女にされた   作:摩火

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女にされた70

「みんな、ちょっと仕事の手を休めてこっちを注目してくれたまえ。」
職場に入ると、課長は大声で全員に話し掛けた。
何事かと10人くらいの同僚が一斉に課長と裕次郎を見た。
「諸君、大変急な話だが、ここにいる原君について重大な発表がある。」
配置転換を重大な発表とはずいぶん大げさなと裕次郎は思った。
「実は、原君は今まで自分のあり方に対する重要な病を抱えていた。」
裕次郎がいったい何を言っているのだろうという表情で金岡課長を見た。
「それは諸君も新聞などで読んだこともあるだろう「性同一性障害」というやつだ。」
金岡課長の言葉は裕次郎も含めて全員がよく理解できないようだった。
「いわゆる自分の認識する性と、体の性が違うということだ。」
金岡課長は全員がその言葉を理解できるように一呼吸置いた。
ざわざわと課員同士のささやきが聞こえてくる。
・ ・・か、課長はいったい何を言っているんだ。これじゃあ、オレが丸で女になりたがっているみたいな言い方じゃあないか・・・
裕次郎は唖然としてしまった。あまりもの思いがけないことに、言葉も発することができない。
「そう、ここにいる原君は長い間男性ではなく、女性としての自己認識に苦しんできた。最近、原君の胸が膨らんでいることに諸君は気がついていたと思うし、原君がどんどん女性っぽくなっていることも諸君の間の公然の噂になっていたことは私も招致している。」
・ ・・み、みんなはオレが女のようになってきていると、そんなことを噂しあっていたのか・・・
裕次郎は、自分としては極力男らしく振る舞ってきたつもりだった、しかしどんどん進行する女性化は同僚の目をごまかせなかったらしい。他人に隠せないほど自分が女性化している事実も裕次郎にとってはショックなことだった。
「実は先日来、原君から色々と相談があった。医者の診断書も添えられていた。実は原君はもう何ヶ月も前から性転換するために女性ホルモンの投与を受けている。更に去勢手術まで受けているので、後は最後の性転換手術を受けるばかりになっている。」
全員の好奇心にあふれた目が裕次郎に集中した。中にはニヤニヤ笑っているヤツもいる。
・ ・・か、課長のヤツ、何て事を・・・去勢していることまでバラしやがって・・・
裕次郎のはらわたは煮え繰り返っていた。しかし、それよりも全員の性的好奇心に溢れた目が集中する中で、恥辱のあまりうつむいてしまうしかない裕次郎だった。
「そこでだ、会社としては性同一障害症候群なる病気は初めてのことだったが、社長も交えて相談した結果、わが社としては差別をしたりしないことを確認した。そして、原君については本人の希望どおり女性として勤務しつづけて貰おうという結論に達した。そういう訳で、明日から原君は女性として扱い、女性の服装で勤務をすることとなる。どうか諸君も了解しておいて欲しい。」
課長は一気に話し終えた。

