女にされた 9〜12  作:摩火

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女にされた9

「ほら、何かしゃべれよ」
兄貴分が裕次郎の耳に携帯を押し当てた。
「も、もしもし、みゆきか?」
裕次郎はのろのろとした口調で喋った。
「・・・パ、パパァ、助けてぇ、あたしさらわれたの、ママが何かやったとかで、連れてこられたのぉ」
その声は予想したみゆきの声ではなく、娘の宏美の声だった。
「宏美!宏美か!お前まで捕まったのか!」
裕次郎の麻痺していた頭はいっぺんで覚めてしまった。
パチン! 
その音は兄貴分が裕次郎の耳に押し当てていた携帯をしめた音だった。
「宏美、宏美までどうして・・・」
裕次郎は後の言葉を続けることができなかった。
こんな危険なやつらに捕まった以上何をされるか分かったものではない。
裕次郎の頭の中は愛娘の宏美の身に起こるかもしれないおぞましい想像で溢れ返った。
「お前の女房はな・・」
兄貴分が裕次郎に語り始めた。
それは裕次郎にとって衝撃の内容だった。
「お前の女房はなぁ、俺のガキ時分から俺と付き合っていた女でな、お前とみゆきが結婚した後も毎週のように俺と不倫していた」
妻の不倫を疑っていた裕次郎だったが、それが結婚直後からずっと続いていたことに裕次郎は衝撃を受けた。
「いや、淫乱な女でな、ちょっとでもいい男を見るとすぐに尻をすりつけてくるような売女だった。だからみゆきは俺のもとで5年前からウリをやっていた。要するに主婦売春ちゅうやっちゃ」
不倫だけではなく、売春まで!
兄貴分の口から次々に飛び出す衝撃の事実に裕次郎の頭はまた真っ白になってきていた。
「ところがだ、昨日になってみゆきは姿をくらませやがった。俺の金8000万と一緒にな」
何故彼らがみゆきを必死になって探すのか、裕次郎ははじめて合点がいった。
裕次郎と宏美を誘拐したのは、みゆきの居所を知っていると彼らが踏んだからに違いなかった。
しかし裕次郎は妻の居所についてまったく思いあたらなかった。恐らく宏美もそうだろう。
そしてこのままみゆきが捕まらなければ、彼らは裕次郎と宏美にその金の返済を迫るだろうことも容易に想像がついた。

女にされた10

「まあ、みゆきのヤツを見つけたら、それ相応のおとしまえはつけてもらう。しかし見つからない場合は、お前らに金の返済をしてもらう。その体を使ってでもな。」
案の定だった。案の定、兄貴分は裕次郎と宏美に金を返済させようとしていた。しかも宏美に売春をさせようとの魂胆であることは明白だった。
「でも、宏美は、宏美はまだ子供なんです。そんなこと、そんなことさせられません。私が払います、何としてでも私が払います。だから宏美だけは、宏美だけはかんべんしてやってください。」
裕次郎は必死に兄貴分に頼み込んだ。
グレているとはいえ、裕次郎にとっては可愛い大切な一人娘だ、どんなことがあっても売春のようなまねはさせたくなかった。
「で、どうやって一人で金を返すつもりだ。8000万なんて大金、ちょっとやそっとでは返せねえだろうが」
何とかしてここは彼らを説得しなければならなかった。
説得に失敗すれば彼らは宏美に売春を強要するに違いない、いやそれどころか最終的にボロボロの廃人になるまで裕次郎と宏美から金を搾り取ろうとするだろう。
なんとか彼らを説得し、折を見て脱出して警察に駆け込むしかないと裕次郎は思った。
「そうだ、家を売ります。それから、それから会社の退職金と併せて返済します。」
「家?お前のあの小汚くてせまっ苦しいあのボロ屋のことか、あんなもん売っても4-500万にしかならんだろうが、それに退職金っていくらぐらいだ。10年くらいしか勤めていないんじゃあ、せいぜい3-400万だろうが、合わせて800万、桁が違いすぎるんじゃあねえのか。」
兄貴分の指摘の通りだった。
どう逆立ちしても1/10ぐらいにしかならなかった。
「後は、後は借金します。金融会社から借金して、それで払います。」
「馬鹿野郎、抵当もなしで7000万近く貸してくれるおめでたい会社がどこにあるってんだよ!」
そう言われると、裕次郎は黙り込むしかなかった。
しばしの沈黙が続いた。
いつしか降ってきた雨が車のフロントガラスを濡らしていた。
「娘にウリさせたくなかったら、お前が身代わりにやるか」
兄貴分が言った。
「???」
裕次郎にはその意味が分からなかった。

