなあ。 ポ〜ン、ぎゅう、ピンポ〜ン、あああん。の繰り返し。しばらく頭の中が虫状態に 退化して、快感追求のみにいそしんでいたけれど、ふと大脳新皮質が夢から覚めた。 豚男ちゃんは最低4時間は戻らない。で、その間、10秒に1回ということは、1 分間に6回、1時間で360回、4時間で1440回。 ちょ、ちょっと待て。千と四百と四十回。肛門括約筋って、そんなに連続してコン スタントに使えるものなんだろうか。なんだかいやーな予感がした。そんなことを 考えていて、締めつけを忘れていたら、ピンポ〜ンの代わりにブーってブザー音が 鳴り、直腸全体がピリピリと痺れるような不快な感覚が与えられた。 おっと。失敗失敗。あんまり括約筋に力を入れすぎないで、ほどほどのところで長 時間に備えた方がいいかもしれない。と思ったのが大失敗。つい、試してみようと 次の合図で弱めに締めたとたん、また、ブー。そのとたん・・・全身の毛穴からス パークの青白い糸が噴きだしたかのような、想像を絶する電撃が流された。しかも 一瞬ではなく5秒間は連続して。うげぎゃあああぐああいいい。 もし拘束がなければ、2メーターは飛び上がっていたかもしれない。お腹の中で爆 弾が破裂したら、こんな苦しさかもしれない。直腸へ電撃されて泣き叫んでいる存 在なんて、世界中でも僕だけだと思う。僕は、アホだ。いったん間を置いて試せば いいものを。 体中の震えが止まらない。ポ〜ン、ぎゅう、ピンポ〜ン。を十回ぐらい繰り返し、 ようやく落ち着いた。そういえば、どのくらい時間が経ったのだろう。締めつけた 回数を数えていなかったけど、だいたい40回くらいか。ということは、えええ、 まだ7分しか過ぎていないことになる。あと3時間53分。 目の前が真っ暗になる。って、もとから目は塞がれて真っ暗ですけども。豚男ちゃ ーん。豚男様ー。早く戻ってねー。何でもサービスするからー。でも時間は、ナメ クジのように粘ついて過ぎるだけ。結局この後、3時間半を過ぎる頃から筋力の限 界がきて、総計20回以上もの電撃を喰らうことになろうとは、このときの僕は知 らない。 ともあれ、こうして性具としての1日目の夜も更けていく。僕の決断、選択が正し かったかどうかは、わからない。でも、確かなことがふたつ。世界でいちばん醜い 豚男ちゃんは、僕にとってかけがいのない、世界でいちばん大切な人だってこと。 そして、この後の人生、決して退屈はしないということ。                   ◎ 観客もいない、真っ暗闇の地下室の中で、ぽつんとひとり、淫らな格好のまま肉体 を宙に浮かべられ、僕は自動肛門マシンと化してひたすら肛門運動を続けていく。 10秒ごとにお腹の中からチャイムを響かせ時を刻む、生きた時計として。 物になること。他人の性処理のための単なる道具であること。意志も自由も希望も プライドもモラルも尊厳も羞恥もなく、意味も意義もない、ただ、淡々と処理し処 理される生きた肉。それが性具。 自由と権利を持てあまし、責任に押し潰され、モラルという固い枷に嵌めこまれ、 欲望を抑圧し、他人の評価に振り回され、ちっぽけな尊厳とプライドを守るために 汲々とし、エゴとエゴの摩擦にすり減り、性愛を愛と偽り、欲望を満たすためのわ ずかな機会を砂漠の水滴のように待ち焦がれる。そういうとてもご立派な「人」と しての生き方もある。幸せですか、人間のみなさん。 僕は性具でとっても幸せ。              ++++ be happy ! ++++ 2004/05/06