女にされた71

「はい、質問があります。」
金岡課長の話を熱心に聞いていたOLの一人が憮然とした表情で手を上げた。
「何かね恵子ちゃん。」
金岡課長が手を上げたOLに聞いた。
「原さんは明日から女性として扱うってどういうことですか、更衣室もトイレも女性用を使うって事ですか?そんなの嫌です。他の女子社員たちもみな嫌がると思います。」
OLは憤然とした表情で金岡課長に食ってかかった。
・ ・・バカヤロウ、誰がお前みたいなブスとトイレや更衣室一緒になって喜ぶんだよ・・・
裕次郎は反射的にそう思った。恵子に対する敵意がググッとこみ上げてくる。
「しかし、OLの制服着ておっぱい膨らませたヤツが男性トイレ使うって言うのもなぁー」
誰かが野次を飛ばした。
「そうだそうだ、トイレで犯してくれって言っているようなもんだ」
また卑猥な野次が飛ぶ。
一部の男子社員の口からヒヒヒといういやらしい笑い声が漏れた。
きっとピンクのOLの制服を着た裕次郎がトイレでスカートを捲り上げて立ちションをしているシーンや、トイレの個室の中でバックから男子社員にかわるがわる犯されているシーンを想像したのだろう。裕次郎はそれを思うと恥ずかしさで更に真っ赤になってしまった。
「まあ、待ちたまえ、そういうこともあろうかと、原君には明日から配置転換をする。明日から秘書室勤務とするので、トイレも更衣室も諸君のところとはまったく別になるので安心してくれたまえ。」
金岡課長が平然とした表情で裕次郎の異動を告げた。
「いいかね、繰り返すがわが社は性同一障害症候群であろうとも、決して差別はしない。心の性と体の性が違うのは本人の責任ではなく、病気の一つであると考え、本人が立派な女性として自立できるように配慮しようとしている。だから諸君も変な色眼鏡で原君を見たりせずに、一人の成人女性として原君に接して欲しい、ちなみに原君は裕次郎という名前だったが、今から愛と名乗ることになる。原 愛君だ。諸君もこれからは原さんとか愛ちゃんとか呼んでくれたまえ、話は以上だ。」
金岡課長は演説を終えると唖然としたままの裕次郎を無視して、全員に仕事に戻るように促した。
裕次郎はハッと我に返ると、金岡課長の袖を引いて顔を近づけた。
「か、課長、ひどいじゃあないですか、僕は何も本当の女になりたいと言っていないですよ。それに去勢していることまでバラして、これじゃあ会社にいられなくなってしまう。」
裕次郎は皆に聞かれないようにヒソヒソ声で課長に抗議をする。

女にされた72 摩火

「ん?別にいいじゃあないか、本当のことなんだから、それに社員の間では君が去勢したり女性ホルモンをやったりしているらしいということはものすごい噂になっていたからね。今更誰も驚かんさ。」
金岡課長は涼しい顔でそう答えた。
「で、でも、僕は今やむなくニューハーフやらされているけど、借金返したら絶対に男に戻りますからね。それなのに会社で女性のままだったら戻れないじゃあないですか。」
なおもしつこく抗議する裕次郎だった。
「なあに、大丈夫大丈夫、本当に男に戻りたいのなら、その時になって性転換はやっぱりやめました、心の病が治りましたと言えばいいさ、その時は男子社員に戻してやろう。」
なおも平然と課長は言い放った。
「本当ですか、本当に本当ですね。」
課長の自信たっぷりの言葉についつられてしまう裕次郎だった。しかし、裕次郎はその後の課長の「男に戻れるものならばな。」という呟きが聞こえていなかった。
「さあ、愛ちゃんは明日から秘書室勤務なんだから、机の整理したまえ。今の仕事はそのままにしておいてもいいから、それからこれ。」
金岡課長は先ほど庶務課で貰ってきた箱を裕次郎に手渡した。
「何ですか、これ」
そう言って裕次郎はその箱をまじまじと見た。
箱にはピンクの制服を着た女性の写真が印刷されていた。それは会社の女子用の制服だった。
「・・・・・」
箱の正体を知り、あまりのことに絶句してしまう裕次郎の背中をを課長がいやらしい手つきで押した。
「さあさ、仕事の後片付けをしなくちゃな、愛チャン」
裕次郎は顔を真っ赤にしながら自分の机に戻った。
恥ずかしくて顔を上げることすらできない。それでも同僚達の好奇に溢れた視線が自分に集中していることがいやというほど分かった。
裕次郎は制服の箱を自分の机の上に置いて椅子に座った。
「あら、やっぱりその制服着たかったのね。愛ちゃん」
隣のOLが目ざとく声をかけてくる。
裕次郎はその声を無視した。
「おおい、愛ちゃーん、餞別あげたいんだけど何がいい、ストッキングにする?それともマニキュアがいいかい」
又もおせっかいな男子社員が後ろに来て裕次郎をからかった。
裕次郎は恥辱のあまり口を利くことすらできない。
「みんなやめなさいよ、原さんは今まで心と体の性の違いに苦しんできたのよ、それが念願かなってやっと女性として認められるんだから、全員で喜んであげるべきよ。」
OLの誰かがそう言って全員を諭しているのが聞こえてきた。しかし裕次郎は相変わらず下をうつむき、恥辱に打ち震えたままだった。
・ ・・がまんだ、がまんするんだ、宏美を助けるためだ。・・・
裕次郎は心の中で念仏のようにその言葉を繰り返すばかりだった。