女にされた11

けげんそうな顔の裕次郎に兄貴分が続けて言った。
「お前が女の格好してウリやれば、娘には手を出さねえって言ってんだよ。」
裕次郎はようやくその言葉の意味を理解した。理解したが、それは裕次郎の想像を完全に超えたものだった。
・・・自分が女の格好をするだって?
確かに裕次郎はいまだにその美貌を保っている。女装してもある程度の見栄えはするかもしれない。
またその美貌ゆえに、これまでにホモ野郎に言い寄られたことも一度や二度ではなかった。
しかし裕次郎は男に言い寄られたり、尻を触られる度にひどい嫌悪感を覚えていた。
自分にはホモの気は一切ない。しかしそんな自分が女の格好をして、男とホモ行為をするというのだ。
それは想像したくないほどおぞましいことだった。
・ ・・しかし、一方、裕次郎がその条件を飲まなければ恐らく娘の宏美は彼らの手により、売春を強要され、女の幸せを一切望めない夜の世界に堕ちてしまうだろう。
売春婦の末路が悲惨なことは容易に想像がついた。
裕次郎は考えた、考えて考えて考え抜いたことは、売春婦になることではなく、どうやってここを抜け出し、警察に駆け込むかということだった。
裕次郎は自分がホモ野郎相手の売春婦になる気も、娘を売春婦にする気もなかった。
それは当然のことだ。
だからどうやったら宏美の身の安全を確保し、自分も脱出して警察に駆け込めるかが今の裕次郎の最大の関心だった。
・ ・・とりあえずここは承諾するフリをするしかない。
裕次郎はそう結論を出した。
「さあ、どうすんだよ、こっちはいつまでも待つつもりはねえぞ。」
兄貴分が裕次郎に返答を迫った。
その迫力は物質的なまでの力を持っていた。
「わ、分かりました。私が身代わりになります。だから、だから宏美は、宏美は許してやってください。」
裕次郎はどもりながらもそう答えた。
「兄貴、こいつやっぱり口先だけですぜ、とりあえず今を逃れればなんとかなると思っていやがる。ハラの底ではスキを見てサツに駆け込むつもりなんですぜ。やっぱ後腐れないようバラしましょう。」
サブが横から裕次郎を小突くようにして口を挟んだ。
裕次郎は腹の底を見透かされたようなサブの言葉にギクリとする。

女にされた12

「そうだな、こいつは言葉だけなのかもしれねえな」
兄貴分が不安そうな顔の裕次郎にギラリとした一瞥をくれた。
「そ、そんなことありません。嘘はいいません。誓って本当です。本当に宏美を助けてくれるなら何でもやります。」
裕次郎はまた自分が殺される可能性が高くなってきたことにあせり始めた。まるで底なし沼に落ち込んだような気分だった。
「なら、あかし見せてもらおうじゃあねえか。そうしたら信用してやる。娘には手を出さねえでいてやる。」
相変わらず裕次郎の精神を圧迫するようような迫力を持って兄貴分が言った。
「・・・あかし、証ってどうすれば・・・」
裕次郎は戸惑った。どうすれば彼らの言う証になるのかさっぱり分からなかった。
「キンタマだよ、キンタマ抜いて差し出せば信じてやる。」
その言葉にサブどころか運転手役のヤクザまでもがケケケと笑った。
裕次郎にはその言葉がにわかに信じがたかった。
女装して男に身を売れと言われるだけでも信じがたいのに、去勢をしろと彼らは要求しているのだ。これはもうたちの悪い冗談か悪夢かのいずれかなのだろうと裕次郎は思い込もうとした。
「じょ、冗談ですよね、親分さん、冗談でしょ、私をからかっているんでしょ」
裕次郎は半泣き半笑いで兄貴分に言った。
ゴチン!
その時、目から火花が散ったと思うくらいの衝撃が裕次郎の頭を襲った。
それはサブが裕次郎の頭を殴りつけた音だった。
「てめえは冗談と本気の区別もつかねえのか、兄貴がタマヌキと言ったら本当にタマヌキなんだよ!」
サブが裕次郎を怒鳴りつける。
サブの目がすわっていた。
裕次郎はすがるような目で兄貴分の方を見た。
しかし、街灯の光に照らされた兄貴分の目もまた笑っていなかった。
・ ・・じょ、じょうだんじゃあない。
裕次郎は彼らが本気なのを悟った。

 
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