女にされた1〜4   作:摩火

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女にされた1

原 裕次郎は悩んでいた。
家庭を持って15年、これほど悩んだことは彼の人生の中でなかったことだ。
家庭崩壊、そのことが頭にちらつき、仕事もまったくといって手につかないほどだった。
原因の第一は15才になる一人娘 宏美の素行だった。ここ半年というもの宏美はすっかりグレてしまい、
家にもほとんど帰らずましてや学校にも登校していなかった。
原因の第二は妻のみゆきの不貞だった。
結婚してから15年も経つとお互いの顔も見飽きてくる。特にここ10年ほどはお互いにすれ違い、
仮面夫婦状態が続いていた。しかしやはり妻が他の男と乳繰り合っている事を知るのは夫として非常に不愉快だった。
もっともみゆきとはこちらからの熱烈な恋愛の結果結ばれたのではない。
当時スケ番だったみゆきは高校に入学したての裕次郎の童貞を無理やり奪うような形で肉体関係を持ってしまった。
その当時、色の白い目を見張るばかりの美少年だった裕次郎は、母親の溺愛を一身に受けて育ったせいか、セックスの面で奥手だった。
当然精通も中学3年ごろであり、妊娠だとか避妊だとかいう知識はあまりなかった。
一方のみゆきは欲望のままに行動する性格のため、二人のセックスの結果は当然ながら妊娠という結末が待っていたことは不思議でもない。
一番驚いたのは不良少女だったみゆきが子供を産むと主張したことだった。
もっとも今にして思えば、生むことによって彼女の両親なり誰かなりを困らせてやろうとしたのかもしれない。

女にされた2

みゆきは間もなく出産のために退学し、裕次郎はそのまま学籍に残ってようやく高校だけは卒業したものの、
みゆきの両親の「責任を取れ」という強硬な主張のままに籍を入れることになってしまった。
その時の子供が宏美だった。
裕次郎は今、サラリーマンだった。
小さな商事会社の庶務に勤めている。
肩書きは主任というものの、これといって頭脳明晰というわけではないし役員とその取り巻きにコネがあるわけでもない、
その結果出世の望みはまったくないといっても良かった。
会社では上司にガミガミと説教を受け、家庭では妻の不貞と娘の素行に悩み、
裕次郎は人生の中でどうあがいてもどうすることも出来ないような局面を迎えていた。
いっそこのままどこかへ蒸発してしまおうか・・・
ふと気が付くと裕次郎はそんなことを取りとめもなく空想していた。
このままどこか遠くへ行って、また違う人生をやり直したい・・・
そんなことをちょくちょく考えているのだから当然仕に手がつかないのはあたりまえだつた。
「原君!原君!ボーとしてないでちゃんと仕事しろ、それでなくてもお前はミスばかり多いんだから!」
上司の木崎課長の怒声に裕次郎はハッと我に返った。
「そんなに仕事に身が入らないなら、そこの恵子ちゃんと明日から仕事交代してもらうぞ、
明日からピンクの制服着てお茶くみとコピーやってみるか?」
周りのOLたちがクスクスと声を押し殺して一斉に笑った。
恐らく彼女らの貧弱な頭の中で、スカートを穿き女装した裕次郎のOL姿を思い浮かべているに違いない。
「はい、すいません。ちょ、ちょっと考え事していたもので・・・」
裕次郎は首まで真っ赤になりながら平謝りに謝る。その姿を見てまた女の子達が忍び笑いをもらした。
畜生、バカにしやがって・・・
いっそうのことチビでデブでハゲでメガネの陰湿な上司に辞表を叩きつけて、
周りのバカOLどもの尻を思いっきり蹴飛ばして退職したらどれほど気持ちいいだろう。
しかし、現実はそういうわけにはいかなかった。家のローンという莫大な借金を抱えて、
おいそれとそのようなマネができるはずなどなかった。

女にされた3

その日一日、裕次郎ははらわたの煮え繰り返るような思いで仕事をした。
そして上司に命じられた残業を終え、ようやく自宅に帰り着いた時にはもう時計は夜中の2時を回っていた。
身も心もクタクタになりながら裕次郎は真っ暗なシンと静まり返った家のカギを開けようとした。
「あれ、カギかかっていない・・・」
裕次郎はつぶやき、そして思わずカッとなった。
自堕落な妻のみゆきが玄関のカギもかけずに寝てしまったのに違いない。なんて物騒な。
今日一日の積もりに積もった鬱積した感情もあり、裕次郎は終に怒りを爆発させた。
「おい、みゆき!みゆき!」
靴を脱ぐ時間ももどかしく裕次郎は寝室に向かった。
妻のみゆきを思いっきり怒鳴りつけてやろう。カギのことだけではなく、妻の不倫についてもはっきりさせてやろうじゃあないか、
今の裕次郎の頭の中は怒りをぶつけることしかなかった。
裕次郎は手荒く寝室の戸を開けると電灯のスイッチを点けた。
カチカチッと音を立て蛍光灯に照らされた寝室には誰もいなかった。
いや、それどころか室内がのタンスの引出しが引き出されっぱなしになっており、みゆきの服やらなにやらが散乱していた。
・ ・・泥棒・・・
一瞬状況が理解できなかった裕次郎だったが、すぐに泥棒に入られたと思った。
裕次郎がもう少し冷静に部屋の中を見ていれば、それは泥棒が金目のものを盗むために手当たり次第に漁ったのではなく、
誰かが急いで自分の身の回りのものを持ち出すためにやったことだと気がついただろう。
しかし、今の裕次郎には冷静に判断を下す余裕などなかった。

女にされた4

裕次郎は慌てて居間に向かった。
居間には預金通帳や家の権利書や幾ばくかの現金が置いてある。それが盗まれていないか心配だった。
みゆきが無事かどうかなどはなから頭の中に浮かんでこなかった。
居間に入り、電灯を点けたとたん、裕次郎は何者かにがっちりと両腕をつかまれてしまった。
しまった、泥棒がまだ居たのか・・・
裕次郎の顔がスーッと青ざめ、心臓動悸が恐怖でバクバクと激しくなる。
明かりに照らされた居間にいたのは3人のヤクザ風の男達だった。
裕次郎は2人の男に両腕を固められ、身動きのできない状態になっている。
「・・・なるほど、お前がみゆきのダンナか」
3人組の中で兄貴分らしく、貫禄のある男が言った。
裕次郎はあまりもの恐怖のために何と言ったらいいか分からず、麻痺したようになっている。
「オラオラ、兄貴が尋ねてんじゃあぁねえか、何とか言ったらどうなんだ」
裕次郎の腕を押さえているヤクザの一人が裕次郎の体を激しくゆさぶった。
そのゆさぶりに、ようやく裕次郎は口を開いた。
「あ、あんたたちは、何ですか、お、お金なら背広のポケットに入っています。それ差し上げますから、か、かんべんして下さい。」
裕次郎は恐怖に打ち震えながらもようやくしゃべる事ができた。
「バカ野郎ぅ、そんなこと聞いてんじゃあねぇや、みゆきのだんなかって聞いてんじぁねぇか。」
今度はやくざが空いているほうの手で裕次郎の頭を乱暴に小突いた。
ヤクザからは危険な暴力の匂いがプンプン漂っている。
その物質的なほどまでの暴力のほのめかしに、裕次郎は命の危険を感じていた。
「は、はい女房です。」
裕次郎はあわてて答えた。
「そうか、なあ、だんなさんよぉ、で、みゆきは今どこにいるんだ。」
兄貴と呼ばれているヤクザが声を低めて聞いてきた。その静かな口調がかえって凄みを帯びている。

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