女にされた73

ようやく長かった会社の退社時間が来た。
「原さん、これ、お餞別」
数名の女子社員から花束と袋を渡された。男子社員一同からも何やら袋を渡された。そしてあの金岡課長からも大きな袋を手渡された裕次郎は情けなくも口の中でもごもごとお礼の言葉を呟くしかなかった。
「手術終わったら、合コンやろうな、めでたく女性になったお祝いに」
男子社員に口々にそう言われながら、逃げるようにして会社を後にした裕次郎は結局両手にいっぱいの袋と花束を抱えていた。どうやら彼らは昼休みに色々と買ってきたらしい。
目の前にスーッと車が止まる。例のカメラマンヤクザの車だった。
車に乗り込んだ裕次郎はようやく深いため息をついた。
・ ・・これからどうなるんだろう、一日中女の格好で過ごすことになるんだろうか・・・
裕次郎の男性としてのアイデンティティを繋ぎとめていたのは会社で背広で過ごすことができたからだった。それが明日からは一日中女の格好で、スカートを穿いて過ごさなくてはならなくなってしまった。
・ ・・このまま、本当に女になってしまうんだろうか・・・
裕次郎は男性に戻れるという自信が完全に持てなくなってしまっていることに気がついた。
そんなことを考えているうちにも車は「ライク・レディ」のある建物に着いた。
・ ・・この荷物、どうしよう、すてっちまおうか・・・
そう思いながらも結局裕次郎は同僚達にプレゼントされた花束やら紙袋やらを両手いっぱいに抱えて店内の着替え室に入っていった。
着替え室にはみどりが先に来ていた。
「おはよう、わーお、すごい荷物ね。なに?男の人からのプレゼント?」
気さくなみどりが早速声をかけてくる。
「いや、違うの。まったくうちの会社の連中ときたら、明日から女の格好で出社しろって言って、秘書室に配置転換、これは今の部署の連中からのお餞別よ。」
この数ヶ月間の強制訓練のおかげで、裕次郎は「ライク・レディ」では女言葉で喋ることにすっかり順応してしまっていた。
「すっごーい、それってすごいことじゃあない。会社でも女として認められたんだから。そんな会社うらやましいな、あたしもOLで雇って欲しいわ。」
みどりは心底うらやましそうだった。
「でもひどいのよ、課長ときたら去勢していることまで発表しちゃうし、社長はニューハーフ好きらしくて、応接室であたしとセックスしちゃうし。あたしはみどりさんと違って本当に女になりたいんじゃあなくて、借金のカタがついたら男に戻りたいんだから。」
裕次郎はなんだか喋っていてこれが現実のこととはとても思えなくなってきていた。
「そんな、もったいない。愛ちゃんのような美少女はちょっとやそっとじゃいないわよ。あたしだったら喜んでその美貌を武器に社長の膝のり秘書でもなんでもやっちゃうわよ。それってものすごくラッキーなことじゃあない。」
みどりにとっては今の裕次郎の境遇がうらやましくてしょうがないのだろう。しかし、当の裕次郎本人にとっては、社会生活でも男に戻れる退路を絶たれたことは非常にショックなことなのだ。
「で、それ職場異動のプレゼントって訳ね。」
みどりが大量の紙袋を指差して言った。

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