フェイクガール  作: 玲
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『フェイクガール』・フェイク1-4

4.犬も歩けば棒に当たるというけれど、棒を引かれると犬気分。

最初はおそるおそるだった豚男さんのリードも、歩数を重ねるごとにちゃんとして
きて、僕のペニスはグイグイと引かれ始めた。目が開いているときと変わらないほ
どの速度で居間を抜け、板張りの廊下に出た。命の次に大事な部分をただの取っ手
のように扱われるって、人格を踏みにじられてるようでたまらなく嬉しい。

廊下を十数歩歩いたところで、ストップがかかった。ペニスを引綱代わりに握りつ
けられ、なすがままに連れ回される哀れな自分の状況を思い浮かべて、腰が砕けそ
うなほど感じていた僕は、足を踏み入れた先の変化に気がつかなかった。突然床が
動き出す。思いもかけなかったことで、僕は驚いてよろけ、ペニスを痛いほど引か
れて体勢を戻された。

「だ、大丈夫かい?エレベータだよ。おチンチン痛かったかい。ご、ごめんね」

いや、謝らなくても。そんなときのための引き綱ですから。いわれるまでもなく、
すぐにエレベータだと理解したが、2階建ての家にエレベータがあるなどとは思い
もよりませんでした。豚男さんは以前、老親の介護でもしていたのだろうかと思い
かけて、もしや僕のためにエレベータを新設した、という可能性に思い至った。今
日のためにプレイルームを用意したっていってたし。うーん、まさかね。

エレベータは上にではなく下に降りてゆく。ということは・・・地下室。僕のため
に用意された秘密の変態プレイルーム。地下室かあ。これもまた甘美な響きを持つ
言葉だ。ちょっとだけマスクを外してどのような造作になっているのか見てみたい
気もした。

エレベータの扉が開いて、ペニスを引かれるままにしばらく歩き、いったん立ち止
まる。ドアの桟でもあるのか、つまずかないように注意され、跨ぐように足を踏み
出すと、足の裏に弾力を感じた。床が分厚いゴムでできているような感触。足が沈
むほど柔らかくはないけど石や木の硬さじゃない。踏みおろした足が弾むような弾
力はどう考えてもゴムだろう。十二歩、歩いたところで止まるよう命じられた。

「ちょ、ちょっと立っててくれるかな。こ、これから、き、君を吊すんだけど、き、
着せ替えの間、た、倒れないようにするためのものだから、心配しないで」

なるほど。ちゃんと考えてある。からからと金属音がして、僕のマスクのてっぺん
に金具が引っかけられた。続いて真上から低いモーター音が聞こえたかと思うと、
僕の頭が引きあげられた。ゆっくりと引かれて、ついにはほんのわずか爪先立ちを
しかけたところで、モーターが停止した。

「く、苦しくはないと思うけど・・・く、首にはまだ、た、体重が、か、かかって
ないから」

はい、大丈夫です。と頷こうにも頭を引っ張られているのでできない。がさごそと
豚男さんの動き回る音、クローゼットの扉を開け閉めする音、ゴムの素材がゴムの
床に落ちる音、ゴムが鳴る音、そんな音が聞こえる。わざとちょっと足の力を抜い
て、首で体重を支え、なんとなくゆらゆら揺れながら吊られた気分を味わいつつ、
わくわくどきどきの待ち時間。かってないほどの幸せな時間。

「衣装を着ける前に、まず、か、身体に、と、と、特製のオイルを塗らせてほしい
んだ。衣装や道具は全部、ド、ドイツの会社にと、と、特注して造らせたんだけど、
何度もたくさん注文しているうちに、と、と、特別会員にしてもらって、その、か、
会社の、か、会員専用の秘密のページにアクセスできるようになってね。こ、この
オイルはそこで見つけたんだけど、もともとはNASAの宇宙飛行士のために、か、
開発されていた、ク、クリームなんだそうだ。スキンケア効果があって、そのうえ
皮膚に浸透して、こ、高分子ポリマーで皮膚を、き、強化してくれる。暑さや寒さ
に、つ、強くなるし、火傷にも、つ、強くなる。だ、打撲や、き、傷にも、つ、強
くしてくれる。それに・・・なんだっけ・・・あ、熱伝導がよくなるとかで、ちょ、
長時間密封されてても熱射病とか起こさないようにしてくれるんだそうだ。宇宙で
の、か、活動や事故にも、こ、効果的な、まさに、か、画期的なものなんだけど、
け、欠陥というか副作用というか、別の効果も、で、出てしまった失敗作なんだそ
うだ。宇宙活動には不向きでも、変態的な使い方なら、け、欠点も、ちょ、長所に
なる。副作用っていっても、き、危険なものじゃないから・・・なにより、ちょ、
長時間、ゴ、ゴム衣装に密封できるようになるのがいいところなんだ」

副作用ってなんなのか、不安なきにしもあらずだったけど、豚男さんの小動物的性
格は、いいかえれば、かなり用心深いということだし、充分検討しただろうから、
まあ、信用して大丈夫と思えた。ていうか、頭はマスクで拘束され、全裸で吊られ
ているこんな状態で、信用するもしないもないわけで、されるがままの性処理用具
がそんなことを考えてても滑稽なだけだと気がついて、おかしかった。なにより秘
密会員用の特別商品だなんて、ものすごく犯罪的で怪しく、僕の変態的好奇心をビ
ンビンに刺激してくれる。

「で、副作用というのは、だ、脱毛作用と漂白作用。それから使用時にひどく不快
感があること。えーと、ポリマー化にも、ちょ、ちょっと問題があって、普通なら、
か、身体を洗って落とす垢がポリマーになってしまうから、と、特別の溶剤で、と、
溶かして落とさないといけなくなる。それと皮膚の張りが強くなって、か、関節が
曲げづらくなるらしい」

なるほど。確かに即危険そうなものじゃないけれど、長期に渡っての連続使用の場
合はどうなのかはわからないんだろうなあ。でも、そんなことをいったら、農薬や
ら遺伝子組み換え食品やらが氾濫してるいまの世の中じゃ、生きていけなくなる。
使用時にどのくらい不快なのかが気になるところ。痛いのはいやだなあ。

「だ、脱毛効果は、きょ、強力で、自分でも顎と脛に一回塗って、た、試してみた
けど、髭も臑毛も20分くらいで、と、溶けるみたいに、き、消えた。それで、そ
の間中、痛いというか・・・熱いというか・・・か、痒いというか、か、かなり、
き、きつかった。その後一週間くらい、産毛も生えてこなかったし、メラニン色素
を、こ、壊してしまうようで、塗ったところがはっきりわかるほど白っぽくなって
た。て、手触りは、つ、つるつるで、け、毛穴も見えなくなる。溶剤を使わないで
放っておいたら、2週間くらいで膜が剥がれるみたいにぺろっと、と、取れたよ」

そう聞くと、最初はエステで使えるかもと思ったけれど、脱毛と漂白が切り離せな
ければ部分的使用ではマダラになってしまってダメだし、全身に塗るとポリマー効
果で手足が動かし難くなっちゃうとしたら、やっぱり使えない。痛みに関していえ
ば・・・ダイエットやら美容のためなら死んでもいいという人もいるくらいだから
なあ。

で、僕ならといえば・・・なるほど、変態マゾ性処理用具の生活なら、拘束されま
くるのが日常だから、指や腕が動かしづらくなってもなんの支障もないってわけだ
ね。気密性の高いラバー系の衣装は体熱を溜め込んでしまうから、特に全身を包ん
でしまうバージョンだと熱中症の危険性がある。その点が解消されるというだけで
も、使ってみる価値はありそうだ。

「そんなオイルなんだけど、塗ってもいいかな。だめかな」

まったく、豚男さん、遠慮しすぎ。いい点でもあるんだけど、いちいち確認される
のもしらけちゃうし、有無をいわさぬ扱いというのも、変態マゾとしては好ましい
ときもある。この辺は今後の課題だなっとチェックしておいた。とにかくいまは、
何でも遠慮しないでじゃんじゃんやって欲しい気分満載なので、頷こうと・・・頭
を吊っている鎖が突っ張り、反動で逆に仰け反ってしまった。うひゃ〜、みっとも
ない。自分の迂闊さにマスクの中で照れ笑い。爪先立ちして鎖をゆるめてから、ち
ょこんと頷いてみせた。

首のマスクとの境目に、べったりと冷たい感触。下へと塗り拡げられ、胸と背中が
万遍なく塗りつぶされた。両腕は手首まで塗られた後、手の平に少量のオイルを落
とされて指の間までていねいに塗りこむよう指示される。手の平で揉み伸ばした感
触はオイルというよりゼリーともいえそうな粘りがあった。その間にも下腹部に、
ペニスの先にいたるまでたっぷりと塗りこまれていく。次はお尻、そして肛門と肛
門の周りには特に念入りに擦りこまれる。

足が塗られる頃になると、話に聞いた不快感が拡がりだした。最初は素肌にセータ
ーを着たときのようなチクチクした感覚だったけれど、足の指先までの塗りこみが
終わる頃には、急カーブで熱い痛痒さというような感じとなった。豚男さんはほん
の部分に塗っただけで、かなりきついといった。それが全身でいっせいにとなると
・・・はっきりいって拷問です。

酸を浴びたみたいだった。肌が溶け肉が燃えているときに、じっと耐えていられる
ほど僕はタフじゃない。絶叫ダンスを踊った。とはいっても、声は出せないし、身
体は吊られているから、無言の尻くねり踊りにしか見えないだろうけど。鎖がガチ
ャガチャと鳴る音が、僕の叫びだった。

あまりの苦しみに時間感覚など吹っ飛んでしまったけれど、おそらく10分ほどし
て、熱痛痒さが半分に減ったように感じた。半分といっても元が元だから、泣くほ
どつらいんだけど、でも、僕は普通の人とは違い、こういう種類の苦しさを、快楽
に変質させる方法を知っている。

塗られた順に熱痛痒さがの場所が下がっていき、全身の苦痛が一定レベルで落ち着
いたとき、頭の中に、いまの自分の哀れで情けない身悶え姿を、思いっきり変態の
フィルターを通して浮かべてやる。同時に、気持ちいい、ああん、気持ちいい、あ
あん、と繰り返し気持ちをこめて唱え、自己暗示にかける。散発的な痛みや、強い
痛みには効きづらいけれど、連続的な苦しさなら、脳の回路はもともと錯誤しやす
くできているので、意外と簡単に快楽にすり替えることもできるんだね、これが。
だいぶ気分が変質してきたぞ。亀の字も付いている物だけに、一時は身体の中に潜
り込もうとしていた僕のペニスが、再びピクピクしてくる。


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